(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のCFRP構造体は、炭素繊維自体は導電性を有するものの、その表面が導電性のないレジン層によって覆われているため、構造体全体としては導電性を有さない。従って、従来のCFRP構造体には、その表面に取り付けられた電子機器についてアースを取るという二次的な機能を持たせることができないという問題があった。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、炭素繊維強化プラスチックからなるCFRP構造体に、その表面に取り付けられた電子機器についてアースを取るという二次的な機能を付加する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。すなわち、本発明に係る炭素繊維強化プラスチック構造体は、炭素繊維プリプレグ
の表面に積層して形成された導電層と、この導電層及び前記炭素繊維プリプレグを貫通する
とともに前記導電層に電気的に接続された導電体製のジャンパーと、
前記導電層に電気的に接続された電子機器と、を有することを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、導電層に接触して電子機器を設けた場合、この電子機器が導電層及びジャンパーを介して、基準電位点としての炭素繊維プリプレグに対して電気的に接続される。これにより、炭素繊維強化プラスチック構造体の上に設けられた電子機器についてアースを取ることができる。
また、導電層が炭素繊維プリプレグの表面に形成されているので、導電層に直接接触させて電子機器を設けることができる。これにより、電子機器と導電層とを電気的に接続する配線等が不要であるため、簡略な構成によって電子機器についてアースを取ることができる。
【0011】
また、本発明に係る炭素繊維強化プラスチック構造体は、前記ジャンパーの端部に、前記導電層の表面に接する頭部を設けたことを特徴とする。
【0012】
このような構成によれば、導電層に接する頭部により、ジャンパーと導電層とがより確実に電気的に接続される。
【0013】
また、本発明に係る炭素繊維強化プラスチック構造体の製造方法は、炭素繊維プリプレグの表面に導電層を形成する工程と、前記導電層の表面をマスキングする工程と、前記炭素繊維プリプレグを硬化させる工程と、前記マスキングを除去して前記導電層を露出させる工程と、前記導電層に接する導電体製のジャンパーを前記炭素繊維プリプレグに貫通させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
このような製造方法によれば、炭素繊維プリプレグの硬化時にその表面にレジン層が形成されるのを局所的に阻止することができるので、ジャンパーと導電層との電気的な接続をより確実なものとすることができる。
また、導電層に接触して電子機器を設けた場合、この電子機器が導電層及びジャンパーを介して、基準電位点としての炭素繊維プリプレグに対して電気的に接続される。これにより、炭素繊維強化プラスチック構造体の上に設けられた電子機器についてアースを取ることができる。
【0015】
また、本発明に係る炭素繊維強化プラスチック構造体の製造方法は、炭素繊維プリプレグの表面に導電層を形成する工程と、前記炭素繊維プリプレグを硬化させる工程と、下面に突起を有する導電体製のジャンパーを、前記炭素繊維プリプレグの硬化時にその表面に形成されたレジン層を前記突起で破りながら、前記炭素繊維プリプレグに貫通させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
このような製造方法によれば、ジャンパーを炭素繊維プリプレグに貫通させる際に、ジャンパー自体に設けた突起によってレジン層を破ることにより、ジャンパーの頭部と導電層とを接触させることができる。これにより、炭素繊維プリプレグを硬化させる工程に先立ってその表面にマスキングを施す等の前処理を行う必要がないため、作業工程の削減による省力化及びマスキングテープ等の削減によるコストダウンを図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る炭素繊維強化プラスチック構造体によれば、炭素繊維強化プラスチックからなる炭素繊維強化プラスチック構造体に、その表面に取り付けられた電子機器についてアースを取ることができるという二次的な機能を付加することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。まず、本発明の第1実施形態に係るCFRP構造体の構成について説明する。本実施形態では、CFRP構造体の一例として、航空機の主翼を構成する部材について説明する。
【0020】
