(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0011】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る有機EL照明装置1は、多色に発光することができる照明装置であり、
図1に示すように、陰極電極10と、電子注入層20と、電子輸送層30と、正孔ブロック層40と、発光層50と、正孔輸送層60と、正孔注入層70と、陽極電極80と、ガラス基板90と、拡散板100と、が積層された構成を有する。
【0012】
陰極電極10は、例えばアルミニウムや銀などの電気抵抗率が小さく、反射率の高い金属材料を一様の厚さに成膜して形成された薄膜電極から構成される。陰極電極10は、
図2(a)に示すように、1枚薄膜から構成される。陰極電極10は、発光層50へ電子を注入する電極として機能する。
【0013】
電子注入層20は、陰極電極10上に、リチウムやセシウム等のアルカリ金属、若しくは、カルシウム等のアルカリ土類金属のフッ化物や酸化物等から形成される。また、電子注入層20は、電子輸送性の有機化合物とドーパントであるリチウムキノリン等のキノリノール系のアルカリ金属錯体やLi等の電子供与性の金属から形成されることもできる。電子注入層20は、陰極電極10から発光層50への電子注入効率を高める層として機能する。
【0014】
電子輸送層30は、電子注入層20上に、電子輸送性の有機化合物から形成されている。電子輸送性の有機化合物としては、例えば、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(Bu−PBD)、1,3−ビス(p−t−ブチルフェニル−1,3,4−オキサジアゾールイル)フェニル(OXD−7)等のオキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、トリス(8−キノリノール)アルミニウム錯体(Alq3)等のキノリノール系の配位子をもつ金属錯体、2−ヒドロキシフェニルベンゾチアゾール、2−ヒドロキシフェニルベンゾオキサゾールなどを配位子とする亜鉛錯体等、が使用できる。電子輸送層30は、陰極電極10から電子注入層20を介して注入された電子を発光層50へ輸送する。
【0015】
正孔ブロック層40は、電子輸送層30上に、2,9‐ジメチル‐4,7‐ジフェニル‐1,10‐フェナントロリン(BCP)、トリフェニルジアミン誘導体、トリアゾール誘導体等から形成される。正孔ブロック層40は、発光に寄与しないで発光層50を通過する正孔をブロックする層として機能し、発光層50内での再結合の確率を高める。
【0016】
発光層50は、
図1及び
図2(b)に示すように、繰り返し配置されたR(赤色)発光層51R、G(緑色)発光層51G及びB(青色)発光層51B、から構成される三原色の独立発光層である。発光層50には、陰極電極10から電子が注入され、陽極電極80から正孔が注入される。発光層50に注入された正孔と電子とが再結合し、再結合に伴って生成される励起子が励起状態から基底状態へ遷移することで発光現象が生じる。
【0017】
発光層50は、Alq3(緑色)、ビスジフェニルビニルビフェニル(BDPVBi)(青色)、OXD−7(青〜緑色)、N,N'−ビス(2,5−ジ−t−ブチルフェニル)ペリレンテトラカルボン酸ジイミド(BPPC)(赤色)等から形成される。
また、発光層50は、ホストとドーパントの二成分系からなるものであってもよい。この場合、ホスト化合物としては、上記発光材料や後述する正孔輸送材料、電子輸送材料を用いることができる。