(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5773370
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】紙力を改善するためのポリマーおよびポリマー混合物の表面塗布
(51)【国際特許分類】
C09D 133/26 20060101AFI20150813BHJP
D21H 21/18 20060101ALI20150813BHJP
D21H 19/10 20060101ALI20150813BHJP
D21H 19/20 20060101ALI20150813BHJP
C09D 103/02 20060101ALI20150813BHJP
C09D 133/14 20060101ALI20150813BHJP
C09D 139/02 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
C09D133/26
D21H21/18
D21H19/10 B
D21H19/20 A
C09D103/02
C09D133/14
C09D139/02
【請求項の数】17
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-538018(P2012-538018)
(86)(22)【出願日】2010年11月5日
(65)【公表番号】特表2013-510228(P2013-510228A)
(43)【公表日】2013年3月21日
(86)【国際出願番号】US2010055567
(87)【国際公開番号】WO2011057044
(87)【国際公開日】20110512
【審査請求日】2013年8月21日
(31)【優先権主張番号】61/258,646
(32)【優先日】2009年11月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514229801
【氏名又は名称】ソレニス・テクノロジーズ・ケイマン・エル・ピー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】サチン・ボーカー
(72)【発明者】
【氏名】マーク・シー・パットナム
【審査官】
松波 由美子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−248452(JP,A)
【文献】
特開2004−231901(JP,A)
【文献】
特開2007−217828(JP,A)
【文献】
特開2011−038187(JP,A)
【文献】
特開2000−045197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−10/00,101/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5モルパーセント未満のアニオン性官能基をもつポリアクリルアミドからなる群から選択される成分Aと、
固体基準で1.00から12.00m当量/gの範囲内の電荷密度を有するカチオン性ポリマーからなる群から選択される成分Bと、
澱粉と
を含み、
成分Aの成分Bに対する重量比が、99:1から80:20であり、
成分Aおよび成分Bの合計の、澱粉に対する重量比が、1:105から1:1である、
形成済の紙の基材用のコーティング組成物。
【請求項2】
成分Bが、アミン官能基を有するビニルモノマーまたはアリルモノマーから調製される、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
成分Aが、モノマーから調製され、少なくとも1種の前記モノマーが、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、およびN-イソプロピル(メタ)アクリルアミドからなる群から選択される、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
成分Aが、モノマーから調製され、少なくとも1種の前記モノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、4-スチレンスルホン酸、および4-ビニル安息香酸、ならびにそれらの塩からなる群から選択される、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
成分Bが、モノマーから調製され、少なくとも1種の前記モノマーが、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリド、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、[3-(アクリロイルオキシ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルジアリルアミン、ジアリルアミン、ジアルキルアリルアミン、およびアリルアミンからなる群から選択される、請求項1に記載の紙コーティング組成物。
【請求項6】
成分Bが、アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、およびN-イソプロピル(メタ)アクリルアミドからなる群から選択される少なくとも1種のモノマーを追加して調製される、請求項5に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
成分Bが、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、およびビニルN-フタルイミドからなる群からの少なくとも1種のモノマーから調製されるポリマーの加水分解生成物を含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
成分Bが、ビニルアミン含有ポリマーを含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
