(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記フィルタのような共振現象を利用する電子部品では、良好な電気特性を得るために高いQ値(Quality factor)が求められる。
【0007】
ところが、近年の電子機器の小型薄型化の要請に伴い、これらを構成する電子部品に対する小型低背化の要求が強く、高いQ値を実現することが難しくなってきている。部品を小型低背化すればその分電極同士が近接しあるいはインダクタ導体を引き回すスペースが小さくならざるを得ず、共振器のQ値は一般に部品サイズと相反する関係にあるからである。
【0008】
一方、小型低背で良好な特性を実現するため、例えば共振器を構成する導体パターンの配置や形状など様々な工夫が従来からなされている。しかしながら、電子機器の多機能・高機能化の進展は著しく、これに対応可能な高Qを実現できる部品構造が今後も益々求められると考えられる。
【0009】
そこで、本発明は従来のように共振器自体を改良するのではなく、それらを接続する導体、特に配線層間を接続するスルーホールと言う新たな着眼点から高Qを実現する。なお、上記特許文献記載の発明はスルーホールに関するものではあるが、いずれもホール内に充填する導電ペーストの流入不足やバラツキによる接続不良を防ぐものであって、スルーホールと共振特性の関係を開示するものでも示唆するものでもない。
【0010】
したがって、本発明の目的は、積層型電子部品において共振器のQ値を高め、これにより当該電子部品の電気的特性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決し目的を達成するため、本発明に係る積層型電子部品は、第一配線層および第二配線層を含む2層以上の配線層と、前記第一配線層と前記第二配線層の間に介在された絶縁層と、前記絶縁層を貫通して前記第一配線層に備えられた第一導体と前記第二配線層に備えられた第二導体とを電気的に接続する貫通導体とを備えた積層型電子部品であって、前記貫通導体は、前記第一導体との接続部である一端部に、前記第一導体に向かうにつれ径が大きくなった拡径部を有する。
【0012】
本発明に係る電子部品は、絶縁層により互いに絶縁された異なる配線層に配置された第一導体と第二導体とを電気的に接続する貫通導体を有するが、この貫通導体の一端部に拡径部を備えている。この拡径部は、当該貫通導体が接続される第一導体に向かって次第に径が大きくなるテーパー状の形状を有する。
【0013】
本願発明者は、共振器を構成する導体パターンの配置や形状等に関する従来から行われている共振器自体の改良に囚われず、配線層間を接続する貫通導体に着目して検討を重ねる中で本願発明を完成するに至った。すなわち、フィルタ内に設けられる貫通導体の端部形状を上記のようにテーパー状にするとQ値が向上することを本発明者は見出した。この詳細については、シミュレーション結果に基づいて後の実施の形態の説明においてさらに述べる。
【0014】
また上記のような拡径部は、貫通導体の一端部だけなく他端部にも備えることが望ましい。したがって本発明の一態様では、前記貫通導体が、前記第二導体との接続部である他端部に、前記第二導体に向かうにつれ径が大きくなった拡径部をさらに有する。
【0015】
上記貫通導体は、絶縁層を貫通する貫通孔に充填された導電材料からなること、すなわちホール内に導電材料が充填された所謂フィルドビアとすることが好ましい。当該貫通導体における電気抵抗を小さくするとともに、積層体内部に空洞が存在すると後の加熱工程(例えばリフロー工程)における熱膨張によって積層体にクラックが生じて当該電子部品の機械的強度が低下するおそれがあるからである。貫通孔に導電材料が充填された貫通導体とすることによりこのような不具合の発生を防ぎ、当該電子部品の信頼性を向上させることが出来る。なお、このような貫通導体は、端部に上記拡径部を備えるように積層体内に形成した貫通孔内に例えば導電性ペーストを充填することにより、あるいは、めっき金属を析出させること等により形成することが可能である。
【0016】
本発明の典型的な構成例として上記積層型電子部品は、1以上の共振器又はインダクタを含み、この共振器又はインダクタに上記貫通導体が接続されている。なお、本発明に言う貫通導体は、必ずしも共振器又はインダクタに直接接続されているものに限定されず、例えば入力キャパシタや出力キャパシタ等の他の回路要素を介して間接的に共振器やインダクタに接続されたものであっても良いし、共振器やインダクタ以外の導体同士(例えば入力端子電極や出力端子電極、グランド電極など)を接続するものであっても構わない。
