特許第5773230号(P5773230)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5773230ポリエステル系樹脂組成物の熱成形材料及び成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5773230
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】ポリエステル系樹脂組成物の熱成形材料及び成形品
(51)【国際特許分類】
   B29C 51/00 20060101AFI20150813BHJP
   C08L 23/02 20060101ALI20150813BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20150813BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20150813BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   B29C51/00
   C08L23/02
   C08L23/26
   C08J5/18CES
   C08J5/18CFD
   C08L67/00
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-191475(P2014-191475)
(22)【出願日】2014年9月19日
(62)【分割の表示】特願2011-266376(P2011-266376)の分割
【原出願日】2011年12月6日
(65)【公開番号】特開2014-237852(P2014-237852A)
(43)【公開日】2014年12月18日
【審査請求日】2014年10月2日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500044755
【氏名又は名称】福村 三樹郎
(72)【発明者】
【氏名】福村 三樹郎
【審査官】 今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−276080(JP,A)
【文献】 特開昭59−062660(JP,A)
【文献】 特開平11−106625(JP,A)
【文献】 特開平01−272659(JP,A)
【文献】 特開平06−217881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 51/00
C08J 5/18
C08L 23/02
C08L 23/26
C08L 67/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶化核剤として少なくともポリオレフィン系樹脂を1〜15重量%含むポリエステル系樹脂組成物のシートの平面の少なくとも1方向を1.3〜5倍に延伸し、そのまま冷却固定して得られた厚み0.1〜2.0mmのシート状のものを用い賦形およびシート予熱温度以上の高温の熱処理を行うことにより、白化して不透明な延伸結晶化成形品を高速に熱成形する方法。
【請求項2】
組成物の中に、エラストマー成分を含むことを特徴とする請求項1に記載の熱成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル系樹脂組成物のシート又はフイルムを用いた熱成型品の製造方法に関るものであり、特に熱成形中に熱処理を行って結晶化を進行させ耐熱性、機械強度等の特性の高い熱成形品を高速で効率よく製造することに関する。
【背景技術】
【0002】
通常のポリエステル系樹脂の1つであるポリエチレンテレフタレートは結晶性の樹脂であり、ポリエチレンテレフタレートに無機系粒子、あるいは有機化合物の結晶化核剤を加えることにより加熱時の結晶化を促進させることができる。 結晶化核剤を添加したポリエチレンテレフタレート系樹脂シートを用い、結晶熱成形中に結晶化を進め、耐熱性あるいは剛性の向上した成形品を製造する方法は古くから知られている。そしてその実用化もなされている。
しかし、それでも熱処理時に長い時間がかかり、能率よく成形を行うために、賦形体を別の型などに移しかえたりする工夫も行われているが、改善は不十分であり、又煩雑であり、現在に至るもその広い普及は妨げられている。
又、結晶化された成形品は脆く割れやすくなり、特低温の耐衝撃性が低下するのでその改善も行われてきたが十分とは云えない。
またシート予熱時のサグ(垂れ下がり)、熱処理金型への固着、成形時のシワの発生、成形型等から傷移りなどが問題となり、これを避けようとする煩雑な装置や方法も考えられてきたが、その改善は十分とはいえない。
【0003】
(1)核剤を添加して結晶化促進するCPET成形法は、過去に多数の出願があり、結晶化核剤として多数の無機系化合物、有機系化合物あるいは高分子化合物を用いる方法が知られている。
特開2001−172410号 (特許第3573267号)あるいは特開平1−272659号には、ポリオレフィン樹脂、あるいは変性ポリオレフィン樹脂を結晶化核剤として用いCPET成形品が得られることが示されている。しかし、こうした結晶化核剤を利用しても、これらの実施例が示す如く熱処理に長い時間を要している。 そして又、こうして結晶化された成形品には脆くなり、耐衝撃性が低下するという問題がある。
(2)こうした耐衝撃性を改善するために、特開2000−355091号、特開2000−297162号、あるいは特開平11−106625号は結晶化核剤に加えてエラストマー成分を加える方法を開示している。しかし、このようにしても脆さの改善ままだ不十分である。そして、予熱時のシートの垂れ下がり、高温金型での固着が益々問題なっている。又、予熱の加熱板や金型の傷、真空気孔、仕上がり等の跡移りで成形品品質を下げている。なお、熱処理成形時間も依然として長いことはその実施例も示している。
(3)予熱時のシートの垂れ下がり(サグ)は、賦形時にシワが発生するなどして不都合である。この場合、予熱時のシートの垂れ下がり(サグ)が発生しない、熱板に接触させて行う予熱法を採用してもよさそうであるが、この場合加熱板の傷、空気孔、仕上げ等の転写が発生し、特に上記(2)のような材料ではそれが強く顕れやすい。特許4057487号の開示する方法は、結晶性樹脂の熱成形に関し、加熱板に接触させて予熱されたシートを、加熱板を通過する高温空気と成形金型にて圧空賦形し、次いで別に準備した冷却空気噴射の手段を運び込んで冷却するものであるが、この高温空気が加熱板の温度不均一を招き、又噴射口跡を賦形体に残すなど不都合が多い。
