特許第5773276号(P5773276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5773276
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】誘電体バリア放電ランプ
(51)【国際特許分類】
   H01J 65/00 20060101AFI20150813BHJP
   H01J 61/35 20060101ALI20150813BHJP
   H01J 61/30 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   H01J65/00 B
   H01J61/35 F
   H01J61/30 Q
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-103922(P2012-103922)
(22)【出願日】2012年4月27日
(65)【公開番号】特開2013-232338(P2013-232338A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2014年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】片桐 毅
(72)【発明者】
【氏名】畑瀬 和也
【審査官】 小野 健二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−093986(JP,A)
【文献】 特開2009−146589(JP,A)
【文献】 特開2010−055971(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0117959(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 65/00−65/08
H01J 61/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下の壁板と左右の側壁板と前後の側壁板とからなる放電容器と、
前記放電容器の内部に封入されたエキシマ発光のための放電用ガスと、
前記放電容器の外部で前記上下の壁板の少なくとも一方に設けられた電極とを備えた誘電体バリア放電ランプにおいて、
前記左右の側壁板は、前記前後の側壁板に平行な断面において、前記放電容器の外側に凸となるように湾曲しており、
前記左右の側壁板の内側表面には紫外線を遮光する遮光膜が形成されており、
前記遮光膜は、
前記左右の側壁板の湾曲の頂部の内側を覆い、かつ、
前記前後の側壁板に平行な断面において、前記上下の壁板の中間の直線と前記上下の壁板と前記左右の側壁板との境界を結ぶ直線との交点と前記遮光膜の一端とを結ぶ直線と、前記交点と前記遮光膜の他端とを結ぶ直線とのなす角度が60度以上180度未満である
ことを特徴とする誘電体バリア放電ランプ。
【請求項2】
前記角度が、86度以上152度以下である
ことを特徴とする請求項1記載の誘電体バリア放電ランプ。
【請求項3】
前記放電容器は主に石英で構成される
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の誘電体バリア放電ランプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空紫外線を照射するための誘電体バリア放電ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、放電管の形状が照射側に平坦な面を有する誘電体バリア放電ランプが知られている(特許文献1、2、3等)。この誘電体バリア放電ランプは、所定の電源装置に接続することにより低コストで紫外線照射装置を製造でき、照射対象物に直接真空紫外線を照射できる利点がある。
【0003】
特許文献1には、前後に極めて長尺な形状に形成した誘電体バリア放電ランプにおいて、主に石英からなる放電容器内の前後端壁板や左右側壁板の内面に「真空紫外線保護層」を形成することによって、前後端壁板や左右側壁板の劣化を抑えられることが記載されている(第10段落及び第11段落等)。また、特許文献2には、主に石英からなり、左右側壁板と上下の壁板とをつなぐエッジ部を有する放電容器において、上下の壁板の中央部を放電容器の内側に向かうように湾曲状に形成し、放電容器の内側表面に「紫外線反射膜」を形成することによって、エッジ部を破損の起点とする放電容器の破裂を防止できることが記載されている(第8段落及び第9段落等)。
