特許第5773085号(P5773085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5773085
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】切削インサート及び刃先交換式回転切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/20 20060101AFI20150813BHJP
   B23C 5/10 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   B23C5/20
   B23C5/10 D
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-538310(P2014-538310)
(86)(22)【出願日】2013年8月30日
(86)【国際出願番号】JP2013073422
(87)【国際公開番号】WO2014050438
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2014年10月8日
(31)【優先権主張番号】特願2012-213413(P2012-213413)
(32)【優先日】2012年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩田 雄介
(72)【発明者】
【氏名】阿曽 孝洋
【審査官】 山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−144625(JP,A)
【文献】 特表2010−515589(JP,A)
【文献】 特開2006−205298(JP,A)
【文献】 特開2003−334716(JP,A)
【文献】 特表平8−505815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/20,5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対して反対側を向いた第1端面(2)及び第2端面(3)と、
該第1端面と該第2端面との間に延在する周側面(4)と、
前記第1端面と前記周側面との交差稜線部に形成された切れ刃(6)であって、該切れ刃は、前記第1端面(2)がすくい面として機能すると共に前記周側面(4)の一部が逃げ面として機能するように形成されている、切れ刃と、
を備え、
前記切れ刃の少なくとも一部に隣接する前記周側面の部分(15)は、前記第1端面側から前記第2端面側に向けて、少なくとも、前記切れ刃(6)に隣接する第1逃げ面部(18)と、第2逃げ面部(19)と、第3逃げ面部(20)と、第4逃げ面部(21)と、が順に並ぶように構成され、
前記第1逃げ面部(18)は、前記切れ刃に沿って傾斜角が漸次変化するとともに、前記切れ刃に沿った範囲で前記第1端面側から前記第2端面側に向けて一定または略一定の幅を有し、
前記第1逃げ面部(18)の傾斜角の最小値は2.0°以上6.0°以下の範囲にあり、該第1逃げ面部の傾斜角の最大値は10.5°以上14.5°以下の範囲にあり、
前記第2逃げ面部(19)は、前記第1逃げ面部と前記第3逃げ面部とを接続しており、
前記第3逃げ面部(20)の傾斜角は0.0°以上11.0°以下の範囲にあり、
前記第4逃げ面部(21)は、前記第3逃げ面部よりも大きな傾斜角を有する、
切削インサート(1)。
【請求項2】
前記第1逃げ面部(18)の前記幅は、0.1mm以上0.6mm以下の範囲にある、
請求項1に記載の切削インサート(1)。
【請求項3】
前記第1端面に対向する側から前記切削インサートをみたとき、前記第1端面(2)に内接円(IC)を定めることができ、
前記切削インサートの厚さに対する前記内接円の直径の比率は、1.5以上2.2以下である、請求項1又は2に記載の切削インサート(1)。
【請求項4】
前記第2端面(3)は、前記切削インサート(1)が工具ボデーに取り付けられるときに着座面として働くように形成され、
該第2端面には、少なくとも3つの突出部(31)が設けられている、請求項1から3のいずれか一項に記載の切削インサート(1)。
【請求項5】
前記切れ刃(6)は、主切れ刃(11)と、副切れ刃(12)と、該主切れ刃及び該副切れ刃をつなぐコーナ切れ刃(13)とを有しており、
前記第1逃げ面部(18)は、少なくとも前記主切れ刃に隣接している、請求項1から4のいずれか一項に記載の切削インサート(1)。
【請求項6】
前記主切れ刃(11)は、前記コーナ切れ刃(13)から離れるに従い前記第2端面(3)に漸次接近するように形成されている、請求項5に記載の切削インサート(1)。
【請求項7】
前記第1逃げ面部(18)は、前記主切れ刃(11)に沿って前記コーナ切れ刃(13)から離れるに従い傾斜角が漸次増大するように形成されている、請求項5又は6に記載の切削インサート(1)。
【請求項8】
前記切削インサートを前記第1端面に対向する側からみたとき、該切削インサートの外郭形状は略三角形であり、該切削インサートは3つの前記切れ刃(6)を備える、請求項1から7のいずれか一項に記載の切削インサート(1)。
【請求項9】
先端部(51a)に少なくとも1つのインサート取付座(53)を有する工具ボデー(51)を備え、該インサート取付座に着脱自在に切削インサートが装着される、刃先交換式回転切削工具(52)であって、
前記切削インサートは、請求項1から8のいずれか一項に記載の切削インサート(1)であり、
前記切削インサートは、アキシャルレーキが6°以上14°以下の範囲、ラジアルレーキが−8°以上0°以下の範囲で前記インサート取付座に装着され、
該インサート取付座に取り付けられた前記切削インサートの前記第1逃げ面部(18)における逃げ角は、5°以上13°以下である、
刃先交換式回転切削工具(52)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削インサート及び刃先交換式回転切削工具に関する。より詳細には、本発明は、90°肩削りに使用される切削インサートと、それを着脱自在に装着する刃先交換式回転切削工具と、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被削材の加工側壁面を加工底壁面に対して直角に切削することを目的とする、90°肩削りが、刃先交換式回転切削工具を使用して行われている。そのような切削加工において使用される切削インサートの一例が、特許文献1から3に開示されている。これらの特許文献に開示されている切削インサートは、いずれも、主切れ刃に連なる逃げ面がインサートの中心線の方向において3段に分割されている構成を有している。具体的には、主切れ刃に連なる逃げ面は、第1逃げ面部である、主切れ刃に沿って設けられて逃げ角が主切れ刃に沿って漸次変化するねじれ面部と、第2逃げ面部である、ねじれ面部と平面部とを接続する曲面部と、第3逃げ面部である、工具ボデーのインサート取付座の側壁面に当接される平面部と、から構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−254128号公報
