特許第5773503号(P5773503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5773503
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】抗がん作用を有するマクロライド化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 493/18 20060101AFI20150813BHJP
   A61K 31/365 20060101ALI20150813BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20150813BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150813BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   C07D493/18CSP
   A61K31/365
   A61P35/02
   A61P43/00 105
   A61P35/00
【請求項の数】10
【全頁数】47
(21)【出願番号】特願2012-549602(P2012-549602)
(86)(22)【出願日】2011年10月28日
(86)【国際出願番号】JP2011006057
(87)【国際公開番号】WO2012086114
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2014年7月29日
(31)【優先権主張番号】特願2010-286945(P2010-286945)
(32)【優先日】2010年12月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100105991
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 玲子
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100114465
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100156915
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 奈月
(72)【発明者】
【氏名】不破 春彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 誠
(72)【発明者】
【氏名】久保 裕司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆哉
【審査官】 三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】 COOK,C. et al,Total Synthesis of (-)-Exiguolide,Organic Letters,2010年 2月,Vol.12, No.4,pp.744-747
【文献】 FUWA,H. et al,Total Synthesis of (-)-Exiguolide,Organic Letters,2010年 2月,Vol.12, No.3,pp.584-587
【文献】 KWON,M.S. et al,Total synthesis of (+)-exiguolide,Angewandte Chemie, International Edition,2008年,Vol.47, No.9,pp.1733-1735
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D493/00−497/22
A61K 31/33− 33/44
A61P 1/00− 43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)あるいは(II)で示される化合物又はその薬理学上許容される塩:
【化1】
式中、X1は、下記式で示され
【化2】
(但し、R2は、H、置換されていてもよいC1-C10アルキル、置換されていてもよいC2-C10アルケニル、置換されていてもよいアリール、又は-CH=CH-CH=CCH3CH2COOCH3である);
X2及びX3は、それぞれ独立して、H、-OH、- OC(O)CH3であり;
X4及びX5は、それぞれ独立して、H、置換されていてもよいC1-C5アルキル、置換されていてもよいC2-C5アルケニル、置換されていてもよいC2-C5アルキニルであり;
【化3】
式中、X1は、下記式で示され
【化4】
(但し、R2は、H、置換されていてもよいC1-C10アルキル、置換されていてもよいC2-C10アルケニル、置換されていてもよいアリール、又は-CH=CH-CH=CCH3CH2COOCH3である);
X2は、O, CHCOOCH3、又はCH2であり;
X3及びX4は、それぞれ独立して、H、置換されていてもよいC1-C5アルキル、置換されていてもよいC2-C5アルケニル、置換されていてもよいC2-C5アルキニルであり;
但し、式(II)の化合物において、X2がCHCOOCH3のとき、R2H又は-CH=CH-CH=CCH3CH2COOCH3ではない
【請求項2】
下記の化合物から選ばれる請求項1に記載の化合物又はその薬理学上許容される塩。
【化5】
【請求項3】
下記の化合物から選ばれる請求項1に記載の化合物又はその薬理学上許容される塩。
【化6】
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物又はその薬理学上許容される塩を含む、細胞増殖抑制剤。
【請求項5】
細胞ががん細胞である、請求項に記載の細胞増殖抑制剤。
【請求項6】
がんが膵臓がん、結腸がん、肝臓がん、脳腫瘍、肺がん、扁平上皮がん、膀胱がん、胃がん、膵臓がん、前立腺がん、腎臓がん、結腸直腸がん、乳がん、頭部がん、頸部がん、食道がん、婦人科がん、甲状腺がん、リンパ腫、慢性白血病、及び急性白血病からなる群から選ばれる、請求項に記載の細胞増殖抑制剤。
【請求項7】
がんが肺がんである、請求項に記載の細胞増殖抑制剤。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物又はその薬理学上許容される塩を含む、抗がん剤。
【請求項9】
がんが、膵臓がん、結腸がん、肝臓がん、脳腫瘍、肺がん、扁平上皮がん、膀胱がん、胃がん、膵臓がん、前立腺がん、腎臓がん、結腸直腸がん、乳がん、頭部がん、頸部がん、食道がん、婦人科がん、甲状腺がん、リンパ腫、慢性白血病、及び急性白血病からなる群から選ばれる、請求項に記載の抗がん剤。
【請求項10】
がんが肺がんである、請求項に記載の抗がん剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞増殖抑制作用を有する新規なマクロライド化合物に関する。より詳しくは、細胞増殖抑制作用を有する新規マクロライド化合物又はその薬理学上許容される塩を有効成分とする、抗がん剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エグジグオリド(Exiguolide)は、海綿から得られる大環状ラクトンの1つで、バフンウニの卵子・精子の成熟抑制作用を有することが知られている(非特許文献1)。エグジグオリドはブリオスタチン類と類似した部分構造を有する20員環マクロライド構造を有する。エグジグオリドの化学合成については、(+)エグジグオリドは2008年にソウル大学のグループにより(非特許文献2)、(−)エグジグオリドは2010年に発明者らにより(非特許文献3)いずれもその全合成が発表されている。
【0003】
天然には様々なマクロライド化合物が存在し、抗細菌薬、抗真菌薬あるいは免疫抑制薬など様々な生理活性を有するものが知られている。なかでも特に有用なのはマクロライド系抗生物質であり、放線菌より発見されたエリスロマイシンや、そのアナログであるクラリスロマイシン等が知られている。
【0004】
一方、マクロライド化合物のなかには、細胞毒性や免疫活性を通じて抗がん作用を有するものも多く知られており(特許文献1〜7)、その1つにブリオスタチン類(bryostatins)がある。ブリオスタチン類は、海洋生物から得られる天然のマクロライド化合物で、20種類以上の類縁体が知られている。現在、ブリオスタチン類については、白血病やアルツハイマー型認知症などを対象として多くの臨床試験が行われており、他の抗がん剤との併用効果や多剤耐性克服効果が期待されている。エグジグオリドは、構造的にみると、このブリオスタチン類の簡略化された類縁体とみることもでき(非特許文献4)、様々な生理活性が期待される。しかしながら、これまでエグジグオリドについて、その細胞増殖抑制活性や抗がん活性等の生理活性は実証されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平4−352783
【特許文献2】特表平7−504913
【特許文献3】特表平7−504914
【特許文献4】特表平9−505596
【特許文献5】WO2007/004621
【特許文献6】特開2004−210648
【特許文献7】特表2007−512256
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ohta S. et al., Tetrahedron Letters 47(12), 2006, p1957-1960
【非特許文献2】Kwon et al., Angewandte Chemie International Edition, 47(9), 2008, p1733−1735
【非特許文献3】Fuwa H. et al., Organic Letters, 12(3), 2010, p584-587
【非特許文献4】Cossy J., Comptes Rendus Chimie, 11(11-12), 2008, p1477-1482
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、細胞増殖抑制が期待される新規なマクロライド化合物と、これを利用したがんを治療するための医薬組成物の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、(−)エグジグオリドの抗がん活性を39系のヒト培養がん細胞パネルを用いた薬剤感受性試験により検定し、各種がん細胞に対する増殖抑制の効果と特徴を解析した。さらに、(−)エグジグオリドの様々な類縁体(アナログ)を合成し、その細胞増殖抑制効果について検討した。
【0009】
その結果、(−)エグジグオリドやその類縁体は特定のがん細胞に対して有意な細胞増殖抑制効果を有し、その作用は構造において類似する公知のブリオスタチン類(ブリオスタチン1)に比較して顕著に高いことが見出された。さらに、その作用メカニズムや作用時期(細胞周期)は公知の抗がん剤とは異なる可能性があることが見出された。