図1は、主翼1の概略構成を示す分解斜視図である。主翼1は、その長手方向に沿って両側部を形成する一対のスパー2と、その上面及び下面を形成する一対のパネル3と、その内部に設けられる複数のリブ4と、を備えるものである。
【0021】
一対のスパー2は、
図1に示すように、主翼1の両側部のうち航空機前方側の側部を形成するフロントスパー21と、航空機後方側の側部を形成するリアスパー22と、を具備している。このように構成される一対のスパー2は、それぞれの開口部を互いに向かい合わせるようにして、所定間隔でそれぞれ配置される。尚、これらフロントスパー21及びリアスパー22は、共に炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が成形されてなる部材である。
【0022】
一対のパネル3は、
図1に示すように、主翼1の上面を形成する上面パネル31と、下面を構成する下面パネル32と、具備している。そして、上面パネル31は、湾曲した断面形状を有する板状の上面スキン31aと、この上面スキン31aの一方の面に設けられてその曲げ剛性を高める複数本のストリンガー31bとを有している。尚、これら上面スキン31a及びストリンガー31bは、共に炭素繊維強化プラスチックが成形されてなる部材である。同様に、下面パネル32は、下面スキン32aと複数本のストリンガー32bとを有しており、これらも共に炭素繊維強化プラスチックが成形されてなる部材である。
【0023】
複数のリブ4は、主翼1を構造的に補強するためのものである。このリブ4は、
図1に示すように主翼1の長手方向に所定間隔で設けられ、各リブ4の一端はフロントスパー21に他端はリアスパー22にそれぞれ接続されている。これにより、フロントスパー21とリアスパー22は一定間隔で保持されている。尚、これらリブ4は、全て金属製の部材である。
【0024】
図2及び
図3は、第1実施形態に係るCFRP構造体としてのスパー2を示す図であって、
図2はスパー2の一部分を示す概略斜視図、
図3は
図2におけるA−A断面を示す概略断面図である。スパー2は、CFRPからなるスパー本体23と、このスパー本体23を貫通して設けられたジャンパー24と、スパー本体23の表面に取り付けられた電子機器25とを備えている。
【0025】
スパー本体23は、
図3に示すように、層状の炭素繊維プリプレグ231と、この炭素繊維プリプレグ231の表面231aに形成されたレジン層232と、このレジン層232の内部に埋め込んで設けられた導電層233と、を具備している。
【0026】
炭素繊維プリプレグ231は、基準電位点としての役割を果たすものである。この炭素繊維プリプレグ231は、
図3に示すように、熱硬化性樹脂(不図示)を炭素繊維に染み込ませてなるシート231bを複数枚積層し、熱硬化性樹脂を硬化させることによって各シート231bを一体化したものである。そして、炭素繊維によって構成されるこの炭素繊維プリプレグ231は導電性を有している。
【0027】
レジン層232は、熱硬化性樹脂の硬化時に炭素繊維から染み出した熱硬化性樹脂が炭素繊維プリプレグ231の表面231aに形成したものである。熱硬化性樹脂によって構成されるこのレジン層232は、導電性を有さない絶縁体である。このレジン層232は、
図2及び
図3に示すように、炭素繊維プリプレグ231の表面231aを覆うようにして形成され、その所定箇所を貫通して、導電層233を露出させるための導電層露出穴232aが複数形成されている。
【0028】
導電層233は、銅やアルミニウム等の金属からなる薄板部材であって導電性を有している。この導電層233は、
図2及び
図3に示すように、平面視で略円形に形成されるとともに、その厚みはレジン層232の厚みより薄く形成されている。このように構成される導電層233は、炭素繊維プリプレグ231の上に、レジン層232の内部に埋め込まれた状態で設けられている。尚、導電層233の材質や形状は本実施形態に限定されず、適宜設計変更が可能である。
【0029】
ジャンパー24は、導電層233と炭素繊維プリプレグ231とを電気的に接続するためのものである。このジャンパー24は、
図2及び
図3に示すように、スパー本体23を貫通して設けられる金属製のボルト26と、このボルト26に螺合されるナット27と、を有している。
【0030】
ボルト26は、周面に雄ネジ(不図示)が切られた軸部26aと、この軸部26aの一端に設けられた傘状の頭部26bと、を有している。このように構成されるボルト26は、レジン層232に形成された導電層露出穴232aの位置に配置され、その軸部26aが導電層233及び炭素繊維プリプレグ231にそれぞれ挿通されるとともに、導電層露出穴232aから露出した導電層233の表面233aに対して頭部26bの下面が当接している。またこの状態において、軸部26aの先端がスパー本体23の裏面から突出しており、この突出した軸部26aにナット27が螺合されている。そして、ボルト26の頭部26bとナット27とによってスパー本体23を厚み方向に締め付けることにより、スパー本体23に対してジャンパー24が固定されている。
