【実施例1】
【0027】
<放射線検出器信号処理装置の全体構成>
実施例1に係る放射線検出器信号処理装置(以降、単に信号処理装置8とよぶ)は、
図1に示すように、放射線検出器が放射線を検出することで出力する検出データDを入力すると、放射線検出器の感度のバラツキを示すバラツキマップHMを出力するようになっている。検出データDは、放射線検出器が検出した蛍光の分布を示している。
【0028】
信号処理装置8は、検出データDを光検出素子ごとに分離するデータ分離部10と、放射線のエネルギースペクトルを光検出素子3aごとに取得するスペクトル取得部11と、エネルギースペクトルのピーク値を光検出素子3aごとに取得するピーク値取得部12と、各光検出素子3aの間での蛍光検出強度のバラツキを取得するバラツキ取得部13とを備えている。スペクトル取得部11は、本発明のスペクトル取得手段に相当し、ピーク値取得部12は、本発明のピーク値取得手段に相当する。バラツキ取得部13は、本発明のバラツキ取得手段に相当する。
【0029】
主制御部27は、各制御部を統括的に制御する目的で設けられている。この主制御部27は、CPUによって構成され、各種のプログラムを実行することにより各部10,11,12,13を実現している。操作卓26は、術者の指示を入力する目的で設けられている。記憶部28は、バラツキ取得部13が参照するタイプマップTMなどを記憶している。
【0030】
<放射線検出器の全体構成>
実施例1に係る信号処理装置8の具体的な構成を説明するに先立って、実施例1に係る放射線検出器1の構成について説明する。
図2は、実施例1に係る放射線検出器の斜視図である。
図2に示すように、実施例1に係る放射線検出器1は、シンチレータ結晶層2D,シンチレータ結晶層2C,シンチレータ結晶層2B,およびシンチレータ結晶層2Aの順にシンチレータ結晶層の各々がz方向に積層されて形成されたシンチレータ2と、シンチレータ2の下面に設けられ、シンチレータ2から発する蛍光を検知する位置弁別機能を備えた光電子増倍管(以下、光検出器とよぶ)3と、シンチレータ2と光検出器3との間に介在する位置には、蛍光を授受するライトガイド4とを備える。したがって、シンチレータ結晶層の各々は、光検出器3に向かう方向に積層されて構成されている。
【0031】
このように、シンチレータ2は、γ線の検出に適したシンチレータ結晶が3次元的に配列されて構成されている。すなわち、シンチレータ結晶は、Ceが拡散したLu
2(1−X)Y
2XSiO
5(以下、LYSOとよぶ)によって構成されている。シンチレータ結晶の各々は、シンチレータ結晶層に係らず、例えば、x方向の長さが1.45mm,y方向の幅が1.45mm,z方向の高さが4.5mmの直方体をしている。また、シンチレータ2の4側端面は、図示しない反射膜で被覆されている。
【0032】
シンチレータ2は、4つのシンチレータ結晶層2A,2B,2C,2Dを備えている。各々のシンチレータ結晶層2A,2B,2C,2Dは、光学的に結合され、各々の層間には、透過材tが設けられている。この透過材tの材料としては、シリコン樹脂からなる熱硬化性樹脂が使用できる。
【0033】
シンチレータ結晶層2Aは、放射性線源から放射されるγ線の受光部となっており、ブロック状のシンチレータ結晶がシンチレータ結晶a(1,1)を基準としてx方向に32個、y方向に32個マトリックス状に二次元配置された構成となっている。すなわち、シンチレータ結晶a(1,1)〜シンチレータ結晶a(1,32)がy方向に配列して、シンチレータ結晶アレイを形成し、このシンチレータ結晶アレイがx方向に32本配列してシンチレータ結晶層2Aが形成される。
【0034】
なお、シンチレータ結晶層2B,2C,および2Dについてもシンチレータ結晶がシンチレータ結晶b(1,1),c(1,1),およびd(1,1)のそれぞれを基準としてx方向に32個、y方向に32個マトリックス状に二次元配置された構成となっている。なお、シンチレータ結晶層2A,2B,2C,2Dの各々において、透過材tが互いに隣接するシンチレータ結晶の間にも設けられている。したがって、シンチレータ結晶の各々は、透過材tに取り囲まれていることになる。この透過材tの厚さは、25μm程度である。
【0035】
