特許第5773331号(P5773331)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5773331
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】セラミックス接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 37/00 20060101AFI20150813BHJP
【FI】
   C04B37/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-116025(P2011-116025)
(22)【出願日】2011年5月24日
(65)【公開番号】特開2012-121785(P2012-121785A)
(43)【公開日】2012年6月28日
【審査請求日】2014年1月24日
(31)【優先権主張番号】特願2010-121309(P2010-121309)
(32)【優先日】2010年5月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-255777(P2010-255777)
(32)【優先日】2010年11月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(72)【発明者】
【氏名】井出 貴之
(72)【発明者】
【氏名】安藤 正美
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−172049(JP,A)
【文献】 特開昭64−037473(JP,A)
【文献】 特開昭58−079876(JP,A)
【文献】 特開昭59−195586(JP,A)
【文献】 特開2008−137830(JP,A)
【文献】 特開平02−149476(JP,A)
【文献】 特開昭55−003384(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/00,35/565
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス焼結体同士を接合してなるセラミックス接合体の製造方法であって、
それぞれが接合面を有する一対のセラミックス焼結体であって、少なくとも一方が反応焼結法により形成され遊離シリコンを含み、且つ炭化ホウ素を含むものを準備する準備工程と、
前記一対のセラミックス焼結体それぞれの接合面の間に、炭素微粒子または炭化ホウ素微粒子を有機溶媒中に分散した接合スラリーを配した後に乾燥させてなる微粒子層を形成する形成工程と、
前記一対のセラミックス焼結体を、外部から金属ケイ素を添加することなく、前記微粒子層を加圧するように保持した状態で、不活性雰囲気下において1300℃〜1400℃で加熱し、前記遊離シリコンを前記微粒子層に導入することで、少なくとも炭化ケイ素を含む接合層を形成して接合し、セラミックス接合体となす接合工程と、
を備えることを特徴とするセラミックス接合体の製造方法。
【請求項2】
前記接合工程において、前記不活性雰囲気はアルゴン雰囲気であることを特徴とする請求項1に記載のセラミックス接合体の製造方法。
【請求項3】
前記形成工程において、前記接合スラリーをスプレー塗布によって、前記一対のセラミックス焼結体それぞれの接合面の間に配することを特徴とする請求項1に記載のセラミックス接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス焼結体同士を接合してなるセラミックス接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスは、金属やプラスチックなどと比較して耐熱性、耐蝕性、及び耐摩耗性が高く、高温環境や腐食環境といった過酷な条件下でも使用できる材料である。中でも、炭化ケイ素セラミックスは、高剛性、高熱伝導性、及び低熱膨張性といった優れた特性を有することから、高温構造部材や半導体製造装置用部材として利用されている。
【0003】
このように、セラミックス特に炭化ケイ素セラミックスは過酷な環境下で使用可能な有用な材料であるが、複雑な形状の部材や大型部材を鋳込みで作製することは難しい。このように複雑な形状の部材や大型部材を作製するにあたっては、比較的小さなセラミックス焼結体、例えばブロック状のセラミックス焼結体を複数準備し、それらを互いに接合することで複雑な形状の部材や大型部材を作製している。
