特許第5773369号(P5773369)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5773369シーラー部を有する被塗物のリコート方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5773369
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】シーラー部を有する被塗物のリコート方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/14 20060101AFI20150813BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   B05D7/14 S
   B05D1/36 B
【請求項の数】4
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-169517(P2012-169517)
(22)【出願日】2012年7月31日
(65)【公開番号】特開2014-28332(P2014-28332A)
(43)【公開日】2014年2月13日
【審査請求日】2014年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】林 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大地
(72)【発明者】
【氏名】小川 淳也
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−236856(JP,A)
【文献】 特開2010−247070(JP,A)
【文献】 特開2008−144068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00〜7/26
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シーラー部を有する被塗物に、顔料を含む第1水性塗料組成物を塗装して未硬化の第1塗膜を形成し、次いで第2水性塗料組成物を塗装して未硬化の第2塗膜を形成し、次いで未硬化の第2塗膜の上にクリヤー塗料組成物を塗装し未硬化のクリヤー塗膜を形成する、ウェットオンウェット塗装工程、および
得られた未硬化の第1塗膜、第2塗膜およびクリヤー塗膜を同時に焼き付け硬化させる、焼き付け硬化工程、
を包含する、シーラー部を有する被塗物のリコート方法であって、
リコート前の該被塗物が、シーラー部、該シーラー部の上に形成された硬化第1塗膜、該硬化第1塗膜の上に形成された硬化第2塗膜、該硬化第2塗膜の上に形成された硬化クリヤー塗膜、を既に有し、
該シーラー部は、塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤によって形成されたシーラー部であり、
該第1水性塗料組成物から顔料を除いた成分の混合物のSP値と、塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤に含まれる可塑剤のSP値との差(△SP)が絶対値で1.0以下である、
シーラー部を有する被塗物のリコート方法。
【請求項2】
前記第1水性塗料組成物から顔料を除いた成分の混合物100質量部と、前記塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤に含まれる可塑剤20質量部とを混合し、次いで得られた混合物を加熱硬化させることによって形成された試験硬化塗膜の濁度が20以下である、
請求項1記載のリコート方法。
【請求項3】
前記第1水性塗料組成物が、
スチレン系モノマーを27〜65質量%含有し、水トレランスが0.2〜5であり、ヘキサントレランスが5〜25である水酸基含有アクリル樹脂エマルション;
水酸基含有ポリエステル樹脂;
メラミン樹脂;
カルボジイミド;
会合型粘性剤;および
顔料
を含む
水性塗料組成物である、請求項1または2記載のリコート方法。
【請求項4】
前記塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤に含まれる可塑剤が、フタル酸エステル、ジまたはトリカルボン酸エステル、リン酸エステルおよびエポキシ系可塑剤からなる群から選択される1種またはそれ以上である、請求項1〜3いずれかに記載のリコート方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シーラー部を有する被塗物のリコート方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体などの被塗物の表面には、防錆性、耐候性などといった様々な機能を持つ塗膜をそれぞれ順次形成して、被塗物を保護すると同時に美しい外観および優れた意匠を付与している。複層塗膜の形成方法としては、導電性に優れた被塗物上に電着塗膜などの下塗り塗膜を形成し、その上に、中塗り塗膜、そして、ベース塗膜およびクリヤー塗膜からなる上塗り塗膜を順次形成する方法が一般的である。
【0003】
ところで、自動車車体などの被塗物は、極めて複雑な構造を有している。例えば、自動車車体を構成する、ドア、ボンネットフード、ルーフなどといった箇所では、2つの板状の鋼板をそれぞれ互いに重ね合わせた接合部または継ぎ目部が存在する。そしてこれらの接合部または継ぎ目部は、境界部に隙間が存在する。このような隙間は、中塗り塗料組成物、上塗りベース塗料組成物および上塗りクリヤー塗料組成物といった通常の塗料組成物を用いた塗装のみでは、被覆が困難である。さらに接合部または継ぎ目部において存在する境界部の隙間には、水・塵などの異物が侵入し易く、これらの異物が錆の発生の原因となるという問題もある。そのため、このような接合部または継ぎ目部においては一般に、シーリング剤の塗装および充填によるシーラー部が設けられている。シーリング剤の塗装および充填は、一般に、電着塗膜が形成された鋼板に対して行われる。そして、シーラー部を設けた被塗物に対して、中塗り塗膜そして上塗り塗膜が形成される。
【0004】
自動車車体の塗装などにおける中塗り塗膜および上塗り塗膜は、塗膜そして製品の外観および意匠に対して大きく影響を及ぼす。そのため、中塗り塗膜および上塗り塗膜の塗装および焼き付け硬化工程において、異物の付着によるブツの発生、塗装不具合などによるヘコミまたはハジキの発生といった塗膜欠陥が見出された場合は、この塗膜欠陥部が存在する箇所または被塗物全体に対して、再度、中塗り塗膜および上塗り塗膜を設ける塗装が行われる。このような再塗装はリコートといわれる。そしてこのリコートにおいては、被塗物に既に設けられている中塗り塗膜および上塗り塗膜を含む複層塗膜と、再塗装によって設けられた中塗り塗膜および上塗り塗膜からなる再塗装塗膜との層間密着性が問題となる。この層間密着性が低い場合は、既に設けられた複層塗膜と再塗装塗膜との間で剥離が生じてしまうためである。そして、中塗り塗料組成物および上塗りベース塗料組成物として水性塗料組成物を用いる場合において、リコートにおける層間密着性は、特に、シーラー部を有する被塗物において劣ることが判明した。
【0005】
特公平7−39560号公報(特許文献1)には、芳香族系多価カルボン酸を含む多価カルボン酸と、環状脂肪族多価アルコール以外の多価アルコールとの脱水縮合物であって、数平均分子量が2,000〜10,000で1分子中に平均2.1〜2.8個の水酸基を有するポリエステル樹脂と、水酸基と反応し得る樹脂を、質量比で90:10〜60:40の割合で含有したことを特徴とする自動車用上塗り塗料組成物が記載されている(請求項1)。この特許文献1においては、上塗り塗料組成物に含まれるポリエステル樹脂の水酸基量および分岐構造を設計することによって、リコート付着性と耐傷付き性の両立を図っている。一方で本願発明は、シーラー部を有する被塗物のリコート方法であること、そしてシーラー部の形成に用いられたシーリング剤中に含まれる可塑剤と第1水性塗料組成物から顔料を除いた成分との物性が特定範囲にあることを条件とすることなどの点において、特許文献1に記載された発明とは、明らかに構成が異なる。
【0006】
特開平6−88056号公報(特許文献2)には、(A)塗膜形成性樹脂、(B)該樹脂(A)を加熱硬化させる架橋剤、および(C)炭素数8〜18の長鎖アルキル基を有し、かつHLB3〜12を有するリン酸エステル、スルホン酸またはカルボン酸を含有し、成分(C)の配合固形分量が成分(A)と(B)の固形分合計量に対して0.1〜5質量%である、層間密着性の改良された塗料組成物が記載されている(請求項1)。この特許文献2においては、成分(C)を含む塗料組成物を第2のベースコートの形成に用いることによって、硬化クリヤー塗膜をサンディングすることなく、第2のベースコートをリコートすることができることが記載されている(請求項4など)。一方で本願発明は、シーラー部を有する被塗物のリコート方法であること、そしてシーラー部の形成に用いられたシーリング剤中に含まれる可塑剤と第1水性塗料組成物から顔料を除いた成分との物性が特定範囲にあることを条件とすることなどの点において、特許文献2に記載された発明とは、明らかに構成が異なる。