【0031】
電子機器25は、
図2及び
図3に示すように、レジン層232に形成された導電層露出穴232aの位置に設置され、導電層露出穴232aから露出した導電層233の表面233aに対してその下面が当接している。従って電子機器25は、電子機器25に当接した導電層233及び導電層233に当接したジャンパー24を介して、炭素繊維プリプレグ231に対して電気的に接続されている。これにより電子機器25は、基準電位点との導通が確保された状態となっている。尚、電子機器25の形状や大きさ等は本実施形態に限定されず、適宜設計変更が可能である。
【0032】
次に、本発明の第1実施形態に係るCFRP構造体であるスパー2の製造工程、及びその作用効果について説明する。
図4及び
図5は、第1実施形態に係るスパー2の製造工程を示す説明図である。
【0033】
まず作業者は、炭素繊維プリプレグ231の表面231aに導電層233を形成する。すなわち作業者は、
図4(a)に示すように、熱硬化性樹脂を染み込ませた炭素繊維のシート231bを複数枚だけ積み重ね、
図2及び
図4(a)に示すように、炭素繊維プリプレグ231の表面231aにおける所定位置に、導電層233を配置する。尚、炭素繊維プリプレグ231の表面231aにおいて導電層233を配置する位置は、本実施形態に限定されず、電子機器25やジャンパー24を設置しようとする位置に応じて任意に変更が可能である。
【0034】
次に作業者は、導電層233の
表面233aをマスキングする。すなわち作業者は、
図2に示す導電層露出穴232aの形状に応じてカットしたマスキングテープ5を、
図4(b)に示すように導電層233の
表面233aにおける所定位置、より詳細には電子機器25やジャンパー24を設置しようとする位置にそれぞれ貼付する。
【0035】
次に作業者は、炭素繊維プリプレグ231を硬化させる。すなわち作業者は、表面231aに導電層233が配置された状態の炭素繊維プリプレグ231を、いわゆるオートクレーブを用いて加圧及び加熱する。そうすると、炭素繊維プリプレグ231を構成する各シート231bに染み込んだ熱硬化性樹脂が硬化することにより、各シート231bが熱硬化性樹脂を介して一体化する。そしてこの時、
図4(c)に示すように、各シート231bから染み出した熱硬化性樹脂が、炭素繊維プリプレグ231の表面231aを覆うように積層することによってレジン層232を形成する。これにより導電層233は、レジン層232の内部に埋没した状態となる。尚、導電層233の表面233aにおいてマスキングテープ5を貼付した位置には、レジン層232は形成されない。
【0036】
次に作業者は、導電層露出穴232aを形成する。すなわち作業者は、
図4(c)に示す状態からマスキングテープ5をそれぞれ取り除く。ここで、前述のようにマスキングテープ5を貼付した位置にはレジン層232が形成されていないため、
図5(a)に示すように、マスキングテープ5を取り除いた部分ではその下の導電層233の表面233aが露出する。これにより、レジン層232に導電層露出穴232aが形成される。
【0037】
次に作業者は、このようにして形成したスパー本体23にジャンパー24を貫通させる。すなわち作業者は、
図5(b)に示すように、ジャンパー24を構成するボルト26の軸部26aを、レジン層232の導電層露出穴232aから露出した導電層233に貫通させるとともに、その下のレジン層232を経て、更にその下の炭素繊維プリプレグ231へと貫通させる。そして、このボルト26の頭部26bの下面を導電層233の表面233aに当接させる。また、この時作業者は、スパー本体23の裏面から突出したボルト26の軸部26aに対し、ナット27を螺合させて締め付けることにより、ジャンパー24をスパー本体23に固定する。尚、ボルト26をスパー本体23に貫通させる際に、炭素繊維プリプレグ231の炭素繊維を切断するとその強度が低下する。従って作業者は、ボルト26と炭素繊維との接触を確保しつつボルト26で炭素繊維を切断しないよう、網目状の炭素繊維の空隙部分にボルト26を挿入し、網目を押し広げるようにしてボルト26を貫通させるのが望ましい。
【0038】
次に作業者は、スパー本体23に電子機器25を取り付ける。すなわち作業者は、
図5(b)に示すように、レジン層232の導電層露出穴232aから露出した導電層233の表面233aに、電子機器25をその下面が導電層233の表面233aに当接するようにして取り付ける。従って電子機器25は、これに当接した導電層233及び導電層233に当接したジャンパー24を介して、基準電位点としての炭素繊維プリプレグ231に対して電気的に接続される。これにより電子機器25は、基準電位点との導通が確保された状態となっている。以上により、CFRP構造体としてのスパー2が完成する。
【0039】
