特許第5773061号(P5773061)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5773061放電イオン化電流検出器及びそのエージング処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5773061
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】放電イオン化電流検出器及びそのエージング処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/68 20060101AFI20150813BHJP
【FI】
   G01N27/68 B
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-504566(P2014-504566)
(86)(22)【出願日】2012年3月15日
(86)【国際出願番号】JP2012056674
(87)【国際公開番号】WO2013136482
(87)【国際公開日】20130919
【審査請求日】2014年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100085464
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 繁雄
(72)【発明者】
【氏名】堀池 重吉
(72)【発明者】
【氏名】品田 恵
(72)【発明者】
【氏名】西本 尚弘
【審査官】 伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−158357(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/119050(WO,A1)
【文献】 特開2012−8088(JP,A)
【文献】 米国特許第5892364(US,A)
【文献】 米国特許第5394092(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60−27/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体管とその誘電体管の外周に取り付けられた複数の電極で構成され、前記誘電体管内でプラズマガスを流しながら前記電極に高圧交流電圧を印加することで前記誘電体管内において誘電体バリア放電を連続的に発生させるプラズマ生成部、前記誘電体管の下流端に接続され前記プラズマ生成部における放電発生時の光により試料ガス中の成分をイオン化する試料イオン化部及び前記試料イオン化部でイオン化された試料成分を検出するイオン検出部を備えた放電イオン化電流検出器のエージング処理方法において、
前記プラズマガスにそのプラズマガスよりも原子量の大きい不活性ガスを混合した混合ガスをクリーニングガスとして前記誘電体管内に供給しながら前記プラズマ生成部において誘電体バリア放電を一定時間連続的に発生させることを特徴とするエージング処理方法。
【請求項2】
前記不活性ガスは試料成分に対して反応性をもたないガスである請求項1に記載のエージング処理方法。
【請求項3】
前記プラズマガスはヘリウムであり、前記不活性ガスは窒素又はアルゴンである請求項1又は2に記載のエージング処理方法。
【請求項4】
前記クリーニングガスにおける前記不活性ガスの割合は前記プラズマガスの割合よりも小さい請求項1から3のいずれか一項に記載のエージング処理方法。
【請求項5】
誘電体管とその誘電体管の外周に取り付けられた複数の電極で構成され、前記誘電体管内でプラズマガスを流しながら前記電極に高圧交流電圧を印加することで前記誘電体管内において誘電体バリア放電を連続的に発生させるプラズマ生成部と、
前記誘電体管の下流端に接続され前記プラズマ生成部における放電発生時の光により試料ガス中の成分をイオン化する試料イオン化部と、
前記試料イオン化部でイオン化された試料成分を検出するイオン検出部と、
前記プラズマガスを供給するためのプラズマガス供給部と、
前記プラズマガスにそのプラズマガスよりも原子量の大きい不活性ガスを混合した混合ガスをクリーニングガスとして供給するためのクリーニングガス供給部と、
前記プラズマガス供給部と前記クリーニングガス供給部のいずれか一方から前記誘電体管内にガスを切り替えて接続する供給ガス切替機構と、を備えた放電イオン化電流検出器。
【請求項6】
前記不活性ガスは試料成分に対して反応性をもたないガスである請求項5に記載の放電イオン化電流検出器。
【請求項7】
前記プラズマガスはヘリウムであり、前記不活性ガスは窒素又はアルゴンである請求項5又は6に記載の放電イオン化電流検出器。