【0007】
特開2005−146144号公報(特許文献3)には、酸化防止剤を含むことを特徴とする自動車上塗り塗料(請求項1)、そして、この上塗り塗料を塗装し硬化させた後、この上塗り塗料を再塗装して硬化させる、上塗り塗膜の補修塗装方法(請求項4)が記載されている。この特許文献3においては、酸化防止剤を含む自動車上塗り塗料を用いることによって、高NOx濃度下でのオーバーベーク条件下においても上塗り塗膜のリコート付着性が優れることとなるという効果が達成される旨が記載されている([0007]段落など)。一方で本願発明は、シーラー部を有する被塗物のリコート方法であること、そして上塗り塗料組成物においてこのような酸化防止剤を含むことを特徴としない点などにおいて、特許文献3に記載された発明とは、明らかに構成が異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平7−39560号公報
【特許文献2】特開平6−88056号公報
【特許文献3】特開2005−146144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来技術の問題点を解決することを課題とする。より特定すれば、本発明は、シーラー部を有する被塗物のリコートにおいて、被塗物に既に設けられている硬化塗膜と、新たに設ける塗膜との層間密着性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
シーラー部を有する被塗物に、顔料を含む第1水性塗料組成物を塗装して未硬化の第1塗膜を形成し、次いで第2水性塗料組成物を塗装して未硬化の第2塗膜を形成し、次いで未硬化の第2塗膜の上にクリヤー塗料組成物を塗装し未硬化のクリヤー塗膜を形成する、ウェットオンウェット塗装工程、および
得られた未硬化の第1塗膜、第2塗膜およびクリヤー塗膜を同時に焼き付け硬化させる、焼き付け硬化工程、
を包含する、シーラー部を有する被塗物のリコート方法であって、
リコート前のこの被塗物が、シーラー部、このシーラー部の上に形成された硬化第1塗膜、この硬化第1塗膜の上に形成された硬化第2塗膜、この硬化第2塗膜の上に形成された硬化クリヤー塗膜、を既に有し、
このシーラー部は、塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤によって形成されたシーラー部であり、
この第1水性塗料組成物から顔料を除いた成分の混合物のSP値と、塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤に含まれる可塑剤のSP値との差(△SP)が絶対値で1.0以下である、
シーラー部を有する被塗物のリコート方法、を提供するものであり、これにより上記課題が解決される。
【0011】
上記第1水性塗料組成物から顔料を除いた成分の混合物100質量部と、上記塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤に含まれる可塑剤20質量部とを混合し、次いで得られた混合物を加熱硬化させることによって形成された試験硬化塗膜の濁度が20以下であるのが好ましい。
【0012】
また、上記第1水性塗料組成物が、
スチレン系モノマーを27〜65質量%含有し、水トレランスが0.2〜5であり、ヘキサントレランスが5〜25である水酸基含有アクリル樹脂エマルション;
水酸基含有ポリエステル樹脂;
メラミン樹脂;
カルボジイミド;
会合型粘性剤;および
顔料
を含む水性塗料組成物であるのが好ましい。
【0013】
また、上記塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤に含まれる可塑剤が、フタル酸エステル、ジまたはトリカルボン酸エステル、リン酸エステルおよびエポキシ化大豆油からなる群から選択される1種またはそれ以上であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のリコート方法は、既に設けられていた、シーラー部、硬化第1塗膜、硬化第2塗膜および硬化クリヤー塗膜からなる複層塗膜を有する被塗物上に、リコートによって、硬化第1塗膜、硬化第2塗膜および硬化クリヤー塗膜からなる再塗装塗膜を設ける場合において、既に設けられていた複層塗膜と再塗装塗膜との間の層間剥離を伴うことなく、密着性に優れた塗膜を形成することができることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明のリコート方法によって得られた塗装物の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のリコート方法は、
被塗物に、第1水性塗料組成物を塗装して未硬化の第1塗膜を形成し、次いで第2水性塗料組成物を塗装して未硬化の第2塗膜を形成し、次いで未硬化の第2塗膜の上にクリヤー塗料組成物を塗装する、ウェットオンウェット塗装工程、および
得られた未硬化の第1塗膜、第2塗膜およびクリヤー塗膜を同時に焼き付け硬化させる、焼き付け硬化工程、
を包含する、シーラー部を有する被塗物のリコート方法である。
本発明の方法によってリコートされる前の被塗物は、シーラー部、このシーラー部の上に形成された硬化第1塗膜、この硬化第1塗膜の上に形成された硬化第2塗膜、この硬化第2塗膜の上に形成された硬化クリヤー塗膜、を既に有する。そして、このシーラー部は、塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤によって形成されたシーラー部である。そして本発明においては、上記第1水性塗料組成物から顔料を除いた成分の混合物のSP値と、塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤に含まれる可塑剤のSP値との差(△SP)が絶対値で1.0以下であることを特徴とする。
【0017】
被塗物
本発明の方法によってリコートされる前の被塗物は、シーラー部、このシーラー部の上に形成された硬化第1塗膜、この硬化第1塗膜の上に形成された硬化第2塗膜、この硬化第2塗膜の上に形成された硬化クリヤー塗膜、を既に有する被塗物である。本発明の方法によってリコートされる前の被塗物が有する硬化第1塗膜、硬化第2塗膜および硬化クリヤー塗膜は、以下に詳述する第1水性塗料組成物、第2水性塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を用いて形成された塗膜である。リコートされる前の被塗物が有する、これらの硬化第1塗膜、硬化第2塗膜および硬化クリヤー塗膜は、以下に詳述するウェットオンウェット塗装工程によって形成された塗膜であってもよく、または各塗料組成物を塗装した後に必要に応じた加熱硬化工程を含んだ塗装工程によって形成された塗膜であってもよい。
【0018】
被塗物として用いられる基材として、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛およびこれらの金属を含む合金などの金属基材が挙げられる。これらの基材は、必要に応じた化成処理(例えば、ジルコニウム化成処理、リン酸亜鉛化成処理など)を施した後、電着塗装により電着塗膜を形成するのが好ましい。電着塗装に用いられる電着塗料組成物として、公知のカチオン電着塗料組成物またはアニオン電着塗料組成物を用いることができる。電着塗装条件および焼き付け硬化条件として、例えば、自動車車体の電着塗装において通常用いられる条件などを用いることができる。
【0019】
シーラー部
本発明において、被塗物は、シーラー部を有する。このシーラー部は、被塗物に対して塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤を塗装することによって形成されたものである。
【0020】
塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤に含まれる塩化ビニル樹脂として、塩化ビニルの単独重合体、および、塩化ビニルと酢酸ビニルなどの他の単量体との共重合体、が挙げられる。これら塩化ビニルの単独重合体および共重合体は併用してもよい。
【0021】
塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤に含まれる可塑剤としては、例えば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸オクチルブチルなどのフタル酸エステル、セバシン酸エステル、アゼライン酸エステルなどのジまたはトリカルボン酸エステル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレシルなどのリン酸エステル、エポキシ化大豆油などのエポキシ系可塑剤など、が挙げられる。可塑剤としてさらに、高沸点有機溶媒を用いることもできる。
【0022】