より具体的には、発光層50は、Alq3等のキノリノール金属錯体に4−ジシアノメチレン−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)、4−(ジシアノ メチレン)−2−t−ブチル−6−(1,1,7,7−テトラメチルユロリジル−9−エニル) −4H−ピラン(DCJTB)等のピラン系誘導体(前記2つは赤色)、2,3−キナクリドン等のキナクリドン誘導体や、3−(2'−ベンゾチアゾール)−7−ジエチルアミノクマリン等のクマリン誘導体をドープしたもの(前記2つは緑色);電子輸送材料のビス(2−メチル−8−ヒドロキシキノリン)−4−フェニルフェノール−アルミニウム錯体に、ペリレン等の縮合多環芳香族をドープしたもの(青色);あるいは正孔輸送材料の4,4'−ビス(m−トリルフェニルアミノ)ビフェニル(TPD)にルブレン等をドープしたもの(黄色);4,4’−ビスカルバゾリルビフェニル(CBP)、4,4´−ビス(9−カルバゾリル)−2,2’−ジメチルビフェニル(CDBP)等のカルバゾール系化合物に、トリス−(2フェリニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy)3)(緑色)、ビス(4,6-ジ-フルオロフェニル)-ピリジネート−N,C2) イリジウム(ピコリネート)(FIr(pic))(青色)、ビス(2−2’−ベンゾチエニル)−ピリジネート−N,C3イリジウム(アセチルアセトネート)(Btp2Ir(acac))(赤色)、トリス−(ピコリネート)イリジウム(Ir(pic)3)(赤色)、ビス(2−フェニルベンゾチオゾラト−N,C2)イリジウム(アセチルアセトネート)(Bt2Ir(acac))(黄色)等のイリジウム錯体や白金錯体をドープしたもの;等から形成される。
【0018】
なお、以下の説明において、赤色発光層51R、緑色発光層51G、青色発光層51Bを総称して単色発光層51とする。また、
図1では、6つの単色発光層51を図示しているが、本実施形態に係る有機EL照明装置1はこれに限られず、色数(本実施形態では3)×N個の単色発光層51を配置することができる。さらに、各単色発光層51の配色順序はこれに限られず、配色数もこれに限られない。
【0019】
なお、本明細書においては、以下のようにXYZ直交座標系を設定する。赤色発光層51R、緑色発光層51G、青色発光層51Bが繰り返し配列されている方向をX方向とし、赤色発光層51R、緑色発光層51G、青色発光層51Bが延伸する方向をY方向とし、陽極電極80から陰極電極10に向かう方向をZ方向とする。
【0020】
また、単色発光層51の間は発光しない非発光部である。SiOxなどの無機酸化物やSiNxなどの無機窒化物、またはフォトレジスト等の絶縁性材料を用いて、各単色発光層51の間となる部分のガラス基板90上、または陽極電極80間に層間絶縁膜を形成し、発光層50を各色に分離することができる。これにより、シャドーマスクのアライメントズレ等による混色や短絡を防ぐことができる。また、このとき、正孔輸送層60、正孔注入層70も同様に分離される。
【0021】
陽極電極80は、ガラス基板90の上に形成され、金属酸化物等の光透過性導電性材料、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)等から構成されている。陽極電極80は、
図1及び
図2(c)に示すように、各単色発光層51に対向してストライプ状に形成され、複数個配置されている。陽極電極80は、発光層50に正孔を注入し、また、発光層50で発せられた光を透過する機能を備える。
【0022】
正孔注入層70は、陽極電極80上に形成され、銅フタロシアニン(Cu-Pc)や4,4’,4“−トリス〔3−メチルフェニル(フェニル)アミノ〕トリフェニルアミン(m−MTDATA)、4,4’,4“−トリス〔2−ナフチル(フェニル)アミノ〕トリフェニルアミン(2−TNATA)、4,4',4''−トリス(N−カルバゾリル)−トリフェニルアミン(TCTA)などのスターバースト型芳香族アミンのようなアリールアミン誘導体等から構成される。正孔注入層70は、正孔輸送性の有機化合物とドーパントである電子受容性の化合物から構成されてもよい。正孔注入層70は、陽極電極80からの正孔の注入効率を高める機能を備える。
【0023】
正孔輸送層60は、発光層50と正孔注入層70との間に形成され、ビス(ジ(p−トリル)アミノフェニル)−1,1−シクロヘキサン、N,N’−ジフェニル−N−N−ビス(1−ナフチル)−1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(α−NPD)、TPD等のトリフェニルジアミン類や、スターバースト型芳香族アミン等、正孔輸送性の有機化合物から構成されている。正孔輸送層60は、陽極電極80から正孔注入層70を介して注入された正孔を発光層50へ輸送する。
