(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば自動車エンジンのベルト式補機駆動装置において、ベルトに張力を付与する一方、その張力付与動作をダンピングすることでベルトの振動(ばたつき)を抑えて安定したトルク伝達を行わせるようにしたオートテンショナはよく知られ、広く一般に使用されている。
【0003】
このオートテンショナは、例えばエンジンに取付固定されかつ軸部(スピンドル)を有する固定部材と、この固定部材の軸部にボス部において外嵌合されて回動可能に支持され、先端部にテンションプーリが回転自在に支持されたアーム部材等の可動部材と、例えばこの可動部材のボス部周りに配置され、一端部が固定部材に、また他端部が可動部材にそれぞれ係止され、捩りトルクにより固定部材に対し可動部材をテンションプーリがベルトを押圧する方向に回動付勢する捩りコイルばねと、可動部材の揺動を減衰する減衰手段とを備えている。
【0004】
図7及び
図8は可動部材としての上記アーム部材10を例示しており、このアーム部材10は、固定部材の軸部に回動可能に外嵌合されて支持されるボス部12と、このボス部12に一体に突設され、先端部にテンションプーリ28を回転自在に支持する軸受支持部21を有するアーム14とを備えている。20はアーム部材10のボス部12に形成されかつ捩りコイルばねの端部(タング)を係止するための貫通孔(又は切欠き)からなるばね係止部、Bはベルトである。
【0005】
ところで、このようなオートテンショナは自動車のエンジンルーム内で使用されることから、その高温環境下での作動信頼性の要求を満たすために、一般に鉄やアルミダイキャスト等の金属材料が用いられている。しかし、この金属材料は重く、自動車の燃費の向上という目的からみれば、このオートテンショナについても軽量化を図ることが重要である。
【0006】
そこで、従来、例えばオートテンショナの可動部材を樹脂製のものとすることが提案されている(例えば特許文献1〜6参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、これら提案例のものでは、いずれも金属材料の可動部材をそのまま樹脂材料に置き換えただけであり、この樹脂材料は軽量化の手段としては有効であるものの、ヤング率が小さくて許容応力も低いため、強度的に不十分であり、実用上の問題がある。
【0009】
特に、可動部材をなす樹脂のヤング率が金属材料よりも小さいことに起因して、アームにおけるプーリの支持強度や支持剛性が十分とはいえず、ベルトからの張力を受けたプーリを可動部材で支持するときのアームの捩れが大きくなり、このアームの捩れによってプーリのミスアラインメント角度が大きくなるという問題は避けられない。
【0010】
尚、可動部材の強度を確保するために、その樹脂の肉厚を増やす手段もあるが、そうすると、厚さの増加分だけ重くなり、本来の軽量化の効果が小さくなり、その目的の達成が不十分となる。
【0011】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的は、上記のようにオートテンショナの可動部材を樹脂製とする場合に、その可動部材の構造に工夫を加えることにより、樹脂材料によって可動部材の軽量化を図りつつ、そのプーリの支持強度を確保して、ミスアラインメント角度の増大を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、この発明では、成形の容易な熱可塑性の繊維強化樹脂材料に着目し、繊維入りの樹脂材料で成形された可動部材本体の表面に、当該熱可塑性の繊維強化樹脂材料からなる補強材を一体的に貼着して、その補強材で可動部材本体を補強する構造とした。
尚、本発明において、「貼着」及び「貼り付ける」とは、「炭素繊維の織物に熱可塑性樹脂を予め含浸させた熱可塑性繊維強化樹脂のプリプレグを可動部本体の表面に配置し、そのプリプレグに熱及び圧力を加えることにより、熱可塑性樹脂が溶融したプリプレグを可動部材本体に接合一体化させること」、又は、「接着剤を用いることによりプリプレグを可動部本体に接着一体化させること」を意味する。
【0013】