【0004】
セラミックス焼結体同士を接合する手法としては、炭素を介して拡散接合するものが下記特許文献1に開示されている。具体的には、一対のセラミックス焼結体の少なくとも一方の接合面に、高温で分解して硬質のカーボン膜を形成する有機物を塗布する。そして一対のセラミックス焼結体の接合面同士を当接させ、有機物の分解温度以上で、且つ非酸化雰囲気中で加熱する。炭素の拡散を利用したこの接合方法の場合、接合層厚みを全体で均一且つ所望の厚さに制御することが困難であるという課題があった。
【0005】
セラミックス焼結体同士を接合する手法としては、複数のセラミックス焼結体同士を接合するために、接合部分に炭化ケイ素を含む領域を形成する炭化ケイ素接合も行われている。例えば、下記特許文献2に記載の方法では、まず一対の炭化ケイ素セラミックス焼結体同士を有機系接着剤で接着し、予備的なセラミックス結合体を形成している。その後、予備的なセラミックス接合体を不活性ガス雰囲気中にて1400℃以上まで加熱し、加熱した予備的なセラミックス接合体及び有機系接着剤を配した接合部に溶融したシリコンを含浸して炭化ケイ素接合を行っている。
【0006】
しかし、この場合は接合部に溶融したシリコンを含浸させるために、外部から溶融シリコンを供給する必要があり、接合手法が煩雑になる。更に、外部から添加した溶融シリコンを接合部全体に一様に含有させ、接合部全体を均質にすることが困難であるという課題もあった。
【0007】
このように外部から溶融シリコンを供給することを低減し、炭化ケイ素結合を行うものとして、下記特許文献3に開示の手法がある。下記特許文献3では、反応焼結法で作製した炭化ケイ素セラミックス焼結体(焼結体)と多孔質炭化ケイ素セラミックス焼結体(多孔質焼結体)とを、炭化ケイ素微粒子を含有した熱硬化性樹脂からなるバインダーを介して重ね合わせる。この重ねあわせた状態のものを、多孔質焼結体の上面にシート状のケイ素を重ね、ケイ素が溶融する温度で熱処理を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭60−127270号公報
【特許文献2】特開2005−22905号公報
【特許文献3】特開平03−112871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献3に記載の方法では、多孔質焼結体の上面に配置したシート状のケイ素を空孔内に溶浸させるとともにバインダーの熱硬化性樹脂が炭化した炭素と反応させている。しかし、この場合もまた接合工程で溶融したシリコンを含有させるために、外部からケイ素を添加するものである。そのため、接合手法が煩雑であることについては、大きな改善がなされていない。更に、シート状のケイ素を配置した位置から接合部位までの含浸距離が長く、安定したケイ素の供給が難しい。特に厚い多孔質焼結体の場合、均質な接合面の形成が困難であるという課題があった。更に、バインダーに熱硬化性樹脂を使用しているため、熱処理の際にバインダー層が熱収縮を起こし、それによって接合面内において接合強度にばらつきが生じてしまうという課題もあった。
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、外部からケイ素を添加することなく、熱処理工程において接合層が熱収縮することに伴うクラックや、それに起因する接合不良を防止し、高強度に接合されたセラミックス接合体の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るセラミックス接合体の製造方法は、セラミックス焼結体同士を接合してなるセラミックス接合体の製造方法であって、それぞれが接合面を有する一対のセラミックス焼結体であって、少なくとも一方が反応焼結法により形成され遊離シリコンを含み、且つ炭化ホウ素を含むものを準備する準備工程と、前記一対のセラミックス焼結体それぞれの接合面の間に、炭素微粒子または炭化ホウ素微粒子を有機溶媒中に分散した接合スラリーを配した後に乾燥させてなる微粒子層を形成する形成工程と、前記一対のセラミックス焼結体を、外部から金属ケイ素を添加することなく、前記微粒子層を加圧するように保持した状態で、不活性雰囲気下において1300℃〜1400℃で加熱し、前記遊離シリコンを前記微粒子層に導入することで、少なくとも炭化ケイ素を含む接合層を形成して接合し、セラミックス接合体となす接合工程と、を備える。
【0012】