【0024】
ガラス基板90は、無アルカリガラスから構成される透光性の基板である。ガラス基板90上に陰極電極10と、電子注入層20と、電子輸送層30と、正孔ブロック層40と、発光層50と、正孔輸送層60と、正孔注入層70と、陽極電極80と、が積層される。ガラス基板90はこれらを支持すると共に、発光層50からの光を出射する機能を備える。
【0025】
拡散板100は、ガラス基板90の光出射側の面上に配置され、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、フッ素樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリルあるいはポリアリレート類樹脂等、薄い透過性樹脂フィルムや表面が微細加工されたガラス等から構成されている。拡散板100は、発光層50から出射された光を拡散させ、均一な面状の光に変換する。
【0026】
本実施形態では、陰極電極10は
図1及び
図2(a)〜(c)に示すように、全単色発光層51に対向する共通電極として配置されている。一方、陽極電極80は、各単色発光層51と対となるようにそれぞれ独立して配置されている。
【0027】
陰極電極10と陽極電極80との間に直流電圧が印加されると、電子と正孔が発光層50に注入され、それぞれの単色発光層51に注入された電子と正孔が再結合することにより発光する。
【0028】
続いて、上記構成を有する有機EL照明装置1の回路構成について
図3を参照して説明する。
【0029】
制御部110は、駆動回路200に接続されている。制御部110は、発光部300に、所望の色の光を発光させるように、赤の発光層51R、緑の発光層51G、青の発光層51Bに供給する電流を指定する制御信号を駆動回路200へ出力する。各単色発光層51に流す電流の値は、例えば、有機EL照明装置1の製造後、個々に或いはロット単位でテストを行って求められる。
【0030】
例えば、赤の発光層51Rの発光強度、緑の発光層51Gの発光強度、青の発光層51Bの発光強度をバランス良く調整すれば、これらの混色により白色の照明光を得ることができる。また、例えば、赤の発光層51Rの発光強度を相対的に強くすれば,赤みがかった照明光を得ることができる。
【0031】
整流・平滑回路500は、商用電源600に接続され、商用電源600から供給された電流を整流及び平滑し、平滑した直流電圧をコンバータ400に供給する。
【0032】
コンバータ400は、DC−DCコンバータ等から構成され、整流・平滑回路500に接続されており、整流・平滑回路500から供給された直流電圧から、発光部300の駆動に使用する複数の直流電圧を生成し、駆動回路200に供給する。
【0033】
駆動回路200は、コンバータ400から受信した直流電圧を用いて、発光部300の各単色発光層51に制御部110から受信した制御信号により指定された定電流を流す。駆動回路200の動作の詳細は後述する。
【0034】
発光部300は、前述の陰極電極10、電子注入層20、…、陽極電極80から構成され、駆動回路200に接続されている。発光部300は、駆動回路200から所定の電流が供給されると発光する。
【0035】
続いて、上記構成を有する有機EL照明装置1について説明する。
【0036】
有機EL照明装置1が商用電源600に接続され、且つ、電源がオンされると、制御部110は、設定に従って、赤、緑、青の各単色発光層50に流す定電流を示す制御信号を駆動回路200に供給する。
一方、整流・平滑回路500は、商用電源600から供給される交流電圧を整流し、平滑化して、コンバータ400に供給する。コンバータ400は、供給された電圧から、発光部300の駆動に使用する電圧を生成し、駆動回路200に供給する。
駆動回路200は、制御部110から供給された制御信号に従って、コンバータ400から供給された電圧を使用して、発光部300を駆動する。
【0037】
駆動回路200の駆動動作を
図4(a)〜(c)を参照して説明する。