具体的には、請求項1の発明では、軸部を有する固定部材と、基端が該固定部材の軸部に揺動可能に支持され、先端にベルトを押圧するプーリが基端の揺動軸心と平行な回転軸心で回転自在に支持された可動部材と、上記固定部材に対し可動部材を上記プーリがベルトを押圧する方向に回動付勢するばねと、上記可動部材の揺動を減衰する減衰手段とを備えたオートテンショナが前提である。
【0014】
そして、上記可動部材は、繊維を配合した合成樹脂からなる可動部材本体の
外側表面の少なくとも一部に、
炭素繊維で強化された熱可塑性の繊維強化樹脂からなる補強材が一体的に貼着されたものとする。
【0015】
この請求項1の発明では、オートテンショナにおける可動部材が、繊維配合の合成樹脂製可動部材本体
の外側表面の少なくとも一部に、
炭素繊維で強化された熱可塑性の繊維強化樹脂からなる補強材を一体的に貼着したものであるので、金属材料を用いた場合に比べ可動部材の重さを軽くすることができ、オートテンショナの軽量化を図ることができる。
【0016】
しかも、繊維配合の合成樹脂製可動部材本体
の外側表面の少なくとも一部に、熱可塑性の
炭素繊維強化樹脂からなる補強材が一体的に貼着されることで、その補強材により可動部材本体が補強されて、可動部材自体の強度を確保することができ、プーリに対する支持強度や支持剛性を高くしてミスアラインメント角度を小さくすることができる。
【0017】
また、補強材が熱可塑性の
炭素繊維強化樹脂であることで以下の効果が得られる。すなわち、繊維強化樹脂としては、一般的には、例えばエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂に炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の繊維を組み合わせたものが知られており、可動部材本体表面を補強する場合には、このような炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の織物に半硬化の熱硬化性樹脂を予め含浸させたプリプレグを成形し、そのプリプレグを可動部材本体表面上に配置して加熱及び加圧することで、熱硬化性樹脂を架橋反応により硬化させるようになっている。そのとき、樹脂の硬化時間として2時間程度と長い時間が必要であるので、量産性に問題がある。
【0018】
これに対し、本発明で用いる熱可塑性の
炭素繊維強化樹脂は、加熱による硬化が不要であり、可動部材本体を成形した後、その表面に後加工で熱可塑性
の炭素繊維強化樹脂からなるプリプレグを貼り付けて補強材とすることができ、製造時間を例えば10分程度に大幅に短縮して、オートテンショナの量産性を確保することができる。
【0019】
請求項2の発明では、上記可動部材本体の
外側表面に複数の補強材が積層状に貼着されているものとする。このことで、可動部材本体に対する補強効果を高めることができる。
【0020】
請求項3の発明では、上記可動部材本体を形成する合成樹脂は、ナイロン系樹脂、フェノール系樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)の少なくとも1種類からなることを特徴とする。
【0021】
この請求項3の発明では、補強材の貼着によって補強されかつ軽量化された可動部材が得られる。
【0022】
請求項4の発明は、請求項1のオートテンショナの可動部材を製造する方法であって、可動部材本体を成形した後、可動部材本体の
外側表面の少なくとも一部に、
炭素繊維で強化された熱可塑性の繊維強化樹脂のプリプレグを貼り付けることにより、プリプレグを補強材として一体化することを特徴とする。
【0023】
この請求項4の発明では、可動部材の製造の際、可動部材本体が成形された後、その可動部材本体の
外側表面の少なくとも一部に
炭素繊維で強化された熱可塑性の繊維強化樹脂からなるプリプレグが貼り付けられ、このプリプレグにより補強材が可動部材本体
の外側表面に一体化される。このことで、オートテンショナの可動部材を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、請求項1の発明によると、オートテンショナの可動部材を、繊維を配合した合成樹脂からなる可動部材本体と、その
