(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5773019
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 5/04 20060101AFI20150813BHJP
【FI】
B62D5/04
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-82249(P2014-82249)
(22)【出願日】2014年4月11日
(62)【分割の表示】特願2008-199727(P2008-199727)の分割
【原出願日】2008年8月1日
(65)【公開番号】特開2014-166848(P2014-166848A)
(43)【公開日】2014年9月11日
【審査請求日】2014年4月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078776
【弁理士】
【氏名又は名称】安形 雄三
(72)【発明者】
【氏名】西光 優
(72)【発明者】
【氏名】島田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】石川 剛史
(72)【発明者】
【氏名】福永 誠直
【審査官】
杉▲崎▼ 覚
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−331945(JP,A)
【文献】
実開昭63−121489(JP,U)
【文献】
特開2008−078241(JP,A)
【文献】
特開2002−118373(JP,A)
【文献】
特開2008−157410(JP,A)
【文献】
特開2005−325941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵機構に対して操舵補助力を付与する電動モータと、
該電動モータの駆動を制御するコントロールユニットとを備えた電動パワーステアリング装置であって、
上面に開口を有する箱形状であり、
前記電動モータの駆動を制御し、中央部に挿通孔を有する回路基板が実装されたベース部材と、
前記開口を被覆するように前記ベース部材に装着されたカバー部材とから前記コントロールユニットの筐体が構成され、
前記ベース部材は、底面から前記開口に向かって垂直方向に突出する補助支持部を備え、
前記補助支持部は、前記回路基板の前記挿通孔を挿通し、前記ベース部材の底面から前記開口に向かって垂直に立設された支柱と、
該支柱の上面に取り付けられた弾性体とを有し、
かつ、
前記カバー部材が前記ベース部材に装着された際に、該支柱の上面に取り付けられた弾性体は、
前記カバー部材の内面のみに当接し、
前記カバー部材は、前記補助支持部によって付勢されるように前記ベース部材に装着されることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記カバー部材は、前記カバー部材の内面中央部と前記補助支持部との当接により、撓んだ状態で前記ベース部材に装着されるようになっている請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記カバー部材は、ねじを介して前記補助支持部に締結されている請求項1又は2に記載の電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵補助トルクの発生源として電動モータを用いた電動パワーステアリング装置に関し、より詳細には、電動モータの駆動を制御するコントロールユニット(ECU)に施される防振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の車両の多くには、電動モータの駆動力を減速機構を介してステアリングシャフトに伝達することにより、運転者による操舵を補助する電動パワーステアリング装置(EPS)が装備されている。この電動パワーステアリング装置では、トルクセンサによって検出された操舵トルク信号がコントロールユニット(ECU)に入力され、該コントロールユニットが操舵トルク信号に基づいて電動モータに供給される駆動電流を制御することにより、電動モータの駆動を制御している。
【0003】
この種の電動パワーステアリング装置では、電動モータや減速機構などで発生した作動振動および作動音がコントロールユニットに伝播され、その振動数が金属薄板等で形成されたECU筐体のカバー部材の固有振動数と合致した場合に、このカバー部材が共振して大きな異音を生じてしまう、という問題があった。
【0004】
