(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記骨モデルと上記設置ガイド器械の間に介在して組み合わされる、患者から取得した骨の3次元形状画像のデータを用いてラピットプロトタイピングで作製し、上記骨モデルの形状に合致した当接部、及び上記ロッド、ドリルまたはピンを貫通する貫通孔を形成した中間モデルをさらに具備したことを特徴とする請求項1記載の人工膝関節置換術用手術器械。
上記骨モデルと上記設置ガイド器械の間に介在して組み合わされ、可塑状態で上記設置ガイド器械の上記調整部用のガイド部材を装着する、熱可塑性樹脂による中間モデルをさらに具備したことを特徴とする請求項1記載の人工膝関節置換術用手術器械。
【背景技術】
【0002】
整形外科では、体内埋没型の固定材料(インプラント)を用いて骨折や、変形した骨を手術計画のアライメントに再建して固定する手術を行なっている。また、関節の軟骨や骨の加齢による変形、先天性の骨形態異常、骨折の変形治癒等を原因とする変形性関節症、あるいは慢性リウマチなどの患者の治療に人工関節を使用することがある。これらのインプラントを用いた整形外科の既存手術について、膝関節の人工関節置換手術を例にあげて説明する。
【0003】
図13は、人工膝関節の大腿骨及び脛骨の機能軸(アライメント)
MAを示す概略的な図である。
図13(A)は、右足大腿骨FM及び脛骨TBの機能軸
MAと膝関節位置を示す。
図13(B)は、屈曲状態の主として膝関節を中心とした位置関係と機能軸
MAを示す。
【0004】
図14は、人工膝関節を設置するために関節部の骨を切除した大腿骨FM及び脛骨TBを示す概略的な側面図である。
図14(A)は大腿骨FM側の切断位置C11〜C15、
図14(B)は設置後の大腿骨コンポーネントaを示す。
図14(C)は脛骨TB側の切断位置C21、
図14(D)は設置後の脛骨コンポーネントb及びポリエチレンインサートcを示す。
【0005】
図示する如く人工膝関節は、大腿骨コンポーネントaと、脛骨コンポーネントb及び関節部分のポリエチレンインサートcとから構成されている。それぞれの大きさが患者によって異なるため、通常はいくつか異なるサイズの人工膝関節が予め準備される。
【0006】
人工膝関節の手術では、変形した軟骨及び骨を機能軸
MAに対して垂直に正確に骨切除し、人工関節コンポーネントを固定するための設置面を設ける。
【0007】
脛骨TB側においては、脛骨コンポーネントbを脛骨に固定するべく、脛骨機能軸
MAに垂直な平らな面を作成するために、関節面から骨を切除する。
同様に、大腿骨FM側においては、大腿骨FM遠部より変形した軟骨及び骨を切除し、大腿骨コンポーネントaを大腿骨に固定するための5つの設置面C11〜C15を設ける。上記5つの設置面C11〜C15は、それぞれ大腿骨FMの機能軸
MAに垂直な面C11と機能軸
MAに平行な前後の2面C12,C13、及び面取り部分の傾斜設置面の2面C14,C15である。
【0008】
非特許文献1に記載されているように、人工膝関節の長期耐久性を向上させるためには、これらの骨切除が機能軸に対して正確に骨切除されていることが重要であり、且つ患者に適合する人工膝関節のサイズ選択が重要である。
【0009】
非特許文献2に記載されているように、従来からの人工膝関節手術器械の方法では、骨切除面の方向を決定するために、骨髄腔に髄内ロッドを挿入し、その方向をリファレンスとして骨切除の角度を調整した骨切りが行なわれている。しかしこの方法では、骨髄腔内に手術器械の髄内ロッドが意図した方向に必ず入るとは限らず、正しいアライメントの位置にコンポーネントが設置される確率が低いことが指摘されている。さらに、髄内ロッドによる骨髄腔の侵襲や、髄内からの出血や脂肪塞栓を原因とする血栓症の発生などの合併症が報告されている。
【0010】
この改善策として、三次元手術前計画を実際の手術に反映する方法である特許文献1に示す技術が考えられている。この方法は、髄内ロッドの方向と骨切除位置の関係を三次元術前計画で計測しておき、その値を反映可能な特殊な髄内ロッドを用いた手術器械による技術である。しかしながらこの方法も、髄内ロッドにより骨髄腔を侵襲することによる出血や血栓症などの合併症への問題点に関しては解決していない。