次に、反射板について説明する。シンチレータ2に備えられたシンチレータ結晶層2A,2B,2C,2Dには、x方向に伸びた第1反射板rと、y方向に伸びた第2反射板sとが設けられている。この両反射板r,sは、配列されたシンチレータ結晶の隙間に挿入されている。
【0036】
図3は、光検出器3の構成を説明している。光検出器3は、マルチアノードタイプであり、入射した蛍光のx,およびyについての位置を弁別することができる。光検出器3におけるライトガイド4の結合面には、8×8の2次元マトリックス状に配列された光検出素子3aを有している。それぞれの光検出素子3aには検出信号の増幅器が備えられており、この増幅器の増幅率を変更することで光検出素子3aの感度の調節ができるようになっている。
【0037】
<蛍光発生位置の弁別方法>
実施例1に係る放射線検出器1のz方向における蛍光の発生位置の弁別方法について説明する。
図4,
図5に示すように、シンチレータ2を構成する各シンチレータ結晶層2A,2B,2C,2Dにおいて、第1反射板rと第2反射板sの挿入位置が互いに異なるものとなっている。なお、
図4,
図5は、実施例1に係るシンチレータ2の一端部を示しており、
図4の左側、
図4の右側、
図5の左側、および
図5の右側は、それぞれシンチレータ結晶層2A,2B,2C,および2Dの構成を表している。
【0038】
ここで、(2,2)に位置するシンチレータ結晶a(2,2),b(2,2),c(2,2),d(2,2)に注目すると、4つとも、隣接した2辺が反射板に覆われている。しかも、(2,2)に位置するシンチレータ結晶において、反射板が設けられている方向は、互いに異なったものとなっている。このように、xおよびyの位置が同一な4つのシンチレータ結晶a(2,2),b(2,2),c(2,2),d(2,2)の光学的条件は、互いに異なったものとなっている。
【0039】
このように、シンチレータ結晶で生じた蛍光は、x方向およびy方向に広がりながら光検出器3に到達するが、反射板を設けることによって、その広がり方に方向性が付加されている。しかも、xおよびyの位置が同一な4つのシンチレータ結晶で生じた蛍光の各々を比較すれば、それらが広がる方向は互いに異なったものとなっている。つまり、シンチレータ2のz方向における蛍光発生位置の違いは、蛍光のx方向およびy方向の位置の違いに変換されることになる。光検出器3は、このz方向の位置の違いに起因する蛍光のx方向およびy方向のわずかなずれを検知し、そこから蛍光のz方向に関する発生位置を割り出すことができる。
【0040】
<放射線検出器信号処理装置の具体的構成>
次に、信号処理装置8の具体的な構成を説明する。信号処理装置8を用いて放射線検出器1の位置調整を行うには、まず放射線検出器1に一様に放射線を照射する。すると、シンチレータ結晶の各々からまんべんなく蛍光が発生し、これが光検出器3に検出されることになる。
【0041】
<2次元マップについて>
このとき、信号処理装置8が放射線検出器1より受信する検出データDは、
図6に示すような2次元マップとなっている。この2次元マップは、
図6左側に示すように縦2×横2に配列した4つの点の塊Fが2次元マトリックス状に配列されたような概観をしている。この塊Fの1つずつが、シンチレータ結晶の1ずつに対応している。したがって、塊Fは、2次元マップ上に32×32のマトリックス状に配列されていることになる。
【0042】
塊Fは4つの点から構成される。この点のそれぞれは、異なるシンチレータ結晶層から発した蛍光を表している。4つのシンチレータ結晶が光検出器3の検出面の同じ位置に存在しているにもかかわらず、蛍光の現れる位置が異なるのは、シンチレータ2に反射板r,sが設けられているからである。蛍光の位置がずれる原理は、
図4,
図5を用いて既に説明済みである。
【0043】
2次元マップは、
図6右側のように区画分けすることができる。図中点線は、シンチレータ結晶単位で2次元マップを区画分けするものである。点線により2次元マップは、4つ点ごとに切り分けられる。また、図中の太枠は、光検出器3に設けられた光検出素子3a単位で2次元マップを区画分けしたものである。太枠により2次元マップは、8×8の2次元配列ごとに切り分けられる。
【0044】
<2次元マップの歪み>
図6における各点は、規則正しく並んでいる。この状態は、理想の状態を表しており、実際の2次元マップの点は、配列が歪んでいる。この理由について説明する。