なお本発明においては、第1水性塗料組成物から顔料を除いた成分の混合物のSP値と、塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤に含まれる可塑剤のSP値との差(△SP)が絶対値で1.0以下であることを条件としている。ここで、第1水性塗料組成物から顔料を除いた成分の混合物のSP値の範囲を考慮すると、可塑剤のSP値は例えば10.1〜11.8の範囲内であるのが好ましく、10.6〜11.8であるのがより好ましい。
【0023】
SP値とは、solubility parameter(溶解度パラメーター)の略であり、溶解性の尺度となるものである。SP値は数値が大きいほど極性が高く、数値が小さいほど極性が低いことを示す。SP値は、SUH、CLARKE、J.P.S.A−1、5、1671〜1681(1967)に従って求めることができる。
【0024】
より具体的には、次の方法により測定することができる。測定温度20℃で、SP値を測定する成分0.5gを100mlビーカーに秤量し、良溶媒(アセトン)10mlをホールピペットを用いて加え、マグネティックスターラーにより溶解し、希釈溶液を調製する。次に、この希釈溶液に50mlビュレットを用いて、低SP貧溶媒(n−ヘキサン)を徐々に滴下し、希釈溶液に濁りが生じた点を低SP貧溶媒の滴下量とする。また別途、上記希釈溶液に高SP貧溶媒(イオン交換水)を徐々に滴下し、希釈溶液に濁りが生じた点を高SP貧溶媒の滴下量とする。各成分のSP値は、上記各貧溶媒の濁点に至るまでの滴下量から算出することができる。
【0025】
塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤は、必要に応じたアルカリ土類金属の炭酸塩および硫酸塩、マイカ、シリカ、タルク、ケイソウ土、カオリン等の充填剤、エポキシ系、アクリル系、ポリアミド系、イソシアネート系などの一般的な接着性付与剤、亜鉛、鉛、バリウム、錫、カルシウムなどの金属の塩等の安定剤、表面処理炭酸カルシウム、超微粒子シリカ粉末等のチクソ性付与剤などを用いることができる。
【0026】
このような塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤を塗装した後、一般的に用いられる加熱硬化条件によって硬化させることによって、被塗物上にシーラー部が形成される。
【0027】
第1水性塗料組成物
本発明のリコート方法において、リコート前の被塗物が有する硬化第1塗膜、そして本発明のリコート方法によって新たに形成される第1塗膜は、何れも、以下に記載する第1水性塗料組成物によって形成されることが好ましい。そのようにすることで、後述のように硬化クリヤー塗膜と第1塗膜との塗膜間での層間密着性の低下を防ぐことができる。
【0028】
第1塗膜の形成において用いられる第1水性塗料組成物は、水性媒体中に分散または溶解された状態で、水酸基含有アクリル樹脂エマルション、水酸基含有ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、カルボジイミド、会合型粘性剤および顔料を含む。この第1水性塗料組成物はさらに、必要に応じた添加剤などを含んでもよい。
【0029】
水酸基含有アクリル樹脂エマルション
水酸基含有アクリル樹脂エマルションは、必須モノマーとしてスチレン系モノマーを含み、さらに、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)、カルボキシル基含有不飽和モノマー(b)および水酸基含有不飽和モノマー(c)を含むモノマー混合物を乳化重合して得ることができる。尚、モノマー混合物の成分として以下に例示される化合物は、1種または2種以上を適宜組み合わせて使用してよい。
【0030】
アクリル樹脂エマルションにスチレン系モノマーを配合することによって、疎水性効果が発揮され、これにより第1水性塗料組成物の塗装時のタレを有意に防止することができる。
【0031】
上記スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、α−メチルスチレンダイマー、ビニルトルエンなどが挙げられ、なかでも、疎水性、コスト、入手の利便性などの観点からスチレンが特に好ましい。
【0032】
スチレン系モノマーの含有量は、アクリル樹脂エマルション合成に用いるモノマー全量に対して、27〜65質量%、好ましくは30〜55質量%、より好ましくは32〜50質量%である。スチレン系モノマーの含有量が27質量%未満であると、疎水性効果が得られず、得られる第1水性塗料組成物の塗装時にタレが生じる場合がある。また、スチレン系モノマーの含有量が65質量%を超えると、得られる第1水性塗料組成物から形成される第1塗膜の諸性能が低下する恐れがある。
【0033】
また、スチレン系モノマーを上記含有量でアクリル樹脂エマルションに配合することによって、アクリル樹脂エマルションの水トレランスを0.2〜5、好ましくは0.3〜4、およびヘキサントレランスを5〜25、好ましくは6〜23に調節することができる。本明細書中、水トレランスは、親水性の度合いを評価するためのものであり、その値が高いほど親水性が高いことを意味し、ヘキサントレランスは、疎水性の度合いを評価するためのものであり、その値が高いほど疎水性が高いことを意味する。
【0034】
水トレランスが上記範囲外である場合は他の成分との相溶性が低下するおそれがある。また、水トレランスが0.2未満であると、水性媒体中での第1水性塗料組成物の貯蔵安定性が低下するおそれがあり、5を超えると得られる塗膜の耐水性が低下する場合もある。
【0035】
ヘキサントレランスが上記範囲外である場合は他の成分との相溶性が低下するおそれがある。また、ヘキサントレランスが5未満であると、塗膜内に濁りを生じ、塗膜外観が低下するおそれがあり、25を超えると、水性媒体中での第1水性塗料組成物の貯蔵安定性が低下する場合もある。
【0036】
本明細書中、水トレランスは以下のようにして測定することができる値である。測定温度を20℃とし、測定対象である樹脂0.5gを100mlビーカーに秤量し、アセトン10mlをホールピペットを用いて加え、マグネティックスターラーによって樹脂をアセトンに溶解する。次に、50mlビュレットを用いて脱イオン交換水を上記で調製したアセトン溶液に滴下し、濁りが生じた点の水の滴下量(ml)を水トレランスとする。なお、ヘキサントレランスは、上記水トレランスにおける水をn−ヘキサンに置き換えて測定したヘキサンの滴下量(ml)である。
【0037】
水酸基含有アクリル樹脂エマルションは、好ましくは、スチレン系モノマーを27〜65質量%含有し、水トレランスが0.2〜5であり、ヘキサントレランスが5〜25である水酸基含有アクリル樹脂エマルションである。このような水酸基含有アクリル樹脂を使用することによって、得られる第1水性塗料組成物の塗装時のタレを有意に防止することができ、塗膜外観が向上する。
【0038】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)は、アクリル樹脂エマルションの主骨格を構成するために使用する。(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどが挙げられる。
【0039】
上記カルボキシル基含有不飽和モノマー(b)は、得られるアクリル樹脂エマルションの貯蔵安定性などを向上させ、塗膜形成時におけるメラミン樹脂などの硬化剤との硬化反応を促進するために使用する。
【0040】
上記カルボキシル基含有不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸およびフマル酸などが挙げられる。
【0041】
上記水酸基含有不飽和モノマー(c)は、水酸基に基づく親水性をアクリル樹脂エマルションに付与し、これを塗料として用いた場合における作業性や貯蔵安定性を増すと共に、メラミン樹脂やイソシアネート系硬化剤との硬化反応性を付与するために使用する。
【0042】
上記水酸基含有不飽和モノマー(c)としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ε−カプロラクトン変性アクリルモノマーなどが挙げられる。
【0043】
モノマー混合物は、その他の成分として、(メタ)アクリロニトリルおよび(メタ)アクリルアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを含んでよい。
【0044】
また、モノマー混合物は、カルボニル基含有不飽和モノマー、加水分解重合性シリル基含有モノマー、種々の多官能ビニルモノマーなどの架橋性モノマーを含んでよい。
【0045】
乳化重合は、上記モノマー混合物を水性媒体中で、ラジカル重合開始剤および乳化剤の存在下で、攪拌下加熱することによって実施することができる。反応温度は例えば30〜100℃程度として、反応時間は例えば1〜10時間程度が好ましく、水と乳化剤を仕込んだ反応容器にモノマー混合物またはモノマープレ乳化液の一括添加または暫時滴下によって反応温度の調節を行うとよい。