外側表面の少なくとも一部に一体的に貼着され、
炭素繊維で強化された熱可塑性の繊維強化樹脂からなる補強材とを備えたものとしたことにより、樹脂製の可動部材によって、オートテンショナの軽量化を図るとともに、補強材による可動部材本体の補強により可動部材自体の強度を確保することができ、プーリに対する支持強度や支持剛性を高くしてミスアラインメント角度を小さくすることができる。また、可動部材本体の成形後の
外側表面に後加工で熱可塑性
の炭素繊維強化樹脂からなるプリプレグを貼り付けて補強材とすることができるので、製造時間を大幅に短縮してオートテンショナの量産性を確保することができる。
【0025】
請求項2の発明によると、補強材を複数層としたことにより、補強材の補強効果を高めることができる。
【0026】
請求項3の発明によると、可動部材本体を形成する合成樹脂は、ナイロン系樹脂、フェノール系樹脂、ポリフェニレンサルファイドの少なくとも1種類としたことにより、補強材の貼着によって補強されかつ軽量化された可動部材が得られる。
【0027】
請求項4の発明によると、請求項1のオートテンショナの可動部材を製造する場合に、可動部材本体を成形した後、可動部材本体の
外側表面の少なくとも一部に、
炭素繊維で強化された熱可塑性の繊維強化樹脂からなるプリプレグを貼り付け補強材として一体化することにより、オートテンショナの可動部材を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0030】
図1において、1は本発明の実施形態に係るオートテンショナであって、このオートテンショナ1は、例えば車両に搭載されるエンジンの補機駆動装置(図示せず)のベルト伝動システムに用いられている。
【0031】
上記補機駆動装置は、図示しないが、例えば車載エンジンのクランク軸に取り付けられたVリブドプーリからなるクランクプーリ、空調機用コンプレッサ(補機)の回転軸に取り付けられた同様のコンプレッサプーリ、パワーステアリング用ポンプ(補機)の回転軸に取り付けられた同様のPSポンププーリ、オルタネータ(補機)の回転軸に取り付けられた同様のオルタネータプーリ、同様のアイドラプーリ、及び、冷却ファンを回転駆動するための平プーリからなるファンプーリを備え、これらプーリ間にVリブドベルトからなる伝動ベルトB(
図1及び
図2で仮想線にて示す)が、上記Vリブドプーリからなる各プーリにあってはベルトB内面をプーリに接触させた正曲げ状態で、また平プーリからなるファンプーリにあってはベルトB外面をプーリに接触させた逆曲げ状態でそれぞれ巻き付けられて、いわゆるサーペンタインレイアウトで巻き掛けられており、エンジンの回転によりベルトBを各プーリ間で走行させて各補機を駆動するようにしている。
【0032】
上記ベルトBにおいて、プーリ間に位置するいずれかのスパンにアームタイプの上記オートテンショナ1が配置されており、このオートテンショナ1により、上記スパンをベルトB外面側から押圧してベルト張力を自動的に調整するようにしている。
【0033】
上記オートテンショナ1は、エンジンに取付固定される固定部材3と、この固定部材3に基端で揺動軸心O1回りに揺動可能に支持された可動部材10と、この可動部材10の揺動軸心O1に対しオフセットした部分である先端部(後述する軸受支持部21)に、可動部材10基端の揺動軸心O1と平行な回転軸心O2で回転自在に軸支され、ベルトBを逆曲げ状態で押圧する平プーリからなるテンションプーリ28と、捩りトルクにより可動部材10をテンションプーリ28がベルトBを押圧するベルト押圧方向に回動付勢する捩りコイルばね30と、上記可動部材10の揺動を減衰させる3つの減衰手段とを備えている。このオートテンショナ1は、固定部材3の後述するスピンドル5のエンジンからの取付高さと、テンションプーリ28のエンジンからの高さが略同じ高さ位置にある並列型のものとされている。
【0034】
上記固定部材3は樹脂製のもので、例えばナイロン系樹脂やフェノール系樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂等からなる。尚、これらの樹脂にガラス繊維等の短繊維を混入して補強することも可能である。
【0035】
固定部材3は、一端(