【0011】
一方、術前計画を正確に術中に誘導する方法として、非特許文献3に記載されているようなナビゲーション機器を用いる方法がある。この方法の場合、ナビゲーション機器が大変高価であること、コンピュータに骨の位置を認識させるための赤外線センサ等を装備したアンテナピンを対象の骨に打ち込む必要があり、このアンテナピンによる侵襲が懸念されること、コンピュータに骨の位置を認識させるレジストレーション作業が必要なために手術時間が延長することなど、不具合が多々ある。このため、ナビゲーション機器の普及率はごく低いのが現状である。
【0012】
三次元術前計画を手術に正確に反映する機能を有するシステムであり、且つナビゲーション機器を代替えできる、安価で手術時間が短縮可能な手術器械が必要とされている。
【0013】
さらに、最近のあらたな方法として、非特許文献4,5に記載されているように、ラピットプロトタイピング技術を用いて、個々の患者の骨形状に適合するオーダーメイドの手術器械を作成し、このオーダーメイドの器械を関節部分の骨に密着させて骨切除を行なう試みが報告されている。
【0014】
骨切除の精度は器械の骨への密着性の精度にきわめて依存度が高い。そしてオーダーメイドで術前に予め作製した器械であるために、手術直前のシミュレーション操作により器械の主要な部分の寸法を調整して変更することができない。手術中においても同様に器械の方向を機能軸に合わせて調整する機能がないため、オーダーメイド器械の製造交差や、設計の良し悪しによっては骨との適合性に不良が生じ、人工関節の設置精度にも影響が生じることが予測される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を膝関節の人工膝関節置換手術用器械に適応した場合の一実施形態について図面を参照して説明する。
[三次元術前計画と実物大の骨造作物の製造]
まず、患者個々の下肢全長をCT装置あるいはMRI装置で撮影し、この画像データから三次元的な骨モデルをコンピュータ上で作成し、人工膝関節置換術における三次元的な術前計画を行なう。ここまでの作業は既存の人工膝関節の三次元テンプレーティングシステムやナビゲーションシステムの術前計画と同様である。
【0023】
次にこの術前計画に基づく三次元データにより、骨モデル1,3、及び手術器械10,21の間隙を埋める造作物5,8へ三次元的な設置位置の決定を可能とするアライメント(機能軸)の穴等の設計を施した上で、それぞれをラピットプロトタイピング技術を用いて作製する。
【0024】
[大腿骨側の器械構成]
図1に、上記したラピットプロトタイピング技術を用いて作製した実物大の大腿骨モデル1を示す。同図に示すようにこの大腿骨モデル1には、術前計画で設計した大腿骨の
機能軸に沿った三次元アライメント軸孔2及び、手術器械の3.2mm径の固定ピンを設置する計画の位置に固定ピン孔2a〜2dがそれぞれ造作されている。
【0025】
この大腿骨モデル1に組み合わせるべく、
図2に示す中間モデルとしての大腿骨顆間部モデル5を併せてラピットプロトタイピング技術で作製する。この大腿骨顆間部モデル5は、大腿骨モデル1の顆間部の形状に適合するよう造作されており、特に人工膝関節設置のメルクマールとして重要な、大腿骨前面のリファレンス面6と大腿骨顆間リファレンス面7を大腿骨モデル1に当接して相互の形状が正確に合致するように模されている。
【0026】
加えてこの大腿骨顆間部モデル5には、上記大腿骨モデル1の三次元アライメント軸孔2と軸方向で合致するような三次元アライメント軸孔5aが形成されている。これら2つの造作モデル1,5を組み合わせて使用する。
【0027】
図3に示すように、上記造作モデル1,5に対して大腿骨設置ガイド器械10を用いる。この大腿骨設置ガイド器械10は、アライメントロッド11を挿入するスライド孔部10aを有し、アライメントロッド11を該スライド孔部10aから上記大腿骨顆間モデル5の三次元アライメント軸孔5aを通じて、上記大腿骨モデル1の三次元アライメント軸孔2に差し込み、それぞれを組み合わせて使用する。
【0028】
