【実施例】
【0017】
本実施例に係る共鳴計算プログラムは、炉心内の燃料集合体を評価する炉心解析プログラムに組み込まれている。炉心解析プログラムは、ハードウェア上において実行可能となっており、炉心内の中性子束を計算することで、炉心内の核反応を媒介する中性子の分布や挙動を予測、評価する。そして、この炉心解析プログラムによって得られた解析結果に基づいて、炉心設計が行われる。なお、炉心設計とは、安全性、燃焼効率性や燃料配置等を考慮して、炉心に装荷されている燃料を交換するために行われるものである。
【0018】
図1は、本実施例に係る共鳴計算プログラムを実行可能な解析装置の解析対象となる炉心を模式的に表した構造図である。
図2は、解析対象領域となる燃料集合体を軸方向に直交する面で切ったときの断面図である。
図3は、解析装置を概略的に表した説明図である。
図4は、複数の詳細領域に分割された解析対象領域を表した説明図である。
図5は、中性子パスが引かれた解析対象領域を表した説明図である。
図6は、複数の円環領域に分割した燃料棒の円形領域を表した説明図である。
【0019】
図1に示すように、原子炉には、炉心設計の対象となる炉心5が格納されている。この炉心5は、複数の燃料集合体6で構成される。なお、燃料の交換は、燃料集合体6単位で行われる。
【0020】
図2に示すように、各燃料集合体6は、複数の燃料棒10と、各燃料棒10を覆う複数の被覆管11と、複数の被覆管11を束ねる図示しないグリッドと、で構成され、燃料集合体6の内部は減速材(冷却材)13で満たされると共に、複数の制御棒14および炉内核計装15が挿入可能となるように構成されている。
【0021】
燃料集合体6は、断面方形状に形成され、例えば、17×17のセル20で構成されている。そして、17×17のセル20のうち、24個のセル20には、それぞれ制御棒14が挿入され、集合体中心のセル20には、炉内核計装15が挿入される。このとき、制御棒14が挿入されるセル20を制御棒案内管、炉内核計装15が挿入されるセル20を計装案内管という。また、その他のセル20には、燃料棒10がそれぞれ挿入される。なお、燃料集合体6が沸騰水型軽水炉(BWR)に用いられる場合、燃料集合体6は、その外側がチャンネルボックスに覆われる。一方で、燃料集合体6が加圧水型軽水炉(PWR)に用いられる場合、燃料集合体6は、その外側が開放されている。そして、BWRの場合にはチャンネルボックスの外側に、PWRの場合には燃料集合体6の外側に、集合体間ギャップ12が存在する。
【0022】
次に、炉心解析プログラムについて説明する。炉心解析プログラムは、解析装置(ハードウェア)40上において実行可能なプログラムであり、解析装置40の記憶部41に記憶されている。この炉心解析プログラムは、炉心5に装荷される燃料集合体6の核定数を算出する核定数計算コード50(
図3参照)と、算出された核定数に基づいて炉心5内の核特性を算出する炉心計算コードとを有している。
【0023】
核定数計算コード50は、燃料集合体6を軸方向に直交する面で切った断面となる四角形の幾何形状を2次元の解析対象領域30(
図2参照)としており、この解析対象領域30における核定数を算出可能なコードとなっている。なお、核定数は、炉心計算に用いられる入力データとなっており、核定数としては、拡散係数、吸収断面積、除去断面積および生成断面積などがある。つまり、核定数計算コードを用いて核定数計算を行うことにより、炉心計算用の入力データである核定数を生成している。
【0024】
炉心計算コードは、燃料集合体6を軸方向に複数に分割して直方体形状の小体積となる燃料ノード(図示省略)に、算出された核定数をそれぞれ設定して炉心計算を行っている。複数の燃料ノードは、炉心を表現しており、炉心計算コードは、炉心計算を行うことにより、臨界ホウ素濃度、出力分布、反応度係数等の炉心内の核特性を評価可能なコードとなっている。
【0025】
解析装置40上において上記した炉心解析プログラムを実行させると、解析装置40は、核定数計算コード50を用いて、燃料集合体6の解析対象領域30における核定数を算出し、炉心計算コードを用いて、算出された核定数を各燃料ノードに設定して炉心計算を行うことにより、炉心5の核特性を評価する。
【0026】
次に、
図3を参照して、核定数計算コード50について具体的に説明する。本実施例の核定数計算コード50は、燃料集合体6の非均質体系に対応した2次元輸送計算コードとなっており、特性曲線法(MOC:Method of Characteristics)による中性子輸送方程式を用いて燃料集合体6内の中性子束を計算したり、燃焼計算を行ったり、核定数計算を行ったりしている。
