(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の各実施形態について説明する。同一又は同類の部材には同一の符号を用いるか又は添字のみ異ならせて表示するものとし、重複した説明を省略しているが、各実施形態の記載は本発明の技術的思想を理解するために合目的的に解釈され、実施形態の記載に限定解釈されるべきものではない。まず、本発明の実施形態を示す誘電体バリア放電ランプの全体の概要を説明する。
【0016】
図2及び
図3は、本発明の一実施形態を示すものであって、
図2は誘電体バリア放電ランプの中央部を省略した斜視図であり、
図3は
図2の断面図である。
図3(a)は、
図2の放電容器を長尺の中心軸で切断して側面方向から見た断面図であり、
図3(b)は、
図3(a)の矢印方向に見たA−A線断面図である。なお、図中の一点鎖線は長尺の中心軸を示す。
【0017】
誘電体バリア放電ランプ10は、長尺の放電容器1と、電極2、3と、放電容器1の内部に紫外線を遮光するための遮光膜4と、チップ管5とを有する。放電容器1には、エキシマ発光のためのキセノン(Xe)ガスが封入されている。放電容器1は、合成石英製ガラスからなり、上下で向かい合う平坦な壁板(以下、「上下の壁板」という。)1aと、左右で向かい合う側壁板(以下、「左右の側壁板」という。)1bと、前後で向かい合う側壁板(以下、「前後の側壁板」という。)1cとから構成される。放電容器1は、上下の壁板1aと左右の側壁板1bとからなる長尺な管の前後を前後の側壁板1cでそれぞれ溶着して塞ぐことで構成できる。放電容器1では、長尺の中心軸に対して、上下の壁板1a及び左右の側壁板1bはいずれも平行に、前後の側壁板1cは垂直に配置されている。左右の側壁板1bは、長尺の中心軸に対して垂直に切断した断面で、外側に向かって凸となるように湾曲している。例えば、
図3(a)に示す放電容器1の横断面の上下方向の最大幅が十数mmであり、左右方向の最大幅が数十mmであり、前後方向の長さは数百mm以上である。前後の側壁板1cには、事前にそれぞれチップ管5が突設されている。各チップ管5は、前後の側壁板1cの外面からさらに外側に突出するように溶着された溶融石英ガラス製の管材であり、各チップ管5内は放電容器1の内部にそれぞれ通じている。この放電容器1は、上下の壁板1aの外面に電極2,3の金属薄膜が成膜される。電極2は、誘電体バリア放電ランプが放射する真空紫外線の強度を検査するためのセンサ用の未塗膜部を除けば、上壁板1aの上面のほぼ全面を覆うように成膜される。また、電極3は、下壁板1aの下面のほぼ全面に網目状のパターンで成膜される。
【0018】
左右の側壁板1b及び前後の側壁板1cの内側面には、酸化イットリウム(Y
2O
3)を含むスラリーを焼成して得られる紫外線を遮光するための遮光膜4が設けられている。
【0019】
誘電体バリア放電ランプ10を電源装置に接続することで紫外線照射装置を構成し、リード線を介して電極に所定の電力を印加することで誘電体バリア放電ランプが点灯し、この平坦な下壁板1aを通して
図3(a)の矢印の方向へ、172nmの真空紫外線が照射される。
【0020】
図1は、本実施形態の誘電体バリア放電ランプの長尺方向に垂直な断面図である。なお、
図1中の縦横方向の一点鎖線は断面の線対称の対称軸をそれぞれ示し、2つの対称軸の交点は
図2の長尺の中心軸上にある。また、破線の矢印は紫外線の照射方向を示す。
図1に示すように、放電容器1は、上下の壁板1aと左右の側壁板1bとを境界B1でそれぞれ滑らかに繋げている。上下の壁板1aと左右の側壁板1bとを境界B1で滑らかに繋げるとは、境界B1での接線の傾きの変化が小さくなるように接続することを意味する。
【0021】
図1において、左右の側壁板1bの断面は、外側に向かって凸形状となるように湾曲している。具体的には、外側表面が曲率半径R1の半円で、内側表面が曲率半径R2の半円で構成されている。左右の側壁板1bの断面は、各表面を楕円や頂点付近を略直線状とする等様々に湾曲していてもよい。
【0022】
図1において、遮光膜4は、左右の側壁板1bの内側表面に形成されている。そして、遮光膜4は、左右の側壁板1bの湾曲の頂点P1の内側を覆っており、かつ、