【0004】
また、放電管を収納するランプハウス内の気流等によって種々の飛散物が放電管に付着しやすく、その管壁の付着物によって放電管にダメージを与えるという問題があることが本発明者らの先の研究でわかった。そのため、本発明者らは、主に石英からなる放電管における下壁板の周囲の長側面に位置する壁面を紫外線を少なくとも50%以上遮光する「遮光部材」で構成することによって、放電管に飛来する飛散物の付着及びその固化を減らすことを提案した(特許文献3)。以下、本明細書では放電管を含めて放電容器という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−127710号公報
【特許文献2】特開2009−181818号公報
【特許文献3】国際公開第2011/078181号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の誘電体バリア放電ランプでは、放電容器の左右側壁板全体を遮光部材とする、或いは、その内側の表面全体に紫外線を遮光する遮光膜を形成すると、紫外線の照射光量を低下させるという問題があった。
【0007】
また、上記従来の誘電体バリア放電ランプでは、放電容器が主に石英からなるため、極めて高い紫外線のエネルギーを放電容器に照射し続けると遮光膜を形成する範囲によってはクラックが発生し、放電容器が破損することがあった。放電容器の左右側壁板の断面が外に向かって凸となるように湾曲している場合には、遮光膜が無い場合ではその湾曲の頂部付近で破損してしまうことがあった。また、遮光膜が左右側壁板の内側表面上で湾曲の頂部付近に形成されている場合でも加速実験では、遮光膜の短縁部付近で放電容器が破損してしまうことがあった。
【0008】
本件発明者らは、紫外線を放電容器に照射した際の湾曲部における破損箇所及びその破壊応力に着目し、遮光膜の形成範囲によって応力の集中する箇所が異なることから、遮光膜の形成範囲が放電容器の湾曲部で生じる応力分布と何らかの関係を有するのではないかと考えた。そして、遮光膜の形成範囲と放電容器の応力分布との関係を綿密に調査したところ、遮光膜の形成範囲は放電容器の湾曲部で生じる応力分布において破壊応力に達するかどうかの重要な要因の一つであるとの知見に達した。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、真空紫外線を照射するための誘電体バリア放電ランプにおいて、主に真空紫外線の照射光量の低下を抑えつつ放電容器の破損を抑えて寿命を向上させることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る誘電体バリア放電ランプは、上下の壁板と左右の側壁板と前後の側壁板とからなる放電容器と、放電容器の内部に封入されたエキシマ発光のための放電用ガスと、放電容器の外部で上下の壁板の少なくとも一方に設けられた電極とを備える。そして、左右の側壁板は、前後の側壁板に平行な断面において、放電容器の外側に凸となるように湾曲している。その左右の側壁板の内側表面には紫外線を遮光する遮光膜が形成されている。そして、その遮光膜は、左右の側壁板の湾曲の頂部の内側を覆い、かつ、前後の側壁板に平行な断面において、上下の壁板の中間の直線と上下の壁板と左右の側壁板との境界を結ぶ直線との交点と遮光膜の一端とを結ぶ直線と、交点と遮光膜の他端とを結ぶ直線とのなす角度が60度以上180度未満であることを特徴とする。
【0011】
この構成により、遮光膜が、左右の側壁板に発生する応力を抑制することによって左右の側壁板のクラック等の発生を防止し、放電容器の寿命を向上させることができる。また、遮光膜が左右の側壁板全体を覆っていないため、紫外線の照射光量の低下を抑えることができる。
【0012】
本発明に係る誘電体バリア放電ランプでは、遮光膜の形成される角度が86度以上152度以下であることが好ましい。この構成により、左右の側壁板において応力の集中を抑えるのにさらに適した領域に遮光膜の端縁部を配置するため、遮光膜の形成を最小限度にとどめることができ、紫外線の照射光量の低下を一層抑えられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る誘電体バリア放電ランプによると、遮光膜が湾曲した左右側壁板の内側表面に所定範囲内に形成されるため、紫外線の照射光量の低下を抑えつつ左右の側壁板のクラック等の発生を防止して放電容器の寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態を示すものであって、誘電体バリア放電ランプの長尺方向に垂直な断面図