【0010】
すなわち、本発明は、下記式(I)あるいは(II)で示される化合物又はその薬理学上許容される塩に関する。
【化1】
式中、X1は、下記式のいずれかであり
【化2】
(但し、R1は、H、アルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、-CONRi-、-NRiCO-、-C(O)-、-S-、-S(O)-、又は-S(O)2-であり、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立して、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、-CONRi-、-NRiCO-、-C(O)-、-S-、-S(O)-、又は-S(O)2-である);
X2及びX3は、それぞれ独立して、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、-O-、-OC(O)-、-CONRi-、-C(O)-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、-NRi-、又は-NRiCO-であり;
X4及びX5は、それぞれ独立して、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、又はヘテロシクリルであり;
A-Bは、CH2-CH2、CH=CH、CH2-O、又はO-CH2であり;
各Ri及びRiiは、それぞれ独立して、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、又はヘテロシクリルであり、
【化3】
式中、X1は、下記式のいずれかであり
【化4】
(但し、R1は、H、アルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、-CONRi-、-NRiCO-、-C(O)-、-S-、-S(O)-、又は-S(O)2-であり、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立して、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、-CONRi-、-NRiCO-、-C(O)-、-S-、-S(O)-、又は-S(O)2-である);
X2は、=O、=NC(O)-、=NS(O)2-、=CRi-、=CRiC(O)-、=CRiC(O)O-、=CRiC(O)NRii-、=CRiC(O)S-、=C(C(O)-)2、=C(C(O)O-)2、=C(C(O)Ri)(C(O)Rii)、又は=C(C(O)ORi)(C(O)ORii)であり;
X3及びX4は、それぞれ独立して、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、又はヘテロシクリルであり;
A-Bは、CH2-CH2、CH=CH、CH2-O、又はO-CH2であり;
各Ri及びRiiは、それぞれ独立して、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、又はヘテロシクリルである。
【0011】
本発明は、上記化合物又はその薬理学上許容される塩を含む、細胞増殖抑制剤も提供する。
作用対象となる細胞としては、がん細胞が挙げられる。
【0012】
本発明はまた、上記化合物又はその薬理学上許容される塩を含む、抗がん剤も提供する。
【0013】
本発明の抗がん剤や細胞増殖抑制剤の対象となるがんとしては、例えば、膵臓がん、結腸がん、肝臓がん、脳腫瘍、肺がん、扁平上皮がん、膀胱がん、胃がん、膵臓がん、前立腺がん、腎臓がん、結腸直腸がん、乳がん、頭部がん、頸部がん、食道がん、婦人科がん、甲状腺がん、リンパ腫、慢性白血病、及び急性白血病を挙げることができる。
【0014】
特に本発明の抗がん剤や細胞増殖抑制剤は、肺がんや肺がん細胞に対して有効であることが予想される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、新規な細胞増殖抑制活性を有するマクロライド化合物が提供される。本発明のマクロライド化合物は、特定のがん細胞に顕著な細胞増殖抑制効果を発揮し、正常細胞に対する作用は低い。また、従来公知の抗がん剤とは異なる作用機序を持っている可能性が高く、それゆえ、他の抗がん剤との併用効果や多剤耐性克服効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A図1Aは、(−)エグジグオリド(Exiguolide)とその類縁体(Analog 1-3)の構造を示す。
図1B図1Bは、(−)エグジグオリド(Exiguolide)の類縁体(Analog 4-8)の構造を示す。
図2図2は、ヒト培養がん細胞パネルを用いた(−)エグジグオリドに対する薬剤感受性試験結果(各パラメータ)を示す。
図3図3は、ヒト培養がん細胞パネルを用いた(−)エグジグオリドに対する薬剤感受性試験結果(細胞増殖率のDose-Response曲線)を示す。各グラフの縦軸は細胞増殖率(%)、横軸は薬物濃度(M)を示す。
図4図4は、ヒト培養がん細胞パネルを用いた(−)エグジグオリドに対する薬剤感受性試験結果(フィンガープリント:Finger Print)を示す。
図5A図5Aは、A549、H460、A172細胞株に対する(−)エグジグオリドとその類縁体(Analog)1−3の抗増殖活性を示す。各グラフの縦軸は細胞増殖率(%)、横軸は薬物濃度(M)を示す。
図5B図5Bは、A549、H460、A172細胞株に対するエグジグオリド類縁体(Analog)4−8の抗増殖活性を示す。各グラフの縦軸は細胞増殖率(%)、横軸は薬物濃度(M)を示す。
図6図6は、H460、A549、A172、HUVEC細胞株に対する(−)エグジグオリドとその類縁体(Analog)1−8の50%増殖抑制濃度(IC50)を示す。中央のグラフは各細胞株に対するIC50をエグジグオリドと類縁体1−8で比較したものである(各棒グラフは左からH460、A549、A172に対するIC50)。下のグラフは各細胞株に対するIC50をエグジグオリド、類縁体1、類縁体4で比較したものである(各棒グラフは左からエグジグオリド、類縁体1、類縁体4)。
図7図7は、エグジグオリドの細胞周期停止作用を検討した結果を示す。上:各細胞周期の割合を示すグラフ、下:G1期制御蛋白質Rbのリン酸化状態をウエスタンブロッティングで観察した結果。
図8図8は、ヒト肺癌細胞株H460により腫瘍形成した免疫不全マウスにおける、エグジグオリドのin vivo腫瘍縮小試験結果を示す。図中、縦軸(Relative volume)は、推定腫瘍体積のday0を1としたときの相対値を、横軸(day)は投与開始からの日数を示す。
図9図9は、ヒト肺癌細胞株A549により腫瘍形成した免疫不全マウスにおける、エグジグオリドのin vivo腫瘍縮小試験結果を示す。図中、縦軸(Relative volume)は、推定腫瘍体積のday0を1としたときの相対値を、横軸(day)は投与開始からの日数を示す。
【0017】
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2010−286945号の明細書に記載された内容を包含する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.定義
本明細書において「アルキル」とは、1〜10個、好ましくは1−5個の炭素原子を有する飽和の直鎖状(非分枝状)又は分枝状非環状炭化水素を意味する。代表的な飽和直鎖状(非分枝状)アルキルとしては、-メチル、-エチル、-n-プロピル、-n-ブチル、-n-ペンチル、-n-ヘキシル、-n-ヘプチル、-n-オクチル、-n-ノニル、及びn-デシルが挙げられ;一方、飽和分枝状アルキルとしては、-イソプロピル、-sec-ブチル、-イソブチル、-tert-ブチル、-イソペンチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、4-メチルペンチル、2-メチルヘキシル、3-メチルヘキシル、4-メチルヘキシル、5-メチルヘキシル、2,3-ジメチルブチル、2,3-ジメチルペンチル、2,4-ジメチルペンチル、2,3-ジメチルヘキシル、2,4-ジメチルヘキシル、2,5-ジメチルヘキシル、2,2-ジメチルペンチル、2,2-ジメチルヘキシル、3,3-ジメチルペンチル(dimtheylpentyl)、3,3-ジメチルヘキシル、4,4-ジメチルヘキシル、2-エチルペンチル、3-エチルペンチル、2-エチルヘキシル、3-エチルヘキシル、4-エチルヘキシル、2-メチル-2-エチルペンチル、2-メチル-3-エチルペンチル、2-メチル-4-エチルペンチル、2-メチル-2-エチルヘキシル、2-メチル-3-エチルヘキシル、2-メチル-4-エチルヘキシル、2,2-ジエチルペンチル、3,3-ジエチルヘキシル、2,2-ジエチルヘキシル、3,3-ジエチルヘキシルなどが挙げられる。
【0019】
本明細書において「アルケニル」とは、2〜10個、好ましくは1−5個の炭素原子を有しかつ少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含む直鎖状又は分枝状非環状炭化水素を意味する。代表的な直鎖状及び分枝状(C2〜C10)アルケニルとしては、-ビニル、-アリル、-1-ブテニル、-2-ブテニル、-イソブチレニル、-1-ペンテニル、-2-ペンテニル、-3-メチル-1-ブテニル、-2-メチル-2-ブテニル、-2,3-ジメチル-2-ブテニル、-1-ヘキセニル、-2-ヘキセニル、-3-ヘキセニル、-1-ヘプテニル、-2-ヘプテニル、-3-ヘプテニル、-1-オクテニル、-2-オクテニル、-3-オクテニル、-1-ノネニル、-2-ノネニル、-3-ノネニル、-1-デセニル、-2-デセニル、-3-デセニルが挙げられる。アルケニル基は、置換されていなくても置換されていてもよい。
【0020】
本明細書において「アルキニル」とは、2〜10個、好ましくは2−5個の炭素原子を有しかつ少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を含む直鎖状又は分枝状非環状炭化水素を意味する。代表的な直鎖状及び分枝状-(C2〜C10)アルキニルとしては、-アセチレニル、-プロピニル、-1-ブチニル、-2-ブチニル、-1-ペンチニル、-2-ペンチニル、-3-メチル-1-ブチニル、-4-ペンチニル、-1-ヘキシニル、-2-ヘキシニル、-5-ヘキシニル、-1-ヘプチニル、-2-ヘプチニル、-6-ヘプチニル、-1-オクチニル、-2-オクチニル、-7-オクチニル、-1-ノニニル、-2-ノニニル、-8-ノニニル、-1-デシニル、-2-デシニル、-9-デシニルなどが挙げられる。アルキニル基は、置換されていなくても置換されていてもよい。
【0021】