図1(前後の側壁板1cに平行な断面)において、遮光膜4は上下の壁板1aの中間の直線L1を線対称にして一様に形成されており、上下の壁板1aの中間の直線L1と上下の壁板1aと左右の側壁板1bとの境界を結ぶ直線L2との交点Cと遮光膜の一端B21とを結ぶ直線L3と、交点Cと遮光膜4の他端B22とを結ぶ直線L4とのなす角度θが152度となっている。このように遮光膜4を形成すると、少量の遮光膜4で左右の側壁板1bに発生する歪みを抑制して破壊に達するまでの時間を長くすることができる。左右の側壁板1bに発生する歪みを十分に抑制するためには、遮光膜4が形成されている角度θは60度以上であればよい。
【0023】
図4(a)及び(b)は、一例としていずれも
図1、
図2及び
図3に示す誘電体バリア放電ランプの放電容器1における左右の側壁板1bの内側面に、紫外線遮光膜を形成する様子を示している。まず、放電容器1を
図4(a)に示すように左右の側壁板1bの面が下になるように傾けて、チップ管5から酸化イットリウム(Y
2O
3)を含むスラリーSを左右の側壁板1bの内側表面において下側の頂部から所定の高さまで注入する。遮光膜を形成する角度は、注入するスラリーSの高さにより調整するが、少量のスラリーSを注入後左右の側壁板1bを傾けて調整してもよい。その後不要なスラリーSをチップ管5から排出後乾燥させる。
図4(a)の矢印はスラリーSの移動方向を示している。この遮光膜は172nmの真空紫外線を遮光することができるものであり、遮光率は膜厚や製造方法等によって調整できる。
【0024】
遮光率は、所定量のスラリー中の酸化イットリウムの濃度を変化させることによって調整することができる。例えば、酸化イットリウム(Y
2O
3)を重量比で10%含有するスラリーSをn−ブタノールで希釈することにより遮光率を調整することもでき、3倍希釈で遮光率約90%の遮光膜を、又は10倍希釈で遮光率約65%の遮光膜をそれぞれ得ることができる。ここで、遮光率は、波長172[nm]の真空紫外線に対する値である。
【0025】
図9は、誘電体バリア放電ランプの遮光膜の透過率の測定方法を説明する図である。
図9に示すように、上記誘電体バリア放電ランプ10を破壊して取り出した左右の側壁板の部分100の透過率の測定方法は、次の通りである。まず、窒素(N
2)雰囲気中の測定装置の台102上に図示しない治具で左右の側壁板の部分100を立てて固定する。このとき、測定対象とする左右の側壁板をスリット102aの上方に配置する。スリット102aの幅は測定する遮光膜の幅よりも十分に狭い。次に、光源101から測定波長(本実施形態では、172nm)の真空紫外線をスリット102aを介して一方の左右の側壁板側に照射し、他方の左右の側壁板側からセンサー103で遮光膜を透過した真空紫外線の光強度(透過強度)を測定した。このようにして測定した真空紫外線の透過強度から次の式によって透過率Tを求める。
T=I
1/I
0
ただし、I
0は遮光膜無しの誘電体バリア放電ランプの透過強度を、I
1は測定対象の誘電体バリア放電ランプの透過強度をそれぞれ示す。なお、Tを百分率(%)で表す場合は100をかける。
【0026】
また、次の式によって遮光率S
rを求める。
S
r=1−T
【0027】
上記のようにして左右の側壁板1b及び前後の側壁板1cに対してスラリーSを塗布した後、焼成すると
図4(b)に破線で示したような遮光膜4を得る。遮光する真空紫外線がキセノンガスによる波長172nmの真空紫外線とした場合、酸化イットリウムの他に、酸化亜鉛(ZnO)などの超微粒子或いは酸化チタンをシリカでコーティングした超微粒子を溶剤に混濁したスラリー(混濁液)やアルミナ(Al
2O
3)微粒子分散のスラリーの焼成物などを用いることができる。その後、チップ管5から排気して放電用ガスG(例えばキセノンガス)を注入し、内部に放電用ガスGを充填する。そして、双方のチップ管5の先端部を溶融封止させて内部を密閉する。その後、電極用の金属を蒸着してパターニングし、最後にフッ化マグネシウム(MgF
2)を蒸着することで電極を保護するためのコーティング膜を形成し、遮光膜を形成した放電容器1が完成する。
【0028】
図8は、遮光膜の無い従来の誘電体バリア放電ランプを示すものであって、放電ランプの長尺方向に垂直な断面図である。誘電体バリア放電ランプ80の放電容器の形状及び材質は、