図1で上端)に開口する有底円筒状(カップ状)のリヤカップ部4と、このリヤカップ部4内の底部に同心状に一体に立設され、先端部がリヤカップ部4の開口から突出するスピンドル5(軸部)とを備えている。このスピンドル5は、その中心部に小径の中心孔5aが形成された中空円筒状のものである。リヤカップ部4の底部外周面には複数の取付部6,6,…(
図1では1つのみ示している)が一体に突設されており、この各取付部6において、図外の取付ボルトにより固定部材3をエンジンに取付固定するようにしている。
【0036】
また、図示しないが、リヤカップ部4の側壁には、その開口側から切り欠いた貫通孔又は切欠きからなるばね係止部が形成されている。
【0037】
一方、可動部材10は、一端(
図1の下端)に開口する有底円筒状のフロントカップ部11を備え、このフロントカップ部11の外径はリヤカップ部4と略同径とされている。フロントカップ部11の底部外面の中心部は、後述するスラストワッシャ34やプレート部材36を収容するために円形状に凹陥されている。また、フロントカップ部11の側壁には、その開口側から切り欠いた貫通孔(又は切欠き)からなるばね係止部20が形成されている。
【0038】
上記フロントカップ部11内の底部には円筒状のボス部12がフロントカップ部11の開口から突出するように同心状に一体に突設され、このボス部12内には、フロントカップ部11の底壁を貫通するボス孔13が形成されている。上記ボス部12は固定部材3のスピンドル5にボス部12先端側から外嵌合されており、このことで可動部材10は基端のボス部12にて固定部材3のスピンドル5に後述のメタルブッシュ32,32を介して揺動可能(回動可能)に支持され、リヤカップ部4とフロントカップ部11とは各々の開口を対向配置して略密閉状の円筒形状を形成している。
【0039】
図2〜
図4にも示すように、上記フロントカップ部11の外周部には、その底部からボス部12の中心(揺動軸心O1)に対し離れる方向に外側に延びるアーム14が形成され、このアーム14の先端部は半円形状で、この先端部の固定部材3側の面には軸受支持部21が設けられており、これらフロントカップ部11、アーム14及び軸受支持部21は樹脂により一体に形成されている。
【0040】
上記軸受支持部21は外径の異なる2段円筒状のもので、その中心には、可動部材10の揺動軸心O1と平行に延びる有底のねじ孔22が形成されている。このねじ孔22には、固定部材3と同じ側(
図1で下側)から挿入されたプーリ軸としての取付ボルト25が螺合されて締結されており、この取付ボルト25の締結によって上記テンションプーリ28がアーム14先端の軸受支持部21にその外周の段部上に位置する2つの軸受ベアリング23,23を介して回転自在に取付支持されている。このことで、テンションプーリ28は、ボス部12から偏心した取付ボルト25上の位置に支持されている。尚、24は軸受ベアリング23,23を軸方向の側方から覆いかつワッシャを兼ねる円板状のダストシールドで、取付ボルト25により軸受ベアリング23,23と共に軸受支持部21に取り付けられている。
【0041】
上記可動部材10におけるアーム14の幅方向両側面は、円筒状のフロントカップ部11に対し接線方向に接続されており、揺動軸心O1に沿った方向から見てアーム14は先細りテーパ状の三角形状となっている。アーム14は、その固定部材3と反対側の面がフロントカップ部11の底部外面と略面一な平面である板状のものとされている。また、フロントカップ部11のアーム側外周部は他の部分と異なり、そのアーム側外周面からアーム幅方向両側面に沿ってアーム14先端側に延びるように膨出して厚肉とされ、そのアーム側外周部は、テンションプーリ28との干渉を避けるためにそのテンションプーリ28の外周面に沿って円弧状に凹陥形成されている。また、アーム14の固定部材3側の基端部には、テンションプーリ28の外周側部との干渉を避けるためのプーリクリアランスを形成する円弧状凹部14aが形成されている。
【0042】