【0017】
また、本発明に言う電子部品は、例えばチップフィルタやチップインダクタのように単一の機能を備えた単体部品(所謂チップ部品)に限られず、例えば無線LANモジュールや携帯通信端末のフロントエンドモジュールのような積層基板内に複数の電気的機能素子を備えた電子モジュールを含むものである。また、電子部品の種類についても、バンドパスフィルタ、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、デュプレクサ、ダイプレクサ等のフィルタ類に限られず、VCO(電圧制御発振器)等の発振器やミキサなど、電気特性として高いQ値が要求される各種の電子部品やモジュールを含む。
【0018】
なお、本発明の特徴である前記拡径部の形状について別の表現をすれば、第一導体(又は第二導体)との接続面に向け広がった円錐台状の接続部、あるいは逆に第一導体(又は第二導体)側から見た場合には、貫通導体の中間部に向け径が次第に小さくなったすり鉢状の接続部と言うことも出来る。
【0019】
また本発明の好ましい一態様は、次のような構造を有する。
前記貫通導体は、直径が略一定の中間部と、円錐台状の前記拡径部とを備え、当該拡径部は、前記中間部から連続して備えられて当該中間部との接続面である一端面の直径が当該中間部の直径と略同一で、かつ他端面が前記一端面より大きな直径を有し、前記中間部の直径をH、前記拡径部の他端面の直径をP、拡径部の高さをLとしたときに、Pが略(2L+H)である。後の実施形態の説明において明らかにするが、拡径部の形状についてこのような構造を採用すればQ値をより向上させることが出来る。
【0020】
本発明に係る積層型電子部品の製造方法は、上記のような拡径部を有し、異なる配線層に配置した導電膜同士を電気的に接続する貫通導体を備えた積層型電子部品を製造する方法である。
【0021】
具体的には、第一の製造方法は、上記拡径部を形成した後にセラミックグリーンシートを積層するもので、第一のセラミックグリーンシートに一方の面から他方の面に向け次第に径が小さくなったテーパー状の貫通孔を形成する工程と、第二のセラミックグリーンシートに一方の面から他方の面に向け次第に径が小さくなったテーパー状の貫通孔を形成する工程と、前記第一のセラミックグリーンシートの前記貫通孔に導電材料を充填することにより前記貫通導体の一端部を形成する工程と、前記第二のセラミックグリーンシートの前記貫通孔に導電材料を充填することにより前記貫通導体の他端部を形成する工程と、前記貫通導体の一端部と電気的に接続されるように第一の導電膜を前記第一のセラミックグリーンシートの前記一方の面に配する工程と、前記貫通導体の他端部と電気的に接続されるように第二の導電膜を前記第二のセラミックグリーンシートの前記一方の面に配する工程と、前記第一のセラミックグリーンシートの他方の面と、前記第二のセラミックグリーンシートの一方の面が対向するように、前記第一のセラミックグリーンシートおよび前記第二のセラミックグリーンシートを含む複数のセラミックグリーンシートを積層する工程とを含む。
【0022】
なお、上記第一の製造方法では、第一のセラミックグリーンシートと第二のセラミックグリーンシートに間には他のセラミックグリーンシートが介在されていて良く、このような構造を採る場合には、貫通導体の一端部と他端部との間に、当該他のセラミックグリーンシートによって形成された貫通導体の中間部が備えられ、これら貫通導体の一端部と中間部と他端部とにより当該貫通導体が構成されることとなる。
【0023】
また、第一のセラミックグリーンシートの上記一方の面側、ならびに第二のセラミックグリーンシートの一方の面側にも他のセラミックグリーンシートが積層されて良い。さらに、第一のセラミックグリーンシートの上記一方の面には、貫通導体の一端部に電気的に接続するように第一導体を、また第二のセラミックグリーンシートの上記一方の面には、貫通導体の他端部に電気的に接続するように第二導体をそれぞれ配する。
【0024】