図2】本発明の一実施形態を示すものであって、誘電体バリア放電ランプの長尺な中央部を省略した斜視図
図3】本発明の一実施形態を示すものであって、(a)は図2の放電容器の長尺の中心軸で切断して側面方向から見た断面図、(b)は(a)のA−A線断面図
図4】(a)及び(b)は、いずれも図1及び図2に示す誘電体バリア放電ランプの放電容器における左右の側壁板の内側面に、紫外線遮光膜を形成する様子を示す図
図5】放電容器の左右の壁板の応力分布を説明するものであって、(a)は遮光膜が無い放電容器の断面図、(b)は遮光膜が左右の側壁板の内側表面の頂部付近に形成された放電容器の断面図、(c)は遮光膜が左右の側壁板の内側表面のより広い範囲に形成された放電容器の断面図
図6】放電容器の左右の側壁板の応力分布の測定結果を示す図
図7】測定した紫外線光量について説明するものであって、(a)は遮光膜の幅を説明する図、(b)は遮光膜の幅と紫外線光量との関係を示す図
図8】遮光膜の無い従来の誘電体バリア放電ランプを示すものであって、放電ランプの長尺方向に垂直な断面図
図9】誘電体バリア放電ランプの遮光膜の透過率の測定方法を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の各実施形態について説明する。同一又は同類の部材には同一の符号を用いるか又は添字のみ異ならせて表示するものとし、重複した説明を省略しているが、各実施形態の記載は本発明の技術的思想を理解するために合目的的に解釈され、実施形態の記載に限定解釈されるべきものではない。まず、本発明の実施形態を示す誘電体バリア放電ランプの全体の概要を説明する。
【0016】
図2及び図3は、本発明の一実施形態を示すものであって、図2は誘電体バリア放電ランプの中央部を省略した斜視図であり、図3図2の断面図である。図3(a)は、図2の放電容器を長尺の中心軸で切断して側面方向から見た断面図であり、図3(b)は、図3(a)の矢印方向に見たA−A線断面図である。なお、図中の一点鎖線は長尺の中心軸を示す。
【0017】
誘電体バリア放電ランプ10は、長尺の放電容器1と、電極2、3と、放電容器1の内部に紫外線を遮光するための遮光膜4と、チップ管5とを有する。放電容器1には、エキシマ発光のためのキセノン(Xe)ガスが封入されている。放電容器1は、合成石英製ガラスからなり、上下で向かい合う平坦な壁板(以下、「上下の壁板」という。)1aと、左右で向かい合う側壁板(以下、「左右の側壁板」という。)1bと、前後で向かい合う側壁板(以下、「前後の側壁板」という。)1cとから構成される。放電容器1は、上下の壁板1aと左右の側壁板1bとからなる長尺な管の前後を前後の側壁板1cでそれぞれ溶着して塞ぐことで構成できる。放電容器1では、長尺の中心軸に対して、上下の壁板1a及び左右の側壁板1bはいずれも平行に、前後の側壁板1cは垂直に配置されている。左右の側壁板1bは、長尺の中心軸に対して垂直に切断した断面で、外側に向かって凸となるように湾曲している。例えば、図3(a)に示す放電容器1の横断面の上下方向の最大幅が十数mmであり、左右方向の最大幅が数十mmであり、前後方向の長さは数百mm以上である。前後の側壁板1cには、事前にそれぞれチップ管5が突設されている。各チップ管5は、前後の側壁板1cの外面からさらに外側に突出するように溶着された溶融石英ガラス製の管材であり、各チップ管5内は放電容器1の内部にそれぞれ通じている。この放電容器1は、上下の壁板1aの外面に電極2,3の金属薄膜が成膜される。電極2は、誘電体バリア放電ランプが放射する真空紫外線の強度を検査するためのセンサ用の未塗膜部を除けば、上壁板1aの上面のほぼ全面を覆うように成膜される。また、電極3は、下壁板1aの下面のほぼ全面に網目状のパターンで成膜される。
【0018】
左右の側壁板1b及び前後の側壁板1cの内側面には、酸化イットリウム(Y)を含むスラリーを焼成して得られる紫外線を遮光するための遮光膜4が設けられている。
【0019】
誘電体バリア放電ランプ10を電源装置に接続することで紫外線照射装置を構成し、リード線を介して電極に所定の電力を印加することで誘電体バリア放電ランプが点灯し、この平坦な下壁板1aを通して図3(a)の矢印の方向へ、172nmの真空紫外線が照射される。
【0020】
図1は、本実施形態の誘電体バリア放電ランプの長尺方向に垂直な断面図である。なお、図1中の縦横方向の一点鎖線は断面の線対称の対称軸をそれぞれ示し、2つの対称軸の交点は図2の長尺の中心軸上にある。また、破線の矢印は紫外線の照射方向を示す。図1に示すように、放電容器1は、上下の壁板1aと左右の側壁板1bとを境界B1でそれぞれ滑らかに繋げている。上下の壁板1aと左右の側壁板1bとを境界B1で滑らかに繋げるとは、境界B1での接線の傾きの変化が小さくなるように接続することを意味する。
