(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の誘電体バリア放電ランプでは、放電容器の左右側壁板全体を遮光部材とする、或いは、その内側の表面全体に紫外線を遮光する遮光膜を形成すると、紫外線の照射光量を低下させるという問題があった。
【0007】
また、上記従来の誘電体バリア放電ランプでは、放電容器が主に石英からなるため、極めて高い紫外線のエネルギーを放電容器に照射し続けると遮光膜を形成する範囲によってはクラックが発生し、放電容器が破損することがあった。放電容器の左右側面の断面が外に向かって凸となるように湾曲している場合には、遮光膜が無い場合ではその湾曲の頂部付近で破損してしまうことがあった。また、遮光膜が左右側壁板の内側表面上で湾曲の頂部付近に形成されている場合でも加速実験では、遮光膜の短縁部付近で放電容器が破損してしまうことがあった。
【0008】
本件発明者らは、紫外線を放電容器に照射した際の湾曲部における破損箇所、遮光膜の紫外線の透過率及びその破壊応力に着目し、遮光膜の形成範囲及び紫外線の透過率によって放電容器の破損に至るまでの時間が異なることから、遮光膜の形成範囲及び遮光膜の紫外線の透過率が放電容器の湾曲部で生じる応力分布と何らかの関係を有するのではないかと考えた。そして、遮光膜の形成範囲及び遮光膜の紫外線の透過率と放電容器の応力分布との関係を綿密に調査したところ、遮光膜の形成範囲及び紫外線の透過率は放電容器の湾曲部で生じる応力分布において破壊応力に達するかどうかの重要な要因の一つであるとの知見に達した。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、真空紫外線を照射するための誘電体バリア放電ランプにおいて、主に真空紫外線の照射光量の低下を抑えつつ放電容器の破損を抑えて寿命を向上させることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る誘電体バリア放電ランプは、上下の壁板と左右の側壁板と前後の側壁板とからなる放電容器と、放電容器の内部に封入されたエキシマ発光のための放電用ガスと、放電容器の外部で上下の壁板の少なくとも一方に設けられた電極とを備える。そして、左右の側壁板は、前後の側壁板に平行な断面において、放電容器の外側に凸となるように湾曲している。その左右の側壁板の内側表面には紫外線を遮光する遮光膜が形成されている。そして、その遮光膜は、左右の側壁板の湾曲の頂部の内側を覆い、かつ、前後の側壁板に平行な断面において、上下の壁板の中間の直線と上下の壁板と左右の側壁板との境界を結ぶ直線との交点と遮光膜の一端とを結ぶ直線と、交点と遮光膜の他端とを結ぶ直線とのなす角度が180度未満である。そして、遮光膜の紫外線の透過率は、16%以上86%以下の範囲であることを特徴とする。
【0011】
ここで、遮光膜の紫外線の透過率は、放電ランプの発光波長に対する値である。
【0012】
この構成により、遮光膜の紫外線の透過率を16%以上86%以下の範囲にすることで左右の側壁板に発生する応力を抑制するため、左右の側壁板のクラック等の発生を抑えて放電容器の寿命を向上させることができる。また、遮光膜が左右の側壁板全体を覆っていないため、紫外線の照射光量の低下を抑えることができる。特に、左右の側壁板において応力の集中を抑えるのに適した領域に遮光膜の境界付近を配置するため、遮光膜の形成を最小限度にとどめることができる。
【0013】
本発明に係る誘電体バリア放電ランプでは、上下の壁板は、平坦な面であって左右の側壁板と滑らかに繋がっており、前後の側壁に平行な断面において、遮光膜の形成される角度が、86度以下であるように構成してもよい。
【0014】