また特許4044876号の開示は、シート予熱時にサグ(加熱時のシートの垂れ下がり)が問題となりやすい樹脂材料の熱成形に関するもので、加温された弱い空気の圧力でシートを下支えしながら加熱する装置である。このような装置を用いることも煩雑で費用がかかる。
(4)熱処理を伴う成形を高速で能率よく行う方法として、複数の金型、あるいは雌雄型を用い、賦形体を移動させる方法で、成形サイクルの短縮や、成形品の品質改善を行う方法が提案されている。特開平4−85019号は賦形体を直列に並べた別金型に移動させることにより成形サイクルの短縮をはかっている。特公平7−102608号、特開平11−1291337、特許2532730号は雌雄金型を用い、雌雄いずれかの加熱型から、他の冷却型に賦形体を移動させる方法を用いている。賦形体の移動に際しては、成形品の変形、位置ずれ、シワ、タルミ等の発生が問題となりやすく、特に雌雄型の場合は、賦形体の部位による厚み違いや寸法収縮が原因でシワ、歪み等が発生しやすいことが問題である。なお、雌雄嵌合型の場合オフセットやアンダーカットのある成形品には適用し難い欠点もある。
なお、CPETの成形を最初から高温の金型で成形すると、金型面で成形材料の滑りが悪いため波や凹凸などの不均一模様が出やすいというような問題があり、これを避けるために最初低温金型で成形し高温金型に移行するプロセスも知られているが、これもやはり煩雑である。
(5)金型への固着等の問題への対処として、特開2001−260215号
は、予熱によりある程度まで結晶化の進んだPETシートを成形に用いる方法を提案している。この方法では結晶化が進み過ぎると成形性が低下し、結晶化が足りないと金型への固着問題が改善しないとしているが、両問題は二律背反で両者をよくするなかなか難しい。なお、この方法はこの出願のみでなく、公知の方法の中で以前か実質的に実施されているものと思われる。例えば特開平4−3456号の実施例では予熱時間45、モールド時間8秒で成形を行っており、長い予熱時間中にかなりの結晶化が進んでいるものと思われる。
(6)結晶化核剤を用いない別途の方法も数々提案されてきている。例えば、
特公昭60−031651号は特定のポリエステル延伸シートを熱成形し熱処理する方法で、加熱された金型で成形することは示されている。ここでは触れられていないが、延伸シートを用いる方法では、離型時に賦形体はある程度冷却される事が必須であり、冷却されていないと離型時に収縮変形してしまうので、上記のCPETように、冷却工程なしにすることは出来ない。又上記CPET程の高度の耐熱性は得られない。
(7)本発明の発明者(以下本発明者と称する)は本発明に多少とも関わりの先行出願を行っている。これらに関しては、本文中の関連箇所で適宜紹介して説明することとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−172410公報(特許第3573267号)
【特許文献2】特開平1−272659公報
【特許文献3】特開2000−355091公報
【特許文献4】特開2000−297162公報
【特許文献5】特開平11−106625公報
【特許文献6】特許4044876公報
【特許文献7】特開平4−85019公報(特許2532730号)
【特許文献8】特公平7−102608公報(特許2141026号)
【特許文献9】特開平11−1291337公報
【特許文献10】特許2532730公報
【特許文献11】特開2001−260215公報
【特許文献12】特開平4−3456公報
【特許文献13】特公昭60−031651公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような従来技術の問題点に鑑みてなされたものである。その主な目的は、ポリエステル系樹脂シートから結晶化されて耐熱性の向上した熱成形品を製造する方法において、脆性、外的美観等の向上した熱成形品を得、賦形体の加熱結晶化を伴う成形を高速で効率よく行うことのできる成形材料を提供しようとするものである。
【0006】
(1)結晶化核剤として少なくともポリオレフィン系樹脂を1〜8重量%含むポリエステル系樹脂組成物のシートの平面の少なくとも1方向を1.3〜5倍に延伸して得られたシート状で、本質的に白化した成形品となる熱成形材料を提供するものである。
なお、上記の延伸は一軸延伸であることが好ましい。また熱処理固定をしてあってもよく、してなくても良いが後者はより好ましい。
【0007】
(2)組成物の中に、エラストマー成分を含むことを特徴とする上記(1)に記載の熱成形方法を提供する。
なお、上記エラストマー成分は柔軟化成分を意味する。
【0008】
本発明においては、「成形」は予熱から離型までの成形工程全体を示し、また「賦形」は成形工程の中の1つの工程を示し、「賦形体」は、成形型に保持された状態にある離型前の成形品を示すものとする。
【発明の効果】
【0009】
本考案の熱成形材料には下記のような効用がある。
1)CPET成形に必要とされてきた特別な機構を有しない通常の熱成形機を用いて、容易にそして有効且つ能率的に熱処理して結晶化できるポリエステル系樹脂の熱成形材料を提供する。
2)上記材料を熱成形に用いた場合、シート予熱時のサグ(垂れ下がり)がなく、又成形型への固着がなく、シワ等が発生し難い。又高成形型の傷や真空孔マーク等を写し取ることがなく、光沢のあるきれいな成形品が得られる。
3)CPET成形に必要とされてきた特別な機構を有しない通常の熱成形機を用いて、容易にそして有効且つ高速で熱処理して結晶化したポリエチレンテレフタレートの熱成形品の製造方法を提供する。
4)上記の熱成形材料は、熱処理昇温に時間のかかる方法を利用しなくてもよく、加熱された成形型を利用するのみで、賦形体を高速で短時間に結晶化を進行させ、成形品の耐熱性、剛性等を向上させることができる。
5)新規の特定の成形型を用いて、より安定に能率的に熱処理されたCPETの成形方法を提供する。