本発明の準備工程で準備するセラミックス焼結体としての一対のセラミックス焼結体は、少なくとも一方が反応焼結法によって形成されているものである。そのため、セラミックス焼結体中に遊離シリコンが含まれている。この遊離シリコンは、焼結体中で化合物を構成しない金属元素の状態で存在しており、移動しやすい性質がある。更に、一対のセラミックス焼結体の接合面の間には、炭素微粒子または炭化ホウ素微粒子による微粒子層が形成される。この状態で加熱されると、炭素及び遊離シリコンによって炭化ケイ素が生成される。更に、その炭化ケイ素生成の反応を駆動力として、残存した遊離シリコンが拡散移動し、一対のセラミックス焼結体の間の微粒子層に移動する。このように、別途溶融シリコンを添加することなく、炭化ケイ素を含む強固な接合層を形成することができる。
【0013】
また、接合スラリーは分散した微粒子からなるため、接合面に均一に炭素源を配置することが可能となる。接合面に均一に微細な炭素粒子を配置することで、遊離シリコンとの反応性を高めることができる。このような反応性の向上は、更なる遊離シリコンの移動に寄与する。接合スラリーは、溶媒を有機溶媒とすることにより、熱処理前の時点で既に溶媒が蒸散しきった状態となる。従って、接合工程において加熱しても、有機溶媒の離脱による接合層の体積変化や、それに伴う接合層のクラック発生や位置ずれを抑制することができる。
【0014】
本発明では例えば、有機溶媒の乾燥状態を制御することで、微粒子堆積を高密度充填とすることも可能である。このような微粒子の緻密な堆積により、さらなる体積変化による不具合やクラック発生を抑制することができる。
【0015】
このように本発明によれば、外部から金属ケイ素を添加することなく、セラミックス焼結体から浸透してくる程度の微量な金属ケイ素である遊離シリコンのみにより、接合層全体に亘って十分な強度を確保することができる。
【0017】
シリコンの融点は1414℃であるが、ホウ素が共存するSi−B系では最低液相生成温度は1385℃となり、他の成分がシリコンに加わることにより液相生成温度が低下する。従って、接合条件下で金属ケイ素である遊離シリコンが容易に移動し、接合面全体に均質に拡散する。熱処理時の金属ケイ素である遊離シリコンの拡散がより促進されるため、接合層全体に亘ってより均一で十分な強度を達成することが可能となる。
【0018】
前記形成工程において形成する前記微粒子層は、更にホウ素を含むことも好ましい。
【0019】
シリコンの融点は1414℃であるが、炭素が共存するSi−C系での最低液相生成温度は1404±5℃であり、Si−B−Cの3成分系では最低液相生成温度は1300℃程度まで下がる。従って、接合条件下で接合層に移動した遊離シリコンの拡散をより促進することができ、ことで、接合条件下でSi金属が容易に移動し、接合面全体に均質に拡散する。したがって、熱処理時の金属Si元素の拡散がより促進されるため、接合層全体に亘ってより均一で十分な強度を達成することが可能となる。
【0020】
前記接合工程において、1200℃〜1500℃で加熱することも好ましい。
【0021】
接合工程の加熱において、温度をシリコンの融点よりも高くすれば、熱処理中においてセラミックス焼結体に含まれた遊離シリコンが適当な粘度を有する液体となるため、乾燥した微粒子からなる接合層へのシリコンの移動が促進され、接合面全体に渡る接合層の形成を短時間で行うことができる。一方で、強固な接合を目的とした場合、接合層を十分に緻密化することが望ましい。過度な加熱温度の高温化は、シリコンの蒸散により、不均質な接合層の形成や、セラミックス焼結体の劣化の原因となる。また、シリコンの炭化ケイ素化に伴う急激な体積収縮の発生により、安定したセラミックス接合体の作製が困難となる。この影響は、特に1500℃を超える温度で顕著にあらわれる。従って加熱温度を1500℃以下とすることで、接合層における急激な炭化ケイ素の生成や、シリコンの蒸散による劣化を抑制することが可能となる。
【0022】
前記接合工程において、前記不活性雰囲気はアルゴン雰囲気であることも好ましい。
【0023】
接合工程における熱処理中に気をつけなければならないのは、雰囲気中の成分と遊離シリコンとの反応、遊離シリコンが蒸散してセラミックス焼結体から離脱してしまうことである。この好ましい態様では、不活性雰囲気としてアルゴン雰囲気を選択することで、雰囲気中の成分と遊離シリコンとの反応の課題を解決し、同時に遊離シリコンの蒸散も抑制することができる。
【0024】