成分Aが、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミド、メチレン-ビス-(メタ)アクリルアミド、エチレン-ビス-(メタ)アクリルアミド、およびヘキサメチレン-ビス-(メタ)アクリルアミドからなる群から選択されるモノマーによって架橋されている、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項10】
成分Bが、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミド、メチレン-ビス-(メタ)アクリルアミド、エチレン-ビス-(メタ)アクリルアミド、およびヘキサメチレン-ビス-(メタ)アクリルアミドからなる群から選択されるモノマーによって架橋されている、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項11】
成分Aの分子量が、30,000から300,000ダルトンである、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項12】
成分Bの分子量が、50,000から600,000ダルトンである、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項13】
澱粉が、非改質のまたは改質された、コーンスターチ、米澱粉、ジャガイモ澱粉、小麦澱粉、およびタピオカ澱粉からなる群から選択される、請求項1に記載の紙コーティング組成物。
【請求項14】
組成物の粘度が、60℃の温度において1000センチポアズ未満である、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項15】
5モルパーセント未満のアニオン性官能基をもつポリアクリルアミドからなる群から選択される成分Aと、
固体基準に、1.00から12.00m当量/gの範囲内の電荷密度を有するカチオン性ポリマーからなる群から選択される成分Bと、
澱粉と
を含み、
成分Aの成分Bに対する重量比が、99:1から80:20であり、
成分Aおよび成分Bの合計の、澱粉に対する重量比が、1:105から1:1である
組成物を、すでに形成済の紙に塗布する工程を含む、改善された乾燥強度をもつ紙の作製方法。
【請求項16】
成分Bが、アミン官能基を有するビニルモノマーまたはアリルモノマーから調製され、成分Aの分子量が、30,000から300,000ダルトンであり、成分Bの分子量が、50,000から600,000ダルトンであり、組成物の粘度が、60℃の温度において1000センチポアズ未満である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
成分Bが、ビニルアミン含有ポリマーを含み、成分Aがアニオン性である、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面塗布用の紙力増強剤、およびこれらの紙力増強剤の調製方法に関する。特に、本発明は、略中性アクリルアミドポリマーとカチオン性ポリマーとのブレンドを含むポリマー組成物に関する。表面塗布用の澱粉とともに、これらの紙力増強剤は、優れた破裂強さ、圧縮強さ、および他の諸特性を紙に与える。
【背景技術】
【0002】
経済性および環境上の必要性により、製紙業界は再生繊維の使用を増加せざる得なくなってきている。再生紙を用いる利点には、コスト削減、精製工程の削減、入手し易さ、および環境上の持続可能性などがある。しかし、再生工程を通る回数の増加につれて、再生繊維が次第により短く、より硬くなって、パルプ強度、さらには繊維間結合強度が減少する。強度は、包装グレード紙の必須パラメーターである。再生工程中に失われた強度を回復するための1つの方法はさらなる精製にかけることであるが、再生繊維の場合には精製工程のウインドウが非常に狭い。別の手法は、製紙工程において紙力増強化学薬品を利用することである。しかし、再利用された添加剤との干渉、紙の均一な形成、水切れ(drainage)、および生産性を考慮することが必要となる。
【0003】
添加剤は、シート形成前にパルプのスラリーに添加して、機械の操業性、生産性、および紙の特性を改善する。添加剤としては、湿潤紙力増強剤および乾燥紙力増強剤(例えば、カチオン性およびアニオン性ポリアクリルアミド、エピハロヒドリン含有官能化ポリアミド、ポリビニルアミン)、歩留り向上剤および水切れ向上剤(例えば、ミョウバン、ポリエチレンイミン)、消泡剤、ピッチおよび粘着性を制御する充填剤が挙げられる。疎水性を与える様々なサイズ剤、例えば、ロジン、アルキルケテンダイマー(AKD)、またはアルキルコハク酸無水物(ASA)等も添加される。
【0004】
完成シートの乾燥強度を向上させるための一般的なウエットエンド添加剤は、澱粉またはグアーガムである。性能を改善するための澱粉の改質については、十分に文書で裏付けられている。強度付与のための澱粉の選択および種類は、地域によってさまざまであり、コストおよび入手可能性次第である(「Starch and Starch Products in Paper Coating」、R. L. KearneyおよびH. W. Maurer編 1990を参照されたい)。
【0005】
紙力増強性を改善するための架橋性澱粉が用いられてきた。例えば、Huangらは、改善された物理的特性および機械的特性をもたらす、製紙工程において澱粉を架橋するための、ホウ素含有化合物の使用を記述している(WO2004/027,149A1)。この架橋した澱粉組成物は、糊化工程において澱粉のスラリーをホウ酸またはホウ酸亜鉛と反応させることにより形成された反応生成物を含む。
【0006】
Floydらに付与された米国特許第6,303,000号において、グリオキサール樹脂で架橋された糊化澱粉組成物、および製紙におけるその使用が開示されている。澱粉糊化工程において、澱粉はブロック化グリオキサールと反応し、結果として澱粉が架橋する。この混合物が、シートの形成前にパルプのスラリーに添加される。これらの特定の澱粉架橋化合物の限界は、圧縮強さは改善できるが、穿刺抵抗が低下する傾向があることである。
【0007】
