特許第5773678号(P5773678)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5773678
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】積層鉄心の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/02 20060101AFI20150813BHJP
   H02K 1/18 20060101ALI20150813BHJP
   H02K 1/22 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   H02K15/02 H
   H02K15/02 F
   H02K1/18 B
   H02K1/18 C
   H02K1/22 A
   H02K15/02 G
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-29037(P2011-29037)
(22)【出願日】2011年2月14日
(65)【公開番号】特開2012-170225(P2012-170225A)
(43)【公開日】2012年9月6日
【審査請求日】2014年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000144038
【氏名又は名称】株式会社三井ハイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100127155
【弁理士】
【氏名又は名称】来田 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100163267
【弁理士】
【氏名又は名称】今中 崇之
(72)【発明者】
【氏名】牧 清久
【審査官】 鈴木 重幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−063205(JP,A)
【文献】 特開2006−211822(JP,A)
【文献】 特開2007−325368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K15/00−15/02
H02K15/04−15/16
H02K 1/00− 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定形状に加工された帯状鉄心片を螺旋巻して形成された巻積層鉄心の軸方向両端に、軸心に対して垂直な端面を有する被覆層を備えた積層鉄心の製造方法であって、
1)前記巻積層鉄心の上下にそれぞれ覆い金型を介して上型と下型の間で該巻積層鉄心を挟持し、前記上型又は前記下型に設けられた樹脂溜めポットから樹脂を前記上下の覆い金型と前記巻積層鉄心の隙間に充填して前記被覆層を形成すること、
2)前記上下の覆い金型の周囲には、前記巻積層鉄心の端面の半径方向外側を覆い、解放側端部に拡径するテーパーがそれぞれ形成された第1、第2の樹脂漏れ防止壁が設けられ、更に、前記巻積層鉄心の端面の半径方向内側を覆い、前記巻積層鉄心の上端及び下端の形状に応じて円周方向に勾配を有して内部の樹脂を漏らさない第3、第4の樹脂漏れ防止壁が設けられていること、
3)前記被覆層を形成する樹脂が充填される前記上下の覆い金型の天井面及び底面は、前記巻積層鉄心の軸心に対して垂直かつ前記天井面と前記底面が平行となっていること、
4)前記巻積層鉄心には、前記樹脂溜めポットから前記巻積層鉄心の一方側に充填される樹脂を他方側に導く挿通孔が形成されていることを特徴とする積層鉄心の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の積層鉄心の製造方法において、前記挿通孔は前記巻積層鉄心の半径方向外側領域に複数形成され、内部に隙間を有して永久磁石を入れる磁石挿入孔であることを特徴とする積層鉄心の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の積層鉄心の製造方法において、前記磁石挿入孔に入れた前記永久磁石が前記磁石挿入孔から下方に突出するのを防ぐストッパー部が前記巻積層鉄心又は下側に配置された前記覆い金型に設けられ、しかも前記磁石挿入孔の下端と前記ストッパー部との間には前記樹脂が流れる隙間が設けられていることを特徴とする積層鉄心の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1記載の積層鉄心の製造方法において、前記被覆層は、前記巻積層鉄心の端面を全面的に覆うことを特徴とする積層鉄心の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1記載の積層鉄心の製造方法において、前記被覆層は、前記巻積層鉄心の端面を円弧角110〜150度の範囲で覆うことを特徴とする積層鉄心の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1記載の積層鉄心の製造方法において、前記下側に配置された覆い金型には、前記巻積層鉄心の中心に形成されている軸孔に嵌合するシャフトが設けられていることを特徴とする積層鉄心の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1記載の積層鉄心の製造方法において、前記下側に配置された覆い金型は、該積層鉄心を搬送する搬送治具と一体化していることを特徴とする積層鉄心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻積層鉄心の積層方向両端面の段差を解消し、高効率で高品質の製品(積層鉄心)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大径の積層鉄心の各鉄心片を、幅広の鉄心材料から打ち抜き加工して形成すると、材料歩留りが悪いので、特許文献1、2に記載のように、細幅の条材から複数のスロットを有する円弧状のセグメントが連結部で連結された帯状鉄心片を製造し、この帯状鉄心片を同心上に螺旋巻して円筒形状に積層して形成する巻積層鉄心が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−142065号公報
【特許文献2】特開2010−193715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この螺旋状に巻かれて積層された巻積層鉄心には、セグメントの巻き始めと、巻き終わりの部分にセグメントの板厚分の段差が必然的に発生する構造となっていた。
この段差は、例えば固定子鉄心において、ハウジング等に巻積層鉄心の端面側を基準として装着される場合では、巻積層鉄心の端面に発生する段差分の隙間が、巻積層鉄心とハウジング座面との間に発生し、巻積層鉄心を座り良く固定することが困難となる。
また、巻積層鉄心の端面がハウジング座面に正しく装着できないため、巻積層鉄心が若干倒れた格好となり、巻積層鉄心の外周部及び内周部に倒れが発生する。
【0005】
以上のような不具合を回避するためには、ハウジング側の取付け座面を巻積層鉄心の端面に合わせて螺旋状に加工する必要があり、コスト高の原因となる。
他方、回転子の場合、回転軸に巻積層鉄心を固定する際、端面を拘束する構造が多く用いられているが、巻積層鉄心の端面に段差があると、巻積層鉄心の端面と拘束する部材との間に隙間が発生し、強固かつ精度良く巻積層鉄心を挟持することが難しい。従って、固定子のハウジングと同様、拘束する部材の接触面には螺旋形状化が必要となってくる。
【0006】
また、永久磁石式電動機用の回転子の場合は、巻積層鉄心内に永久磁石を挿入し、接着剤や溶融樹脂等で固定する構造の回転子積層鉄心が多く提案されているが、固定用樹脂を磁石挿入孔に充填する場合も、治具と積層鉄心との間に隙間が発生すると、そこから樹脂漏れ等の不都合が生じるので、前述のように段差を吸収する構造が必要となり、治具コストの高騰を招く恐れがある。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、巻積層鉄心の軸方向両端面の段差部の問題を解消し、高品質なロータ又はステータとして使用できる積層鉄心の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的に沿う発明に係る積層鉄心の製造方法は、所定形状に加工された帯状鉄心片を螺旋巻して形成された巻積層鉄心の軸方向両端に、軸心に対して垂直な端面を有する被覆層を備えた積層鉄心の製造方法であって、