【0046】
上記ラジカル重合開始剤としては、特に限定されず、通常アクリル樹脂の乳化重合で使用される公知の開始剤が使用できる。
【0047】
上記乳化剤としては、特に限定されず、炭素数が6以上の炭素原子を有する炭化水素基と、カルボン酸塩、スルホン酸塩または硫酸塩部分エステルなどの親水性部分とを同一分子中に有するミセル化合物から選ばれるアニオン系または非イオン系の乳化剤が用いられる。
【0048】
また、乳化重合としては、通常の一段連続モノマー均一滴下法、多段モノマーフィード法であるコア・シェル重合法や、重合中にフィードするモノマー組成を連続的に変化させるパワーフィード重合法など、いずれの重合法もとることができる。
【0049】
このようにして本発明で用いられる水酸基含有アクリル樹脂エマルションが調製される。得られたアクリル樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、一般的に5万〜100万程度であり、例えば10万〜80万程度である。
【0050】
上記水酸基含有アクリル樹脂エマルションの水酸基価は5〜80mgKOH/g、好ましくは10〜70mgKOH/gの範囲とする。この範囲の樹脂の水酸基価とすることにより、樹脂が適度な親水性を有し、樹脂エマルションを含む塗料組成物として用いた場合における作業性や貯蔵安定性が増すと共に、メラミン樹脂やイソシアネート系硬化剤との硬化反応性も十分である。水酸基価が5mgKOH/g未満では、前記硬化剤との硬化反応が不十分で、塗膜の機械的強度が不足し、耐チッピング性に欠け、耐水性および耐溶剤性にも劣る。一方、水酸基価が80mgKOH/gを超えると、得られた塗膜の耐水性が低下したり、前記硬化剤との相溶性が悪く、塗膜にひずみが生じ硬化反応が不均一に起こり、その結果、塗膜の諸性能、特に耐チッピング性、耐溶剤性および耐水性が劣る。水酸基含有不飽和モノマー(c)の配合量を、樹脂の水酸基価が上記範囲となるように選択する。
【0051】
上記水酸基含有アクリル樹脂エマルションの固形分酸価は3〜50mgKOH/g、好ましくは5〜30mgKOH/gの範囲とする。この範囲の樹脂の固形分酸価とすることにより、樹脂エマルションやそれを用いた第1水性塗料組成物の貯蔵安定性などが向上し、また、塗膜形成時におけるメラミン樹脂などの硬化剤との硬化反応が十分起こり、塗膜の諸性能、耐チッピング性、耐水性が向上する。樹脂の酸価が3mgKOH/g未満では、貯蔵安定性が劣り、また、メラミン樹脂などの硬化剤との硬化反応が十分行われず、塗膜の諸性能、耐チッピング性、耐水性が劣る。一方、樹脂の酸価が50mgKOH/gを超えると、樹脂の重合性が低下したり、貯蔵安定性が悪くなったり、得られた塗膜の耐水性が劣るものとなる。上記カルボキシル基含有不飽和モノマー(b)の配合量を、樹脂の酸価が上記範囲となるように調整する。
【0052】
上記水酸基含有アクリル樹脂エマルションのガラス転移温度(Tg)は−10℃〜40℃、好ましくは−7℃〜35℃、さらに好ましくは−5℃〜30℃の範囲とする。この範囲の樹脂のTgとすることにより、アクリル樹脂エマルションを含む第1水性塗料組成物をウェットオンウェット方式において用いた場合に、下塗り塗料および上塗り塗料との親和性や密着性が良好となり、ウェット状態の上側塗膜との界面でのなじみが良く反転が起こらない。また、最終的に得られる塗膜の適度な柔軟性が得られ、耐チッピング性が高められる。これらの結果、非常に高外観を有する複層塗膜が形成できる。樹脂のTgが−10℃未満では塗膜の機械的強度が不足し、耐チッピング性が弱い。一方、樹脂のTgが40℃を超えると、塗膜が硬くて脆くなるため、耐衝撃性に欠け、耐チッピング性が弱くなる。前記各モノマー成分の種類や配合量を、樹脂のTgが上記範囲となるように選択する。
【0053】
得られた水酸基含有アクリル樹脂エマルションに対し、カルボキシル基の一部または全量を中和してアクリル樹脂エマルションの貯蔵安定性を保つため、塩基性化合物が添加される。これら塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、各種アミン類、アルカリ金属などが挙げられる。
【0054】
水酸基含有ポリエステル樹脂
上記水酸基含有ポリエステル樹脂としては、多価アルコール成分と多塩基酸成分とを縮合してなるポリエステル樹脂、または多価アルコール成分および多塩基酸成分に加えてヒマシ油、脱水ヒマシ油、桐油、サフラワー油、大豆油、アマニ油、トール油、ヤシ油など、およびそれらの脂肪酸のうち1種、または2種以上の混合物である油成分を、上記酸成分およびアルコール成分に加えて、三者を反応させて得られるアルキド樹脂などを挙げることができる。また、アクリル樹脂やビニル樹脂をグラフト化したポリエステル樹脂も使用できる。
【0055】
上記水酸基含有ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)は、800〜10,000、好ましくは1,000〜8,000である。Mnが800未満であるとポリエステル樹脂を水分散させた時の貯蔵安定性が低下し、また10,000を超えると樹脂の粘度が上がるため、塗料にした場合の固形分濃度が下がり、塗装作業性が低下する。
【0056】
上記水酸基含有ポリエステル樹脂の水酸基価は、35〜170mgKOH/g、好ましくは50〜150mgKOH/gである。水酸基価が35mgKOH/g未満であると得られる塗膜の硬化性が低下し、また170mgKOH/gを超えると塗膜の耐チッピング性が低下する。
【0057】
上記水酸基含有ポリエステル樹脂は15〜100mgKOH/gの酸価を有することが好ましい。好ましくは20〜80mgKOH/gである。酸価が15mgKOH/g未満であるとポリエステル樹脂の水分散安定性が低下し、また100mgKOH/gを超えると塗膜にした時の耐水性が低下する。
【0058】
また、上記水酸基含有ポリエステル樹脂のTgは、−40〜50℃であることが好ましい。上記ガラス転移温度が−40℃未満である場合、得られる塗膜の硬度が低下する恐れがあり、50℃を超える場合、下地隠蔽性が低下する恐れがある。さらに好ましくは、−40〜10℃である。なお、Tgは、示差走査型熱量計(DSC)などによって実測することができる。
【0059】
上記多価アルコール成分の例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコールなどのジオール類、およびトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの三価以上のポリオール成分、並びに、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールペンタン酸、2,2−ジメチロールヘキサン酸、2,2−ジメチロールオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸成分を挙げることができる。
【0060】
上記多塩基酸成分の例としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水トリメリット酸、テトラブロム無水フタル酸、テトラクロロ無水フタル酸、無水ピロメリット酸などの芳香族多価カルボン酸および酸無水物;ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、1,4−および1,3−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族多価カルボン酸および無水物;無水マレイン酸、フマル酸、無水コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸などの脂肪族多価カルボン酸および無水物などの多塩基酸成分およびそれらの無水物などを挙げることができる。必要に応じて安息香酸やt−ブチル安息香酸などの一塩基酸を併用してもよい。
【0061】
ポリエステル樹脂を調製する際には、反応成分として、更に、1価アルコール、カージュラE(商品名:シエル化学製)などのモノエポキサイド化合物、およびε−カプロラクトン等のラクトン類を併用してもよい。
【0062】
上記水酸基含有ポリエステル樹脂は、その酸価を調整し、上記水酸基含有アクリル樹脂エマルションと同様に、カルボキシル基を塩基性化合物で中和することで容易に水性化可能である。
【0063】
メラミン樹脂
メラミン樹脂としては、エマルションとして含まれるアクリル樹脂や水酸基含有ポリエステル樹脂と硬化反応を生じ、第1水性塗料組成物中に配合することができるものであれば特に限定されないが、具体的にはイミノ型メラミン樹脂が好ましく、例えば、サイメル211(三井サイテック社製イミノ型メラミン樹脂、商品名)、サイメル327(三井サイテック社製イミノ型メラミン樹脂、商品名)などが挙げられる。
【0064】