6)剛性の向上により成形材料の薄肉化ができ、通常成形なみの高速成形ができることにより、市場の多くの結晶化を行わない通常成形品の省材料と省エネルギー化を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の第一段階は、熱成形材料を、結晶化核剤を含むポリエステル系樹脂組成物のシートの平面の少なくとも1方向を1.3〜5倍に延伸して得られた厚み0.1〜2.0mmのシート状のものとすることである。以下、ポリエステル系樹脂組成物、結晶核剤、シート化工程及び延伸工程に分けてこれを説明する。
【0011】
ポリエステル系樹脂組成物
本発明におけるポリエステル系シートに用いられるポリエステル系樹脂は、主としてポリエチレンテレフタレート(PET)である。またその他のポリエステル系樹脂、たとえばポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、液晶ポリエステル等の結晶性樹脂である。
本発明におけるポリエステル系シートに用いられるポリエステル系樹脂は、その固有粘度が0.65dL/g以上、好ましくは0.70dL/g以上である。この固有粘度が0.65dL/g以下である場合は、得られたシートおよびその成形体は機械的強度に劣り、また成形体成形時のシート予熱工程でシート垂れ下がりによる操業不良が発生しやすく好ましくない。固有粘度はまた1.30dL/g以下、好ましくはむ1.10dL/g以下である。この固有粘度ず1.30dL/gを超える場合は、シートへの加工が難しくなり、又結晶化が難しくなる。
【0012】
本発明におけるポリエステル系樹脂は、その酸成分の一部として、主たる酸成分以外の芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、を用いてもよい。芳香族カルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヒドロキシ安息香酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などが挙げられる。脂環族ジカルボン酸としては、シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロ無水フタル酸などが挙げられる。脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などが挙げられる。これらは樹脂の融点及び結晶性を大きく低下させない範囲で用いられ、その量は酸全成分の20モル%未満、好ましくは10モル%未満である。
【0013】
本発明におけるポリエステル系樹脂は、そのグリコール成分の一部として、多種のグリコールすなわち炭素数が1〜25のアルキレングリコールを用いることができる。例えばジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ジメチロールヘプタン、トリシクロデカンジメタノール、ビスフェノールXのエチレンオキサイド誘導体(XはA,S,F)などである。これらのグリコールは各種特性のバランスにより適切な組み合わせで用いられるが、ポリマーの主となるエステル単位の結晶性を妨げないことが前提であるため、その共重合量は全グリコール成分の20モル%以下であることが望ましい。
【0014】
本発明におけるポリエステル系樹脂は、少量に限って2官能性のポリエーテル成分を含むこともできる。例えばPTMG、エチレンオキサイド変性PTMGなどを10重量%以下使用することができる。また、p−フェニルフェノール、ベンジルオキシ安息香酸、ナフタレンモノカルボン酸、ポリエチレングリコールモノメチレンエーテル等の化合物も10重量%以下使用できる。
【0015】
エラストマー成分
結晶化核剤を含む上記のポリエステル系シートの組成物には、更にポリエステル成分を含むことは好ましい。結晶化されたポリエチレンテレフタレートは、脆くなり、耐衝撃性がしばしば問題となる。これを改善するには可塑化成分あるいは柔軟化成分(エラストマー成分)を上記組成物に加えることは好ましい。
更にまた、核剤のポリオレフィンとポリエチレンテレフタレートとの混練性をよくする相溶化成分が用いることも知られていて、こうした成分を加えることも好ましい。
上記のエラストマー成分しては、ポリエステル系、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、シリコーン系、ポリアミド系、ポリアクリル系のもの、及び非晶質ポリエステル系の樹脂およびエラストマーを挙げることができる。
【0016】
上述のポリエステル系エラストマーとしては、ポリブチレンテレフタレート(以下PBTと記す)とポリアルキレングループ(例えばオキシテトラメチレングリコール)からなるもの、PBTと脂肪族ポリエステル(例えばポリカプロラクトン、ポリブチレンアジペート)からなるもの、PETとポリアルキレングリコールからなるもの、PETと脂肪族ポリエステルからなるものが例として挙げられる。
【0017】
上述の非晶質ポリエステル系樹脂は、前述の酸成分、グリコール成分からなるものから選ばれる。特に主たる酸成分が、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、セバシン酸、アジピン酸、ダイマー酸のいずれかおよびそれらの混合物であり、主たるグリコール成分が、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ダイマージオールのいずれかおよびそれらの混合物であるものが好ましく用いられる。
【0018】
上述のスチレン系エラストマーとしては、スチレンエチレン共重合体、スチレンエチレンブテン共重合体、スチレンエチレンブテン共重合体の水素添加物、
スチレンブタジエン共重合体、スチレンブタジエン共重合体の水素添加物等、およびこれらの酸およびエポキシ変性体が例として挙げられる。
【0019】
上述のアクリル系樹脂としては、例えばポリアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート等およびこれらの共重合体が挙げられる。さらにこれらの樹脂の複合体として、例えばシリコーン−アクリル系樹脂からなるコア・シェル型ゴム、オレフィン−アクリル系樹脂からなるコア・シェル型ゴム等が挙げられる。
【0020】