【特許文献2】特開2008−254129号公報
【特許文献3】特許2008−213078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、90°肩削りにおいては、切込み角が90°であることから切削力の多くは工具剛性の低い、回転切削工具の回転軸線を中心とした径方向へかかるため、他の回転切削加工と比較してびびりが発生しやすい。また、そのような90°肩削りには、突き出しの長い工具を用いた壁面加工や厚さの薄い被削材の加工など、びびりが発生しやすい条件での加工が多い。さらには、高能率を目的として径方向切込み量を増加すると、びびりの再生効果の影響を大きく受け、びびりが一層発生しやすくなる。びびりが発生すると加工面品位や工具寿命が大きく低下してしまうので、90°肩削りにおいては、びびりの抑制が重要な課題となっている。
【0005】
これに対し、特許文献1から3に開示されている切削インサートは、いずれも上述したびびりの問題に対する有効な構成を有していない。さらに、特許文献1から3の各々に記載の切削インサートをそのまま小型化するとなると、切削インサートが薄くなりすぎてしまい、その全体強度が不足し、より一層びびりが生じやすくなる。つまり、インサートが小型化するほどにびびりの問題は顕著なものとなる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、びびりを効果的に抑制することが可能な切削インサート及びそれが着脱自在に装着される刃先交換式回転切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1態様によれば、
互いに対して反対側を向いた第1端面及び第2端面と、
第1端面と第2端面との間に延在する周側面と、
第1端面と周側面との交差稜線部に形成された切れ刃であって、切れ刃は、第1端面がすくい面として機能すると共に周側面の一部が逃げ面として機能するように形成されている、切れ刃と、
を備え、
切れ刃の少なくとも一部に隣接する周側面の部分は、第1端面側から第2端面側に向けて、少なくとも、切れ刃に隣接する第1逃げ面部と、第2逃げ面部と、第3逃げ面部と、第4逃げ面部と、が順に並ぶように構成され、
第1逃げ面部は、切れ刃に沿って傾斜角が漸次変化するとともに、切れ刃に沿った範囲で第1端面側から第2端面側に向けて一定または略一定の幅を有し、
第1逃げ面部の傾斜角の最小値は2.0°以上6.0°以下の範囲にあり、第1逃げ面部の傾斜角の最大値は10.5°以上14.5°以下の範囲にあり、
第2逃げ面部は、第1逃げ面部と第3逃げ面部とを接続しており、
第3逃げ面部の傾斜角は0.0°以上11.0°以下の範囲にあり、
第4逃げ面部は、第3逃げ面部よりも大きな傾斜角を有する
切削インサートが提供される。
【0008】
第1逃げ面部の幅は、0.1mm以上0.6mm以下の範囲に設定されることができる。
【0009】
第1端面に対向する側から切削インサートをみたとき、第1端面に内接円を定めることができる。切削インサートの厚さに対する内接円の直径の比率は、1.5以上2.2以下であるとよい。
【0010】
第2端面は、切削インサートが工具ボデーに取り付けられるときに着座面として働くように形成され、第2端面には、少なくとも3つの突出部が設けられているとよい。
【0011】
好ましくは、切れ刃は、主切れ刃と、副切れ刃と、該主切れ刃及び該副切れ刃をつなぐコーナ切れ刃とを有する。この場合、第1逃げ面部は、少なくとも主切れ刃に隣接しているとよい。主切れ刃は、コーナ切れ刃から離れるに従い第2端面に漸次接近するように形成されているとよい。さらに、第1逃げ面部は、主切れ刃に沿ってコーナ切れ刃から離れるに従い傾斜角が漸次増大するように形成されているとよい。
【0012】
好ましくは、切削インサートを第1端面に対向する側からみたとき、切削インサートの外郭形状は略三角形であるとよい。この場合、切削インサートは3つの切れ刃を備えることができる。なお、本発明の切削インサートは、たった1つの切れ刃を備えてもよい。好ましくは、本発明の切削インサートは、複数の切れ刃を備え、さらに好ましくは、少なくとも3つの切れ刃を備えるとよい。
【0013】
さらに、本発明の第2態様によれば、
先端部に少なくとも1つのインサート取付座を有する工具ボデーを備え、該インサート取付座に着脱自在に切削インサートが装着される、刃先交換式回転切削工具であって、
切削インサートは、上に記載した切削インサートであり、
切削インサートは、アキシャルレーキが6°以上14°以下の範囲、ラジアルレーキが−8°以上0°以下の範囲でインサート取付座に装着され、
該インサート取付座に取り付けられた切削インサートの第1逃げ面部における逃げ角は、5°以上13°以下である、
刃先交換式回転切削工具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る切削インサートの斜視図を示す。
図2図2は、図1の切削インサートの平面図を示す。
図3図3は、図1の切削インサートの正面図を示す。
図4図4は、図1の切削インサートの下面図を示す。
図5図5は、図1の切削インサートの断面図であり、(a)は図2のV−V線に沿った図1の切削インサートの断面図であり、(b)は(a)の第1逃げ面部及びその周囲の拡大図である。
図6図6は、図1の切削インサートが取り付けられる、本発明の一実施形態の回転切削工具の工具ボデーの斜視図を示す。
図7図7は、図6の工具ボデーの正面図を示す。
図8図8は、図6の工具ボデーの側面図を示す。
図9図9は、図1の切削インサートが図6の工具ボデーに取り付けられた、本発明の一実施形態の回転切削工具の斜視図を示す。
図10図10は、図9の回転切削工具の正面図を示す。
図11図11は、図9の回転切削工具の側面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
