【課題を解決するための手段】
【0014】
1.1 能動遮音制御の理論
まず、能動遮音制御について理論的に検討する。
図3に、能動遮音制御の計算モデルを示す。以下においては、
図3に示すように、音源側と受音側を隔てる遮音パネルとして無限バフル中に埋め込まれた薄肉平板を想定し、この遮音パネルに対して音(平面音波)が垂直入射する場合について検討を行う。この場合において、遮音パネルの運動方程式は、下記式(1)によって表される。
【数1】
【0015】
また、パネルの振動速度(v(r)とする。)は、N次振動モードまで考慮すると、モード展開式により、下記式(2)で表される。
【数2】
【0016】
音の波長が遮音パネルの寸法よりも十分に長い周波数領域(低周波数領域)においては、1次放射モード(又は1次パワーモード)が透過音において支配的である。また、1次放射モード(又は1次パワーモード)は、この低周波数帯域において体積速度に等価である。ここで、入射音波による体積速度Uは、下記式(5)で表わされる。
【数3】
【0017】
以下、矩形状の遮音パネルの周縁を単純支持(変位のみを拘束する支持)する場合について考える。ここでは、遮音パネルに音波が垂直入射する場合を想定しているため、[奇数,奇数]次振動モード(後述する非相殺型振動モード)しか励振されない。このため、[奇数,奇数]次振動モードのみを考慮して計算すると、モード固有関数Ψ
i(r)は、下記式(7)で表わすことができる。
【数4】
【0018】
また、上記式6で定義されるuのi次成分は、下記式(8)で表わすことができる。
【数5】
【0019】
ところで、圧電フィルムが曲げ振動することによって発生する電荷q(t)は、下記式(9)で表わされる。
【数6】
【0020】
以下、
図3に示すように、遮音パネル上にΓ(x,y)の形状関数でシェイピングされた短冊状の圧電フィルムをy軸に平行に貼り付ける場合について考える。ただし、圧電フィルムの幅は、検討している周波数領域において生じる振動分布よりも十分に狭いものとする。このとき、上記式(7),(9)より、圧電フィルムからの出力電流i(t)は、下記式(10)で表わされる。
【数7】
【0021】
ここでは、形状関数Γ(x,y)を下記式(11)で表わされる放物線(二次曲線)で定義する。
【数8】
【0022】
上記式(7),(11)を上記式(10)に代入すると、出力電流i(t)は、下記式(12)で表わされる。
【数9】
【0023】
下記式(14)が成立する場合、上記式(8)と上記式(13)との比較から、低次の4つの振動モードについて、下記式(15)が成立することが分かる。
【数10】
【0024】
上記式(15)は、5次以上の高次の振動モードが無視できるとした場合、低周波数領域において、圧電フィルムからの電流の出力値が体積速度と単純な比例関係にあり、圧電フィルムからの電流の出力値が体積速度と等価であることを示している。すなわち、圧電フィルムからの出力値を演算によることなくそのままエラー信号として能動遮音制御に利用することができることを示している。加えて、上記式(14)が成立するときのx
Nは、反共振周波数における振動の節線の位置を示している。換言すると、低周波数領域において体積速度に等価な信号を得るためには、上記式(11)で表わされる二次曲線に沿って切断した短冊状の圧電フィルムを反共振周波数における振動分布の節線上に貼り付ければよいことになる。
【0025】
既に述べた通り、本発明者らは、反共振周波数における振動分布の節線上にアクチュエータを配置することで、低周波数領域の比較的広い帯域において大きな制御効果を得ることができることを明らかにしている(特許文献8及び非特許文献5を参照)。しかし、反共振周波数における遮音パネルの節線の振動が遮音パネルの体積速度とどのような関係があるかについては不明であった。加えて、従来は、遮音パネルにおける特定部分の変位のみを検知し、その検知した変位から遮音パネルの体積速度を求めるためには、高度な演算が必要であると考えられていた。このため、遮音パネルを加振するアクチュエータとしてではなく、遮音パネルの体積速度を検知するセンサとしての圧電フィルムの配置において、上記のような結論が得られたことは、驚くべきことである。
【0026】
ところで、ここまでは、遮音パネルに圧電フィルムを貼り付けた場合について説明したが、上記式(9)のような出力が得られる他の分布定数型センサを用いても同様の結果が得られる。また、上記式(12)で表わされる二次曲線に沿って圧電フィルムの側縁を正確に切断しなくても、その長手方向両端部で幅が最小となりその長手方向中心部で幅が最大となる短冊状のものであれば、上記式(15)と同等かそれに近い関係が得られる。さらに、ここまでは、y軸に平行な方向に圧電フィルムを貼り付けたが、x軸方向に貼り付けた場合についても同様である。以上のことから、以下の能動遮音装置と、センサ付き遮音パネルの製造方法とを提案するに至った。