1)前記巻積層鉄心の上下にそれぞれ覆い金型を介して上型と下型の間で該巻積層鉄心を挟持し、前記上型又は前記下型に設けられた樹脂溜めポットから樹脂を前記上下の覆い金型と前記巻積層鉄心の隙間に充填して前記被覆層を形成すること、
2)前記上下の覆い金型の周囲には、前記巻積層鉄心の端面の半径方向外側を覆い、解放側端部に拡径するテーパーがそれぞれ形成された第1、第2の樹脂漏れ防止壁が設けられ、更に、前記巻積層鉄心の端面の半径方向内側を覆い、前記巻積層鉄心の上端及び下端の形状に応じて円周方向に勾配を有して内部の樹脂を漏らさない第3、第4の樹脂漏れ防止壁が設けられていること、
3)前記被覆層を形成する樹脂が充填される前記上下の覆い金型の天井面及び底面は、前記巻積層鉄心の軸心に対して垂直かつ前記天井面と前記底面が平行となっていること、
4)前記巻積層鉄心には、前記樹脂溜めポットから前記巻積層鉄心の一方側に充填される樹脂を他方側に導く挿通孔が形成されていることを特徴とする
【0009】
発明に係る積層鉄心の製造方法において、前記挿通孔は前記巻積層鉄心の半径方向外側領域に複数形成され、内部に隙間を有して永久磁石を入れる磁石挿入孔であるのが好ましい。
また、発明に係る積層鉄心の製造方法において、前記磁石挿入孔に入れた前記永久磁石が前記磁石挿入孔から下方に突出するのを防ぐストッパー部が前記巻積層鉄心又は下側に配置された前記覆い金型に設けられ、しかも前記磁石挿入孔の下端と前記ストッパー部との間には前記樹脂が流れる隙間が設けられているのが好ましい。
【0010】
発明に係る積層鉄心の製造方法において、前記被覆層は、前記巻積層鉄心の端面を全面的に覆ってもよいし、前記巻積層鉄心の端面を円弧角110〜150度の範囲で覆ってもよい。
【0011】
そして、発明に係る積層鉄心の製造方法において、前記下側に配置された覆い金型には、前記巻積層鉄心の中心に形成されている軸孔に嵌合するシャフトが設けられるのが好ましい。更には、発明に係る積層鉄心の製造方法において、前記下側に配置された覆い金型は、該積層鉄心を搬送する搬送治具と一体化しても、搬送治具とは分離していてもよい。
【0012】
【0013】
また、参考例に係る積層鉄心の製造方法は、所定形状に加工された帯状鉄心片を螺旋巻して巻積層鉄心を形成し、該巻積層鉄心の軸方向両端のいずれか一方又は双方に、軸心に対して垂直な端面を有する樹脂製の被覆層を形成している。これによって、積層鉄心の搬送、加工、取付けが容易となる。
【0014】
参考例に係る積層鉄心は、所定形状に加工された帯状鉄心片を螺旋巻して形成された巻積層鉄心の端部の上又は下のいずれか一方又は双方に、軸心に対して垂直な端面を有する被覆層を備えた積層鉄心であって、
前記被覆層は樹脂からなって、該被覆層は前記巻積層鉄心の内側にアンカーで固定されている。
【0015】
参考例に係る積層鉄心において、前記巻積層鉄心には半径方向外側領域に永久磁石を挿入する磁石挿入孔が形成され、該磁石挿入孔に充填されている樹脂が前記アンカーとして働くようにするのが好ましい。
【0016】
参考例に係る積層鉄心において、前記上被覆層及び前記下被覆層の少なくとも一方は、前記巻積層鉄心の軸方向端部の一部を前記帯状鉄心片の巻き終わり又は巻き始めから110〜150度の範囲で覆っていてもよいし、前記上被覆層及び前記下被覆層の少なくとも一方は、前記巻積層鉄心の軸方向端部の一部を全円周に渡って覆っていてもよい。
【0017】
参考例に係る積層鉄心は、所定形状に加工された帯状鉄心片を螺旋巻して形成された巻積層鉄心の端部の上又は下のいずれか一方又は双方に、軸心に対して垂直な端面を有する樹脂製の被覆層を備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る積層鉄心の製造方法は、巻積層鉄心の端部を樹脂で被覆して端面を巻積層鉄心の軸心に対して直交させた平面としたので、巻積層鉄心を水平台におくと、軸心が従来のように傾かず垂直とな、その後の積層鉄心の組立作業等、搬送が容易となる。
【0019】
特に、本発明に係る積層鉄心の製造方法を、内部に永久磁石を埋め込む回転子に適用した場合には、永久磁石固定のための樹脂充填時に、被覆層の形成を行うことができ、合理的である。
