特許第5773410号(P5773410)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5773410
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】シリコンベース電気光学装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/025 20060101AFI20150813BHJP
【FI】
   G02F1/025
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-43937(P2011-43937)
(22)【出願日】2011年3月1日
(65)【公開番号】特開2011-180595(P2011-180595A)
(43)【公開日】2011年9月15日
【審査請求日】2014年2月6日
(31)【優先権主張番号】201001336-5
(32)【優先日】2010年3月1日
(33)【優先権主張国】SG
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508305029
【氏名又は名称】エージェンシー フォー サイエンス, テクノロジー アンド リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】牛田 淳
(72)【発明者】
【氏名】藤方 潤一
(72)【発明者】
【氏名】ユ ミンビン
(72)【発明者】
【氏名】ディング リアング
(72)【発明者】
【氏名】シュ シヤング
【審査官】 佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−010456(JP,A)
【文献】 High Speed Photonics on an SOI platform ,2008 IEEE International SOI Conference Proceedings,2008年10月,85-86
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/015−1/025
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンベース電気光学装置であって、
第1の導電型を示すように不純物がドープされたシリコン本体領域と、
前記シリコン本体領域の少なくとも一部の上に配置されて前記シリコン本体領域との間に隣接領域を画定する、第2の導電型を示すように不純物がドープされたシリコンゲート領域と、
前記シリコン本体領域と前記シリコンゲート領域との間の前記隣接領域に配置された誘電体層と、
前記シリコンゲート領域に接続された第1の電気コンタクトと、
前記シリコン本体領域に接続された第2の電気コンタクトと、
を有し、
介在する前記誘電体層を有する前記シリコン本体領域と前記シリコンゲート領域との組み合わせが前記電気光学装置の活性領域を画定し、
前記第1の電気コンタクト及び前記第2の電気コンタクトに電気信号を印加したときに、光信号の光電気場が前記電気光学装置の前記活性領域での自由キャリア濃度の変調領域に実質的に重なるように、前記誘電体層の両側の前記シリコン本体領域及び前記シリコンゲート領域の中で同時に自由キャリアが、蓄積、欠乏または反転し、
前記シリコン本体領域、前記シリコンゲート領域及び前記誘電体層によってリブ導波路が形成され、
前記第の電気コンタクトは、リブ状の電極コンタクト領域を介して前記リブ導波路のスラブ部に接続され、
前記リブ状の電極コンタクト領域は、前記リブ導波路のリブ部の周辺よりも厚く、
前記リブ導波路のリブ部は前記第1の電気コンタクトに接続された領域を有し、
記リブ状の電極コンタクト領域の位置は、前記リブ導波路の中央から0.5μm以上離れ、前記リブ導波路と前記リブ状の電極コンタクト領域との間の距離が変化したときに前記リブ導波路の0次モードでの屈折率が一定であるような位置である、シリコンベース電気光学装置。
【請求項2】
前記リブ状の電極コンタクト領域の厚さが前記リブ導波路の厚さと同じである、請求項1に記載のシリコンベース電気光学装置。
【請求項3】