本実施形態の切削インサート1は、図1から4に示されているように、2つの対向するまたは互いに対して反対側を向いた端面2、3と、それらを接続するまたはそれらの間に延在する周側面4とを有する。以下では、図1及び図2で上側を向いた一方の端面(本発明の第1端面に相当)2を上面と称し、もう一方の端面(本発明の第2端面に相当)3を下面と称する。そして、上面及び下面の相対的な位置関係に基づき「上」及び「下」の用語を以下の説明において用い得る。しかし、これらの用語は、切削インサートの向きや位置を限定するものではなく、単にその理解を容易にするべく用いられ、本発明を限定することを意図しないことが理解されよう。
【0017】
切削インサート1には、上面2と下面3とを貫通するように、貫通孔である取付孔5が形成されている。したがって、上面2及び下面3の各々の略中央部には、取付孔5の略円形の開口が形成されている。
【0018】
図2から理解できるように、切削インサート1の平面視にて、つまり、上面2に対向する側から切削インサートをみたとき、切削インサート1の上面2は、略三角形状の外郭形状を有する。平面視における上面2のその外郭形状は、より正確には略六角形状であるが、長辺部と短辺部との長さにおける差が大きいため、ここでは略三角形状と呼ぶ。下面3はその平面視においてつまり図4において上面2と同種の形状を有しているが、上面2よりも明らかに小さい。
【0019】
上面2と周側面4との交差稜線部には、切れ刃6が形成されている。切削インサート1では、3つの切れ刃6が形成されている。3つの切れ刃6は、取付孔5の中心軸線Aの周りに回転対称に配置されている。3つの切れ刃6のうちの1つの切れ刃を使用するように工具ボデーに切削インサート1が取り付けられるとき、1つの作用切れ刃において、上面2はすくい面として機能することができ、周側面4の一部は逃げ面として機能することができる。下面3は、工具ボデーのインサート取付座の底壁面と当接する着座面として機能することができる。本実施形態の切削インサート1は、所謂、ポジティブタイプとされている。したがって、作用切れ刃において、概して、上面2側から下面3側に向けて正の逃げ角が付与される。
【0020】
略三角形状の上面2は、図2に示されているように、略三角形のそれぞれの辺部が、相対的に長い長辺部7と相対的に短い短辺部8とに分割されている構成を有している。したがって、上面2の外形は、全体としては、3つの長辺部7と3つの短辺部8とが交互に接続した形状となっている。3つの長辺部7の長さは全て同一であり、3つの短辺部8の長さも全て同一である。長辺部7及び短辺部8は、上面2と周側面4との交差稜線部に沿って延在し、それぞれ切れ刃として機能することができるように形成されている。長辺部7と短辺部8との交差部は合計6つ存在する。6つの交差部のうち、3つの第1交差部または第1コーナ部9の各々では長辺部7と短辺部8とが、図2において内角αが鋭角になるように交差している。残りの3つの第2交差部または第2コーナ部10の各々では、長辺部7と短辺部8とが、図2において内角βが鈍角になるように交差している。鋭角の第1コーナ部9と鈍角の第2コーナ部10は、交互に並んでいる。鋭角の第1コーナ部9は切削コーナであり、切削に関与することができる。これに対し、鈍角の第2コーナ部10は切削に関与することは実質的にない。3つの第1コーナ部9の内角つまり切削コーナのコーナ角は全て同一の角度であり、3つの第2コーナ部10の内角も全て同一の角度である。本実施形態では、図2において切削コーナのコーナ角αは88°の鋭角である。しかしながら、切削コーナの角度αはこの角度に限定されることはなく、直角や鈍角であってもよい。第1コーナ部9つまり切削コーナは、切れ刃6が90°肩削りに適合するように、設計されている。また、本実施形態では、図2において第2コーナ部10の角度βは152°の鈍角である。しかしながら、第2コーナ部10の角度βはこの角度に限定されることはなく、第1コーナ部9の角度αに応じて適宜調整されることができる。このように、本実施形態の切削インサート1は、平面視において、3つの長辺部7と3つの短辺部8とが交互に接続することで、切削コーナである第1コーナ部9を各頂点部に有する略三角形形状を有している。
【0021】
1つの第1コーナ部9つまり切削コーナに関して、1つの切れ刃6が形成されている。切れ刃6は、上面2の第1コーナ部9に関して部分的に延在している。切れ刃6は、主切れ刃11と、副切れ刃12と、これらをつなぐコーナ切れ刃13とを含む。コーナ切れ刃13は、第1コーナ部9に沿って延在する。主切れ刃11は、長辺部7に沿って延在する。副切れ刃12は、短辺部8に沿って延在する。
【0022】
切れ刃6のコーナ切れ刃13は、図示しない被加工物の側壁面と底壁面とが交差する隅部の切削に関与することができるように設計されている。主切れ刃11は被加工物の側壁面の切削に関与することができるように設計されている。本実施形態の切削インサート1においては長辺部7の全体が主切れ刃として機能するが、これに限られず、長辺部7の一部が主切れ刃11であってもよい。また、切削インサート1において、主切れ刃11は、切削インサート1の平面視にて外方に向かって全体的に僅かに膨らんだ凸状湾曲形状となっている。本実施形態の切削インサート1において主切れ刃11の長さは6.2mmであるが、当然ながら必要とされる切削条件にあわせて適宜変更することが可能である。副切れ刃12は被加工物の底壁面(または加工平面)の切削に関与することができるように設計されている。本実施形態において副切れ刃12の長さは1.2mmであるが、当然ながら切削インサート1の大きさに合わせて適宜変更することが可能である。コーナ切れ刃13は、一定の曲率(コーナ半径)で湾曲している。本実施形態の切削インサート1では、コーナ半径の大きさは0.4mmであるが、被加工物の隅部に設ける湾曲の大きさに合わせて適宜変更することが可能である。以上のように、本実施形態の切削インサート1は上面2に3つの切削コーナつまり切れ刃6を有しており、それらを使いまわすことができる。つまり、切削インサート1は、割り出し可能な切削インサートである。各切れ刃にはランドやホーニングが設けられていてもよく、それらは被削材や加工形態の種類に応じて適宜設定することができる。
【0023】
ここで、軸線Aに直交すると共に、切削インサート1の上面2と下面3との間に延びる面を中間面Mとして定義する。特に、中間面Mは、上面2と下面3との間の中央位置を実質的に通るようにここでは定められている。図3に示されているように、本実施形態の切削インサート1を正面視(または側面視)したときに、つまり、軸線Aに直角な方向から切削インサート1をみたとき、中間面Mは、軸線Aに対して直角を成す直線として表される。この直線及び中間面Mは基準線または基準面として以下の説明で用いられ得る。
【0024】