また、通常、回転子の軸方向端部に設けられるエンドプレートと巻積層鉄心の端面との密着が図れ、より強固に巻積層鉄心を把持することができるので、回転子としての剛性を十分に保持でき、しかも搬送も容易となる。
【0020】
また、本発明に係る積層鉄心の製造方法を固定子に適用した場合は、ハウジング内に着座させた場合の接触面が全面接触となり、固定子をハウジングに強固に締め付けても鉄心の変形が起こり難く、良好な取付けが可能となる。
また、ハウジング内の着座面に段差を設ける等の加工を施す必要もなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る積層鉄心の製造方法によって製造された積層鉄心の側面図である。
図2】同積層鉄心の平面図である。
図3】同積層鉄心に使用する巻積層鉄心の平面図である。
図4】巻積層鉄心の製造方法の説明図である。
図5】同積層鉄心の製造方法の説明図である。
図6図5における矢視A−A´の要部断面図である。
図7図5における矢視B−B´の要部断面図である。
図8】本発明の第2の実施の形態に係る積層鉄心の製造方法によって製造された積層鉄心の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
続いて、図面を参照しながら、本発明を具体化した実施の形態について説明する。
図1図2は、本発明の第1の実施の形態に係る積層鉄心の製造方法によって製造された積層鉄心10を示すが、図3に示す巻積層鉄心11を使用している。巻積層鉄心11は図3図4に示すように所定形状(通常扇形、円弧形)に形成され、連結部12で連結されたセグメント鉄心片13を多数有する帯状鉄心片14を連結部12で所定角度折り曲げて螺旋状に巻回して形成されている。この実施の形態では、積層鉄心10は回転子に用いられるので、各セグメント鉄心片13に2つ(1又は3以上でもよい)の磁石挿入孔(挿通孔の一例)15を有している。
【0023】
組み立てられた巻積層鉄心11において、磁石挿入孔15は中央の軸孔16を中心にその半径方向外側領域に複数(この実施の形態では10)設けられ、図5に示すように、それぞれの磁石挿入孔15には内部に隙間を有して永久磁石(未磁化又は磁化されている)17が配置されて、樹脂Rで樹脂封止されている。
この巻積層鉄心11においては、軸方向の一方に帯状鉄心片14の巻き始め19が、軸方向の他方に帯状鉄心片14の巻き終わり20が設けられているので、そのままの状態で水平台に置くと軸心が水平台に対して傾くことになる。
【0024】
このため、巻積層鉄心11の軸方向の両端には、軸心24に対して垂直な端面を有する被覆層21、22が設けられ、この積層鉄心10を水平台の上に置いた場合、積層鉄心10の側面稜線23、軸心24が水平台に対して垂直となっている。従って、被覆層21、22は巻積層鉄心11の巻き始め19、巻き終わり20の段部に形成されていると共に、全体的に円周方向に断面楔状となっている。なお、楔状の被覆層21、22は帯状鉄心片14の積層方向に傾斜している。被覆層21、22が極端に薄いと剥がれ易いので、最も薄い部分で0.5t(帯状鉄心片14の厚みをtとする)以上とするのが好ましく、最も厚い部分でも4t以下(更に好ましくは2t以下)とするのが好ましい。
【0025】
被覆層21、22は板状のまま、巻積層鉄心11の上に被さると、接合強度が弱く剥がれる場合があるので、巻積層鉄心11の磁石挿入孔15に対してアンカーが形成されている。具体的には、磁石挿入孔15に挿入される永久磁石17は熱硬化性樹脂を用いて樹脂封止されるので、巻積層鉄心11の両端面を樹脂型(以下に説明する覆い金型25、26と同じ)で覆って、磁石挿入孔15への樹脂の注入と共に被覆層21、22を形成する。なお、必要に応じて巻積層鉄心11に、端面側に露出する凹部や貫通孔を設けることによって、被覆層21、22のアンカーを強固に設けることができる。
【0026】
この実施の形態では、被覆層21、22の外周の直径が巻積層鉄心11の外径と同一としたが、巻積層鉄心11の外周部に窪み、溝等が有る場合(例えば、特開2008−220170号公報記載)には、窪みの形状に合わせて凹凸を有するのは当然である。また、巻積層鉄心11に重量軽減のための貫通孔又は位置決め用の貫通孔がある場合はピン等によりその部分を避けて被覆層を形成するのが好ましい。また、図2に示すように被覆層21、22の内周は巻積層鉄心11の内形形状より例えば半径方向に1〜4mm程度大きくしてもよい。これは被覆層21、22の内径が巻積層鉄心11の内径と同一であるとこの積層鉄心10にシャフトを通した場合に、被覆層21、22の剥離が生じ易いこと及び製造の容易性からである。なお、被覆層21、22の内径が巻積層鉄心11の内径と同一であってもよい。