以上説明したように、第1実施形態に係るスパー2の製造方法によれば、炭素繊維プリプレグ231の硬化時における導電層233の表面233aへのレジン層232の形成をマスキングテープ5によって局所的に阻止することにより、ジャンパー24と導電層233とをより確実に電気的に接続することができる。
【0040】
また、導電層233を炭素繊維プリプレグ231の表面231aに形成するので、導電層233に直接接触させて電子機器25を設けることができる。これにより、電子機器25と導電層233とを電気的に接続する配線等を別途設ける必要がないため、簡略な構成によって電子機器25のアースを取ることができる。
【0041】
また、ジャンパー24に設けた頭部26bを導電層233の表面233aに当接させるので、この頭部26bによって導電層233とジャンパー24とをより確実に電気的に接続することができる。
【0042】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るCFRP構造体の構成について説明する。第2実施形態でも、CFRP構造体として、航空機の主翼を構成するスパーを例に説明する。
【0043】
図6は、第2実施形態に係るスパー10の構成を示す概略断面図である。第2実施形態に係るスパー10は、
図3に示す第1実施形態に係るスパー2と比較すると、ジャンパー11の構成のみが異なっている。尚、それ以外の構成については第1実施形態と同じであるため、
図3と同じ符号を付し、ここでは説明を省略する。
【0044】
第2実施形態に係るジャンパー11は、
図6に示すように、スパー本体23を貫通して設けられる金属製のボルト12のみで構成される。そして、このボルト12は、軸部12aとその一端に設けられた傘状の頭部12bとを有する点で第1実施形態のボルト12と同じであるが、軸部12aの形状が第1実施形態のボルト26とは異なっている。より詳細には、第2実施形態のボルト12の軸部12aは楔形の断面形状、すなわちその長手方向に沿って基端側から先端側に向かって徐々に幅が狭くなる断面形状を有している。
【0045】
このようなジャンパー11の構成によれば、ボルト12の軸部12aの先端が幅狭になっているため、作業者が軸部12aをスパー本体23に貫通させる工程において、炭素繊維プリプレグ231を構成する網目状の炭素繊維の空隙部分を押し広げながら、軸部12aの先端が挿入される。また、軸部12aを炭素繊維プリプレグ231に深く挿入するに従って、基端側に向かって徐々に幅広になる軸部12aが炭素繊維の網目を押し広げるため、炭素繊維が切断されることがなく、導電体としての炭素繊維の連続性が確保され、炭素繊維全体の電気伝導性を確保することができる。
【0046】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係るCFRP構造体の構成について説明する。第3実施形態でも、CFRP構造体として、航空機の主翼を構成するスパーを例に説明する。
【0047】
図7は、第3実施形態に係るスパー40の製造工程を示す説明図である。第3実施形態に係るスパー40は、
図3に示す第1実施形態に係る
スパー2と比較すると、ジャンパー41及び電子機器42の構成がそれぞれ異なっている。尚、それ以外の構成については第1実施形態と同じであるため、
図3と同じ符号を付し、ここでは説明を省略する。
【0048】
第3実施形態に係るジャンパー41は、
図7に示すように、スパー本体23を貫通して設けられる金属製のボルト43と、このボルト43に螺合されるナット44と、を有している。そして、ボルト43は、軸部43aとその一端に設けられた傘状の頭部43bとを有する点で第1実施形態の
ボルト26と同じであるが、頭部43bの下面に複数の突起45が設けられている点で第1実施形態の
ボルト26とは異なっている。この突起45は、その先端部が先鋭な形状にそれぞれ形成されている。
【0049】
第3実施形態に係る電子機器42は、
図7に示すように、その下面に複数の突起46が設けられている点で第1実施形態の
電子機器25とは異なっている。この突起46も、その先端部が先鋭な形状にそれぞれ形成されている。
【0050】
このようなジャンパー41及び電子機器42の構成によれば、その下面に設けた突起45,46を使用することにより、スパー本体23への取り付け作業を簡略化することができる。より詳細に説明すると、第3実施形態に係るスパー40を製造しようとする作業者は、
図7(a)に示すように、まず炭素繊維プリプレグ231の表面231aに導電層233を形成する。すなわち作業者は、第1実施形態と同様に、熱硬化性樹脂を染み込ませた炭素繊維のシート231bを複数枚だけ積み重ね、炭素繊維プリプレグ231の表面231aにおける所定位置に導電層233を配置する。
【0051】
次に作業者は、第1実施形態と同様に、炭素繊維プリプレグ231を加圧及び加熱して熱硬化性樹脂を硬化させることにより、炭素繊維プリプレグ231を硬化させる。そうすると、