本発明に係る他の誘電体バリア放電ランプは、上下の壁板と左右の側壁板と前後の側壁板とからなる放電容器と、放電容器の内部に封入されたエキシマ発光のための放電用ガスと、放電容器の外部で上下の壁板の少なくとも一方に設けられた電極とを備える。そして、左右の側壁板は、前後の側壁板に平行な断面において、放電容器の外側に凸となるように湾曲している。その左右の側壁板の内側表面には紫外線を遮光する遮光膜が形成されている。そして、その遮光膜は、左右の側壁板の湾曲の頂部の内側を覆い、かつ、前後の側壁板に平行な断面において、上下の壁板の中間の直線と上下の壁板と左右の側壁板との境界を結ぶ直線との交点と遮光膜の一端とを結ぶ直線と、交点と遮光膜の他端とを結ぶ直線とのなす角度が180度未満である。そして、遮光膜の紫外線の透過率は、湾曲の頂部付近よりも上下の壁板と左右の側壁板との境界側で相対的に高いことを特徴とする。
【0015】
この構成により、遮光膜の湾曲の頂部付近の透過率を相対的に低くし、上下の壁板と左右の側壁板との境界側の透過率を相対的に高くすることで左右の側壁板の遮光膜の端縁部付近に発生する応力の集中を緩和し、左右の側壁板のクラック等の発生を抑え、放電容器の寿命を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る誘電体バリア放電ランプによると、所定範囲の紫外線の透過率を有する遮光膜が、湾曲した左右側壁板の内側表面に所定範囲内に形成されるため、紫外線の照射光量の低下を抑えつつ左右の側壁板のクラック等の発生を抑えて寿命を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の各実施形態について説明する。同一又は同類の部材には同一の符号を用いるか又は添字のみ異ならせて表示するものとし、重複した説明を省略しているが、各実施形態の記載は本発明の技術的思想を理解するために合目的的に解釈され、実施形態の記載に限定解釈されるべきものではない。まず、本発明の実施形態を示す誘電体バリア放電ランプの全体の概要を説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
図2及び
図3は、本発明の第1の実施形態の一例を示すものであって、
図2は誘電体バリア放電ランプの長尺な中央部を省略した斜視図であり、
図3は
図2の断面図である。
図3(a)は、
図2の放電容器を長尺の中心軸で切断して側面方向から見た断面図であり、
図3(b)は、
図3(a)の矢印方向に見たA−A線断面図である。なお、図中の一点鎖線は長尺の中心軸を示す。
【0020】
誘電体バリア放電ランプ10は、長尺の放電容器1と、電極2、3と、放電容器1の内部に紫外線を遮光するための遮光膜4と、チップ管5とを有する。放電容器1には、エキシマ発光のためのキセノン(Xe)ガスが封入されている。放電容器1は、合成石英製ガラスからなり、上下で向かい合う平坦な壁板(以下、「上下の壁板」という。)1aと、左右で向かい合う側壁板(以下、「左右の側壁板」という。)1bと、前後で向かい合う側壁板(以下、「前後の側壁板」という。)1cとから構成される。放電容器1は、上下の壁板1aと左右の側壁板1bとからなる長尺な管の前後を前後の側壁板1cでそれぞれ溶着して塞ぐことで構成できる。放電容器1では、長尺の中心軸に対して、上下の壁板1a及び左右の側壁板1bはいずれも平行に、前後の側壁板1cは垂直に配置されている。左右の側壁板1bは、長尺の中心軸に対して垂直に切断した断面で、外側に向かって凸となるように湾曲している。例えば、