【0027】
続いて、図5図7を参照しながら、本発明の一実施の形態に係る積層鉄心の製造方法について説明する。
前述のような方法で、連結部12で連結されたセグメント鉄心片13を有する帯状鉄心片14を巻回して巻積層鉄心11を形成し、全ての磁石挿入孔15内に所定の未励磁の永久磁石(片又は棒)17を入れる。この状態で上下に覆い金型25、26を被せる。覆い金型25、26は巻積層鉄心11の両端部を覆う金型からなって、巻積層鉄心11の軸方向両側に被覆層21、22を形成する隙間を有している。
【0028】
この覆い金型25、26は、半径方向外側に巻積層鉄心11の形状に合わせた第1、第2の樹脂漏れ防止壁27、28を有し、半径方向内側には、巻積層鉄心11の上端及び下端に被さる第3、第4の樹脂漏れ防止壁29、30を備えている。第3、第4の樹脂漏れ防止壁29、30は、それぞれ巻積層鉄心11の上端及び下端の形状に応じて円周方向に勾配が、そして巻き終わり20、巻き始め19に対応する段が設けられ、内部の樹脂を漏らさないようになっている。
【0029】
第1、第2の樹脂漏れ防止壁27、28は、巻積層鉄心11の外側形状に密接してその周縁を覆う形状になっているが、その開放側端部にはテーパー状の拡径部31、32が設けられ、覆い金型25、26の巻積層鉄心11への装着を容易にしている。
【0030】
巻積層鉄心11の下部に装着される覆い金型26には、図7に示すように、磁石挿入孔15にそれぞれ対応して、挿入された永久磁石17が磁石挿入孔15から下方に抜けるのを防止するストッパー部34が設けられている。覆い金型26の内側の底面35は巻積層鉄心11の側面稜線23及び軸心24に対して垂直となっているので、ストッパー部34の高さは円周方向にテーパー状となった巻積層鉄心11の底面の高さに応じて、その高さが変化している。このストッパー部34及び第4の樹脂漏れ防止壁30によって、巻積層鉄心11の軸心24が垂直になるように、巻積層鉄心11を支持し、巻積層鉄心11の下方に樹脂を充填する空間を形成している。なお、ストッパー部34は磁石挿入孔15を跨いで配置され、磁石挿入孔15の下端に樹脂が流れる隙間を有している。
【0031】
一方、図6に示すように、巻積層鉄心11の上部に装着される覆い金型25には、各磁石挿入孔15を跨ぐストッパー部(位置決め部)37が形成されている。このストッパー部37は磁石挿入孔15の円周方向に対して偏って配置されている。そして、各ストッパー部37の高さは円周方向にテーパー状となった巻積層鉄心11の上端に合わせて高さが異なり、覆い金型25の内側に形成される天井面38が巻積層鉄心11の軸心24に対して垂直になるようにしている。なお、天井面38と底面35は平行となっている。
【0032】
従って、この実施の形態においては、このストッパー部37と第3の樹脂漏れ防止壁29によって、覆い金型25の天井面38が巻積層鉄心11の軸心24に対して垂直に保持される。
【0033】
巻積層鉄心11の上側に装着される覆い金型25には、各磁石挿入孔15に樹脂を導く樹脂流路40が設けられている。樹脂流路40は上部が開放の溝41と溝41の半径方向外側にあって下方に連通する丸孔42とによって形成される。この丸孔42は上方拡大のテーパー孔とするのが不要の樹脂の除去が容易となる。
【0034】
このような覆い金型25、26が所定角度位置に装着された巻積層鉄心11を、下型44の所定位置に載置し、図示しないシリンダーを操作して上型45を下げて加圧する。なお、覆い金型26には下型44に係合する位置決め手段を設けて、覆い金型26が所定位置に載置されるようにするのがよい。また、この実施の形態においては、下覆い金型26に巻積層鉄心11の中央に形成されている軸孔16に嵌合するシャフトを設けてもよいし、シャフトを設けた覆い金型(巻積層鉄心11の底に配置される)で巻積層鉄心11の搬送治具を形成してもよい。
【0035】