【0021】
図1において、左右の側壁板1bの断面は、外側に向かって凸形状となるように湾曲している。具体的には、外側表面が曲率半径R1の半円で、内側表面が曲率半径R2の半円で構成されている。左右の側壁板1bの断面は、各表面を楕円や頂点付近を略直線状とする等様々に湾曲していてもよい。
【0022】
図1において、遮光膜4は、左右の側壁板1bの内側表面に形成されている。そして、遮光膜4は、左右の側壁板1bの湾曲の頂点P1の内側を覆っており、かつ、図1(前後の側壁板1cに平行な断面)において、遮光膜4は上下の壁板1aの中間の直線L1を線対称にして一様に形成されており、上下の壁板1aの中間の直線L1と上下の壁板1aと左右の側壁板1bとの境界を結ぶ直線L2との交点Cと遮光膜の一端B21とを結ぶ直線L3と、交点Cと遮光膜4の他端B22とを結ぶ直線L4とのなす角度θが152度となっている。このように遮光膜4を形成すると、少量の遮光膜4で左右の側壁板1bに発生する歪みを抑制して破壊に達するまでの時間を長くすることができる。左右の側壁板1bに発生する歪みを十分に抑制するためには、遮光膜4が形成されている角度θは60度以上であればよい。
【0023】
図4(a)及び(b)は、一例としていずれも図1図2及び図3に示す誘電体バリア放電ランプの放電容器1における左右の側壁板1bの内側面に、紫外線遮光膜を形成する様子を示している。まず、放電容器1を図4(a)に示すように左右の側壁板1bの面が下になるように傾けて、チップ管5から酸化イットリウム(Y)を含むスラリーSを左右の側壁板1bの内側表面において下側の頂部から所定の高さまで注入する。遮光膜を形成する角度は、注入するスラリーSの高さにより調整するが、少量のスラリーSを注入後左右の側壁板1bを傾けて調整してもよい。その後不要なスラリーSをチップ管5から排出後乾燥させる。図4(a)の矢印はスラリーSの移動方向を示している。この遮光膜は172nmの真空紫外線を遮光することができるものであり、遮光率は膜厚や製造方法等によって調整できる。
【0024】
遮光率は、所定量のスラリー中の酸化イットリウムの濃度を変化させることによって調整することができる。例えば、酸化イットリウム(Y)を重量比で10%含有するスラリーSをn−ブタノールで希釈することにより遮光率を調整することもでき、3倍希釈で遮光率約90%の遮光膜を、又は10倍希釈で遮光率約65%の遮光膜をそれぞれ得ることができる。ここで、遮光率は、波長172[nm]の真空紫外線に対する値である。
【0025】
図9は、誘電体バリア放電ランプの遮光膜の透過率の測定方法を説明する図である。図9に示すように、上記誘電体バリア放電ランプ10を破壊して取り出した左右の側壁板の部分100の透過率の測定方法は、次の通りである。まず、窒素(N)雰囲気中の測定装置の台102上に図示しない治具で左右の側壁板の部分100を立てて固定する。このとき、測定対象とする左右の側壁板をスリット102aの上方に配置する。スリット102aの幅は測定する遮光膜の幅よりも十分に狭い。次に、光源101から測定波長(本実施形態では、172nm)の真空紫外線をスリット102aを介して一方の左右の側壁板側に照射し、他方の左右の側壁板側からセンサー103で遮光膜を透過した真空紫外線の光強度(透過強度)を測定した。このようにして測定した真空紫外線の透過強度から次の式によって透過率Tを求める。
T=I/I
ただし、Iは遮光膜無しの誘電体バリア放電ランプの透過強度を、Iは測定対象の誘電体バリア放電ランプの透過強度をそれぞれ示す。なお、Tを百分率(%)で表す場合は100をかける。
【0026】
また、次の式によって遮光率Srを求める。
r=1−T
【0027】
上記のようにして左右の側壁板1b及び前後の側壁板1cに対してスラリーSを塗布した後、焼成すると図4(b)に破線で示したような遮光膜4を得る。遮光する真空紫外線がキセノンガスによる波長172nmの真空紫外線とした場合、酸化イットリウムの他に、酸化亜鉛(ZnO)などの超微粒子或いは酸化チタンをシリカでコーティングした超微粒子を溶剤に混濁したスラリー(混濁液)やアルミナ(Al)微粒子分散のスラリーの焼成物などを用いることができる。その後、チップ管5から排気して放電用ガスG(例えばキセノンガス)を注入し、内部に放電用ガスGを充填する。そして、双方のチップ管5の先端部を溶融封止させて内部を密閉する。その後、電極用の金属を蒸着してパターニングし、最後にフッ化マグネシウム(MgF)を蒸着することで電極を保護するためのコーティング膜を形成し、遮光膜を形成した放電容器1が完成する。