前記リブ状の電極コンタクト領域の厚さは、前記リブ導波路のSOI領域の少なくとも一部の厚さと同じである、請求項1に記載のシリコンベース電気光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンプラットフォーム上に形成されて、例えば光通信分野などにおいて利用される電気光学装置(electro-optic device)に関し、特に、SOI(Silicon-on-Insulator)基板上に形成されたシリコンベース(silicon-based)電気光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットに代表される情報通信ネットワークは、人々の生活に欠くことのできな社会基盤として、世界中に張り巡らされ構築されている。このインターネット上の膨大なトラフィックを支える技術の一つとして、光ファイバを用いる光通信技術がある。シリコンプラットフォームを用いた光通信装置は、光ファイバ通信に用いられる波長帯の中でも1.3μm帯及び1.55μm帯の波長帯を利用可能であり、しかも、CMOS(相補型金属酸化物半導体:complementary metal-oxide-semiconductor)デバイス作製技術により製造できるので、高密度な光集積回路を実現するものとして期待されている。
【0003】
年々増加する情報通信ネットワークのトラフィックに対応する方法の1つとして、チャネルあたりの情報伝送量あるいは伝送レートを増加させる方法がある。その実現には、光通信装置内で情報処理を担っているLSI(大規模集積回路:large-scale integration)回路からの信号を高速に光信号に変換する光変調器が重要となるため、この光変調器をシリコンプラットフォームで実現することが提案されている。
【0004】
これまでに提案されている光変調器の代表的なものは、キャリアプラズマ効果を利用してシリコン材料の屈折率を変化させ、光の導波特性を変えるタイプの光変調器である。例えば、A. Liuらは、pn接合を用い逆バイアスで動作させるシリコンベース光変調器を提案している(非特許文献1)。T. Pinguetらは、CMOS製造プロセスに適合したシリコンベース光変調器を提案している(非特許文献2)。これらの光変調器は、いずれも、高速動作が可能である。
【0005】
図1は、Liuらによる光変調器の断面構造を示している。この図は、光変調器における光の伝搬方向に垂直な面での断面を示している。この光変調器では、シリコン基板24の上面に酸化物層25が形成されており、酸化物層25の上には、SOI層であるpドープシリコン層23が設けられている。ここではpドープシリコン層23は、その断面構造において、リブ(rib)光導波路のコアとなる突起部と、突起部の両側にあって突起部に接続するスラブ(slab)部とを有するように、形成されている。pドープシリコン層23と電極27との電気的接続を達成するために、p型ドーパントが高濃度に導入されたp++ドープシリコン層22がスラブ部の各々に接続するように設けられている。
【0006】
pドープシリコン層23の上方は、pドープシリコン層23とpn接合を形成するようにnドープシリコン層21が形成されており、nドープシリコン層21の側部は、電極28との電気的接続のためにn型ドーパントが高濃度に導入されたn++ドープシリコン層20と接続している。nドープシリコン層21のうち、pドープシリコン層23と接する部分もリブ導波路の一部をなしている。このようなnドープシリコン層21は、SOI層(すなわちpドープシリコン層23)上にシリコン層をエピタキシャル成長させ、そのエピタキシャル成長層に対してSOI層との界面近傍にまでn型不純物をドープすることにより形成される。
【0007】
pドープシリコン層23、p++ドープシリコン層22、nドープシリコン層21及びn++ドープシリコン層21の全体を覆うように、導波路におけるクラッド層としても機能する酸化物層35が設けられている。
【0008】
このような光変調器では、電極27及び電極28を介し、pドープシリコン層23とnドープシリコン層21との間に逆バイアス電圧を印加することによって、キャリアプラズマ効果により、リブ導波路を構成するpドープシリコン層23及びnドープシリコン層21を通過する光に対する変調動作が行われる。
【0009】
光変調部分をこのような構造とした場合には、光変調部分とそれに接続する外部の電極部分の形状がその電極につながる導波路構造と異なるため、光変調部分と外部電極部分とを導波路構造に対して低損失に光学的に結合し、かつ、電気的な高速応答を実現できる接続構造を形成する必要が生じる。
【0010】
また図1に示される構造において、リブ導波路は光を閉じ込めているが、リブ導波路のスラブに接続されるp++ドープシリコン層22からリブ導波路の本体までの距離が短いと、p++ドープシリコンの光吸収に起因する損失が問題となる可能性がある。具体的に言えば、p++ドープシリコンは、これよりもドーパント濃度が低いp+ドープシリコンや純シリコン(真性シリコン)に比べて光の吸収率が大きいので、リブ導波路の中心部分にはp++ドープシリコンを用いることはできない。またリブ導波路の中心部分でなくても、リブ構造の近くにp++ドープシリコンを配置することは、光損失の低減の観点からは好ましくない。