図1で説明した放電容器1と同じである。誘電体バリア放電ランプ80の石英製放電容器に内側から紫外線が長期間照射されると、石英ガラスの体積が収縮することによって、左右の側壁板の内側表面には圧縮応力が発生し、反対に左右の側壁板の外側表面では引張応力が発生する。その結果、左右の側壁板の外側表面の頂部P付近に引張応力が集中して、クラックが発生しやすくなる。
【0029】
ここで、
図5に断面を示すように、左右の側壁板の断面において外側表面の凸部の頂点P2から遮光膜の端部までの上下の壁板に平行な距離W1、W2(以下、便宜上「遮光膜の幅」という。)を変えて放電ランプを作製し、放電ランプを長期間点灯したときに放電容器に発生する歪みを測定した。作製した放電ランプC0、C1、C2は以下表1の通りである。
歪み値及び応力値は、測定対象の放電ランプを偏光板と鋭敏色板とで挟むように偏光板上に配置し、偏光板側から照明を当てて鋭敏色板側から写真を撮り、画像解析によって求めた。歪み値と応力値は比例関係にある。
【0031】
図5(a)(C0)は遮光膜が無い放電ランプ、
図5(b)(C1)は遮光膜が左右の側壁板の内側表面の頂部付近に形成された放電ランプ、
図5(c)(C2)は遮光膜が左右の側壁板の内側表面のより広い範囲に形成された放電ランプである。放電ランプC0、C1、C2は、いずれも、長尺方向に垂直な断面の外形寸法が最大縦幅16[mm]×最大横幅45[mm]、厚さが2.5[mm]、長さが1220[mm]であり、左右の側壁板の外側表面が曲率半径8[mm]の半円、内側表面が曲率半径5.5[mm]の半円であった。遮光膜41、42はいずれも紫外線を90%以上遮光するものである。遮光膜41が形成されている角度θ
1は約86度であり、遮光膜42が形成されている角度θ
2は約152度である。これらの角度θ
1、θ
2は、いずれも遮光膜41、42が左右の側壁板の内側表面を覆っている範囲W1、W2の実測値から放電ランプの左右の側壁板の曲率半径、厚さ及び屈折率を用いて算出することができる。
【0032】
図6は、
図5の放電ランプC0、C1、C2の左右の側壁板の応力分布の測定結果を示す図である。図中の曲線F0は
図5(a)の放電ランプC0の応力分布のグラフを、曲線F1は
図5(b)の放電ランプC1の応力分布のグラフを、曲線F2は
図5(c)の放電ランプC2の応力分布のグラフをそれぞれ示している。また、
図5中の左右の側壁板の外側表面の頂点P2を
図6のP2で、
図5中の上下の壁板と左右の側壁板との境界B1を
図6のB1で、
図5(b)の遮光膜41の端部B23を
図6のB23で、
図5(c)の遮光膜42の端部B24を
図6のB24でそれぞれ示している。放電ランプC0、C1、C2は、いずれも放電ランプを点灯する前は歪みが無く、応力値はほぼ0であった。
【0033】
グラフF0、F1、F2は、いずれも真空紫外線を2000時間以上照射した後の応力値を示している。
【0034】
図6に示すように、グラフF0では、頂点P2で引張応力の値が最大となった。長期間照射後頂点P2で放電ランプC0が破損しやすい事実をよく説明している。
【0035】
グラフF1では、頂点P2には引張応力が発生せず、遮光膜41の効果が確認できた。しかし、
図5(b)の遮光膜41の端部B23、すなわち
図6中のB23で引張応力の値が最大となった。さらに紫外線を照射し続けると、放電ランプC1は
図6中のB23で破損しやすいものと考えられる。
【0036】
この結果から、誘電体バリア放電ランプ80の左右の側壁板の内側表面の頂点付近に遮光膜を形成し、その放電容器に内側から紫外線が照射されると、左右の側壁板の内側表面の頂点付近では左右の側壁板への紫外線の照射量が減少し内側表面の頂点付近の収縮を緩和することができる。しかしながら、遮光膜が形成されている領域の境界付近では石英の収縮の違いにより大きな歪みが発生しやすく、その境界付近の外側表面では引張応力が集中するため、クラックが発生しやすくなることがわかった。
【0037】
グラフF2では、
図5(c)の遮光膜42の端部24、すなわち