また、上記第一の製造方法の好ましい態様では、第一のセラミックグリーンシートに形成する貫通孔の他方の面側の径と、第二のセラミックグリーンシートに形成する貫通孔の他方の面側の径とが略等しく、当該製造方法がさらに、第一のセラミックグリーンシートに形成する貫通孔の他方の面側の径および第二のセラミックグリーンシートに形成する貫通孔の他方の面側の径と略等しい径の貫通孔を1枚以上の第三のセラミックグリーンシートの各々に形成する工程と、当該1枚以上の第三のセラミックグリーンシートに形成した貫通孔に導電材料を充填することにより前記貫通導体の1つ以上の中間部を各第三のセラミックグリーンシートに形成する工程とを含み、前記複数のセラミックグリーンシートを積層する工程は、第一のセラミックグリーンシートと第二のセラミックグリーンシートとの間に前記1枚以上の第三のセラミックグリーンシートが介在されかつ前記貫通導体の1つ以上の中間部が互いに電気的に接続されかつ当該貫通導体の1つ以上の中間部の一方の端部が前記貫通導体の一端部と電気的に接続されかつ当該貫通導体の1つ以上の中間部の他方の端部が前記貫通導体の他端部と電気的に接続されるように、前記第一のセラミックグリーンシート、前記第三のセラミックグリーンシートおよび前記第二のセラミックグリーンシートを含む複数のセラミックグリーンシートを積層する。
【0025】
また本発明に係る第二の製造方法は、複数枚のセラミックグリーンシートを積層した後に上記拡径部を形成するものである。
【0026】
具体的にはこの第二の製造方法は、異なる配線層に配置した導電膜同士を電気的に接続する貫通導体を備えた積層型電子部品を製造する方法であって、2枚以上のセラミックグリーンシートを積層して積層シートを作製する工程と、当該積層シートに貫通導体を形成するための貫通孔を穿設する工程と、前記貫通孔の一端から前記貫通孔の中間部に向かうにつれ次第に径が小さくなるように前記貫通孔の一端部をテーパー状に加工する工程と、前記貫通孔の他端から前記貫通孔の中間部に向かうにつれ次第に径が小さくなるように前記貫通孔の他端部をテーパー状に加工する工程と、前記貫通孔に導電材料を充填して前記貫通導体を形成する工程と、当該貫通導体の一端部と電気的に接続するように第一の導電膜を配する工程と、当該貫通導体の他端部と電気的に接続するように第二の導電膜を配する工程とを含む。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、積層型電子部品において共振器のQ値を高め、これにより当該電子部品の電気的特性を向上させることが出来る。
【0028】
本発明の他の目的、特徴および利点は、図面に基づいて述べる以下の本発明の実施の形態の説明により明らかにする。なお、本発明は下記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内で種々の変更を行うことができることは当業者に明らかである。また各図中、同一の符号は、同一又は相当部分を示す。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る積層型電子部品を透視状態で模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、前記実施形態に係る積層型電子部品(実施形態1)を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、前記実施形態に係る積層型電子部品の別の構造(実施形態2)を示す断面図である。
【
図4】
図4は、前記実施形態との比較例(比較例1)に係る積層型電子部品の構造を示す断面図である。
【
図5】
図5は、前記実施形態との比較例(比較例2,3)に係る積層型電子部品の構造を示す断面図である。
【
図6】
図6は、前記実施形態との比較例(比較例4,5)に係る積層型電子部品の構造を示す断面図である。
【
図7】
図7は、前記実施形態及び比較例におけるスルーホール各部の寸法及びQ値の算出結果を示すものである。
【
図8】
図8は、拡径部の形状(径の広がりの度合い)がQ値に与える影響について検討を行った結果を示すものである。
【
図9】
図9は、拡径部の形状(径の広がりの度合い)がQ値に与える影響を示す線図である。
【
図10】
図10は、前記実施形態の拡径部を拡大して示す図である。
【
図11】
図11は、拡径部下端の直径Pと角α及び角βとの関係を、拡径部下端の直径PとQ値との関係と共に示すものである。
【
図12】