【請求項8】
前記クリーニングガスにおける前記不活性ガスの割合は前記プラズマガスの割合よりも小さい請求項5から7のいずれか一項に記載の放電イオン化電流検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体バリア放電により生成されるプラズマにより試料をイオン化する方式の放電イオン化電流検出器とそのエージング処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフ用の微量ガス検出器としては、TCD(Thermal Conductive Detector)、ECD(Electric Capture Detector)など種々の方式の検出器が提案され実用化されているが、現在最も一般的に使用されている検出器はFID(Flame Ionization Detector)である。FIDは水素炎によりサンプルガスをイオン化し、そのイオン化電流を測定することで広いダイナミックレンジ(約6桁)を達成している。しかし、無機ガスや難燃性ガスの検出には適さないという欠点がある。
【0003】
一方で、高圧放電により生成したプラズマでHe、N2、Ar、Ne、Xeなどの不活性ガスの励起種を生成し、サンプルをイオン化して検出する放電イオン化電流検出器がある。そのような放電イオン化電流検出器の1つであるPDD(Pulsed Discharge Detector)は、パルス化した高電圧を印加することで火花放電を発生させてプラズマを生成する。プラズマを利用する方法は水素を必要とせず、一般に試料のイオン化効率がFIDよりも高く高感度であり、無機ガスや難燃性ガスにも感度を有するが、FIDと比較してダイナミックレンジが狭いという欠点もある。
【0004】
また、PDDとは異なり、誘電体バリア放電によりプラズマを生成する方式の放電イオン化電流検出器もある(特許文献1)。誘電体バリア放電は放電用電極の表面が誘電体により覆われているため、金属電極間で放電を発生させる場合のような熱電子や二次電子などの放出が少なく、プラズマ発生の安定性が高い。また、放電電流が誘電体によって抑制されるため、電極の劣化や電極での発熱が抑えられ、耐久性が高いという特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−158357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
放電イオン化電流検出器は、通常、放電によりプラズマを生成するプラズマ生成部と試料をイオン化して検出する試料イオン化検出部とが空間的に繋がっており、プラズマ生成部を流れるプラズマガスが試料イオン化検出部に流入する。そして、放電イオン化電流検出器ではプラズマ生成部を流れるガス中に含まれる不純物をイオン化するため、イオン化された不純物が検出されて検出信号のバックグラウンドが高くなるという欠点がある。そのため、極めて低い検出下限(高感度)が求められる場合には、ヘリウムガスなどのプラズマガスを精製してその不純物濃度をppb単位にまで低下させている。
【0007】
誘電体バリア放電を利用した放電イオン化電流検出器では、放電用電極を覆う誘電体として石英がよく使用されている。石英は水に対して吸着性をもっているため大気に暴露されていた石英の表面には吸着水が存在する。そのため、放電イオン化電流検出器を設置した直後に測定を行なうと、放電用電極を覆う石英の表面の吸着水が放電によってイオン化されて検出されてしまい、検出信号のバックグラウンドが高くなる。そのため、検出器を設置した後、使用温度よりも高い温度で検出器を数時間から数日間加熱するベーキング処理を実施したり、ベーキング処理と同時に又はベーキング処理の後に、プラズマ生成部において通常の測定時と同様のプラズマ生成を行なうエージング処理を実施したりして石英の吸着水を除去し、検出信号のバックグラウンドを低下させていた。
【0008】
上記のベーキング処理やエージング処理を実施することにより検出信号のバックグラウンドをある程度低下させることはできるが、より高い検出感度を実現するためには、この検出信号のバックグラウンドをさらに低下させることが望ましい。
【0009】
そこで、本発明は、誘電体バリア放電を利用した放電イオン化電流検出器の検出信号のバックグラウンドを高効率に低下させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、プラズマ生成部に流すプラズマガスにプラズマガスよりも原子量の大きい不活性ガスを混合したガスを使用してエージング処理を行なった場合、プラズマガスを使用してエージング処理を行なった場合よりも検出信号のバックグラウンドの低下効率が向上することを見出した。これは、プラズマガスよりも原子量の大きい不活性ガスを混合することで、不活性化ガスがプラズマよりエネルギーを受け取り、誘電体バリアの壁面をスパッタして吸着分子の脱離を促進して初期のガス放出を抑制するためと考えられる。