紙力、特に再生繊維から作製される紙の紙力を改善するためにウエットエンドにおいて添加される紙力増強剤としては、両性アクリルアミド系ポリマー技術およびコアセルベート技術が挙げられる。前者の例は、Oguniに対して発行された米国特許第5,698,627号に記載されている。この特許は、再生段ボール原紙の濾水度、歩留りおよび乾燥強度を改善するアクリルアミド系両性コポリマーの合成を教示している。コアセルベート技術の例は、米国特許第6,294,645号に記載されている。このウエットエンド乾燥強度系は、パルプのスラリーに順次添加される、低電荷ポリアミドアミン-エピクロロヒドリンおよびアニオン性ポリアクリルアミドから構成される。
【0008】
ポリビニルアミンは、製紙工程における乾燥紙力増強剤および湿潤紙力増強剤、ならびに歩留り向上剤および水切れ向上剤として利用されてきた。このポリマーは、高密度のアミン官能基によって、より高い電荷密度を有し、最終的には、セルロース繊維とポリマー鎖との間の水素結合が強化されている。米国特許第2,721,140号において、Weisgerberらは、製紙のための湿潤紙力増強剤として、ポリビニルN-フタルイミドの加水分解により調製されるポリビニルアミンを使用することを開示している。Luuらに対して発行された米国特許第5,961,782号において、架橋性のクレーピング接着剤配合物を作製するためのポリビニルアミンの使用が開示されている。Niessnerらは、米国特許第6,159,340号において、紙および板紙の製造における乾燥紙力増強剤および湿潤紙力増強剤としてのポリビニルアミンの使用を開示している。米国特許第4,421,602号、米国特許第6,616,807号、および米国特許第6,797,785号において、製紙工程における水切れ向上剤、凝集剤、および歩留り向上剤としてのポリビニルアミンの使用が開示されている。
【0009】
粗悪な繊維品質とあいまって再生工程経由で生じる過剰なアニオン性夾雑物による干渉のため、著しく高い添加剤レベルが要求される。高コストの他に、ウエットエンド添加剤はプラトー性能に達している。すなわち、さらなる化学物質によって性能が向上しない。製紙業界の当業者は、紙の形成後に添加剤を塗布することによりこれらの制限を克服してきた。用いられる技術としては、メタリングサイズプレス、パドルサイズプレス、噴霧、ロールコーター、ブレードコーターおよびエアナイフコーターが挙げられる。一般に用いられるコーティングまたは表面サイズ剤は、ポリアクリル系乳剤、様々な粒径をもつポリ(スチレン-コ-ブダジエン)乳剤、ポリ(ビニルアセテート)、およびポリビニルアルコールである。これらの添加剤は、良好な皮膜形成性を有するので、典型的には様々な液体に対する耐性をある程度与えるために用いられる。この手法の例は、欧州特許第1,824,937号に示されている。
【0010】
最も一般に塗布される表面添加剤は澱粉である。澱粉の過剰な使用は、折り割れ(fold cracking)、さらには生産性(例えば、より高エネルギーの乾燥)などの他の紙の特性に悪影響を及ぼすことがある。澱粉のサイズプレス塗布はオンマシン運転であるので、サイズプレスの運転を妨害する問題はいずれも、抄紙機全体の運転を妨害する可能性を有する。
【0011】
紙シートのサイズプレス処理時に塗布され得る澱粉の量(すなわち、シートの含浸量)は、サイズプレスの条件、澱粉溶液の粘度、および澱粉溶液の紙シート中への浸透によってさまざまである(以前に発行されたUS4,191,610)。サイズプレス用澱粉の改質により、通常は、澱粉分子に官能基が導入され、その粘度が低減され得る。サイズプレス処理中に経済的且つ実用的に塗布され得る改質澱粉の最大量は約10g/m
2であり、非改質もしくは天然または高粘度の澱粉の場合には最大量は5g/m
2である。米国特許第5,242,545号において、より高温でサイズプレス処理を行うことと、サイズプレスのニップ圧を増加させることが開示されており、澱粉の配合量は17〜20g/m
2に増加され得る。さらに、WO2006/027,632A2において、典型的なパルプ化工程の黒液廃液流中に含有されているリグノスルホネートを、サイズプレス用溶液の粘度を低下させるために澱粉と混合することができること、サイズプレス処理中に紙上へのより高い固形分の塗布が可能になり、シート乾燥工程におけるエネルギーの節約に役立つことが教示されている。
【0012】
米国特許第7,217,316号において、植物由来のタンパク質粉を酸化して、紙力を改善するためのコーティング組成物を製造する方法が教示されている。開示されている組成物の強度性能により、澱粉または酸化澱粉を超える改善された効果が示されているが、前記効果について記載されているコーティング組成物の量は6〜12g/m
2である。
【0013】
Smigoに対して発行された米国特許第5,281,307号において、ドライエンド塗布のための、グリオキサールを用いて架橋されたビニルアルコールおよびビニルアミンのコポリマーの使用が開示されている。ポリマー溶液中にWhatmanの濾紙を浸漬し、次いで乾燥すると、紙の特性に改善が示される。
【0014】
上述したウエットエンド紙力増強剤のうちの多くは、ドライエンドにおける有用性も認められている。ウエットエンド強度システムの成分はパルプのスラリーに順次添加され、それにより成分間の潜在的な不相溶性が緩和されるが、表面塗布される紙力増強剤システムのそれぞれの成分は、混合して単一の安定な溶液とする必要がある。澱粉はほとんどの場合、乾燥強度システムの成分であるので、他の成分は、澱粉と合わされたときに溶液安定性を示すこと、すなわち、沈殿がないこと、ゲル形成がないこと、または深刻な粘度の増加がないことが必要である。グリオキサールを放出する化学物質、およびグリオキサール含有ポリマーの架橋活性化には、典型的には、抄紙機の乾燥部に至るまでは遭遇することがない温度が必要であるので、それらは相溶性であることが期待される(米国特許出願第2005/0161182 A1号)。乾燥紙力増強剤の別の架橋例は、米国特許出願第2009/0020249号に開示されており、無機物質(例えば、酸化亜鉛)とともにポリ(アクリル酸)を表面塗布することが記載されている。米国特許出願第2005/0287385号には、すでに形成済であり実質的に乾燥した紙に塗布される場合に圧縮強さを向上させるスチレン-ブタジエンラテックスのコーティング組成物が開示されている。米国特許第7,482,417号には、両性アクリルアミドコポリマーから構成される、表面塗布用乾燥紙力増強剤が開示されている。表面塗布される澱粉がアニオン性である場合には、高カチオン性の乾燥紙力増強剤、例えば、ポリビニルアミンとの組合せにより、沈殿物またはゲルが形成されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】WO 2004/027,149 A1