前記形成工程において、前記接合スラリーをスプレー塗布によって、前記一対のセラミックス焼結体それぞれの接合面の間に配することも好ましい。
【0025】
スプレー塗布を用いることで、接合面全体に均一に炭素微粒子を簡単な方法により配置することが可能となる。また、塗布と同時に適度な有機溶媒の蒸散が起こることで、緻密な粒子堆積が実現できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、外部からケイ素を添加することなく、熱処理工程において接合層が熱収縮することに伴うクラックや、それに起因する接合不良を防止し、高強度に接合されたセラミックス接合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態である製造方法によって得られるセラミックス接合体の構成を示す模式的な斜視図である。
図2】セラミックス接合体の製造方法における準備工程を説明するための図である。
図3】セラミックス接合体の製造方法における形成工程を説明するための図である。
図4】セラミックス接合体の製造方法における形成工程を説明するための図である。
図5】セラミックス接合体の製造方法における接合工程を説明するための図である。
図6】実施例における断面観察結果を示す図である。
図7】比較例における断面観察結果を示す図である。
図8】実施例及び比較例の熱処理温度と接合強度との関係を示す図である。
図9】接合層を含むセラミックス接合体の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0029】
本発明の実施形態である製造方法によって得られるセラミックス接合体について、図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態であるセラミックス接合体10の構成を示す模式的な斜視図である。図1に示すように、セラミックス接合体10は、セラミックス焼結体20と、セラミックス焼結体30とを、接合層40によって接合することで構成されている。尚、図1においては、セラミックス焼結体20とセラミックス焼結体30とを接合する接合面に沿った平面としてzx平面を形成するように、直交座標系を設定し、x軸、y軸、z軸を設定している。以降の説明においても、このxyz座標系を適宜用いるものとする。
【0030】
セラミックス焼結体20には、金属ケイ素を含有させることができる種々のセラミックスを用いることが可能である。中でも、金属ケイ素を含有する炭化ケイ素セラミックス、金属ケイ素を含有する炭化ホウ素セラミックス、金属ケイ素を含有し炭化ケイ素および炭化ホウ素を含むセラミックス焼結体などがあげられる。セラミックス焼結体30には、前記したセラミックス焼結体20に用いることができるセラミックスのほかに、金属ケイ素を含有しない種々のセラミックスも用いることが可能である。
【0031】
接合層40を介して接合される2つのセラミックス焼結体であるセラミックス焼結体20,30は、少なくとも一方が金属シリコンを含有するセラミックスであればよいが、セラミックス焼結体20,30の双方が金属シリコンを含有するセラミックスである場合は、セラミックス焼結体20,30と接合層40との密着性が高くなるのでより好ましい。
【0032】
接合層40は、セラミックス焼結体20とセラミックス焼結体30との間に介在し両者を接合する層である。後述する接合工程(熱処理工程)において、セラミックス焼結体20とセラミックス焼結体30との間に介在していた炭素源が炭化した後、そこへいずれかの焼結体から金属ケイ素が浸透し炭素と反応することで、金属ケイ素を含有する炭化ケイ素の層となる。
【0033】
続いて、本発明の実施形態であるセラミックス接合体10の製造方法について、図2図5を参照しながら説明する。図2は、セラミックス接合体10の製造方法における準備工程を説明するための図である。図3は、セラミックス接合体10の製造方法における形成工程を説明するための図である。図4は、セラミックス接合体10の製造方法における形成工程を説明するための図である。図5は、セラミックス接合体10の製造方法における接合工程を説明するための図である。図2図5は、図1のyz平面を含み、セラミックス接合体10の中央近傍を通る平面での断面を示している。
【0034】
図2に示すように、準備工程では、それぞれが接合面201,301を有する一対のセラミックス焼結体20,30であって、少なくとも一方が反応焼結法により形成され遊離シリコンを含むものを準備する。
【0035】
