【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の事項を見出した。即ち、特定の一般式で表されるクロロプロパン化合物又はクロロプロペン化合物を原料として用い、これを気相中でフッ化水素と加熱下で反応させてHCFO-1233xfを製造する方法において、反応系中に一定量以上の水分を存在させる場合には、目的とするHCFO-1233xfの選択率が向上し、一段階の反応操作によって、比較的短い反応時間で目的とするHCFO-1233xfを効率よく製造することができる。そして、この方法によれば、従来のHCFO-1233xfの製造方法における欠点を解消して、工業的スケールにおいて、生産性よくHCFO-1233xfを製造することが可能となる。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0011】
即ち、本発明は、下記の2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法を提供するものである。
項1. 含塩素化合物とフッ化水素とを、該含塩素化合物の全重量に対して50ppm以上の水の存在下で、気相状態において加熱下で反応させることを特徴とする2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法であって、
該含塩素化合物が、一般式(1):CX
3CHClCH
2Cl(式中、各Xは、同一又は異なって、Cl又はFである)で表されるクロロプロパン、一般式(2):CClY
2CCl=CH
2(式中、各Yは、同一又は異なって、Cl又はFである)で表されるクロロプロペン、及び一般式(3)CZ
2=CClCH
2Cl(式中、各Zは、同一又は異なって、Cl又はFである)で表されるクロロプロペンからなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物である、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
項2. 触媒の不存在下に反応を行う、上記項1に記載の方法。
項3. 原料として用いる含塩素化合物1モルに対してフッ化水素を5〜30モル使用し、300〜500℃で反応を行う上記項1又は2に記載の2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法。
【0012】
以下、本発明の2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法について具体的に説明する。
(1)原料化合物
本発明では、原料化合物としては、一般式(1):CX
3CHClCH
2Cl(式中、各Xは、同一又は異なって、Cl又はFである)で表されるクロロプロパン、一般式(2):CClY
2CCl=CH
2(式中、各Yは、同一又は異なって、Cl又はFである)で表されるクロロプロペン、及び一般式(3)CZ
2=CClCH
2Cl(式中、各Zは、同一又は異なって、Cl又はFである)で表されるクロロプロペンからなる群から選ばれた少なくとも一種の含塩素化合物を用いる。これらの含塩素化合物を原料として、後述する条件に従ってフッ化水素との反応を行うことによって、一段階の反応工程で、目的とする2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)を高収率で製造できる。
【0013】
上記した原料化合物の内で、一般式(1):CX
3CHClCH
2Clで表されるクロロプロパンの具体例としては、CCl
3CHClCH
2Cl (HCC-240db, bp. 179℃/760mmHg, 51-53℃/3mmHg)、CFCl
2CHClCH
2Cl(HCFC-241db, bp. 157℃)、CF
2ClCHClCH
2Cl(HCFC-242dc, bp. 113-114℃)、CF
3CHClCH
2Cl(HCFC-243db) 等を例示でき、一般式(2):CClY
2CCl=CH
2で表されるクロロプロペンの具体例としては、CCl
3CCl=CH
2 (HCO-1230xf, bp. 128℃)、CFCl
2CCl=CH
2(HCFO-1231xf, bp. 98.5-99℃)、CF
2ClCCl=CH
2(HCFO-1232xf, bp. 57-58℃)等を例示でき、一般式(3)CZ
2=CClCH
2Clで表されるクロロプロペンの具体例としては、CCl
2=CClCH
2Cl(HCO-1230xa, bp. 138℃) 、CFCl=CClCH
2Cl(HCFO-1231xb)、 CF
2=CClCH
2Cl(HCFO-1232xc)等を例示できる。
【0014】
これらの原料化合物の内で、特に、HCC-240db(CCl
