【実施例】
【0057】
本発明の効果をより明確にするべく、以下の実施例および比較例にかかる実験を行った。
【0058】
(実験例1:生物学的浄化作用の有無の検討)
発明者らは、種々の有機物、具体的には牛糞入りバーク堆肥(比較例)、腐葉土(比較例)および籾殻(本発明例の生物学的浄化剤)の3種類の有機物について、これらの生物学的浄化作用の有無を検討した。
【0059】
図1の上段写真は、左から、牛糞入りバーク堆肥、腐葉土および籾殻を示したものであり、何らの処理も施していない。なお、牛糞入りバーク堆肥、腐葉土および籾殻はいずれも、硫酸還元菌(SRB)を添加しなくても、それら自体が硫酸還元菌(SRB)を保有している。また、
図1の下段写真は、これらの各有機物:20mLと、鉱山由来の被処理水(pH:5.91,Cdイオン濃度:0.1mg/L,SO
42−濃度:250mg/L):20mLとを、100mLのバイアルビン内に入れて混合し、窒素パージ後30℃の環境下で静置し、気体採取器(ガステック社製、型番:GV−100)を用いてバイアルビン内から採取した気体を、測定レンジの異なる硫化水素検知管(ガステック社製、型番:4LL、4L、4Mおよび4HMの4種のいずれか)に導入して、バイアルビン内で発生した硫化水素ガス濃度を測定している状態を示したものである。ここで測定される硫化水素ガスの濃度が高いほど、有機物中の硫酸還元菌の活動が活発であり、被処理水中に含まれる重金属イオンを、硫化物にして沈殿させる反応が起こりやすいことを間接的に示すものである。
【0060】
図2は、縦軸を硫化水素ガス濃度、横軸を経過日数として、3種類の有機物、すなわち、牛糞入りバーク堆肥(
図2では単に「バーク堆肥」と記載。)、腐葉土および籾殻(
図2では「モミガラ」と記載。)について測定結果をプロットしたものである。
【0061】
図2の結果から、3種類の有機物のうち、籾殻における硫化水素(H
2S)ガスの発生は、試験開始から10日後と最も早く、その後も高い濃度で硫化水素ガスが発生した。一方で、牛糞入りバーク堆肥および腐葉土においては、いずれも試験開始から14日後であって、籾殻よりもさらに4日経過した後に硫化水素ガスが発生し、牛糞入りバーク堆肥では、その後も硫化水素ガスの発生が継続して認められたが、腐葉土についてはその後ほとんど発生しなかった。また、試験期間中、籾殻の硫化水素(H
2S)濃度は、他と比べて高い水準で推移しており、被処理水中の重金属イオンを硫化物として沈殿させる反応がより起こっているものと推察される。
【0062】
このことから、硫酸イオンの還元反応を十分に起こすための有機物源として、籾殻は非常に適している一方、腐葉土では硫酸イオンの還元反応がほとんど起こらず、また、牛糞入りバーク堆肥でも硫酸イオンの還元反応は籾殻よりも不十分であることがわかった。
【0063】
次に、
図3は、籾殻:10mLおよび牛糞入りバーク堆肥:10mLの混合物(本発明例の生物学的浄化剤、
図3ではモミガラ/バーク堆肥混合物と記載。)と、鉱山由来の被処理水(pH:5.91,Cdイオン0.1mg/L,SO
42−濃度:250mg/L):20mLとを、100mLのバイアルビン内に入れて混合し、窒素パージ後30℃の環境下で静置し、ガス検知管にて発生した硫化水素ガス濃度を測定した結果を示す。なお、
図3には、有機物が、
図2に示した籾殻(モミガラ):20mLの場合と牛糞入りバーク堆肥(バーク堆肥):20mLの場合についてのプロットも併せて示した。
【0064】
図3の結果から、有機物として、籾殻と牛糞入りバーク堆肥を体積比1:1で混合した混合物を用いた場合では、牛糞入りバーク堆肥単体の場合と比較して、硫化水素(H
2S)ガスの発生が1週間程度早まった。また、硫化水素濃度は著しく高くなり、籾殻単体とほぼ同程度の硫化水素濃度が確認された。このことから、籾殻を含有する浄化剤では硫酸イオンの還元反応を十分に起こすことができることがわかった。
【0065】
(実験例2:カラム試験)