図7の左側は、配列が乱れる理由を説明するために用意した仮想的な放射線検出器である。シンチレータ2は単一のシンチレータ結晶で構成され、蛍光を受ける光検出器3には、2×2のマトリックス状に配列された4つの光検出素子3aがあるとする。
【0045】
図7左側のGの位置から蛍光が発生したとする。位置Gは、光検出器3にとって中央の位置である。位置Gから発した蛍光は、次第に広がりながら4つの光検出素子3aに均等に入射する。
図7右側の斜線部は、光検出素子3aの各々に蛍光が入射する様子を示している。
【0046】
図8は、光検出素子3aの各々で蛍光検出特性が一定だった場合を図示している。このとき
図8の棒グラフの示すように、各光検出素子3aが出力する蛍光強度は、一定である。すると、図の右側に示すように蛍光の発生位置は、光検出器3の中央部であると特定される。このように、
図8の場合は、蛍光の発生位置が正確に特定されている。
【0047】
図9は、光検出素子3aの各々で蛍光検出特性にバラツキがある場合を図示している。このとき
図9の棒グラフの示すように、各光検出素子3aが出力する蛍光強度は、一定にならない。すると、図の右側に示すように蛍光の発生位置は、光検出器3の中央部から外れた位置であると特定される。具体的には、蛍光の発生位置は、光検出器3の中央部から蛍光強度を強く検出した光検出素子3a側にシフトして特定される。このように、
図9の場合は、蛍光の発生位置が正確に特定できない。
【0048】
つまり、光検出素子3aの各々で蛍光検出特性にバラツキがあると、蛍光の発生位置が実際の位置よりもずれて特定される。実際の光検出素子3aは、蛍光検出特性にバラツキを有するので、放射線検出器が出力する検出データD(2次元マップ)は、蛍光の発生位置を正確に特定できていないことになる。
【0049】
<データ分離部の動作>
データ分離部10は、検出データDを取得すると、検出データDを光検出素子3a単位に分離する。すなわち、データ分離部10は、
図6で説明した2次元マップを縦8×横8の格子状に切り分けて、64個のデータに分割する。そして、データ分離部10は、この分割されたデータをスペクトル取得部11に送出する。
【0050】
<スペクトル取得部の動作>
スペクトル取得部11は、64個の分割データを基に、放射線のエネルギースペクトルを光検出素子3aごとに生成する。これにより、データ分離部10が生成した64個のデータは64個のスペクトルデータに変換されることになる。
図10は、データ分離部10とスペクトル取得部11との動作を説明している。データ分離部10およびスペクトル取得部11は協働して、検出データDより各スペクトルデータを光検出素子3aの位置に応じてマッピングしたスペクトルデータマップSMを生成する。
図10においては、簡単な説明のため光検出素子3aが4つしかなく、スペクトルデータS1〜S4が配列されているように描かれている。実際のスペクトルデータSPは、64個のスペクトルデータS1〜S64が8×8の2次元マトリックス状に配列されている。
【0051】
図11は、スペクトルデータS1を具体的に表している。スペクトルデータS1は、周波数と強度が関連したデータで、検出された放射線のエネルギー分布を表している。スペクトルデータS1には特定のピークが現れる。スペクトルにピークが現れるのは、放射線検出器が検出した放射線は特定の核種の放射性物質から生じたものだからである。
【0052】
<ピーク値取得部の動作>
スペクトルデータマップSMは、ピーク値取得部12に送出される。ピーク値取得部12は、スペクトルデータマップSMを構成するスペクトルデータの各々を解析してピーク値を取得する。ピーク値とは、スペクトルデータに現れるピークの強度である。各ピーク値は、スペクトルデータマップSMに倣って再配列され、ピーク値マップPMが生成される。
図12は、ピーク値取得部12の動作を表している。
図12においては、説明の便宜上、光検出素子3aが4つしかなく、ピーク値P1〜P4が配列されているように描かれている。ピークの周波数は、各スペクトルデータS1〜S64で一致する。
【0053】
実際のピーク値マップPMは、
図13に表されている。実際のピーク値マップPMは、64個のピーク値が8×8の2次元マトリックス状に配列されている。