【0028】
図8は、遮光膜の無い従来の誘電体バリア放電ランプを示すものであって、放電ランプの長尺方向に垂直な断面図である。誘電体バリア放電ランプ80の放電容器の形状及び材質は、図1で説明した放電容器1と同じである。誘電体バリア放電ランプ80の石英製放電容器に内側から紫外線が長期間照射されると、石英ガラスの体積が収縮することによって、左右の側壁板の内側表面には圧縮応力が発生し、反対に左右の側壁板の外側表面では引張応力が発生する。その結果、左右の側壁板の外側表面の頂部P付近に引張応力が集中して、クラックが発生しやすくなる。
【0029】
ここで、図5に断面を示すように、左右の側壁板の断面において外側表面の凸部の頂点P2から遮光膜の端部までの上下の壁板に平行な距離W1、W2(以下、便宜上「遮光膜の幅」という。)を変えて放電ランプを作製し、放電ランプを長期間点灯したときに放電容器に発生する歪みを測定した。作製した放電ランプC0、C1、C2は以下表1の通りである。
歪み値及び応力値は、測定対象の放電ランプを偏光板と鋭敏色板とで挟むように偏光板上に配置し、偏光板側から照明を当てて鋭敏色板側から写真を撮り、画像解析によって求めた。歪み値と応力値は比例関係にある。
【0030】
【表1】
【0031】
図5(a)(C0)は遮光膜が無い放電ランプ、図5(b)(C1)は遮光膜が左右の側壁板の内側表面の頂部付近に形成された放電ランプ、図5(c)(C2)は遮光膜が左右の側壁板の内側表面のより広い範囲に形成された放電ランプである。放電ランプC0、C1、C2は、いずれも、長尺方向に垂直な断面の外形寸法が最大縦幅16[mm]×最大横幅45[mm]、厚さが2.5[mm]、長さが1220[mm]であり、左右の側壁板の外側表面が曲率半径8[mm]の半円、内側表面が曲率半径5.5[mm]の半円であった。遮光膜41、42はいずれも紫外線を90%以上遮光するものである。遮光膜41が形成されている角度θは約86度であり、遮光膜42が形成されている角度θは約152度である。これらの角度θ1、θは、いずれも遮光膜41、42が左右の側壁板の内側表面を覆っている範囲W1、W2の実測値から放電ランプの左右の側壁板の曲率半径、厚さ及び屈折率を用いて算出することができる。
【0032】
図6は、図5の放電ランプC0、C1、C2の左右の側壁板の応力分布の測定結果を示す図である。図中の曲線F0は図5(a)の放電ランプC0の応力分布のグラフを、曲線F1は図5(b)の放電ランプC1の応力分布のグラフを、曲線F2は図5(c)の放電ランプC2の応力分布のグラフをそれぞれ示している。また、図5中の左右の側壁板の外側表面の頂点P2を図6のP2で、図5中の上下の壁板と左右の側壁板との境界B1を図6のB1で、図5(b)の遮光膜41の端部B23を図6のB23で、図5(c)の遮光膜42の端部B24を図6のB24でそれぞれ示している。放電ランプC0、C1、C2は、いずれも放電ランプを点灯する前は歪みが無く、応力値はほぼ0であった。
【0033】
グラフF0、F1、F2は、いずれも真空紫外線を2000時間以上照射した後の応力値を示している。
【0034】
図6に示すように、グラフF0では、頂点P2で引張応力の値が最大となった。長期間照射後頂点P2で放電ランプC0が破損しやすい事実をよく説明している。
【0035】
グラフF1では、頂点P2には引張応力が発生せず、遮光膜41の効果が確認できた。しかし、図5(b)の遮光膜41の端部B23、すなわち図6中のB23で引張応力の値が最大となった。さらに紫外線を照射し続けると、放電ランプC1は図6中のB23で破損しやすいものと考えられる。
【0036】
この結果から、誘電体バリア放電ランプ80の左右の側壁板の内側表面の頂点付近に遮光膜を形成し、その放電容器に内側から紫外線が照射されると、左右の側壁板の内側表面の頂点付近では左右の側壁板への紫外線の照射量が減少し内側表面の頂点付近の収縮を緩和することができる。しかしながら、遮光膜が形成されている領域の境界付近では石英の収縮の違いにより大きな歪みが発生しやすく、その境界付近の外側表面では引張応力が集中するため、クラックが発生しやすくなることがわかった。
【0037】
グラフF2では、図5(c)の遮光膜42の端部24、すなわち図6中のB24にも引張応力のピークは観測されなかった。また、グラフF2では、遮光膜42の端部B24より内側で引張応力の値が相対的に増大したが、グラフF1よりも引張応力の最大値が下がっていることがわかった。