図12は、拡径部下端の直径Pと角α及び角βとの関係を、拡径部下端の直径PとQ値との関係と共に示す線図である。
【
図14】
図14は、拡径部の斜面の傾斜を段階的に変えた場合の影響について検討を行った結果を示すものである。
【
図15】
図15は、前記実施形態に係る積層型電子部品を製造する第一の方法の一工程(スルーホールの上側拡径部を形成する工程)を示す図である。
【
図16】
図16は、前記実施形態に係る積層型電子部品を製造する第一の方法の一工程(スルーホールの上側拡径部を形成する工程)を示す図である。
【
図17】
図17は、前記実施形態に係る積層型電子部品を製造する第一の方法の一工程(スルーホールの上側拡径部を形成する工程)を示す図である。
【
図18】
図18は、前記実施形態に係る積層型電子部品を製造する第一の方法の一工程(スルーホールの上側拡径部を形成する工程)を示す図である。
【
図19】
図19は、前記実施形態に係る積層型電子部品を製造する第一の方法の一工程(スルーホールの下側拡径部を形成する工程)を示す図である。
【
図20】
図20は、前記実施形態に係る積層型電子部品を製造する第一の方法の一工程(スルーホールの下側拡径部を形成する工程)を示す図である。
【
図21】
図21は、前記実施形態に係る積層型電子部品を製造する第一の方法の一工程(スルーホールの下側拡径部を形成する工程)を示す図である。
【
図22】
図22は、前記実施形態に係る積層型電子部品を製造する第一の方法の一工程(スルーホールの中間部を形成する工程)を示す図である。
【
図23】
図23は、前記実施形態に係る積層型電子部品を製造する第一の方法の一工程(スルーホールの中間部を形成する工程)を示す図である。
【
図24】
図24は、前記実施形態に係る積層型電子部品を製造する第一の方法の一工程(シートの積層工程)を示す図である。
【
図25】
図25は、前記実施形態に係る積層型電子部品を製造する第一の方法の一工程(シートの積層状態)を示す図である。
【
図26】
図26は、前記実施形態に係る積層型電子部品を製造する第二の方法の一工程(シートの積層状態)を示す図である。
【
図27】
図27は、前記実施形態に係る積層型電子部品を製造する第二の方法の一工程(スルーホール用の貫通孔を形成する工程)を示す図である。
【
図28】
図28は、前記実施形態に係る積層型電子部品を製造する第二の方法の一工程(スルーホール用の貫通孔をテーパー加工する工程)を示す図である。
【
図29】
図29は、前記実施形態に係る積層型電子部品を製造する第二の方法の一工程(スルーホールの形成状態)を示す図である。
【
図30】
図30は、前記実施形態に係る積層型電子部品を製造する第二の方法の一工程(シートの積層工程)を示す図である。
【
図31】
図31は、前記実施形態に係る積層型電子部品を製造する第二の方法の一工程(シートの積層状態)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1から
図2に示すように、本発明の一実施形態に係る積層型電子部品11は、セラミック積層体12の内部に共振器13を備えたチップフィルタである。積層体12は複数枚のセラミックグリーンシート21a〜21k(以下単に「シート」と言うことがある)を積層したもので、これらシート21a〜21kの表面に形成した複数の内部配線層を有する。共振器13は、積層体12の上部配線層に配置し、積層体12の下部配線層に配した電極14とスルーホール15を介して電気的に接続されている。
【0031】
なお、上記電極14の下層にはグランド電極16を、積層体12の周面には側面端子電極17,18をそれぞれ設けてある。また、これら
図1、
図2及び以降の図においては、積層体12内に1つの共振器13とこれに接続されるスルーホール15及び電極14,16,17のみを示しているが、これらのほかにも共振器や電極、端子等(図示せず)を当該電子部品は有する。また、積層体12の配線層の数(セラミックグリーンシートの積層枚数)は、図示の例に限定されるものではなく、これより多くても良いし少ない場合もある。
【0032】
共振器13に接続されたスルーホール15は、複数枚のシート(絶縁層)を貫通する貫通孔の内部に充填した導電材料(導電ペースト)によって形成し、一定の太さ(直径)を有する円柱状の中間部15aと、当該中間部15aの下端から下方に向け次第に直径が広がった円錐台状の(台形状の断面形状を有する)下側拡径部15bと、当該中間部15aの上端から上方に向け次第に直径が広がった逆円錐台状の(逆台形状の断面形状を有する)上側拡径部15cとを有する。