【0011】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものである。すなわち、本発明にかかるエージング処理方法は、誘電体管とその誘電体管の外周に取り付けられた複数の電極で構成され、誘電体管内でプラズマガスを流しながら電極に高圧交流電圧を印加することで誘電体管内において誘電体バリア放電を連続的に発生させるプラズマ生成部、誘電体管の下流端に接続されプラズマ生成部における放電発生時の光により試料ガス中の成分をイオン化する試料イオン化部及び試料イオン化部でイオン化された試料成分を検出するイオン検出部を備えた放電イオン化電流検出器のエージング処理方法であって、プラズマガスにそのプラズマガスよりも原子量の大きい不活性ガスを混合した混合ガスをクリーニングガスとして誘電体管内に供給しながらプラズマ生成部において誘電体バリア放電を一定時間連続的に発生させることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の放電イオン化電流検出器は、上記エージング処理方法を容易に実行することができるように構成している。すなわち、本発明にかかる放電イオン化電流検出器は、誘電体管とその誘電体管の外周に取り付けられた複数の電極で構成され、誘電体管内でプラズマガスを流しながら電極に高圧交流電圧を印加することで誘電体管内において誘電体バリア放電を連続的に発生させるプラズマ生成部と、誘電体管の下流端に接続されプラズマ生成部における放電発生時の光により試料ガス中の成分をイオン化する試料イオン化部と、試料イオン化部でイオン化された試料成分を検出するイオン検出部と、プラズマガスを供給するためのプラズマガス供給部と、プラズマガスにそのプラズマガスよりも原子量の大きい不活性ガスを混合した混合ガスをクリーニングガスとして供給するためのクリーニングガス供給部と、プラズマガス供給部とクリーニングガス供給部のいずれか一方から誘電体管内にガスを切り替えて接続する供給ガス切替機構と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエージング処理方法は、プラズマガスにプラズマガスよりも原子量の大きい不活性ガスを混合した混合ガスをクリーニングガスとして誘電体管内に供給しながらプラズマ生成部において誘電体バリア放電を連続的に発生させるようにしたので、放電電極表面の不純物の除去効率が向上し、検出信号のバックグラウンドを高効率に低下させることができる。これにより、従来のエージング処理と同程度の処理時間で従来のエージング処理では到達することのできない低いレベルまで検出信号のバックグラウンドを低下させることが可能になり、検出器の検出感度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】放電イオン化電流検出器の構成の一例を説明するための概略構成断面図である。
図2】放電イオン化電流検出器を設置した後の作業の流れを説明するためのフローチャートである。
図3】エージング処理の一例を説明するためのフローチャートである。
図4】プラズマガスによるエージング処理を施した検出器の検出信号のバックグラウンドとクリーニングガスによるエージング処理を施した検出器の検出信号のバックグラウンドを示すグラフである。
図5】クリーニングガスによるエージング処理を施した検出器で測定したドデカンのクロマトグラムである。
図6】放電イオン化電流検出器の一実施例を示す概略構成断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のエージング処理方法及び放電イオン化電流検出器における不活性ガスとは、試料成分に対して反応性をもたないガスであることを意味する。
【0016】
また、本発明のエージング処理方法及び放電イオン化電流検出器におけるプラズマガスの一例はヘリウムであり、その場合の不活性ガスの一例は窒素又はアルゴンである。不活性ガスの中ではヘリウムが最も原子量が小さく、プラズマ生成部におけるプラズマの生成に必要な電圧が最も小さくて済む。
【0017】
プラズマ生成部を流れるガスの原子量が大きくなると、プラズマ生成部においてプラズマを生成するのに必要な電圧が大きくなる。したがって、プラズマガスよりも原子量の大きい不活性ガスの割合をプラズマガスの割合よりも大きくすると、プラズマ生成部においてプラズマが生成されにくくなり、その結果、誘電体管の不純物の除去効率も低下する。