【0011】
その一方で、光変調器の高速動作のためには、電極をリブ構造の近くに配置して、電極を付随する電気抵抗を低減することが望ましい。したがって、電気光学装置の高速化のために電極をリブ導波路に近づけて配置することと、電気光学装置内での光の損失を低減させるためにリブ導波路から遠ざけて電極を配置することとは、トレードオフの関係にある。
【0012】
図1に示したような電極27をp++ドープシリコン層22に接続している形状では、リブ導波路構造における光閉じ込めを強くして高い効率を達成するためにp++ドープシリコン層22の厚さを薄くした場合、電極27とp++ドープシリコン層22との間のコンタクト層となるシリサイド層の厚さにおける製造ばらつきが生じやすくなり、コンタクト抵抗値が不安定になるという問題が生じる。
【0013】
図1に示した光変調器では、pn接合が形成されているが、pn接合の代わりに、SIS型(半導体−絶縁体−半導体:semiconductor-insulator-semiconductor)接合を形成したシリコンベース電気光学変調器の例が、WO2004/088394(特許文献1)に開示されている。この光変調器では、導波路構造において、pドープシリコン層とnドープシリコン層とが、比較的薄い誘電体層を介して積層している。両方のシリコン層間に変調信号を印加することにより、誘電体層の両側で自由キャリアの蓄積や除去、またはキャリア濃度の反転が起こり、これによって、実効的な光屈折率が変化するようになる。
【0014】
図2は、Pinguetらによる光変調器の断面構造を示している。この図は、光変調器における光の伝搬方向に垂直な面での断面を示している。この光変調器もSOI構造のリッジ導波路を備えるものであるが、pn接合の面がシリコン基板に対して直交し、リッジ導波路の長手方向に向かう中心線に沿って垂直なpn接合が形成されるように、pドープシリコン層とnドープシリコン層とを配置した点で、図1に示したものと相違している。各ドープシリコン層は、リッジ導波路の部分で不純物濃度が小さく、リッジ導波路のスラブ部分では、リッジ導波路から遠くなるにつれて不純物濃度が増大するようになっている。Pinguetらはこの光変調器の具体的な構造を十分には説明していないが、スラブ部分であって電極と接合する位置の各々において、p+ドープシリコン層32及びn+ドープシリコン層30の厚みが大きくされており、この構造では、コンタクト層としての安定的なシリサイド層が形成されるものと考えられる。
【0015】
SOI構造を有するリッジ導波路を備える光変調器あるいは電気光学装置において、高速動作のためにどれぐらいの距離までコンタクト層をリッジ導波路に近づければよいのかや、光が通過する導波路の中心部分に対してどのようにコンタクト層を配置して電極を接続すればよいのかについては、全く明らかでない。また、リッジ導波路の両側のスラブ部分に設けられるシリコンブロックの影響で、導波損失が発生したり、あるいは迷光による挿入損失が発生したりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】WO2004/088394
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】A. Liu, et al., "High-speed optical modulation based on carrier depletion in a silicon waveguide," OPTICS EXPRESS, vol. 15, no. 2, pp. 660-668 (2007)
【非特許文献2】T. Pinguet, et al., "A 1550 nm, 10Gbps optical modulator with integrated driver in 130 nm CMOS," Proc. of Group Four Photonics, ThA2, pp. 186-189, (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
シリコン(Si)半導体基板上に集積化可能なシリコンベース電気光学装置の一つとして、キャリアプラズマ効果に基づく光変調器は、サブミクロンといった極めて小さなサイズで、低コスト、低電流密度、低消費電力、高い変調度、低電圧駆動及び高速変調を実現可能である。しかしながら上述したように、このようなキャリアプラズマ効果に基づく光変調器に対する高効率な光接続を電極コンタクト層の配置の調整によって実現することは困難であった。また、光変調器における高速動作と光伝搬損失の低減とを両立させるような、電極コンタクト層の配置も知られていない。