3CHClCH
2Cl( 1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン))、 HCFC-243db (CF
3CHClCH
2Cl ( 2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパン))、HCO-1230xf
(CCl
3CCl=CH
2(2,3,3,3-テトラクロロプロペン))、及びHCO-1230xa (CCl
2=CClCH
2Cl (1,1,2,3-テトラクロロプロペン))の各化合物は、入手が容易で安価な化合物である点において有利な原料化合物である。
【0015】
本発明では、上記した原料化合物を一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0016】
(2)反応方法
本発明の製造方法では、原料化合物である含塩素化合物の全重量を基準として50ppm以上の水分の存在下において、上記した原料化合物とフッ化水素とを、気相状態において加熱下で反応させる。
【0017】
この様な条件下において、上記原料化合物をフッ化水素と反応させることによって、目的とする2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)の選択率が向上して、一段階の反応工程によって、効率良く2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)を得ることができる。
【0018】
本発明の製造方法では、上記した原料化合物とフッ化水素とを気相状態で反応させることが必要である。この場合、後述する反応温度領域において、原料化合物とフッ化水素が接触する際に原料化合物が気相状態であればよく、原料化合物の供給時には、原料化合物が液体状態であってもよい。例えば、原料化合物が常温、常圧で液状である場合には、原料化合物を気化器を用いて気化(気化領域)させてから予熱領域を通過させ、無水フッ化水素と接触させる混合領域に供給することによって、気相状態で反応を行うことができる。また、原料化合物を液体状態で反応装置に供給し、フッ化水素との反応領域に達した時に気化させて反応させても良い。原料化合物を反応領域で気化させる方法については特に限定はないが、例えば、ニッケルビーズ、ハステロイ片などの熱伝導性が良好で本発明の反応に対する触媒活性が無く、しかもフッ化水素に対して安定な材料を反応管内に充填して、反応管内の温度分布を均一にして、原料化合物の気化温度以上に加熱し、ここに液体状態の原料化合物を供給して、原料化合物を気化させて気相状態としてもよい。
【0019】
フッ化水素は、通常、原料化合物と共に、気相状態で反応器に供給すればよい。フッ化水素の供給量については、通常、上記した原料化合物1モルに対して、3モル程度以上とすればよいが、5〜100モル程度の範囲とすることが好ましく、5〜30モル程度の範囲とすることがより好ましい。この様な使用量の範囲とすることによって、原料化合物の転化率とHCFO-1233xfの選択率の両方を良好な範囲内に維持することができる。特に、原料化合物1モルに対してフッ化水素を10モル以上供給する場合に、HCFO-1233xfの選択率を非常に高くすることができる。
【0020】
尚、上記した原料は、反応器にそのまま供給してもよく、あるいは、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスで希釈して供給しても良い。
【0021】
本発明において、反応系に存在する水分量とは、後述する所定の反応温度域において原料化合物とフッ化水素が反応する際に、反応器内での反応が進行する場所に存在する水分量である。具体的には、原料として用いる含塩素化合物とフッ素化剤に含まれる水分の他に、必要に応じて添加する成分である不活性ガス等に含まれる水分や、必要に応じて別個に添加する水分を加えた量である。
【0022】
水分の供給方法は任意であり、例えば、原料とする含塩素化合物に水分を含ませた状態で反応器に供給する方法、無水フッ化水素に予め水分を含ませた状態で反応器に供給する方法、原料とは別ラインで反応器に水を供給する方法、不活性ガスに水蒸気を同伴させて反応器に供給する方法など各種の方法を採用できる。
【0023】
反応系に存在する水分量は、原料とする含塩素化合物の全重量を基準として、50ppm程度以上であることが好ましく、100ppm程度以上であることがより好ましく、200ppm程度以上であることが更に好ましく、1000ppm以上であることが特に好ましい。水分量の上限については特に限定はないが、高い選択率で目的物が得られる点で、原料とする含塩素化合物の全重量を基準として10000ppm(1重量%)程度の水分量が好ましいが、これを上回る水分量とすると、設備の腐食や目的物と水分の分離の複雑さを回避できなくなる恐れがある。