切削インサート1の側面視である図3において、各切れ刃6と中間面Mとの間の距離については、第1コーナ部9のコーナ切れ刃13の最外側部分と中間面Mとの間の長さが最大である。ただし、切れ刃6と中間面Mとの間の距離は、軸線Aの方向におけるそれらの間の長さである。そして、切れ刃6は、第1コーナ部9から離れるにしたがって切れ刃6と中間面Mとの間の長さが漸次短くなるように形成されている。よって、第1コーナ部9またはコーナ切れ刃13から、主切れ刃11に沿って進むにしたがって切れ刃6と中間面Mとの間の距離は短くなり、かつ、副切れ刃12に沿って進むにしたがって切れ刃6と中間面Mとの間の距離は短くなる。そして、1つの切れ刃6の主切れ刃11(又は副切れ刃12)と中間面Mとの長さが最も短くなった箇所(すなわち、中間面Mとの最近接部)において、主切れ刃11(又は副切れ刃12)は隣の切れ刃6の副切れ刃12(又は主切れ刃11)と合流又は接続する。この接続箇所は、上述した第2コーナ部10である。このように、本実施形態の切削インサート1においては、第1コーナ部9または切削コーナから離間するにしたがって中間面Mまたは下面3に近づき、第2コーナ部10において最も中間面Mまたは下面3と近接するような傾きが、各切れ刃6に付与されている。なお、主切れ刃11は曲線状でなく直線状であってもかまわない。副切れ刃12も、直線状でも曲線状でもよい。さらに、切れ刃6の傾きは常に一定の角度でもよいが、切れ刃の途中で角度が変化する構成も可能である。
【0025】
周側面4は、3つの切れ刃6に対応するように、3つの側面14を有する。各側面14は、概ね、対応関係にある1つの切れ刃6と下面3との間に延在する。側面14は、対応関係にある切れ刃6に沿って延在し、主切れ刃11に隣接する主側面部15と、副切れ刃12に隣接する副側面部16と、コーナ切れ刃13に隣接するコーナ側面部17と、を含む。これらの側面部15、16、17は周方向に連続する。
【0026】
副側面部16は、対応関係にある切れ刃6が作用切れ刃であるとき、作用切れ刃6の副切れ刃12に関して逃げ面として機能するように形成されている。副側面部16は、単一の面より構成されていて、上面2から下面3にまで延在する。軸線Aに平行でありかつ図2において副切れ刃12に直角を成すように定められる面(その一例が図2では面P1として表されている)上において、副側面部16における傾斜角は定義されることができ、ここではその傾斜角は15°である。ただし、面P1での副側面部16の傾斜角は、図2において副切れ刃12と面P1との交差部を通ると共に面P1と直交するように定められる面P2に対して定められる。面P2は、軸線Aに平行である。副側面部16の傾斜角は適宜変更可能である。副側面部16の傾斜角は、副切れ刃12に関しての逃げ角に対応する。
【0027】
主側面部15は、第1逃げ面部18と、第2逃げ面部19と、第3逃げ面部20と、第4逃げ面部21とからなる。それら逃げ面部18、19、20、21が上面2側から下面3側に向かって順に並ぶように主側面部15は構成されている。第1から第4逃げ面部18、19、20、21のそれぞれの傾斜角は、軸線Aに平行でありかつ図2において主切れ刃11に直角を成すように定められる面(その一例が図2では面P3として表されている)上において、定義されることができる。加えて、平面P3での第1から第4逃げ面部18、19、20、21のそれぞれの傾斜角は、図2において主切れ刃11と面P3との交差部を通ると共に面P3と直交するように定められる面P4に対して定められる。面P4は、軸線Aに平行である。なお、図2において、面P4は後述の内接円ICの接線として表され、面P3は内接円ICと主切れ刃11との接点を通る。
【0028】
第1逃げ面部18は、主切れ刃11に隣接しており、主切れ刃11に沿った範囲で、上面2側から下面3側に向けて所定の幅又は長さWを有する帯状の面である。特に、切削インサート1では、第1逃げ面部18は、主切れ刃11に沿った範囲で、上面2側から下面3側に向けて一定の幅を有している。ここで、図5に基づいて第1逃げ面部18に関して説明する。図5(a)は、図2のV−V線に沿った切削インサート1の断面図であり、図5(b)は、図5(a)における第1逃げ面部18及びその周囲の拡大図である。なお、図5(a)では、図3の平面P5に沿った主側面部15の形状が表されていて、図2の面P4が直線として表されている。ただし、図5は、紙面の奥側に表されるはずの、上面2の部分および下面3の部分を、省略している。
【0029】
上面2側から下面3側に向けての第1逃げ面部18の幅Wは、図5(b)に示すように、軸線Aに平行でありかつ切削インサート1の平面視において主切れ刃11に直角を成すように定められる面上における、第1逃げ面部18のそれに沿った長さである。第1逃げ面部18は、上で述べたように、主切れ刃11に沿ってその幅Wが変化しないように、形成されている。したがって、第1コーナ部9に近い部分での第1逃げ面部18の幅は、第2コーナ部10に近い部分での第1逃げ面部18の幅と等しい。なお、これは、第1逃げ面部18の幅が主切れ刃11に沿って変化する、例えばわずかに変化することを排除するものではない。第1逃げ面部18の幅Wが主切れ刃11に沿った範囲で略一定の幅を有するように、第1逃げ面部18は形成されることも可能である。本実施形態において、この第1逃げ面部18の幅Wは0.3mmである。第1逃げ面部18の幅は、好ましくは0.1mm以上0.6mm以下の範囲に、さらに好ましくは0.1mm以上0.5mm以下の範囲にあるとよい。より好ましくは、この第1逃げ面部18の幅Wは0.2mm以上0.4mmの範囲がよい。
【0030】
さらに、この第1逃げ面部18においては、隣接する主切れ刃11に沿って、第1コーナ部9側から第2コーナ部10側に向かって傾斜角γが漸次大きくなっている。これに対応して、図4では、第1逃げ面部18が、第1コーナ部9側でほとんど線状に表され、第2コーナ部10側である程度の幅を有して表されている。切削インサート1においては、第1コーナ部9つまり切削コーナ側から第2コーナ部10側に向かって、第1逃げ面部18の傾斜角は4.0°から12.5°へと変化している。第1逃げ面部18の傾斜角は、第1コーナ部9側の端部では2.0°以上6.0°以下の範囲にあることが好ましく、第2コーナ部10側の端部では10.5°以上14.5°以下の範囲にあることが好ましい。なお、第1逃げ面部18のこの傾斜角は、主切れ刃11の第1逃げ面部18に関しての逃げ角に対応する。
【0031】