本明細書において「アリール」とは、5〜10個の環原子を含有する炭素環式芳香族基を意味する。代表例としては、フェニル、トリル、アントラセニル、フルオレニル、インデニル、アズレニル、ピリジニル、及びナフチル、さらには5,6,7,8-テトラヒドロナフチルをはじめとするベンゾ縮合炭素環部分が挙げられるが、これらに限定されるものではない。炭素環式芳香族基は、置換されていなくても置換されていてもよい。一実施形態では、炭素環式芳香族基は、フェニル基である。
【0022】
本明細書において「ヘテロアリール」とは、5〜10員であり、かつ窒素、酸素、及び硫黄から選択される少なくとも1個のヘテロ原子を有し、かつ少なくとも1個の炭素原子を含有する芳香族ヘテロ環を意味し、単環系及び二環系の両方が包含される。代表的なヘテロアリールは、トリアゾリル、テトラゾリル、オキサジアゾリル、ピリジル、フリル、ベンゾフラニル、チオフェニル、ベンゾチオフェニル、キノリニル、ピロリル、インドリル、オキサゾリル、ベンゾオキサゾリル、イミダゾリル、ベンゾイミダゾリル、チアゾリル、ベンゾチアゾリル、イソオキサゾリル、ピラゾリル、イソチアゾリル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、トリアジニル、シンノリニル、フタラジニル、キナゾリニル、ピリミジル、オキセタニル、アゼピニル、ピペラジニル、モルホリニル、ジオキサニル、チエタニル、及びオキサゾリルである。
【0023】
本明細書において「ヘテロシクリル」とは、飽和、不飽和のいずれかであり、かつ窒素、酸素、及び硫黄から独立して選択される1〜4個のヘテロ原子を含有し、しかも窒素及び硫黄ヘテロ原子が場合により酸化されていてもよく、かつ窒素ヘテロ原子が場合により四級化されていてもよい5〜7員単環式又は7〜10員二環式ヘテロ環を意味し、これらのヘテロシクリルのいずれかがベンゼン環に縮合されている二環が含まれる。ヘテロシクリルは、任意のヘテロ原子又は炭素原子を介して結合されうる。ヘテロシクリルには、先に定義したヘテロアリールが包含される。代表的なヘテロシクリルとしては、モルホリニル、ピロリジノニル、ピロリジニル、ピペリジニル、ヒダントイニル、バレロラクタミル、オキシラニル、オキセタニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロピリジニル、テトラヒドロピリミジニル(tetrahydroprimidinyl)、テトラヒドロチオフェニル、テトラヒドロチオピラニル、テトラヒドロピリミジニル、テトラヒドロチオフェニル、テトラヒドロチオピラニルなどが挙げられる。
【0024】
本明細書において「薬理学上許容される塩」とは、無機の酸及び塩基ならびに有機の酸及び塩基を含めて薬理学上許容される無毒の酸又は塩基から調製される塩を意味する。本発明の化合物に好適な薬理学上許容される塩基付加塩としては、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、及び亜鉛から作製される金属塩、又はリシン、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(n-メチルグルカミン)、及びプロカインから作製される有機塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好適な無毒の酸としては、無機及び有機の酸、たとえば、酢酸、アルギン酸、アントラニル酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、樟脳スルホン酸、クエン酸、エテンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、フロ酸、ガラクツロン酸、グルコン酸、グルクロン酸、グルタミン酸、グリコール酸、臭化水素酸、塩酸、イセチオン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムチン酸、硝酸、パモ酸、パントテン酸、フェニル酢酸、リン酸、プロピオン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、スルファニル酸、硫酸、酒石酸、及びp-トルエンスルホン酸が挙げられるが、これらに限定されるものではない。特定の無毒の酸としては、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸、及びメタンスルホン酸が挙げられる。したがって、特定の塩の例としては、塩酸塩及びメシル酸塩が挙げられる。他の塩は、当技術分野で周知であり、たとえば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th eds等に記載されている。
【0025】
本発明の化合物又はその薬理学上許容される塩は、溶媒和物、水和物、包接体、プロドラッグの形態であってもよい。
【0026】
ここで「溶媒和物」とは、非共有結合分子間力により結合された化学量論量又は非化学量論量の溶媒をさらに含む本発明の化合物又はその塩を意味する。好ましい溶媒は、揮発性、非毒性、かつ/又は極微量でヒトへの投与に適合性である。
【0027】
「水和物」とは、非共有結合分子間力により結合された化学量論量又は非化学量論量の水をさらに含む本発明の化合物又はその塩を意味する。
【0028】
「包接体」とは、内部にトラップされたゲスト分子(たとえば、溶媒又は水)を有する空間(たとえば、チャネル)を含む結晶格子の形態の本発明の化合物又はその塩を意味する。
【0029】
また「プロドラッグ」とは、生物学的条件下(in vitro又はin vivo)で加水分解、酸化、又はそれ以外の反応を起こして活性な化合物(とくに、本発明の化合物)を提供することのできる本発明の化合物を意味する。プロドラッグの例としては、生加水分解性アミド、生加水分解性エステル、生加水分解性カルバメート、生加水分解性カーボネート、生加水分解性ウレイド、及び生加水分解性ホスフェート類似体のような生加水分解性部分を含む本発明の化合物の代謝物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、カルボキシル官能基を有する化合物のプロドラッグは、カルボン酸の低級アルキルエステルである。カルボキシレートエステルは、分子上に存在するカルボン酸部分のいずれかをエステル化することにより都合よく形成される。プロドラッグは、典型的には、Burger's Medicinal Chemistry and Drug Discovery 6th ed.等に記載されているような周知の方法を用いて調製することができる。
【0030】
本明細書において「細胞増殖抑制剤」とは、細胞の増殖を抑制する薬物である。細胞の種類は限定されないが、後述する抗がん剤としての利用を考慮すると、正常細胞への作用は小さく、特定のがん細胞にのみ増殖阻害効果を示すことが好ましい。
【0031】
本明細書において「抗がん剤」とは、がんの治療、予防に使用される医薬組成物である。「治療」という用語には、原発性、局所性、又は転移性のがん組織を根絶、除去、改善、又は抑制すること;及びがんの進展を最小化又は遅延することが包含される。また「予防」という用語には、患者におけるがんの再発、進展、又は発生を予防することが包含される。
【0032】
2.本発明のマクロライド化合物
本発明にかかるマクロライド化合物は、(−)エグジグオリドとその類縁体で、がん細胞等の異常増殖を伴う細胞に対して、増殖抑制作用を発揮する。
【0033】
エグジグオリド(Exiguolide)は、前述のとおり、海綿から得られる大環状ラクトンの1つで、バフンウニの卵子・精子の成熟抑制作用を有することが知られている。エグジグオリドはブリオスタチン類と類似した部分構造を有する20員環マクロライド構造を有する。
【0034】
1つの実施形態において、本発明のマクロライド化合物は下記式(I)で示される。
【化5】
【0035】
式中、X1は、下記式のいずれかで示される。
【化6】
ここで、R1は、H、アルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、-CONRi-、-NRiCO-、-C(O)-、-S-、-S(O)-、又は-S(O)2-であり、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立して、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、-CONRi-、-NRiCO-、-C(O)-、-S-、-S(O)-、又は-S(O)2-である。
【0036】
X2及びX3は、それぞれ独立して、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、-O-、-OC(O)-、-CONRi-、-C(O)-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、-NRi-、又は-NRiCO-である。
【0037】
X4及びX5は、それぞれ独立して、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、又はヘテロシクリルである。
【0038】
A-Bは、CH2-CH2、CH=CH、CH2-O、又はO-CH2である。
【0039】
なお、各Ri及びRiiは、それぞれ独立して、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、又はヘテロシクリルである。
【0040】
別な実施形態において、本発明のマクロライド化合物は下記式(II)で示される。
【化7】
【0041】
式中、X1は、下記式のいずれかであり
【化8】
ここで、R1は、H、アルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、-CONRi-、-NRiCO-、-C(O)-、-S-、-S(O)-、又は-S(O)2-であり、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立して、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、-CONRi-、-NRiCO-、-C(O)-、-S-、-S(O)-、又は-S(O)2-である。
【0042】
X2は、=O、=NC(O)-、=NS(O)2-、=CRi-、=CRiC(O)-、=CRiC(O)O-、=CRiC(O)NRii-、=CRiC(O)S-、=C(C(O)-)2、=C(C(O)O-)2、=C(C(O)Ri)(C(O)Rii)、又は=C(C(O)ORi)(C(O)ORii)である。
【0043】
X3及びX4は、それぞれ独立して、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、又はヘテロシクリルである。
【0044】
A-Bは、CH2-CH2、CH=CH、CH2-O、又はO-CH2である。
【0045】
なお、各Ri及びRiiは、それぞれ独立して、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、又はヘテロシクリルである。