次に、実際の金属鉱山の坑廃水中に含有する重金属(Cd,Zn)イオンを被処理水中から除去する試験を行ったので以下で説明する。生物学的浄化剤は以下の3種類を用いた。すなわち、本発明例の生物学的浄化剤として、籾殻単体の浄化剤と、籾殻と牛糞入りバーク堆肥を1:1の体積割合で混合した浄化剤を用い、比較例の生物学的浄化剤として、牛糞入りバーク堆肥単体の浄化剤を用いた。
【0066】
高さ400mm、直径100mmのカラム(反応槽)内に、硫酸還元菌の栄養源となる有機物(本発明例または比較例の浄化剤)とカラム内の空隙を確保するための珪石とを1:1の体積割合で混合したものを充填し、被処理水を導入して、硫酸還元菌を繁殖させるため3週間静置した。その後、被処理水を、滞留時間が50時間になるように、カラムの上方から下方へ連続通水し、カラムから排出された処理水の水質変化を調査した。なお、被処理水は、表1に示す水質の鉱山浸透水(坑廃水)を用いた。
図4(a)は、珪石や有機物を充填する前のカラムの状態を示す写真であり、
図4(b)は、連続通水状態を模式的に示した図であり、
図5は、実際に連続通水を行っている状態を示す写真である。
【0067】
【表1】
【0068】
水質汚濁防止法(平成二三年八月三〇日法律第一〇五号)及び排水基準を定める省令(平成二三年一〇月二八日環境省令第二八号)によって制定された重金属の廃水基準値は、Cdイオン:0.1mg/L,Pbイオン:0.1mg/L,Znイオン:2mg/L,Feイオン:10mg/Lであるため、この被処理水はCdイオンおよびZnイオンの含有量が基準値を超えている。よって、この2種類の重金属イオンの濃度を測定した。併せて、硫酸イオン(SO
42−)濃度および化学的酸素要求量(COD)も測定した。硫酸イオンが減少することは、硫酸イオンの還元が起こり、硫化水素イオンが発生していることを示すものであり、CODが低いことは、処理水の有機物汚染が少ないことを示すものである。
図6(a)〜(d)は、カラムから排出された処理水の水質の経時変化をプロットしたものであって、縦軸を、(a)が硫酸イオン(SO
42−)濃度、(b)がカドミウム(Cd)イオン濃度、(c)が亜鉛(Zn)イオン濃度、そして、(d)が化学的酸素要求量(COD)としたものである。なお、
図6(a)〜(c)には、比較のため、有機物充填なしのデータ値についても併せて破線で示した。
【0069】
図6(a)の結果から、3種類のいずれの浄化剤の場合でも、処理水の硫酸イオン濃度は低下傾向にあるが、本発明例である籾殻を含む2種類の浄化剤の場合で特に低下する傾向にあり、重金属イオンを硫化物として除去するために必要な、硫酸イオンを還元する反応が十分に進んでいることがわかる。なお、
図6(a)では、経過日数とともに硫酸イオン濃度が増減変動する現象が認められるが、この現象は、カラム内に存在する硫酸還元菌の活動状態が経時的に変動するなどの理由によるものであると考えられる。
【0070】
図6(b)および
図6(c)の結果から、3種類のいずれの浄化剤の場合においても、処理水におけるCdイオン、Znイオンの濃度は検出限界以下まで低下することがわかる。
【0071】
しかしながら、
図6(d)の結果から、本発明例である籾殻を含む2種類の浄化剤の場合では、比較例の浄化剤に比べ初期の処理水のCOD値が低い値で推移しており、カラム内有機物による汚染が抑制されていることがわかる。また、本発明例の浄化剤でも籾殻のみからなる浄化剤の場合に、最もCOD値が低く、有機物汚染が抑制された。これらの傾向は特に、試験開始直後(経過日数:0日)で著しく現れた。また、
図7は試験開始から1週間後におけるカラムから排出された処理水の色を示す写真であって、左から、浄化剤がそれぞれ、籾殻と牛糞入りバーク堆肥の混合物、牛糞入りバーク堆肥単体、および籾殻単体である場合を示しているが、バーク堆肥が含まれるカラムにおける処理水は、籾殻単体に比べて著しく濁色しているのがわかる。
【0072】