【0019】
SOI基板上に形成されたシリコンベース光変調器における、高効率な光接続を実現し、高速動作と光伝搬損失の低減とを両立させることができる電極接続構造が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の例示的な一態様によれば、電気光学装置は、第1の導電型を示すように不純物がドープされたシリコン本体領域と、シリコン本体領域の少なくとも一部の上に配置されてシリコン本体領域との間に隣接領域を画定する、第2の導電型を示すように不純物がドープされたシリコンゲート領域と、シリコン本体領域とシリコンゲート領域との間の隣接領域に配置された誘電体層と、シリコンゲート領域に接続された第1の電気コンタクトと、シリコン本体領域に接続された第2の電気コンタクトと、を有し、介在する誘電体層を有するシリコン本体領域とシリコンゲート領域との組み合わせが電気光学装置の活性領域を画定し、第1の電気コンタクト及び第2の電気コンタクトに電気信号を印加したときに、光信号の光電気場が電気光学装置の活性領域での自由キャリア濃度の変調領域に実質的に重なるように、誘電体層の両側のシリコン本体領域及びシリコンゲート領域の中で同時に自由キャリアが、蓄積、欠乏または反転し、シリコン本体領域、シリコンゲート領域及び誘電体層によってリブ導波路が形成され、第1の電気コンタクトはリブ導波路のスラブ部に接続され、リブ導波路のリブ部は電極コンタクト領域に接続された領域を有し、リブ部の電極コンタクト領域の厚さは周辺リブ部よりも厚く、リブ部の電極コンタクト領域の位置は、導波路の中央の位置であって、リブ導波路と電極コンタクト領域との間の距離が変化したときにリブ導波路の0次モードでの屈折率が一定であるような位置である。
【0021】
本発明の別の例示的な態様によれば、電気光学装置は、第1の導電型の第1のシリコン半導体層と、第1のシリコン半導体層上に少なくとも部分的に積層され、第1の導電型とは異なる第2の導電型の第2のシリコン半導体層と、第1のシリコン半導体層と第2のシリコン半導体層との界面に形成された誘電体層と、第1のシリコン半導体層に接続する第1の電気コンタクトと、第2のシリコン半導体層に接続する第2の電気コンタクトと、を有し、第1のシリコン半導体層と誘電体層と第2のシリコン半導体層とがSIS型接合を形成し、第1及び第2の電気コンタクトの各々からの電気信号が、誘電体層の両側で自由キャリアが蓄積、除去または反転されることを可能にして、光信号の電界が感じる自由キャリア濃度を変調し、第1のシリコン半導体層と第2のシリコン半導体層とを含む積層構造がリブ導波路形状を有して光の閉じ込め領域を構成し、リブ導波路のスラブ部分は、金属電極が第1の電気コンタクトとして接続された領域を有し、金属電極が接続された領域においてスラブ部分の厚さがその周囲のスラブ部分の厚さよりも大きく、金属電極が接続された領域は、金属電極が接続された領域までのリブ導波路からの距離を変化させたときに、リブ導波路の0次モードの実効屈折率が変化しないようなその距離の範囲に位置する。
【0022】
本発明の上記の及び他の目的、特徴及び利点は、本発明の実施形態を示す添付の図面に基づいて、以下の説明から明らかなものとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、pn接合を有するシリコンベース光変調器の構造の一例を示す断面図である。
図2図2は、光変調器と電極との接続構造の一例を示す図である。
図3図3は、光変調器と電極との接続構造の他の一例を示す図である。
図4図4は、本発明の第1の実施形態における光変調器と電極との接続構造を断面図である。
図5図5は、本発明の第2の実施形態の光変調器を示す断面図である。
図6図6は、図5に示す光変調器における、光導波モードでのSiブロックとの距離依存性を示すグラフである。
図7図7(a)〜(f)は、光変調器の製造工程を順を追って示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施の形態を説明するにあたり、まず、リブ導波路におけるスラブを電極構造に接続する部分について説明する。
【0025】