上述のポリオリフィン系樹脂は、例えば、高密度ポリエチレン、分岐低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、(変性)ポリプロピレン、(無水)マレイン酸ポリエチレン、変性ポリエチレン、水素添加エチレンブテン共重合体、酢酸ビニルエチレン共重合体、アクリル酸エチル−エチレン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、メタクリル酸グリシジル−アクリル酸エチル−エチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体の金属塩、エチレン−メタクリル酸共重合体の金属塩、およびこれらの変性体などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。特に好ましくは、線状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、マレイン酸変性ポリエチレン、水素添加エチレンブテン共重合体、アクリル酸エチル−エチレン共重合体、メタクリル酸グリシジル−アクリル酸エチル−エチレン共重合体である。なお、上記の一部は後述の結晶核剤成分と重複する。
【0021】
上述のエラストマー成分の添加量は0.5〜10重量%、下限は好ましくは1重量%以上、さらに好ましくは2重量%以上、特に好ましくは3重量%以上であり、上限は好ましくは8重量%以下、より好ましくは7重量%以下である。0.5重量%より少ないと耐衝撃性の改善効果が十分でなく、10重量%より多いと耐熱性の低下、外観等の低下等の悪影響が現れるため好ましくない。
なお、上記の組成物には上記以外の他の樹脂が含まれていてもよく、シート成形及び成形体成形に際して著しい熱分解を示すものでない限り限定するものではない。また、ポリメチルペンタンや、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート等を強化材として場合によっては添加してもよい。
なお、滑剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、酸化防止剤、着色剤、帯電防止剤等の添加剤も適宜添加してもよい。
【0022】
<結晶化核剤について>
本発明のポリエステル系樹脂シートには、結晶化を促進するための結晶化核剤が添加されて用いられる。結晶化核剤は、大別して無機系化合物の粉末、溶解して用いる有機系化合物、未溶融で用いる粉末有機化合物、溶融混練して用いる高分子系化合物等がある。
【0023】
無機系の化合物のものとしては、タルク、雲母、珪酸、珪酸塩、炭化カルシウム、酸化チタン及びカーボンブラック等がよく知られている。核剤効果のある任意のものを選んで用いることができる。このような結晶化核剤は平均粒子径5〜1000nmのものが用いられ、その量は通常0.2〜5重量%の含有量で用いられる。
【0024】
有機系の化合物のものとしては、およびPBTオリゴマー、安息香酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、高重合度PET粉砕物等を結晶化核剤として添加することができる。なお、ポリプロピレンに用いられるジベンジリデンソルビトールあるいはその誘導化合物もポリエステル系樹脂に用いて有効であり、他の樹脂に対してのみ公知である結晶化核剤も含めて、結晶化核剤として有効なものは何でも任意に選んで利用することができる。これら添加量は概ね5重量%以下であり、核剤の種類に応じて適宜設定される。
【0025】
高分子系化合物のものとしては、ポリオレフィン、ポリオキシメチレン等の結晶性高分子化合物を用いることが知られている。結晶性高分子の場合、通常は好ましくは1重量%以上〜8重量%以下、より好ましくは2重量%以上〜6重量%以下で用いられる。ポリオレフィン系の樹脂は好ましく用いられ、特に低密度又は高密度のポリエチレンが好ましく用いられる。ポリオレフィンは変成物であってもよく、不飽和多価カルボン酸又はその酸無水物でグラフト変成されたグラフト変性ポリオレフィンは1−15重量%の含有量で好ましく用いられる。又ポリエチレンイオノマーは1−8重量%の含有量で好ましく用いられる。これらの下限値未満では結晶化核剤としての効果が小さすぎ、又上限を超えて使用しても結晶化効果が増大しないばかりか、母体樹脂の特性を損なうばかりで不都合である。
【0026】
<成型材料シートの製造工程について>
前記シート状熱成形材料は、上述の結晶化核剤を含むポリエステル系樹脂組成物をシート化し、そのシートの平面の少なくとも1方向を1.3〜5倍に延伸し、厚み0.1〜2.0mmのものにすることにより得られる。
シート化は、押出機を使用し定法により行えばよい。延伸は、一方位に行ってもよく、2方位に行ってもよく、全方位に行ってもよい。延伸の装置は、
ローラー延伸装置、エクステンダー、ローラー圧延機、テンター等あるいは
これらの組み合わせのものが利用できる。なお、上記の延伸は操作としては、必ずしもシート端に張力を加えて行う必要はなく、圧延でおこなってもよく張力による延伸と同様の分子配向効果が得られておればよい。
なお、延伸処理後に定法として行われる熱固定はあるものも、ないものも利用できるが、ないものがより好ましい。
なお、上記の延伸は1方向(1軸延伸)のものが、安価の効率よく生産でき好ましい。
なお、延伸倍率が1.3倍未満である場合は、延伸による効果すなわち耐熱性の向上、熱処理成形時間の短縮、予熱時のシート垂れ下がり改善、成形品の美麗化が満足できるものとならない。又、延伸倍率が5.0倍を超える場合は容易に賦形できなくなる。なお、厚みが0.1mm未満のものは成形品としたとき強度か弱く実用に耐えない。又厚みが2mmを超えるものは成形加工が容易でなくなり実用的でなくなる。
【0027】
<成形方法について>
上記の熱成形材料シートを用い、樹脂シートの予熱工程、賦形工程、上記材料シートの予熱温度以上の高温で熱処理する熱処理工程を伴う成形を実施することができる。そしてこの成形を高速で実施することができる。
この熱処理工程を行う成形装置は、(1)成形型を高温にして賦形体を上記材料シート予熱温度以上の高温に加熱する手段、または(2)成形型に保持された賦形体を反対面から予熱温度以上の高温に加熱する手段の何れかを有したものにする。(1)の具体的な方法は、熱媒による加熱、ジュール熱加熱、あるいは加熱気体の吹きつけ、赤外線照射、誘電加熱等より行うことができる。(2)の具体的な方法としては、加熱気体の吹きつけ、赤外線の照射等により行うことができる。
