【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、グリセリンの有効利用に関し鋭意検討を重ねた結果、グリセリン類に、イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルを含む単量体成分をグラフト重合させて得られるグラフト重合体が、この構造的特徴に起因して、各種用途に有用なものであることを見いだした。このようなグラフト重合体は、特に分散性能に優れ、セメント混和剤等の各種用途に好適に使用できるため、近年の課題であるグリセリンの有効利用に効果的である。特に、グリセリン類と、イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルとの質量比が特定範囲内のものであると、分散性能がより一層向上されるため、分散性能が要求される分野に極めて好適なものとなる。また、グリセリンは廉価であるため、各種用途でこのグラフト重合体を原料とすれば、低コストで高性能の製品を提供することができる。本発明者等はまた、このようなグラフト重合体を得る際に特定条件下でグラフト重合を行う製造方法を採用すると、効率よく製造することができることを見いだし、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明は、下記の発明(1)〜(6)からなる。
発明(1):グリセリン類に、イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルを含む単量体成分をグラフト重合させて得られるセメント混和剤用グラフト重合体。
発明(2):グリセリン類に、イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルを含む単量体成分をグラフト重合させて得られるグラフト重合体であって、該グラフト重合体は、グリセリン類と、イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルとの質量比(グリセリン類/イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルの総量)が、1/99〜99/1であるグラフト重合体。
発明(3):上記セメント混和剤用グラフト重合体を含むセメント混和剤。
発明(4):上記グラフト重合体を含むセメント混和剤。
発明(5):上記セメント混和剤、セメント及び水を含むセメント組成物。
発明(6):グリセリン類に、イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルを含む単量体成分をグラフト重合させて得られるグラフト重合体を製造する方法であって、該製造方法は、グリセリン類に、イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルを含む単量体成分をグラフト重合させるグラフト重合工程を有し、該グラフト重合工程は、重合開始剤の存在下、実質的に溶媒を用いず、100℃以上の温度で行うグラフト重合体の製造方法。
以下に本発明を詳述する。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2つ又は3つ以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態である。
【0009】
<グラフト重合体>
本発明のグラフト重合体は、グリセリン類に、イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルを含む単量体成分をグラフト重合させて得られるものであり、具体的には、グリセリン類に、イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルに由来するイオン性基含有単量体単位がグラフト結合された構造を有する。グリセリン類及び単量体成分は、それぞれ、1種のものを使用してもよいし、2種以上のものを使用してもよい。このような本発明のグラフト重合体は、後述するようにセメント混和剤用途に特に有用であるが、このようにグリセリン類に、イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルを含む単量体成分をグラフト重合させて得られるセメント混和剤用グラフト重合体は、本発明の1つである。
なお、本発明のグラフト重合体は、おそらく、グリセリン類を構成する炭素原子の少なくとも1つに、イオン性基含有単量体単位が結合した構造を持つものと推測される。
【0010】
上記グリセリン類に単量体成分をグラフト重合させる方法としては、例えば、重合開始剤の存在下、実質的に溶媒を用いず、100℃以上の温度でグラフト重合工程を行うことが好適である。これによって、分散性能に優れるグラフト重合体を効率的に得ることが可能になる。このようなグラフト重合工程の好ましい形態は、後述するとおりである。
なお、グリセリン類に上記単量体成分がグラフト重合されていることは、例えば、キャピラリー電気泳動法や、GPCにより確認することができる。
【0011】
上記グラフト重合体の重量平均分子量は、1000〜200000であることが好適である。この範囲にあることで、分散性能をより高めることができるため、例えばセメント混和剤用途に用いた場合に、少ない添加量でより高いセメント分散性を発揮することができる。より好ましくは3000〜100000、更に好ましくは5000〜50000である。
なお、重量平均分子量は、例えば、ポリエチレングリコール換算によるゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって、後述するGPC測定条件にて測定することができる。
【0012】
上記グラフト重合体において、グリセリン類と、イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルとの質量比(グリセリン類/イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルの総量)は、1/99〜99/1であることが好適である。このようにグリセリン類に、イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルを含む単量体成分をグラフト重合させて得られるグラフト重合体であって、該グラフト重合体は、グリセリン類と、イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルの総量との質量比(グリセリン類/イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルの総量)が、1/99〜99/1であるグラフト重合体もまた、本発明の1つである。