キャリアプラズマ効果を用いてシリコン導波路の屈折率を変化させるためには、導波路のコア部分に対して外部から電圧を印加できるようにする必要があり、このために、リブ導波路のスラブから延長した部分に対して電極が接続される。電極としては一般的に、アルミニウム(Al)や銅(Cu)などの金属が用いられる。スラブから延びて電極と接続する部分は、コンタクト層として、高濃度に不純物を導入したシリコン層から構成される。コンタクト層と金属電極とが相互に接続する部分は、シリサイド層で構成され、これにより、電極とコンタクト層との間での確実的な電気的な接続を達成する。
【0026】
図3は、図1に示した電気光学装置と同様のデバイスであるが、リブ導波路における光伝搬損失の低減のために、コンタクト層すなわちp++ドープシリコン層22の厚さを薄くしたものを示している。この構成では、p++ドープシリコン層22が大変薄いため、金属電極27との接続のためにシリサイド層を介して電気的コンタクトを形成しようとしたときに、その接続における電気的特性が不安定になる。具体的には、同じ製造プロセスを用いてシリサイド層を形成しようとしても、形成されたシリサイド層の厚さにばらつきが生じるために、コンタクト抵抗が一定にならない、という重要な課題を生じる。
【0027】
コンタクト抵抗が一定にならないという課題を解決するものとして、本発明の第1の実施形態の電気光学装置の構成の一例が、図4に示されている。図4の電気光学装置は、例えば、シリコンベース光変調器として構成されているものである。
【0028】
図4に示した光変調器では、図3に示すものと同様に、リブ導波路の各スラブに接続するp++ドープシリコン層22が薄く形成されている。しかしながら、図3に示すものと異なって図4に示す光変調器では、電極27の接続箇所となる位置において、p++ドープシリコン層22の厚みが大きくされている。言い換えれば、電極27との接続箇所の近傍で断面が台形になるように、p++ドープシリコン層22は形成されている。
【0029】
電極27との接続部分において、コンタクト層となるp++ドープシリコン層22に厚みを持たせているため、p++ドープシリコン層22と電極27との界面に当たる位置に安定的にシリサイド層を形成することができる。本発明者らの実験結果は、p++ドープシリコン層22の厚さがリブ導波路のスラブ部の厚さよりも50nm〜100nmの範囲で厚ければ安定したコンタクト抵抗が得られることを示している。
【0030】
以下、図4に示したシリコンベース光変調器について、さらに詳しく説明する。
【0031】
図4に示されるシリコンベース光変調器は、図1あるいは図3に示したものと同様に、シリコン基板24上に酸化物層25が設けられ、さらに酸化物層25上には、SOI層としてのpドープシリコン層23がリブ導波路の下半分としてパターニングして設けられている。pドープシリコン層23の上面には、pドープシリコン層23に対してpn接合を形成するように、nドープシリコン層21が設けられている。また、nドープシリコン層21の側部には、n++ドープシリコン層20が接続する。電極28がn++ドープシリコン層20に接続する。pドープシリコン層23、p++ドープシリコン層22、nドープシリコン層21及びn++ドープシリコン層20の全体を覆うように、リブ導波路におけるクラッド層としても機能する酸化物層35が設けられている。
【0032】
SOI層における突起部として形成されるリブ導波路の両側には、スラブ層として厚さ100nm以下のSOI層が設けられている。そしてスラブ層上に、電極27との接続に用いられるコンタクト層としてのp++ドープシリコン層22が設けられている。電極27は例えばアルミニウムあるいは銅から構成されている。p++ドープシリコン層22は、電極27と接合する領域において、その厚さが、スラブ部の厚さよりも50nm以上厚く設けられている。
【0033】
このとき、電極27と接合する領域でのp++ドープシリコン層22の厚さを、リブ導波路をパターニング形成する前のSOI層の厚さと同じにすることにより、光変調器製造時の加工プロセスが簡素化されることとなり、コンタクト抵抗におけるばらつきが低減するとともに、低コスト化にも寄与する。
【0034】
この構造では、リブ導波路のスラブとなる薄いSOI層がp++ドープシリコン層22に隣接して形成されており、電極27がp++ドープシリコン層22に接合するコンタクト部からリブ導波路の中心軸までの距離は、電極27がリブ導波路に対して電気的に十分に低抵抗に接続されるように設計される。また、リブ型光導波路構造における0次モードの実効屈折率は、電極27のコンタクト部からリブ導波路の中心軸までの距離に依存しないよう設定される。このように電極27等を配置することにより、電極及び高ドープシリコン領域による光吸収損失の影響を回避できるとともに、光の伝搬モードを保持した状態での電極設計が可能となる。
【0035】
図5は、本発明の第2の実施形態の電気光学装置を示している。
【0036】