【0027】
1.2 能動遮音装置の提案
すなわち、
(a)音源側と受音側を隔てるための遮音パネルと、
(b)遮音パネルの表面に貼り付けられ、音源側からの入射音に起因する遮音パネルの振動による変位を検知して出力するための分布定数型センサと、
(c)分布定数型センサから出力される変位の出力値が小さくなるように制御信号を出力するための制御手段と、
(d)制御手段から出力された制御信号に基づいて遮音パネルの所定箇所を加振することにより、遮音パネルの透過音を抑制するアクチュエータと
を備えた能動遮音装置であって、
分布定数型センサが、その両端部で幅が最小となりその中心部で幅が最大となる短冊状のものとされるとともに、
非制御時の遮音パネルに対して音を垂直に入射させて特定の反共振周波数Ωで反共振させた際に節線となる節線予定線L上に分布定数型センサを貼り付けたことを特徴とする能動遮音装置
である。
【0028】
ここで、「分布定数型センサ」とは、「加速度ピックアップ」のように測定対象物(遮音パネル)における特定の点の情報(変位)が得られる「集中定数型センサ」とは異なり、「圧電フィルム」のように測定対象物(遮音パネル)における特定の面状領域あるいは線状領域の情報(変位)が得られるセンサのことをいう。分布定数型センサとしては、PVDF(Polyvinylidene Fluoride)フィルムなどの圧電フィルムや、圧電セラミックスなどが例示される。圧電セラミックスであっても、薄板状で剛性の小さなものであれば、圧電フィルムと同様に扱うことができる。遮音パネルの変位は、通常、電流値や電圧値として分布定数型センサから出力される。
【0029】
また、遮音パネルの形状によっては、節線予定線Lが曲線状となる場合もあるが、この場合には、分布定数型センサも、曲線状の節線予定線Lに沿った帯状に形成する。特定の反共振周波数Ωにおいては、複数本の節線が現れるが、これらの節線に対応する全ての節線予定線L上に分布定数型センサを貼り付ける必要はなく、少なくとも1本の節線予定線L上に貼り付ければよい。同一な1本の節線予定線Lには、1本の分布定数型センサのみが貼り付けられる。前記短冊状の分布定数型センサが長さ方向で複数区間に分割されたものはそれら複数の区間を合わせて1本とカウントする。分布定数型センサのカウント方法は、以下においても同様である。
【0030】
さらに、「非制御時」とは、遮音パネルにアクチュエータが配されておらず、遮音パネルがアクチュエータによって加振されていないときのことをいう。これに対し、遮音パネルにアクチュエータが配されており、遮音パネルがアクチュエータによって加振されているときのことを「制御時」と呼ぶことがある。
【0031】
本発明の能動遮音装置の構成を採用すると、遮音パネルの全面に亘って分布定数型センサを貼り付けておらず、遮音パネルにおける特定部分のみに分布定数型センサを貼り付けただけであるにもかかわらず、遮音パネルの体積速度を高い精度で検知することが可能になる。したがって、分布定数型センサの使用量を減らしてコストを低減しながらも、高い制御効果を得ることも可能である。加えて、分布定数型センサから得られる出力値は、遮音パネルの体積速度と単純な比例関係にあり、遮音パネルの体積速度と等価なものとして扱うことができる。したがって、分布定数型センサの出力値に演算を施して他のパラメータに変換しなくても、分布定数型センサからの出力値そのものを小さくするように制御を行いさえすれば、結果として、遮音パネルの体積速度、すなわち遮音パネルの透過音が小さくなるように制御していることと同じことになる。このため、能動遮音装置を、演算のアルゴリズムを構築する必要がなく、汎用性に優れ、実用化が容易なものとすることもできる。
【0032】
本発明の能動遮音装置において、節線予定線Lは、遮音パネルの反共振周波数Ωで反共振させた際に節線となるものであれば特に限定されないが、反共振周波数Ωとして、1次の非相殺型振動モードと4次以下の非相殺型振動モードの連成によるものを採用すると好ましい。ここで、「非相殺型振動モード」とは、例えば遮音パネルが長方形である場合の[奇数,奇数]次振動モードのように、遮音パネルの輪郭線と節線とで区画されるエリアの総数が奇数であり、ある同一位相で振動するエリアの数と、該エリアとは逆の同一位相で振動するエリアとの数とが異なる次数の振動モードのことをいう。非相殺型振動モードの次数は、全ての非相殺型振動モードのうち、固有周波数の低い方から数えた順番を意味する。
【0033】