第2逃げ面部19は、第1逃げ面部18と第3逃げ面部20とを接続するためのつなぎ面である。ここでは、第2逃げ面部19は、第1逃げ面部18と第3逃げ面部20とを実質的に滑らかに接続する。すなわち、第1逃げ面部18から第3逃げ面部20へ向けて、主側面部15の傾斜角を実質的に滑らかに変化させるように、第2逃げ面部19は形成されている。さらに、第2逃げ面部19は、第1逃げ面部18の上記幅Wを一定に保つ機能も有し、第1逃げ面部18の幅を一定に保つように設計される。切削インサート1では、第2逃げ面部19の傾斜角δは、第1逃げ面の傾斜角γよりも大きいように形成されている。
【0032】
第3逃げ面部20は、後述する工具ボデーのインサート取付座の側壁面と当接する当接面(または拘束面)として機能するように設計される。この第3逃げ面部20の傾斜角εは切れ刃に沿った範囲で一定であり、つまり第1コーナ部9側の傾斜角が第2コーナ部10側の傾斜角と異ならないように設定されていて、本実施形態では、11°である。好ましくは、第3逃げ面部20の傾斜角εは0.0°以上11.0°以下である。第3逃げ面部の傾斜角は、切れ刃に沿って変化させることも可能である。そして、第3逃げ面部20は第1逃げ面部18及び第2逃げ面部19よりも面積が大きく形成されている。
【0033】
第4逃げ面部21は、第3逃げ面部20よりも大きな傾斜角ζが設けられている面である。本実施形態の切削インサート1では、第4逃げ面部21の傾斜角は切れ刃に沿った範囲で一定であり、20.0°である。第4逃げ面部21の傾斜角は第3逃げ面部20の傾斜角よりも大きく設定される。第4逃げ面部の傾斜角は、切れ刃に沿って変化してもよい。この第4逃げ面部21は、関連する主切れ刃11に沿って、第1コーナ部9側から第2コーナ部10側に向かって、その幅(第1逃げ面部18の幅Wと同様に定義される)が漸次大きくなるように形成されている(図3、5参照)。また、第1逃げ面部18から第4逃げ面部21のなかで、第3逃げ面部20が最も面積が大きく形成されている。しかし、第4逃げ面部21は第3逃げ面部20よりも広くてもよい。
【0034】
また、コーナ側面部17は、図1及び図3から理解できるように、主側面部15の第1から第3逃げ面部18、19、20にそれぞれが適合した3つの逃げ面部17a、17b、17cを有している。コーナ側面部17は、主側面部15と副側面部16とを滑らかに接続するように構成されている。
【0035】
上面2に対向する側から切削インサート1をみたとき、つまり、図2において、上面2に内接円ICを定めることができる。切削インサート1において、内接円ICの直径は、5.36mmであり、切削インサート1の厚さTは3.2mmである。したがって、切削インサート1の厚さに対する内接円ICの直径の比率が、約1.7となっている。切削インサート1の厚さに対する内接円ICの直径の比率(内接円の直径/切削インサートの厚さ)は、1.5以上2.2以下の範囲にあることが好ましい。なお、切削インサート1の厚さTは、図3に示すように、軸線Aの方向における第1コーナ部9から下面3の後述する突出部までの長さである。
【0036】
この内接円ICに対して、第1逃げ面部18の幅Wは設定されることが可能である。上で述べたように、第1逃げ面部18の幅Wは0.1mm以上0.6mm以下の範囲が好ましい。そして、このような第1逃げ面部18の幅Wに対する内接円ICの直径の比率(内接円の直径/第1逃げ面部18の幅)は、14以上24以下の範囲にあるとよい。この比率は、インサートのバランスを考慮して設定されるとよい。
【0037】
また、副切れ刃12にさらい刃を設けることが可能である。さらい刃を設けることによって、被加工面の面粗度を向上させることができる。このさらい刃は直線状であってもよいし、曲線状であってもよい。副切れ刃12にさらい刃を設ける場合、切削インサート1の設置姿勢によって、第1コーナ部9つまり切削コーナの内角が鈍角となる場合もあり得る。
【0038】
さらに、図2に示されているように、上面2において、第1コーナ部9つまり切削コーナ付近の面上に使用コーナの識別マーク23a、23bを設けてもよい。この識別マーク23a、23bは第1コーナ部9ごとに模様が異なっている。これによって、3つの第1コーナ部9の切削コーナを使用する順番がわかり、作業者が一度使用した切削コーナを誤って再び使用してしまうことを防止することが可能である。また、すくい面として機能し得る上面2の角度つまりすくい角や形状は、切削条件や被削材の種類等に応じて適宜変更することが可能である。上面2に、必要に応じてチップブレーカ等の凹凸を設けることができる。また、本実施形態においては切削インサート1の平面視形状が略三角形状であるが、これに限定されることはなく、例えば四角形状や五角形状といった他の多角形形状も可能である。ただし、90°肩削りに用いられる場合は、上面の外郭形状は、切削インサート1のように略三角形状であるか、あるいは、略四角形状が望ましい。
【0039】
下面3には、図3および4に示されているように、突出部31が形成されている。突出部31は、上面2の第1コーナ部9に対応する下面3のコーナ部32の近くに設けられている。なお、切削インサート1では、図4において、上面2の第1コーナ部9と軸線Aとの間に、対応関係にある下面3のコーナ部32が並ぶように、コーナ部32は位置付けられている。したがって、本実施形態の場合、3つの突出部31が下面3に設けられている。突出部31は、軸線Aの方向において下方に突出するように形成されている。加えて、突出部31の下方先端の面つまり底面は平坦に形成されており、この底面が工具ボデーのインサート座の底壁面と当接される。本実施形態の切削インサート1では、突出部31の軸線A方向の突出し量は0.1mmとされているが、これは適宜変更することが可能である。
【0040】
本実施形態の切削インサート1の少なくとも切れ刃6を含む部分は、超硬合金、コーティングされた超硬合金、サーメット、セラミック、又はダイヤモンドあるいは立方晶窒化硼素を含有する超高圧焼結体といった硬質材料からなるとよい。
【0041】
次に、上記切削インサート1が着脱自在に装着される工具ボデー51を備えた、刃先交換式回転切削工具52について、図面を参照しながら説明する。工具ボデー51を図6〜8に示す。工具ボデー51に切削インサート1が装着されている、本実施形態の刃先交換式回転切削工具52を図9〜11に示す。
【0042】
工具ボデー51は、基本的に略円柱形状をなしており、先端部51aから後端部51bに向けて延びる回転軸線Oが定められる。工具ボデー51の後端側は、工作機械に取り付けられる部位である。工具ボデー51の先端側には3つのインサート取付座53が設けられていて、各々に切削インサート1が装着可能である。このように、本実施形態の刃先交換式回転切削工具52は、3つの切削インサート1が装着され、3つの作用切れ刃が形成される3枚刃タイプである。本実施形態の切削工具52では、3つのインサート取付座53は、工具ボデー51の図7の正面図、特に先端面視において、略均等な間隔で配置されている。しかし、3つのインサート取付座53は、不均等な間隔で配置されることも可能である。また、インサート取付座53の数は3つに限定されることはなく、その他の任意の数に設定することが可能である。すなわち、本発明の刃先交換式回転切削工具は、3枚刃に限定されることはない。本発明の切削工具には、たった1つのインサート取付座が設けられることが可能であるが、好ましくは、複数のインサート取付座が設けられる。