【0013】
上記イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルとの質量比(グリセリン類/イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルの総量)としてより好ましくは、60/40〜99/1である。この範囲内であれば、グラフト重合体の分散性能をより高めることができるため、分散性能が要求される分野(例えば、セメント混和剤用途)でより有用なものとなる。なお、イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルの総量の割合が上記範囲内にあることで、減水効果がより充分になるとともに、重合を容易に行うことが可能になる。上記質量比として更に好ましくは、70/30〜99/1である。
【0014】
−グリセリン類−
上記グラフト重合体を構成するグリセリン類とは、1分子中に平均3個以上の水酸基を含有する化合物を意味し、炭素、水素及び酸素の3つの元素から構成される化合物であることが好ましい。このようなグリセリン類が有する水酸基の数は、3個以上が適当であるが、グラフト重合を行う際の重合性の観点から、100個以下であることが好適である。より好ましくは4〜50個、更に好ましくは5〜20個である。
上記グリセリン類はまた、不飽和結合を有しないことが好適である。
なお、上記グラフト重合体におけるグリセリン類に由来する骨格の結合形状は、直鎖状、環状又は分岐状のいずれであってもよいし、これらのうち2以上の結合形状を有するものであってもよい。
【0015】
上記グリセリン類としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリグリシドール、グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−ペンタトリオール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等が好適である。また、糖類として、グルコース、フルクトース、マンノース、インドース、ソルボース、グロース、タロース、タガトース、ガラクトース、アロース、プシコース、アルトロース等のヘキソース類の糖類;アラビノース、リブロース、リボース、キシロース、キシルロース、リキソース等のペントース類の糖類;トレオース、エリトルロース、エリトロース等のテトロース類の糖類;ラムノース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュウクロース、ラフィノース、ゲンチアノース、メレジトース等のその他糖類;これらの糖アルコール、糖酸(糖類;グルコース、糖アルコール;グルシット、糖酸;グルコン酸)も好適である。更に、これら例示化合物のアルキレンオキシド付加物や、部分エーテル化物、部分エステル化物等の誘導体も好適である。なお、上記グリセリン類がアルキレンオキシド基を含む化合物(例えば、上記例示化合物のアルキレンオキサイド付加物)である形態は、本発明の好適な形態の1つである。このアルキレンオキシド基を含む化合物として好ましくは、後述するようにポリグリセリンのアルキレンオキシド付加物である。
【0016】
上記グリセリン類の中でも、本発明においては、グリセリン、ポリグリセリン及びポリグリセリンのアルキレンオキシド付加物が好適である。より好ましくは、ポリグリセリン及びポリグリセリンのアルキレンオキシド付加物である。
なお、バイオディーゼル燃料の製造時に生じる副生グリセリンの有効活用の観点からは、副生グリセリンや、それを用いたポリグリセリン及びポリグリセリンのアルキレンオキシド付加物を使用することが好適である。
【0017】
上記ポリグリセリンは、分子内にグリセリン骨格(グリセリン単位)を2以上有する化合物を意味する。ポリグリセリンは、製造したものを用いてもよいし、市販のものを用いてもよい。ポリグリセリンの製造方法としては、例えば、(1)グリセリンの脱水縮合反応、(2)グリセリン蒸留成分からの回収、(3)グリセリン類似化合物(例えば、グリシドール)からの合成、という3つの手法が挙げられる。一般に、手法(1)又は(2)のように出発原料をグリセリンとして得られるポリグリセリンは、直鎖状の構造を有する。また、手法(3)のうち、出発原料をグリシドールとして得られるポリグリセリンは、分岐状の構造を有する。例えば、阪本薬品工業社製のポリグリセリン(♯500、750)は、出発原料がグリセリンであり、直鎖状ポリグリセリンとなる。一方、ダイセル工業社製のポリグリセリン(PGL 06、PGL 10)は、出発原料がグリシドールであり、分岐状ポリグリセリンとなる。
なお、上記ポリグリセリンの中でも、本発明では、分岐状のポリグリセリンを用いることが好適である。すなわち、上記グリセリン類が分岐型ポリグリセリンである形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
【0018】
上記ポリグリセリンにおけるグリセリン骨格の平均繰り返し数は、2〜300であることが好ましく、より好ましくは2〜100、更に好ましくは2〜50である。
【0019】
上記ポリグリセリンのアルキレンオキシド付加物とは、ポリグリセリンに、アルキレンオキシド(アルキレングリコール)を1種又は2種以上付加反応させて得られる化合物であり、その付加反応方法は特に限定されるものではない。例えば、アルキレンオキサイドを付加させる際の反応温度は、副生成物の発生をより抑制するとともに、付加速度を高めて生産性を向上できる観点からは、60〜180℃とするのが好ましい。また、触媒として、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びそれらの水酸化物を用いることが好適である。更に、付加反応は、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、より好ましくは窒素雰囲気下である。また加圧下で行うことも好適である。
【0020】
上記アルキレンオキシドとしては、炭素数2〜18のアルキレンオキシドが好適である。中でも、反応性の観点や、また分散性能の向上の観点、特にセメント混和剤用途に用いた場合にセメント粒子の分散性や親水性をより向上させる観点から、炭素数2〜8のアルキレンオキシドが好ましい。より好ましくは炭素数2〜4のアルキレンオキシド、更に好ましくは炭素数2〜3のアルキレンオキシドであり、特に好ましくは、炭素数2のアルキレンオキシド(エチレングリコール、エチレンオキシド)が主であることであり、これにより、グラフト重合体により充分な親水性及び分散性能が付与されることとなる。