電気光学装置の高速動作の実現のためには、光と半導体内のキャリアとが相互作用する変調部分に近接して、変調電圧印加用の電極を配置することが好ましい。しかしながら、不純物をドープさせたシリコンは光を吸収することから、変調部分に近接して電極を配置することは、光損失の増加につながる。したがって、高速動作の実現と光損失の低減とはトレードオフの関係にある。このようなトレードオフの関係の中で電極配置に関する最適条件を見出そうとするのが第2の実施形態である。
【0037】
図5に示した電気光学装置は、図4に示した電気光学装置と同様のものであるが、nドープシリコン層21とリブ導波路を構成するpドープシリコン層23とが直接接続してpn接合を形成するのではなく、両方のドープシリコン層21,23の界面に薄い誘電体層29が形成されている点で、図4に示すものとは異なっている。すなわちこの電気光学装置はSIS型接合を有する。
【0038】
この電気光学装置では、電極27,28を介してpドープシリコン層23とnドープシリコン層21の間に電気信号を印加すると、誘電体層29の両側で自由キャリアが蓄積されたり、除去されたり、あるいはキャリア濃度の反転が生じる。その結果、リブ導波路を伝搬する光信号の電界に作用する自由キャリア濃度がその電気信号に応じて変調されることとなり、導波路の実効的な光屈折率が変調されることになる。この構造において、pドープシリコン層23はシリコン本体領域を構成し、nドープシリコン層21は、ゲート領域を構成する。薄い誘電体層29を挟んでこれらのシリコン本体領域及びゲート領域が電気光学装置の活性領域を構成する。
【0039】
++ドープシリコン層22の電極27が接続している突出部は、リブ導波路の長手方向に沿って延びて、寄生リブを形成する。したがって電気光学装置は、それぞれリブ導波路の長手方向に沿って延びている3個のシリコンブロックA,B,Cを有する。シリコンブロックA,Cは、p++ドープシリコン層22からなる高濃度にドープされた寄生リブであり、シリコンブロックBはリブ導波路の中心リブ部である。
【0040】
図5において、距離Dは、電極27がp++ドープシリコン層22に接合するコンタクト部からリブ導波路の中心軸までの距離を表している。この実施形態において距離Dは、電気光学装置における高速動作の実現と光損失の低減との間のトレードオフを決めるパラメータとなっている。距離Dを変化させることにより、変調部分とその周囲一帯の光導波路としての特性を調べることができる。この周囲一帯の光導波路としての特性を調べ、上記のトレードオフ関係に関連して電極位置の最適値を導くことが、本実施形態の核心部分である。
【0041】
距離Dを変化させながら図5中のシリコンブロックの光導波路モードをすべて調べてプロットしたものが、図6である。グラフの縦軸は実効屈折率を示し、横軸は距離Dを示している。グラフの右側に、2つの長方形A,Cと1つの正方形Bとの3つの四角形が組となったものが何組か示されているが、これらの四角形A,B,Cは、図5における3つのシリコンブロックA,B,Cにそれぞれ対応する。また、四角形の中の丸印は、対応するシリコンブロック(リブ導波路または寄生リブ)中で光が伝搬する際の導波モードを示している。さらにグラフにおいて、そこで変調動作が実施されるべきモードは実線で示され、それ以外のモードは破線で示されている。当然のことながら、変調動作が実施されるべきモードは、中央のシリコンブロックBすなわちリブ導波路を光が伝搬するモードである。
【0042】
図6のグラフから分かるように、実線で示され変調動作のために使用されるべき導波モードすなわちリブ導波路を光が伝搬するモードにおいて、実効屈折率が距離Dに応じて変化しているところは、その導波モードが破線で示す他の導波モードとの結合状態にある。他の導波モードと結合状態にある場合には、そのシリコンブロックは電気光学装置として正常に動作しない。また、距離Dに応じた導波モードごとの実効屈折率を示す各曲線が交差する領域でも、交差しているのか非交差なのかの判別が難しいため、使用を避けた方がよい領域がある。今回の例では、距離Dを0.6μm程度以上とし、かつ、距離D=0.7μmのあたりを除くこととすれば、損失となるような他のモードとの結合が起こらず、シリコンブロックが正常な導波路として動作することが予測できる。上記のように調べた結果は、リブ導波路の付近でのシリコンブロックの配置を考慮しながら、リブ導波路にできるだけ近接するようにどの位置に電極を配置すればよいのかを示している。
【0043】