図3(a)に示す放電容器1の横断面の上下方向の最大幅が十数mmであり、左右方向の最大幅が数十mmであり、前後方向の長さは数百mm以上である。前後の側壁板1cには、事前にそれぞれチップ管5が突設されている。各チップ管5は、前後の側壁板1cの外面からさらに外側に突出するように溶着された溶融石英ガラス製の管材であり、各チップ管5内は放電容器1の内部にそれぞれ通じている。この放電容器1は、上下の壁板1aの外面に電極2,3の金属薄膜が成膜される。電極2は、誘電体バリア放電ランプが放射する真空紫外線の強度を検査するためのセンサー用の未塗膜部を除けば、上壁板1aの上面のほぼ全面を覆うように成膜される。また、電極3は、下壁板1aの下面のほぼ全面に網目状のパターンで成膜される。
【0021】
左右の側壁板1b及び前後の側壁板1cの内側面には、酸化イットリウム(Y
2O
3)を含むスラリーを焼成して得られる紫外線を遮光するための遮光膜4が設けられている。
【0022】
誘電体バリア放電ランプ10を電源装置に接続することで紫外線照射装置を構成し、リード線を介して電極に所定の電力を印加することで誘電体バリア放電ランプが点灯し、この平坦な下壁板1aを通して
図3(a)の矢印の方向へ、172nmの真空紫外線が照射される。
【0023】
図1は、本発明の第1の実施形態の一例を示すものであって、誘電体バリア放電ランプの長尺方向に垂直な断面図である。
図1中の縦横方向の一点鎖線は断面の線対称の対称軸をそれぞれ示し、2つの対称軸の交点は
図2の長尺の中心軸上にある。また、破線の矢印は紫外線の照射方向を示す。
図1に示すように、放電容器1は、上下の壁板1aと左右の側壁板1bとを境界B1でそれぞれ滑らかに繋げている。上下の壁板1aと左右の側壁板1bとを境界B1で滑らかに繋げるとは、境界B1での接線の傾きの変化が小さくなるように接続することを意味する。
【0024】
図1において、左右の側壁板1bの断面は、外側に向かって凸形状となるように湾曲しており、具体的には、外側表面が曲率半径R1の半円で、内側表面が曲率半径R2の半円で構成されている。なお、左右の側壁板1bの断面は、各表面を楕円や頂点付近を略直線状とする等様々に湾曲していてもよい。
【0025】
図1において、遮光膜4は、紫外線の透過率を約24%とするものであり、左右の側壁板1bの内側表面に形成されている。遮光膜4の紫外線の透過率は、16%以上86%以下、好ましくは22%以上80%以下である。そして、遮光膜4は、左右の側壁板1bの湾曲の頂点P1の内側を覆っており、かつ、
図1(前後の側壁板1cに平行な断面)において、遮光膜4は上下の壁板1aの中間の直線L1を線対称にして一様に形成されており、上下の壁板1aの中間の直線L1と上下の壁板1aと左右の側壁板1bとの境界B1を結ぶ直線L2との交点Cと遮光膜の一端B21とを結ぶ直線L3と、交点Cと遮光膜4の他端B22とを結ぶ直線L4とのなす角度θが86度となっている。直線L3と直線L4とのなす角度θは、180度未満であり、86度以下にすることができる。このように、少量の遮光膜4で左右の側壁板1bに発生する歪みを抑制して破壊に達するまでの時間を長くすることができる。
【0026】
図4(a)及び(b)は、一例としていずれも
図1、
図2及び
図3に示す誘電体バリア放電ランプの放電容器1における左右の側壁板1bの内側面に、紫外線遮光膜を形成する様子を示している。まず、放電容器1を
図4(a)に示すように左右の側壁板1bの面が下になるように傾けて、チップ管5から酸化イットリウム(Y
2O
3)を含むスラリーSを左右の側壁板1bの内側表面において下側の頂部から所定の高さまで注入する。遮光膜を形成する角度は、注入するスラリーSの高さにより調整するが、少量のスラリーSを注入後左右の側壁板1bを傾けて調整してもよい。その後不要なスラリーSをチップ管5から排出後乾燥させる。
図4(a)の矢印はスラリーSの移動方向を示している。この遮光膜は172nmの真空紫外線を遮光することができるものであり、遮光率は膜厚や製造方法等によって調整できる。