そこで、かかる課題を解決するものとして、例えば特許文献1には、コントロールユニットのカバー部材(本体カバーおよびサイドカバー)に防振部材を取り付けることにより、コントロールユニットの共振を抑え、異音の低減化を図ったものが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−331945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示されるように、ECU筐体のカバー部材の表面にただ単に防振部材を取り付けただけでは、カバー部材の固有振動に対して音圧レベルで数dB程度の低減しか期待できず、作動振動や異音などに対して十分な減衰効果を得ることはできない、という課題があった。
【0007】
この特許文献1に開示されているECUでは、カバー部材表面の全面にわたって防振部材を取り付けることにより、防振効果の向上を図ることができるが、この防振部材の厚さの増加に伴って、ECU内部に実装された電子部品の放熱性が悪化してしまう、という問題があった。
【0008】
また、別の防振対策として、カバー部材の板厚を厚くする、またはカバー部材にビード加工を施すことにより、カバー部材の剛性を高め、共振する固有振動数を上げる方法などが用いられているが、これらの防振対策では、カバー部材の板厚増大による装置重量および材料コストの増加、あるいは工程追加による生産性の低下などが問題となっていた。したがって、軽量化および低コスト化が求められている電動パワーステアリング装置においては、このような方法は得策ではなかった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電動モータや減速機構などで生じる作動振動による影響を構造的に受け易いコントロールユニットのカバー部材を、その剛性を高めた状態でベース部材に装着することにより、カバー部材を防振して異音発生の低減化を図った電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、操舵機構に対して操舵補助力を付与する電動モータと、該電動モータの駆動を制御するコントロールユニットとを備えた電動パワーステアリング装置において、上面に開口を有する箱形状であり、前記電動モータの駆動を制御する回路基板が実装されたベース部材と、前記開口を被覆するように前記ベース部材に装着されたカバー部材とから前記コントロールユニットの筐体が構成され、前記ベース部材が、底面から前記開口に向かって垂直方向に突出する補助支持部を備え、かつ、前記カバー部材が前記ベース部材に装着された際に、前記補助支持部の上部が、前記カバー部材の内面に当接することにより、達成される。
【0011】
また、上記目的は、前記補助支持部が、前記ベース部材の底面から前記開口に向かって垂直に立設された支柱と、該支柱の上面に取り付けられた弾性体とを有し、かつ、前記カバー部材が、前記ベース部材に装着された際に、前記弾性体に当接することにより、効果的に達成される。
【0012】
また、上記目的は、前記補助支持部が、前記ベース部材の底面の中央部に形成されていることにより、効果的に達成される。
【0013】
また、上記目的は、前記カバー部材が、ねじを介して前記補助支持部に締結されていることにより、効果的に達成される。
【0014】
さらに、上記目的は、前記カバー部材が、前記補助支持部によって付勢されるように前記ベース部材に装着されることにより、効果的に達成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る電動パワーステアリング装置によれば、コントロールユニットの筐体を構成するベース部材の底面に垂直方向に突出する補助支持部を立設し、ベース部材にカバー部材を装着した際に、補助支持部の上部がカバー部材の内面に当接するようになっている。これにより、カバー部材の剛性が高められ、カバー部材の共振周波数を本来の固有振動数よりも上昇させることができる。この結果、板厚の薄い金属素材で形成されたカバー部材がベース部材に装着された場合でも、カバー部材の振幅を抑制し、異音の発生を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照にしながら本発明の実施形態について説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の概略構成を示す機構図である。同図において、電動パワーステアリング装置1の操舵機構は、先端部に取り付けられたステアリングホイール2の操舵操作に応じて回転するステアリングシャフト3と、該ステアリングシャフト3の他端部側にユニバーサルジョイント4,5を介して連結され、ステアリングシャフト3の回転運動をラック軸の直線運動に変換するラック・ピニオン機構6と、該ラック・ピニオン機構6のラック軸の動きを操向車輪に伝達するタイロッド7とから構成されている。
【0018】