【0046】
図1に本発明のマクロライド化合物の一例として、類縁体(Analog)1−8を示した。さらに、本発明のマクロライド化合物の例としては、以下のものを示すことができる。
【0047】
【化9】
3.本発明のマクロライド化合物の合成
【0048】
本発明のマクロライド化合物は、例えば、発明者らによって確立された方法(Fuwa H. et al., Org. Lett., 12(3), 2010, p584-587:参考例)により(−)エグジグオリドを合成し、これをベースとして、当該分野で公知の方法により所望の置換基を導入して製造することができる。
【0049】
すなわち、(i)分子内共役付加環化反応と還元的エーテル化反応とにより二つのテトラヒドロピラン環を構築した後、(ii)マクロラクトン化あるいは閉環メタセシス反応により大員環ラクトン骨格を形成し、(iii)鈴木−宮浦反応により側鎖を導入することにより(−)エグジグオリドを合成することができる。
【0050】
ここで、上記(i)分子内共役付加環化反応と還元的エーテル化反応による、テトラヒドロピラン環の立体選択的構築は、後述する参考例のScheme 4の化合物10から化合物9および化合物9から化合物4への一連の変換工程に対応している。また、(ii)マクロラクトン化反応あるいは閉環メタセシス反応による、大員環ラクトン構造の構築は、参考例のScheme 6の化合物25から化合物22への変換工程およびScheme 5の化合物5から化合物22への変換工程に対応している。さらに、(iii)鈴木−宮浦反応による側鎖の立体選択的導入:Scheme 6の化合物3から化合物1への変換工程に対応している。
【0051】
4.細胞増殖抑制剤
細胞は、細胞周期にしたがって増殖する。細胞周期は、細胞分裂で生じた娘細胞が、再び母細胞となって再び細胞分裂を行い、新しい娘細胞になるまでの過程であり、G0期、G1期、S期、G2期、M期に分けることができる。G0期は細胞が積極的な増殖の準備をしていない休止期、G1期は細胞が増殖の準備を始める時期、S期はDNAの複製が行われる合成期、G2期はDNA合成から有糸分裂が起こるまでの細胞が成長し続ける時期、M期は分裂期である。様々な分子が協働して、細胞周期を進行させる。
【0052】
各薬剤が細胞周期のどの段階で作用するかは、その薬剤の細胞増殖作用に対する効果を決定する点で重要である。癌腫によっては細胞周期を促進する分子が異常に亢進していることがある。たとえば、G1期からS期への移行を促進する分子を特異的に抑制することが出来れば、異常に亢進した細胞周期を停止させ、細胞の増殖を抑制することができる。
【0053】
前述のとおり、本発明の「細胞増殖抑制剤」とは、細胞の増殖を抑制する薬物である。本発明のマクロライド化合物は、細胞周期を停止させることにより、細胞増殖を抑制する可能性がある。
【0054】
本発明の「細胞増殖抑制剤」は、式(I)あるいは(II)で示される化合物又はその薬理学上許容される塩の有効量を含む。
【0055】
ここで、「有効量」とは、目的とする細胞の増殖を抑制するのに十分な量を意味する。細胞増殖抑制剤が医薬として治療目的で利用される場合には、正常細胞に重大な作用を及ぼすことなく、目的とする細胞の増殖のみを抑制するのに十分な量を意味する。「有効量」には、in vitro又はin vivoのいずれかでリガーゼ活性をモジュレートする(たとえば、活性化又は阻害する、好ましくは阻害する)のに十分である本発明の化合物の量も包含される。
【0056】
標的細胞の好適な例はがん細胞である。がんは特に限定されず、膵臓がん、結腸がん、肝臓がん、脳腫瘍、肺がん、扁平上皮がん、膀胱がん、胃がん、膵臓がん、前立腺がん、腎臓がん、結腸直腸がん、乳がん、頭部がん、頸部がん、食道がん、婦人科がん、甲状腺がん、リンパ腫、慢性白血病、及び急性白血病を挙げることができる。
【0057】
本発明のマクロライド化合物は、特定のがん細胞に対してのみ顕著な細胞増殖抑制効果を示し、正常細胞には大きな作用を与えないことが確認されている。そのような特定のがん細胞は、例えば、肺がん細胞が挙げられる。
【0058】
本発明の細胞増殖抑制剤は、in vitroで用いてもin vivoで用いてもよい。in vivoで使用する場合、投与は経口、非経口投与のいずれであってもよい。特に好ましくは非経口投与による投与方法であり、係る投与方法としては具体的には、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。注射投与としては、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射が例示できる。投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択することができる。
【0059】
本発明の細胞増殖抑制剤の投与量は、その使用目的、投与経路等によって適宜決定される。in vitroでの細胞増殖の阻害には、その培養スケールによって適宜調整する。ヒトに投与する場合は、例えば、一回の投与につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で投与量が選択できる。あるいは、例えば、患者あたり0.001から100000mg/bodyの範囲で投与量が選択できる。しかしながら、本発明の細胞増殖抑制剤はこれらの投与量に制限されるものではない。
【0060】
本発明の細胞増殖抑制剤は、薬理学上許容される担体や添加物を含むものであってもよい。そのような担体や添加物としては、例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体が適宜使用できる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。
【0061】
5.抗がん剤
本発明は、式(I)あるいは(II)で示される化合物又はその薬理学上許容されるの治療的有効量を含む抗がん剤を提供する。
【0062】
ここで、「有効量」とは、原発性、局所性、又は転移性のがん細胞又はがん組織を、破壊、改善、抑制、又は除去;がんの進展を遅延又は最小化;あるいはがんの治療上の利点を提供するのに、十分である本発明の化合物量を意味する。また、「有効量」には、がん又は新生物細胞の死滅を引き起こすのに十分である本発明の化合物の量も包含される。また、「有効量」には、in vitro又はin vivoのいずれかでリガーゼ活性をモジュレートする(たとえば、活性化又は阻害する、好ましくは阻害する)のに十分である本発明の化合物の量も包含される。
【0063】
治療対象であるがんは特に限定されず、膵臓がん、結腸がん、肝臓がん、脳腫瘍、肺がん、扁平上皮がん、膀胱がん、胃がん、膵臓がん、前立腺がん、腎臓がん、結腸直腸がん、乳がん、頭部がん、頸部がん、食道がん、婦人科がん、甲状腺がん、リンパ腫、慢性白血病、及び急性白血病を挙げることができる。
【0064】
本発明の抗がん剤は、薬剤感受性試験の結果から、とくに肺がんに対して有用であることが予測される。
【0065】
本発明の抗がん剤の投与方法は、経口、非経口投与のいずれかによって実施できる。特に好ましくは非経口投与による投与方法であり、係る投与方法としては具体的には、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。注射投与の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などによって全身又は局部的に投与できる。投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択することができる。
【0066】
投与量としては、例えば、一回の投与につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mg、好ましくは0.001mgから100mg、より好ましくは0.01mgから10mgの範囲で投与量が選択できる。あるいは、例えば、患者あたり0.001から100000mg/body、好ましくは0.01mgから1000mg/body、より好ましくは0.1mgから100mg/bodyの範囲で投与量が選択できる。しかしながら、本発明の抗がん剤はこれらの投与量に制限されるものではない。
【0067】
本発明の抗がん剤は、常法に従って製剤化することができ(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company,Easton,U.S.A)、薬理学上許容される担体や添加物を共に含むものであってもよい。そのような単体や添加物としては、例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体が適宜使用できる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。
【0068】
本発明の抗がん剤は、その作用メカニズムや作用時期が公知の薬剤とは異なる可能性が高い。具体的には細胞周期をG1で停止させる機序が予想される。それゆえ、他の抗がん剤との併用効果や多剤耐性克服効果が期待される。
【実施例】
【0069】
以下、参考例、実施例及び試験例により本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例や試験例に限定されるものではない。
【0070】
[参考例] エグジグオリド(化合物I)の全合成
1.合成計画
化合物1の(E,Z,E)-トリエン側鎖は、全合成の最終段階でビニルホウ酸エステル2とヨウ化ビニル体3の鈴木-宮浦反応により立体選択的に導入することとした(Scheme 1)。化合物3のマクロラクトン環の構築にあたり、メチレンビス(テトラヒドロピラン)4を共通合成中間体に設定し、閉環メタセシス反応(RCM)を経由するルートAとマクロラクトン化を経由するルートBを考案した。すなわち、ルートAではトリエン5のRCM により3が得られ、5は4からエステル化を経て誘導できると考えた。一方、ルートBではヒドロキシカルボン酸7の山口法によるマクロラクトン化を用いて3を得、7は4よりJulia−Kocienski 反応によるC16−C17二重結合の立体選択的形成を経て合成することとした。共通中間体4はシリルオキシケトン9の還元的エーテル化により得られ、9はヒドロキシエノン10の分子内共役付加環化反応によって合成できると考えた。化合物10は容易に調製可能な非環状のセグメントであるヒドロキシオレフィン11とエノン12とのオレフィンクロスメタセシス(CM)反応により合成することとした。
【0071】
【化10】
【0072】
2.ヒドロキシオレフィン11の合成
化合物11はKeck不斉アリル化により得たホモアリルアルコール13を出発原料として合成した(Scheme 2)。化合物13のヒドロキシ基を保護した後、二重結合を酸化的に切断してアルデヒド14へと誘導した。化合物14を臭化マグネシウムジエチルエーテル錯体存在下アリルトリメチルシランによりジアステレオ選択的にアリル化し、望む立体化学を有するホモアリルアルコール15を単一の立体異性体として得た。続いて保護基の変換を行い、ヒドロキシオレフィン11へと導いた。