スライド孔部10aは、大腿骨設置ガイド固定ネジ20を緩めている状態では図中の上下方向にスライドさせることが可能であると共に、内部のジョイント機構によりアライメントロッド11を保持する角度も三次元的に可変できる。
【0029】
また、大腿骨設置ガイド器械10では、大腿骨設置ガイド器械10の長軸方向に対して鉛直に突出した大腿骨遠位端切除ガイド18の選択に設けるネジ12,13の調整により、大腿骨前面に当接する大腿骨前面との当接距離を、ネジ14,15,16,17の調整により大腿骨顆間部との当接距離を、それぞれ可変設定できる。
【0030】
上記各ネジ12,13,16,17は中空構造となっており、後述する径3.2mmの固定ピン(一部図示せず)を大腿骨モデルの固定ピン孔2a〜2dへ貫通させて打込むことにより当該ネジの当接位置から大腿骨設置ガイド器械10を大腿骨に3次元手術計画を反映した位置に固定することを可能としている。
【0031】
さらに大腿骨設置ガイド器械10の本体上部には、手術時にここでは図示しない髄外アライメントロッドを装着するロッド装着孔19を設ける。
【0032】
[大腿骨側の各器械の組立てと調整]
図4に大腿骨設置ガイド器械10を大腿骨顆間部モデル5及び大腿骨モデル1に組み付けた状態を示す。大腿骨設置ガイド器械10の前面からスライド孔部10aを通すようにアライメントロッド11を差し込み、三次元アライメント軸孔5aを通して大腿骨顆間モデル5を介在させ、大腿骨モデル1に形成した三次元アライメント軸孔2へ通す。
【0033】
こうしてアライメントロット11を軸として大腿骨設置ガイド器械10、大腿骨顆間部モデル5、及び大腿骨モデル1を密着して組み合わせた状態として、大腿骨設置ガイド器械10に備えられる大腿骨設置ガイド固定ネジ20を締めてアライメントロッド11の位置、角度を固定する。
【0034】
そして、大腿骨遠位端切除ガイド18のスリット部分が大腿骨モデル1の顆間部の骨をリファレンスするレベルにスライドさせ骨切除位置を調整し固定した後、ネジ12,13を大腿骨前面に接するまでねじ込む。さらにネジ14,15,16,17をそれぞれ大腿骨モデル1にネジ先端が接触するまでねじ込んで長さを調整する。
【0035】
[大腿骨側の手術前シミュレーション]
手術前に実物大の大腿骨モデル1のどの位置に手術器械の各調整ネジ20、12,13,14〜17が位置しているか、術前計画の値と大腿骨モデル1上の器械の設置位置の値が一致しているか、各調整部位の長さを計測しておくことにより、正確なアライメントにおける器械の設置状態を把握して手術に臨む。
【0036】
[大腿骨手術中操作]
手術時においては、実物大大腿骨モデル1を用いず、大腿骨顆間モデル5と大腿骨設置ガイド器械10を組み合わせた状態で使用する。患者の大腿骨関節部へ術前のシミュレーションを反映した最も適合性の良い至摘位置となるように大腿骨設置ガイド器械10及び大腿骨顆間部モデル5を密着させる。
【0037】
そして、骨髄腔に対する髄内ロッドを挿入せず、図示しない髄外ロッドを大腿骨設置ガイド器械10上部のロッド装着孔19に装着してアライメントを確認しながら大腿骨設置ガイド器械10の適合性を確認する。必要に応じて各調整ネジを微調整する操作を行なうことで、髄内ロッド等による侵襲を骨側に与えることなく、三次元手術前計画の位置に人工関節設置のための骨切除ガイド器械を誘導する。
【0038】
大腿骨側の三次元的な位置調整方法の詳細は、屈曲・伸展方向においては、大腿骨屈曲調整ネジ14、15により角度を微調整する。また内外反の方向に関しては大腿骨内外反調整ネジ16、17により角度を微調整した後、その中空孔より図示しない3.2mm径の固定ピン2本をコネクタに打ち込んで大腿骨設置ガイド器械10を固定する。このピンによって形成した孔部が後述するペグ固定孔となる。
【0039】
さらに、回旋方向の調整においては、大腿骨遠位端切除ガイド18のスリット部分を大腿骨顆間部の骨をリファレンスするレベルにスライドさせて固定した後、回旋角度調整ネジ12,13により角度を微調整する。
【0040】
そしてこれも中空構造となった回旋角度調整ネジ12,13に対して3.2mm径の固定ピン2本を打ち込むことで大腿骨遠位端切除ガイド18を大腿骨前面に固定する。