また、電動パワーステアリング装置1のコラム部には、ステアリングホイール2を介してステアリングシャフト3に入力された操舵トルクを検出するトルクセンサ8と、減速機構9を介してステアリングシャフト3に連結された操舵補助用の電動モータ10とが設けられている。
【0019】
電動モータ10の駆動は、制御回路などを搭載したコントロールユニット(ECU)11によって制御される。このコントロールユニット11には、バッテリ(電源)12から電力が供給されるとともに、イグニションキー13からイグニションキー信号が入力される。そして、コントロールユニット11は、トルクセンサ8で検出された操舵トルク値Tと車速センサ14で検出された車速Vとに基づいて、操舵補助指令値Iの演算を行い、演算された操舵補助指令値Iに応じて電動モータ10に供給する駆動電流を制御する。
【0020】
なお、上述した電動パワーステアリング装置1は、コラム部に電動モータ10が配設されたコラムアシスト型であるが、本発明はこれに限定されず、例えばラック&ピニオン機構のピニオン部に電動モータ10が配設されたピニオンアシスト型、あるいはラック部に電動モータ10が配設されたラックアシスト型であってもよい。
【0021】
[第1実施形態]
図2は、本発明の第1実施形態に係るコントロールユニットの内部構成を示す概略断面図である。同図において、コントロールユニット11の筐体15は、上面が開口した箱形状のベース部材16と、該ベース部材16の開口を被覆するように取り付けられたカバー部材17とから構成され、カバー部材17は、カシメによる嵌合またはボルトによる締結などによって、ベース部材16に着脱可能に取り付けられている。なお、ここでは図示されていないが、コントロールユニット11は、電源コネクタおよび信号コネクタを備え、この各種コネクタを介してバッテリ12、トルクセンサ8、車速センサ14、イグニションキー13などと電気的に接続されている。
【0022】
また、コントロールユニット11は、電動モータ10に駆動電流を供給する駆動回路基板18と、ワイヤーボンディングされた金属ワイヤー19を介して駆動回路基板18と電気的に接続されたインサート成形モジュール20と、リード端子21を介して駆動回路基板18と電気的に接続された制御回路基板22とを、ベース部材16の内部に具備している。
【0023】
駆動回路基板18は、熱伝達性および熱伝導性に優れた金属素材などから形成され、その表面にはFET(電界効果トランジスタ)23などの発熱部品が実装されている。電動モータ10に供給する駆動電流が駆動回路基板18に流れた場合、FET23の発熱に伴って駆動回路基板18の温度が上昇する。そのため、駆動回路基板18は、ヒートシンクとして機能するベース部材16の底面に接するように装着されている。
【0024】
インサート成形モジュール20は、樹脂基材24と一体にインサート成形された配線パターン25と、該配線パターン25と電気的に接続されたコイル26と、樹脂基材24から突出するように配線パターン25の一端部に形成されたバスバー端子27とを備え、該バスバー端子27を介して電動モータ10と電気的に接続される。また、このインサート成形モジュール20にも、上述した駆動回路基板18と同様に、コイル26などの発熱部品が実装されている。そのため、インサート成形モジュール20は、放熱性を考慮してベース部材16の底面に接するように装着され、かつ、バスバー端子27がベース部材16の側壁の一部に形成された切欠きから突出するように配されている。
【0025】
制御回路基板22は、絶縁性を有する樹脂素材などから形成されされたプリント基板であり、その表面には通電による発熱が比較的小さいマイコンチップ28などの制御素子が実装されている。この制御回路基板22には、FET23やコイル26などの発熱部品が実装されていないため、通電時の制御回路基板22の温度は、上述した駆動回路基板18およびインサート成形モジュール20よりも低温である。このような理由から、制御回路基板22は、ベース部材16の開口周縁部に形成された段差16aの支持により、駆動回路基板18およびインサート成形モジュール20の上方に配されている。
【0026】
ベース部材16は、上述したように、ヒートシンクとして機能することが要求されるため、熱導電性および耐久性に優れた肉厚の金属素材(例えばアルミ合金など)から形成されている。特に、高熱を生じる駆動回路基板18が実装される箇所は、他の部分よりも肉厚になっている。一方、カバー部材17は、ベース部材16の上面開口を被覆してコントロールユニット11の内部に粉塵等が侵入するのを防止することを構造的な目的としているため、材料のコストや加工性などを考慮して比較的薄い素材から形成されている。
【0027】