これに対し、遮音パネルが長方形である場合の [奇数,偶数]次振動モード、[偶数,奇数]次振動モード及び[偶数,偶数]次振動モードのように、遮音パネルの輪郭線と節線とで区画されるエリアの総数が偶数であり、ある同一位相で振動するエリアの数と、該エリアとは逆の同一位相で振動するエリアとの数とが一致する次数の振動モードのことを「相殺型振動モード」と呼ぶ。相殺型振動モードでは、遮音パネルにおける音の吸込みと吐出しとが略等しくなるために、1次放射モード(透過音)に殆ど影響を及ぼさない傾向があるのに対して、非相殺型振動モードでは、遮音パネルにおける音の吸込みと吐出しとが等しくならず、1次放射モード(透過音)に大きな影響を及ぼす傾向がある。
【0034】
このように、反共振周波数Ωとして、1次の非相殺型振動モードと4次以下の非相殺型振動モードの連成によるものを採用することにより、透過音に大きく影響を及ぼし得る遮音パネルの体積速度の変化を選択的に検知することが可能になり、結果として、能動遮音制御の制御効果をさらに高めることができる。というのも、低周波数領域においては、1次の放射モードによる透過音響パワーが、他次の放射モードによる透過音響パワーよりも圧倒的に大きく、全透過音響パワーにおいて支配的であるが、この1次の放射モードにおいては、当該放射モードを構成する非相殺型振動モードの次数が低ければ低いほどその振動モードの寄与が大きくなる傾向があるからである。また、非相殺型振動モードの次数が低ければ低いほど節線予定線Lの本数が少なくなるため、特定の反共振周波数Ωにおける全ての節線予定線Lに重ねて分布定数型センサを貼り付ける場合であっても、分布定数型センサの使用本数を少なく抑えることも可能になる。
【0035】
本発明の能動遮音装置において、遮音パネル1枚当たりに使用する分布定数型センサの本数(後述するように、遮音パネルが複数枚の小パネルで構成される場合には、小パネル1枚当たりに使用する分布定数型センサの本数。以下同じ。)は、特に限定されない。しかし、分布定数型センサの本数を多くしすぎると、コストが増大して本発明の能動遮音装置の構成を採用する意義が低下する。このため、遮音パネル1枚当たりの分布定数型センサの本数は、通常、10本以下とされる。遮音パネル1枚当たりの分布定数型センサの本数は、6本以下であると好ましく、4本以下であるとより好ましい。一方、遮音パネル1枚当たりの分布定数型センサの本数は、1本以上であれば特に限定されないが、透過音に影響を及ぼす遮音パネルの体積速度を高い精度で検知するためには、2本以上とすると好ましい。遮音パネル1枚当たりに複数本の分布定数型センサを使用する場合には、制御手段は、複数本の分布定数型センサからの変位の出力値の線形和が小さくなるように制御信号を出力する。
【0036】
さらに、本発明の能動遮音装置において、遮音パネルを複数枚の小パネルで構成し、それぞれの小パネルにおける節線予定線L上に分布定数型センサを貼り付けることも好ましい。というのも、音源側と受音側との境界面の面積が広い場合には、遮音パネルの面積を広くする必要がある。しかし、遮音パネルの面積が広くなればなるほど、遮音パネルの固有周波数が低下するため、高次の非相殺型振動モードであっても、透過音に影響を及ぼすようになる。したがって、低次の非相殺型振動モードにおける反共振周波数Ωの節線予定線L上に分布定数型センサを貼り付けただけでは、透過音に大きく影響を及ぼす遮音パネルの体積速度の変化を検知できなくなるおそれがある。しかし、上記の構成を採用することで、この問題を解決することが可能になる。この場合、小パネルごとに独立した制御を行う。
【0037】
ところで、上記課題は、
(a)音源側と受音側を隔てるための遮音パネルと、
(b)遮音パネルの表面に貼り付けられ、音源側からの入射音に起因する遮音パネルの振動による変位を検知して出力するための分布定数型センサと
を備え、
分布定数型センサから出力される変位の出力値が小さくなるように遮音パネルの所定箇所を加振することにより遮音パネルの透過音を抑制するのに用いられるセンサ付き遮音パネルの製造方法であって、
分布定数型センサとして、その長手方向両端部で幅が最小となりその長手方向中心部で幅が最大となる短冊状のものを使用し、
非制御時の遮音パネルに対して音を垂直に入射させて特定の反共振周波数Ωで反共振させた際に節線となる節線予定線Lを特定し、
分布定数型センサの長手方向中心線を節線予定線Lに一致させた状態で、分布定数型センサを遮音パネルに貼り付けることを特徴とするセンサ付き遮音パネルの製造方法
を提供することによっても解決される。
【0038】
本発明の製造方法によって製造されたセンサ付き遮音パネルは、本発明の能動遮音装置に好適に組み込むことができる。