ここで、「主である」とは、例えば、アルキレンオキシドの全量100モル%に対し、エチレンオキシドが50モル%以上であることが好ましい。より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは90モル%以上である。
【0021】
上記ポリグリセリンのアルキレンオキシド付加物において、アルキレンオキシド単位の平均繰り返し数は、例えば、1〜20であることが好適である。より好ましくは1〜10、更に好ましくは1〜3である。
なお、1つのアルキレンオキシド鎖が2種以上のアルキレンオキシドから構成される場合、その結合形態はブロック状であってもよいし、ランダム状であってもよい。
【0022】
上記ポリグリセリン及びポリグリセリンのアルキレンオキシド付加物の重量平均分子量は、150〜25000であることが好適である。これにより、分散性能をより高めることができる。より好ましくは150〜7500、更に好ましくは150〜4000である。
なお、重量平均分子量は、例えば、ポリエチレングリコール換算によるゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって、後述するGPC測定条件にて測定することができる。
【0023】
−イオン性基含有単量体及び/又はそのエステル−
上記単量体成分において、イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルは、重合に供されて上記グラフト重合体中にイオン性基含有単量体単位を与えるものである。イオン性基含有単量体単位とは、イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルに由来する構成単位を意味し、イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルが有する不飽和二重結合部分(C=C)が、単結合(−C−C−)となった構造を意味する。
上記イオン性基含有単量体としては、カチオン性基含有単量体であってもよいし、アニオン性基含有単量体であってもよいが、後述するようにアニオン性基含有単量体であることが好ましい。
【0024】
上記カチオン性基含有単量体としては、少なくとも1つの窒素原子を含むカチオン性基含有単量体が好適である。そのようなカチオン性基含有単量体として、例えば、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、ジアリルアルキルアミン及びこれらの四級化物;ジアリルアミン等が挙げられる。
【0025】
上記四級化物は、上記ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート等を四級化剤で四級化したものである。当該四級化剤としては、四級化剤として通常用いられているものを使用することができ、例えば、塩化メチル、塩化エチル、臭化メチル、臭化エチル、ヨウ化メチル、ベンジルクロリド等のハロゲン化アルキル;ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等のアルキル硫酸塩;等を用いることができる。
【0026】
上記ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートとしては、具体的には、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノメチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノブチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノヘキシル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノオクチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノドデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0027】
上記ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの四級化物としては、具体的には、トリメチルアンモニウムエチル(メタ)アクリレートクロリド、トリメチルアンモニウムエチル(メタ)アクリレートサルフェート、ジメチルエチルアンモニウムエチル(メタ)アクリレートサルフェート、トリメチルアンモニウムプロピル(メタ)アクリレートクロリド、トリメチルアンモニウムプロピル(メタ)アクリレートサルフェート、ジメチルエチルアンモニウムプロピル(メタ)アクリレートサルフェート、トリメチルアンモニウムブチル(メタ)アクリレートクロリド、トリメチルアンモニウムブチル(メタ)アクリレートサルフェート、ジメチルエチルアンモニウムブチル(メタ)アクリレートサルフェート等が挙げられる。
【0028】
上記ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドとしては、具体的には、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノブチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノオクチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノドデシル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0029】
上記ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの四級化物としては、具体的には、(メタ)アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリルアミドブチルトリメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
【0030】
上記ビニルイミダゾール及びその四級化物としては、具体的には、ビニルイミダゾール、3−メチル−1−ビニルイミダゾリウムクロリド、3−メチル−1−ビニルイミダゾリウムメチルサルフェート、3−エチル−1−ビニルイミダゾリウムエチルサルフェート、3−エチル−1−ビニルイミダゾリウムクロリド、3−ベンジル−1−ビニルイミダゾリウムクロリド等が挙げられる。