【0027】
遮光率は、所定量のスラリー中の酸化イットリウムの濃度を変化させることによって遮光率(透過率)を調整することができる。例えば、酸化イットリウム(Y
2O
3)を重量比で10%含有するスラリーSをn−ブタノールで希釈することにより遮光率を調整することもでき、3倍希釈で透過率約10%の遮光膜を、又は10倍希釈で透過率約35%の遮光膜をそれぞれ得ることができる。ここで、遮光率は及び透過率は、波長172[nm]の真空紫外線に対する値である。
【0028】
図10は、誘電体バリア放電ランプの遮光膜の紫外線の透過率の測定方法を説明する図である。
図10に示すように、上記誘電体バリア放電ランプ10を破壊して取り出した左右の側壁板の部分100の透過率の測定方法は、次の通りである。まず、窒素(N
2)雰囲気中の測定装置の台102上に図示しない治具で左右の側壁板の部分100を立てて固定する。このとき、測定対象とする左右の側壁板をスリット102aの上方に配置する。スリット102aの幅は測定する遮光膜の幅よりも十分に狭い。次に、光源101から測定波長(本実施形態では、172nm)の真空紫外線をスリット102aを介して一方の左右の側壁板側に照射し、他方の左右の側壁板側からセンサー103で遮光膜を透過した真空紫外線の光強度(透過強度)を測定した。このようにして測定した真空紫外線の透過強度から次の式によって透過率Tを求める。
T=I
1/I
0
ただし、I
0は遮光膜無しの誘電体バリア放電ランプの透過強度を、I
1は測定対象の誘電体バリア放電ランプの透過強度をそれぞれ示す。なお、Tを百分率(%)で表す場合は100をかける。
【0029】
上記のようにして左右の側壁板1b及び前後の側壁板1cに対してスラリーSを塗布した後焼成すると、
図4(b)に破線で示したような遮光膜4を得る。遮光する真空紫外線がキセノンガスによる波長172nmの真空紫外線とした場合、酸化イットリウムの他に、酸化亜鉛(ZnO)などの超微粒子或いは酸化チタンをシリカでコーティングした超微粒子を溶剤に混濁したスラリー(混濁液)やアルミナ(Al
2O
3)微粒子分散のスラリーの焼成物などを用いることができる。その後、チップ管5から排気して放電用ガスG(例えばキセノンガス)を注入し、内部に放電用ガスGを充填する。そして、双方のチップ管5の先端部を溶融封止させて内部を密閉する。その後、電極用の金属を蒸着してパターニングし、最後にフッ化マグネシウム(MgF
2)を蒸着することで電極を保護するためのコーティング膜を形成し、遮光膜を形成した放電容器1が完成する。
【0030】
図8は、遮光膜の無い従来の誘電体バリア放電ランプを示すものであって、放電ランプの長尺方向に垂直な断面図である。誘電体バリア放電ランプ80の放電容器の形状及び材質は、
図1で説明した放電容器と同じである。誘電体バリア放電ランプ80の石英製放電容器に内側から紫外線が長期間照射されると、石英ガラスの体積が収縮することによって、左右の側壁板の内側表面には圧縮応力が発生し、反対に左右の側壁板の外側表面では引張応力が発生する。その結果、左右の側壁板の外側表面の頂点P付近に引張応力が集中して、クラックが発生しやすくなる。
【0031】
ここで、
図5に断面を示すように、遮光膜の紫外線の透過率Tを変えて放電ランプを作製し、放電ランプを長期間点灯したときに放電容器に発生する歪みを測定した。作製した放電ランプC0、C1、C2は以下表1の通りである。歪み値及び応力値は、測定対象の放電ランプを偏光板と鋭敏色板とで挟むように偏光板上に配置し、偏光板側から照明を当てて鋭敏色板側から写真を撮り、画像解析によって求めた。歪み値と応力値は比例関係にある。
【0033】