上記捩りコイルばね30は、上記可動部材10のボス部12周りに両端部(タング)を半径方向外側に突出させた状態で配置されている。その一方の端部は上記リヤカップ部4のばね係止部に、また他方の端部はフロントカップ部11のばね係止部20にそれぞれ係止されている。また、捩りコイルばね30はリヤカップ部4とフロントカップ部11との間に軸方向に圧縮されて介装されており、この捩りコイルばね30のコイル径が拡大する方向の捩りトルクにより、可動部材10を上記テンションプーリ28がベルトBを押圧するベルト押圧方向に回動付勢するようになっている。
【0043】
さらに、上記可動部材10の揺動を減衰させる3つの減衰手段について説明すると、まず、上記固定部材3のスピンドル5と可動部材10のボス部12との間には円筒状の2つのメタルブッシュ32,32が介装されている。この2つのメタルブッシュ32,32はそれぞれボス孔13に対し、ボス孔13の両端開口から両ブッシュ32,32間に少しの間隔があくように圧入されて回動不能に一体に嵌合固定されている。そして、上記各ブッシュ32は、例えば銅等の焼結材からなる金属製薄肉円筒体の内周面に潤滑用の樹脂層を形成したものであり、スピンドル5に外嵌合された状態で、各ブッシュ32内周面の樹脂層の樹脂をスピンドル5外周面に転移させ、スピンドル5と可動部材10のボス部12(ブッシュ32)との間を潤滑油の供給なしでドライ潤滑し、かつ可動部材10の回動を減衰させるようにしている。
【0044】
また、上記可動部材10のボス部12周りには、2つ目の減衰手段としての樹脂製のスプリングサポート33が配置されている。このスプリングサポート33は、ボス部12及び捩りコイルばね30の間に配置されかつ捩りコイルばね30の捩りトルクの反力によりボス部12外周面に押し付けられる略円筒状の摺接部33aと、この摺接部33aのボス部12先端側の端部から半径方向外側に突出し、捩りコイルばね30に軸方向に押圧されてリヤカップ部4の内底面に押付固定されるフランジ部33bとを有する。そして、捩りコイルばね30により、スプリングサポート33の摺接部33aが押圧されて可動部材10のボス部12外周面に、またボス部12も押圧されてブッシュ32にそれぞれ押し付けられることで、可動部材10の回動を減衰させる。
【0045】
さらに、上記固定部材3のスピンドル5の先端部は、ボス部12内のボス孔13(フロントカップ部11の底部)を貫通してその外面側に突出し、この突出部分には、可動部材10の抜止めのための金属からなる円板状のプレート部材36がネジ/ナット止め(ボルト37及びナット38の締結)により回転不能に固定止着されている。このプレート部材36とフロントカップ部11の外面(ボス部12の端面)との間には3つ目の減衰手段としての小径の樹脂製のスラストワッシャ34が挟持されており、このスラストワッシャ34がフロントカップ部11外面に摺接することで、可動部材10の回動を減衰させる。
【0046】
尚、上記スラストワッシャ34及びプレート部材36は、上記フロントカップ部11の底部外面の凹陥部分内に収容されている。
【0047】
上記可動部材10は、可動部材本体16と、この可動部材本体16表面の所定部位に一体的に貼着された補強材17,17,…とを備えている。可動部材本体16は可動部材10全体の形状をなす樹脂製のもので、例えばナイロン系樹脂やフェノール系樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂等の少なくとも1種類からなり、これらの樹脂にガラス繊維等の短繊維が配合されている。
【0048】
そして、上記可動部材本体16に対し、その表面の一部に上記複数枚の補強材17が積層状に一体的に貼着されている。この補強材17の貼着部分は、可動部材本体16の形状において相対的に他の部分よりも強度が低い部分であり、
図2〜
図4においてドットで塗り潰した部分にて示している。具体的には、アーム14全体、フロントカップ部11においてアーム14と反対側の一部を除く外周面及び底面に補強材17が貼着されている。
【0049】
この補強材17は、例えば炭素繊
維で強化された熱可塑性の繊維強化樹
脂(CFRTP:Carbon Fiber Reinforced ThermoPlasticという)からなる例えば厚さ0.2mm程度の薄肉シート状又はフィルム状のもので、
図5に示すように、可動部材本体16の表面に例えば溶融状態で接合一体化されている。この補強材17をなす熱可塑性樹脂は、例えば熱可塑性エポキシ樹脂等が用いられる。