また、アルキルエーテル化したアルキルエーテル化メラミン樹脂が好ましく、メトキシ基および/またはブトキシ基で置換されたメラミン樹脂がより好ましい。このようなメラミン樹脂としては、メトキシ基を単独で有するものとして、サイメル325、サイメル327、サイメル370、マイコート723;メトキシ基とブトキシ基との両方を有するものとして、サイメル202、サイメル204、サイメル232、サイメル235、サイメル236、サイメル238、サイメル254、サイメル266、サイメル267(何れも商品名、三井サイテック社製);ブトキシ基を単独で有するものとして、マイコート506(商品名、三井サイテック社製)、ユーバン20N60、ユーバン20SE(何れも商品名、三井化学社製)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
カルボジイミド
カルボジイミド化合物としては、種々の方法で製造したものを使用することができるが、基本的には有機ジイソシアネートの脱二酸化炭素を伴う縮合反応によりイソシアネート末端カルボジイミドを合成して得られたものを挙げることができる。より具体的には、カルボジイミド化合物の製造において、1分子中にイソシアネート基を少なくとも2個含有するカルボジイミド化合物と、分子末端に水酸基を有するポリオールとを、上記カルボジイミド化合物のイソシアネート基のモル量が上記ポリオールの水酸基のモル量を上回る比率で反応させる工程と、上記工程で得られた反応生成物に、活性水素および親水性部分を有する親水化剤を反応させる工程とにより得られた親水化変性カルボジイミド化合物が好ましいものとして挙げることができる。
【0066】
1分子中にイソシアネート基を少なくとも2個含有するカルボジイミド化合物としては、特に限定されないが、反応性の観点から、両末端にイソシアネート基を有するカルボジイミド化合物であることが好ましい。両末端にイソシアネート基を有するカルボジイミド化合物の製造方法は当業者によってよく知られており、例えば、有機ジイソシアネートの脱二酸化炭素を伴う縮合反応を利用することができる。
【0067】
会合型粘性剤
本発明の第1水性塗料組成物に用いられる会合型粘性剤としては特に限定されないが、例えば、市販されているもの(以下いずれも商品名)としては、アデカノールUH−420、アデカノールUH−462、アデカノールUH−472、アデカノールUH−540、アデカノールUH−814N(ADEKA社製)、プライマルRH−1020(ローム&ハース社製)、クラレポバール(クラレ社製)などを挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
本発明の粘性剤の含有率は第1水性塗料組成物中の樹脂固形分に対して、0.05〜2.0質量%が好ましく、さらに好ましくは0.5〜1.8質量%である。この範囲であると、第1水性塗料組成物の粘性がさらに良好となる。
【0069】
会合型粘性剤を配合することにより、第1水性塗料組成物の粘度を高くすることができ、第1水性塗料組成物を塗装する際に、タレが発生することを抑制することができる。また、第1塗膜と第2塗膜との間での混層をより抑制することができる。その結果、粘性剤を含まない場合に比べて、塗装時の塗装作業性が向上し、得られる塗膜の仕上がり外観を優れたものとすることができる。
【0070】
会合型粘性剤の含有量は、上記第1水性塗料組成物の樹脂固形分100質量部に対して、下限0.01質量部、上限20質量部であることが好ましく、下限0.1質量部、上限10質量部であることがより好ましい。0.01質量部未満であると、増粘効果が得られず、塗装時のタレが発生するおそれがあり、20質量部を超えると、外観および得られる塗膜の諸性能が低下するおそれがある。
【0071】
なお、第1水性塗料組成物において、水酸基含有アクリル樹脂エマルションと会合型粘性剤との配合割合は、固形分質量比100/0.1〜100/50、好ましくは100/1〜100/10(水酸基含有アクリル樹脂エマルション/前記会合型粘性剤)である。配合割合が上記範囲内であると、第1水性塗料組成物の貯蔵安定性に優れ、塗装時の作業性が向上し、塗膜の仕上がり外観が優れるなどの効果が得られる。
【0072】
その他の樹脂
第1水性塗料組成物は、上記成分の他にも、必要に応じてさらに、追加の樹脂成分、その他の添加剤成分などを含んでもよい。追加の樹脂成分としては特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂、水溶性アクリル樹脂、ポリエーテル樹脂およびエポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0073】
顔料
上記第1水性塗料組成物は、上記成分に加えて、顔料を含む。この顔料は一般に、顔料分散ペーストの状態に予め調製された状態で、塗料組成物中に加えられる。
【0074】
顔料分散ペースト
顔料分散ペーストは、顔料と顔料分散剤とを少量の水性媒体に予め分散して得られる。顔料分散剤は、顔料親和部分および親水性部分を含む構造を有する樹脂である。顔料親和部分および親水性部分としては、例えば、ノニオン性、カチオン性およびアニオン性の官能基を挙げることができる。顔料分散剤は、1分子中に上記官能基を2種類以上有していてもよい。
【0075】
顔料分散剤としては、特に限定されず、少量の顔料分散剤によって効率的に顔料を分散することができるものが好ましい。例えば、市販されているもの(以下いずれも商品名)を使用することもでき、具体的には、ビックケミー社製のアニオン・ノニオン系分散剤であるDisperbyk 190、Disperbyk 181、Disperbyk 182(高分子共重合物)、Disperbyk 184(高分子共重合物)、EFKA社製のアニオン・ノニオン系分散剤であるEFKAPOLYMER4550、アビシア社製のノニオン系分散剤であるソルスパース27000、アニオン系分散剤であるソルスパース41000、ソルスパース53095などを挙げることができる。
【0076】
上記顔料分散ペーストは、顔料分散剤と顔料とを公知の方法に従って混合分散することにより得られる。
【0077】
顔料としては、通常の水性塗料に使用される顔料であれば特に限定されないが、耐候性を向上させ、かつ隠蔽性を確保する点から、着色顔料であることが好ましい。特に二酸化チタンは着色隠蔽性に優れ、しかも安価であることから、より好ましい。
【0078】
二酸化チタン以外の顔料としては、例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、金属錯体顔料などの有機系着色顔料;黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラックなどの無機着色顔料などが挙げられる。これら顔料に、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルクなどの体質顔料を併用してもよい。
【0079】
また顔料として、カーボンブラックと二酸化チタンとを主要顔料とした標準的なグレーの塗料を用いることもできる。他にも、上塗り塗料と明度または色相などを合わせた塗料や各種の着色顔料を組み合わせた塗料を用いることもできる。
【0080】
顔料は、第1水性塗料組成物中に含まれる全ての樹脂の固形分および顔料の合計質量に対する顔料の質量の比(PWC;pigment weight content)が、10〜60質量%であることが好ましい。10質量%未満では、隠蔽性が低下するおそれがある。60質量%を超えると、硬化時の粘性増大を招き、フロー性が低下して塗膜外観が低下することがある。
【0081】
その他の添加剤としては、上記成分の他に通常添加される添加剤、例えば、増粘剤、フィラー、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤、表面調整剤などが挙げられる。これらの配合量は当業者の公知の範囲である。
【0082】
上記第1水性塗料組成物は、配合する全樹脂固形分に対して、望ましくは、
水酸基含有アクリル樹脂エマルション1〜30質量%、好ましくは2〜25質量%、より好ましくは4〜20質量%;
水酸基含有ポリエステル樹脂5〜70質量%、好ましくは20〜65質量%、より好ましくは40〜60質量%;
メラミン樹脂10〜40質量%、好ましくは20〜37質量%、より好ましくは25〜35質量%;
カルボジイミド化合物3〜25質量%、好ましくは5〜15質量%、より好ましくは7〜12質量%;および
会合型粘性剤0.05〜2質量%、好ましくは0.1〜1.5質量%、より好ましくは0.2〜1.2質量%を含有する。各含有量が上記範囲内であると、第1水性塗料組成物の塗装時にタレを有意に防止することができ、得られた塗膜の外観が向上する。
【0083】
第1水性塗料組成物は、上述の水酸基含有アクリル樹脂エマルション、水酸基含有ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、カルボジイミドおよび会合型粘性剤などを混合して調製される。
【0084】
水酸基含有アクリル樹脂エマルションと水酸基含有ポリエステル樹脂との割合は、固形分質量比1/1〜1/20(水酸基含有アクリル樹脂エマルション/水酸基含有ポリエステル樹脂)とする。この割合が1/1を超えると塗膜の粘度が高くなり、第1塗膜の平滑性が低下して、外観が低下する。1/20未満であると吸水率および溶出率が増加して、外観が低下する傾向がある。