まず、駆動回路200は、陰極電極10に基準電位Vcomを印加する。続いて、各陽極電極80に、基準電位Vcomよりも低い、共通電位VOを所定時間Tsだけ印加する。続いて、駆動回路200は、陰極電極10に印加している基準電位Vcomを維持したまま、各陽極電極80に印加する電圧を、単色発光素子51R、51G、51Bのそれぞれに制御部110から指示された定電流を流すために必要な電圧に設定する。
図4の例では、駆動回路200は、赤の発光層51Rに対応する陽極電極80に電圧VpBを印加し、緑の発光層51Gに対応する陽極電極80に電圧VpGを印加し、青の発光層51Bに対応する陽極電極80に電圧VpBを印加し、これにより、各単色発光層51に、定電流を流し、各単色発光層51を発光させる。
各単色発光層51で発光された光の一部は、正孔輸送層60、正孔注入層70、陽極電極80,ガラス基板90を介して、拡散板100に到達する。また、各単色発光層51で発光された光の他の一部は、陰極電極10で反射された後、正孔輸送層60,正孔注入層70,陽極電極80,ガラス基板90を介して、拡散板100に到達する。
【0038】
拡散板100は、入射した赤,緑、青の光を拡散することにより混色して、出射する。これにより、拡散板100からは、所望の色の平面光が出射される。
その後、有機EL照明装置の電源がオフされると、駆動回路200は、逆バイアス電圧を各単色発光層51に一定時間印加した後、駆動を停止する。
【0039】
以上説明した有機EL照明装置では、陰極電極10が複数の単色発光層51に共通であり、制御対象の電極の数は、単色発光層51の数をNとすれば、電極の数は、N+1個で済む。従って、駆動回路200の構成及び動作、駆動回路200と発光層300と配線等が簡単であり製造が容易である。
【0040】
また、製造ばらつき、経年劣化などにより、単色発光層51の発光光量が設計値からずれた場合でも、制御部110が出力する制御信号を調整することにより、各色の単色発光層51に流す定電流を調整して、所望の発光光量を得ることができる。ひいては、有機EL発光照明装置1の出力光の色(温度色)を適当に調整することが可能となる。
【0041】
また、駆動回路200は、
図4(a)〜(c)に示すように、起動時及び電源切断時等に、陽極電極80の電位VOを基準電位Vcomに対して負の電位として、各単色発光層51に逆バイアスをかける。この逆バイアス電圧は、有機EL照明パネルの絶縁破壊電位以下、例えば0〜−5V、となるように設定される。有機材料のキャリア伝導性は、分子の酸化と還元を繰り返すことで実現されている。このため、一方極性の電圧の継続的な印加は材料の劣化を促進し、有機ELの輝度劣化や電圧上昇の原因となる。本実施形態に係る有機EL照明装置1は、逆バイアスを印加することで、電荷の蓄積による材料の劣化を抑制し、その寿命を向上することができる。
【0042】
上記構成を有する有機EL照明装置を製造し、その特性を測定した。
まず、ガラス基板90上に、スパッタ法によりITO薄膜を成膜した。次に、ITO薄膜を色発光領域の形状に、フォトエッチング法およびフォトリソグラフィ法を用いてパターニングし、陽極電極80を形成した。
次に、陽極電極80上に、Cu−Pcを真空蒸着法により堆積して正孔注入層70を形成した。さらに、正孔注入層70上に、α−NPDを真空蒸着法により一様な厚さに堆積して正孔輸送層60を形成した。
【0043】
次に、正孔輸送層60上にストライプ状のCBP膜を形成した。さらに、CBP層にIr(ppy)3を拡散して緑色発光層51Gを形成し、CBP層にBtp2Ir(acac)を拡散して赤色発光層51Rを形成し、さらにCBP層にFIr(pic)を拡散して青色発光層51Bを形成することにより、発光層50を形成した。この際、真空蒸着法等により、シャドーマスクを形成し、発光層50を各色に分離した。
【0044】
次に、発光層50上に、BCPを堆積して正孔ブロック層40を形成した。さらに、正孔ブロック40の上に、Alq3を堆積して、一様な厚さの電子輸送層30を形成した。さらに、電子輸送層30上にLiFを堆積して、電子注入層20を形成した。
さらに、Alを一様な厚さに成膜することにより、陰極電極10を形成した。
こうして、有機EL照明パネルを作製した。
