【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが、前記課題を解決するために、種々検討したところ、Cu又はCu合金製のバッキングプレートにInとCuからなる合金(InCu合金)による結合層を介してIn又はIn合金からなるターゲット本体を接合させることによって、バッキングプレートとの接合強度を高めることができるIn又はIn合金スパッタリングターゲットが得られることが分かった。また、このInCu合金結合層によって、In層へのCuの拡散を抑制できることが分かった。さらに、Cu又はCu合金製のバッキングプレートの表面を研磨した後に、その表面上に、InとCuからなる合金(InCu合金)による下地層を予め形成する。この形成されたInCu合金下地層によって、Inスパッタリングターゲットの製造中に、ターゲット本体となるIn層中へのCuの拡散をCIGS膜の成膜に影響しない程度に低減でき、かつ、バッキングプレートとIn層とが結合層を介して確実に接合されるという知見が得られた。この製造手順によれば、In又はIn合金スパッタリングターゲットの作製におけるコストの増加に繋がるNi膜の介在なしでも、バッキングプレートからのCuの拡散を抑制することができ、しかも、バッキングプレートとIn層との十分な接合強度も得られることが分かった。
また、本発明は平板状のCu又はCu合金製のバッキングプレートを用いるIn又はIn合金スパッタリングターゲットのみならず、円筒状のCu又はCu合金製のバッキングチューブを用いるIn又はIn合金円筒スパッタリングターゲットや、その他の類似構造を有するIn又はIn合金スパッタリングターゲットにも適用できる。
【0010】
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
(1)本発明のIn又はIn合金スパッタリングターゲットは、Cu又はCu合金製のバッキングプレートに、ターゲット本体となるIn又はIn合金層が、InとCuの合金による結合層を介して接合されたIn又はIn合金スパッタリングターゲットであって、前記結合層は、厚さ:5〜100μmを有することを特徴とする。
(2)前記(1)のIn又はIn合金スパッタリングターゲットにおける前記結合層は、前記In又はIn合金層と前記ターゲット支持基体とのボンディング面におけるカバー率が90%以上であることを特徴とする。
(3)本発明のIn又はIn合金スパッタリングターゲットの製造方法は、Cu又はCu合金製のバッキングプレートの表面を研磨する工程と、前記ターゲット支持基体の表面上に、厚さ:3〜50μmを有するInによる下地層を形成する工程と、形成された前記下地層上にIn又はIn合金溶融体を形成し、前記ターゲット支持基体上に、ターゲット本体となるIn又はIn合金層とを接合する工程と、を備え、前記In又はIn合金層と前記ターゲット支持基体とは、前記下地層に生成されたInとCuの合金による結合層を介して接合されることを特徴とする。
(4)本発明のIn又はIn合金スパッタリングターゲットの製造方法は、Cu又はCu合金製のバッキングプレートの表面を研磨する工程と、前記ターゲット支持基体の表面上に、厚さ:3〜50μmを有するInによる下地層を形成する工程と、形成された前記下地層上にIn又はIn合金溶融体を形成し、冷却固化して、ターゲット本体となるIn又はIn合金層を形成する工程と、前記In又はIn合金層を機械加工する工程と、を備え、前記In又はIn合金層と前記ターゲット支持基体とは、前記下地層に生成されたInとCuの合金による結合層を介して接合されることを特徴とする。
(5)前記(3)又は(4)の製造方法では、前記下地層及び前記結合層は、前記In又はIn合金層と前記ターゲット支持基体とのボンディング面に対するカバー率がそれぞれ90%以上であることを特徴とする。
(6)前記(3)乃至(5)のいずれかの製造方法では、前記ターゲット支持基体の表面を表面粗さ:0.1〜1.0μmに研磨することを特徴とする。
【0011】
本発明のIn又はIn合金スパッタリングターゲットによれば、ターゲット本体となるIn又はIn合金層を、Cu又はCu合金製のバッキングプレートに、厚み:5〜100μmのInとCuの合金による結合層(InCu合金相)を介して接合させることによって、バッキングプレートとの接合強度を高めることができるIn又はIn合金スパッタリングターゲットが得られることが分かった。また、この結合層によって、In又はIn合金層によるターゲット本体へのCuの拡散を抑制することができる。さらに、ターゲット本体となるIn又はIn合金層とバッキングプレートの界面におけるこの結合層のカバー率を90%以上にすることで、より良い拡散抑制効果が得られる。
【0012】
これにより、Cu又はCu合金製のバッキングプレートの表面と、ターゲット本体となるIn又はIn合金層とが、InとCuの合金による結合層を介して接合されるため、十分な接合強度を有し、機械加工中に剥がれることがない。そして、ターゲット本体となるIn又はIn合金層へのCu拡散も、Cu濃度:2000ppm以下の範囲に抑制される。そのCu濃度が2000ppmを超えてしまうと、CIGS膜の組成制御に影響するようになり、不純物の少ないIn又はIn合金スパッタリングターゲットの必要性に応じることができなくなる。
【0013】
また、本発明のIn又はIn合金スパッタリングターゲットは、前記InとCuの合金による結合層の厚さが5〜100μmであることを特徴としている。この厚さが、5μm未満の場合には、In又はIn合金層とバッキングプレートとの接合強度が低下し、ボンディング剥がれが発生しやすくなる。一方、InとCuの合金による結合層は、硬度が高く、脆いため、その厚さが、100μmを超える場合には、ボンディング剥がれ又はボンディング面での亀裂が発生しやすくなる。