【0027】
この核定数計算コード50は、共鳴計算プログラム51と、輸送計算プログラム52と、燃焼計算プログラム53と、核定数計算プログラム54とで構成され、解析装置40により実行される。そして、この核定数計算コード50は、解析装置40に入力される燃料集合体6に関する諸元データや、解析装置40の記憶部41に記憶された断面積ライブラリ55から取得される後述の実効断面積に基づいて、各種計算を行っている。なお、諸元データとしては、例えば、燃料棒の半径、集合体間ギャップ、燃料組成、燃料温度や減速材温度等である。
【0028】
図4に示すように、核定数計算コード50の解析対象となる解析対象領域30は、任意の体系であり、各セル20に対応する複数のセル領域31a,31bによって構成されている。セル領域31a,31bとしては、例えば、燃料棒10が挿入されたセル領域31aと、制御棒14が挿入されたセル領域31bとがある。セル領域31a,31bは、複数の詳細領域に分割されている。この複数の詳細領域の一部は、共鳴現象が発生する共鳴領域となっている。以下では、燃料棒10に関する詳細領域を燃料領域fとし、上記の共鳴領域が燃料領域fである場合について説明する。
【0029】
共鳴計算プログラム51は、共鳴現象を考慮した各詳細領域の実効断面積を求めるために行われる。ここで、共鳴現象とは、中性子のエネルギーが所定のエネルギーになると断面積が飛躍的に増加する現象である。この共鳴計算プログラム51では、中性子のエネルギーを複数のエネルギー群に分割し、分割した各エネルギー群の平均の断面積である実効断面積が求められる。つまり、共鳴計算プログラム51では、多群の実効断面積を算出する。
【0030】
詳細は後述するが、共鳴計算プログラム51は、入力された諸元データに基づいて、輸送計算プログラムの入力データとなる実効断面積(本実施例では、実効ミクロ断面積)を計算している。この実効ミクロ断面積は、バックグラウンド断面積に基づいて算出される。つまり、共鳴計算プログラム51は、入力された諸元データに基づいてバックグラウンド断面積を算出し、算出したバックグラウンド断面積に基づいて実効ミクロ断面積を算出する。
【0031】
また、
図6に示すように、共鳴計算プログラム51では、解析対象領域30において、燃料棒10の軸断面となる円形領域Iを複数の円環領域iに分割している。このため、共鳴計算プログラム51では、各円環領域iの実効断面積および実効断面積から求められる中性子束または反応率等の物理量を算出可能となっている。複数の円環領域iは、円形領域Iを径方向に所定の間隔毎に分割されており、各円環領域iは周方向に環状となっている。
【0032】
断面積ライブラリ55は、バックグラウンド断面積と実効ミクロ断面積とを対応付けてテーブル化したものであり、核種毎に設けられている。このため、共鳴計算プログラム51においてバックグラウンド断面積が算出されると、算出されたバックグラウンド断面積を引数として、断面積ライブラリ55から実効ミクロ断面積が算出される。
【0033】
輸送計算プログラム52は、算出した実効ミクロ断面積を用いて、特性曲線法に基づき燃料集合体6内の各詳細領域の中性子束を多群に亘って計算している。以下、輸送計算プログラム52について簡単に説明する。
図5に示すように、輸送計算プログラム52は、複数の詳細領域に分割された解析対象領域30上に複数の中性子飛行パスsを作成する。そして、作成された中性子飛行パスs毎に、中性子輸送方程式を解いて、各詳細領域iの中性子束を算出する。ここで、中性子飛行パスsのベクトル方向に沿った1次元座標上の第g群に対する中性子輸送方程式は、(2)式によって表される。
【0034】
【数2】
【0035】
ここで、(2)式に用いられるマクロ全断面積Σ
t,gは、共鳴計算プログラム51によって算出された実効ミクロ断面積に基づいて求められる。
【0036】
燃焼計算プログラム53は、炉心5内の核種の生成と消滅とを追跡する燃焼計算を実行している。燃焼計算プログラム53は、燃焼方程式を解くことにより、各核種の原子数密度の時間変化を評価し、各燃焼度点における多群中性子輸送計算の入力条件を与える。これにより、燃料計算プログラム53は、所定のサンプリング周期毎に燃焼計算と輸送計算とを交互に行うことで、燃焼状態(燃焼の時間変化)を追跡する。
【0037】
核定数計算プログラム54は、輸送計算プログラム52によって得られる燃料集合体6内の多群の中性子束を重みとして、燃料集合体6内の多群の実効マクロ断面積を縮約・均質化し、均質化されたマクロ核定数を算出する。