【0031】
上記ビニルピリジン及びその四級化物としては、具体的には、ビニルピリジン、1−メチル−4−ビニルピリジニウムクロリド、1−メチル−4−ビニルピリジニウムメチルサルフェート、3−ベンジル−1−ビニルピリジニウムクロリド等が挙げられる。
【0032】
上記ジアリルアルキルアミン及びその四級化物としては、具体的には、ジアリルメチルアミン、ジアリルエチルアミン、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルジエチルアンモニウムクロリド、ジアリルメチルエチルアンモニウムクロリド、ジアリルジプロピルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
【0033】
上記イオン性基含有単量体としては、アニオン性基含有単量体が好ましい。アニオン性基含有単量体としては、カルボン酸系単量体、スルホン酸系単量体、リン酸系単量体、ホスホン酸系単量体、硫酸系単量体等の1種又は2種以上が好適である。中でも、より優れた分散性能を発揮できる観点から、カルボン酸系単量体、スルホン酸系単量体及びリン酸系単量体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。すなわち、上記イオン性基含有単量体として、カルボン酸系単量体、スルホン酸系単量体、及び、リン酸系単量体からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好適である。言い換えれば、上記グラフト重合体は、カルボン酸系単量体単位、スルホン酸系単量体単位及びリン酸系単量体単位からなる群より選択される少なくとも1種の単量体単位を有することが好適である。上記イオン性基含有単量体としてより好ましくは、カルボン酸系単量体及びリン酸系単量体からなる群より選択される少なくとも1種を用いることである。
【0034】
上記カルボン酸系単量体は、不飽和二重結合(炭素炭素二重結合)と、カルボキシル基及び/又はカルボン酸塩とを含む単量体である。
ここで、カルボキシル基及び/又はカルボン酸塩を含むとは、−COOZ(Zは、水素原子、金属原子、アンモニウム基又は有機アミン基を表す。)で表される基を、1分子中に1個又は2種以上有することを意味する。金属原子としては、例えば、ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等の1価金属;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の2価金属;アルミニウム等の3価金属;鉄等のその他の金属;等が挙げられる。また、有機アミン基としては、例えば、モノエタノールアミン基、ジエタノールアミン基、トリエタノールアミン基等のアルカノールアミン基;モノエチルアミン基、ジエチルアミン基、トリエチルアミン基等のアルキルアミン基;エチレンジアミン基、トリエチレンジアミン基等のポリアミン基等が挙げられる。上記カルボン酸塩としては、これらの中でも、アンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩が好ましく、より好ましくはナトリウム塩である。
【0035】
上記カルボン酸系単量体としては、1分子内に不飽和二重結合と1つのカルボキシル基又はカルボン酸塩とを含むモノカルボン酸系単量体や、1分子内に不飽和二重結合と2つのカルボキシル基又はカルボン酸塩とを含むジカルボン酸系単量体が好適である。本発明のグラフト重合体は、これらの単量体に由来する構成単位、すなわちモノカルボン酸系単量体単位及び/又はジカルボン酸系単量体単位を含むことが好適である。この場合、本発明のグラフト重合体は、より高い分散性能を発揮できるため、セメント混和剤用の重合体としてより一層好適なものとなる。このように上記イオン性基含有単量体が、モノカルボン酸系単量体及び/又はジカルボン酸系単量体である形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
【0036】
上記モノカルボン酸系単量体として具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、αーヒドロキシアクリル酸、α−ヒドロキシメチルアクリル酸及びその誘導体等の不飽和カルボン酸や、これらの塩等が挙げられる。また、モノカルボン酸系単量体として、ジカルボン酸系単量体と後述するアルコール類とのハーフエステルを用いることもできる。なお、アクリル酸及びメタクリル酸を総称して「(メタ)アクリル酸」という。
【0037】
上記ジカルボン酸系単量体として具体的には、例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、フマル酸、メサコン酸等の不飽和ジカルボン酸、これらの塩、及び、これらの無水物等が挙げられる。
【0038】
上述した中でも、カルボン酸系単量体としては、重合性の観点から、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸塩、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸及びこれらの塩が好適である。より好ましくは、(メタ)アクリル酸及び/又はその塩(これらを総称して「(メタ)アクリル酸系単量体」という。)であり、上記グラフト重合体が(メタ)アクリル酸系単量体やそのエステルに由来する単位を有することで、より少量で優れた分散性能を発揮することが可能になる。このように、上記イオン性基含有単量体が(メタ)アクリル酸系単量体である形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。より好ましくは、アクリル酸系単量体(アクリル酸若しくはその塩)である。
【0039】
上記スルホン酸系単量体は、不飽和二重結合(炭素炭素二重結合)と、スルホン酸基及び/又はスルホン酸塩とを含む単量体である。スルホン酸基及び/又はスルホン酸塩を含むとは、−SO
3Z(Zは、上述したとおりである。)で表される基を、1分子中に1個又は2種以上有することを意味し、スルホン酸塩として好ましくは、アンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩であり、より好ましくはナトリウム塩である。
【0040】