成形型に保持された賦形体を冷却することは必ずしも必要でないが、冷却する手段を有することは好ましい。そしてその装置は、(3)成形型を低温にして賦形体を熱処理温度以下に冷却する手段、または(4)成形型に保持された賦形体を反対面から冷却手段の何れかを有したものにする。(3)の具体的な方法としては、成形型に熱媒を通ずるか、冷却用気体を吹き付ける方法等により行うことができる。(4)の具体的な方法としては、冷却用気体の吹きつけ、揮発性液体の吹きつけ等により行うことができる。
【0028】
上記の熱成形法には、公知のどのような賦形方法を採用した成形機も採用できる。すなわち、圧空成形、真空成形、真空圧空成形、雌雄型プレス成形
等何れの成形機も利用できる。
また、材料シートの予熱は、赤外線加熱オーブン、熱気オーブン等の間接加熱方式のもの、加熱板等に直接させる直接加熱方式等公知のどのような方式も採用できる。
なお、圧空成形には、高温圧縮気体を用いる方法が好ましく利用でき、又
下記の特定の成形型も好ましくもちいることができる。
【0029】
成型型
上記の熱成形法に用いる成形型は、制限するものではなく、公知のどのような成形型を採用することができる。しかし、成形型として、熱浸透率(kJ/m2s1/2K)が0.01〜25である材料により少なくとも成形用表面を形成させたものを用いること好ましい。そして又、上記成形型は、熱浸透率(b値)が20以下の材料によりなる表面層と熱浸透率(b値)が表面層のそれより大きな材料からなるは背後層(又は背後体)からなることは更に好ましい。そして、この背後体には加熱冷却の温調手段を付設し、表面層の温度制御をできるようにしたものであることが好ましい。あるいは又)、表面層の背後に略全面に密接して加熱手段を設け上記表面層の温度制御ができるようにしたもの同様に好ましい。
【0030】
上記成形型を表面層と背後層(又は背後体)で構成する場合は、表面層の熱浸透率は20以下であることが好ましく、15以下であることが更に好ましく、10以下であることが特に好ましく、5以下であることがその上に好ましい。またこの表面層の厚みは0.04mm以上であることが必要であり、また0.06mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であることが更に好ましい。又同厚みは30mm以下であることが好ましく、10mm以下であることが更に好ましく、5mm以下であることが特に好ましい。
【0031】
そして、背後層の熱浸透率は、3以上であることが好ましく、6以上であることが更に好ましく、10以上であることか更に更に好ましい。また背後層の熱浸透率は表面層のそれより2倍以上であることが好ましく、10倍以上であることが特に好ましい。
なお、背後層の厚みは限定するものではなく、また一定の厚みあるいは形状に限定するものではない。またこの層を単一材料の層に限定するものではなく任意の多層にしてもよい。
【0032】
熱浸透率がこのような範囲にある材料として、プラスチックス、セラミックス、選ばれた小数の種類の金属材料等を挙げることができ、これらは熱成形の金型として通常使われるアルミニウム材、亜鉛合金材等よりも小さな値のものである。好ましい範囲の熱浸透率を有する材料例は表1の中からも選ぶことができる。但し表記は一般的な物質あるいは物体を参考ため示したものであり、利用出来るものをこれらに限るものではない。
なお、上記熱浸透率とその数値限定の意義等については後に「本発明の内容についての補足説明」の欄で説明する。
なお、本発明の構成に望ましい態様とし示す成形型は、本発明者を発明者とする先行出願、特願2010−118555、特願2010−118490、
特願2010−118489、特願2010−118562及び特願2001−065069の何れかに開示しているものである。
【0033】
(1)結晶化核剤として少なくともポリオレフィン系樹脂を1〜8重量%含むポリエステル系樹脂組成物のシートの平面の少なくとも1方向を1.3〜5倍に延伸して得られたシート状であって、ものを用い賦形およびシート予熱温度以上の高温の熱処理を行うことにより、白化して不透明な延伸結晶化成形品を高速に熱成形する方法。
なお、上記の延伸は一軸延伸であることが好ましい。また熱処理固定をしてあってもよく、してなくても良いが後者はより好ましい。
【0034】
本発明の発明者は、延伸したポリエステル系樹脂シートの熱成形について、
特願2010−118555、特願2010−118490、特願2010−118489、特願2010−118562、特願2011−41294、特願2011−165067、特願2011−165068、特願2011−165069、特願2011−206514、特願2011−206515、特願2011−206516を発明し先行して出願を行っている。
これに対して、本発明は、結晶核剤を含む延伸ポリエステル系シートの熱処理を伴う熱成形の成形法と成形品について、従来CPETおよび上記先行出願に対する優位性を発見し、本出願をなすものである。
【0035】
上記の方法の効果
本発明の上記の方法には、公知のCPET成形にくらべ、次のような利点がある。1)大幅に熱処理時間を短縮した成形を行うことがでる。2)材料シート予熱時に問題となるシートの垂れ下がりを全くなくすることができ、この垂れ下がりに起因する賦形時のトラブルをなくし、成形不良をなくすることができる。3)予熱用の加熱板や高温成形型への固着がなく、型跡転写がなく、光沢のある美麗な成形品をえることができる。4)大きな球晶が発達せず、細かな配向結晶が発達するため、耐衝撃性の改善されたものが得られる。5)結晶化核剤を含有しない延伸PETより高い耐熱の成形品が得られ、公知のCPET成形並の耐熱品を得ることができる。
【0036】
本発明に用いる成形型についての補足説明
(1)<熱浸透率について>
本発明の規定値として用いた熱浸透率(b値)は接触する物体と界面を通過して移動する熱量にかかわる物体の特性値であり、次の式で求められる。
b= (λρC)1/2 ・・・・・(1)
λ; 熱伝導率(Js−1−1−1
ρ; 密度(kgm−3
C; 比熱(Jkg−1−1
このb値が小さい物体は界面に少ない熱量しか流さず相手物体に大きな温度変化を与えず、また界面間近では相手物体から大きな温度影響をうける。