【0038】
続いて、本実施例に係る共鳴計算プログラム51について詳細に説明する。この共鳴計算プログラムでは、等価原理に基づく共鳴計算を行っている。等価原理に基づく共鳴計算では、非均質体系に相当するバックグラウンド断面積を求め、求めたバックグラウンド断面積を引数として、非均質体系に対する実効断面積を、下記の(3)式のテーブルより取得する。なお、(3)式のテーブルは、断面積ライブラリ55に記憶されている。
【0039】
【数3】
【0040】
次に、共鳴計算プログラム51において用いられる計算式について説明する。円環領域iにおける中性子束は、下記の(4)式によって表される。
【0041】
【数4】
【0042】
このとき、P
e,i(E)、すなわち中性子の脱出確率は、円環領域iが全ての中性子を吸収する黒体から、円環領域iが中性子を全く吸収しない白体までの間のグレーな範囲を表わす、第1の有理式係数α
nおよび第2の有理式係数β
nを含む多項有理式である下記の(5)式によって表される。なお、(5)式において定義されているl
i,mは、円環領域iの第m項に対する平均弦長を表す。
【0043】
【数5】
【0044】
ここで、各円環領域iに対する中性子の脱出確率P
e,iを求めるべく、中性子の脱出確率P
e,iには、幾何学係数γ
i,mが含まれている。この幾何学係数γ
i,mは、複数の円環領域iの幾何形状を表わしている。なお、l
iは、4V
i/S
0で与えられ、S
0は円形領域Iの表面積、V
iは円環領域iの体積を表しており、これらは諸元データとして与えられる。以下、
図7を参照して、(5)式によって表された中性子の脱出確率P
e,iについて説明する。
【0045】
図7は、所定の円環領域における中性子の脱出確率を表した説明図である。(5)式に示すように、幾何学係数γ
i,mは、所定の円環領域iを、γ
i,1(第一項)、γ
i,2(第二項)、γ
i,3(第三項)、およびγ
i,4(第四項)の四項で表わしている。ここで、中性子の脱出確率P
e,iは、燃料棒10の円形領域Iの外周面から中性子が脱出する確率を表しているため、中性子は、燃料棒10の円形領域Iの外周面上にある点Rを通るように設定される。
【0046】
(5)式の右式に表す第一項目は、所定の円環領域iの外周面から燃料棒10の外周面に脱出する中性子のうち、所定の円環領域iの外周により構成される円形領域の内部を通過する第1領域E1を表している。第二項目は、所定の円環領域iの外周面から燃料棒10の外周面に脱出する中性子のうち、所定の円環領域iの外周により構成される円形領域の内部を通過しない第2領域E2を表している。第三項目は、所定の円環領域iの内側にある円環領域(i−1)の外周面から燃料棒10の外周面に脱出する中性子のうち、円環領域(i−1)の外周により構成される円形領域の内部を通過する第3領域E3を表している。第四項目は、所定の円環領域iの内側にある円環領域(i−1)の外周面から燃料棒の外周面に脱出する中性子のうち、円環領域(i−1)の外周により構成される円形領域の内部を通過しない第4領域E4を表している。
【0047】
これにより、第1領域E1から第2領域E2を引くことで、所定の円環領域iの外周面の内部における第1円形領域D1を表すことができる。また、第3領域E3から第4領域E4を引くことで、所定の円環領域iの内周面の内部における第2円形領域D2を表すことができる。そして、第1円形領域D1から第2円形領域D2を引くことで、所定の円環領域iを表すことができる。このとき、γ
i,1、γ
i,2、γ
i,3、およびγ
i,4は、(6)式で表される。
【0048】
【数6】
【0049】
そして、(5)式を(4)式に代入することで、下記の(7)式が与えられる。
【0050】
【数7】
【0051】
なお、(7)式の右式は、燃料領域fに含まれる共鳴核種r以外の核種kの吸収反応および共鳴散乱を無視することで変形できる。このとき、バックグラウンド断面積は、下記の(8)式で与えられる。
【0052】
【数8】
【0053】
続いて、核種r、反応x、第g群に対する共鳴積分は、下記の(9)式で定義される。
【0054】
【数9】
【0055】
また、円環領域iにおける核種r、反応x、第g群の実効ミクロ断面積は、下記の(10)式で与えられ、(10)式の右式は、(10)式の中央の式に、(7)式および(9)式を与えることで、算出される。
【0056】
【数10】
【0057】