そこで、本発明のエージング方法においては、クリーニングガスにおける不活性ガスの割合はプラズマガスの割合よりも小さくすることが好ましい。
【0018】
まず、誘電体バリア放電を利用した放電イオン化電流検出器の構成の一例を図1を用いて説明する。
放電イオン化電流検出器2はプラズマ生成部、試料イオン化部及び試料イオン検出部を備えている。プラズマ生成部は、例えば石英やサファイアなどの誘電体からなる誘電体管4とその誘電体管4の外周の互いに離間した3箇所に取り付けられたリング状の電極6,8,10により構成されている。電極6は交流電源20により高圧交流電圧が印加されるようになっている。電極6を挟んで配置された2つの電極8及び10は接地されている。
【0019】
誘電体管4の一端側にはガス入口12が設けられている。ガス入口12からはヘリウムガス(プラズマガス)と、ヘリウムガスに不純物としてアルゴンガス(不活性ガス)が混合された混合ガスがクリーニングガスとして必要に応じて供給される。試料の分析の際はガス入口12からヘリウムガスが供給され、後述するエージング処理の際はガス入口12からクリーニングガスが供給される。ガス入口12から供給されたプラズマガス又はクリーニングガスは誘電体管4内の流路4aを通って後述するガス排出口16,18から排出される。
【0020】
誘電体管4内にプラズマガス又はクリーニングガスが供給されている状態で電極6に高圧交流電圧が印加されることで、電極6と電極8の間及び電極6と電極10の間において誘電体バリア放電が起こり、その放電により誘電体管4内の流路4aを流れるプラズマガス又はクリーニングガスが励起され、プラズマが生成される。
【0021】
誘電体管4の下流端側に試料イオン化部と試料イオン検出部を構成する管5の一端が接続されている。管5の他端側にキャピラリ14が挿入されている。キャピラリ14の先端は後述する電荷収集電極26よりも一端側の空間5a内において誘電体管4の下流端に対して対向して配置されている。図示は省略されているが、キャピラリ14の基端はガスクロマトグラフの分析カラムに通じており、試料の分析の際はその分析カラムを経た試料ガスがキャピラリ14の先端から誘電体管4の下流端に向かって噴出される。
【0022】
管5は一端側からバイアス電極22と電荷収集電極26を備えている。バイアス電極22と電荷収集電極26はともにリング状の電極であり内部空間5aに面している。バイアス電極22には直流電源24により直流電圧が印加される。管5内の空間5aにおいてキャピラリ14の先端から噴出された試料ガスはプラズマ生成部の誘電体バリア放電の発生時に発せられる励起光によりイオン化される。イオン化された試料はバイアス電極22によって電位が与えられて電荷収集電極26により収集され、電流アンプ28によって増幅されて電流信号として出力される。
【0023】
管5の一端側側壁にガス排出口16が設けられており、管5の他端側側壁にガス排出口18が設けられている。ガス排出口16はバイアス電極22よりも一端側に設けられており、ガス排出口18は電荷収集電極26よりも他端側に設けられている。試料の分析時には、誘電体管4からのプラズマガスの一部がガス排出口16から排出され、誘電体管4からのプラズマガスの残りとそのプラズマガスによって押し戻された試料ガスがガス排出口18から排出される。
【0024】
この放電イオン化電流検出器2がガスクロマトグラフの検出器として設置された後は、図2に示されているように、誘電体管4に付着している水などの不純物を除去して検出信号のバックグラウンドを低下させるためのエージング処理が実行される。そしてエージング処理が終了した後、管5内の空間5aに試料ガスを供給され、試料の分析が開始される。
【0025】
検出信号のバックグラウンドを低下させるためのエージング処理について図3のフローチャートを用いて説明する。
エージング処理は、プラズマガスに不純物として不活性ガスを混合したクリーニングガスを用いて行なう。プラズマガスとしてヘリウムガスを用いた場合、不活性ガスとして窒素ガスやアルゴンガスを用いることができる。不活性ガスとしてアルゴンガスを用いた場合、アルゴンガスの濃度が例えば1000ppm〜20%になるようにクリーニングガスを調製するとよい。特に、アルゴンガスの濃度が1〜2%程度であれば、電流アンプ28の出力信号のS/Nがよくなり、エージング処理の経過観察がしやすくなる。
【0026】
なお、プラズマガスと不活性ガスの組合せは、プラズマガスがヘリウムである場合の不活性ガスとしてアルゴンやキセノン、プラズマガスがネオンである場合の不活性ガスとしてアルゴンやキセノン、プラズマガスがアルゴンである場合の不活性ガスとしてキセノンが挙げられる。特に好ましい組み合わせは、プラズマガスがヘリウム、不活性ガスがアルゴンの組合せである。