【0041】
これらの一連の操作により大腿骨切除器械のための固定ピンの位置を三次元手術前計画の切除位置へ誘導し再現する。
【0042】
大腿骨前面の3.2mm径の固定ピン2本のみを残した状態で、大腿骨設置ガイド器械10、大腿骨顆間部モデル5を含む器械を一旦すべて取り外す。大腿骨前面に残した3.2mm径の固定ピンへ大腿骨円異端用の図示しない切除ガイドを装着して大腿骨遠位端を
図14(A)の切断面C11で示すように切除する。
【0043】
続いて、大腿骨遠位端に残した2本の固定ピンを取り外し、骨側に残ったピン跡の孔部に図示しないペグを差し込んで固定し、残る4面(
図14(A)の切断面C12〜C15)を切除し、人工膝関節大腿骨コンポーネントを設置する。
【0044】
[大腿骨側の術前計画における作用効果]
手術前の一連の操作による大腿骨設置ガイド器械10を含む器械の三次元的な位置調整により、また、実物大の大腿骨モデル1を使用した手術ミュレーションにより、手術者は変形した関節の状態や骨欠損、骨棘の位置や大きさを3次元的に十分に把握して手術に臨むことができる。手術中においては人工膝関節大腿骨コンポーネントを比較的に低侵襲で安全、且つ短時間のうちに術前計画通り正確なアライメントでの設置が可能となる上、全体のコストを安価に実現できる。
【0045】
[脛骨側の器械構成]
図5は、ラピットプロトタイピング技術を用いて作製した実物大の脛骨モデル3を示す。同図に示すようにこの脛骨モデル3には、術前計画で設計した脛骨の
機能軸に沿った三次元アライメント軸孔4及び3.2mm径の固定ピンを設置するための固定ピン孔4a,4bが造作されている。
【0046】
この脛骨モデル3に組み合わせるべく、
図6に示す中間モデルとしての脛骨内側上顆モデル8を併せてラピットプロトタイピング技術で作製する。この脛骨内側上顆モデル8は、脛骨モデル3の内側関節面前面の形状に適合するよう造作されており、特に人工膝関節設置のメルクマールとして重要な、顆間隆起内側部の凹面に適合するアーム部分9を脛骨モデル3に当接して相互の形状が正確に合致するように模されている。
【0047】
加えてこの脛骨内側上顆モデル8には、顆間部ピン貫通孔30を形成する。これら2つの造作モデル3,8を組み合わせて使用する。
【0048】
図7に示すように、上記造作モデル3,8に対して脛骨設置ガイド器械21を用いる。この脛骨設置ガイド器械21は、その上部に術前に髄内アライメントロット11を挿入する孔21aを有しており、アライメントロッド11を器械21の孔21aから脛骨モデル3のアライメント穴4に差し込んで使用する。
【0049】
この脛骨設置ガイド器械21に対して脛骨切除ブロック27を装着して使用する。脛骨切除ブロック27は、上記脛骨内側上顆モデル8と組み合わせる。脛骨切除ブロック27にはスリット27aを形成し、骨切除時に該スリット27aを使用する。
【0050】
上記脛骨設置ガイド器械21には、脛骨顆間固定ピン29を挿入して固定するための固定つまみ21b、及び調整ネジ22,23を設ける。また、脛骨切除ブロック27には、中空構造となっている調整ネジ24,25及び26を設ける。また脛骨設置ガイド器械21の脛骨から遠位側には、髄外アライメントロッド用の装着孔28を設ける。
【0051】
[脛骨側の各器械の組立てと調整]
図8に脛骨設置ガイド器械21を脛骨内側上顆モデル8及び脛骨モデル3と共に組み付けた状態を示す。
まず、脛骨モデル3の内側顆間部の特徴的な丘陵部分横の凹面部へ脛骨内側上顆モデル8の上部アーム部分9の背面が添うように当接することで、脛骨の三次元的な骨切除レベルを誘導できるようにしておく。
【0052】
この状態で脛骨モデル3のアライメント穴4に脛骨設置ガイド21に固定したアライメントロッド11を挿入する。そして脛骨設置ガイド21に仮に装着した脛骨切除ブロック27が脛骨内側上顆モデル8と正確に組合せられるように装着位置を調整し、実物大脛骨モデル3に密着するように脛骨モデル3前面に押し当て固定する。
【0053】