(10)式において、燃料領域fを単一領域とした上で、N=1とし、反応xおよび吸収反応a(x=a)に対する共鳴積分と実効ミクロ断面積との関係を求め、(10)式に再代入して計算すると、等価原理に基づく実効ミクロ断面積である下記の(11)式が得られる。
【0058】
【数11】
【0059】
次に、第1の有理式係数α
nおよび第2の有理式係数β
nを算出する計算式について説明する。任意のエネルギー点における燃焼領域fの中性子束は、燃焼領域fのマクロ全断面積の関数とみなすことができ、また、中性子束とマクロ全断面積との積から得られるマクロ全反応率RR
t,fは、下記の(12)式で与えられる。このとき、第2の有理式係数β
nは、(13)式を満足する。
【0060】
【数12】
【数13】
【0061】
このため、(12)式および(13)式を用いて有理式係数α
n,β
nを求めるには、燃料領域fにおける白体から黒体までの間のグレーな範囲を含む任意のマクロ全断面積Σ
t,fに対し、特性曲線法に基づく1群固定源計算により中性子束φ
fを独立に計算する。そして、マクロ全断面積Σ
t,fと、マクロ全断面積Σ
t,fおよび中性子束φ
fの積であるマクロ全反応率RR
t,fとの組(Σ
t,f,RR
t,f)を作成する。なお、未知係数は2N−1個であるため、(Σ
t,f,RR
t,f)の組は、2N−1個以上作成する。そして、作成した(Σ
t,f,RR
t,f)を満足するように、(12)式の有理式係数α
n,β
nを数値的に算出する。
【0062】
次に、
図8を参照し、上記の計算式を用いて、共鳴計算プログラム51により実効ミクロ断面積を算出する解析装置40の一連のフローについて説明する。
図8は、共鳴計算プログラムにより実効ミクロ断面積を算出するフローチャートである。なお、以下では、燃料領域fにおける共鳴核種rの実効ミクロ断面積を算出する場合について説明するが、被覆管11や非燃料物質中に含まれる共鳴核種rの実効ミクロ断面積を算出する場合に適用しても良い。
【0063】
先ず、解析装置40は、共鳴領域である燃料領域fに対し、マクロ全断面積Σ
t,fとして、白体から黒体までの間のグレーな範囲に対し、2N−1個以上の計算点を設定する(ステップS1)。
【0064】
計算点が設定されると、解析装置40は、マクロ全断面積Σ
t,fに対して、特性曲線法に基づく1群固定源計算を下記の(14)式を用いて行い、中性子束を算出し、算出した中性子束とマクロ全断面積Σ
t,fとの積からマクロ全反応率RR
t,fを算出する(ステップS2)。これにより、マクロ全断面積およびマクロ全反応率(Σ
t,f,RR
t,f)の組を作成する。
【0065】
【数14】
【0066】
(Σ
t,f,RR
t,f)の組が作成されると、解析装置40は、作成した(Σ
t,f,RR
t,f)を満足するように、(11)式の有理式係数α
n,β
nを求める(ステップS3:係数算出ステップ)。
【0067】
有理式係数α
n,β
nが求められると、解析装置40は、有理式係数α
nと与えられた諸元データとに基づいて、(8)式からバックグラウンド断面積を求める(ステップS4:バックグラウンド断面積算出ステップ)。続いて、解析装置40は、算出したバックグラウンド断面積を引数として、断面積ライブラリ55の(3)式より、実効ミクロ断面積を内挿(補間)する(ステップS5:実効断面積内挿ステップ)。次に、解析装置40は、内挿した実効ミクロ断面積と、バックグラウンド断面積と、共鳴核種rのミクロポテンシャル断面積とを下記する(15)式に代入し、中性子束を算出する(ステップS6)。
【0068】
【数15】
【0069】
そして、解析装置40は、ステップS3で求めた有理式係数β
nと、ステップS5で求めた実効ミクロ断面積と、ステップS6で求めた中性子束とに基づいて、(11)式から最終的な非均質体系の実効ミクロ断面積を算出する(ステップS7:実効断面積算出ステップ)。
【0070】
この後、実効断面積算出ステップS7において算出した実効ミクロ断面積に基づいて、非均質体系の中性子束、反応率等の物理量を、複数の円環領域i毎にそれぞれ計算する(ステップS8:径方向分布算出ステップ)。
【0071】
以上の構成によれば、本実施例の共鳴計算プログラム51は、中性子の脱出確率を表す多項有理式に、燃料棒10の円形領域Iを分割した複数の円環領域iの幾何形状を表わす幾何学係数γ
i,mを因子として含んでいる。このため、実効断面積を、幾何学係数に基づいて、複数の円環領域i毎にそれぞれ計算することで、燃料棒10の円形領域Iの径方向における各物理量の分布を評価することが可能となる。