従って、このb値が小さい材料を成形型表面材料として用いた場合は賦形体か
らの熱を拡散させないので、高温気体と冷却用気体により賦形体を容易に加熱冷却することができる。しかし背後層の熱を容易に表面層表面(賦形体体との界面)に伝えないので、表面温度の均一性が高く、高速で安定な条件設定のためには、表面層の厚みを小さくするか、あるいはこのb値をある程度大きくすることにより、成形材料に合わせて最適にすることができる。
なお、b値の参考例を示すと例えば、アルミニウム材は17〜23程度、鉄材は13〜16程度、銅34程度、不錆鋼(SUS306)は8.0で、多くの合成樹脂は0.2〜0.8程度、多くのセラミックスは1〜20の間に入る。
なお、表1にいくつかの材料のb値を例示する。なお、b値も測定温度により若干違った値を示すが、本願においては、厳密には20℃の測定値にて規定することする。 ただし、20℃から200℃の間の変化に直線性を有しない材料、例えば相変化を伴う蓄熱剤などとの複合材料の場合は、100℃、150℃の値の平均値を採用することとする。 なお、同じ材質でも、発泡体あるいは多孔体などに形状が変われば、この値が大きく変わることは留意を要する。
【0037】
【表1】
(2)<成形型構成の数値限定の意義について>
上記成形型の表面層として熱浸透率b値の大きな表面材料を用いた場合は、賦形体から容易に熱を背後に分散させてしまうので、熱容量の比較的に熱容量の小さい加熱空気や冷却空気では容易に賦形体を加熱冷却できなくなり、この値が10を超える材料である場合は、能率的に熱処理を行う成形を行うことができない。この値は小さいほうが好ましいが、0.01より小さいものは強度など使用に耐える材料がない。
上記の成形型において2層以上の構造とし、表面層の背面層を一定温度に制御して、賦形体を介して加熱気体および冷却気体により昇温降温変化する表面層の成形面温度を所望の基準温度へ迅速に回帰させることができる。
この場合、表面層の厚みが30mmを超える場合は背後層の制御が、上記表面温度と呼応して定常状態に至る時間がかかりすぎ、実施的に効果がない。また、この厚みが0.03mmを下回る場合は背後層の温度の影響を大きく受けて、迅速な賦形体の昇温降温を促進する効果がなくなる。例えば、公知の成形方法において、潤滑離型のために金型に仮に弗素樹脂等のコートが成されることがあったしても、そのコート厚みは30μm以下の薄いものであり、それを厚くする必要もなく又困難もあって、本発明の効果を発揮させるようなものは従来製作されていない。
なお、上記したように単体一材料のものでも良いが、この場合、成形型への直接の温度制御はあってもよく、またなくてよく、いずれであっても所望表面温度の定常化に多少の時間をかければ、所望の成形は可能である。しかし、この場合、熱浸透率b値(kJ/m2s1/2K)が0.01〜3の単一材料で構成してされたものでは加熱温調機構がないものが好ましく、またそれが3以上の単一材料で構成されたものは加熱温調機構を備えたものがより好ましく使用できる。
なお、上記の成形型は、真空賦形又は賦形時の排気が可能にする微細孔を有し、真空引き可能なように先記成形型収納ボックスに収納されることが望ましい。
【0038】
(3)<賦形体の温度測定について>
なお、本発明の装置においては、なんらかの方法で成型型表面温度あるいはと型と賦形体の界面温度の変化、または賦形体の温度変化を測定することは重要である。具体的には例えば、成形型の成形面上に、極めて繊細な測定プローブ、例えば線径0.1mm程度の熱電対先端を突出させておいてこれを測定することができる。別の方法としては賦形体を反対面から赤外線温度計非接触で測定する方法がある。しかし、これらには留意すべき点がある。
賦形材料の熱処理温度あるいは離型可能温度を厳密に考えるとき、これらの温度はここで示される表面温度あるいは界面温度とはかなり乖離があることは留意する必要がある。秒単位あるいはそれ以下の単位で加熱冷却を行う場合は、賦形体の厚み方向で大きな温度傾斜が発生するからである。また、赤外線等で賦形体裏面から温度測定も、材料温度を正確に表すものでなない。また本発明では表面温度(界面温度)で表現しているがこの温度とも乖離があり、相対的な値として考慮する必要がある。
【実施例】
【0039】
下記、各実施例および比較例に関わる、成形品の評価方法等共通事項を記す。
ヒートサグ(垂れ下がり)は、予熱オーブン中の挙動を目視観察して比較した。
転写性は、成形品の転写模様、真空孔跡の有無および強弱を目視により比較観察することにより行った。離型性は、成形型の一部に型抜き勾配のない部分をつくり、離型時のヒキツリ状態および離型品の一次的および恒久的な変形等を比較観察した。耐衝撃性は、内製の落球試験装置で100g鋼球を、高さを変え落下させ試験を行った。温度、材料厚み等条件が統一されていないので、同時にテストしたものどうしの比較をベースに、総合的に順位を比較して評価した。耐熱性は、成形品を加熱シリコンオイルに2分間浸漬し、取り出した後の変形および目立った収縮の有無を観察するこことし、温度を変えて10℃毎にこれを行った。成形サイクルは、材料の移動時間、離型時間等は省略して比較することにした。熱処理温度は、成形型表面と賦形体との界面の温度で表すこととした。
【実施例1】
【0040】
結晶化核剤として低密度ポリエチレンを含むポリエチレンテレフタレート樹脂を押出機によりシート化し、これを延伸処理して熱成形用シート(材料シート)を製作した。そしてこのシートを用いて熱処理を伴う熱成形を行った。
(1)熱成形用シートの製作
ホモポリエチレンテレフタレート(三菱化学製ノバペックスIV値0.71)96重量%、および高密度ポリエチレン(プライムポリマー社製ハイゼックス)4重量%を、2軸押出機を用い混練して、キャスティングロール上でシーティングし、0.5mm厚みの原シートを得た。この原シートを内作のエクステンダーを用いて、縦方向に2.5倍一軸延伸した厚み約0.2mmの熱成形用シートを得た。エクステンダーはステンレスリボンヒーターによる予熱オーブンと、四辺を把持し一軸延伸する機構のものである。原シートを、550℃に加熱したオーブン中に18秒間保持後、常温大気中で約0.5秒間で2.5倍に延伸してそのまま空冷して、熱成形用シート(材料シート)を得た。
(2)熱処理を伴う熱成形