図7(b)に示すように、各炭素繊維プリプレグ231を構成するシート231bから染み出した熱硬化性樹脂が炭素繊維プリプレグ231の表面231aに形成することによってレジン層232を形成する。ここで、第3実施形態では第1実施形態のように導電層233の表面231aにマスキングを施さないため、炭素繊維プリプレグ231の表面231a全体に渡ってレジン層232が形成される。
【0052】
次に作業者は、スパー本体23に対してジャンパー41を貫通させる。すなわち作業者は、
図7(c)に示すように、ジャンパー41を構成するボルト43の軸部43aを、レジン層232に貫通させるとともに、その下の導電層233から更にその下のレジン層232を経て、最後に炭素繊維プリプレグ231へと貫通させる。そして作業者は、
図7(d)に示すように、ボルト43の頭部43bの下面を導電層233の表面233aに当接させる。この時、頭部43bの下面に設けられた先鋭な突起45がレジン層232を破ることにより、ボルト43の頭部43bの下面を導電層233の表面233aに対して確実に接触して導通を確保することができる。そして作業者は、スパー本体23の裏面から突出したボルト43の軸部43aに対し、ナット44を螺合させて締め付けることにより、ジャンパー41をスパー本体23に固定する。
【0053】
次に作業者は、スパー本体23に電子機器42を取り付ける。すなわち作業者は、
図7(c)に示すように、電子機器42をその下面が導電層233の表面233aに当接するようにしてスパー本体23に対して取り付ける。この時、電子機器42の下面に設けられた先鋭な突起46がレジン層232を破ることにより、電子機器42の下面を導電層233の表面233aに対して確実に当接させることができる。
【0054】
このように、第3実施形態に係るスパー40の製造方法によれば、炭素繊維プリプレグ231を硬化させる工程に先立ってその表面231aにマスキングを施す等の前処理を行う必要がないため、作業工程の削減による省力化及びマスキングテープ5等の削減によるコストダウンを図ることができる。
【0055】
尚、本実施形態ではジャンパー41及び電子機器42のそれぞれに突起45及び突起46をそれぞれ設けたが、電子機器42の下面に突起46を設けることは本発明に必須の構成ではなく、少なくともジャンパー41に突起45が設けられていれば足りる。
【0056】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係るCFRP構造体の構成について説明する。第4実施形態でも、CFRP構造体として、航空機の主翼を構成するスパーを例に説明する。
【0057】
図8は、第4実施形態に係るスパー50の一部分を示す概略斜視図である。第4実施形態に係るスパー50は、
図2に示す第1実施形態に係るスパー2と比較すると、導電層51の構成のみが異なっている。それ以外の構成については第1実施形態と同じであるため、
図2と同じ符号を付し、ここでは説明を省略する。
【0058】
第4実施形態に係る導電層51は、金属製の薄板部材であって導電性を有する点、その厚みがレジン層232の厚みより薄く形成されている点、及びレジン層232の内部に埋め込まれた状態で設けられている点、において第1実施形態の導電層233と同じである。しかし、第4実施形態に係る導電層51は、平面視で帯状にすなわち細長い略矩形形状に形成されている点で第1実施形態の導電層233とは異なっている。そして
図8に示すように、導電層51の長手方向への寸法は、炭素繊維プリプレグ231の幅寸法と略等しく設定されている。
【0059】
このような導電層51の構成によれば、導電層51の長手方向両端部が炭素繊維プリプレグ231の幅方向両端部にまでそれぞれ達している。従って、図に詳細は示さないが、
図8に示すスパー50とこれに隣接して設置されるスパー50とを電気的に接続する必要がある場合に、各スパー50の導電層51の長手方向端部同士を電気配線で接続すれば、電気配線の長さを最小限に抑えることができるという利点がある。
【0060】
尚、以上説明した各実施形態では、CFRP構造体の一例として航空機の主翼1を構成するスパー2,10,40,50について説明したが、CFRP構造体はスパー2,10,40,50に限られず、例えば
図1に示す上面パネル31を構成する上面スキン31a及びストリンガー31bや、下面パネル32を構成する下面スキン32a及びストリンガー32b等であってもよい。更にCFRP構造体は、航空機の主翼1の構成要素に限られず、任意の構造物の構成要素であってもよい。
【0061】
また、上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ、或いは動作手順等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。