そして脛骨顆間固定ピン29を脛骨内側上顆モデル8の顆間部ピン貫通孔30を通じて挿入し、さらに脛骨切除ブロック27の中空型調整ネジ24,25から脛骨モデル3の穴4a,4bへ3.2mm径の固定ピンを通し、脛骨モデル3に押し当てて固定つまみを締める。
【0054】
脛骨設置ガイド21の調整ネジ22,23及び脛骨切除ブロック27の調整螺子25,25,26を回して脛骨内側上顆モデル8が脛骨切除ブロック27と密着し、さらに脛骨モデル3に密着するように調整することにより、人膝工関節の設置に必要な脛骨切除レベルと後方傾斜を三次元手術前計画の切除レベルに固定する。ここでは図示しない髄外のアライメントロッドをロッド装着孔28に挿入し、三次元的な設置位置を確認する。
【0055】
[脛骨側の手術前シミュレーション]
手術前に実物大の脛骨モデル3のどの位置に手術器械の各調整ネジ21b,22,23,24〜26が位置しているか、術前計画の値と脛骨設置ガイド器械21、脛骨内側上顆モデルの設置位置の値が一致しているか、各調整部位の長さを計測しておくことにより、正確なアライメントにおける器械の設置状態を把握して手術に臨む。
【0056】
[脛骨手術中操作]
脛骨側の手術中操作では、骨髄腔に髄内ロッド11を挿入せず、侵襲を骨に与えることは避ける。代わりに、脛骨設置ガイド器械21に装着可能な髄外のアライメントロッドを脛骨設置ガイド21のアライメントロッド装着孔28に差し込んでアライメントを確認しながら操作を進める。
【0057】
脛骨切除ガイド27と脛骨との間を埋める造作物である脛骨内側上顆モデル8を組み合わせた状態で患者の脛骨の内側関節面に押し当てる。この際、顆間隆起内側の特徴的な丘陵部分横の凹面へ脛骨内側上顆モデル8上部のアーム9の背面が添うようにする。脛骨顆間固定ピン29の固定を解除し、顆間隆起部前方の骨に合わせてピン29を固定する。そして患者の機能軸と図示しない随外アライメントロッドの方向とが一致しているか確認する。
【0058】
次に脛骨設置ガイド器械21の三次元的な位置調整方法の詳細を説明する。
回旋方向の調整は脛骨切除ブロック27の前面にある脛骨回旋調整ネジ24、25を用いて微調整する。
後方傾斜に関しては、脛骨設置ガイド器械21のシャフト部にある脛骨後方傾斜調整ネジ22,23の先端のプローブ部分を、脛骨祖面と脛骨稜に経皮的あるいは皮膚の上から押し当て、これらのネジ22,23を用いて微調整する。
【0059】
内外反については、脛骨切除ブロック27の側面にある内外反角度調整ネジ26を用いて微調整する。アライメントロッド装着孔28に装着した図示しない随外ロッドを確認しながら必要に応じて、これらの三次元軸を術中においても微調整することで、三次元術前計画の位置を適切に補正する。
【0060】
そして、脛骨設置ガイド21を脛骨切除ブロック27の前面の中空型調整ピン24,25を通じて3.2mm径の固定ピン穴で固定し、脛骨切除ブロック27のスリット27aより骨切除して、人工膝関節脛骨コンポーネントを適切に設置する。
【0061】
[脛骨側の術前計画と手術後における作用効果]
手術前の一連の操作による脛骨設置ガイド器械21を含む器械の三次元的な位置調整により、また、実物大の脛骨モデル3を使用した手術ミュレーションにより、手術者は変形した関節の状態や骨欠損、骨棘の位置や大きさを3次元的に十分に把握して手術に臨むことができる。手術中においては人工膝関節脛骨コンポーネントを比較的低侵襲で安全且つ短時間のうちに術前計画通り正確なアライメントでの設置が可能となる上、全体のコストを安価に実現できる。
【0062】
[中間モデルの変形例]
上記実施形態では、術前計画の段階で大腿骨モデル1に対する大腿骨顆間部モデル5、脛骨モデル3に対する脛骨内側上顆モデル8をそれぞれコンピュータの仮想空間上で設計し、事前に中間モデルとして作製するものとして説明したが、手術者によっては、患者の身体的負担を軽減するなどの理由により術野の切開範囲を小さくすることがあるために、事前に作製した大腿骨顆間部モデル5、脛骨内側上顆モデル8では大きすぎて患者の骨に正しく当接できない場合も考えられる。
【0063】