以上の結果より、本発明例の浄化剤によれば、重金属イオンの除去効果は十分に得られ、かつ、処理水の有機物汚染(COD値および着色)をも十分に抑制することが可能であることがわかった。
【0073】
(実験例3:そば殻の生物学的浄化作用の測定)
籾殻以外の穀物殻として、そば殻の生物学的浄化作用を以下の試験により確認した。
【0074】
そば殻と牛糞入りバーク堆肥の体積比が95:5となるように混合した浄化剤15gと、後述の表2「実験例3」の欄に示す鉱山由来の被処理水150mLとを、250mLのポリビン内に入れて混合し、窒素パージ後30℃の環境下で静置した。被処理水中の硫酸イオン濃度の経時変化をイオンクロマトグラフ(TOA−DKK製,ICA−2000)で測定した。硫酸イオン濃度が減少するほど、硫酸還元菌の活動が活発であり、重金属除去が起こりやすい状態にあることを示す。
【0075】
そば殻を籾殻に替えた以外は上記と同様の実験も併せて行った。
【0076】
図8に示すように、そば殻を含む浄化剤の場合も籾殻を含む浄化剤と同様に、時間がたつにつれて硫酸イオン濃度が顕著に減少したことから、硫酸イオンが還元され硫化水素イオンが生じていることがわかる。
【0077】
なお、それぞれの被処理水について、ORP計(TOA−DKK製,RM−20P)を用いてORP値(mV)を測定した。ORP値は減少するほど被処理水が嫌気状態となっており、硫酸還元菌が活動しやすくなっていることを示す。その結果、被処理水の元のORP値は220mVであったところ、やはり日にちがたつにつれて減少し、7日目には−200mV前後に到達し、その後も同程度を維持する結果となった。
【0078】
また、被処理水のpHをpH計(HORIBA製,D−54)で測定したところ、当初3.87であったpHは実験開始後すぐに6〜7付近にまで上昇し、その後も同程度を維持した。これは、牛糞入りバーク堆肥のpH緩衝効果によって、被処理水が中性に近づいたためと考えられる。
【0079】
以上の結果より、そば殻も籾殻と同様に、重金属イオンを除去する効果を十分に有していることがわかる。なお、そば殻は籾殻と同様に肥料成分を含まないため、処理水に有機物が混入するようなことはなく、処理水の有機物汚染は少ないと予想される。
【0080】
(実験例4:カラム試験)
種々の被処理水、特に酸性の被処理水に対して、本発明の浄化剤が重金属除去効果を発揮することを示すため、以下の実験を行った。
【0081】
3Lのカラム内に、籾殻0.75Lおよび牛糞入りバーク堆肥0.75Lの混合物からなる浄化剤と、珪石1.5Lとを充填し、表2に示す被処理水を導入して、硫酸還元菌を繁殖させるため3週間静置した。その後、被処理水を、滞留時間が50時間になるように、カラムの上方から下方へ連続通水し、カラムから排出された処理水の水質変化を調査した。なお、被処理水は、採取する鉱山や時期を変えた6種類の鉱山浸透水(坑廃水)を用い、それぞれ異なる6つのカラムで試験を行った。表2には、既述の重金属イオンの排水基準値も併せて示す。
【0082】
【表2】
【0083】
それぞれの被処理水について、基準値を超えている重金属イオンの濃度の経時変化を測定した。併せて、硫酸イオン(SO
42−)濃度および化学的酸素要求量(COD)も測定した。結果を
図9(a)〜(f)に示した。なお、
図9(b)〜(f)には、排水基準値を併せて破線で示した。
【0084】
図9(a)の結果から、試験開始から半年以上一貫して、硫酸イオン濃度は導入したときと同程度かそれよりも低い水準を維持し、硫酸還元菌による硫酸イオンの還元が起こっていることが推測される。また、
図9(b)〜(e)の結果から、全てのカラムにおける処理水からは排水基準値以上の重金属は検出されなかった。よって、本実験例の浄化剤によれば、種々の被処理水についても、少なくとも半年以上の長期間にわたって重金属除去の効果を維持できることがわかった。
【0085】
また、
図9(f)の結果からCOD値は試験開始直後を除き排水基準値(120mg/L)を下回っており、有機物汚染も十分に抑制されていることがわかった。