上記スルホン酸系単量体としては、例えば、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、メタリルオキシベンゼンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、2−メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸、2−ヒドロキシ−3−アリルオキシスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、スルホプロピル(メタ)アクリレート、スルホブチル(メタ)アクリレート等の不飽和スルホン酸類、並びに、これらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩及び有機アンモニウム塩が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。また、塩としては一価金属塩が好ましい。
【0041】
上記リン酸系単量体は、不飽和二重結合(炭素炭素二重結合)と、リン酸基及び/又はリン酸塩とを含む単量体である。リン酸基及び/又はリン酸塩を含むとは、−(PO
4)
m(Z)
n(Zは、上述したとおりであり、異なる2種以上でもよい。mはPO
4の価数、nはZの価数である。)で表される基を、1分子中に1個又は2種以上有することを意味し、リン酸塩として好ましくは、アンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩であり、より好ましくはナトリウム塩である。
【0042】
上記リン酸系単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸と1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物とのエステル化物と、リン酸とのエステル化物が好適である。具体的には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレートとリン酸とのエステル化物;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとリン酸とのエステル化物等が好適であり、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0043】
また上記イオン性基含有単量体のエステルとは、加水分解によりイオン性基含有単量体(塩を含む)となる構造を有する化合物である。例えば、上述したイオン性基含有単量体とアルコール類とを通常の手法でエステル化反応して得られる化合物の他、該化合物に該当しない、不飽和結合を有するカルボン酸エステル(例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート)、不飽和結合を有するスルホン酸エステル、及び、不飽和結合を有するリン酸エステル等が挙げられる。上記イオン性基含有単量体のエステルとして好ましくは、上述したアニオン性基含有単量体のエステルである。より好ましくは、カルボン酸系単量体のモノエステル及びジエステルであり、更に好ましくは、(メタ)アクリル酸系単量体のエステル、すなわち(メタ)アクリル酸エステルである。
【0044】
上記アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、ノニルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の炭素数1〜30の脂肪族アルコール類;シクロヘキサノール等の炭素数3〜30の脂環族アルコール類;(メタ)アリルアルコール、3−ブテン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等の炭素数3〜30の不飽和アルコール類等の1価アルコール類の他、(ポリ)アルキレングリコール等の2価アルコール類;上述したグリセリン類等の3価以上の多価アルコール類;等も挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。また、これら例示化合物のアルキレンオキシド付加物や、部分エーテル化物、部分エステル化物等の誘導体も好適である。
なお、このアルキレンオキシド付加物として具体的には、上記1価アルコール類にアルキレンオキシドを付加反応して得られる、(アルコキシ)(ポリ)アルキレングリコール類が挙げられる。この場合、上記アニオン性基含有単量体のエステルとしては、(アルコキシ)(ポリ)アルキレングリコールモノ/ジ(メタ)アクリレートが例示でき、例えば、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0045】
−その他の単量体−
上記単量体成分ではまた、イオン性基含有単量体及び/又はそのエステル以外の単量体(「その他の単量体」とも称する。)を含んでもよい。すなわち上記グラフト重合体は、イオン性基含有単量体単位(イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルに由来する構成単位)だけでなく、その他の単量体単位を含むものであってもよい。その他の単量体単位とは、その他の単量体が有する不飽和二重結合部分が、単結合となった構造を意味する。
上記その他の単量体単位は、上記グリセリン類に由来する骨格に結合されていてもよいし、イオン性基含有単量体単位に結合されていてもよく、特に限定されるものではない。
【0046】
上記単量体成分におけるその他の単量体の割合は、イオン性基含有単量体単位に起因する作用効果を充分に発揮させるために、全単量体成分(イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルと、その他の単量体との合計量)100質量%に対し、30質量%以下であることが好適である。より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0047】
上記その他の単量体としては特に限定されないが、例えば、下記化合物の1種又は2種以上を使用することもできる。
ビニルアルコールアルキレンオキシド付加物、(メタ)アリルアルコールアルキレンオキシド付加物、3−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物、イソプレンアルコール(3−メチル−3−ブテン−1−オール)アルキレンオキシド付加物、3−メチル−2−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物、2−メチル−3−ブテン−2−オールアルキレンオキシド付加物、2−メチル−2−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物、2−メチル−3−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物等の不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物;