【0043】
インサート取付座53は、底壁面54と、その底壁面54に対して所定の傾きをそれぞれが有する2つの側壁面55、56とを有する。底壁面54は工具回転方向K前方を向くように形成されている。インサート取付座53の底壁面54の略中央部分には、切削インサート1を固定手段としてのネジによって固定するためのネジ穴57が設けられている。本実施形態では切削インサート1が略三角形であるため、インサート取付座53の底壁面54の形状も略三角形状となっているが、インサート取付座53の形状は切削インサート1の形状に合わせて適宜変更することが可能である。
【0044】
インサート取付座53の第1側壁面55は、工具先端側かつ工具外周側を向く面である。インサート取付座53の第2側壁面56は、第1側壁面55よりも工具先端側に位置付けられていて、工具後端側かつ工具外周側を向く面である。第1側壁面55と第2側壁面56とは組み合わさって、切削インサート1の1つの作用しない切削コーナまたは切れ刃の周囲が納まる領域を区画形成する。第1側壁面55及び第2側壁面56は、それぞれ、上記第3逃げ面部20が好適に当接可能に形成されている。
【0045】
インサート取付座53には隣接して、切りくずを処理するための切りくずポケット58が設けられている。ここでは、切りくずポケット58は工具ボデー51の後端側に向かって略半月状に工具ボデー51を切り欠くように形成されている。しかしながら、切りくずポケット58の形状や大きさは、図示されているものに限定されることなく適宜変更することが可能である。
【0046】
切削インサート1は、インサート取付座53の底壁面54に切削インサート1の下面3が当接し、インサート取付座53の側壁面55、56に切削インサート1の周側面4が当接するように、インサート取付座53に配置される。したがって、切削インサート1がインサート取付座53に配置されたとき、切削インサート1の上面(すくい面)2は工具回転方向K前方を向いている。このとき、切削インサート1の下面3に設けられている突出部31のみがインサート取付座53の底壁面54と当接している。また、切削インサート1の周側面4のうち、主切れ刃11に隣接する主側面部15については、第3逃げ面部20のみがインサート取付座53の側壁面55、56と当接している。このようにインサート取付座53に切削インサート1が配置された状態で、ネジは、切削インサート1の取付孔5を介して工具ボデー51のインサート取付座53のネジ穴57にしっかりとねじ込まれる。これにより切削インサート1をインサート取付座に固定することができる。
【0047】
インサート取付座53の底壁面54及び側壁面55、56は、上記構成の切削インサート1を所定のアキシャルレーキ及び所定のラジアルレーキで配置するように設計されている。切削インサート1は、工具ボデー51に対し正のアキシャルレーキがつけられて装着される。アキシャルレーキは6°以上14°以下の範囲、より好ましくは6°以上9°以下の範囲に設定されるとよい。また、切削インサート1は、ここでは、工具ボデーに対し負のラジアルレーキがつけられて装着される。ラジアルレーキは−8°以上0°以下の範囲、より好ましくは、−8°以上−2°以下の範囲に設定されるとよい。このアキシャルレーキの範囲及びラジアルレーキの範囲は、本実施形態のような回転切削工具において一般的に設定されている値である。このようにアキシャルレーキ及びラジアルレーキが付けられているため、切削インサート1単体においては第1逃げ面部18の傾斜角(見かけの逃げ角)は前述したように主切れ刃11に沿って漸次変化しているが、切削インサート1が工具ボデー51に装着されたときの切削インサート1の第1逃げ面部18の真の逃げ角、すなわち、主切れ刃11に沿った工具回転軌跡の接線(または当該接線を含むと共に回転軸線Oに平行な平面)と第1逃げ面部18との間の角度、は一定になる。本実施形態の切削工具52では、第1逃げ面部18の真の逃げ角は9°である。この真の逃げ角の好ましい範囲は、5°以上13°以下である。切削インサート1を上述したアキシャルレーキ及びラジアルレーキとなるように工具ボデー51に装着するために、インサート取付座53は上述のアキシャルレーキ及びラジアルレーキに対応した角度で傾斜するように形成されている。
【0048】
このように切削インサート1が装着された切削工具52は、回転軸線Oの回りに回転されて、切削に、特に90°肩削りに用いられる。図9図11では、使用される切れ刃、つまり、作用切れ刃に符号「6a」を付す。作用切れ刃6aは、工具外周側に位置して工具回転軸線O方向に概ね延在する作用主切れ刃11a、工具先端側に位置して工具回転軸線に対して直交する平面上に概ね延在する作用副切れ刃12a、及び、工具外周側かつ工具先端側に位置する作用第1コーナ部9aつまり切削コーナの作用コーナ切れ刃13aを有する。作用主切れ刃11aは、被加工物の側壁面の切削に関与し、作用副切れ刃12aは、被加工物の底壁面の切削に関与することができる。そして、作用切れ刃6aは90°肩削りに適するように構成されていて、かつ、切削インサート1は上記したようにインサート取付座53に取り付けられているので、作用コーナ切れ刃13aを含む作用切れ刃6aは被加工物の側壁面と底壁面とが交差している隅部を90°に仕上げることに寄与し得る。
【0049】
本実施形態の刃先交換式回転切削工具52においては、切削インサート1の使用している切削コーナが摩耗等した場合、その切削コーナを他の未使用の切削コーナに変えることができる。切削インサート1は、3つの切れ刃6つまり切削コーナを有し、3回使用することが可能である。本発明では、切削インサートの平面視の形状は略三角形形状に限定されることなく他の多角形形状も可能であるので、多角形形状に応じた数の切削コーナを切削に使用することができる。
【0050】
次に、本実施形態の切削インサート1及びそれを装着した刃先交換式回転切削工具52の作用及び効果について説明する。
【0051】