【0085】
追加の樹脂成分、顔料分散ペーストやその他の添加剤は、適量混合すればよい。
【0086】
第1水性塗料組成物は、水性であれば形態は特に限定されず、例えば、水溶性、水分散型、水性エマルションなどの形態であればよい。
【0087】
本発明のリコート方法においては、第1水性塗料組成物から顔料を除いた成分の混合物のSP値と、塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤に含まれる可塑剤のSP値との差(△SP)が絶対値で1.0以下であることを条件とする。好ましくは絶対値で0.7以下である。ここで「第1水性塗料組成物から顔料を除いた成分の混合物」とは、第1水性塗料組成物の調製において、上記顔料分散ペーストを用いることなく調製した組成物を意味する。この「第1水性塗料組成物から顔料を除いた成分の混合物」には、樹脂成分、硬化剤および溶媒の混合物が該当し、例えば、水酸基含有アクリル樹脂エマルション、水酸基含有ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、カルボジイミドおよび溶媒の混合物が該当する。この混合物を上述した方法によりSP値を測定する。
【0088】
本発明者らの検討により、シーラー部を有する被塗物におけるリコート方法において、リコートによって設けられる再塗装塗膜の層間密着性を低下させる主要因は、シーラー部の形成に用いられた塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤に含まれる可塑剤であることが判明した。塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤は一般に、可塑剤を、塩化ビニル樹脂100質量部に対して100〜180質量部程度というように多量含む。シーリング剤中に含まれる可塑剤は高沸点を有するため、形成されたシーラー部に残存する。そしてこのシーラー部に含まれる可塑剤は、既に設けられていた複層塗膜を透過して、複層塗膜の表面(図1中のクリヤー塗膜(14)および第1塗膜(15)の界面)に徐々に移行(ブリード)してくる。このように、クリヤー塗膜(14)および第1塗膜(15)の界面部に、シーラー部に含まれる可塑剤がブリードすることによって、既に設けられていた複層塗膜(21)と、リコートによって設けられた再塗装塗膜(22)との間で、層間密着性が低下し、界面剥離などの不具合が生じることとなる。
【0089】
ここで、第1塗膜を形成する第1水性塗料組成物から顔料を除いた成分の混合物のSP値と、塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤に含まれる可塑剤のSP値との差(△SP)が絶対値で1.0以下であることによって、可塑剤のブリードを有効に抑制することができる。上記△SPが絶対値で1.0以下である場合は、第1水性塗料組成物中に含まれる樹脂成分などの成分の混合物と、塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤に含まれる可塑剤との相溶性が良好となる。これにより、既に設けられていた複層塗膜(21)における第1塗膜(12)において、シーラー部(11)から移行した可塑剤が良好に分散し、その結果、既に設けられていた複層塗膜(21)と、リコートによって設けられた再塗装塗膜(22)との界面間にブリードする可塑剤の量が低減されることとなる。さらに、第1水性塗料組成物中に含まれる樹脂成分などの成分と、塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤に含まれる可塑剤との相溶性が良好であることによって、既に設けられていた複層塗膜(21)と、リコートによって設けられた再塗装塗膜(22)との界面間にブリードした可塑剤が、再塗装塗膜(22)を構成する第1塗膜(15)中で分散することとなる。これにより、既に設けられていた複層塗膜(21)と、リコートによって設けられた再塗装塗膜(22)との界面間に存在する可塑剤の量が低減されることとなる。こうして、複層塗膜(21)および再塗装塗膜(22)の界面間に存在する可塑剤の量が低減されることによって、これらの塗膜間での層間密着性の低下を防ぐことができ、これにより界面剥離などの不具合を防止することが可能となった。
【0090】
第1水性塗料組成物から顔料を除いた成分の混合物のSP値と、塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤に含まれる可塑剤のSP値との差(△SP)は、第1水性塗料組成物から顔料を除いた成分の混合物のSP値を変動させることによって調整することができる。具体的には、水酸基含有アクリル樹脂エマルション、水酸基含有ポリエステル樹脂、メラミン樹脂およびカルボジイミドの種類や配合量によって調整することができる。
例えば、水酸基含有アクリル樹脂エマルションの場合、得るために用いるスチレン系モノマー、(メタ)アクリル酸エステル(a)、カルボキシル基含有不飽和モノマー(b)および水酸基含有不飽和モノマー(c)の種類および配合量によって調整できる。具体的には、スチレン系モノマーの配合量を増やしたり、(メタ)アクリル酸エステルのエステル部分が長い種類のものを用いたりするとSP値は低下する傾向を示し、また、カルボキシル基含有不飽和モノマーや水酸基含有不飽和モノマーの配合量を増やすとSP値は高くなる傾向にある。
同様に、水酸基含有ポリエステル樹脂を得るために用いる多価アルコール成分および多塩基酸成分の種類および配合量によって調整することができる。
【0091】
本発明においては、さらに、第1水性塗料組成物から顔料を除いた成分の混合物100質量部と、塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤に含まれる可塑剤20質量部とを混合し、次いで得られた混合物を加熱硬化させることによって形成された試験硬化塗膜の濁度が20以下である態様が好ましい。この試験硬化塗膜における濁度は、第1水性塗料組成物から顔料を除いた成分の混合物と可塑剤との相溶性を示す1つの指標となる。濁度が高いほど、これらの成分の相溶性は劣ることとなり、濁度が低いほど、これらの成分の相溶性が高いこととなる。
上記濁度は第1水性塗料組成物から顔料を除いた成分の混合物の配合および配合量によって調整することができる。具体的な調整方法としては、上記SP値の調整のところで述べたような方法を挙げることができる。
【0092】
本発明において、上記試験硬化塗膜の濁度は、全光線透過率(Tt)および散乱光線透過率(Td)を測定した後、濁度(Th)=散乱光線透過率(Td)/全光線透過率(Tt)×100によって算出できる。全光線透過率および散乱光線透過率は、積分球式光線透過率測定装置を用いて測定することができる。積分球式光線透過率測定装置としては、例えば、NDH−2000(日本電色工業社製ヘーズメーター)等が挙げられる。
【0093】
第2水性塗料組成物
本発明の方法で用いる第2水性塗料組成物は、自動車車体塗装用水性ベース塗料組成物として通常使用される塗料組成物を用いることができる。第2水性塗料組成物として、例えば、水性媒体中に分散または溶解された状態で、塗膜形成性樹脂、硬化剤、光輝性顔料、着色顔料や体質顔料などの顔料、各種添加剤などを含むものを挙げることができる。塗膜形成性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、カーボネート樹脂およびエポキシ樹脂などを使用することができる。顔料分散性や作業性の点から、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂とメラミン樹脂との組み合わせが好ましい。硬化剤、顔料、各種添加剤も、通常用いられるものを使用することができる。
【0094】
第2水性塗料組成物は、第1水性塗料組成物と同様の方法によって調製することができる。また、第2水性塗料組成物は、水性であれば形態は特に限定されず、例えば、水溶性、水分散型、水性エマルションなどの形態であればよい。
【0095】
クリヤー塗料組成物
本発明の方法で用いるクリヤー塗料組成物は、自動車車体などの塗装分野においてクリヤー塗料組成物として通常用いられる塗料組成物であればよい。例えば、媒体中に分散または溶解された状態で、塗膜形成性樹脂、硬化剤およびその他の添加剤を含むものを挙げることができる。塗膜形成性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。これらはアミノ樹脂および/またはイソシアネート樹脂などの硬化剤と組み合わせて用いてもよい。透明性または耐酸エッチング性などの点から、アクリル樹脂および/若しくはポリエステル樹脂とアミノ樹脂との組み合わせ、または、カルボン酸・エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂および/若しくはポリエステル樹脂などを用いることが好ましい。