上記材料シートを用いて、真空圧空成形を行った。使用した成形型は、内部に熱媒を通ずることにより表面温度185℃に加熱したアルミニウムA5050製のもので、成形部分を90mm径、深さ30mmの皿形状物で周辺高さの一部を垂直に型抜き勾配を持たない形状とした。成形機は、枚葉でプレス能力10tonの真空圧空成形機を用いた。なお、成形型背後から貫通させた細線熱電対先端を成形表面に露出させて這わせ、表面温度及び 賦形体界面温度を測定できるようにした。
材料シート予熱は、材料シートをフレームで外周四辺を固定し、550℃設定の加熱オーブン中に9秒間(到達温度見込み温度95℃)保持することにより行った。上記の予熱後、直ちに材料シートを成形型上に移動させ、成形型を覆う圧空ボックスからの圧空と成形型側からの真空作用により8秒間作用させ真空圧空賦形を行うと共に成形型の熱により熱処理を行った。圧空は常温空気を用い、0.4MPaGの圧力で行った。賦形体の冷却は行わず、離型時の表面(界面)温度は180℃であった。離型はフレームに端部を保持された賦形体をその位置に残し、成形型を降下させることによって行った。
(3)成形の結果
a)予熱された材料シートにはヒートサグ(垂れ下がり)はなく、フレーム上に緊張固定された状態で賦形に供されるところが観察された。従って、ヒートサグに起因する成形品のシワ、縞模様等はなかった。
b)成形品には、成形型の傷や真空孔等の転写がなく、白色で光沢のある美麗なものであった。
c)ヒキツレがなく容易に離型された、
d)成形品の耐衝撃性は、非延伸のCPET成形品(比較例2)に比し改善されたものであった。耐衝撃性の比較は手製の簡易な落球試験装置により行ったが、条件等の統一性を欠くので定性表現に留める。
e)成形品の耐熱は170℃で、賦形と熱処理を短時間に有効に行うことがてきた。
f)成形サイクルは、圧空時間の8秒が相当する。この方法で連続成形を行う場合は、シート予熱は平行処理される。材料の移動時間等はここでは省略する。
なお、各実施例および比較例との比較を表2に示す。
【実施例2】
【0041】
市販のCPET成形用のポリエチレンテレフタレート系樹脂シートを購入し、
延伸処理して本発明の熱成形用シートを製作した。そしてこのシートを用いて
熱処理を伴う熱成形を行った。
(1)熱成形用シートの製作
市販のCPET成形用のポリエチレンテレフタレート系樹脂シートとして東洋紡績製(結晶化核剤である高密度ポリエチレンの他にエラストマー及び変性ポリオレフィン樹脂を所定の範囲で含む)の0.5mmのものを2.5倍に縦延伸し、厚み0.2mmの熱成形用シートを得た。延伸装置および延伸条件は実施例1と同じである。
(2)熱処理を伴う熱成形
上記材料シートを用いて、真空圧空成形を行った。成形機、成形型は実施例1と同じものを使用した。成形方法および成形条件も、実施例1と同じにした。
(3)成形結果
実施例1同様にヒートサグ(垂れ下がり)はなく、成形品も同様に良好な状態であった。又、成形型からの転写はなく、同様に美麗なものであった。
又、離型性も同様によかった。成形品の耐衝撃性も、非延伸のCPET成形品等(各比較例)に比し改善されたものであった。成形品の耐熱は170℃であった。成形サイクルは、圧空時間の8秒である。
なお、各例の比較は表2参照のこと。
【実施例3】
【0042】
実施例2と同じ成形材料シートを用い、成形方法を変更して成形を行った。
(1)熱成形用シートの製作
実施例2と同じものを用いた。
(2)熱処理を伴う熱成形
成形機は実施例1と同じものを用い、圧空ボックスの代わりに、シート予熱と圧空賦形の手段として加熱板を装着して用いた。成形型は表面層/背後体構造のもので、アルミニウムA5052(b値17.4)を背後層とし、その上にPEEK(b値0.35)0.14mmの表面層を形成させたものを使用した。背後体には熱媒を通じて自在に温調できるようにしたもの使用した。なお、 成形物形状、寸法、等は実施例1同じである。
鋼製の加熱板を95℃に加熱し、その下に導入された材料シートを2秒間吸着して約95℃に予熱し、その位置で成形型を上昇させて接合して、加熱板から圧縮空気を送り込み賦形と熱処理を行った。加熱板には、常温の圧縮空気を導入した。
成形型表面は190℃に予熱したもの使用し、6秒間圧空を行い賦形と熱処理を行った。圧空熱処理後、熱板を上昇させ、待機させてあった空気噴射式の冷却装置を、賦形体を保持した成形型上部に進入させ、2秒間空気噴射を行って賦形体を冷却して離型させ成形品を得た。成形型表面(賦形体との界面)温度は、賦形時に瞬間的に約15℃低下したがすぐに187℃に回復して熱処理が行われ、離型時には162℃に降下していた。
(3)成形結果
a)ヒートサグ;熱板加熱はヒートサグを回避する予熱方法であるが、空気孔や傷跡等の転写が問題になりやすい欠点がある。本実施例の材料ではその転写
はなかった。
b)転写性;実施例1および2と同様に、問題なく良好な成形が行われた。
c)離型性;実施例1および2と同様に、良好であった。賦形体の冷却を行うことにより、離型時の取り扱いによる変形を心配することなく、離型作業を
容易にすることができた。
d)耐衝撃性;比較例と比較し非常に良く、特に非延伸のCPET成形品(比較例2)に比して改善されたものであった。
e)耐熱性;170℃。
f)成形サイクル; 圧空時間と冷却時間を合わせ8秒となる。
なお、本例の成形型では、本来的に熱容量のちいさな気体接触による冷却をロス少なく効率的に行えることが確認された。
なお、各例の比較は表2参照のこと。
【実施例4】
【0043】
実施例2と同じ(実施例3とも同じ)成形材料シートを用い、実施例3と同じ成形型を用い、成形方法一部変更して成形を行った。
(1)熱成形用シートの製作
実施例2と同じものを使用した。
・ 熱処理を伴う熱成形
実施例1と同じ成形機を使用し、高温圧縮気体による圧空と、空気噴射による冷却可能な圧空装置(圧空ボックス、特願平2011−254641に開示もの)を用いた。成形型は実施例3と同じものを、表面温度160℃(但し背後体温度は約175℃)に予熱して用い、材料シートの予熱は、実施例1と同様にして同条件で行った。加熱圧縮空気を用いる圧空賦形と圧空による賦形体昇温は7秒間行い、その後圧空を開放して離型をおこなった。なお、圧空空間の空気は常時外部へ排気され、常時更新されるように操作し、圧空空間温度を281℃とした。なお、ここでは冷却噴射は行わなかった。成形型表面温度は、圧空開始ともに急激に昇温し188℃に達した。冷却は行わずこの温度で離型した。