【0045】
この有機EL照明パネルの、赤色発光部に駆動電流として27A/m
2、緑色発光部に25A/m
2、青色発光部に23A/m
2を流した。このとき、駆動電圧(陽極電極80と共通の陰極電極10との間の電圧)はそれぞれ2.7V、2.6V、4.1V、有機EL照明パネルの電力効率は、31 lm/W、色温度は2800Kであった。また、この照明パネルのパネル面内の輝度ムラは、最大輝度と最小輝度の差で6%以下であった。
【0046】
従来の有機EL照明装置2の照明パネル(以下、比較例1という)の素子構造の例を
図16に示す。この比較例の陰極電極10は単色発光層51毎に配置されている。この比較例に、上記と同じ色温度を設定したところ、配線抵抗の上昇等より駆動電圧が上昇し、電力効率は24 lm/Wとなり、上述の方法で作成した有機EL照明装置1の照明パネルの電力効率より低下した。上述の方法で作成した有機EL照明装置1の照明パネルと比較例の電力効率の差には、正確な切り分けは難しいところもあるが、陰極面積による反射率の差も含まれている。また、比較例1では、19%の面内輝度ムラが認められた。また、比較例1は、それぞれの発光層に陰極電極を備えるため駆動回路も複雑となり30%の原価上昇、コストアップとなった。
【0047】
さらに、
図17に示すようにひとつの有機EL素子の層内に赤、緑および青色発光層を重ね合わせて形成された白色素子とした他の有機EL照明装置3の照明パネル(以下、比較例2という)と有機EL照明装置1の輝度寿命を比較した。ここでは、輝度寿命として、初期輝度1000nitに対し、その輝度が70%となる時間を比較した。その結果、比較例2の輝度寿命は、有機EL照明装置1の照明パネルの輝度寿命に対し35%短かった。また、比較例2は、赤、緑および青色の輝度低下速度がそれぞれ異なり、且つ比較例2ではその補正ができないため、初期と寿命到達時の色ズレ・色度差が、有機EL照明装置1の照明パネルに対しΔxyで5倍以上大きいことが認められた。一般的に、青色の輝度劣化が他色に対し早く、白色照明としたときに、駆動と共に色温度の低い方向へずれて行くが、有機EL照明装置1は各発光色の輝度を独立して調整することができるため、青色発光層51Bの輝度を調整することにより、色ズレを最低限に留めることができる。
【0048】
なお、上記実施の形態では、単色発光層51に定電流を流す前及び後に、単色発光層51に逆バイアスを印加したが、逆バイアスを印加する必要はない。この場合、駆動回路200は、例えば、
図5に示すように、各陽極電極80に基準電圧Vcomと定電流を流すための電圧Vpを印加する。
【0049】
また、
図4、
図5の例では、有機EL照明装置1の電源オンから電源オフまで、各単色発光層51に連続して定電流を流す例を示した。この発明はこれに限定されず、各単色発光層51に定電流を断続的に流すようにしてもよい。この場合、例えば、
図6(a)、(b)に示すように、陽極電極80に印加する電圧を断続的にオン・オフすることにより、各単色発光層51に流す実効電流を調整することができる。実効電流は、印加電圧とデューティにより定まる。デューティは、単色発光層51毎に異なってもよく、同一でもよい。
【0050】
さらに、デューティを調整できるようにしてもよい。即ち、各陽極電極80に印加する電圧VpをPWM(Pulse Width Modulation、パルス幅変調)するようにしてもよい。この場合、例えば、制御部110は明るさを調整するための操作つまみなどを備える。制御部110は、操作つまみの操作に従って、各単色発光層51に流す定電流のデューティを調整し、制御信号により駆動回路200に指示する。駆動回路200は、
図7(a)〜(c)に示すように、制御信号の指示に従って、各陽極電極80に印加する電圧Vp0のデューティTon/Tpを調整する。制御部110は、発光部300の発光量を大きくする場合には、デューティTon/Tpを大きく、発光量を小さくする場合には、デューティTon/Tpを小さく制御する。なお、赤、緑、青の各単色発光層51に流す電流のデューティは同一でも異なっていてもよい。
【0051】