接合時、突き合わせる面である接合面201,301の形状に制限はなく、平面突き合わせ、嵌め合わせなどの方法が可能である。接合スラリーを塗布あるいは噴霧する接合であることから平面突き合わせが簡便で好ましい。
【0036】
接合面201,301の面粗度に関しては制限がないが、スラリー塗布後に隙間ができない程度が好ましく、Ra=3μm以下が好ましく、より好ましくはRa=0.5μm以下が良い。
【0037】
図3及び図4に示す形成工程では、一対のセラミックス焼結体20,30それぞれの接合面201,301の間に、炭素を含む微粒子を有機溶媒中に分散した接合スラリー41を配した後に乾燥させてなる微粒子層42を形成する。
【0038】
具体的には、まず図3に示すように、セラミックス焼結体20の接合面201に、接合スラリー41を塗布する。接合スラリー41としては、炭素微粒子を含むスラリーや炭化ホウ素微粒子を含むスラリーまたは炭素微粒子と炭化ホウ素微粒子とを混合した粉末を含むスラリーを用いることが可能である。
【0039】
微粒子の粒径は10μm以下がよい。好ましくは1μm以下がよい。また、接合層の厚みを調整しやすいという点で接合スラリー41を塗布する際にスプレーなどで噴霧し成形してもよい。スプレー塗布により、接合厚みの制御が容易となる。
【0040】
微粒子としては炭素を含むものを利用することができる。具体的には炭素微粒子を用いることができる。また、炭素のほかにホウ素を含むものが好ましく、例えば炭化ホウ素微粒子を用いることができる。また、炭素微粒子と、ホウ素を含む微粒子とを混合したものを用いることもできる。
【0041】
微粒子を分散させるための有機溶媒としては、微粒子分散性が高いものが好ましい。また揮発性が高いものも好適に利用することができる。例えば、ジクロロメタン、イソプロピルアルコール、トルエン、エタノール、アセトン、およびこれらを適宜混合した溶液を用いることができる
【0042】
続いて、図4に示すように、接合スラリー41中の有機溶媒を蒸発させ、微粒子層42を形成する。この工程は選択的に採用されるものであって、接合加熱時に接合層40となる接合スラリー中に存在する有機成分を乾燥する工程である。乾燥温度は、常温〜150℃とすることができる。
【0043】
続いて、図5に示すように、一対のセラミックス焼結体20,30を、微粒子層42を加圧するように保持した状態で、不活性雰囲気下において加熱し、遊離シリコンを微粒子層42に導入することで、少なくとも炭化ケイ素を含む接合層40を形成して接合し、セラミックス接合体10となす接合工程を実行する。
【0044】
接合処理に要する温度は、セラミックス焼結体20に含まれた状態における金属ケイ素の融点よりも高く、且つ、セラミックス焼結体20に含まれた状態における金属ケイ素の蒸発温度よりも低い温度である1500℃までの範囲内で適宜選定できる。本実施形態のセラミックス焼結体20は接合処理の際にすでに金属ケイ素を含有するセラミックス焼結体であり、セラミックス焼結体の金属ケイ素の移動により金属ケイ素を主成分とする接合層40を形成する。なお、接合処理の昇温段階において、400〜900℃程度で所定時間保持することで、接合スラリー中の残存溶媒を完全に蒸発させてもよい。
【0045】
本実施形態においては、セラミックス焼結体20に含まれる金属ケイ素は1100℃以上の温度で融解することが分かっており、且つ、1700℃を超えると金属ケイ素の蒸発が無視できなくなる。このため、熱処理の温度としては1200〜1500℃が好ましく、金属ケイ素単体の状態における融点(1412℃)よりも低い温度で熱処理できる1300〜1400℃がさらに好ましい。
【0046】
接合工程においては、熱処理の行う際の圧力を0.1〜200MPaの範囲で適宜選定できる。セラミックス焼結体20及びセラミックス焼結体30を重ね合わせた成形体全体を加圧しても良いし、接合面201,301が押圧されるようにジグでクランプして熱処理を行ってもよい。
【0047】
接合工程は適宜の不活性雰囲気下で行われればよく、真空、アルゴン雰囲気もしくは窒素雰囲気などが挙げられる。好ましくは真空雰囲気であり、より好ましくはアルゴン雰囲気である。なお、アルゴンと窒素の混合ガスでも接合可能である。
【0048】
(実施例1)
セラミックス焼結体20,30として金属ケイ素および炭化ホウ素および炭化ケイ素を含有するセラミックス焼結体を準備した。接合スラリー41として、炭素微粉末をジクロロメタンとイソプロピルアルコールの混合溶液中に分散させた炭素粉末スラリーを作製し、スプレーにより塗布できるよう準備した。