【0073】
【化11】
【0074】
3.エノン12の合成
化合物12は(S)-ロシュエステルから5段階で容易に入手可能なアルデヒド16を出発原料として合成した(Scheme 3)。化合物16のBrown不斉アリル化と続くGrubbs第二世代触媒(G-II)を用いるCMにより増炭して不飽和エステル17に誘導した。化合物17を接触還元した後、エステルをWeinrebアミドへ変換し、さらに遊離のヒドロキシ基をシリル化して18を得た。化合物18にビニルリチウムを作用させ、エノン12を合成した。
【化12】
【0075】
4.メチレンビス(テトラヒドロピラン)4 の合成
化合物11と12を10 mol %のHoveyda−Grubbs第二世代触媒(HG-II)存在下ジクロロメタン中35℃で反応させると、ヒドロキシエノン10を高収率かつ単一の立体異性体として得た(Scheme 4)。続いて化合物10をテトラヒドロフラン中0℃でカリウムt-ブトキシドで処理すると、分子内共役付加環化反応が円滑に進行し、目的とするシリルオキシケトン9を単一の立体異性体として収率95%で得ることができた。最後に、化合物9にジクロロメタン中大過剰量のトリエチルシラン存在下三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を作用させ、化合物4をC9位に関する約10:1のジアステレオマー混合物として収率98%で単離した。化合物11と12に、環形成に必要な官能基群を予め適切に配置した上で、オレフィンメタセシス反応の高い官能基許容性と強力な炭素−炭素結合形成能を活用することにより、極めて高い収束性で化合物4を効率的に構築できた。実際に化合物4はグラムスケールにて容易に合成可能であった。
【0076】
【化13】
【0077】
5.RCMによる20員環の構築の試み
化合物4の加水素分解により生じたアルコールをDess−Martin 酸化して得たアルデヒド19をメチレン化し、オレフィン20へと変換した(Scheme 5)。化合物20のt−ブチルジフェニルシリル基を選択的に除去した後、生じたアルコールをカルボン酸21へと酸化した。化合物21をアルコール6と縮合してトリエン5へと導き、そのRCMを種々の条件下で検討した。
【0078】
まず、G-II触媒を用いジクロロメタン中加熱還流又はトルエン中70℃でRCMを検討したが、目的物22は痕跡量しか生成せず、反応の初期に触媒が分解した。そこでHG-II触媒を用いてトルエン中80℃で1日反応を行ったところ、化合物22が収率30%で得られ、原料5が18%回収された。しかし、反応を長時間行ったり、より高温で反応を行ったりすると、化合物22の収率は向上しないが化合物22’が副生成物として同程度生じた。これはRCMの活性種であるルテニウムメチリデン錯体がヨウ化ビニル部分と反応したために生成したものと考えられる。一方、本反応を1,2−ジクロロエタン中75℃で行うと、目的の化合物22を収率52%(原料回収24%)で得ることができ、化合物22’はわずかに痕跡量しか生成しなかった。また、チタニウムテトライソプロポキシドや2,6-ジクロロ-1,4-ベンゾキノンを添加剤として検討したが、本反応においては有用ではなかった。
【0079】
【化14】
【0080】
6.マクロラクトン化を経由する20員環の構築と全合成の完遂
次に、山口法による20員環の構築を検討した(Scheme 6)。まず、アルデヒド19と別途調製したスルホン8とのJulia−Kocienski反応を検討した。その結果、テトラヒドロフラン/ヘキサメチルホスホアミド(4:1)中−78°Cで化合物8をリチウムビス(トリメチルシリル)アミドで処理して対応するアニオンを発生させた後、化合物20を加え反応溶液を徐々に室温まで昇温させると、目的とする(E)-オレフィン23を収率63%(原料回収23%)で単離できた。化合物23のt-ブチルジフェニルシリル基を選択的に除去し、生じたアルコールを二段階の酸化反応とメチルエステル化によりエステル24へ変換した。化合物24のp−メトキシベンジル基はトリエチルシラン存在下三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体で処理すると最も効率よく脱保護できることを見いだし、アルコール25を収率89%で得た。化合物25を加水分解し、得られたヒドロキシカルボン酸を山口法でマクロラクトン化すると、20員環ラクトン22を収率94%(2段階通算)で単離することができた。化合物22のトリイソプロピルシリル基を除去して得たアルコールを酸化し、ケトン26を定量的に得た。化合物26 に対しキラルホスホナート27とナトリウムビス(トリメチルシリル)アミドを用いてHorner−Wadsworth−Emmons反応を行い、化合物3をE/Z異性体の混合物(E/Z = ca. 1:5)として収率94%で得た。これら異性体はシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分離可能であった。最後に、(E,Z,E)-トリエン側鎖の立体選択的導入を行った。すなわち、化合物3とビニルホウ酸エステル2との鈴木−宮浦反応は、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム錯体/トリフェニルヒ素触媒系と酸化銀 を用いるとテトラヒドロフラン中室温で円滑に進行し、化合物(−)-1を単一の異性体として収率73%で得ることに成功した。合成品の化合物(−)-1の各種スペクトルデータ(H及び13C NMRスペクトル、高分解能質量分析スペクトル)は天然物のそれらと完全に一致した。また合成品の比旋光度([α]24 −121.5 (c = 0.22、クロロホルム))は、天然物のそれ([α]25 −92.5 (c = 0.069、クロロホルム))と良い一致を示した。
【0081】
【化15】
【0082】
[合成実施例]
(1)類縁体1及び2の構造式は、下式の化合物III及びIVでそれぞれ表される。化合物IIIは、文献公知の化合物I(H. Fuwa, M. Sasaki, Organic Letters, 12, 574−577 (2010))と文献公知の(Z)-ビニルホウ酸ピナコールエステルII(H. Fuwa, M. Sasaki, Organic Letters, 12, 574−577 (2010))との鈴木−宮浦反応により合成した。化合物IVは、化合物IIIを無水酢酸とピリジンでアセチル化して得た。
【0083】
【化16】
【0084】
(2)類縁体3及び4の構造式は、下式の化合物VII及びVIでそれぞれ表される。化合物VIは、化合物Iと文献公知のビニル錫V(T. Hosoya, K. Sumi, H. Doi, M. Wakao, M. Suzuki, Org. Biomol. Chem., 4, 410−415(2006))とのStille反応により合成した。化合物VIIは、化合物VIを無水酢酸とピリジンでアセチル化して得た。
【0085】
【化17】
【0086】
(3)類縁体5及び6の構造式は、下式の化合物IX及びXでそれぞれ表される。化合物IXは、文献公知の化合物VIII(H. Fuwa, M. Sasaki, Organic Letters, 12, 574−577 (2010))と市販のフェニルボロン酸ピナコールエステルとの鈴木−宮浦反応により合成した。また、化合物Xは、化合物VIIIと市販のビニルボロン酸ピナコールエステルとの鈴木−宮浦反応により合成した。
【0087】
【化18】
【0088】
(4)類縁体7及び8の構造式は、下式の化合物XII及びXIVでそれぞれ表される。化合物XIIは、文献公知の化合物XI(H. Fuwa, M. Sasaki, Organic Letters, 12, 574−577 (2010))と化合物IIとの鈴木−宮浦反応により合成した。また、化合物XIVは、化合物XIをJulia−Kocienski反応(C. Aissa, The Journal of Organic Chemistry, 2006, 71, 360−363)によりメチレン化して調製した化合物XIIIに対し、化合物IIとの鈴木−宮浦反応を行うことで合成した。
【0089】
【化19】
【0090】
[実施例1] 化合物III(類縁体1)の合成
【化20】
【0091】
アルコールI(10.2mg、0.0197mmol)と(Z)−ビニルホウ酸ピナコールエステルII(29.2mg、0.110mmol)のテトラヒドロフラン/水(体積比10:1)の混合溶液1.1mLに酸化銀(22.8mg、0.0984mmol)、トリスジベンジリデンアセトンジパラジウム(2.7mg、0.0029mmol)及びトリフェニルヒ素 (7.2mg、0.024mmol)を室温で加えた。反応混合物を室温で20分間撹拌した後、不溶物をセライト濾過により除去し、瀘液を減圧濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Fuji Silysia BW-300 silica gel;展開溶媒:40〜60%酢酸エチル/ヘキサン)で精製し、化合物III(10.0mg、収率96%)を淡黄色液体として得た。
【0092】
[α]25=−121.4(c=0.14,ベンゼン);IR(薄膜)3454,2928,1737,1436,1372,1326,1263,1183,1157,1090,1039,975,903,680cm−1H−NMR(600MHz,重クロロホルム):δ=6.66(dd,J=15.1,11.3Hz,1H),6.37 (d,J=11.3Hz,1H),6.18 (dd,J=11.3,11.3Hz,1H),5.96(dd,J=11.3,11.3Hz,1H),5.66(dd,J=15.1,6.9Hz,1H),5.53(dd,J=15.1,9.6Hz,1H),5.23(m,1H),5.06(dd,J=15.1,9.6Hz,1H),3.85−3.74(m,2H),3.68(s,3H),3.27(m,1H),3.20(m,1H),3.12(m, 1H),3.10(s,2H),2.56(m,1H),2.53(dd,J=14.1,11.0Hz,1H),2.43(dd,J=14.1,2.8Hz,1H),2.32(m,1H),1.96(m,1H),1.84(m,1H),1.83(s,3H),1.77−1.72(m,2H),1.62(m,1H),1.54−1.01(m,13H),0.92ppm(d,J=6.5Hz,3H);13C−NMR(150MHz,重ベンゼン):δ=170.7,170.3,135.8,133.2,133.1,132.2,128.5,126.1,124.3,78.0,75.7,75.3,72.9,72.1,67.7,50.9,44.9,44.4,43.5,42.4,41.3,41.2,40.2,33.1,32.7,32.0,24.3,21.9,16.4,14.5ppm;HRMS(ESI):m/z 計算値:553.3136[(M+Na)];実測値:553.3148.