図7(a)〜(c)には、単色発光層51に印加する電圧及び流す電流をPWM制御する例を示したが、各単色発光層51に流す電流をPAM(Pulse Amplitude Modulation、パルス振幅変調)制御してもよい。この場合、制御部110は、操作つまみにより指示された明るさを得るための電流を駆動回路200に指示する。駆動回路200は、各単色発光層51に制御信号により指示された定電流を流すように、、
図8(a)〜(c)に例示するように、各陽極電極80に印加する電圧VpB,VpR,VpGを調整する。
【0052】
このように駆動することで、有機EL照明装置1を所望の輝度、色温度となるように点灯することができる。なお、上述の動作は、有機EL照明装置1が白色に点灯する場合の動作であるが、これに限られず、有機EL照明装置1は多色に点灯することができる。
【0053】
以上説明したように、本実施形態に係る有機EL照明装置1によれば、陰極電極10を各単色発光層51の共通電極として使用する。したがって、それぞれの発光層に陰極電極を備える場合と異なり、点灯、駆動時の制御用ドライバを削減することができ、駆動方法を簡略化できる。
【0054】
また、各単色発光層51間の非発光部も含めて陰極電極10を金属薄膜で成膜することができるため、配線抵抗を低減でき、駆動電圧の低電圧化となり結果として省電力化につながる。また、一様成膜することで、陰極電極10の有機EL発光の反射率を向上できる。さらに、上述したように輝度ムラを低減できる。
【0055】
また、各単色発光層51を独立して駆動するため、各単色発光層51の色温度、輝度等をそれぞれ補正することができ、輝度劣化速度が異なる単色発光層を組み合わせた場合でも、パネルの輝度寿命を長くすることができる。
【0056】
[第2実施形態]
第1実施形態では、複数の発光層に対する陰極を共通電極とする構成を備える有機EL照明装置を説明した。この発明はこれに限定されない。陽極を共通電極とすることも可能である。以下、複数の発光層に共通の陽極を備える有機EL照明装置1’を、
図9を参照して説明する。
【0057】
第2の実施形態では、
図9に示すように、陽極電極80は、全単色発光層51に対向する共通電極として配置されている。一方、陰極電極10は各単色発光層51と対となるようにそれぞれ独立して配置されている。有機EL照明装置1’のその他の基本構成は、第1実施形態に係る有機EL照明装置1と同様である。
【0058】
有機EL照明装置1’の回路構成を
図10に示す。
【0059】
図10の回路において、駆動回路200は、制御部110から受信した制御信号を基に、各単色発光層51が制御信号に従った所望の輝度、色温度となるように、陰極電極10と陽極電極80の間に定電流を供給する。
【0060】
駆動回路200が陰極電圧10及び陽極電圧80に印加する電圧の例を
図11(a)〜(c)に示す。駆動回路200は、陽極電極80に基準電位Vcomを印加し、各陰極電極10に基準電位Vcomよりも高い共通電位VOを所定時間Tsだけ印加する。続いて、駆動回路200は、陽極電極80に印加している基準電位Vcomを維持したまま、各陰極電極10に印加する電圧を、制御部110から指示された定電流を発光素子51R,51G,51Bに流すため必要な電圧に設定する。このように、駆動回路200は、電荷の蓄積による材料の劣化を抑制すべく、陰極電極10の電位に逆バイアスをかける。逆バイアスとなる正電位は、例えば0〜5Vの有機EL照明パネルの絶縁破壊電位以下となるように設定する。
【0061】
駆動回路200は、必ずしも単色発光層51に逆バイアスをかける必要はない。この場合の、駆動波形の一例を
図12に示す。
【0062】
駆動回路200は、定電流を断続的に流すようにしてもよい。この場合、例えば、
図13(a)、(b)に示すように、定電流を断続的に流すようにしてもよい。
【0063】
駆動回路200は、制御部110から受信した制御信号を基に、例えば、
図14に示すようにPWM制御、あるいは、
図15に示すようにPAM制御によって、各単色発光層51に供給する実効電流を制御し、その発光光量を制御してもよい。
【0064】