図13の網掛けはピーク値の値を表している。
図13を参照すれば分かるように、ピーク値PMは、光検出素子3aの間で一定ではない。ピーク値マップPMの所々には、網掛けが密となっている部分がある。この部分は、他と比べてピーク値が高い部分となっている。
【0054】
ピーク値のバラツキは、各光検出素子3aの検出感度のバラツキを表している。検出感度のバラツキを知るには、スペクトルのピーク値を用いることが望ましい。ピーク値は、スペクトルの中で高い値をとるので、スペクトルに含まれるノイズに邪魔されることなく検出感度を正確に比較することができるからである。
【0055】
ピーク値のバラツキがそのまま各光検出素子3aの検出感度のバラツキとなるかというとそうではない。シンチレータで生じた蛍光は、複数の光検出素子3aで検出されるからである。例えば、シンチレータで生じた蛍光が光検出器3で検出されるときに、単一の光検出素子3aで検出されるような放射線検出器があったとする。この場合は、ピーク値マップPMは、そのまま光検出素子3aの検出感度のバラツキを表していることになる。しかし、実施例1の場合は、この様な構成となっていない。蛍光は空間的に広がりながら光検出器3に向かい、複数の光検出素子3aで検出されるのである。蛍光の広がり方は、シンチレータ2の位置に応じて異なる。したがって、ピーク値マップPMには、検出感度のバラツキの成分と蛍光の広がり方の違いによる成分が合わさったものとなっている。ピーク値マップPMから蛍光の広がりに関する成分を除かなければ、掲出感度のバラツキを正確に知ることはできない。
【0056】
そこで、本実施例では、蛍光広がりの成分をピーク値マップPMから除く構成を採用している。この構成について具体的に説明する前に、光検出素子3aの位置に応じて蛍光の広がり方が3パターンあることについて説明する。
【0057】
<パターン1:Typeα>
まず、シンチレータ2における中央付近に注目する。この部分に位置するシンチレータ結晶から蛍光が発せられると、蛍光は放射状に広がりながら光検出器3に向かう。そして、蛍光は、蛍光発生点の付近に位置する複数の光検出素子3aで検出される。
図14は、この様子を図示している。発生点Gから生じた蛍光は、その直下の光検出素子3aの他、この素子を取り囲む8個の光検出素子3aによって検出される。図中のRは、蛍光が到達する範囲を表している。このような蛍光の広がり方をTypeαとする。
【0058】
<パターン2:Typeβ>
つぎに、シンチレータ2の側辺に注目する。この部分に位置するシンチレータ結晶から蛍光が発せられると、蛍光は放射状に広がりながら光検出器3に向かおうとする。しかし、蛍光の広がりの一部はシンチレータ2の側辺に設けられた反射膜に阻まれて放射状に広がることができない。そうしている間に蛍光は光検出器3に達し、蛍光発生点の付近に位置する複数の光検出素子3aで検出される。
図15左側は、この様子を図示している。発生点Gから生じた蛍光は、その直下の光検出素子3aの他、この素子を取り囲む5個の光検出素子3aによって検出される。図中のRは、蛍光が到達する範囲を表し、太線は、反射膜を表している。このような蛍光の広がり方をTypeβとする。
【0059】
<パターン3:Typeγ>
最後に、シンチレータ2の頂点に注目する。この部分に位置するシンチレータ結晶から蛍光が発せられると、蛍光は放射状に広がりながら光検出器3に向かおうとする。しかし、蛍光の広がりの多くはシンチレータ2の2辺に設けられた2つの反射膜に阻まれて放射状に広がることができない。そうしている間に蛍光は光検出器3に達し、蛍光発生点の付近に位置する複数の光検出素子3aで検出される。
図15右側は、この様子を図示している。発生点Gから生じた蛍光は、その直下の光検出素子3aの他、この素子を取り囲む3個の光検出素子3aによって検出される。図中のRは、蛍光が到達する範囲を表し、太線は、反射膜を表している。このような蛍光の広がり方をTypeγとする。
【0060】
図16は、各パターンにおいて、蛍光の広がり方を実測したものである。