【0033】
なお、当該チップフィルタ11に内蔵する他の電極同士(他の共振器や入出力端子電極、グランド電極等/これらは図示せず)を接続するスルーホールについても、上記スルーホール15と同様に円錐台状ないし逆円錐台状の拡径部15b,15cを両端に備えることが各共振器のQ値を高め、当該フィルタ11の電気特性を向上させる点で好ましい。
【0034】
〔スルーホールの形状のQ値への影響〕
スルーホールの形状が共振器のQ値に与える影響について検討を行った。
具体的には、前記
図2に示した本実施形態の構造(実施形態1と言う)と、
図3に示すように下端部にのみ前記実施形態1と同様の拡径部15bを形成した構造(実施形態2と言う)と、比較例1として
図4に示すように太さ(直径)が一定の円柱状の構造と、比較例2として
図5に示すように下端部を下方に向け先細りに尖ったテーパー状に形成した(同図の符号15dで示す部分)構造と、比較例3として比較例2と同様に下端部を下方に向け先細りに尖ったテーパー状に形成するが当該テーパー状の下端部の先端(下端)が比較例2より太い構造と、比較例4として
図6に示すように円柱状の中間部15aの下端に円錐台状の下端部15eを備えているが、この下端部15eの下端は中間部15aの太さと等しく、中間部15aとの接続面である当該下端部15eの上端が中間部15aより細くなった構造と、比較例5として比較例4と同様に円錐台状の下端部15eを備えているが当該円錐台状の下端部15eの上端が比較例4より太い構造についてシミュレーションによりQ値の算出を行った。
【0035】
なお、スルーホール15の全高さ寸法(上端から下端までの長さ)はいずれも650μmであり、径を変える加工を施した端部(拡径部等15b,15d,15e)の高さ寸法はいずれも40μmである。また、比較例2におけるテーパー状下端部の先端(下端)の直径は50μm、比較例3のテーパー状下端部の先端(下端)の直径は80μm、比較例4の円錐台状の下端部15eの上端の直径は50μm、比較例5の円錐台状の下端部15eの上端の直径は80μmである。
【0036】
結果は
図7に示すとおりで、これから明らかなように本実施形態(実施形態1,2)によれば、単純な円柱形状を有する従来のスルーホール(比較例1)ならびに比較例2〜5と比べて高いQ値が得られることが分かる。なお、スルーホールの一端部のみに拡径部を設けた実施形態2(
図3)によっても従来構造(比較例1)や他の比較例2〜5より高いQ値が得られるが、より高いQ値を得るためには拡径部を両端に設ける実施形態1によることが望ましい。
【0037】
異なる配線層に配置した導体同士を接続するため従来から使用されている貫通導体は、当該電子部品の機械的な信頼性を確保する観点、すなわち、焼成時や実装基板へのリフロー実装時あるいはユーザによる経年使用時に貫通導体と絶縁層との熱膨張率差によって当該電子部品にクラックが発生することを防ぎ機械強度を確保する観点からは、その径(太さ)は出来るだけ小さい(細い)ことが好ましい。一方、電気抵抗を下げQ値を高めて電気的特性を向上させる観点からは、当該貫通導体の径は大きいほど良い。本発明および本実施形態に係る貫通導体は、このような部品の信頼性と電気特性の双方の要求を巧みに満足させることが出来る導体構造である。
【0038】
さらに、拡径部の形状(径の広がりの度合い)がQ値に与える影響について検討を行った。具体的には、前記
図3に示した実施形態2の構造において、電極14との接続面となる拡径部15bの底面(下面)の直径を様々に変えてQ値を算出した。すなわち、
図8の表に示すように、拡径部15bの底面(下端)の直径を、100から500μmまで変化させた。当該円錐台状の拡径部15bは、下端の直径が大きくなるほど下方に大きく広がった周面がなだらかな形状となる。なお、当該下端の直径が100μmのときは、前記
図4に示した比較例1の構造と同一となり、200μmのときが前記
図3に示した実施形態2の構造となる。
【0039】
結果は、
図8の最下欄及び
図9に示すとおりである。これらの図から明らかなように、拡径部下端を単に広げれば良いと言うものではない。そこで、拡径部の形状に関する最適条件を求めるべくさらに検討を行った。
【0040】