【0096】
クリヤー塗料組成物の塗料形態としては、有機溶媒型、水性型(水溶性、水分散性、エマルション)、非水分散型、粉体型のいずれでもよく、また必要に応じた、硬化触媒、表面調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、粘度調整剤、安定剤などの各種添加剤を含んでもよい。
【0097】
リコート方法
本発明の方法は、リコート前の被塗物が、シーラー部、このシーラー部の上に形成された硬化第1塗膜、この硬化第1塗膜の上に形成された硬化第2塗膜、この硬化第2塗膜の上に形成された硬化クリヤー塗膜、を既に有する被塗物をリコート(再塗装)する方法である。このような被塗物に対して、まず第1水性塗料組成物を塗布して、未硬化の第1塗膜を形成する。第1水性塗料組成物は、例えば、通称「リアクトガン」と言われるエアー静電スプレー、通称「マイクロ・マイクロベル(μμベル)」、「マイクロベル(μベル)」、「メタリックベル(メタベル)」などと言われる回転霧化式の静電塗装機などを用いて、スプレーして塗装することができる。
なお、上記硬化第1塗膜および上記硬化第2塗膜は、それぞれ第1水性塗料組成物および第2水性塗料組成物から得られるものであることが好ましい。
【0098】
第1水性塗料組成物の塗装量は、一般に、乾燥塗膜の膜厚が10〜40μm、好ましくは15〜30μmになるように調節する。乾燥膜厚が10μm未満であると得られる塗膜の外観および耐チッピング性が低下するおそれがあり、40μmを超えると塗装時のタレや焼付け硬化時のピンホールなどの不具合が起こることがある。
【0099】
この第1塗膜は、第2水性塗料組成物を塗装する前に、加熱または送風することによって予備乾燥(プレヒート)させることが好ましい。予備乾燥(プレヒート)を行うことによって、塗膜中に残存した水が複層塗膜を焼き付ける工程で突沸を起こすことによるワキの発生を効果的に防ぐことができるという利点がある。さらに、未硬化の第1塗膜上に第2水性塗料組成物を塗装した際にベースと混ざりやすくなり外観が低下する可能性があるからである。
【0100】
次いで、未硬化の第1塗膜の上に第2水性塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を、ウェットオンウェットで順次塗装して、未硬化の第2塗膜およびクリヤー塗膜を形成する。ここで、ウェットオンウェット塗装とは、複数の塗膜を硬化させることなく、予備乾燥(プレヒート)程度で塗り重ねることをいう。
【0101】
第2水性塗料組成物の塗装量は、一般に、乾燥塗膜の膜厚が10〜30μmとなるように調節する。乾燥膜厚が10μm未満である場合、下地の隠蔽が不十分になったり、色ムラが発生するおそれがあり、また、30μmを超える場合、塗装時にタレや、加熱硬化時にピンホールが発生したりするおそれがある。
【0102】
クリヤー塗料組成物は、通常、塗膜の乾燥膜厚が10〜70μmとなるように塗布量が調節される。乾燥膜厚が10μm未満であると複層塗膜のつや感などの外観が低下し、70μmを超えると鮮映性が低下したり、塗装時にムラ、流れなどの不具合が起こったりする。
【0103】
次いで、未硬化の第1塗膜、第2塗膜およびクリヤー塗膜を同時に焼き付け硬化させる。焼き付けは、通常110〜180℃、好ましくは120〜160℃の温度に加熱して行われる。これにより、高い架橋度の硬化塗膜を得ることができる。加熱温度が110℃未満であると、硬化が不十分になる傾向があり、180℃を超えると、得られる塗膜が固く脆くなるおそれがある。加熱する時間は、上記温度に応じて適宜設定することができるが、例えば、温度が120〜160℃である場合、10〜60分間である。
【実施例】
【0104】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0105】
製造例1:水酸基含有アクリル樹脂エマルションの調製
攪拌機、温度計、滴下ロート、還流冷却器及び窒素導入管などを備えた通常のアクリル系樹脂エマルション製造用の反応容器に、水445部及びニューコール293(日本乳化剤社製)5部を仕込み、攪拌しながら75℃に昇温した。メタクリル酸1.53部、2−エチルヘキシルアクリレート8.28部、スチレン45部、n−ブチルアクリレート21.73部、エチルアクリレート23.45部を含むモノマー混合物24.6部、水240部及びニューコール293が30部のモノマー混合物をホモジナイザーを用いて乳化し、そのモノマープレ乳化液を上記反応容器中に3時間にわたって攪拌しながら滴下した。モノマープレ乳化液の滴下と併行して、重合開始剤として過硫酸アンモニウム1部を水50部に溶解した水溶液を、上記反応容器中に上記モノマープレ乳化液の滴下終了時まで均等に滴下した。モノマープレ乳化液の滴下終了後、さらに80℃で1時間反応を継続し、その後、冷却した。冷却後、ジメチルアミノエタノール2部を水20部に溶解した水溶液を投入し、不揮発分40.6質量%、固形分酸価10mgKOH/g、水酸基価40mgKOH/gの水酸基含有アクリル樹脂エマルションを得た。30%ジメチルアミノエタノール水溶液を用いてアクリル樹脂エマルションのpHを7.2に調整した。
【0106】
得られたアクリル樹脂エマルションにおけるスチレン含有量は45質量%であり、水トレランスは1であり、ヘキサントレランスは20であり、Tgは13.1℃であった。
これらの物性値は、下記手順に従って測定した。
【0107】
スチレン含有量(質量%):製造例1で調製したアクリル樹脂エマルションの全固形分質量に対するスチレンの質量を百分率で表す(質量%)。
水トレランス(ml):製造例1で調製したアクリル樹脂エマルションのアクリル樹脂サンプル0.5gをビーカー内で秤量し、アセトン(10ml)を加えてアセトン溶液を調製する。アセトン溶液が濁るまでアセトン溶液に水を滴下し、溶液が濁った点での水の滴定量(ml)を水トレランスとする。
ヘキサントレランス(ml):製造例1で調製したアクリル樹脂エマルションのアクリル樹脂サンプル0.5gをビーカー内で秤量し、アセトン(10ml)を加えてアセトン溶液を調製する。アセトン溶液が濁るまでヘキサンを滴下し、溶液が濁った点でのヘキサンの滴定量(ml)をヘキサントレランスとする。
【0108】
上記水酸基含有アクリル樹脂エマルションのエマルション樹脂の水酸基価、固形分酸価およびTgは、上記エマルション樹脂を実測して求めることもできるが、上記モノマー混合物の配合量から計算によって求めることもできる。
【0109】
製造例2:水酸基含有ポリエステル樹脂の調製
反応器にイソフタル酸25.6部、無水フタル酸22.8部、アジピン酸5.6部、トリメチロールプロパン19.3部、ネオペンチルグリコール26.7部、ε−カプロラクトン17.5部、ジブチルスズオキサイド0.1部を加え、混合撹拌しながら170℃まで昇温した。その後3時間かけ220℃まで昇温しつつ、酸価8mgKOH/gとなるまで縮合反応により生成する水を除去した。次いで、無水トリメリット酸7.9部を加え、150℃で1時間反応させ、酸価が40mgKOH/gのポリエステル樹脂を得た。さらに、100℃まで冷却後ブチルセロソルブ11.2部を加え均一になるまで撹拌し、60℃まで冷却後、イオン交換水98.8部、ジメチルエタノールアミン5.9部を加え、固形分50重量%、固形分酸価40mgKOH/g、水酸基価110mgKOH/g、数平均分子量2870、Tgが−3℃の水酸基含有ポリエステル樹脂を得た。
上記水酸基含有ポリエステル樹脂のTgは、セイコーインスツル社製の示差走査熱量計(DSC220C)を用いて測定した[測定条件:試料量10mg、上昇速度10℃/分、測定温度−20〜100℃]。
【0110】
製造例3:カルボジイミド化合物の調製
4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート3930部を、カルボジイミド化触媒である3−メチル−1―フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド79部と共に、180℃で16時間反応させ、1分子にカルボジイミド基を4個有し、両末端にイソシアネート基を有するカルボジイミド化合物を得た。ここに、オキシエチレン基の繰り返し単位が平均9個であるポリエチレングリコールモノメチルエーテル1296部及びジブチル錫ジラウレート2部を加え、90℃で2時間加熱して、末端がイソシアネート基及び親水性基であるカルボジイミド化合物を得た。次に、グリセリンの3つの水酸基に、OR1基に相当するプロピレンオキサイドを平均で16.7モルずつ付加した構造を有するGP−3000(三洋化成社製)3,000部を加え、90℃で、6時間反応させた。反応物は、IRによってイソシアネート基が消失していることが確認された。ここに脱イオン水18,800部を加えて撹拌し、樹脂固形分30質量%のカルボジイミド化合物の水分散体を得た。
【0111】
製造例4:顔料分散ペーストの調製