【0038】
次に、遮光膜の無い放電ランプC0の外側に簡易的な遮光膜を形成した放電ランプS1〜S7を作製し、その遮光膜の幅と紫外線の照射光量との関係を調べた。放電ランプC0の外側表面に紫外線を100%遮光する遮光膜を、遮光膜の無いもの(0[mm])を含めて7種類の幅でそれぞれ形成することにより、放電ランプS1〜S7を得た。
【0039】
図7は、測定した紫外線光量について説明するものである。図7(a)は、遮光膜の幅を説明する図であり、図7(b)は、遮光膜の幅と紫外線光量との関係を示す図である。なお、図7(a)は、放電容器の長尺方向に垂直な断面を片側半分だけ示している。測定は、表2の条件S1〜S7について行った。紫外線の光量を測定する検査装置は、そのセンサーヘッドの受光膜を試作した放電クランプの下面から3.5[mm]の間隔をあけるようにして配置した。
【0040】
図7(b)では、横軸に放電容器の断面において長尺の中心軸Osから左右の側壁板に向かっての距離D[mm]を、縦軸に放電容器の中央部を1.0に規格化した172nmの真空紫外線の照度I(a.u.、任意単位)をそれぞれ表す。図7(b)から、各遮光膜を形成した放電ランプの光量を、横軸、横軸が凸部の頂点となる2つの縦線及び各遮光膜による照度のグラフにより囲まれた面積とし、遮光膜無しの放電ランプの光量を基準にして比率(%)をそれぞれ算出すると、表2に示す結果となった。なお、表中の角度θsは図7(a)に示すように遮光膜を形成している範囲を示す。
【0041】
【表2】
【0042】
表2より、遮光膜無しの放電ランプと比べて、光量の低下を、遮光膜の幅が6[mm]、遮光膜が形成される範囲が152度の放電ランプでは約20%以内に、遮光膜の幅が3[mm]、遮光膜が形成される範囲が102度の放電ランプでは約10%以内に抑えられることが分かった。
【0043】
以上の結果をまとめると、上記放電ランプの光量の実験結果及び図6の放電容器の左右の壁板の応力分布から遮光膜を形成する角度は86度以上152度以下であることが好ましく、102度以上152度以下であることがさらに好ましいことが分かった。
【0044】
本発明の実施例の放電ランプにおいて、長尺方向に垂直な断面が上記実験で試作した放電ランプの寸法と同じものであって、遮光膜を左右の側壁板の内側表面に凸部の頂点から内側に向かって6.7[mm]の幅、152度で形成し、遮光膜の紫外線の遮光率約67%とすると、遮光膜無しの放電ランプに対して94%の光量が得られた。また、この放電ランプでは、真空紫外線の照射時間が500時間を経過してもピーク状の歪みが発生しなかった。
【0045】
また、他の実施例の放電ランプにおいて、長尺方向に垂直な断面の外形寸法が最大縦幅12[mm]×最大横幅37[mm]、厚さが2[mm]であり、左右の側壁板の断面において外側表面が外側に向かう曲率半径6[mm]の半円、内側表面が外側に向かう曲率半径4[mm]の半円である場合でも、上記実験で試作した放電ランプと同様に光量の低下を抑えつつ歪みの発生も抑えることができることが確認された。
【0046】
本発明に係る誘電体バリア放電ランプは、左右の側壁板の内側表面に1層の遮光膜を形成しているが、紫外線の遮光率を異にする複数の遮光膜からなる多層膜を形成してもよい。その際、各層の遮光膜の形成する範囲により紫外線の遮光率を様々に設定してもよく、例えば、凸部の頂点からの距離毎に異なる遮光率を設定してもよい。具体的には、凸部の頂点付近で紫外線を90%以上遮光する第1の遮光膜を形成し、さらに、その第1の遮光膜の境界付近を相対的に透過率の低い第2の遮光膜で覆って上下の壁板と左右の側壁板との境界付近まで形成するようにしてもよい。このようにすることで、凸部の頂点付近で放電容器に飛来する飛散物の付着及びその固化を減らすことができるとともに、第1の遮光膜の境界付近でピーク状の引張り応力の発生を抑えることができ、紫外線の照射光量の低下を抑えつつ放電容器の破損を抑えることができる。
【0047】
本発明に係る誘電体バリア放電ランプは、放電容器の構造が、二重管構造、単管構造を問わない。また、二重管構造の場合、補助電極が設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 放電容器
1a 上下の壁板
1b 左右の側壁板
1c 前後の側壁板
2 上部電極
3 下部電極
4 遮光膜
5 チップ管
10 誘電体バリア放電ランプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9