【特許文献2】米国特許第6,303,000号
【特許文献3】米国特許第5,698,627号
【特許文献4】米国特許第6,294,645号
【特許文献5】米国特許第2,721,140号
【特許文献6】米国特許第5,961,782号
【特許文献7】米国特許第6,159,340号
【特許文献8】米国特許第4,421,602号
【特許文献9】米国特許第6,616,807号
【特許文献10】米国特許第6,797,785号
【特許文献11】欧州特許第1,824,937号
【特許文献12】US4,191,610
【特許文献13】米国特許第5,242,545号
【特許文献14】WO2006/027,632A2
【特許文献15】米国特許第7,217,316号
【特許文献16】米国特許第5,281,307号
【特許文献17】米国特許出願第2005/0161182 A1号
【特許文献18】米国特許出願第2009/0020249号
【特許文献19】米国特許出願第2005/0287385号
【特許文献20】米国特許第7,482,417号
【特許文献21】米国特許第5,543,446号
【特許文献22】米国特許第6,939,443号
【特許文献23】米国特許出願第2008/0196851号
【特許文献24】米国特許出願第2009/0043051号
【特許文献25】米国特許出願第2010/0193148号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】「Starch and Starch Products in Paper Coating」、R. L. KearneyおよびH. W. Maurer編 1990
【発明の概要】
【0017】
本発明は、安定な乾燥紙力増強組成物、およびすでに形成済の紙の基材へのその適用に関する。具体的には、このコーティング組成物は、略中性ポリアクリルアミドである成分Aと、アミン官能基を有するモノマーから調製されたカチオン性ポリマーである成分Bと、澱粉である成分Cとから構成される。略中性アクリルアミドポリマーは、5モルパーセント未満のアニオン性官能基、または5モルパーセント未満のカチオン性官能基をもつコポリマーである。カチオン性ポリマーは、アミン官能基を有するビニルモノマー、または潜在性アミン官能基を含有するビニルモノマーから調製される。この組成物の澱粉成分は、未改質でも、または改質されていてもよく、様々な天然の植物源から得ることができる。このコーティング組成物を用いる、改善された乾燥強度をもつ紙の製造方法も記載する。
【0018】
成分Bは、アミン官能基を有するビニルモノマーまたはアリルモノマーから調製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、形成済の紙の基材に塗布されることによって製品の乾燥強度を向上させる組成物を提供する。この組成物は、そのうちの少なくとも1種が帯電したポリマーであってよい1種または複数のポリマーと、澱粉との安定なブレンドを含む。特に、この組成物は、アクリルアミド系略中性ポリマーである成分Aと、アミン官能基を有するモノマーから調製されたカチオン性ポリマーである成分Bと、未改質のまたは誘導体化された澱粉である成分Cとを含有する。
【0020】
好ましい一実施形態において、カチオン性ポリマーである成分Bは、アミン官能基を有するビニルモノマーから調製される。
【0021】
略中性アクリルアミドポリマーが意味するものは、非イオン性からわずかにアニオン性またはわずかにカチオン性のアクリルアミドコポリマーである。そのポリマーは、5モルパーセント未満、好ましくは3モルパーセント未満、好ましくは2モルパーセント未満、最も好ましくは1モルパーセント未満のアニオン性モノマーを含有する。略中性ポリアクリルアミド中のアニオン性官能基の量は、重合中に添加されるアニオン性モノマーの量から、またはコポリマーの分析もしくはポリアクリルアミドの部分加水分解により分かる。あるいは、アクリルアミド系略中性ポリマーは、5モルパーセント未満、好ましくは3モルパーセント未満、より好ましくは2モルパーセント未満、最も好ましくは1モルパーセント未満のカチオン性モノマーを含有する。
【0022】
好ましい一実施形態において、略中性アクリルアミドポリマーは、アニオン性である。
【0023】
アクリルアミド系のホモポリマーおよびコポリマーを官能性ビニルモノマーを用いて調製する方法は、当業者に周知である。フリーラジカルを生成する開始系を用いる方法によるアクリルアミドのラジカル重合は、周知であり文書で裏付けられている。一般に利用されるラジカル重合開始剤の2つのクラス、すなわち、熱的で均一な解離開始剤および酸化還元の開始剤は、開示される組成物の調製に使用するのに好ましい。前者の部類としては、アゾまたはペルオキシドを含有する開始剤、例えば、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、過酸化ベンゾイル、tert-ブチルヒドロペルオキシドおよびtert-ブチルペルオキシドなどが挙げられる。後者の部類としては、酸化剤(過硫酸塩、過酸化物、および過炭酸塩)と、第一鉄または亜硫酸の塩等の適切な還元剤との組合せが挙げられる。本発明における使用に適した分子量および多分散性を有するアクリルアミド含有ポリマーおよびコポリマーを得る方法は、例えば、米国特許第5543446号および米国特許第6939443号に開示されている。しかし、これらの参照文献に開示されている組成物のアニオン電荷は多すぎて本発明に適さない。
【0024】