そこで、骨モデルに対する設置ガイド器械の位置を執刀医師が任意に調整した上で、例えばオレフィン系エラストマ、スチレン系エラストマなど熱可塑性樹脂の材料を用い、加熱して可塑状態として、手術器械と骨の中間を埋めて固定することで中間モデルを形成し、且つ形成後に例えば冷水等を該熱可塑性樹脂にかけることにより中間モデルを硬化させてその形状を確定させることで、硬化した中間モデルを用いて、実際の手術中に用いることも考えられる。
【0064】
この方法を用いることにより、手術者の判断で術野の切開範囲を想定した上で、骨モデルの適切な部位に手術器械との間を埋めるように当該中間モデルを介在させることで、骨の立体形状を正確にトレースさせることができる。こうして硬化した熱可塑性樹脂を中間モデルとして、骨モデル1(3)と設置ガイド器械10(21)の間に髄内アライメントロッドの貫通孔をさらに形成させるようにしてもよい。
【0065】
このように、手術を行なう医師の判断により、術野が限られる場合でも、骨関節部における軟骨組織等の存在を考慮しながら、骨患部へ合致させる中間モデルの形状や部位をモールドし、熱可塑性樹脂で患者の骨患部に合致した中間モデルを直接作製できる。
【0066】
図9は、上記
図3における位置調整操作で、医師が大腿骨顆間部モデル5の存在なしに骨モデル1に対する設置ガイド器械10の位置、角度を調整した結果を示す。ここでは、上記調整時に大腿骨設置ガイド器械10の上記回旋角度調整ネジ12,13と大腿骨内外反調整ネジ16、17に対応する位置でそれぞれ円筒状のスリーブ31,31,‥‥を3.2mm径の固定ピンを介して骨モデル1のピン孔2a〜2dに通して介して調整を行ない、その後、大腿骨設置ガイド器械10一式を取り外した後も、大腿骨モデル1に対するスリーブ31,31,‥‥を図示しない固定ピンで仮止めしている状態を示す。
【0067】
こうして大腿骨設置ガイド器械10の調整位置をスリーブ31,31,‥‥により残した状態で、大腿骨顆間部モデル5に代わる中間モデルを作製する。作製に際しては、加熱した可塑状態にある熱可塑性樹脂、例えばオレフィン系エラストマを、上記スリーブ31,31,‥‥を含む範囲の大腿骨モデル1を全て覆うよう型取りを行なった上で、例えば冷水をかけて硬化させる。熱可塑性樹脂が硬化したら各スリーブ31,31,‥‥の固定ピンによる仮止めを解除することで、中間モデルである大腿骨顆間部モデルが完成する。
【0068】
図10は、そのようにして作製した中間モデルとしての大腿骨顆間部モデル32を示す。可塑状態にある粘土状の熱可塑性樹脂を手指により大腿骨モデル1に被せて作製するために些か不定形ではあるが、その内面は大腿骨モデル1と正確に合致しており、且つスリーブ31,31,‥‥の位置も正確に維持できる。
【0069】
そのため、実際の手術時に患者の大腿骨関節部に大腿骨設置ガイド器械10を装着する際にも、この大腿骨顆間部モデル32を介在させることで、術前の医師の調整による大腿骨設置ガイド器械10の設置位置、方向をきわめて正確に再現できる。
【0070】
[術中の器械設置位置確認と調整操作]
上記実施形態に加え、さらに術中の患者の骨に対する手術器械の設置精度を高めるためにガイド器械として、位置認識マーカを用いることも考えられる。
【0071】
図11(A)は、上記大腿骨設置ガイド器械10に取付ける位置認識マーカ40の外観構成を示す。この位置認識マーカ40は、3角平板状のマーカ本体41の表面に、同一球形状の3つの位置マーク42,42,‥‥を突出して形成する。これら位置マーク42,42,‥‥は、例えば異なる色となるように塗色され、後述するコンピュータでのパターンマッチング処理及び色認識処理により容易に位置関係が把握可能となる。
【0072】
また上記位置認識マーカ40のマーカ本体41裏面側には、上記大腿骨設置ガイド器械10のロッド装着孔19に合致した一対の位置決め凸部43,43を形成する他、マーカ本体41の側部一端には、フランジ状の大腿骨設置ガイド器械10との当接部44を形成される。
【0073】
図11(B)は、位置認識マーカ40を大腿骨設置ガイド器械10に装着した状態で、大腿骨FMの膝関節置換術中に運用している状態を例示する。
【0074】
図12は、上記
図11(B)のように位置認識マーカ40を装着した大腿骨設置ガイド器械10を、術中に患者の大腿骨に設置した状態で、その設置位置を確認するべく3次元計測カメラ51で撮影している状態を例示している。