本実施形態の切削インサート1は、主切れ刃11に隣接して逃げ面として機能することができる主側面部15を第1逃げ面部18、第2逃げ面部19、第3逃げ面部20、第4逃げ面部21に分割した構成を有している。そして、切削インサート1単体における第1逃げ面部18の傾斜角が従来の角度と比較して小さい。したがって、通常のラジアルレーキで本実施形態の切削インサート1を工具ボデー51に装着した場合の第1逃げ面部18の真の逃げ角が従来のものと比較して小さい。これによって、プロセスダンピング効果を好適に得ることができる。プロセスダンピング効果とは、逃げ角を小さくすることで逃げ面をあえて被削材と干渉しやすい状況にすることによって、逃げ面と被削材との干渉により振動の発生を抑制し、びびりを抑制する効果をいう。工具と工作機械と被削材とからなる系が共振することで発生する大きな振動を、逃げ面を被削材にある程度当接させるまたは近接させることによって抑制することができる。従来の一般的な90°肩削り用切削インサートの場合、工具ボデーに装着されたときにおける真の逃げ角は約15°〜20°が通常と考えられている。それと比較して、本実施形態の切削インサート1の第1逃げ面部18の真の逃げ角は約9°であり、第1逃げ面部18が被削材とより干渉しやすい状態となっている。前述したように、切削インサート1が工具ボデー51に装着されたときの第1逃げ面部18の真の逃げ角は、5°以上13°以下の範囲が好ましい。第1逃げ面部18の真の逃げ角が5°未満の場合、第1逃げ面部18と被削材とが過剰に接触してしまい切削抵抗が大きくなりすぎてしまう。また、第1逃げ面部18の真の逃げ角が13°より大きい場合、第1逃げ面部18が被削材に干渉しづらい状態となり、プロセスダンピング効果が失われる。ラジアルレーキを変更することでも切削インサート1を工具ボデー51に装着したときの真の逃げ角を小さくすることは可能である。しかし、その場合、ラジアルレーキを通常よりも正側にかなり大きく設定する必要が生じ、切削インサート取り付け角度の全体的なバランスが崩れる恐れがある。したがって、本発明においては、ラジアルレーキを変更するのではなく、または、ラジアルレーキに着目するのではなく、切削インサート1単体の傾斜角または逃げ角を変化させている。ちなみに、切削速度が遅いほどプロセスダンピング効果は大きくなるので、切削速度が遅いほど逃げ角を大きくとることが可能である。
【0052】
また、第1逃げ面部18の幅Wは、上で述べたように、主切れ刃11に沿った範囲で一定つまり均一にされる。第1逃げ面部18の幅は、第2逃げ面部19と関係がある。第2逃げ面部19は、第1逃げ面部18と第3逃げ面部20とを急激な段差が生じることなく滑らかに接続するときに、第1逃げ面部18の一定な幅を保障するので、びびり抑制効果がさらに向上する。
【0053】
プロセスダンピング効果を得るために、第1逃げ面部18における逃げ角は従来と比較して非常に小さく設けられ、第1逃げ面部18が被削材に当接または近接し易いように設定されている。よって、第1逃げ面部18と被削材との相互干渉によって従来よりも大きな摩擦力が生じる。第1逃げ面部18の幅が主切れ刃11に沿って変化するものであると被削材との干渉部分の大きさも主切れ刃11に沿って変化し、摩擦力のバランスが不均一になることがある。第1逃げ面部18にかかる摩擦力が不均一になると主切れ刃11にかかる切削抵抗も切れ刃に沿って不均一となってしまうので、切削性能が低下する可能性がある。主切れ刃11に沿った範囲で第1逃げ面部18の幅を一定にすることによって、主切れ刃11にかかる摩擦力を概ね一定にすることができ、その結果、切削抵抗のバランスを良くし、切削性能の低下を防ぐことができる。このような、有利な第1逃げ面部18の幅の均一化は第2逃げ面部19によって保障される。
【0054】
また、このようにして一定に規定された第1逃げ面部18の幅は、0.1mm以上0.6mm以下の範囲にあるのが好ましく、さらに好ましくは0.1mm以上0.5mm以下の範囲に設定される。第1逃げ面部18の幅が0.1mmより小さいと、第1逃げ面部における被削材に対する干渉面積が小さくなりすぎてしまい、プロセスダンピング効果を十分に得ることができない。一方、第1逃げ面部18の幅が0.5mmより大きいと、特に0.6mmより大きいと、第1逃げ面部18の被削材への干渉によって生じる摩擦力が大きくなりすぎてしまい、摩擦型びびりが生じてしまう可能性がある。また、第1逃げ面部18の幅がそのように長いと、切削抵抗も大きくなりすぎてしまい、切削性能が低下する可能性もある。さらには、第1逃げ面部18の幅は、0.2mm以上0.4mm以下の範囲がより好ましい。この範囲に設定することによって、最もバランス良くプロセスダンピング効果を得ることが可能となる。さらに、切削速度が遅いほどプロセスダンピングの効果は大きくなるので、切削速度が遅いときには第1逃げ面部18の幅Wは短くされるとよい。
【0055】
このように、第1逃げ面部の幅を一定にすることで、より好適にプロセスダンピング効果を発揮させることができる。それ故、第1逃げ面部は上で述べたように切れ刃の主切れ刃に沿ってその幅が変化するように形成されることも可能であるが、第1逃げ面部の幅は、好ましくは、切れ刃に沿った範囲で一定または略一定にされ得る。第1逃げ面部の幅が切れ刃に沿った範囲で略一定とは、それが切れ刃に沿ってわずかに変化することを含む。好ましくは、切れ刃の一方の端部での第1逃げ面部の幅と、この切れ刃のもう一方の端部での第1逃げ面部の幅との差は、所定範囲内に設定されるとよい。この所定範囲は、例えば望まれる切削抵抗のバランスおよび望まれるプロセスダンピング効果の程度の少なくともいずれか一方に応じて設定されることが可能である。なお、第1逃げ面部が切れ刃に沿った範囲でその幅が変化するように形成される場合、その平均値が内接円の直径との関係において適用されるとよい。
【0056】
第2逃げ面部19はこのような第1逃げ面部の幅の設定に寄与しつつ、第1逃げ面部18と第3逃げ面部20とを急激な段差が生じることなく滑らかに接続する。そのため、切削インサート1のプレス成形時における金型からの抜き取りが容易になる。また、第2逃げ面部19は、第1逃げ面の傾斜角γよりも大きい傾斜角δで形成されている。したがって、第1逃げ面部18を好適に被削材に干渉させることができる。
【0057】