図5に示す電気光学装置でも、距離Dは、電極27がリブ導波路に対して電気的に十分に低抵抗に接続されるよう設定され、かつ、リブ型光導波路構造における0次モードの実効屈折率が距離Dに依存しないよう設定される。このように電極27等を配置することにより、電極及び高ドープシリコン領域による光吸収損失の影響を回避できるとともに、光の伝搬モードを保持した状態での電極設計が可能となる。
【0044】
次に、図7を用いて、図5に示した電気光学装置すなわちシリコンベース光変調器の製造プロセスを説明する。
【0045】
図7(a)は、電気光学装置を形成するために用いられるSOI基板の断面構成を示している。このSOI基板は、シリコン基板24上に埋め込み酸化物層25が設けられ、さらに酸化物層25の上に厚さ300nm程度のシリコン層が積層された構造からなる。光損失を低減するために、埋め込み酸化物層の厚さは1000nm以上であることが好ましい。埋め込み酸化物層25上のシリコン層は、いわゆるSOI層であって、pドープシリコン層23となるべきものである。ここでは第1の導電型がp型、第2の導電型がn型であるとして、酸化物層25上のシリコン層は、第1の導電型を呈するように予めドーピング処理されていてもよい。埋め込み酸化物層25上にシリコン層を形成した後、その表面層に対してイオン注入などによりリン(P)あるいはホウ素(B)を導入し、その後、そのような基板に対して熱処理を行うことでシリコン層の全体にp型不純物を拡散させ、pドープシリコン層23となるようにしてもよい。
【0046】
次に図7(b)に示すように、pドープシリコン層23の表面にレジストパターンを形成して、反応性エッチング法を適用することにより、pドープシリコン層23をリブ型導波路形状に加工する。また、高濃度にp型不純物が導入されている領域をp++ドープシリコン層22として、リブ導波路構造に隣接したシリコンブロック部に形成する。
【0047】
次に図7(c)に示すように、クラッド層として用いられる酸化物層35として、300〜700nmの厚さのSiO2膜をpドープシリコン層23及びp++ドープシリコン層22の全面に積層して形成し、CMP(化学機械研磨法:chemical-mechanical polishing process)などの手法により、リブ導波路の高さを制御するように酸化物層35の平坦化を行う。
【0048】
次に図7(d)に示すように、CMP処理された酸化物層35の表面にレジストマスクパターンを形成し、レジストマスクパターンに対して反応性エッチング法を適用することにより、酸化物クラッド層に、リブ導波路の位置に対応する溝(トレンチ)を形成する。このとき、溝の底面では、リブ導波路のコア部となるpドープシリコン層23が露出している。
【0049】
パターニングに用いたマスク層を除去した後、図7(e)に示すように、比較的薄い誘電体層29であるシリコン酸化層を熱酸化処理により、SOI層すなわち露出したpドープシリコン層21上に形成する。誘電体層29は、シリコン酸化層でなくても、例えば、窒化シリコン層や、他の高誘電率(high−k)絶縁層であってもよく、これらを積層した構造であってもよい。その後、nドープシリコン層21として多結晶シリコン層を積層して形成し、nドープシリコン層21のうちの電極引き出し部にn++ドープシリコン層20を形成する。
【0050】
最後に、図7(f)に示すように、n++ドープシリコン層20及びnドープシリコン層を含めて全体が酸化物クラッド層に覆われるように、酸化物クラッド層としての酸化物層35をさらに形成してその表面をCMPにより平坦化を行い、電極27,28の取り出しのためのコンタクトホールを形成する。これらのコンタクトホールの底面には、n++ドープシリコン層20及びp++ドープシリコン層22が露出しているから、その露出したn++ドープシリコン層20及びp++ドープシリコン層22にNiを成膜してシリサイド層を形成する。さらに、TaN/Al(Cu)などからなる電極層を各コンタクトホール内に形成して、電極27,28を完成させる。これらの電極27,28は駆動回路との接続に用いられる。
【0051】
上記の実施形態の全部または一部は、以下の付記のようにも記載され得るが、以下の付記に限られるものではない。
【0052】
[付記1]
シリコンベース電気光学装置であって、
第1の導電型を示すように不純物がドープされたシリコン本体領域と、
前記シリコン本体領域の少なくとも一部の上に配置されて前記シリコン本体領域との間に隣接領域を画定する、第2の導電型を示すように不純物がドープされたシリコンゲート領域と、
前記シリコン本体領域と前記シリコンゲート領域との間の前記隣接領域に配置された誘電体層と、
前記シリコンゲート領域に接続された第1の電気コンタクトと、
前記シリコン本体領域に接続された第2の電気コンタクトと、
を有し、