上記不飽和ジカルボン酸系単量体と炭素原子数23〜30のアミンとのハーフアミド、ジアミド類;マレアミン酸と炭素原子数5〜18のグリコール又はこれらのグリコールの付加モル数2〜500のポリアルキレングリコールとのハーフアミド類;
メチル(メタ)アクリルアミドのように不飽和モノカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアミンとのアミド類;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレン等のビニル芳香族類;1,4−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート等のアルカンジオールモノ(メタ)アクリレート類;ブタジエン、イソプレン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン等のジエン類;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類;(メタ)アクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等の不飽和シアン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の不飽和エステル類。
【0048】
<グラフト重合体の製造方法>
本発明のグラフト重合体は、例えば、グリセリン類に、イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルを含む単量体成分をグラフト重合させるグラフト重合工程を有する製造方法により得ることができ、このような製造方法もまた、本発明の1つである。
なお、グラフト重合工程に供する単量体成分が、イオン性基含有単量体のエステルを含む場合は、上記グラフト重合工程後に、エステル基を加水分解させる加水分解工程を行うことが好適である。
【0049】
上記製造方法において、グラフト重合工程は、重合開始剤の存在下、実質的に溶媒を用いず、100℃以上の温度で行うことが好適である。通常の重合では、重合溶媒として水又はアルコールやトルエン等の有機溶剤が使用されるが、これらを実質的に使用せずに、かつ100℃以上の温度条件下で重合を行うことによって、効率的にグラフト重合体を得ることができる。なお、このような製法で得られるグラフト重合体は、おそらく、グリセリン類を構成する炭素原子の少なくとも1つに、イオン性基含有単量体単位が結合した構造を有すると推測されるが、この構造的特徴に起因して、とりわけ分散性能に優れることになるものと思われる。
【0050】
上記重合開始剤としては、通常のラジカル開始剤を使用することができるが、反応性等の観点から、有機過酸化物を用いることが好適である。
【0051】
上記有機過酸化物としては特に限定されないが、例えば、下記化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。なお、有機過酸化物と共に、有機過酸化物の分解触媒や、還元性化合物を併用してもよい。
メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類;
tert−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、2−(4−メチルシクロヘキシル)−プロパンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類;
ジ−tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(tert−ブチルパーオキシ)p−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(tert−ブチルパーオキシ)p−イソプロピルヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等のジアルキルパーオキサイド類;
tert−ブチルパーオキシアセテート、tert−ブチルパーオキシラウレート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−tert−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、tert−ブチルパーオキシイソブチレート、tert−ブチルパーオキシビバレート、tert−ブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルエキサノエート、tert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルシクロヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシマレイン酸、クミルパーオキシオクトエート、tert−ヘキシルパーオキシビバレート、tert−ヘキシルパーオキシネオヘキサノエート、クミルパーオキシネオヘキサノエート等のパーオキシエステル類;
【0052】
n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレエート、2,2−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ブタン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(tert−ブチルパーオキシ)オクタン等のパーオキシケタール類;
アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノイルパーオキサイド、サクシニックアシッドパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m−トルイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;
ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ビス−(4−tert−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジミリスチルパーオキシジカーボネート、ジ−メトキシイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ジ−アリルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類;
アセチルシクロヘキシルスルフォニルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシアリルカーボネート等のその他の有機過酸化物類等。
【0053】
上記重合開始剤の量は特に限定されないが、例えば、グリセリン類の総量100重量部に対し、0.1〜15重量部とすることが好適であり、この場合、グリセリン類へのグラフト効率がより充分なものとなる。より好ましくは0.5〜10重量部である。
なお、重合開始剤は、予めグリセリン類に添加しておくこともできるが、単量体成分に添加しておいたり、単量体成分と同時に反応系に添加したりすることもできる。
【0054】
上記グラフト重合工程は、実質的に溶媒を用いずに、すなわち実質的に無溶媒で行われることが好適である。「実質的に溶媒を用いず」とは、溶媒の量が、反応系の全量(すなわち、重合反応に供する全成分の総量)100質量%に対して5質量%以下であることを意味する。好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
なお、重合開始剤や単量体成分の添加のために溶剤を使用する場合には、その量を極力少なくすることが好ましく、例えば、反応系の全量100質量%に対して1質量%以下にするか、又は、添加後、反応系からただちに留去することが好適である。
【0055】
上記グラフト重合工程はまた、100℃以上の温度で行われることが好ましいが、グリセリン類及び得られるグラフト重合体の熱分解を充分に抑えるために、160℃以下であることが好適である。重合温度としてより好ましくは110℃〜160℃であり、更に好ましくは120〜140℃である。
なお、重合は、回分式でも連続式でも行うことができる。
【0056】
上記グラフト重合工程に供するグリセリン類及び単量体成分については上述したとおりである。
【0057】
上記グラフト重合工程において、原料等の添加順序は特に限定されないが、グリセリン類は、その一部又は全量を初期に仕込むことが好適である。また、上記イオン性基含有単量体及び/又はそのエステルとして、不飽和ジカルボン酸系単量体及び/又はそのエステルを用いる場合は、不飽和ジカルボン酸系単量体及び/又はそのエステルの使用量の半量以上を、グリセリン類の一部又は全量とともに初期に仕込むことが好ましい。そして、これらをグリセリン類の流動点(流動温度)以上に加熱した後、残りの単量体成分及び重合開始剤を別々に添加して、グラフト重合することが好適である。この手法により、不飽和ジカルボン酸系単量体及び/又はそのエステルのグラフト重合体への導入率をより高めることができる。なお、グリセリン類の一部を初期に仕込む場合は、残りのグリセリン類は、単量体成分又は重合開始剤と混合して滴下してもよい。
【0058】
上記製造方法ではまた、イオン性基含有単量体のエステルを含む単量体成分をグラフト重合工程に供する場合は、上述したように、上記グラフト重合工程の後に、エステル基を加水分解させる加水分解工程を行うことが好適である。このような、グリセリン類にイオン性基含有単量体のエステルを含む単量体成分をグラフト重合させるグラフト重合工程と、該グラフト重合工程後に、エステル基を加水分解させる加水分解工程とを有する製造方法もまた、本発明の好適な形態の1つである。この場合、副生成物の生成をより抑制することができ、純度の高いグラフト重合体を得ることが可能になる。
【0059】
上記加水分解工程は、通常の方法で行えばよく特に限定されるものではないが、例えば、塩基の水溶液を添加して、溶液のpHを10以上(好ましくはpH13以上)にした後、加温して加水分解させる手法が挙げられる。反応温度及び時間は特に限定されない。
【0060】
上記グラフト重合工程を経て得られる反応生成物は、本発明のグラフト重合体の他、副生成物として種々の重合体を含むことがある。そのため、必要に応じて、個々の重合体を単離する工程に付してもよいが、作業効率や製造コスト等の観点から、個々の重合体を単離することなく、各種用途に使用してもよい。
【0061】
上記グラフト重合体はまた、水やアルコール等の溶剤に溶解させたものを各種用途に使用することもできる。また、塩基を添加して、グラフト重合体が有する酸基やエステル基を塩に変換したものを使用してもよく、この場合、グラフト重合体の貯蔵安定性が向上されるため、好適である。このように、上記製造方法が更に塩基で処理する工程を有する形態もまた、好適な形態の1つである。
上記塩基としては特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム等の1価金属又は2価金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸リチウム等の1価金属又は2価金属の炭酸塩;アンモニア;モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン塩等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。また、溶剤としては、水が好ましく使用される。
【0062】
本発明のグラフト重合体は、水に難溶性の無機物又は有機物の分散剤として良好な性能を発揮する。例えば、紙コーティングに用いられる重質又は軽質炭酸カルシウム、クレイ等の無機顔料の分散剤;セメント、石炭等の水スラリー用分散剤;等として良好な性能を発揮できる。その他にも、冷却水系、ボイラー水系、海水淡水化装置、パルプ蒸解釜、黒液濃縮釜でのスケール防止の水処理剤;スケール防止剤;染色助剤や繊維の帯電防止助剤等の繊維処理剤;接着剤;シーリング剤;各種重合体への柔軟性付与成分;洗剤ビルダー等にも好適に使用することができる。更には、シャンプー、リンス、ボディーソープ等の身体用洗剤、繊維加工、建材加工、塗料、窯業等の分野において幅広く応用することが可能である。中でも、セメント混和剤用途に用いることが好適であり、この場合、より低コストで、従来品と同等又はそれ以上のセメント分散性能を発揮するセメント混和剤を提供できる。このように、上記グラフト重合体がセメント混和剤用グラフト重合体である形態は、本発明の好適な形態であり、また、上記グラフト重合体を含むセメント混和剤は、本発明の1つである。
【0063】
<セメント混和剤>