Disperbyk 190(ビックケミー社製アニオン系・ノニオン分散剤、商品名)4.5部、BYK−011(ビックケミー社製消泡剤)0.5部、イオン交換水22.9部、ルチル型二酸化チタン72.1部を予備混合した後、ペイントコンディショナー中でガラスビーズ媒体を加え、室温で粒度5μm以下となるまで混合分散し、顔料分散ペーストを得た。
【0112】
製造例5−1:第1水性塗料組成物(1)の調製
製造例1で調製した水酸基含有アクリル樹脂エマルション24.6部、製造例2で調製した水酸基含有ポリエステル樹脂99.9部、硬化剤としてサイメル211(三井サイテック社製イミノ型メラミン樹脂、商品名)37.5部、製造例3で調製したカルボジイミド化合物33.3部、および製造例4で調製した顔料分散ペースト139部を混合した後、アデカノールUH−814N(ウレタン会合型粘性剤、有効成分30%、ADEKA社製、商品名)3.33部を混合攪拌し、第1水性塗料組成物(1)を得た。
【0113】
製造例6−1:第1水性塗料組成物(2)の調製
サイメル211を37.5部の代わりに、サイメル211を18.75部、サイメル254(三井サイテック社製イミノ型メラミン樹脂、商品名)18.75部を配合したこと以外は製造例5−1と同様にして、第1水性塗料組成物(2)を得た。
【0114】
製造例5−2および製造例6−2:第1水性塗料組成物(1)から顔料を除いた成分の混合物およびの第1水性塗料組成物(2)から顔料を除いた成分の混合物の調製
製造例4で調製した顔料分散ペーストを配合しなかったこと以外は製造例5−1および6−1と同様にして、第1水性塗料組成物(1)から顔料を除いた成分の混合物および第1水性塗料組成物(2)から顔料を除いた成分の混合物を得た。
こうして得られた混合物のSP値を、良溶媒としてアセトンを、また、貧溶媒としてn−ヘキサンを用いた滴下法によって測定したところ、第1水性塗料組成物(1)から顔料を除いた成分の混合物のSP値が11.9、第1水性塗料組成物(2)から顔料を除いた成分の混合物のSP値が11.6であった。
【0115】
実施例1
硬化電着塗膜を有する鋼板上に、可塑剤としてフタル酸ジイソノニル(DINP)を含む塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤を塗装し、140℃で14分間焼き付け硬化させ、シーラー部を形成した。なお、この可塑剤のSP値を、製造例5−2と同様にして測定したところ、10.6であった。
なお、以下の実施例および比較例で用いた可塑剤のSP値は、全て上記の同様の方法によって測定した。
【0116】
得られた基板に、製造例6−1で調製した第1水性塗料組成物(2)を、エアースプレー塗装にて乾燥膜厚が20μmとなるように塗装し、80℃で5分プレヒートを行った。次いでアクアレックスAR−2000シルバーメタリック(日本ペイント社製水性メタリックベース塗料、商品名)を、エアースプレー塗装にて乾燥膜厚が10μmとなるように塗装し、80℃で3分プレヒートを行った。その後、マックフロー O−1800−4クリヤー(日本ペイント社製酸エポキシ硬化型クリヤー塗料組成物、商品名)をエアースプレー塗装にて乾燥膜厚が35μmとなるように塗装した後、140℃で30分間の加熱硬化を行い、シーラー部、硬化第1塗膜、硬化第2塗膜および硬化クリヤー塗膜を有する被塗物を得た。
こうして得られた被塗物に対して、上記被塗物を得る際に使用したものと同一の第1水性塗料組成物、第2水性塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を、上記と同様にして塗装し、焼き付け硬化させることによって、再塗装を行った。
【0117】
濁度測定用の試験硬化塗膜は、以下の手順に従って調製した。実施例1で用いられた塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤に含まれる可塑剤20質量部を、第1水性塗料組成物(2)から顔料を除いた成分の混合物である、製造例6−2によって得られた成分100質量部に混合した。得られた混合物を、19MILのフィルムアプリケーター(ドクターブレード)を用いてガラス板上に塗布した後、次いで140℃で30分間加熱硬化させることによって、試験硬化塗膜を形成した。得られた試験硬化塗膜の濁度を測定したところ、19であった。
【0118】
試験硬化塗膜の濁度は、以下に従って測定した。
得られた試験硬化塗膜の全光線透過率および散乱光線透過率を、NDH−2000(日本電色工業社製ヘーズメーター)を用いて測定した。この全光線透過率(Tt)と散乱光線透過率(Td)とを用いて、下記式に従い、濁度を算出した。試験硬化塗膜における濁度は、第1水性塗料組成物から顔料を除いた成分と可塑剤との相溶性を示す1つの指標となる。濁度が高いほど、これらの成分の相溶性は劣ることとなり、濁度が低いほど、これらの成分の相溶性が高いこととなる。
濁度(Th)=散乱光線透過率(Td)/全光線透過率(Tt)×100
【0119】
実施例2〜実施例5および比較例1〜比較例5
表1および2にもとづき、可塑剤および第1水性塗料組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、シーラー部、硬化第1塗膜、硬化第2塗膜および硬化クリヤー塗膜を有する被塗物を調製した。続いて、表1および2にもとづき、第1水性塗料組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして再塗装を行った。
【0120】
また、表1および2にもとづき、可塑剤および第1水性塗料組成物から顔料を除いた成分の混合物を用いたこと以外は実施例1と同様にして、第1水性塗料組成物から顔料を除いた成分の混合物のSP値と可塑剤のSP値との差(ΔSP)を算出し、試験硬化塗膜の濁度を測定した。結果を表1および2に示した。
【0121】
上記実施例および比較例によって得られた、再塗装された塗装物を用いて、下記評価を行った。
【0122】
層間密着性試験
再塗装によって得られた塗装物に、カッターナイフ(NTカッター(商品名)S型、A型またはその相当品)の切り刃を塗装面に対して約30度の角度を保ちつつ、基材に達する2mm間隔の碁盤目の切り込みを入れ、100個の碁盤目を作った。その上に気泡が残らないように粘着テープ(ニチバン社製粘着テープ)を均一に圧着させた。粘着テープの一端を持ち、塗面に対して30度の角度を保ちつつ、粘着テープを一気に剥がした。このときの[剥がれなかった碁盤目のマス目の数]/[碁盤目のマス目の数=100]を目視判定により決定した。結果を表1および2に示した。
【0123】
【表1】
【0124】
【表2】
混合物のSP値:第1水性塗料組成物から顔料を除いた成分の混合物のSP値
可塑剤の種類:塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤に含まれる可塑剤
SP値の差(絶対値表記):第1水性塗料組成物から顔料を除いた成分の混合物のSP値と、塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤に含まれる可塑剤のSP値との差(△SP)の絶対値
DINP:フタル酸ジイソノニル
DEHP:フタル酸ジ−2−エチルヘキシル
DOP:フタル酸ジオクチル
DINA:アジピン酸ジイソノニル
DOA:アジピン酸ジオクチル
【0125】
実施例1〜5においては、いずれも、第1水性塗料組成物から顔料を除いた成分の混合物のSP値と、塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤に含まれる可塑剤のSP値との差(△SP)が絶対値で1.0以下である実験例である。これらの場合においては、いずれも、再塗装によって得られた塗装物における層間密着性が高く、リコート性に優れることが確認された。
比較例1〜5は、いずれも、第1水性塗料組成物から顔料を除いた成分の混合物のSP値と、塩化ビニルプラスチゾルシーリング剤に含まれる可塑剤のSP値との差(△SP)が絶対値で1.0を超える実験例である。これらの場合においては、いずれも、再塗装によって得られた塗装物と第1塗膜との層間密着性が低いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明のリコート方法によって、既に設けられていた、シーラー部、硬化第1塗膜、硬化第2塗膜および硬化クリヤー塗膜からなる複層塗膜を有する被塗物上に、リコートによって、硬化第1塗膜、硬化第2塗膜および硬化クリヤー塗膜からなる再塗装塗膜を設ける場合において、既に設けられていた複層塗膜と再塗装塗膜との間の層間剥離を伴うことなく、密着性に優れた塗膜を形成することができる。本発明の方法は、例えば自動車塗装などの、塗膜外観が製品の外観および意匠に対して大きな影響を及ぼす塗装分野におけるリコート方法として有用性が高い。
【符号の説明】
【0127】
1:リコートされた塗装物
11:シーラー部
12:第1塗膜
13:第2塗膜
14:クリヤー塗膜
15:第1塗膜
16:第2塗膜
17:クリヤー塗膜
21:既に設けられていた複層塗膜
22:リコートによって設けられた再塗装塗膜
図1