成分Aに適した略中性アクリルアミド系ポリマーは、5000から約500,000ダルトン、好ましくは10,000から約300,000、好ましくは約30,000から約300,000ダルトン、好ましくは約3,0000から約150,000ダルトン、好ましくは約50,000から約130,000ダルトンの分子量の範囲を包含する。
【0025】
略中性ポリマーは、アクリルアミド系ホモポリマー、または部分加水分解されたアクリルアミドホモポリマー、または最高で5モルパーセントまでのアニオン性官能基を有するアニオン性成分を含むコポリマーであり、様々な高カチオン性の乾燥紙力増強剤をアニオン性澱粉と混合したときに観察される粘度の増加およびゲル化を妨げるように選択される。安定化の機構は明らかになっていないが、理論により束縛されることを望まないが、特定の略中性アクリルアミド系ポリマーが、澱粉の存在下にある場合にはカチオン性ポリマーと複合体を形成し得ることが提唱される。この複合体形成は、粘度の増加につながり得る、カチオン性ポリマーとアニオン性澱粉との間の水素結合およびイオン性の相互作用を緩和することができる。アニオン性澱粉およびカチオン性ポリマーを別々にウエットエンドで添加することは、乾燥強度を改善するために製紙業者により用いられてきたが、粘度の増加を引き起こすこれらの物質間の相互作用により、ポリマーおよび澱粉の濃度がより高いドライエンド系としてこれらを利用することは制限されてきた。本発明は、この系を製紙工程のドライエンドにおいて塗布することを可能にし、それに付随する全ての利点を製紙業者に提供する。さらに、理論により束縛されることを望まないが、乾燥時に、固形分の増加により、成分Aおよび成分Bは成分Cと強く相互作用し得ることが提起される。
【0026】
本発明に適した略中性ポリマーは、上述した方法のいずれかにより調製できる。成分Aを調製することができる中性モノマーとしては、限定されないが、アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。アクリルアミドが好ましいモノマーである。
【0027】
成分Aを調製することができるアニオン性モノマーとしては、限定されないが、アクリル酸、メタクリル酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、4-スチレンスルホン酸および4-ビニル安息香酸、ならびにそれらの塩が挙げられる。アクリル酸およびその塩が好ましいモノマーである。
【0028】
非イオン性または略中性のアクリルアミド系ポリマー中に有益な架橋構造を導入する他の適切なモノマーを用いることができる。これらには、限定されないが、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミド、メチレン-ビス-(メタ)アクリルアミド、エチレン-ビス-(メタ)アクリルアミド、およびヘキサメチレン-ビス-(メタ)アクリルアミドが含まれる。これらは、1モルパーセント未満、好ましくは0.3モルパーセント未満の量で用いることができる。
【0029】
成分Bに適したカチオン性ポリマーは、10,000から約1,000,000ダルトン、好ましくは50,000から約600,000ダルトン、好ましくは50,000から約400,000ダルトンの分子量の範囲、より好ましくは200,000から約350,000ダルトンの範囲内の分子量の範囲を包含する。適切なポリマーについてのカチオン性の程度は、電荷密度法により定義し得る。本発明におけるイオン化ポリマーの電荷密度(Mutek)は、コロイド滴定法を用いてpH8.0において測定される。電荷密度(meq/g)は、生成固体1gあたりのミリ当量単位での、単位重量あたりのカチオン電荷の量である。記述する本発明のカチオン性ポリマーは、固体基準に、1.00から12.00m当量/gの範囲内、好ましくは3.50から8.50m当量/gの範囲内、より好ましくは5.50から8.50m当量/gの電荷密度を有する。
【0030】
成分Bを調製するために用いる好ましいカチオン性モノマーは、ビニルまたはアリル官能基を含有するモノマーであってよい。これらには、限定されないが、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリド、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、[3-(アクリロイルオキシ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルジアリルアミン、ジアリルアミン、ジアルキルアリルアミン、およびアリルアミンが含まれる。
【0031】
限定されないが、アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、およびN-イソプロピル(メタ)アクリルアミドを含む非イオン性モノマーは、上述のカチオン性モノマーと共重合して、本発明の成分Bに適したポリマーを提供することができる。
【0032】
より好ましくは、成分Bは、ビニルアミン含有ポリマーである。ビニルアミン含有ポリマーである成分Bを調製するために用いるモノマーは、完全な、あるいは部分的な加水分解されるとカチオン電荷を生成することができるモノマーであり、例としては、限定されないが、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、およびビニルN-フタルイミドが挙げられる。加水分解前、成分Bのために用いるビニルアミン含有ポリマーは、コポリマーであってもよいが、好ましくはホモポリマーである。このクラスの成分Bについての加水分解の程度は、20から100%、好ましくは25から85%の範囲、最も好ましくは25から70%の範囲である。本発明において有用な別の部類のビニルアミン含有ポリマーは、例えば、米国特許出願第2008/0196851号に記載されているように、ポリアクリルアミドのホフマン転位から得られ得る。本発明における使用に適しているビニルアミン含有ポリマーのさらなる部類クラスは、米国特許出願第2009/0043051号および米国特許出願第2010/0193148号に記載されている。これらのポリマーは、様々なカチオン性官能基で置換されたポリ(ビニルアミン)である。