図10に示すように、スルーホール中間部15aの直径をH、拡径部15bの底面の直径をP、拡径部15bの高さをL、拡径部15bの底面と拡径部15bの周面(円錐台斜面)とがなす角をθ、拡径部15bの周面と電極14とがなす角をα、拡径部15bの周面とスルーホール中間部15aの周面とがなす角をβとする。また
図11〜
図12は、拡径部下端の直径Pと角α及び角βとの関係を、拡径部下端の直径PとQ値との関係(前記
図9に示したシミュレーション結果)と共に示す線図であり、α(一点鎖線)とβ(破線)はトレードオフの関係にある。
【0043】
ここで、tanθ=L/{(P−H)/2}であるから、上記式1は次式のとおりとなる。
【0044】
α=π−[arctan{2L/(P−H)}] …(式2)
【0045】
また、αとβの関係は、下記式3のとおりである。
【0047】
図11〜
図12から分かるようにα=βのとき概ねQ値が最大となるから、このときαとβは次のとおりとなる。尚このとき、θ=π/4である。
【0049】
したがって、上記式2及び式4から下記式5が得られ、Q値を最大にするためには拡径部下端の直径Pを(2L+H)程度とすることが好ましい。
【0051】
さらに、拡径部の斜面の傾斜を段階的に変えたスルーホールについて検討を行った。具体的には、
図13に示すように下側拡径部15bを2段階に、すなわち、スルーホール中間部15aの下端から下方へ延びる第一拡径部15b1と、この第一拡径部の下端から更に下方へ延びて電極14に接続する第二拡径部15b2とにより構成した(この構造を実施形態3−1とする)。
【0052】
ここで、
図14に示すように当該実施形態3−1は、第一拡径部15b1の下端(底面)の直径を300μm(第二拡径部15b2の上端の直径も同じ300μm)、第二拡径部15b2の下端(底面)の直径を500μmとした。また、この実施形態3−1と同様に、下側拡径部15bを第一拡径部15b1と第二拡径部15b2とにより構成するが、第一拡径部15b1の下端(底面)の直径を200μmとしたもの(実施形態3−2)、並びに、下側拡径部15bを4段階に、すなわち、スルーホール中間部15aの下端から電極14に向け順に形成した第一拡径部、第二拡径部、第三拡径部及び第四拡径部により形成し、これら第一から第四拡径部の各下端の直径を順に110μm、150μm、250μm及び500μmと広くして行った構造(実施形態3−3)についてQ値を算出した。なお、これら実施形態3−1から3−3における下側拡径部は、いずれもセラミックグリーンシート2層の厚さに亘って形成している。
【0053】
結果は
図14の表に示すとおりであり、上記のように拡径部の周面を段階的に変えた場合にも略同程度の良好なQ値が得られることが分かった。
【0054】
〔第1製造方法〕
図15から
図25に基づいて前記実施形態に係る電子部品を製造する第一の方法について述べる。
【0055】
図15に示すようにセラミックグリーンシート21dを用意し、
図16に示すようにこのシート21dの所定位置(スルーホール15を形成すべき位置)に上面側の直径が大きく下面側の直径が小さいテーパー状の内周面を有する貫通孔25cを形成する。このようなテーパー状の貫通孔25cは、レーザを使用することにより形成が可能で、レーザの強度および照射時間を調整することによりレーザを照射する側の径が大きく反対側の径が小さくなるように孔開けを行うことが出来る。
【0056】
なお、機械的な加工、例えば先端が逆円錐台状に細くなったポンチ(押込パンチ)によって貫通孔の端部を斜めに広げる等によってもこのようなテーパー状の貫通孔25cを形成することは可能である。また本実施形態では、支持フィルム(PETフィルム)20を備えたセラミックグリーンシートを使用するが、このような支持フィルム20を備えないシートを使用しても良い。
【0057】
上記テーパー状の孔25cを開けた後、
図17に示すように当該貫通孔25cに導電ペーストを充填することにより上側拡径部15cを形成するとともに、
図18に示すようにこの上側拡径部15cと電気的に接続するようにシート21dの表面に前記共振器13を構成する導体膜13aを形成する。
【0058】
一方、下側拡径部15bを形成するため、
図19に示すように同様のセラミックグリーンシート21iを用意し、
図20に示すように前記上側拡径部15cを形成した場合とは逆に、支持シート20側(同図の上側)からレーザを照射して前記