上型45には、磁石挿入孔15の数に対応して樹脂溜めポット47が設けられている。この樹脂溜めポット47は断面円形の貫通孔からなって、図示しないシリンダーによって昇降するプランジャ48を備え、内部に充填される樹脂(熱硬化性樹脂)を樹脂流路40を介して覆い金型25内に充填できるようになっている。
【0036】
樹脂溜めポット47から押し出された樹脂は、樹脂流路40を介して上側の覆い金型25の空間部(天井面38と巻積層鉄心11との隙間)を充填すると共に、磁石挿入孔15内に浸入して下側の覆い金型26の空間部(底面35と巻積層鉄心11との隙間)に充填される。なお、上型45、覆い金型25、26及び巻積層鉄心11は溶けた樹脂の流動性を確保できるように予め加熱されている。また、覆い金型25、26には内部にあった空気が逃げるベントが形成されて、樹脂が巻積層鉄心11の上部、磁石挿入孔15及び巻積層鉄心11の下部を覆うようになっている。
【0037】
樹脂が硬化した後、上型45を上昇させ、覆い金型25が装着されて樹脂封止された巻積層鉄心11を取り出し、上下の覆い金型25、26を外すと上下に被覆層21、22を有する積層鉄心10が製造される。この積層鉄心10は軸方向両端が、側面稜線23及び軸心24に対して垂直となっているので、水平台の上に置くと軸心24が垂直となり、ハンドリングが容易となる。
【0038】
図8には、巻積層鉄心11の巻き終わり20(又は巻き始め19)の位置から円弧角110〜150度(θ度)の範囲に薄い被覆層50を設け、この領域以外は巻積層鉄心11の端面(上端、下端、又は上端及び下端)を露出させた積層鉄心49を示す。この場合、被覆層50の一端51の厚みは帯状鉄心片14の厚みt(即ち段部の高さ)と一致し、そのまま他端52(即ち角度θ位置)まで、軸心に対して同一高さを維持する。他端52の被覆層50の厚みは、理論上、t×(360−θ)/360となる。
この実施の形態では、被覆層50は巻積層鉄心11の積層方向片側に形成しているが両側に形成することもできる。また、被覆層50と巻積層鉄心11の端面を交互に露出させた形状としてもよい。
【0039】
前記実施の形態は、上型に樹脂溜めポットを設けて樹脂封止を行ったが、下型に樹脂溜めポットを設けて、樹脂封止を行うこともできる。
また、前記磁石挿入孔においては、回転子鉄心について説明したが、内側又は外側に複数の磁極を有する固定子鉄心であっても本発明は適用される。この場合、巻積層鉄心を覆う被覆層は、巻積層鉄心の内側形状及び外側形状の一方又は双方と僅少の隙間を有するのが好ましいが、巻積層鉄心の内側形状又は外側形状と一致させてもよい。
【0040】
前記実施の形態においては、被覆層は巻積層鉄心の軸方向両端の双方に形成されていたが、巻積層鉄心の軸方向いずれか一方に被覆層が形成され、他方には被覆層を形成する覆い金型とは異なる、巻積層鉄心の端部形状に合った盲板を設けることも可能である。
また、前記実施の形態においては、巻積層鉄心の下端で永久磁石を受けるストッパー部を下側の覆い金型に設けたが、巻積層鉄心の下部に設けてもよい。この場合、ストッパー部は永久磁石を受けていればよいので、必ずしも磁石挿入孔を跨いで配置する必要はなく、ストッパー部の一部で永久磁石を受けるようにすることも可能である。
なお、以上において、巻積層鉄心と積層鉄心の軸心は一致しており、更に巻積層鉄心の側面稜線とも平行となる。
更に、前記上及び下の覆い金型には、軸孔と平面視して同一形状の貫通孔を設けて、シャフト等を通せるようにしたが、上及び/又は下の覆い金型を貫通孔がない盲としてもよい。
【符号の説明】
【0041】
10:積層鉄心、11:巻積層鉄心、12:連結部、13:セグメント鉄心片、14:帯状鉄心片、15:磁石挿入孔、16:軸孔、17:永久磁石、19:巻き始め、20:巻き終わり、21、22:被覆層、23:側面稜線、24:軸心、25、26:覆い金型、27:第1の樹脂漏れ防止壁、28:第2の樹脂漏れ防止壁、29:第3の樹脂漏れ防止壁、30:第4の樹脂漏れ防止壁、31、32:拡径部、34:ストッパー部、35:底面、37:ストッパー部、38:天井面、40:樹脂流路、41:溝、42:丸孔、44:下型、45:上型、47:樹脂溜めポット(樹脂溜め部)、48:プランジャ、49:積層鉄心、50:被覆層、51:一端、52:他端
図1
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図8