図5(a)(C0)は遮光膜が無い放電ランプ、
図5(b)(C1)は透過率約7.9%の遮光膜が左右の側壁板の内側表面の頂部付近に形成された放電ランプ、
図5(c)(C2)は透過率約24%の遮光膜が左右の側壁板の内側表面の頂部付近に形成された放電ランプである。放電ランプC0、C1、C2は、いずれも、長尺方向に垂直な断面の外形寸法が最大縦幅16[mm]×最大横幅45[mm]、厚さが2.5[mm]、長さが870[mm]であり、左右の側壁板の外側表面が曲率半径8[mm]の半円、内側表面が曲率半径5.5[mm]の半円であった。遮光膜41、42はいずれも外側表面の頂点付近を覆っており、遮光膜41、42が形成されている角度θ
1は約86度となっている。この角度θ
1は、遮光膜41、42が左右の側壁板の内側表面を覆っている範囲Wの実測値から放電ランプの左右の側壁板の曲率半径、厚さ及び屈折率を用いて算出することができる。
【0034】
図6は、
図5の放電ランプC0、C1、C2の左右の側壁板の応力分布の測定結果を示す図である。図中のF0は
図5(a)の放電ランプC0の応力分布のグラフを、F1は
図5(b)の放電ランプC1の応力分布のグラフを、F2は
図5(c)の放電ランプC2の応力分布のグラフをそれぞれ示している。放電ランプC0、C1、C2は、いずれも放電ランプを点灯する前は歪みが無く、応力値はほぼ0であった。
【0035】
グラフF0、F1、F2は、いずれも真空紫外線を2000時間以上照射した後の応力値を示している。また、
図5中の左右の側壁板の頂部P2を
図6のP2で、
図5中の上下の壁板と左右の側壁板との境界B1を
図6のB1で、
図5(b)及び
図5(c)の遮光膜41、42の端部B2を
図6のB2で示している。なお、以下便宜上、ピーク応力又はピーク歪みという語を使うことがある。ピーク応力とは、
図6に示すような応力分布図において、頂点P2における引張応力の最大値、又は応力が頂点P2で最大でないときはランプの左右の側壁板の範囲(P2〜B1の範囲)での引張応力の極大値、又は応力が頂点P2で最大でなく、かつ、ランプの左右の側壁板の範囲(P2〜B1の範囲)での引張応力の極大値が無いときは上下の壁板の範囲(B1から内側)での最大値のことをいう。ピーク歪みとは、ピーク応力に対応する歪みをいう。
図6では、グラフF0は頂点P2、グラフF1及びF2はB2で、ピーク応力及びピーク歪みが現れている。
【0036】
図6に示すように、グラフF0では、頂点P2で引張応力の値が最大となった。長期間照射後頂点P2で放電ランプC0が破損しやすい事実をよく説明している。
【0037】
グラフF1では、頂点P2には引張応力が発生せず、遮光膜41の効果が確認できた。しかし、遮光膜41の端部、すなわち
図6中のB2で引張応力の値が最大となった。さらに紫外線を照射し続けると、放電ランプC1は
図6中のB2で破損しやすいものと考えられる。
【0038】
この結果から、誘電体バリア放電ランプ70の左右の側壁板の内側表面の頂点付近に遮光膜を形成し、その放電容器に内側から紫外線が照射されると、左右の側壁板の内側表面の頂点付近では左右の側壁板への紫外線の照射量が減少し内側表面の頂点付近の収縮を緩和することができることがわかった。しかしながら、遮光膜が形成されている領域の境界付近では石英の収縮の違いにより大きな歪みが発生しやすく、その境界付近の外側表面では引張応力が集中するため、クラックが発生しやすくなることがわかった。
【0039】
グラフF2では、遮光膜42の端部、すなわち
図6中のB2で引張応力のピークは観測されたが、グラフF1よりも引張応力の最大値が下がっていることがわかった。
【0040】