【0075】
3次元計測カメラ51は、撮像光学系が左右2箇所あるステレオタイプのデジタルカメラであり、スタンド52により載架されている。3次元計測カメラ51で得た画素信号は、リアルタイムでコンピュータ53に送られる。ここでコンピュータ53は、例えば手術室内を移動可能なコンソールに載置された、コンピュータ本体53B、ディスプレイ53D、キーボード53K、及びポインティングデバイスとしてのマウス53Pからなるものとする。
【0076】
上記のような構成にあって、手術者は患部に対する大腿骨設置ガイド器械10の設置位置を目視で確認した段階で、手術器械のアライメントロッド装着孔19に3次元計測カメラ51用の位置認識マーカ40を装着し、位置認識マーカ40と骨患部が同一撮像範囲内に入るように3次元計測カメラ51で撮影する。撮影した3次元画像データを、コンピュータ53に予めインストールしていた3次元計測機能プログラムを用い、コンピュータにおける仮想空間上の手術計画で用いた3次元立体骨モデルと、上記実写した手術中の画像データとをマッチングさせることにより、骨患部と大腿骨設置ガイド器械10の相対的なづれが角度と距離により算出され、例えばディスプレイ53Dでそれら算出結果を数値等で表示させる。
【0077】
当然ながら、大腿骨設置ガイド器械10及びこの大腿骨設置ガイド器械10に装着される位置認識マーカ40の3次元形状データ等は予め上記3次元計測機能プログラムに含まれる。
【0078】
手術者は、ディスプレイ53Dでの表示内容を参考として大腿骨設置ガイド器械10を含む手術器械を微調整し、さらにその状態を3次元計測カメラ51を用いて撮影する、という動作を必要なだけ繰返すことで、術前計画通り大腿骨設置ガイド器械10を正確に設置することが可能となる。
【0079】
なお、上記コンピュータ53において、骨患部と大腿骨設置ガイド器械10の相対的なづれの角度と距離とをディスプレイ53Dで表示するのみならず、他の報知手段として、例えば間欠的なビープ音の間隔と音程とを変えて、骨患部と大腿骨設置ガイド器械10の相対的なづれの角度と距離とを表現することで、手術者はそのビープ音を聞きながら患部から目を離すことなく調整作業を続行できるようにすることも考えられる。
【0080】
このように、位置認識用のマーカを設置ガイド器械に装着し、3次元空間中での術前計画と比較した骨患部との相対位置関係を、撮像手段としての3次元計測カメラ51と、算出手段としてのコンピュータ53とで算出することで、術前計画通りにさらに正確に設置できる。
【0081】
上記位置認識マーカ40における位置マーク42,42,‥‥は、位置認識マーカ40を装着した大腿骨設置ガイド器械10の3次元空間内での位置と角度を示す指標として配置されたもので、その形状や色等は本実施形態に限定されない。
【0082】
なお上記実施形態は、膝関節の大腿骨側及び脛骨側の各人工関節用器械に適用した場合について説明したが、本発明は人工関節を置換する関節部位を特定するものではない。
【0083】
また、インプラントの固定を目的とした整形外科手術において、アライメントロッド及び骨切除ガイドまたはドリルピンを手術計画における骨の位置に設置する手術であればいずれにも適用可能となる。
【0084】
さらに、熱可塑性樹脂を用いて手術前計画の位置へ誘導するための、骨と手術器械の間を埋める中間モデルを医師の判断で直接モールドする方法は、手術器械や手術方法に制限されることなく、骨を対象とするほとんどすべての整形手術に適応可能となる。
【0085】
その他、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、上述した実施形態で実行される機能は可能な限り適宜組み合わせて実施しても良い。上述した実施形態には種々の段階が含まれており、開示される複数の構成要件による適宜の組み合せにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、効果が得られるのであれば、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。