【0050】
上記補強材17は、可動部材本体16表面の1つの貼り付け部位で同じ枚数を多層に積層して貼り付けてもよく、或いは、貼り付け部位に応じて貼り付け枚数(積層数)を異ならせてもよく、貼り付け部位の補強の要求に応じて適宜選択することができる。さらには、区補強材17の貼り付け方向(その繊維の延びる方向)を必要に応じて変えることもできる。
【0051】
このような可動部材10を製造するときには、以下のように行うのが好ましい。すなわち、まず、可動部材本体16を成形する。この成形は例えば射出成形等で行う。その後、熱可塑性の繊維強化樹脂のプリプレグ、つまり炭素繊
維の織物に熱可塑性樹脂を予め含浸させたものを用意し
、複数枚のプリプレグを上記成形後の可動部材本体16の表面の所定部位に層状に貼り付け、そのプリプレグに熱及び圧力を加えて可動部材本体16に接着させることにより、プリプレグを補強材17として一体化すればよい。尚、プリプレグを接着剤を用いて接着してもよい。
【0052】
したがって、この実施形態においては、エンジンの運転中、補機駆動装置により各補機(空調機用コンプレッサ、パワーステアリング用ポンプ、オルタネータ、ファン)がベルトBを介して駆動されているとき、オートテンショナ1の捩りコイルばね30により可動部材10が回動付勢され、この付勢力によりアーム14先端のテンションプーリ28が伝動ベルトBのスパンを押圧し、このことでベルトBの張力が付与される。
【0053】
また、ベルトBの張力の変化により可動部材10のアーム14がテンションプーリ28と共に固定部材3のスピンドル5回りに揺動(振動)すると、その揺動が3つの減衰手段、つまりメタルブッシュ32,32、スプリングサポート33及びスラストワッシャ34の摺動抵抗により制動減衰され、ベルトBの張力が自動的に調整される。
【0054】
そして、上記可動部材10の全体、つまりフロントカップ部11、アーム14及び軸受支持部21が樹脂により一体に形成されているので、それらを金属材料で構成した場合に比べ可動部材10の重さを軽量にすることができる。また、固定部材3も樹脂であるので、この固定部材3に可動部材10を組み付けたオートテンショナ1全体の軽量化を図ることができ、自動車の燃費の向上に寄与することができる。
【0055】
しかも、上記樹脂製の可動部材10における可動部材本体16表面の所定部位に、
炭素繊維で強化された熱可塑性の繊維強化樹脂
(CFRTP)からなるシート状又はフィルム状の複数枚の補強材17,17,…が積層状に一体的に貼着されているので、その補強材17,17,…により可動部材本体16が補強される。このことで、可動部材10自体の強度を確保することができ、テンションプーリ28に対する支持強度や支持剛性を高くしてミスアラインメント角度を小さくすることができる。
【0056】
また、上記補強材17が熱可塑性の繊維強化樹脂であり、この熱可塑性樹脂は加熱による硬化が不要であるので、熱硬化性の繊維強化樹脂のプリプレグを可動部材本体16表面上に配置して加熱及び加圧し、その熱硬化性樹脂を架橋反応により硬化させる場合のように、樹脂の硬化までに2時間程度の長い時間は必要なく、上記のように、成形後の可動部材本体16の表面に後加工で熱可塑性繊維強化樹脂のプリプレグを貼り付けて補強材17とすればよく、製造に要する時間を例えば10分程度に大幅に短縮して、延いてはオートテンショナ1の量産性を確保することができる。
【0057】
(その他の実施形態)
尚、上記実施形態において、可動部材本体16(可動部材10)の形状や、その表面に貼り付けられる補強材17の貼り付け部位は例示であり、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、必要に応じて適宜変更することができる。要は、可動部材本体16が繊維を配合した合成樹脂からなっていて(形状や構造はどのようなものでもよい)、その表面の少なくとも一部に、
炭素繊維で強化された熱可塑性の繊維強化樹脂からなる少なくとも1層の補強材17が一体的に貼着されていればよい。
【0058】
また、上記実施形態のように樹脂製の固定部材3を金属製に代え、可動部材10のみを樹脂で構成してもよい。
【0059】