図16は、斜線で示す光検出素子3aの直上で蛍光が発生したとき、各光検出素子3aに何%の蛍光が到達するかを表している。この蛍光の広がり方は、実際に放射線検出器に一様に放射線を当ててみることにより取得される。このとき取得された検出データDに仮の蛍光の広がり方を適用してみて、各光検出素子3aが検出した蛍光の強度がこれと一致するかを判定する。この放射線の検出と判定を繰り返すことにより、最適な蛍光の広がり方を求めるのである。この蛍光の広がり方を規定する数値が、シンチレータ2で発生した蛍光が光検出素子3aまで到達する間にどのように蛍光が空間的に広がるかを示す光広がり規定数である。
【0061】
<バラツキ取得部の動作>
ピーク値マップPMは、バラツキ取得部13に送出される。バラツキ取得部13は、光広がり規定数とピーク値マップPMとを用いて、各光検出素子3aの間での蛍光検出強度のバラツキを取得する。具体的なバラツキの取得方法について説明する。
図17は、光検出素子m5について説明している。ここで、光検出素子m5に入射する蛍光の内訳について考える。
【0062】
まず、シンチレータ2における光検出素子m5の直上の部分(m5直上部)で発した蛍光が光検出素子m5に入射することが予想できる。しかし、光検出素子m5に入射する蛍光はこれだけではない。光検出素子m5を囲む光検出素子m1,m2,m3,m4,m6,m7,m8,m9の存在を考える必要がある。すなわち、シンチレータ2における光検出素子m1,m2,m3,m4,m6,m7,m8,m9の直上の部分(m1,m2,m3,m4,m6,m7,m8,m9直上部)で発した蛍光の一部も
図17の左側の矢印に示すように光検出素子m5に入射する。
【0063】
また、シンチレータ2のm5直上部で発した蛍光の全てが光検出素子m5に入射するわけではない。すなわち、シンチレータ2のm5直上部で発した蛍光の一部は、光検出素子m5の検出範囲から広がって、光検出素子m1,m2,m3,m4,m6,m7,m8,m9のそれぞれに入射する。
【0064】
つまり、光検出素子m5に入射する蛍光は、他の光検出素子へ逃げていった蛍光だけ少なくなり、他の光検出素子から逃げてきた蛍光だけ多くなる。だとすれば、この流入量と流出量は、同じとなるのではないかと予想される。しかし、そうはならない。各光検出素子3aの位置に応じてシンチレータ2内部での蛍光の広がり方が異なるからである。具体的には、シンチレータ2における蛍光の広がり方は、各光検出素子3aの位置に応じて、α,β,γの3つのパターンに分かれている(
図17右側参照)。図中の太線は、シンチレータ2の側辺を表している。
【0065】
図18は、光検出素子m5に入射する蛍光の構成を説明する図である。
図18における斜線で示す素子は、光検出素子m5を表している。光検出素子m1の直上のシンチレータ結晶で発生した蛍光は、Typeγの広がり方で広がって、全体の2%が光検出素子m5に入射する。同様に、光検出素子m2,m4の直上のシンチレータ結晶で発生した蛍光は、Typeβの広がり方で広がって、全体の5%が光検出素子m5に入射する。光検出素子m3,m7の直上のシンチレータ結晶で発生した蛍光は、Typeβの広がり方で広がって、全体の2.5%が光検出素子m5に入射する。光検出素子m6,m8の直上のシンチレータ結晶で発生した蛍光は、Typeαの広がり方で広がって、全体の7%が光検出素子m5に入射する。光検出素子m9の直上のシンチレータ結晶で発生した蛍光は、Typeαの広がり方で広がって、全体の1.5%が光検出素子m5に入射する。光検出素子m5の直上のシンチレータ結晶で発生した蛍光は、Typeαの広がり方で広がって、全体の70%が光検出素子m5に入射する。
【0066】
そして、
図19に示す各光検出素子m1〜m9の直上にあるシンチレータ結晶で発した蛍光が全てシンチレータ結晶直下の各光検出素子m1〜m9で検出されたとしたときの検出強度をそれぞれb1〜b9とする。この検出強度b1〜b9は、それぞれ上述のピーク値における検出強度を示すものとする。すると、光検出素子m5で検出した蛍光のピーク値における検出強度S(m5)は、b1〜b9を用いて次のように表すことができる。この検出強度S(m5)は実測できる蛍光の検出強度である。直接に実測できない検出強度b1〜b9とは異なる。
S(m5)=b1×2%+b2×5%+b3×2.5%+b4×5%
+b5×70%+b6×7%+b7×2.5%+b8×7%
+b9×1.5%
【0067】