図6中のB24にも引張応力のピークは観測されなかった。また、グラフF2では、遮光膜42の端部B24より内側で引張応力の値が相対的に増大したが、グラフF1よりも引張応力の最大値が下がっていることがわかった。
【0038】
次に、遮光膜の無い放電ランプC0の外側に簡易的な遮光膜を形成した放電ランプS1〜S7を作製し、その遮光膜の幅と紫外線の照射光量との関係を調べた。放電ランプC0の外側表面に紫外線を100%遮光する遮光膜を、遮光膜の無いもの(0[mm])を含めて7種類の幅でそれぞれ形成することにより、放電ランプS1〜S7を得た。
【0039】
図7は、測定した紫外線光量について説明するものである。
図7(a)は、遮光膜の幅を説明する図であり、
図7(b)は、遮光膜の幅と紫外線光量との関係を示す図である。なお、
図7(a)は、放電容器の長尺方向に垂直な断面を片側半分だけ示している。測定は、表2の条件S1〜S7について行った。紫外線の光量を測定する検査装置は、そのセンサーヘッドの受光膜を試作した放電クランプの下面から3.5[mm]の間隔をあけるようにして配置した。
【0040】
図7(b)では、横軸に放電容器の断面において長尺の中心軸Osから左右の側壁板に向かっての距離D
2[mm]を、縦軸に放電容器の中央部を1.0に規格化した172nmの真空紫外線の照度I(a.u.、任意単位)をそれぞれ表す。
図7(b)から、各遮光膜を形成した放電ランプの光量を、横軸、横軸が凸部の頂点となる2つの縦線及び各遮光膜による照度のグラフにより囲まれた面積とし、遮光膜無しの放電ランプの光量を基準にして比率(%)をそれぞれ算出すると、表2に示す結果となった。なお、表中の角度θsは
図7(a)に示すように遮光膜を形成している範囲を示す。
【0042】
表2より、遮光膜無しの放電ランプと比べて、光量の低下を、遮光膜の幅が6[mm]、遮光膜が形成される範囲が152度の放電ランプでは約20%以内に、遮光膜の幅が3[mm]、遮光膜が形成される範囲が102度の放電ランプでは約10%以内に抑えられることが分かった。
【0043】
以上の結果をまとめると、上記放電ランプの光量の実験結果及び
図6の放電容器の左右の壁板の応力分布から遮光膜を形成する角度は86度以上152度以下であることが好ましく、102度以上152度以下であることがさらに好ましいことが分かった。
【0044】
本発明の実施例の放電ランプにおいて、長尺方向に垂直な断面が上記実験で試作した放電ランプの寸法と同じものであって、遮光膜を左右の側壁板の内側表面に凸部の頂点から内側に向かって6.7[mm]の幅、152度で形成し、遮光膜の紫外線の遮光率約67%とすると、遮光膜無しの放電ランプに対して94%の光量が得られた。また、この放電ランプでは、真空紫外線の照射時間が500時間を経過してもピーク状の歪みが発生しなかった。
【0045】
また、他の実施例の放電ランプにおいて、長尺方向に垂直な断面の外形寸法が最大縦幅12[mm]×最大横幅37[mm]、厚さが2[mm]であり、左右の側壁板の断面において外側表面が外側に向かう曲率半径6[mm]の半円、内側表面が外側に向かう曲率半径4[mm]の半円である場合でも、上記実験で試作した放電ランプと同様に光量の低下を抑えつつ歪みの発生も抑えることができることが確認された。
【0046】
本発明に係る誘電体バリア放電ランプは、左右の側壁板の内側表面に1層の遮光膜を形成しているが、紫外線の遮光率を異にする複数の遮光膜からなる多層膜を形成してもよい。その際、各層の遮光膜の形成する範囲により紫外線の遮光率を様々に設定してもよく、例えば、凸部の頂点からの距離毎に異なる遮光率を設定してもよい。具体的には、凸部の頂点付近で紫外線を90%以上遮光する第1の遮光膜を形成し、さらに、その第1の遮光膜の境界付近を相対的に透過率の低い第2の遮光膜で覆って上下の壁板と左右の側壁板との境界付近まで形成するようにしてもよい。このようにすることで、凸部の頂点付近で放電容器に飛来する飛散物の付着及びその固化を減らすことができるとともに、第1の遮光膜の境界付近でピーク状の引張り応力の発生を抑えることができ、紫外線の照射光量の低下を抑えつつ放電容器の破損を抑えることができる。
【0047】
本発明に係る誘電体バリア放電ランプは、放電容器の構造が、二重管構造、単管構造を問わない。また、二重管構造の場合、補助電極が設けられていてもよい。