【0093】
[実施例2] 化合物IV(類縁体2)の合成
【化21】
【0094】
化合物III(2.6mg、0.0049mmol)のピリジン溶液0.5 mLに無水酢酸0.5 mLを加え、反応溶液を室温で終夜撹拌した。反応溶液を減圧濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(Fuji Silysia BW-300 silica gel;展開溶媒:10〜30%酢酸エチル/ヘキサン)で精製し、化合物IV(2.4mg、収率86%)を無色液体として得た。
【0095】
[α]23=−111.8(c=0.12,ベンゼン); H NMR(600MHz,重ベンゼン):δ=6.95(dd,J=15.1,11.3Hz,1H),6.38(d,J=11.7Hz,1H),6.16(dd,J=11.7,11.0Hz,1H),5.98(dd,J=11.3,11.0Hz,1H),5.82(dd,J=14.8,9.6Hz,1H),5.73(dd,J=15.1,6.8Hz,1H),5.65(m,1H),5.12(dd,J=15.1,9.6Hz,1H),4.83(m,1H),3.71(m,1H),3.50(m,1H),3.40(m,1H),3.26(s,3H),2.97(m,1H),2.87(m,1H),2.80(s,2H),2.38−2.30(m,2H),2.03(dd,J=14.4,2.8Hz,1H),1.95(dd,J=12.7,11.3Hz,1H),1.72−1.44(m,12H),1.38(m,1H),1.32−1.01(m,9H),0.99ppm(d,J=6.9Hz,3H);13C NMR(150MHz,重ベンゼン):δ=170.9,170.2,169.4,135.9,133.2,133.1,132.1,128.5,126.1,124.3,78.3,75.9,75.4,73.0,72.1,70.3,51.2,45.2,44.5,43.8,42.7,41.3,37.6,36.6,33.4,32.9,32.2,24.5,22.1,20.8,16.6,14.7ppm;HRMS(ESI):m/z 計算値:595.3241[(M+Na)];実測値:595.3260.
【0096】
[実施例3] 化合物VII(類縁体3)の合成
【化22】
【0097】
化合物VI(5.6mg,0.012mmol)のピリジン溶液0.5mLに無水酢酸0.5mLを室温で加え、反応溶液を室温で終夜撹拌した。反応溶液を減圧濃縮した後、粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Fuji Silysia BW-300 silica gel;展開溶媒:10〜20%酢酸エチル/ヘキサン)で精製し、化合物VII(5.7mg,収率93%)を分離不能な5:1の幾何異性体の混合物として得た(異性体の比率はH−NMRスペクトルにより見積もった。なお主生成物のC22位二重結合の幾何異性はZである)。
【0098】
[α]23=−49.3(c=0.57,クロロホルム);IR(薄膜):2927,2862,1740,1453,1373,1325,1239,1188,1160,1090,1031,975,905,677cm−1H−NMR(600MHz,重クロロホルム,主生成物のシグナル):δ=6.49(dd,J=15.1,11.0Hz,1H),5.94(dd,J=11.3,11.0Hz,1H),5.58(dd,J=15.1,6.8Hz,1H),5.52(dd,J=15.1,9.3Hz,1H),5.45(m,1H),5.21(m,1H),5.06(m,1H),4.90(m,1H),3.85(dddd,J=11.3,11.3,2.4,2.4Hz,1H),3.26(m,1H),3.20−3.13(m,2H),2.53(m,1H),2.50(dd,J=14.0,10.6Hz,1H),2.40(dd,J=14.0,3.1Hz,1H),2.34(m,1H),2.18−2.13(m,2H),2.06(m,1H),2.01(s,3H),1.98(m,1H),1.89(m,1H),1.77−1.70(m,2H),1.62(m,1H),1.54−1.00(m,15H),0.92(d,J=6.9Hz,3H),0.89ppm(t,J=7.2Hz,3H);13C−NMR(150MHz,重クロロホルム,主生成物のシグナル):δ=170.8,170.5,135.3,133.5,132.6,129.7,128.0,127.6,78.7,76.0,75.2,72.7,72.0,70.2,44.1,43.1,42.0,41.4,37.2,36.3,33.0,32.4,31.7,31.6,27.5,23.9,22.3,21.8,21.2,14.3,13.9ppm;HRMS(ESI):m/z 計算値:539.3343[(M+Na)];実測値:539.3340.
【0099】
[実施例4] 化合物VI(類縁体4)の合成
【化23】
【0100】
アルコールI(9.6mg,0.019mmol)と(Z)-ビニルスズV(34.6mg,0.0925mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド溶液1mLにトリスジベンジリデンアセトンジパラジウム(2.5mg,0.0027mmol)とトリフェニルヒ素(6.8mg,0.022mmol)を室温で加えた。反応溶液を室温で6時間30分撹拌した後、氷冷下、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で反応を停止した。反応混合物を酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、乾燥剤を瀘別し、瀘液を減圧濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Fuji Silysia BW-300 silica gel;展開溶媒:30〜45%酢酸エチル/ヘキサン)で精製し、化合物VI(5.6mg,収率64%)を分離不能な5:1の幾何異性体の混合物として得た(異性体の比率はH−NMRスペクトルにより見積もった。なお主生成物の22位の二重結合の幾何異性はZである)。
【0101】
[α]24=−43.4(c=0.50, クロロホルム);IR(薄膜):3443,2927,2862,1738,1461,1372,1322,1183,1122,1090,1040,975,900,678cm−1H−NMR(600MHz,重クロロホルム, 主生成物のシグナル):δ=6.49(dd,J=15.4,11.3Hz,1H),5.95(dd,J=11.3,11.0Hz,1H),5.58(dd,J=15.1,6.8Hz,1H),5.52(dd,J=15.1,9.7Hz,1H),5.45(m,1H),5.21(m,1H),5.06(m,1H),3.84(m,1H),3.79(dddd,J=11.3,11.0,2.5,2.0Hz,1H),3.27(m,1H),3.19(m,1H),3.11(m,1H),2.54(m,1H),2.52(dd,J=14.4,11.0Hz,1H),2.41(dd,J=14.4,2.8Hz,1H),2.34(m,1H),2.18−2.14(m,2H),1.96(m,1H),1.84(m,1H),1.77−1.71(m,2H),1.62(m,1H),1.54−1.00(m,17H),0.92(d,J=6.9Hz,3H),0.89ppm(t,J=7.2Hz,3H);13C−NMR(150MHz,重クロロホルム,主生成物のシグナル):δ=171.0,135.3,133.4,132.6,129.8,127.8,127.6,78.6,76.0,75.3,72.8,72.2,68.1,44.2,43.1,42.0,41.4,41.1,40.2,33.0,32.4,31.7,31.6,27.5,23.9,22.3,21.8,14.3,13.9ppm;HRMS(ESI):m/z 計算値:497.3237[(M+Na)];実測値:497.3233.
【0102】
[実施例5] 化合物IX(類縁体5)の合成
【化24】
【0103】
ビニルヨウ素体VIII(3.5mg,0.0061mmol)とフェニルボロン酸ピナコールエステル (10.0mg,0.0376mmol)のテトラヒドロフラン/水(体積比10:1)の混合溶液0.55mLに酸化銀(7.1mg,0.031mmol)、トリスジベンジリデンアセトンジパラジウム(0.8mg,0.0009mmol)及びトリフェニルヒ素(2.2mg,0.0072mmol)を室温で加えた。反応混合物を室温で30分間撹拌した。不溶物をセライト濾過により除去した後、濾液を減圧濃縮した。粗精製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Fuji Silysia BW-300 silica gel;展開溶媒:7.5%酢酸エチル/ヘキサン)で精製し、化合物IX(3.0mg,93%)を無色液体として得た。
【0104】
[α]23=−61.7(c=0.30,クロロホルム);IR(薄膜):2928,1718,1651,1435,1373,1236,1154,1090,969,748,678cm−1H−NMR(600MHz,重クロロホルム):δ=7.36(d,J=7.6Hz,2H),7.29(dd,J=7.9,7.6Hz,2H),7.22(dd,J=7.9,7.9Hz,1H),6.56(d,J=15.8Hz,1H),6.16(dd,J=15.8,6.5Hz,1H),5.68(s,1H),5.56(dd,J=15.1,9.2Hz,1H),5.35(m,1H),5.10(dd,J=15.1,9.6Hz,1H),3.87(app.d,J=13.4Hz,1H),3.81(m,1H),3.67(s,3H),3.31(m,1H),3.23−3.16(m,2H),2.61−2.49(m,3H),2.43(m,1H),2.22(dd,J=12.4,12.4Hz,1H),2.12(app.d,J=13.4Hz,1H),1.97(dd,J=12.7,12.4Hz,1H),1.80−1.73(m,2H),1.63−1.47(m,2H),1.45(ddd,J=14.1,11.3,2.8Hz,1H),1.40(m,1H),1.25−1.04(m,7H),0.93ppm(d,J=6.5Hz,3H);13C−NMR(150MHz,重クロロホルム): δ=170.7,166.8,156.7,136.5,135.5,132.5,132.0,128.5(2C),127.7,126.7,126.5(2C),115.0,78.7,76.0,75.4,74.9,74.1,51.0,44.1,43.1,42.5,42.1,41.6,34.8,33.1,32.5,31.6,23.9,21.8,14.4ppm;HRMS(ESI):m/z 計算値:545.2874[(M+Na)];実測値:545.2881.