【0033】
カチオン性ポリマーである成分Bの中に有益な架橋構造を導入する他の適切なモノマーを用いることができる。これらには、限定されないが、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミド、メチレン-ビス-(メタ)アクリルアミド、エチレン-ビス-(メタ)アクリルアミド、およびヘキサメチレン-ビス-(メタ)アクリルアミドが含まれる。これらは、1モルパーセント未満、好ましくは0.3モルパーセント未満の量で用いることができる。
【0034】
澱粉である成分Cは、コーンスターチ、米澱粉、ジャガイモ澱粉、小麦澱粉、およびタピオカ澱粉からなる群から選択される。澱粉は、非改質であっても、または以下の様式:酸化、酵素分解、およびカチオン化のいずれかで改質されていてもよい。
【0035】
成分AおよびBを、好ましくは、澱粉への添加の前に、予め混合する。成分AおよびBの混合物は、好ましくは、加熱処理済み澱粉スラリーに添加するか、糊化工程の前に添加する。本発明のために好ましい澱粉の種類は、酸化澱粉である。
【0036】
他の成分を、組成物を安定化させ、粘度の増加を低減するために添加することができる。有用な物質は、アニオン性、カチオン性または中性の界面活性剤、例えば、脂肪酸、オキシエチル化アルキルフェノール、アルキルアミンオキシド、アルキルスルホサクシネート、リグノスルホネート、アルキルスルフェート等である。いくつかの有用な粘度調整成分の例には、尿素、および塩、例えば、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ヨウ化カリウム等が挙げられる。
【0037】
一実施形態において、紙コーティング組成物は、成分A(略中性ポリアクリルアミド)と、成分B(カチオン性ポリマー)と、成分C(澱粉)とを含み、この組成物において、成分Aはアニオン性であり;成分Aの成分Bに対する比は、99:1から80:20、好ましくは98:2から90:10であり;成分Aおよび成分Bの合計の、澱粉に対する比は、1:105から1:1、好ましくは1:20から1:7であり;成分Bは、アミン官能基を有するビニルモノマーまたはアリルモノマー、好ましくはビニルから調製され;成分Aの分子量は、30,000から約300,000ダルトン、好ましくは30,000から150,000であり、成分Bの分子量は、50,000から約600,000ダルトン、好ましくは50,000から約400,000ダルトンであり、組成物の粘度は、60℃の温度において1000センチポアズ未満、好ましくは500センチポアズ未満である。
【0038】
改善された乾燥強度をもつ紙を作製する方法が、本発明により企図される。この方法は、本発明の組成物を、すでに形成済の紙に塗布する工程を含む。組成物は、アニオン性から中性のポリアクリルアミドである成分Aと、アミン官能基を有するモノマーから調製されたカチオン性ポリマーである成分Bと、澱粉である成分Cとを含む。
【0039】
好ましい一実施形態において、成分Bは、アミン官能基を有するビニルモノマーから調製される。
【0040】
組成物は、一般に、製紙機のドライエンドにおいて塗布される。
【0041】
本発明は、袋、箱用板紙、コピー用紙、容器用板紙、段ボール用中芯、ファイルフォルダ、新聞用紙、板紙、包装用板紙、印刷筆記用紙および刊行物を含む、向上された乾燥強度から利益を得る様々なグレードの紙のいずれかに適用することができる。これらの紙グレードは、ざら、クラフト、サルフェート、メカニカルおよび再生繊維を含む、任意の一般的なパルプ繊維から構成されていてよい。本発明は、メタリングサイズプレス、パドルサイズプレス、噴霧、ロールコーター、ブレードコーター、およびエアナイフコーターを含む、すでに形成済の紙を化学的に処理する任意の方法により適用できる。
【0042】
本発明の好ましい実施形態において、用いる成分A、B、およびCのそれぞれの量は、得られる紙コーティング組成物の性能および溶液安定性を十分に考慮することにより決定されるべきである。成分A:Bの比は、99:1から70:30、好ましくは98:2から85:15、なおより好ましくは98:2から90:10とすることができる。成分Aおよび成分Bの合計量は、澱粉に対して、1:105から1:1、好ましくは1:52から1:2、より好ましくは1:20から1:7、好ましくは1:15から1:7の比で存在することができる。成分AおよびBは、澱粉に別々に添加してもよく、または好ましい実施形態における場合と同様に、澱粉への添加の前に、予め混合してもよい。本水性組成物は、成分Cと成分AおよびBとを混合することにより調製する。好ましくは、2種のポリマーを、加熱処理し、希釈した澱粉溶液に添加する前に、入念に一緒に混合する。表面添加剤の合計量は、紙における所望の強度性能を得るために必要とされる最少量である。ポリマーおよび澱粉の典型的なコーティング重量は、紙1平方メートルあたり、添加剤1から10グラム、好ましくは2から8グラム、好ましくは2から5グラムの範囲とすることができる。
【0043】
本発明の作用に必須なことは組成物の溶液安定性であり、使用の過程における抄紙機上への付着をもたらし得る沈殿物、凝固物、またはゲルがないことを指す。また、コーティング組成物は、それが抄紙機上にポンプ輸送され、基材表面上に広がることができるような粘度を必要とする。使用条件下における最終的な溶液の好ましい粘度は、10〜1000cPs、好ましくは10〜500cPs、より好ましくは10〜200cPsの範囲内である。塗布する時点の温度は、40〜80℃、好ましくは40から70℃、より好ましくは50から65℃である。60℃での粘度は、1000cPs未満、より好ましくは500cPs未満、より好ましくは200cPs未満であることが好ましい。
【0044】
方法の好ましい一実施形態において、成分Bは、アミン官能基を有するビニルモノマーまたはアリルモノマー、好ましくはビニルから調製され;成分Aの分子量は、30,000から約300,000ダルトン、好ましくは30,000から150,000であり;成分Bの分子量は、50,000から約600,000ダルトン、好ましくは50,000から約400,000ダルトンであり;組成物の粘度は、60℃の温度において1000センチポアズ未満、好ましくは500cPs未満である。