また、第3逃げ面部20の傾斜角を従来のものよりも小さい範囲、すなわち、0°以上11°以下の範囲とすることによって、切削加工中の切削インサート1の浮き上がりを抑制することが可能となる。従来では、インサート取付座の側壁面と当接する当接面として機能する逃げ面部分と、インサート取付座の底壁面と当接する切削インサートの下面との間の角度が大きな鈍角であった。そのため、切削加工中にかかる切削抵抗によって切削インサートがインサート取付座の側壁面側に押し付けられたときに、切削インサートがインサート取付座の側壁面上に乗りあがるように滑る(浮き上がる)傾向があった。このような切削インサートの浮き上がりが生じると切削インサートにがたつきが生じ、それがびびりの原因の1つとなっていた。また、この現象は切削精度の低下にもつながる。これに対し、本実施形態の切削インサート1のように当接面となる第3逃げ面部20の傾斜角を設定することによって、切削インサート1がインサート取付座53の側壁面55、56方向に切削抵抗または力を受けても、インサート取付座53の側壁面55、56に乗りあがることが抑制される。したがって、切削インサート1ががたつくことがないために、びびりの発生を大きく抑制することができる。同時に、これにより切削精度の向上という効果も得ることができる。さらに、本実施形態の切削インサート1は、前述したように第1逃げ面部18の逃げ角を小さく設定して第1逃げ面部18と被削材とを積極的にある程度干渉させているために、従来のものと比較して切削中にかかる切削抵抗が大きい。そのため、切削インサート1の浮き上がりの傾向はより顕著となるが、このように第3逃げ面部20の傾斜角を設定することによって、これは解決される。また、第1逃げ面部18から第4逃げ面部21のうちで第3逃げ面部20が一番面積が大きく形成されているので、十分な切削インサート固定性を確保することができる。また、第3逃げ面部20の傾斜角が0°以上11°以下の範囲にある理由は、その傾斜角が0°より小さいと第3逃げ面部20の下部(第4逃げ面部近傍の部分)が被削材と接触する可能性が非常に高くなり、その傾斜角が11°より大きいと浮き上がり防止効果を十分に得ることができなくなるからである。しかしながら、上述した効果を発揮することができるのであれば、第3逃げ面部20の傾斜角は負角であっても構わない。
【0058】
また、第3逃げ面部20の傾斜角よりも大きな傾斜角がつけられた第4逃げ面部21を設けることによって、第3逃げ面部20の傾斜角を小さくすることで生じる被削材との干渉問題を解決することができる。すなわち、当接面として機能する第3逃げ面部20の傾斜角を上述したように小さく設定することによって切削インサート1の浮き上がりを解決することができるが、これによって周側面4の下面3側部分が被削材に干渉する可能性が高まる。つまり、切削インサート1の作用切れ刃6の回転軌跡の外側に周側面4の下面3側部分がはみ出す可能性が高まるが、大きな傾斜角を有する第4逃げ面部21を設けることによって、これを回避することが可能となる。このように、本発明においては、従来は1つであった当接面を2つに分割する、つまり、第3逃げ面部20と第4逃げ面部21とに分割することによって、浮き上がり防止(びびり抑制)と干渉防止を同時に達成することができる。
【0059】
このように、本発明においては、主側面部15を4つに分割してそれぞれに個別の機能を持たせ、それら4つの逃げ面部18、19、20、21が協働することによって、付随的な障害を生じさせることなく効果的にびびりを抑制することが可能となる。したがって、本発明は、びびりに起因する様々な障害、例えば切削精度の悪化やチッピング、を防止することもできる。つまり、本発明は、第1逃げ面部18から第4逃げ面部21が組み合わされることによって大きな効果を生むものである。
【0060】
また、切削インサート1を平面視したときの内接円ICの直径に対する切削インサート1の厚さの比率を大きくすることによって切削インサート1全体の剛性が向上し、さらなるびびり抑制効果を達成することが可能となる。この構成は、特に、切削インサート1が小さい場合において効果的である。従来の切削インサートをそのままの比率で小さくし、薄くした場合、切削インサートの厚さが薄くなりすぎることから切削インサート全体の剛性が低下し、びびりがより発生しやすくなる。これに対し、切削インサート1の内接円直径ICに対する切削インサート1の厚さの比率を適切に設定することによって、小さいながらも切削インサート1の全体的な剛性を維持することが可能となる。また、このように厚さの比率を大きくすることによって、当接面となる第3逃げ面部20を大きく設定することができ、切削インサート1の固定力が向上し、さらにびびりを抑制することができるという効果もある。また、このように厚さの比率を大きくすることによって周側面4の下部と被削材との干渉する可能性が高まるが、第4逃げ面部21を設けていることによってこの問題は解消される。前述したように、切削インサート1の厚さに対する内接円直径ICの比率の好ましい範囲は、1.5以上2.2以下である。比率が1.5未満であると、切削インサート1が厚くなりすぎてしまい工具ボデー51に切削インサート1を装着するための空間が大きく制限されてしまう。また、比率が2.2よりも大きいと、切削インサート1を厚くすることによって得られる効果が小さくなりすぎてしまう。
【0061】
また、図4に示されているように、下面3に突出部31を3つ設けることによって、切削インサート1の着座性を向上させることができる。すなわち、インサート取付座53の底壁面54との当接箇所を3か所に限定することによって、製造公差によって下面3が平坦面になっていなくても安定的に切削インサート1を装着することができる。したがって、切削インサート1ががたつくことがないため、それに起因するびびりを抑制することが可能となる。また、従来のように切削インサート1の下面3を全面研削する必要がないので、製造コストを大幅に抑制することができる。
【0062】
本実施形態においては、主側面部15が4つの逃げ面部18、19、20、21よりなる構成を有しているが、主側面部15の逃げ面部の数はこれに限定されることはない。すなわち、上述した各逃げ面部18、19、20、21の機能を阻害しない限りにおいて、特殊な用途を有する面部または逃げ面部をさらに付加することも可能である。さらに、切削インサート1では、第3逃げ面部20は下面3に達していない。しかし、第3逃げ面部20は部分的に下面に達してもよい。
【0063】
上記説明してきた切削インサート1及び刃先交換式回転切削工具52は90°肩削り用のものである。しかし、本発明はその用途に限定されることはなく、必要に応じて種々の刃先交換式回転切削工具に適用することが可能である。回転切削工具において、外周側に位置する逃げ面に、上で述べた、少なくとも4段の逃げ面部が形成されるとよい。
【0064】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明した。しかし、本発明は種々の変更が可能であり、本願の請求の範囲によって定義される本発明の精神及び範囲から逸脱しない限り、置換、変更が可能である。
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