(3)成形結果
a)ヒートサグ;実施例1および2と同様に、問題なく良好な成形が行われた。
b)転写性;実施例1、2、および3と同様に、良好であった。
c)離型性;実施例1、2、および3と同様に、良好であった。
d)耐衝撃性;比較例と比較し、実施例2および3と同様に、優良であった。
e)耐熱性;170℃
f)成形サイクル;圧空時間7秒
なお、本例の成形型では、本来的に熱容量のちいさな気体接触による加熱をロス少なく効率的に行えることが確認された。
なお、各例の比較は表2参照のこと。
(比較例1)
【0044】
結晶化核剤を含まない延伸PETシートを成形材料シートとして用い、実施例4と同じ装置および成形型を用い、熱処理を伴う熱成形を行った。
(1)熱成形用シート
ホモポリエチレンテレフタレート樹脂(三菱化学製、IV値0.71)の押出シートを縦2.5倍に一軸延伸したシート、厚み0.22mmのもの使用した。なお、このシートは、押出原シートを90℃に加熱しロール間で瞬間的に延伸したもので、結晶核剤を含んだものではなく、また熱固定も行っていない。
(2)熱処理を伴う熱成形
実施例1と同じ成形機を使用し、実施例4と同じ高温圧縮気体による圧空と、空気噴射による冷却可能な圧空装置を用いた。成形型も実施例3および4と同じものを、成形型表面温度160℃に予熱して用い、材料シートの予熱は、実施例4と同様にして9秒間行った。又高温圧縮気体による圧空も、実施例4
と同様にして行い、圧空を6秒間行い圧空空間が265℃となる条件で行った。ただし、この例では、熱処理後に常温圧縮空気噴射により賦形体を2秒間冷却して離型を行った。表面(界面)温度は、圧空開始と共に急激に昇温し181℃に達し、冷却して離型する時には約160℃に降下していた。
(3)成形結果
a)ヒートサグ;ヒートサグは発生せず、問題はなかった。
b)転写性等;成形型表面温度を低く設定することにより、更に微妙な転写が少ない、成形品の曇りのない品質の高い成形品を得た。
c)離型性;各実施例と同様に良好であった。
d)耐衝撃性;実施例および他の比較例に対比して良好(中)。
e)耐熱性;150℃と、各実施例より少し劣るものであった。
f)成形サイクル;圧空(賦形と熱処理)と冷却合わせて8秒。
なお、比較のため空気の噴射冷却を行わずに離型した成形品は、激しく収縮変形したものとなった。また、圧空熱処理時間をこれより長くしても耐熱性はこれ以上にはならなかった。
なお、この例では成形品は透明となり、他の実施例および比較例は成形品白色となるいわゆるCPET成形品となる。
なお、本例の成形型では、本来的に熱容量のちいさな気体接触による加熱あるいは冷却作用をロス少なく効率的に行えることが確認された。
各例の比較は表2参照のこと。
(比較例2)
【0045】
実施例1と同じ組成で厚み0.2mmの押出シートをつくり、延伸を行わずそのまま成形材料シートとして、熱処理を伴う熱成形を行った。
(1)熱成形用シート
実施例1と同材料により同様にして、結晶核剤としてポリエチレン成分(ハイゼックス)4重量%を含む、非延伸のホモPETシートを製作して使用した。
但し、厚さは0.2mmとした。
(2)熱処理を伴う熱成形
実施例3と同じ装置、同じ成形型を使用した。材料シートの予熱は95℃に加熱した熱板に3秒間吸着させて行った。圧空賦形および熱処理は実施例3と同様にして行った。成形型表面温度は185℃に予熱しておいて圧空賦形した。但し圧空時間(賦形および熱処理)は15秒とした。表面(界面)温度は離型までほぼ同温で推移した。
(3)成形結果
a)ヒートサグ;熱板加熱はヒートサグを回避する予熱方法であり、問題は発生しなかった。気孔跡は目立たなかった。
b)転写性;成形型の傷、真空孔跡等の転写目立つ。
c)離型性;型抜き時に固着変形あり。
d)耐衝撃性;実施例および他の比較例に対比して不良(小)。
e)耐熱性;170℃
f)成形サイクル;予熱時間と圧空時間(賦形および熱処理の時間)合わせて17秒となった。
なお、各例の比較は表2参照のこと。
(比較例3)
【0046】
実施例2と同じ市販CPET成形用シートをそのまま成形用材料シートとし、熱処理を伴う熱成形を行った。
(1)熱成形用シート
実施例2と同じ市販CPET成形用シート(東洋紡績製)を、延伸を行わずにそまま使用した。
(2)熱処理を伴う熱成形
実施例1、2と同じ装置、同じ成形型を使用した。材料シートの予熱は実施例2と同温度に設定した予熱オーブンで18秒間行った。なお、予熱時間は少しずつ変更して、常温の成形型で成形テストした時この時間が最適であったもので、材料温度は実施例2ほぼ同温に達しているものと推察される。
予熱された材料シートを、実施例2と同じ185℃に予熱した成形型で賦形と熱処理を行って離型した。ただし、賦形熱処理時間は15秒であった。表面(界面)温度は離型までほぼ同温で推移した。
(3)成形結果
a)ヒートサグ;比較例2以上に大きなサグが発生した問題となった。成形品は凹凸シワが発生した。成形型が比較的に底浅であり、シートが先に底着した部分から順にシワができたものと推察される。
b)転写性;気孔等の転写あり。
c)離型性;型抜き時に固着変形あり。
d)耐衝撃性;実施例および他の比較例に対比して良好(中)。
e)耐熱性;170℃
f)成形サイクル;圧空時間(賦形および熱処理)で15秒であった。なお、この方法による連続成形では、材料シートの予熱は平行処理できるのでネックとはならない。
なお、各例の比較は表2参照のこと。

【表2】
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の成形材料を用いる熱成形には下記のような効用がある。
1)ポリエステル系樹脂の結晶化により耐熱性および剛性等の改善された熱成形品に関し、耐衝撃性および外的美観の更に改善された熱成形品を提供することができる。そしてこの熱成形サイクルを大幅に短縮する生産方法を提供することができる。
2)従来のCPET成形に用いられるような特殊に機構を有した専用機でない汎用の成形機を用い高速で成形する道を拓いたものである。
3)ポリエステル系樹脂の中でも特に、PET樹脂の熱成形品は食品包装、雑貨の軽包装等に広く用いられる。改善された剛性と耐衝撃性、成形品を薄肉化し、高速の成形性を利用して、成形品の薄肉化品を通常品として普及させ、省材料、省エネルギー化の機会を提供するものである。