【0045】
製紙システムに適応するために、紙コーティング組成物のpHを調節してもよい。これは、以下の非限定的な化合物:塩酸、硫酸、酢酸、クエン酸、水酸化アンモニウム、重炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、または水酸化カリウムのいずれかにより実施することができる。
【0046】
以下の実施例により、本発明をさらに説明し、上記の組成物を添加することにより、紙の基材に塗布したときに、乾燥強度が著しく改善されることを実証する。以下に示す実施例およびデータは、特許請求する本発明の利益をより良好に例示するものであり、限定することを意味するものではない。
【実施例】
【0047】
[紙の処理のための一般的な手順]
加熱処理(90℃、40分)した改質タピオカ澱粉と乾燥強度生成物とからなる溶液を、40psiで一緒にプレスされる、単一のブチルゴムのロールと単一の鋼鉄のロールとの間のニップに添加した。紙のシートをパドルに通して、均一なコーティングを得た。より大きな坪量をもつシートは、サイズプレスロールに2回通して、シートの均一な湿潤を確実にし、所望の澱粉および添加剤の配合量を達成した。試験試料を、最終的なシートの水分含有率5〜7%を与える条件下で、回転ドラム型乾燥機のフェルトと鋼鉄との間で直ちに乾燥した。澱粉および乾燥紙力増強剤の濃度を変化させて、それぞれの目標とする、紙による含浸量レベルを得た。次いで、処理済の紙試料を予備コンディショニング(70°F(39℃)、湿度50%、少なくとも24時間)し、試験した。
【0048】
[紙の試験]
ミューレン破裂(Mullen)(TAPPI T-403):この試験を用いて、紙試料の破裂強さまたは耐穿刺性を測定した。予備コンディショニングした試験試料を、ゴムのダイアフラムを完全に覆う、B. F. Perkins Model C Mullen Testerの2つの金属リング間に確実にクランプした。クラッチレバーを順方向の位置に入れて静水圧をかけ、紙試料が破裂するまでゴムのダイアフラムを拡げた。試験片が破裂したときに、レバーを逆方向の位置に動かし、破裂強さをlb/in
2単位で記録した。
【0049】
リングクラッシュ試験(RCT)(TAPPI T-822):この試験を用いて、紙試料の圧縮強さを測定した。Lorentzen & Wettre Crash Testerを利用して、この試験を行う。処理済の試料から152.4mm×12.7mmのストリップを、ダイを用いて切り取る。そのストリップを、試料をリングの形状に保つ試料ホルダの中に滑り込ませる。その試料ホルダを下部のプレート上に置く。荷重を、12.5mm/分の一定速度で、試料が破損するまで加え、この荷重をlbf/6in単位で記録する。幅方向および長さ方向でそれぞれ5回の反復試験を行う。最終的に記録する値は、幅方向および長さ方向の値の幾何平均である。
【0050】
[実施例1]
機械式攪拌機、水ジャケット付き冷却器、窒素導入口、熱電対、および2つの追加的なポートが取り付けられ、窒素パージされたジャケット付樹脂釜に、脱イオン水727グラム、および硫酸第二銅の脱イオン水中1重量%溶液を装填した(ポリマー溶液中の硫酸第二銅の量を、アクリルアミドに基づいて30ppmの銅を有する量に調節した)。反応器の内容物を、窒素で1時間、脱気した。モノマーおよび開始剤の溶液、すなわち、アクリルアミド500g(50重量%水溶液)およびN,N-メチレンビスアクリルアミド(MBA)0.18gのモノマー溶液、ならびに、過硫酸アンモニウム(1.0重量%溶液)30.0gおよびメタ重亜硫酸ナトリウム(0.83重量%溶液)30.0gの開始剤溶液を、別々に調製した。反応器の内容物を65℃にし、モノマーおよび開始剤の溶液を、2時間にわたって同時に別々に反応器に供給した。添加完了後、温度を65℃に維持し、反応をさらに2時間、継続した。釜を25℃に冷却することにより重合を停止させた。ブルックフィールド粘度は、697cPs(LVのユニット、スピンドル♯2、60rpm、25℃、4ozのジャーを使用)であり、換算比粘度(NH
4Cl中1重量%)は0.74dL/gであった。ゲル浸透クロマトグラフィーにより決定した分子量は71,500ダルトンであった。実施例1-2〜1-7を合成し、ここで、開始剤の当量を変化させて分子量を変化させた。開始剤の濃度を増加させることにより、得られるポリマーの分子量を低くすることができた(これは、当業者に周知の技術である)。これらのポリアクリルアミドを表1に記載する。
【0051】
【表1】
【0052】
[実施例2]
表2において示す量のアニオン性コモノマー、アクリル酸を供給材料に添加した以外は、すべてを実施例1におけるのと同じ様式で行った。表2に、得られたアニオン性アクリルアミドコポリマーの特性を示す。
【0053】
【表2】
【0054】
[実施例3]
ポリアクリルアミドとポリビニルアミンまたは改質ポリビニルアミンとの混合物を、実施例1および2の様々なポリアクリルアミドと、ポリビニルアミンまたは改質ポリビニルアミンのいずれかとを混合することによって、調製した。一般的な実験において、4oz.のジャーに、実施例1または2において調製したままのポリアクリルアミド(PAM)ポリマー溶液100gを充填し、これに、ある量のポリビニルアミン溶液を添加した。これらのポリビニルアミン溶液(Ashland Incorporatedから入手可能なHercobond(登録商標)6330およびHercobond(登録商標)6350紙性能用添加剤)を、表3において示す通りの、水酸化ナトリウム(NaOH)のN-ビニルホルムアミド(VFA)に対する様々なモル比を用いることによって加水分解された、ポリ(N-ビニルホルムアミド)から得た。ポリ(N-ビニルホルムアミド)の加水分解のために好ましい範囲は、20から100モルパーセント、好ましくは25から80モルパーセント、より好ましくは25から70モルパーセントである。ポリマーの混合物をLab Line(登録商標)Orbit Environ Shakerで25℃において1時間、振盪した。