さらに、上記実施形態では、本発明を並列型のオートテンショナ1に適用したものであるが、本発明は、テンションプーリ28が固定部材3のスピンドル5よりも高い位置にあるオフセット型のものに対しても適用することができる。
【実施例】
【0060】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。
【0061】
(実施例)
ナイロン系樹脂(ナイロン66)にガラス繊維の短繊維が30wt%配合されたものを射出成形して、上記実施形態(
図2〜
図4参照)に示すような、オートテンショナの可動部材本体を作製した(この
図2〜
図4に示す可動部材本体の形状を「補強形状」としている)。そのヤング率Eは10000MPaであり、ボアソン比υは0.4であった。
【0062】
この可動部材本体の表面に、補強材としてCFRTP(熱可塑性炭素繊維強化樹脂)の3層のプリプレグを貼り付け、主応力方向を補強した。このCFRTPのプリプレグの耐熱樹脂の含有率は33%、成形厚みは0.2mm、カーボンファイバのヤング率Eは240000MPa、耐熱樹脂のヤング率Eは10000MPa、ボアソン比υは0.4である。
【0063】
(比較例1)
上記
図7及び
図8に示す形状(この形状を「オリジナル形状」としている)を有する従来のアーム部材(可動部材)とした。材料は上記実施例の樹脂材料とは異なり、アルミニウム合金とし、そのダイカストによりアーム部材を成形した。
【0064】
(比較例2)
比較例1と同様に、
図7及び
図8に示すオリジナル形状のアーム部材(可動部材)とした。但し、材料は上記実施例における可動部材本体の樹脂材料と同じで、ナイロン66にガラス繊維の短繊維が30wt%配合されたものを射出成形した。また、実施例とは異なり、アーム部材の表面にCFRTP(熱可塑性炭素繊維強化樹脂)のプリプレグは貼り付けられていない。
【0065】
(比較例3)
実施例と同様に、
図2〜
図4に示す補強形状の可動部材とした。その材料は実施例における可動部材本体の樹脂材料と同じで、ナイロン66にガラス繊維の短繊維が30wt%配合されたものを射出成形した。また、実施例とは異なり、可動部材の表面にCFRTP(熱可塑性炭素繊維強化樹脂)のプリプレグは貼り付けられていない。
【0066】
以上の各材料の可動部材につき、以下の手順で重量、ミスアライメント(プーリ面の回転角度)及び応力を求めた。
【0067】
(1)3次元CADにより可動部材の形状を定義し、その体積を出力するとともに、各使用材料の密度により重量を算出する。
【0068】
(2)次いで、上記定義した形状、各使用材料の材料定数、及び使用条件により求めた荷重入力を条件としてFEM解析により応力、プーリ面の回転角度を出力する。
【0069】
(3)そして、
(A)ミスアライメントとして、プーリ面の回転角度が基準以下であり、
(B)応力として、その最大値が各使用材料の許容応力以下である
という制約条件を設定し、この制約条件(A),(B)を満足しない場合には、形状を変更した後に上記(1),(2)の処理を繰り返す。
【0070】
そして、ミスアライメントについては、許容回転角度を基準とし、それに対する比率を算出した。
【0071】
以上の実施例及び比較例1〜3についてのベース材質、ベース比重、CFRTP貼付層数、重量比率(比較例を1としたときの比率)、ミスアライメント比率についての結果を
図6に示す。
【0072】
この
図6について考察すると、比較例2は比較例1と同じオリジナル形状のままで材料をアルミダイカストから樹脂に置き換えたものであり、比較例1に対し重量比率が略半減して大きな重量低減効果があるものの、ミスアライメントの制約を満足することが全くできていない。
【0073】
また、比較例3は比較例2と同じ材料で形状をオリジナル形状から補強形状に変えたものであり、比較例2に対し重量がやや増加している。そして、比較例2よりもミスアライメント比率が減少しているが、未だその制約を満たしていない。
【0074】
これに対し、実施例は補強形状の可動部材本体にCFRTPを貼り付けたものであり、比較例1と比べて30%の重量低減効果が得られかつミスアライメントの制約も満足している。このことから、本発明が有効であることが判る。