さらに、厚さ:5〜100μmの前記結合層が、ターゲット本体となるIn又はIn合金層とバッキングプレートの界面(ボンディング面)の90%以上をカバーすることを特徴としている。厚さが5μm以上の結合層が90%以上のボンディング面をカバーできない場合には、結合層がない部分、或いは、薄い部分から、ターゲット本体となるIn又はIn合金層へのCuの拡散が多量に発生し、ターゲット中のCu含有量が目標値以内に制御できなくなる。一方、厚さ:100μm以上の結合層が90%以上を占めると、ターゲット本体となるIn又はIn合金層とバッキングプレートの界面に、亀裂が発生しやすくなる。
【0014】
上記のように、本発明によるIn又はIn合金スパッタリングターゲットの製造方法では、Cu又はCu合金からなるバッキングプレートの表面を研磨したうえで、厚さ:3〜50μmのInとCuの合金(InCu合金)による下地層を形成し、その後に、このInCu合金の下地層上でIn原料を溶解し、InとCuとの合金(InCu合金)による結合層を前記バッキングプレートの表面上に形成しながら、ターゲット本体となるIn又はIn合金層を貼り付けて、In又はIn合金スパッタリングターゲットが作製される。
この様な手順に従えば、厚さ:3〜50μmのInCu合金からなる下地層を形成し、その後又はそれと同時に、この下地層上でIn原料を溶解し、さらに冷却して固化させることで前記バッキングプレートの表面上に、In又はIn合金層からなるターゲット本体を鋳造し、機械加工を経て、バッキングプレートからの剥がれを防止でき、Cu不純物の含有が少ないIn又はIn合金スパッタリングターゲットを作製することもできる。
従って、In又はIn合金層を、Cu又はCu合金製のバッキングプレートに結合層(InCu合金相)を介して接合させることができ、バッキングプレートとの接合強度を高めたIn又はIn合金スパッタリングターゲットを作製できる。
【0015】
ここで、上記のIn又はIn合金スパッタリングターゲットの製造方法では、Cu又はCu合金からなるバッキングプレートの表面を、表面粗さ:0.1〜1.0μmに研磨することとした。その理由は、表面粗さが0.1μm未満であると、表面加工の手間もかかるため、好ましくない。また、表面粗さが、1.0μmを超えると、表面に形成される結合層に欠陥ができやすく、Cu拡散を低減できなくなり、好ましくない。そのため、バッキングプレートの表面粗さを、0.1〜1.0μmの範囲に定めた。
【0016】
以上に説明した本発明に係るInスパッタリングターゲットの一具体例におけるターゲット断面について、
図2に、電子顕微鏡で撮影した画像を、そして、
図3に、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)により測定した各元素の元素分布像をそれぞれ示した。なお、EPMAによる元素分布像は、本来カラー像であるが、
図3の写真では、白黒像に変換して示しているため、その写真中において、白いほど、当該元素の濃度が高いことを表している。
【0017】
図2に示された画像によれば、本発明に係るInスパッタリングターゲットでは、「In」と表示したターゲット本体となるIn層が、「InCu合金相」と表示した結合層を介して、「Cu」と表示したCu製バッキングプレートに接合されている様子が観察される。さらに、
図3に示された元素分布像によれば、In及びCuの各元素の組成分布が観察され、In層とCu製バッキングプレートとの界面には、生成された層が、「InCu合金相」である結合層が生成されていることが確認される。
【0018】
一方、従来例に係るInスパッタリングターゲットの一具体例におけるターゲット断面について、
図4に、電子顕微鏡で撮影した画像を、そして、
図5に、EPMAにより測定した各元素の元素分布像をそれぞれ示した。
図4及び
図5によれば、従来例に係るInスパッタリングターゲットでは、「InCu合金相」である結合層が生成されていないことが分かる。
【0019】
以上では、ターゲット本体となるIn層がCu製又はCu合金製バッキングプレートにボンディングされたInスパッタリングターゲットの場合で説明したが、In層が、In合金層であるIn合金スパッタリングターゲットの場合も、また、ターゲットの形状が円筒状であっても、上述した製造手順に従えば、In合金層とCu製又はCu合金製バッキングプレートとがボンディングされたとき、その界面には、InCu合金相からなる結合層が生成されることが確認されている。なお、In合金としては、In−Al、In−Bi、In−Sb、In−Zn、In−Snなどの合金が挙げられる。
【0020】
また、InCu合金からなる結合層については、蒸着法(例えば、イオンプレーティング法、スパッタ法など)や、メッキ法等で形成することもできる。Cu製のバッキングプレートの表面に、In膜形成又はIn溶湯塗布の後、160〜230℃の温度に加熱しながら、超音波照射して、CuとInの合金からなる均一な下地層を生成することができる。超音波を照射する場合に、生成される下地層の厚みが、3〜50μmになるように、照射時間を調整する。
また、下地層カバー率についても、照射時間やIn溶湯温度での調整で90%以上に調整することができる。照射に使用する超音波の周波数は10〜100kHzの範囲で良く、特に、20〜50kHzが好ましい。超音波の照射パワーは、5〜300W/cm
2が好ましく、特に、10〜100W/cm
2が好ましい。超音波照射はボンディング面全面において同時に行っても良く、ボンディング面の局所ごとに順次に照射することも良い。