【0027】
クリーニングガスをガス入口12から誘電体管4内に供給しながら電極6に高圧交流電圧を印加して誘電体バリア放電によるプラズマ生成を所定時間、例えば数時間から1日が経過するまで実行する。誘電体管4の内径が2〜3mm程度の場合、クリーニングガスの流量は20〜100ccm、例えば40ccm程度でよい。このエージング処理において電極6に印加する高圧交流電圧は、試料の測定時に使用する高圧交流電圧と同じ振幅(大きさ)及び周波数でよい。
【0028】
その後、ガス入口12から供給するガスをプラズマガスに切り替え、電極6への高圧交流電圧の印加を継続して放電によるプラズマの生成を電流アンプ28の出力信号が安定するまで継続し、誘電体管4及び管5内のクリーニングガスをすべてプラズマガスに置換する。これにより、検出器2のエージング処理が終了する。
【0029】
図4はプラズマガスを用いてエージング処理を施した検出器の検出信号のバックグラウンドを測定したデータ(破線)と、ヘリウムにアルゴンを2%混合して調製したクリーニングガスを用いてエージング処理を施した検出器の検出信号のバックグラウンドを測定したデータ(実線)を示すグラフである。この測定に使用した検出器の誘電体管4はいずれもOH濃度が5ppm以下の石英管である。また、プラズマガスによるエージング処理の処理時間とクリーニングガスによるエージング処理の処理時間は同じである。
【0030】
放電イオン化電流検出器の検出信号のバックグラウンドは設定感度に比例して増加する傾向にあるが、クリーニングガスによるエージング処理を施した検出器のバックグラウンドはプラズマガスによるエージング処理を施した検出器のバックグラウンドの半分以下にまで低下している。これにより、クリーニングガスを用いてエージング処理を施すことで、従来のエージング処理では到達できないレベルにまでバックグラウンドを低下させることができることがわかる。
【0031】
図5はクリーニングガスを用いたエージング処理を施した検出器を用いてドデカン10ngのクロマトグラムを測定したデータである。この図に示されているように、クリーニングガスによるエージング処理を施した検出器では、その検出信号において高いS/Nが実現しており、MDQ(理論上の最小検出量)が0.22pgC/secに達している。これに対し、従来のプラズマガスによるエージング処理を施した検出器では、MDQが0.60pgC/sec程度が限界であった。すなわち、クリーニングガスによるエージング処理を施すことにより、従来のエージング処理では到達することのできなかったMDQを実現することができる。なお、MDQは、検出信号のバックグラウンドノイズをN(μV)、標準試料(この場合にはn−ドデカン)の質量感度をS(μV・sec/pg)として次式により求めることができる。
MDQ=2N/S
【0032】
上記実施例で説明したクリーニングガスによるエージング処理を容易に実行することができるように構成された放電イオン化電流検出器の一例について図6を用いて説明する。なお、放電イオン化電流検出器の基本的な構成は図1と同じであり、同じ構成部分についての説明は省略する。
【0033】
この放電イオン化電流検出器2aの誘電体管4のガス入口12に通じる流路に切替バルブ30を介してプラズマガス供給流路32とクリーニングガス供給流路34が接続されている。切替バルブ30はプラズマガス供給流路32又はクリーニングガス供給流路34のいずれか一方の流路を誘電体管4のガス入口12に接続するようになっている。プラズマガス供給流路32はヘリウムガスボンベから精製器を介してヘリウムガス(プラズマガス)を供給する流路である。クリーニングガス供給流路34はヘリウムガスにアルゴンガスなどの不活性ガスを混合して精製したクリーニングガスを供給する流路である。
【0034】
この構成により、切替バルブ30の切替えのみでガス入口12から供給されるガスをプラズマガスとクリーニングガスとの間で切り替えることができるので、分析者は容易にクリーニングガスによるエージング処理を実行することができる。切替バルブ30は分析者が手動で必要に応じて切り替えるようになっていてもよいし、分析者が分析又はエージング処理を実行するよう装置に入力すると、それに応じて装置の制御部が切替バルブ30を自動的に切り替えるようになっていてもよい。
【符号の説明】
【0035】
2 放電イオン化電流検出器
4 誘電体管
6,8,10 放電用電極
12 ガス入口
14 キャピラリ(試料ガス導入用)
16,18 ガス排出口
20 高圧交流電源
22 バイアス電極
24 直流電源
26 電荷収集電極
28 電流アンプ
30 切替バルブ
32 プラズマガス供給流路
34 クリーニングガス供給流路
図1
図2
図3
図4
図5
図6