図16に示したシート21dと同様にかつ支持シート20側からすり鉢状の貫通孔25bを形成する。そしてこの貫通孔25bに
図21に示すように導電ペーストを充填することにより下側拡径部15bを形成する。
【0059】
さらに
図22に示すようにスルーホール15の中間部15aを形成すべきシート21e(21f〜21h)に対して、径が一定の垂直な貫通孔25aを開ける。この貫通孔25aは、機械的な孔開け加工、好ましくは雄型と雌型とでシートを挟んで孔開けを行う所謂パンチング(打抜き加工)によることが好ましい。ドリルによって当該孔開けを行うことも可能であるが、パンチングによれば短時間で削りかすを殆ど発生させずに加工できるからである。そして、
図23に示すように当該貫通孔25aにも導電ペーストを充填してスルーホール15の中間部15aを形成する。
【0060】
このようにしてスルーホールの上側拡径部15c、下側拡径部15bおよび中間部15aを該当するシート21d〜21iに形成した後、
図24〜
図25に示すようにこれらのシート21d〜21iを位置合わせして重ね、加熱しつつ圧着して積層シートを作製する。
【0061】
尚このとき、下側拡径部15bを含むシート21i(
図21のシート)は、前記
図21に示した状態から表裏を反転させて積層を行う。また積層時には、各シート21d〜21i(シート21jも同様)に備えられている支持フィルム20を剥離し取り除く。さらに、下側拡径部15bを含むシート21iの下面には当該下側拡径部15bと電気的に接続するように形成した導電膜14を表面に備えるシート21jを積層する。また、当該導電膜14を備えたシート21jの下面、ならびに上側拡径部15cを含むシート21dの上面には、前記
図2に示したシート21a〜21c及びグランド電極16を表面に備えたシート21kを含め更にシート(図示せず)を適宜積層して良い。
【0062】
また、図では1つの電子部品(フィルタ)11に相当する部分を示しているが、本製造方法および次に述べる第二の製造方法は共に複数個のチップ11を集合状態で同時に形成するものであり、上記シート21a〜21kの積層によって複数のフィルタ11が同時に形成される。そして積層後には、当該シートを切断して個々のチップ11に分割し、焼成を行う。
【0063】
〔第2製造方法〕
図26から
図31に基づいて前記実施形態に係る電子部品を製造する第二の方法について説明する。前記第一の製造方法では、スルーホール15に関連する各シート21d〜21iについて積層前に予めスルーホール(スルーホールの構成部分15a,15b,15c)を形成したが、この第二の製造方法ではスルーホール15を形成すべきシート21d〜21iを積層した後に本発明の特徴であるスルーホール両端部のテーパー加工を施す。
【0064】
具体的には、
図26に示す複数枚のセラミックグリーンシート21d〜21iを積層した積層シート12aに対して、スルーホール形成用の貫通孔25を開ける(
図27参照)。この孔開けは、前記第一の製造方法と同様にパンチング(打抜き加工)によれば良い。次に、当該形成した貫通孔25の両端部25b,25cに対して
図28に示すようにテーパー加工を行う。すなわち、当該貫通孔25の上面側の開口部25cと、下面側の開口部25bとにそれぞれレーザ光を照射することによりこれら開口部(縁部)25b,25cをテーパー状に加工する。なお、このテーパー加工は、前記第一の製造方法において述べたのと同様に機械的な加工(例えば押込パンチにより貫通孔25の端部をテーパー状に広げる)によることも可能である。
【0065】
そして、
図29に示すように当該上記貫通孔25に導電ペーストを充填してスルーホール15を形成するとともに、
図30〜
図31に示すように当該スルーホール15の上端部(上側拡径部)15cに電気的に接続するように導体パターン(導電膜)13aを形成する。また、当該スルーホール15の下端部(下側拡径部)15bに電気的に接続するように導電膜14を備える。下側拡径部15bに接続する導電膜14は、例えば表面に当該導電膜14を備えたセラミックグリーンシート21jを更に積層すれば良い。また図示したうちの最下層のシート21jの更に下面、ならびに図示したうちの最上層のシート21dの更に上面には、前記第一の製造方法で述べたのと同様に導体パターンを適宜備えたセラミックグリーンシートをそれぞれ更に積層して良い。