同様に、検出強度S(m1)は、b1,b2,b4,b5と光広がり規定数とを用いて表すことができ、検出強度S(m2)は、b1, b2, b3, b4, b5, b6と光広がり規定数とを用いて表すことができる。また、検出強度S(m3)は、b2, b3, b5, b6と光広がり規定数とを用いて表すことができ、検出強度S(m4)は、b1, b2, b4, b5, b7, b8と光広がり規定数とを用いて表すことができる。同様に、検出強度S(m6)は、b2, b3, b5, b6, b8, b9と光広がり規定数とを用いて表すことができ、検出強度S(m7)は、b4, b5, b8と光広がり規定数とを用いて表すことができる。検出強度S(m8)は、b4, b5, b6, b7, b8, b9と光広がり規定数とを用いて表すことができ、検出強度S(m9)は、b5, b6, b8, b9と光広がり規定数とを用いて表すことができる。つまり、光検出素子の検出強度Sは、この光検出素子に隣接する光検出素子に対応する検出強度b1〜b9と、光広がり規定数とを用いて表すことができる。
【0068】
この様に、検出強度S(m1)〜S(m9)について、9つの異なる方程式からなる連立方程式が得られる。この連立方程式をb1〜b9について解くと、検出強度S(m1)〜S(m9)は、ピーク値マップPMより既知であるので、b1〜b9を求めることができる。
【0069】
この様にして得られたb1〜b9は、同じ値をとるはずである。シンチレータ2には一様の放射線が入射しているから、蛍光の検出強度は光検出素子によらず一定であるからである。しかし、b1〜b9は、一定とならない。光検出素子の間で蛍光検出感度にバラツキがあるからである。つまり、b1〜b9こそ、蛍光感度のバラツキであることになる。
【0070】
バラツキ取得部13は、取得したバラツキb5を放射線検出器に出力する。連立方程式により得られるバラツキb5以外のバラツキは、送出しない。バラツキ取得部13が、光検出素子m5以外のバラツキはどのように取得するのかについて説明する。例えば、光検出素子m1のバラツキb1を取得する際には、光検出素子m1を囲む光検出素子m2
,m4,m5のピーク値および光広がり規定数を基に連立方程式が作り直される。そして、この連立方程式に基づいてバラツキb1が求められるのである。この様な手法は、他の光検出素子3aのバラツキを求めるときも同様である。このとき、バラツキ取得部13は、光検出素子の直上のシンチレータ結晶の蛍光の広がり方がどのタイプに属するのかを示したタイプマップTMを参照する。タイプマップTMは、
図20に示すように光検出素子と蛍光広がりのタイプが対応づけられている。
【0071】
バラツキ取得部13は、光検出器3の有する64個全ての光検出素子について同様の手法でバラツキを求めてバラツキが2次元状に配列されたバラツキマップHMを取得する。このバラツキマップHMが放射線検出器1に送出される。放射線検出器1は、増幅器を制御して、このバラツキを打ち消すように各光検出素子の検出感度のゲインを調整する。
【0072】
<データ処理の全容>
図21は、今までのデータ処理を模式的に表している。データ分離部10およびスペクトル取得部11は、放射線検出器1が放射線を検出することで出力する検出データDよスペクトルマップSMを生成する。ピーク値取得部12は、スペクトルマップSMより、ピーク値マップPMを生成する。そして、バラツキ取得部13は、ピーク値マップPM,タイプマップTM,光広がり規定数よりバラツキマップHMを生成する。
【0073】
以上のように、本発明に係る放射線検出器信号装置は、放射線検出器1の有する各光検出素子3aの間での蛍光検出強度のバラツキを取得するものである。本発明の構成によれば、蛍光の検出データ(ピーク値)とシンチレータ2で発生した蛍光が各光検出素子3aまで到達する間にどのように蛍光が空間的に広がるかを示す光広がり規定数とを基にバラツキを取得するようになっている。この様に構成すれば、蛍光が広がりながら複数の光検出素子3aに検出される放射線検出器1において正確にバラツキを取得することができる。このバラツキを基に放射線検出器1に調整を加えれば、放射線検出器1の位置弁別はより正確なものとなる。
【0074】
また、上述のように光広がり規定数がシンチレータ2に一様に放射線を照射して取得されたものであれば、よりシンチレータ内部の光の広がり方をより正確に取得することができる。