【0049】
金属ケイ素および炭化ホウ素および炭化ケイ素を含有するセラミックス焼結体は以下の方法により作製した。
【0050】
平均粒径が0.6μmの炭化ケイ素粉末30重量部と平均粒径が25μmの炭化ホウ素粉末70重量部、平均粒径が55nmのカーボンブラック粉末10重量部を炭化ケイ素粉末、炭化ホウ素粉末、カーボンブラック粉末に対して0.1〜1重量部の分散剤を添加した純水中に入れ分散させ、アンモニア水等でpHを8〜9.5に調整して500CP未満の低粘度のスラリーを作製した。このスラリーをポットミル等で数時間混合した後バインダーを炭化ケイ素粉末、炭化ホウ素粉末、カーボン粉末に対して1〜2重量部添加し混合、その後脱泡し石膏板の上に内径80mmのアクリルパイプを置きスラリーを鋳込み、厚み10mm程度の成形体を作製した。成形体は自然乾燥、100〜150℃の乾燥の後、1×10−4〜1×10−3torrの減圧下において温度600℃で2h保持し脱脂を行い、温度1700℃で1h保持することで仮焼を行う。仮焼を行った後、温度1500℃に加熱し30min保持し、成形体中に溶融したシリコンを含浸させることにより反応焼結体を製造した。
【0051】
得られた金属ケイ素および炭化ホウ素および炭化ケイ素を含有するセラミックス焼結体を20mm角、厚み6mmに切り出し、接合面がRa=0.2μmとなるように研削加工し、2つのセラミックス焼結体を作製した。
【0052】
2つのセラミックス焼結体の接合面に炭素スラリーをスプレーし、乾燥後、炭素ジグで固定し、20×40×6mmの形状とした。
【0053】
固定した試料を炭素炉で1気圧のアルゴン雰囲気中1400℃で熱処理を行った。1400℃まで昇温(昇温速度は300度/1時間とした)する途中では600℃で1時間保持し、有機溶媒を蒸発させた。
【0054】
(比較例1)
セラミックス焼結体20,30に相当するものとして金属ケイ素および炭化ホウ素および炭化ケイ素を含有するセラミックス焼結体を準備した。金属ケイ素および炭化ホウ素および炭化ケイ素を含有するセラミックス焼結体は実施例1と同様の方法により作製し、接合用試料も同様の形状を準備した。さらに接合層40に相当するものとして、熱可塑性樹脂薄膜として厚み35μmのセロファンを準備した。
【0055】
2つのセラミックス焼結体の接合面にセロハンを挟み込み、炭素ジグで固定し、20x40x6mmの形状とした。
【0056】
固定した試料を炭素炉で1気圧のアルゴン雰囲気中1400℃で熱処理を行った。1400℃まで昇温(昇温速度は300度/1時間とした)する途中では600℃で1時間保持し、セロファンを炭化させた。
【0057】
次に、実施例1および比較例1で得られた試料を3mm×4mm×40mmのブロック状に切り出して剥離の有無を調べる切りだし試験を実施した。結果を表1に示す。
【表1】
【0058】
実施例1の試料については3mm×4mmのブロックを12個切り出した。切りだした12個のブロックのうち、切りだしによって剥離が生じた試料はなかった。
【0059】
一方で、比較例1の試料については3mm×4mmのブロックを9個切り出した。切りだした9個のブロックのうち、切りだしによって3個のブロックに剥離が生じた。
【0060】
また、剥離が生じなかった試料について3点曲げ(JISR1601)を行った結果、いずれの試料も接合面で破断し、ほぼ同等の接合強度であることが確認された。
【0061】
したがって、接合層を乾燥微粒子層とした場合、接合体全面に亘って均一な接合状態であることが確認された。一方で、接合層を樹脂により形成した場合には、接合できた部分については乾燥微粒子層を用いた場合と同等レベルの接合強度を有するものの、熱処理時に樹脂層の熱収縮によって接合面内の一部に接合不良が生じており、接合体全体としては乾燥微粒子層を用いたものと比べて接合強度が低く、歩留まりが悪いことがわかった。
【0062】
次に、上記接合状態を観察するため、60mm×6mmの大面積の接合を微粒子層と樹脂層の2種類の作製方法で準備したものをそれぞれ接合面で破断した破断面のSEM観察を行った。
【0063】
実施例1と同様の微粒子を用いた接合試料の観察結果を図6に、比較例1と同様の樹脂層を用いた接合試料の観察結果を図7に示す。図6及び図7は、図1のzxを含み、接合面に沿った平面での断面における観察結果を示している。
【0064】