【0024】
本発明では、原料化合物とフッ化水素との反応は、触媒の存在下又は不存在下において行うことができる。触媒の種類については、特に限定はなく、公知のフッ素化反応用触媒を用いることができる。
【0025】
本発明では、触媒の不存在下において反応を行うことが好ましい。触媒の不存在下において、前述した条件に従って、一定量以上の水分の存在下に反応を行うことによって、高い選択率で2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを得ることが可能となる。
【0026】
本発明方法で用いる反応器の形態は特に限定されるものではなく、触媒の存在下に反応を行う場合には、例えば、触媒を充填した管型の流通型反応器を用いればよい。また、触媒の不存在下に反応を行う場合には、例えば、空塔の断熱反応器やフッ化水素と出発物質との気相混合状態を向上させるための多孔質又は非多孔質の金属や媒体を充填した断熱反応器を用いればよい。また、熱媒体を用いて除熱・反応器内の温度分布を均一化した多管型反応器等を用いることもできる。空筒の反応器を使用する場合、内径の小さい反応管を用いて伝熱効率を良くする方法では、例えば、原料の流量と、反応管の内径の関係は、線速度が大きくかつ伝熱面積が大きくなるようにすることが好ましい。
【0027】
反応器は、ハステロイ(HASTELLOY)、インコネル(INCONEL)、モネル(MONEL)、インコロイ(INCOLLOY)等のフッ化水素の腐食作用に抵抗性がある材料によって構成されていることが好ましい。
【0028】
本発明方法では、反応器の中の温度は、通常、250〜600℃程度であり、300〜500℃程度が好ましく、350〜450℃程度がより好ましい。この温度範囲より高温になるとHCFO-1233xfの選択率が低下し、低温になると原料化合物の転化率が低下するので、温度が高すぎることや低すぎることは、いずれも好ましくない。尚、450℃より高温で反応を行うと、炭化物が生成して反応管壁や充填剤に付着・堆積する場合があり、反応器内を徐々に閉塞することがある。このような場合には反応系中に酸素を同伴するか、あるいはいったん反応を停止して酸素あるいは空気を流通させることで、反応管内に残存する炭化物を燃焼除去してもよい。
【0029】
反応時の圧力については、上記した原料化合物とフッ化水素が気相状態で存在できる圧力であれば特に限定されるものではなく、常圧下、加圧下、減圧下のいずれでもよい。例えば、本発明の製造方法は、減圧下又は大気圧(0.1MPa)下で実施することができ、原料が液体状態にならない程度の加圧下で実施することもできる。
【0030】
反応時間については特に限定的ではないが、通常、V/Foで表される接触時間を0.1〜100 sec、好ましくは1〜30 sec 程度の範囲とすればよい。ここで、V/Fo は、反応系に流す原料ガス(原料化合物、フッ化水素及び不活性ガス)の全流量Fo(0℃、1MPaでの流量:cc/sec)に対する気相での反応空間体積V(cc)の比率である。
【0031】
上記した反応条件によれば、反応器出口では、CF
3CCl=CH
2(2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、HCFO-1233xf)を含む反応生成物を得ることができる。HCFO-1233xfは、蒸留などによって精製して回収することができ、回収された生成物は、そのまま目的とする用途に用いても良いし、他の化合物へと変換してもよい。
【0032】
本発明の製造方法では、反応生成物中には、HCFO-1233xfの他に、CCl
2=CClCH
2Cl(HCO-1230xa)、CCl
3CCl=CH
2(HCO-1230xf)、CFCl
2CHClCH
2Cl(HCFC-241db)、CFCl
2CCl=CH
2(HCFO-1231xf)、CF
2ClCHClCH
2Cl(HCFC-242dc)、CF
2ClCCl=CH
2(HCFO-1232xf)等が含まれる。これらの化合物は、使用した原料の種類や反応条件に応じて、HCFO-1233xfの前駆体として生じるものであり、いずれも本発明の製造方法の原料としても使用できるものである。
【0033】
本発明の製造方法では、反応生成物に含まれるこれらの前駆体や未反応の原料、即ち、前記した一般式(1)、一般式(2)又は一般式(3)で表される含塩素化合物について、HCFO-1233xfを分離回収した後、再び反応器に戻してリサイクルして、原料化合物として再利用することができる。この様にHCFO-1233xfの前駆体や未反応の原料をリサイクルすることによって、原料転化率が低い場合であっても、高い生産性を維持することができる。