このように駆動することで、有機EL照明装置1’を所望の輝度、色温度となるように点灯することができる。なお、上述の動作は、有機EL照明装置1’が白色に点灯する場合の動作であるが、これに限られず、有機EL照明装置1’は多色に点灯することができる。
【0065】
上記構成を有する有機EL照明装置1’を製造し、その特性を測定した。
まず、ガラス基板上に、スパッタ法によりITO薄膜を一様な厚さに成膜し、陽極電極80を形成した。さらに、陽極電極80上に、Cu−Pcを真空蒸着法により堆積して正孔注入層70を形成した。さらに、正孔注入層70上に、α−NPDを真空蒸着法により堆積して正孔輸送層60を形成した。
【0066】
次に、正孔輸送層60上にCBP膜を形成した。さらに、CBP層にIr(ppy)3をストライプ上に拡散して緑色発光層51Gを形成し、CBP層にBtp2Ir(acac)をストライプ上に拡散して赤色発光層51Rを形成し、さらにCBP層にFIr(pic)をストライプ上に拡散して青色発光層51Bを形成することにより、発光層50を形成した。この際、真空蒸着等により、シャドーマスクを形成し、発光層50を各色に分離した。
【0067】
次に、発光層50上に、CPを堆積して正孔ブロック層40を形成した。さらに、正孔ブロック40の上に、Alq3を堆積して、一様な厚さの電子輸送層30を形成した。さらに、電子輸送層30上にLiFを堆積して、電子注入層20を形成した。
さらに、Alを一様な厚さに成膜することにより、陰極電極10を形成した。
こうして、照明パネルを作製した。
【0068】
この有機EL照明装置1’の照明パネルの赤色発光部に駆動電流として27A/m
2、緑色発光部に25A/m
2、青色発光部に23A/m
2を流した。このとき、駆動電圧はそれぞれ2.6V、2.5V、3.9V、電力効率は、32.4 lm/W、色温度は2800Kであった。また、この照明パネル面内の輝度ムラは、最大輝度と最小輝度の差で3.5%以下であった。
【0069】
ここで、上述の照明パネルの特性と、第1実施形態で比較対象として使用した比較例1の特性とを比較する。
比較例1は、従来の有機EL照明装置2の照明パネルである。その素子構造の例を
図16に示す。この比較例1の陽極電極80は単色発光層51毎に配置されている。
この比較例1の色温度を、上記と同じ色温度を設定したところ、配線抵抗の上昇等より駆動電圧が上昇し、電力効率は24 lm/Wとなり、上述の方法で作成した有機EL照明装置1’のパネルの電力効率より低下した。有機EL照明装置1’の照明パネルは、陽極電極80を一様成膜することで、電極を一様成膜していない場合と比べ、配線抵抗を低減することができる。従って、電力効率が上がる。さらに、体積抵抗率が高いとされるITOの透明電極のシート抵抗を低減することができるため、その効果は大きい。シート抵抗の低減によって、電界の低下も抑えられキャリアの注入効率が向上する。また、比較例1の面内輝度ムラは20%であり、本実施形態に係る有機EL照明装置1’の照明パネルの輝度ムラの方が低い。さらに、金属などの補助電極を用いなくてもよくなるため、コストダウンに繋げることができる。
【0070】
また、駆動時の制御用ドライバを削減することで、駆動方法を簡略化できる。なお、従来の照明パネルでは、本実施形態に係る有機EL照明装置1’と比較して、駆動回路が複雑となり、30%のコストアップとなる。
【0071】
また、第1実施形態と同様に、各単色発光層51を独立して駆動するため、各単色発光層51の色温度、輝度等をそれぞれ補正することができ、輝度劣化速度が異なる単色発光層を組み合わせた場合でも、有機EL照明パネルの輝度寿命を長くすることができる。
【0072】
以上説明したように、第2実施形態に係る有機EL照明装置1’によれば、陽極電極80を各単色発光層51の共通電極として使用する。それぞれの発光層に陽極電極を備える場合と異なり、点灯、駆動時の制御用ドライバを削減することができ、駆動方法を簡略化できる。すなわち、第1実施形態に係る有機EL照明装置1と同様の効果を得ることができる。
【0073】
[変形例]
本発明は、上記実施形態に限定されず、種々の変形例及び応用が可能である。以下、本発明に適用可能な上記実施形態の変形例について説明する。
【0074】