図6より、乾燥微粒子層により接合した試料は、接合面全体に亘って均一に炭素微粒子が配置されており、熱処理によって接合層の熱収縮が生じていないことが確認された。一方で、図7より、樹脂層により接合した試料は、接合時の熱処理によって樹脂が熱収縮を起こしていることが分かる。(図中、黒い部分71は樹脂が炭化した接合部分であり、白い部分72は熱収縮により樹脂が存在していない部分である。)
【0065】
以上より、乾燥微粒子層を用いた場合は、接合面内全域にわたって均一な接合が可能となり、高い接合強度が得られることが確認された。
【0066】
次に、乾燥微粒子層により接合した試料について、熱処理温度と接合強度との関係を調べるための試験を実施した。
【0067】
(実施例2)
熱処理温度を1300℃とした以外は実施例1と同様の条件で、セラミックス焼結体の接合を行った。得られた接合体の接合厚みはSEMにより観察を行い測定し、約2μmであった。
【0068】
加熱後の試料を3x4x40mmのテストピースに加工し、3点曲げ(JISR1601)を行った結果、接合体は接合面で破断し、407MPaの強度を得た。
【0069】
(実施例3)
熱処理温度を1300℃とした以外は実施例1と同様の条件で、セラミックス焼結体の接合を行った。得られた接合体の接合厚みは約6.7μmであり、3点曲げ強度は358MPaであった。
【0070】
(実施例4)
熱処理温度を1400℃とした以外は実施例1と同様の条件で、セラミックス焼結体の接合を行った。得られた接合体の接合厚みは約5μmであり、3点曲げ強度は446MPaであった。
【0071】
(比較例2)
熱処理温度を1200℃とした以外は実施例1と同様の条件で、セラミックス焼結体の接合を行った。加熱後の試料は接合できていない状態であった。
【0072】
(比較例3)
熱処理温度を1600℃とした以外は実施例1と同様の条件で、セラミックス焼結体の接合を行った。得られた接合体の接合厚みは約4μmであり、3点曲げ強度は37MPaであった。
【0073】
(実施例5)
熱処理温度を1300℃とした以外は実施例1と同様の条件で、セラミックス焼結体の接合を行った。得られた接合体の接合厚みは7μmであり、3点曲げ強度は340MPaであった。
【0074】
(実施例6)
熱処理温度を1400℃とした以外は実施例1と同様の条件で、セラミックス焼結体の接合を行った。得られた接合体の接合厚みは約13μmであり、3点曲げ強度は356MPaであった。
【0075】
(実施例7)
熱処理温度を1300℃とした以外は実施例1と同様の条件で、セラミックス焼結体の接合を行った。得られた接合体の接合厚みは35μmであり、3点曲げ強度は137MPaであった。
【0076】
(実施例8)
熱処理温度を1400℃とした以外は実施例1と同様の条件で、セラミックス焼結体の接合を行った。得られた接合体の接合厚みは27μmであり、3点曲げ強度は166MPaであった。
【0077】
(実施例9)
熱処理温度を1300℃とし、第1のセラミックス焼結体を金属ケイ素および炭化ホウ素および炭化ケイ素を含有するセラミックス焼結体とし、第2のセラミックス焼結体には炭化ホウ素焼結体を準備した。金属ケイ素および炭化ホウ素および炭化ケイ素を含有するセラミックス焼結体は実施例1と同様の方法により作製し、接合用試料も同様の形状を準備した。接合方法は実施例1と同様の条件で、セラミックス焼結体の接合を行った。得られた接合体の接合厚みは約3μmであり、3点曲げ強度は331MPaであった。
【0078】
(実施例10)
熱処理温度を1500℃とし、第1のセラミックス焼結体を金属ケイ素および炭化ホウ素および炭化ケイ素を含有するセラミックス焼結体とし、第2のセラミックス焼結体には炭化ホウ素焼結体を準備した。金属ケイ素および炭化ホウ素および炭化ケイ素を含有するセラミックス焼結体は実施例1と同様の方法により作製し、接合用試料も同様の形状を準備した。接合方法は実施例1と同様の条件で、セラミックス焼結体の接合を行った。得られた接合体の接合厚みは約10μmであり、3点曲げ強度は155MPaであった。
【0079】
(比較例4)
熱処理温度を1600℃とし、第1のセラミックス焼結体を金属ケイ素および炭化ホウ素および炭化ケイ素を含有するセラミックス焼結体とし、第2のセラミックス焼結体にはSi金属を含まない炭化ケイ素焼結体を準備した。金属ケイ素および炭化ホウ素および炭化ケイ素を含有するセラミックス焼結体は実施例1と同様の方法により作製し、接合用試料も同様の形状を準備した。接合方法は実施例1と同様の条件で、セラミックス焼結体の接合を行った。得られた接合体の接合厚みは約37μmであり、3点曲げ強度は17MPaであった。