【0055】
【表3】
【0056】
[実施例4]
ExcelSize(登録商標)15(Siam Modified Starch Co., Ltd.、Pathumthani、タイ)の澱粉、酸化タピオカ澱粉を、15重量%の水性スラリーを調製することにより可溶化し、次いで、そのスラリーを90℃で40分間、混合した。この溶液を60℃にし、60℃の水で8.25重量%に希釈した。様々な量のポリマーまたはポリマーブレンドを添加し、溶液温度を60℃に保ち、ブルックフィールド(スピンドル1/100rpm)粘度を様々な時間間隔で決定した。結果を表4に記載した。表4は、本発明のコーティング組成物を、調整剤によって適切な粘度にすることができることを実証している。
【0057】
【表4】
【0058】
[実施例5]
上述した紙への塗布法を用いて、ポリアクリルアミドとポリビニルアミンとのブレンドを、シートの強度に対する効果について評価した。5-1を除くすべての実施例は、サイズプレス溶液中に3g/m
2のExcelSize 15を含有していた。表5に示される通り、ポリアクリルアミド中にポリビニルアミンをブレンドすることによって、ポリアクリルアミド単独(比較例5-3)により達成可能な強度の増加を超える、強度の著しい増加がもたらされ、それにより、より大きな強度を、著しくより低い添加レベルで得ることができる。より高い添加レベルでは、乾燥強度において観察される利益は、実施例5-5によって示される通りに減少し得る。
【0059】
【表5】
【0060】
[実施例6]
上述した紙への塗布法を用いて、ポリアクリルアミドとポリビニルアミンとのブレンドを、実施例5のベースシートと同じベースシートを用いて、シート強度に対する効果について評価した。6-1を除くすべての実施例は、サイズプレス溶液中に2.12g/m
2のExcelSize 15を含有していた。表6Aに示す通り、最も良好な結果は、約100000ダルトンの分子量の架橋ポリアクリルアミド(6-14から6-16)を成分Aとして用いたときに達成される。成分Aとしての他の架橋ポリアクリルアミドにより、非架橋ポリアクリルアミド(6-17から6-19)である成分Aにより得られた全体強度より大きい全体強度がもたらされたが、非架橋ポリアクリルアミドは、澱粉単独を超える乾燥強度の向上をもたらす。表6Bによって、乾燥強度を向上させるために成分Aとしてアニオン性ポリアクリルアミドを用いることの利点が実証されているが、その効果は、典型的には、成分Aとしての非イオン性ポリアクリルアミドにより得られる効果より小さい。
【0061】
【表6A】
【0062】
【表6B】
【0063】
[実施例7]
上述した紙への塗布法を用いて、ポリアクリルアミドである成分Aと、ポリビニルアミンである成分Bとのブレンドを、北米の工場からのベースシートを用いて、シートの強度に対する効果について評価した。7-1を除くすべての実施例は、サイズプレス溶液中に4g/m
2のExcelSize 15を含有していた。この実施例において用いたもののように、より強いベースシートの場合には、強度の改善には、より高い添加レベルのポリマーが必要とされ、改善の程度は、より弱いベースシートについて観察される改善の程度より少ない。
【0064】
【表7】
【0065】
[実施例8]
ポリアクリルアミドと、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(pDADMAC)(Ashland Incorporated、ウィルミントン、デラウェア州から)またはポリ(アリルアミン)(SIGMA-ALDRICH、ミルウォーキー、ウィスコンシン州から)との混合物を、実施例1のポリアクリルアミドと、上述したカチオン性ポリマーのいずれかとを混合することによって調製した。典型的な実験において、4oz.のジャーに、ポリアクリルアミド(PAM)溶液100gを充填した後に、カチオン性ポリマー溶液を添加した。ポリマーの混合物を、周囲温度で1時間、マグネチックスターラーで攪拌した。
【0066】
【表8】
【0067】
[実施例9]
上述した紙への塗布法を用いて、ポリアクリルアミドと様々なカチオン性ポリマーとのブレンドを、北米の工場からのベースシートを用いて、シートの強度に対する効果について評価した。9-1を除くすべての実施例は、サイズプレス溶液中に4g/m
2のExcelSize C155を含有していた。これらの実施例により、本発明の成分としての、より低コストのカチオン性ポリマーの有用性が実証される。特定の実施例によって、多量のコーティング組成物が、コーティングの粘度に対する影響に起因して、強度の低下を引き起こすことが示されている。
【0068】
【表9】
【0069】
[実施例10]
ポリアクリルアミドと、ポリ(アクリルアミド-コ-[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド)(Hercobond(登録商標)1200)またはポリ(アクリルアミド-コ-アクリル酸-コ-[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド)(Hercobond(登録商標)1205)(両方とも、Ashland Inc.、ウィルミントン、デラウェア州から)との混合物を、実施例1のポリアクリルアミドと、上述したカチオン性ポリマーのいずれかとを混合することによって調製した。典型的な実験では、4oz.のジャーに、ポリアクリルアミド(PAM)溶液100gを充填した後に、カチオン性ポリマー溶液を添加した。ポリマーの混合物を、周囲温度で1時間、マグネチックスターラーで攪拌した。
【0070】
【表10】
【0071】
[実施例11]
実施例10で記述した通りにポリアクリルアミドとブレンドした、第四級官能基を有するカチオン性ポリマー、および両性ポリマーを、上述した紙への塗布法を用いて、強度性能について評価した。11-1を除くすべての実施例は、サイズプレス溶液中に4g/m
2のExcelSize 15を含有していた。これらの実施例により、第四級アミン官能基を含有するカチオン性ポリマーの有用性が実証されている。
【0072】
【表11】