次に、遮光膜の無い放電ランプC0の内側表面に、透過率約35%の遮光膜を外側表面の頂点から内側に向かって4[mm]、角度約86度の範囲まで形成した放電ランプC3を作製し、上記放電ランプC1、C2、C3の放電容器のピーク歪みと放電容器の点灯時間との関係を調べた。ピーク歪みの値は、上記歪み値と同様にして測定した。調べた放電ランプC1、C2、C3は以下表2の通りである。
【0042】
図7(a)は、放電容器のピーク歪みと放電容器の点灯時間との関係を表すグラフを示す図である。
図7(a)では、横軸に放電容器の点灯時間Hrを、縦軸にピーク歪みの値ε(a.u.、任意単位)をそれぞれ表す。
図7(a)中の各プロットにおいて、丸形(○)が放電ランプC0を点灯装置の器具内で点灯させた場合のピーク歪みの測定値を、菱形(◇)が放電ランプC1を点灯装置の器具内で点灯させた場合のピーク歪みの測定値を、四角(□)が放電ランプC2を裸(器具無し)で点灯させた場合のピーク歪みの測定値を、三角(△)が放電ランプC3を点灯装置の器具内で点灯させた場合のピーク歪みの測定値をそれぞれ示す。なお、曲線G0〜G3はそれらの測定結果から推定されるグラフをそれぞれ示している。また、放電ランプは、点灯装置の器具内で点灯させると、裸で点灯させるよりも約25%寿命が短くなることが判明している。
【0043】
図7(a)から、放電ランプC0では、グラフG0に示すように点灯時間が2000時間で歪みの値が48(a.u.)であった。放電ランプC1では、グラフG1に示すように点灯時間が2221時間で歪みの値が46(a.u.)であった。一方、放電ランプC3では、グラフG3に示すように点灯時間が2040時間で歪みの値が30(a.u.)であり、点灯時間が2978時間で歪みの値が40(a.u.)であった。このことから、遮光膜の紫外線の透過率Tを上げると同じ点灯時間でもピーク歪みの値が下がることがわかった。したがって、上記遮光膜を形成した放電ランプは、遮光膜の紫外線の透過率Tを上げることで放電容器のクラックの発生するまでの時間を延ばすことができ、放電容器の破損を抑えて寿命を延ばすことができる。
【0044】
次に、上記放電ランプC0〜C3を2000時間点灯させたときの放電容器のピーク歪み値を上記
図6及び
図7(a)から求め、ピーク歪みと遮光膜の紫外線の透過率Tとの関係を調べた。さらに、放電ランプC4〜C8を以下の条件でそれぞれ試作し、2000時間点灯させたときの放電容器のピーク歪みと遮光膜の紫外線の透過率Tとの関係を調べた。表3は、その結果を示す。
【0045】
放電ランプC4〜C8は、上記放電ランプC0〜C3と同じ寸法及び形状の放電容器を用いた。放電ランプC4〜C8は、遮光膜が左右の側壁板の内側表面の頂部付近に形成され、遮光膜が形成される角度は約152度であり、遮光膜の透過率はそれぞれ20%、30%、40%、50%、60%である。
【0047】
図7(b)は、放電容器のピーク歪みと遮光膜の紫外線の透過率Tとの関係を示す図である。横軸に遮光膜の紫外線の透過率T(%)を、縦軸に2000時間点灯させたときの放電容器のピーク歪みの値ε(a.u.)をそれぞれ表す。図中のプロットC0〜C8は上記放電ランプC0〜C8をそれぞれ2000時間点灯させたときの各透過率Tに対するピーク歪みをそれぞれ示す。また、曲線HはプロットC0〜C8の補間曲線を示す。
【0048】
図7(b)におけるプロットC8のピーク歪みの値は17であり、遮光膜の紫外線の透過率が60%付近でピーク歪みの値が最も小さくなっていることがわかる。また、ピーク歪みの値が所定値以下となる最適な透過率の範囲が存在することもわかる。曲線Hから、ピーク歪みの値が約35以下となる透過率の範囲は、約16%以上約86%以下であることが読み取れる。また、ピーク歪みの値が約30未満となる透過率の範囲は、約22%以上約80%以下であることが読み取れる。