本発明のセメント混和剤は、上記グラフト重合体を含むが、この場合、上記グラフト重合体中のイオン性基含有単量体単位におけるイオン性基(カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等)が、セメント粒子を吸着する吸着基として作用し、グリセリン類がセメント粒子を分散させる分散基として作用すると考えられ、これらの相互作用に起因して、高いセメント分散性能(減水性能)を発揮できると推測される。
【0064】
上記セメント混和剤は、上記グラフト重合体を含むものあれば、その含有形態は特に限定されず、例えば、上記製造方法により得られた反応生成物をそのままセメント混和剤として使用してもよいし、上記グラフト重合体を単離して、セメント混和剤として使用してもよい。また、上記セメント混和剤は、必要に応じて溶剤や他の添加剤を含んでもよい。
上記他の添加剤は、通常、セメント分野で使用されるものであればよく特に限定されないが、例えば、減水剤、AE減水剤、流動化剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、増粘剤、消泡剤、収縮低減剤、膨張剤、防錆剤、強度増進剤、防カビ剤、セメント分散剤、AE(空気連行)剤、セメント湿潤剤、水溶性高分子物質、防水剤、硬化遅延剤、硬化促進剤、急結剤、凝集剤等が挙げられる。これらは1種類のみを用いてよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。また、その配合割合は特に限定されるものではない。
【0065】
上記セメント混和剤は、各種水硬性材料、すなわちセメントや石膏等のセメント組成物やそれ以外の水硬性材料に用いることができる。このような水硬性材料と水と上記セメント混和剤とを含有し、更に必要に応じて骨材(砂等の細骨材や、砕石等の粗骨材)を含む水硬性組成物の具体例としては、セメントペースト、モルタル、コンクリート、プラスター等が挙げられる。これらの水硬性組成物の中でも、水硬性材料としてセメントを使用するセメント組成物が最も好ましい。上記セメント混和剤、セメント及び水を含むセメント組成物もまた、本発明の1つである。
【0066】
<セメント組成物>
本発明のセメント組成物は、上記セメント混和剤、セメント及び水を必須成分として含むが、セメントとしては、例えば、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩及びそれぞれの低アルカリ形);各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント);白色ポルトランドセメント;アルミナセメント;超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント);グラウト用セメント;油井セメント;低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント);超高強度セメント;セメント系固化材;エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の1種以上を原料として製造されたセメント)等の他、これらに高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体や石膏を添加したもの等が挙げられる。
上記セメント組成物はまた、必要に応じて骨材を含んでもよい。骨材としては、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等の他、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材等が挙げられる。
【0067】
上記セメント組成物において、その1m
3あたりの単位水量、セメント使用量及び水/セメント比は特に限定されず、例えば、単位水量は100〜185kg/m
3であることが好ましく、より好ましくは120〜175kg/m
3である。セメント使用量は250〜800kg/m
3であることが好ましく、より好ましくは270〜800kg/m
3である。また、水/セメント比(質量比)は0.1〜0.7であることが好ましく、より好ましくは0.2〜0.65である。このように本発明のセメント組成物は、貧配合〜富配合まで幅広く使用可能であり、単位セメント量の多い高強度コンクリート、単位セメント量が300kg/m
3以下の貧配合コンクリートのいずれにも有効である。また、本発明のセメント組成物は、比較的高減水率の領域、すなわち、水/セメント比(質量比)=0.15〜0.6(好ましくは0.15〜0.5)といった水/セメント比の低い領域においても、良好に使用することができる。
【0068】
ここで、本発明のセメント混和剤は、高減水率領域においても優れた諸性能を高性能で発揮でき、優れた作業性を有することから、レディーミクストコンクリート、コンクリート2次製品(プレキャストコンクリート)用のコンクリート、遠心成形用コンクリート、振動締め固め用コンクリート、蒸気養生コンクリート、吹付けコンクリート等にも有効に適用できるものである。また、中流動コンクリート(スランプ値が22〜25cmの範囲のコンクリート)、高流動コンクリート(スランプ値が25cm以上で、スランプフロー値が50〜70cmの範囲のコンクリート)、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材等の高い流動性を要求されるモルタルやコンクリートにも有効である。
【0069】
上記セメント組成物において、本発明のセメント混和剤の配合割合としては、例えば、本発明の必須成分であるグラフト重合体が、固形分換算で、セメントの全量100質量%に対して、0.01〜10質量%となるように設定することが好ましい。0.01質量%未満では性能的に充分とはならないおそれがあり、逆に10質量%を超えると、その効果は実質上頭打ちとなり経済性の面からも不利となるおそれがある。より好ましくは0.02〜5質量%、更に好ましくは0.05〜3質量%である。なお、本明細書中、固形分含量は、以下のようにして測定することができる。
(固形分測定方法)
1、アルミ皿を精秤する。
2、1で精秤したアルミ皿に固形分測定物を精秤する。
3、窒素雰囲気下130℃に調温した乾燥機に、2で精秤した固形分測定物を1時間入れる。
4、1時間後、乾燥機から取り出し、室温のデシケーター内で15分間放冷する。
5、15分後、デシケーターから取り出し、アルミ皿+測定物を精秤する。
6、5で得られた質量から1で得られたアルミ皿の質量を差し引き、2で得られた固定分の質量を除することで固形分を測定する。