【0105】
[実施例6] 化合物X(類縁体6)の合成
【化25】
【0106】
ビニルヨウ素体VIII(4.1mg,0.0072mmol)とビニルボロン酸ピナコールエステル(5.0mg,0.032mmol)のテトラヒドロフラン/水(体積比10:1)の混合溶媒1.1mLに酸化銀(8.3mg,0.036mmol)、トリスジベンジリデンアセトンジパラジウム(1.0mg,0.0011mmol)及びトリフェニルヒ素(2.6mg,0.0085 mmol)を室温で加えた。反応混合物を室温で1時間撹拌した。不溶物をセライト濾過により除去した後、濾液を減圧濃縮した。粗精製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Fuji Silysia BW-300 silica gel;展開溶媒:7〜10%酢酸エチル/ヘキサン)で精製し、化合物X(3.2mg,94%)を無色液体として得た。
【0107】
[α]23=−75.9(c=0.32,クロロホルム);IR(薄膜):2929,1738,1652,1435,1373,1236,1090,1045,1008,975,903,858,679cm−1H−NMR(600MHz,重クロロホルム):δ=6.33(ddd,J=16.8,10.4,10.3Hz,1H),6.19(dd,J=15.1,10.3 Hz,1H),5.68(s,1H),5.64(dd,J=15.1,6.2Hz,1H),5.52(dd,J=15.1,9.6Hz,1H),5.23−5.17(m,2H),5.10(app.d,J=10.0Hz,1H),5.06(dd,J=15.1,9.6Hz,1H),3.86(app.d,J=13.4Hz,1H),3.79(m,1H),3.67(s,3H),3.29(m,1H),3.20−3.14(m,2H),2.56−2.46(m,3H),2.32(dddd,J=16.1,7.3,6.9,2.1Hz,1H),2.20(dd,J=12.7,12.0Hz,1H),2.11(app.d,J=13.4Hz,1H),1.95(dd,J=12.7,12.7Hz,1H),1.78−1.71(m,2H),1.61−1.47(m,2H),1.43(ddd,J=14.1,11.3,2.8Hz,1H),1.38(m,1H),1.25−1.03(m,4H),1.03(d,J=6.8Hz,3H),0.92ppm(d,J=6.9Hz,3H);13C−NMR(150MHz,重クロロホルム): δ=170.7,166.8,156.7,135.4,132.6,132.5,130.8,117.9,115.0,78.2,76.0,75.3,74.9,74.1,51.0,44.0,43.1,42.5,41.9,41.5,34.8,33.0,32.4,31.6,23.9,21.8,14.3ppm;HRMS(ESI):m/z 計算値:495.2717[(M+Na)];実測値:495.2698.
【0108】
[実施例7] 化合物XII(類縁体7)の合成
【化26】
【0109】
ケトンXI(7.1mg,0.014mmol)と(Z)-ビニルホウ酸ピナコールエステルII(15.2mg,0.0571mmol)のテトラヒドロフラン/水(体積比10:1)の混合溶液1.1mLに酸化銀(16.0mg,0.0690mmol)、トリスジベンジリデンアセトンジパラジウム(1.9mg,0.0021mmol)及びトリフェニルヒ素(5.1mg,0.017mmol)を室温で加えた。反応混合物を室温で20分間撹拌した。不溶物をセライト濾過して除去した後、瀘液を減圧濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Fuji Silysia BW-300 silica gel;展開溶媒:20〜30%酢酸エチル/ヘキサン)で精製し、化合物XII(7.4mg,収率100%)を無色液体として得た。
【0110】
[α]23=−84.2(c=0.74,ベンゼン);IR(薄膜):2928,1737,1433,1370,1329,1257,1214,1156,1091,973,949,680cm−1H−NMR(600MHz,重ベンゼン):δ=6.93(dd,J=14.8,11.7Hz,1H),6.37(d,J=11.7Hz,1H),6.17(dd,J=11.3,11.3Hz,1H),5.98(dd,J=11.0,11.0Hz,1H),5.77−5.65(m,3H),5.13(dd,J=15.1,9.6Hz,1H),3.78(m,1H),3.47(m,1H),3.39(m,1H),3.27(s,3H),3.06(m,1H),2.83(m,1H),2.80(s,2H),2.36(dddd,J=16.1,7.2,7.2,1.7Hz,1H),2.22(dd,J=14.4,10.7Hz,1H),1.99−1.81(m,5H),1.78(dd,J=14.4,12.0Hz,1H),1.69(s,3H),1.65(m,1H),1.56(m,1H),1.49(m,1H),1.41(m,1H),1.28−1.20(m,3H),1.18(d,J=6.9Hz,3H),1.07−1.00(m,2H),0.99ppm(d,J=6.8Hz,3H);13C−NMR(150MHz,重ベンゼン):δ=204.0,170.9,169.7,136.0,133.3,133.0,131.8,128.5,127.9,126.3,124.2,78.3,75.9,75.2,74.5,73.2,51.2,47.7,46.4,45.2,44.4,43.8,42.6,41.3,33.5,32.8,32.1,24.9,24.4,22.1,16.7,14.6ppm;HRMS(ESI):m/z 計算値:551.2979[(M+Na)];実測値:551.2974.
【0111】
[実施例8] 化合物XIV(類縁体8)の合成
【化27】
【0112】
オレフィンXIII(4.0mg,0.0078mmol)と(Z)-ビニルホウ酸ピナコールエステルII(9.6mg,0.036mmol)のテトラヒドロフラン/水(体積比10:1)の混合溶媒1.1mLに酸化銀(9.0mg,0.039mmol)、トリスジベンジリデンアセトンジパラジウム(1.1mg,0.0012mmol)及びトリフェニルヒ素(2.9mg,0.0095mmol)を室温で加えた。反応混合物を室温で20分間撹拌した。不溶物をセライト濾過により除去した後、濾液を減圧濃縮した。粗精製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Fuji Silysia BW-300 silica gel;展開溶媒:7%酢酸エチル/ヘキサン)続いて薄層クロマトグラフィー(E. Merck silica gel 60 F254 plates (0.25-mm thickness),25mm×25mm,8%酢酸エチル/ヘキサンで二度展開した後、12%酢酸エチル/ヘキサンで展開)により精製し、化合物XIV(3.0mg,収率73%)を無色液体として得た。
【0113】
[α]24=−69.2(c=0.23,クロロホルム);IR(薄膜):2930,1739,1434,1368,1328,1255,1214,1156,1092,1045,976cm−1H−NMR(600MHz,重ベンゼン): δ=6.95(dd,J=15.1,11.3Hz,1H),6.38(d,J=9.6Hz,1H),6.16(dd,J=11.3,11.3Hz,1H),5.98(dd,J=11.3,11.3Hz,1H),5.86(dd,J=15.1,9.6Hz,1H),5.75(dd,J=14.8,6.8Hz,1H),5.69(m,1H),5.13(dd,J=14.8,9.6Hz,1H),4.66(s,1H),4.65(s,1H),3.77(dddd,J=11.0,10.6,3.1,2.8Hz,1H),3.56(m,1H),3.43(m,1H),3.26(s,3H),3.08(m,1H),2.90(m,1H),2.80(s,2H),2.40−2.34(m,2H),2.13(dd,J=14.8,2.8Hz,1H),2.01(m,1H),1.89−1.71(m,4H),1.69(s,3H),1.65(m,1H),1.59−1.42(m,4H),1.32−1.21(m,2H),1.20(d,J=6.9Hz,3H),1.14(m,1H),1.06(m,1H),0.99ppm(d,J=6.5Hz,3H);13C−NMR(150MHz,重ベンゼン): δ=170.9,170.4,144.5,135.9,133.2,133.1,132.2,128.5,126.1,124.3,109.3,78.2,76.0,75.9,75.5,75.0,51.2,45.2,44.8,43.8,42.7,41.6,40.9,39.9,33.4,32.9,32.2,24.5,22.1,16.6,14.7ppm; HRMS(ESI):m/z 計算値:549.3187[(M+Na)];実測値:549.3187.
【0114】
[実施例9] 化合物XIIIの合成
【化28】
【0115】
ケトンXI(7.3mg,0.014mmol)と1-tert-ブチル-5-メタンスルホニル-1H-テトラゾール(28.6mg,0.140mmol)のテトラヒドロフラン溶液1mLを−78°Cに冷却した後、この溶液にナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド(1.0Mテトラヒドロフラン溶液,0.140mL,0.14mmol)をゆっくり滴下した。反応溶液を85分間かけてゆっくりと−17°Cまで昇温した後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止した。反応混合物を酢酸エチルで抽出した後、有機層を飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、乾燥剤を瀘別し、瀘液を減圧濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Fuji Silysia BW-300 silica gel;展開溶媒:5%酢酸エチル/ヘキサン)で精製し、化合物XIII(7.3mg,収率100%)を無色液体として得た。
【0116】
[α]25=−22.4(c=0.36,クロロホルム); IR(薄膜):2929,1740,1431,1368,1326,1254,1214,1179,1154,1091,1045,975,946,894,680cm−1H−NMR(600MHz,重クロロホルム):δ=6.49(dd,J=14.5,6.2Hz,1H),6.33(dd,J=14.5,1.1Hz,1H),5.48(dd,J=15.1,9.6Hz,1H),5.12(m,1H),5.07(dd,J=15.1,9.6Hz,1H),4.729(s,1H),4.726(s,1H),3.74(m,1H),3.23(m,1H),3.15(m,1H),3.07(m,1H),2.53(m,1H),2.51(dd,J=14.1,10.3Hz,1H),2.46(dd,J=14.1,3.4Hz,1H),2.31(dddd,J=16.2,7.2,6.9,1.7Hz,1H),2.22(app.d,J=12.7Hz,1H),2.11(app.d,J=13.1Hz,1H),2.04(app.d,J=12.7Hz,1H),1.99(app.d,J=13.1Hz,1H),1.77−1.70(m,2H),1.62(m,1H),1.50−1.40(m,3H),1.37(m,1H),1.25−1.01(m,6H),0.91ppm(d,J=6.8Hz,3H);13C−NMR(150MHz,重クロロホルム):δ=170.8,143.8,142.9,136.0,131.7,109.5,79.5,79.3,76.0,75.7,75.2,74.7,44.2,43.0,41.4,41.1,40.6,39.8,32.9,32.4,31.6,23.9,21.7,14.3ppm;HRMS(ESI):m/z 計算値:537.1472[(M+Na)];実測値:538.1499.