【0049】
以上のことから、本発明の第1の実施形態の放電ランプは、遮光膜の紫外線の透過率が約16%以上約86%以下であると放電ランプの実用上十分な寿命を得られることがわかる。放電ランプの寿命をより長くするためには、遮光膜の紫外線の透過率が約22%以上約80%以下であることが好ましい。
【0050】
(第2の実施形態)
本発明の実施形態を示す誘電体バリア放電ランプでは、遮光膜を形成する範囲毎に遮光膜の紫外線の透過率を異にするように構成してもよい。
【0051】
図9は、本発明の第2の実施形態の一例を示すものであって、誘電体バリア放電ランプの長尺方向に垂直な断面図である。誘電体バリア放電ランプ20は、上述した
図1の誘電体バリア放電ランプと同様の形状及び材質であり、左右の側壁板1bの内側表面に遮光膜24と、さらにその遮光膜24を被覆する遮光膜25とを形成している。
【0052】
図9において、左右の側壁板1bの断面は、外側に向かって凸形状となるように湾曲しており、具体的には、外側表面が曲率半径R1の半円で、内側表面が曲率半径R2の半円で構成されている。なお、左右の側壁板1bの断面は、各表面を楕円や頂点付近を略直線状とする等様々に湾曲していてもよい。
【0053】
図9において、遮光膜24は、左右の側壁板1bの湾曲の頂部P1の内側を覆っており、かつ、
図1(前後の側壁板1cに平行な断面)において、遮光膜24は上下の壁板1aの中間の直線L1を線対称にして一様に形成されており、上下の壁板1aの中間の直線L1と上下の壁板1aと左右の側壁板1bとの境界を結ぶ直線L2との交点Cと遮光膜24の一端B21とを結ぶ直線L3と、交点Cと遮光膜24の他端B22とを結ぶ直線L4とのなす角度θ
2が約86度となっている。また、遮光膜25は、遮光膜24を覆っており、かつ、
図9(前後の側壁板1cに平行な断面)において、遮光膜25は上下の壁板1aの中間の直線L1を線対称にして一様に形成されており、交点Cと遮光膜25の一端B31とを結ぶ直線L5と、交点Cと遮光膜25の他端B32とを結ぶ直線L6とのなす角度θ
3が180度未満となっている。遮光膜24は左右の側壁板1bの湾曲の頂部P1の内側を覆っていればよく、角度θ
2は86度以下にすることができる。
【0054】
図9において、遮光膜24の紫外線の透過率は、遮光膜25の紫外線の透過率よりも相対的に低くなっており、湾曲の頂部P1付近よりも上下の壁板1aと左右の側壁板1bとの境界B1側で相対的に高くなっている。遮光膜24は具体的に紫外線を約10%透過するものであり、遮光膜25は紫外線を約50%透過するものである。遮光膜24は紫外線を約10%以下で透過するものであってもよい。
【0055】
このようにしても、遮光膜25により遮光膜24の端部B21、22付近の石英の収縮の差を小さくすることにより遮光膜24の端部B21、22におけるピーク状に発生する引張応力の最大値を抑えて放電容器の破損を抑えることができる。また、遮光膜24により左右の側壁板1bの湾曲の頂部付近における白色の飛散物の付着及びその固化を減らすことができる。なお、遮光膜24と遮光膜25との上下関係は問わない。
【0056】
本発明の第2の実施形態では、左右の側壁板の湾曲の頂部付近で遮光膜の紫外線の透過率が10%以下となるようにすることで頂部付近で放電容器に飛来する飛散物の付着及びその固化を減らすことができる。さらに、その遮光膜の境界付近を相対的に透過率の高い他の遮光膜で覆うことでピーク状の引張り応力の発生を抑えることができ、紫外線の照射光量の低下を抑えつつ放電容器の破損を抑えることができる。
【0057】
本発明に係る誘電体バリア放電ランプは、放電容器の構造が、二重管構造、単管構造を問わない。また、二重管構造の場合、補助電極が設けられていてもよい。