介在する前記誘電体層を有する前記シリコン本体領域と前記シリコンゲート領域との組み合わせが前記電気光学装置の活性領域を画定し、
前記第1の電気コンタクト及び前記第2の電気コンタクトに電気信号を印加したときに、光信号の光電界が前記電気光学装置の前記活性領域での自由キャリア濃度の変調領域に実質的に重なるように、前記誘電体層の両側の前記シリコン本体領域及び前記シリコンゲート領域の中で同時に自由キャリアが、蓄積、欠乏または反転し、
前記シリコン本体領域、前記シリコンゲート領域及び前記誘電体層によってリブ導波路が形成され、
前記第1の電気コンタクトは前記リブ導波路のスラブ部に接続され、
前記リブ導波路のリブ部は電極コンタクト領域に接続された領域を有し、前記リブ部の前記電極コンタクト領域の厚さは周辺リブ部よりも厚く、
前記リブ部の前記電極コンタクト領域の位置は、前記導波路の中央の位置であって、前記リブ導波路と前記電極コンタクト領域との間の距離が変化したときに前記リブ導波路の0次モードでの屈折率が一定であるような位置である、シリコンベース電気光学装置。
【0053】
[付記2]
前記リブ部の前記電極コンタクト領域の厚さが前記リブ導波路の厚さと同じである、付記1に記載のシリコンベース電気光学装置。
【0054】
[付記3]
前記リブ部の前記電極コンタクト領域の厚さは、前記リブ導波路のSOI領域の少なくとも一部の厚さと同じである、付記1に記載のシリコンベース電気光学装置。
【0055】
[付記4]
前記リブ部の電極コンタクト領域の幅は前記リブ導波路の幅よりも広い、付記1に記載のシリコンベース電気光学装置。
【0056】
[付記5]
電気光学装置であって、
第1の導電型の第1のシリコン半導体層と、
前記第1のシリコン半導体層上に少なくとも部分的に積層され、前記第1の導電型とは異なる第2の導電型の第2のシリコン半導体層と、
前記第1のシリコン半導体層と前記第2のシリコン半導体層との界面に形成された誘電体層と、
前記第1のシリコン半導体層に接続する第1の電気コンタクトと、
前記第2のシリコン半導体層に接続する第2の電気コンタクトと、
を有し、
前記第1のシリコン半導体層と前記誘電体層と前記第2のシリコン半導体層とがSIS型接合を形成し、前記第1及び第2の電気コンタクトの各々からの電気信号が、前記誘電体層の両側で自由キャリアが蓄積、除去または反転されることを可能にして、光信号の電界が感じる自由キャリア濃度を変調し、
前記第1のシリコン半導体層と前記第2のシリコン半導体層とを含む積層構造がリブ導波路形状を有して光の閉じ込め領域を構成し、前記リブ導波路のスラブ部分は、金属電極が前記第1の電気コンタクトとして接続された領域を有し、
前記金属電極が接続された領域において前記スラブ部分の厚さがその周囲のスラブ部分の厚さよりも大きく、
前記金属電極が接続された領域は、前記金属電極が接続された領域までの前記リブ導波路からの距離を変化させたときに、前記リブ導波路の0次モードの実効屈折率が変化しないようなその距離の範囲に位置する、電気光学装置。
【0057】
[付記6]
シリコン基板と前記シリコン基板上に形成された埋め込み酸化物層とをさらに有し、
前記第1のシリコン半導体層は前記埋め込み酸化物層上にSOI層として設けられている、付記5に記載の電気光学装置。
【0058】
[付記7]
前記金属電極が接続された領域のスラブ厚が、前記第1のシリコン半導体層の前記リブ導波路中でのいずれかの高さと同じである、付記5または6に記載の電気光学装置。
【0059】
[付記8]
前記金属電極が接続された領域のスラブ幅が、前記第1のシリコン半導体層の前記リブ導波路中での幅より大きい、付記5または6に記載の電気光学装置。
【0060】
[付記9]
前記金属電極が接続された領域のスラブ厚が70nm以上である、付記5に記載の電気光学装置。
【0061】
[付記10]
前記実効屈折率が変化しない距離が、波長の1/3以上2/3以下である、付記5に記載の電気光学装置。
【0062】
上述した実施形態及び機能性に対し、それらの利点のいくつか及び全てを達成しつつ、他の変形及び改善をなすことができることが明らかであろう。添付の特許請求の範囲の目的は、本発明の真の精神及び範囲内にある限り、そのような全ての変形及び改善の範囲を包含することにある。
【符号の説明】
【0063】
20 n++ドープシリコン層
21 nドープシリコン層
22 p++ドープシリコン層
23 pドープシリコン層
24 シリコン基板
25,35 酸化物層
26 多結晶シリコン層
27,28 電極
29 誘電体層
30 n+ドープシリコン層
32 p+ドープシリコン層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7