【0117】
[試験例1]エグジグオリドのヒト培養がん細胞パネルによる薬剤感受性試験
方法
財団法人癌研究会癌化学療法センター分子薬理部 矢守教授に依頼して、39系のヒト培養がん細胞パネルを用いたin vitro 薬剤感受性試験により、エグジグオリドの制がん効果を調べた。
【0118】
試験は、肺がん7系、胃がん6系、大腸がん5系、卵巣がん5系、脳腫瘍6系、乳がん5系、腎がん2系、前立腺がん2系、及びメラノーマ1系の計39系のがん細胞を96ウェルプレートに播種し、翌日所定の濃度のエグジグオリドを含む検体溶液を添加し、2日間培養した後、細胞増殖をスルホローダミンBによる比色定量で測定した。測定結果をコンピュータに入力し、GI50、TGI、LC50の3種類のパラメータを指標として、エグジグオリドに対する各細胞の感受性パターン(増殖率及びフィンガープリント、後述)を解析した。各データは、細胞増殖阻害を示す公知の化合物に対する感受性との比較解析も行った。
【0119】
増殖率(%)は、各細胞ごとにPercent Growthの値を薬剤濃度(対数)に対してプロットして臓器がん別にまとめた(図3:Dose-Response曲線)。各曲線が増殖率50%、0%、−50%の横線と交わる点の濃度がそれぞれLog GI50、Log TGI、Log LC50に相当する。
【0120】
また検定したすべての細胞株についてLog GI50の平均値を求め、この平均値と個々の細胞でのLog GI50値との差(つまり個々の細胞でのGI50が平均値の何倍あるいは何分の一かが対数値で示される)を求め、それらを平均Log GI50値を中心(目盛0)として左右に棒グラフで描き、フィンガープリント(Finger Print:図4)を作成した。感受性が高い細胞株ほど右側に長くバーが伸びる。
【0121】
結果
結果を図2〜4に示す。下表1及び表2はその抜粋である。表1に示されるように、ヒト肺がん細胞株NCI-H460(human lung large cell carcinoma)とA549(human lung adenocarcinoma)、ヒト卵巣がん細胞株SK−OV−3(human ovarian carcinoma)、及びヒト胃がん細胞株MKN−74(human gastric carcinoma)について、エグジグオリドに対する顕著な感受性が認められた。
【0122】
【表1】
【0123】
NCI-H460、A549、及びSK−OV−3細胞株に対して、エグジグオリドはマイクロモル以下のGI50で増殖を阻害した。構造が類似するブリオスタチン1のNCI-H460、A549、及びSK−OV−3細胞株に対する抗増殖活性は、それぞれ−5.6、−5.4、及び−5.3であることが知られており(National Cancer Institute データベース http://dtp.nci.nih.gov/branches/btb/ivclsp.html)、エグジグロリドはヒトがん細胞株に対してブリオスタチン1の10〜1000倍の増殖阻害活性を示すことが確認された。
【0124】
エグジグオリドは、表2に示す3種の薬剤:ピラルビシン、マイトマイシンC、SM−5887とわずかな相関が認められたが、100以上のそれ以外の薬剤との相関はみとめられなかった。このことから、エグジグオリドは既存の抗がん剤とは異なる作用機序で細胞の増殖を阻害している可能性が示唆された。
【0125】
【表2】
【0126】
[試験例2] 新規マクロライド化合物の抗増殖活性試験
方法
実施例に示したエグジグオリドとその類縁体の抗増殖活性を、肺がん由来であるA549及びH460細胞株、およびヒト神経膠芽腫細胞由来であるA172細胞株を使用して調べた。各細胞株は10%ウシ胎児血清を添加したRPMI1640培地(H460細胞株とA172細胞株の場合)、又は10%ウシ胎児血清を添加したDMEM培地(A549細胞株の場合)を用いて維持した。増殖期にある細胞を96ウェルプレートにトリプリケート(n=3)で播種し、72時間、種々の濃度の化合物の存在下で培養した。培養終了時に、培地の1/10量のAlamarBlue溶液(インビトロジェン)を加え3時間静置した。蛍光強度をFluoroskan Ascent(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を使用して測定した。ヒトさい帯静脈内皮細胞(HUVECs)は正常細胞対照群として使用した。相対蛍光強度を対象群の強度に対する実験群の強度として求めてプロットし、それぞれのがん細胞において50%増殖阻害(IC50)を達成する化合物濃度を、GraphPad Prismソフトウェアを使用したStandard slopeの非線形回帰モデルによって算出した。
【0127】
結果
結果を図5(A、B)及び図6に示す。(−)エグジグオリドのIC50は、H460では0.28μM、A549では0.59μM、A172では0.46μM。そのほかの類縁体(analogue1-8)のIC50は、2〜100μMの範囲であった。一方、HUVECsに対するIC50はがん細胞のそれに比べ約10倍高かった。
【0128】
類縁体のなかでは、とくに類縁体1,4,7について顕著な細胞増殖抑制効果が認められた。類縁体の増殖抑制効果は(-)エグジグオリドと遜色なく、また積極的に細胞死を誘導している所見があった(データは示していない)。増殖抑制のみならず、細胞死を誘導する類縁体は、抗癌剤としての有用性が高い可能性がある。
【0129】
[試験例3] 新規マクロリド化合物の細胞周期停止効果
エグジグオリドの細胞周期停止作用を検討した。H460細胞株に対してエグジグオリド1μMを暴露し、各細胞周期の割合をフローサイトメーターによって測定した。DNA染色試薬にはヨウ化プロピディウムを使用した。またA549細胞株に対して、エグジグオリド(0.01μM〜5μM)を72時間暴露し、細胞周期制御因子であるRbの活性をウエスタンブロッティングにて測定した。
【0130】
結果を図7に示す。エグジグオリドに暴露すると、細胞周期G1の割合が一貫して上昇している。これは細胞周期がG1で停止していることを示唆する。またG1を制御する蛋白質であるRbはエグジグオリドの濃度に応じてリン酸化が低下し、活性が落ちていると考えられた。これらの結果から、エグジグオリドはRb蛋白質の制御を通じて、細胞周期をG1で停止させ細胞増殖抑制効果を発揮すると考えられた。
【0131】
[試験例4] 新規マクロリド化合物のin vivo腫瘍縮小試験
ヒト肺癌細胞(H460、A549等)を免疫不全マウス(BALB/cAJcl-nu/nu)皮下に接種した。皮下腫瘍容積が約200mmになった段階で、エグジグオリド投与群(n=2)と対照群(n=4)に無作為に割付し、投与群にはエグジグオリド0.2mg/kgを、対照群にはPBS(200μl)とDMSO(5〜10μl)を毎日腹腔内投与(1日1回)した。観察は、H460細胞株については15日間、A549細胞株については25日間行い、皮下腫瘍を体表より確認し、腫瘍径変化をノギスで測定した。A549細胞株について、H460細胞株よりも長く観察を行ったのは、A549細胞株はH460細胞株よりも腫瘍の増殖が遅いためである。観察終了後、マウスをハロセンにて安楽死させ、腫瘍を摘出して腫瘍サイズおよび重量、病理所見を観察した。
【0132】
結果を図8(H460)及び図9(A549)に示す。図の縦軸(Relative volume)は、腫瘍の長径をa、短径をbとしたときの(a×b) / 2=推定腫瘍体積を、day0における各群の推定腫瘍体積に対する相対値として示したものである。
【0133】
実験終了時における相対腫瘍重量比(投与群/対照群)は、H460では3.35/19.52=0.17(17%)、1.17/3.52=0.33(33%)だった。一般に、相対腫瘍重量比が50%未満であれば抗腫瘍効果ありと認められる。以上の結果より、エグジグオリドは特定のがん細胞株について顕著な抗腫瘍効果を有することが確認された。
【0134】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明によれば、新規な細胞増殖抑制活性を有するマクロライド化合物が提供される。本発明のマクロライド化合物は、正常細胞に比較して、特定のがん細胞に顕著な細胞増殖抑制効果を発揮する。また、従来公知の抗がん剤とは異なる細胞周期に作用する可能性が高く、他の抗がん剤との併用効果や多剤耐性克服効果が期待される。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9