このような構成からなる筐体15を具備したコントロールユニット11は、電動モータ10や減速機構9の作動振動が伝播され易い位置、例えば、ステアリングシャフト3を回転自在に支持するステアリングコラムの一部などに取り付けられている。このような位置にコントロールユニット11が配される場合、筐体15を構成するカバー部材17は、上述したように薄肉構造であるため、この作動振動により共振する可能性が高い。
【0028】
そこで、本実施形態では、ベース部材16の底面の中央部、すなわち駆動回路基板18とインサート成形モジュール20との間の位置に、底面から上面の開口に向かって垂直方向に突出する補助支持部29を立設し、カバー部材17をベース部材16に装着した際に、補助支持部29の上部とカバー部材17の内面中央部とが当接するようにした。この補助支持部29は、ベース部材16の底面中央部から上方の開口に向かって垂直に立設された支柱30と、該支柱30の上面に接着剤等を介して取り付けられた弾性体31とを有する。
【0029】
駆動回路基板18およびインサート成形モジュール20の上方に配される制御回路基板22の中央部付近、すなわち補助支持部29に該当する位置には、補助支持部29が挿通される挿通孔22aが穿設されている。制御回路基板22は、駆動制御回路18およびインサート成形モジュール20がベース部材16の底面に装着された後に、この挿通孔22aから補助支持部29の上部を突出させた状態でベース部材16の段差16aにねじ締結などによって固定される。
【0030】
また、カバー部材17とベース部材16との装着は、カバー部材17の内面とベース部材16の底面との距離が補助支持部29の高さよりもマイナス公差になるように設定されている。すなわち、カバー部材17は、内面中央部と補助支持部29との当接により、撓んだ状態でベース部材に装着されるようになっている。これにより、ベース部材16に装着されたカバー部材17の中央部が補助支持部29側に付勢され、この結果、カバー部材17の剛性が高められる。
【0031】
以上のように、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置1によれば、コントロールユニット11の筐体15を構成するベース部材16に、底面の中央部から上面の開口に向かって垂直に突出する支柱29を形成するとともに、該支柱29の上面に弾性体31を取り付け、ベース部材16にカバー部材17を装着した際に、弾性体31がカバー部材17の内面中央部に当接するようにした。これにより、カバー部材17の振幅が抑制されるとともに、カバー部材17の剛性が高められるので、カバー部材17の共振により生じていた異音の発生を低減することができる。
【0032】
[第2実施形態]
図3は、本発明の第2実施形態に係るコントロールユニットの内部構成を示す概略断面図である。なお、同図において、上述した実施形態と同一の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0033】
図3に示すように、本実施形態に係るコントロールユニット11Aの筐体15Aでは、装着時に補助支持部29Aの弾性体31Aに当接するカバー部材17Aの中央部が、ねじ32を介してベース部材16Aに締結固定されているという点で、上述した第1実施形態とは相違している。この締結固定に用いられるねじ32は、カバー部材17および弾性体31Aを貫通して、支柱30Aの上面に形成されたねじ穴に螺合しており、このねじ32の締め付け度合いを調節することによって、カバー部材17Aの剛性を任意に調整できるようになっている。
【0034】
以上のような構成を有する本実施形態に係るコントロールユニット11Aよれば、上述した第1実施形態と同様の効果を得られることはもとより、装着時に補助支持部29Aの弾性体31Aに当接するカバー部材17Aの中央部をねじ32によって締結固定したことで、カバー部材17Aの振幅抑制効果および剛性向上効果をさらに高めることができる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の概略構成を示す機構図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係るコントロールユニットの内部構成を示す概略断面図である。
【
図3】本発明の第2実施形態に係るコントロールユニットの内部構成を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1・・・電動パワーステアリング装置
2・・・ステアリングホイール
3・・・ステアリングシャフト
10・・・電動モータ
11,11A・・・コントロールユニット(ECU)
15,15A・・・筐体
16,16A・・・ベース部材
17,17A・・・カバー部材
29,29A・・・補助支持部
30,30A・・・支柱
31,31A・・・弾性体
32・・・ねじ