上記実施形態では、発光層50に赤・緑・青の3色を用い、加法混色により白色を形成し照明としているが、これに限らず、2色を混色することにより白色を形成し照明としてもよい。例えば、発光層として青色と黄色を用いてもよい。黄色の発光層は、前記実施例中に示した、ルブレンドーパントのような単一発光材料を用いてもよく、また、赤色発光材料と緑色発光材料を同一発光層中にドーピングし、混色により形成してもよい。2色とすることにより、各発光色間の非発光部を少なく、その面積を小さくすることができるため、発光部面積(開口率)を広げることができ、同一駆動条件でみると、光束量が向上する。
【0075】
上記実施形態では、陰極電極10は、例えばアルミニウムの金属薄膜電極を一様な厚さに成膜した電極であるとして説明したが、これに限られず、光の反射性が悪い金属導電膜と反射性に優れた金属薄膜との2層構造であってもよい。
【0076】
上記実施形態では、ガラス基板90はガラスから構成される透光性の基板であるとして説明したが、これに限られず、プラスチックフィルムから構成される基板であってもよい。このような構成にすることで、有機EL照明パネルを多様に変形させることが可能となる。
【0077】
なお、上記実施形態及び図面の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下に限定されるわけではない。本発明の要旨を変更しない範囲で実施形態及び図面に変更を加えることができるのはもちろんである。
【0078】
(付記1)
注入された電荷の再結合により発光し、その発光色が異なる複数の発光層と、
前記複数の発光層のそれぞれと対に設けられた第1電極と、
前記複数の発光層に共通に設けられた第2電極と、
前記第1電極から注入された電荷を前記複数の発光層へと輸送する第1輸送層と、
前記第2電極から注入された電荷を前記複数の発光層へと輸送する第2輸送層と、
を備える、
ことを特徴とする有機EL照明装置。
【0079】
(付記2)
前記第1電極及び前記第2電極を介して前記複数の発光層に電流を供給する駆動回路をさらに備え、
前記駆動回路は、前記第1電極又は前記第2電極のいずれか一方の電位を基準電位とし、前記複数の発光層それぞれに定電流を供給し、
前記複数の発光層は、前記駆動回路から供給された定電流に基づいて発光する、
ことを特徴とする付記1に記載の有機EL照明装置。
【0080】
(付記3)
前記第1電極及び前記第2電極を介して前記複数の発光層に電流を供給する駆動回路をさらに備え、
前記駆動回路は、前記第1電極又は前記第2電極のいずれか一方の電位を基準電位とし、前記複数の発光層それぞれに定電流の矩形波を供給し、
前記複数の発光層は、前記駆動回路から供給された電流に基づいて発色する、
ことを特徴とする付記1に記載の有機EL照明装置。
【0081】
(付記4)
前記複数の発光層は、前記駆動回路がパルス幅変調により供給する定電流の矩形波に基づいて調光する、
ことを特徴とする付記3に記載の有機EL照明装置。
【0082】
(付記5)
前記複数の発光層は、前記駆動回路がパルス振幅変調により供給する定電流の矩形波に基づいて調光する、
ことを特徴とする付記3に記載の有機EL照明装置。
【0083】
(付記6)
前記複数の発光層は、それぞれ所定の間隔で配置されており、
前記複数の発光層と、それぞれの発光層の間の発光しない領域と、金属薄膜で一様な厚さで成膜されている、
ことを特徴とする付記1乃至5のいずれか1つに記載の有機EL照明装置。
【0084】
(付記7)
前記複数の発光層に、絶縁破壊電圧以下の逆バイアス電圧が印加される
ことを特徴とする付記1又は6に記載の有機EL照明装置。
【0085】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。つまり、本発明の範囲は、実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【0086】
本発明は、2011年9月26日に出願された日本国特許出願2011−210006号に基づく。本明細書中に日本国特許出願2011−210006号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。