【0080】
上記実施例2〜10および比較例2〜4を、接合層厚さ別に、熱処理温度と接合強度との関係を表2、表3および図8に示す。表2は第2のセラミックス焼結体がSi、Bを含む焼結体のデータである。表3は第2のセラミックス焼結体が炭化ホウ素焼結体および炭化ケイ素焼結体のデータである。図8は、実施例及び比較例の熱処理温度と接合強度との関係を示す図である。
【表2】
【表3】
【0081】
表2、表3および図8より、熱処理温度が1300℃〜1500℃において良好な接合強度が得られることが確認できた。それに対して熱処理温度が1200℃では、Siの溶融温度よりも低温であるため、Siの拡散および接合層におけるSiCの生成が不十分であり接合できなかった。また、熱処理温度が1600℃では、接合はできたものの接合強度が極端に低下することが明らかになった。これは高温での熱処理時に接合層の体積変化が大きく、接合層にクラックが生じたためと考えられる。また膜厚が薄いほど接合強度が高くなる傾向が示された。
【0082】
次に、熱処理雰囲気が接合強度に与える影響を調べるための試験を行った。
【0083】
(実施例11)
熱処理温度を1300℃とし、雰囲気を真空雰囲気とした以外は実施例1と同様の条件で、セラミックス焼結体の接合を行った。得られた接合体の接合厚みは約2μmであり、3点曲げ強度は372MPaであった。
【0084】
一方で、上記実施例2のAr雰囲気中で接合厚み2μm、1300℃焼成した接合体の3点曲げ強度は407MPaであった。
【0085】
(実施例12)
施例1と同様の条件で、セラミックス焼結体の接合を行った。得られた接合体の接合厚みは15μmであり、3点曲げ強度は138MPaであった。
【0086】
(実施例13)
熱処理温度を1400℃とし、雰囲気を真空雰囲気とした以外は実施例1と同様の条件で、セラミックス焼結体の接合を行った。得られた接合体の接合厚みは15μmであり、3点曲げ強度は200MPaであった。一方で、一部の試料については、テストピースの加工工程中に剥離してしまうものもあった。
【0087】
上記実施例11〜13の結果を表4に示す。
【表4】
【0088】
1300℃では真空中においてもSiの蒸散が顕著でないため、Ar雰囲気でも真空雰囲気でも同等レベルの接合強度が得られたと推測される。
【0089】
一方で、真空雰囲気下において温度が1400℃程度になると、SiC反応焼結体からのSi蒸散が始まるため、真空雰囲気で接合した接合体の一部に接合不良が生じたものと推測される。それに対して、Ar雰囲気中では1400℃でもSi蒸散がほとんど生じないため真空雰囲気中よりも安定して高い接合強度を得ることが可能となる。
【0090】
(実施例14)
囲気を窒素雰囲気とした以外は実施例1と同様の条件で、セラミックス焼結体の接合を行った。得られた接合体の接合厚みは約4μmであり、3点曲げ強度は53MPaであった。



【0091】
(実施例15)
熱処理温度を1300℃とし、接合スラリー41として、炭化ホウ素粉末をテルピネオールの溶液に分散させた炭化ホウ素スラリーとしたこと以外は実施例1と同様の条件で、セラミックス焼結体の接合を行った。
【0092】
接合層を含むセラミックス接合体の電子顕微鏡写真を図9に示す。セラミックス焼結体20,30同士が金属ケイ素を主成分とする接合層40を介して接合され、セラミックス焼結体20,30が炭化ホウ素部91および炭化ケイ素部92からなるセラミックス接合体であることが観察された。得られた接合体の接合層厚みは約41μmであった。3点曲げ強度は187MPaであった。
【0093】
(実施例16)
熱処理温度を1400℃とした以外は実施例15と同様の条件で、セラミックス焼結体の接合を行った。得られた接合体の接合層厚みは約25μmであった。3点曲げ強度は72MPaであった。
【0094】
(実施例17)
熱処理温度を1300℃とし、熱処理雰囲気を真空中としたこと以外は実施例15と同様の条件で、セラミックス焼結体の接合を行った。得られた接合体の接合層厚みは約8μmであった。3点曲げ強度は275MPaであった。
【0095】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0096】
10:セラミックス接合体
20:セラミックス焼結体
30:セラミックス焼結体
40:接合層
41:接合スラリー
42:微粒子層
201,301:接合面
図1
図2
図3
図4
図5
図8
図6
図7
図9