(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記凹部の断面積は開口面に向かって連続的に拡大され、かつ前記絶縁基板、応力緩和材およびヒートシンクが積層する方向の断面において、前記凹部の内壁面形状が直線また応力吸収空間内に突出する方向に湾曲する曲線で形成されている請求項1に記載の放熱装置。
前記複数の応力吸収空間は、前記絶縁基板、応力緩和材およびヒートシンクが積層する方向に直交する面で切断した断面において、外周側に位置する応力吸収空間の断面積が、中心側に位置する応力吸収空間の断面積よりも大きく形成されている請求項1〜4のいずれかに記載の放熱装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記放熱装置(100)は、応力緩和材(101)の一方の面が絶縁基板(11)にろう付され、他方の面がヒートシンク(13)にろう付される。このろう付時に余剰のろう材が接合界面から応力吸収空間である貫通穴(102)に流れ込んで貫通穴(102)を塞ぐことがある。応力吸収空間が塞がれて空間の容積が減少すると応力緩和効果が低下するので好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した背景技術に鑑み、絶縁基板とヒートシンクとが応力緩和材を介してろう付された放熱装置において、余剰ろう材による応力吸収空間の塞がりを防止することを目的として、応力吸収空間の形状を提案するものである。
【0008】
即ち、本発明の放熱装置は下記[1]〜[6]に記載の構成を有する。
【0009】
[1]絶縁基板の一面側に電子素子搭載用の回路層が接合され、他面側に応力緩和材を介してヒートシンクが接合された放熱装置であって、
前記応力緩和材は、絶縁基板側の面およびヒートシンク側の面の少なくとも一方の面に開口する少なくとも1つの応力吸収空間を有し、前記応力吸収空間の開口縁部に、前記絶縁基板、応力緩和材およびヒートシンクが積層する方向に直交する面で切断した断面において応力吸収空間の断面積を拡大する凹部が形成されていることを特徴とする放熱装置。
【0010】
[2]前記凹部の断面積は開口面に向かって連続的に拡大され、かつ前記絶縁基板、応力緩和材およびヒートシンクが積層する方向の断面において、前記凹部の内壁面形状が直線また応力吸収空間内に突出する方向に湾曲する曲線で形成されている前項1に記載の放熱装置。
【0011】
[3]前記凹部の内壁面と絶縁基板またはヒートシンクとの成す角度が10〜80°である前項2に記載の放熱装置。
【0012】
[4]前記凹部の内壁面に周方向に沿った溝が形成されている前項1〜3のいずれかに記載の放熱装置。
【0013】
[5]前記応力緩和材は複数の応力吸収空間を有し、前記絶縁基板、応力緩和材およびヒートシンクが積層する方向に直交する面で切断した断面において、絶縁基板またはヒートシンクとの接合面の外周側に位置する応力吸収空間の凹部の断面積が、中心側に位置する応力吸収空間の凹部の断面積よりも大きく形成されている前項1〜4のいずれかに記載の放熱装置。
【0014】
[6]前記複数の応力吸収空間は、前記絶縁基板、応力緩和材およびヒートシンクが積層する方向に直交する面で切断した断面において、外周側に位置する応力吸収空間の断面積が、中心側に位置する応力吸収空間の断面積よりも大きく形成されている前項5に記載の放熱装置。
【発明の効果】
【0015】
上記[1]に記載の発明によれば、応力緩和材と、絶縁基板またはヒートシンクとの間のろう材は、これらの接合面に開口する応力吸収空間に形成された凹部の毛細管力によって接合界面に引き込まれる。開口部である応力吸収空間上のろう材も接合界面に引き込まれるので、接合界面に供給されない余剰のろう材量が減少しかつ余剰のろう材は凹部内に溜まる。従って、余剰のろう材が応力吸収空間に流れ込んで応力吸収空間を塞ぐことが防がれ、応力吸収空間の容積を維持して応力吸収空間による応力緩和力を確保できる。また、ろう材は凹部の毛細管力によって接合界面に引き込まれるので、少ない量のろう材でも良好なろう付を達成することができる。
【0016】
上記[2]に記載の発明によれば、凹部の断面積が開口面に向かって連続的に拡大され、かつ積層方向の断面においては、凹部の内壁面が直線または応力吸収空間内に突出する方向に湾曲する曲線で形成されているので、毛細管力による余剰ろう材の引き込み力が強い。
【0017】
上記[3]に記載の発明によれば、凹部の内壁面と絶縁基板またはヒートシンクとの成す角度が10〜80°に形成されているので、特に毛細管力による余剰ろう材の引き込み力が強い。
【0018】
上記[4]に記載の発明によれば、凹部に引き込まれた余剰ろう材が溝に導かれて周方向に流れるので、周方向において均一に余剰ろう材を溜めことができる。
【0019】
上記[5]に記載の発明は、応力緩和材が複数の応力吸収空間を有し、前記絶縁基板、応力緩和材およびヒートシンクが積層する方向に直交する面で切断した断面において、これらの応力吸収空間の凹部の断面積は、絶縁基板またはヒートシンクとの接合面の中心部から外周側にいくほど大きくなるように設定され、外周側にいくほど凹部の容積が大きくなるように設定されている。このため、接合面のろう材が接合面の心部から外周側に流れて外周側で余剰ろう材量が増えた場合においても凹部に余剰ろう材を溜めることができるので、外周側の応力吸収空間の塞がりを防止できる。
【0020】
上記[6]に記載の発明によれば、熱の主たる伝達経路となる中心部よりも外周側の応力吸収空間の断面積が大きくなるように設定されているので、効率良く放熱でき、放熱装置の放熱性能を維持できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[放熱装置の構成]
図1は本発明の放熱装置の一実施形態を、構成部材が積層する方向で切断した断面で示している。以下の説明において、積層方向の断面を縦断面と称し、この縦断面と直交する面で切断した断面を横断面と称する。
【0023】
放熱装置(1)は、絶縁基板(11)の一面側に電子素子搭載用の回路層(12)が接合され、他面側には応力緩和材(20)を介して複数の中空部を有するチューブ型のヒートシンク(13)が接合されている。(14)は回路層に接合された電子素子である。前記放熱装置(1)において、絶縁基板(11)とヒートシンク(13)とは応力緩和材(20)を介して熱的に結合され、電子素子(14)が発する熱はヒートシンク(13)に排熱される。
【0024】
前記放熱装置(1)を構成する各層の好ましい材料は以下のとおりである。
【0025】
絶縁基板(11)を構成する材料としては、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化ジルコニウム等のセラミックを例示できる。これらのセラミックは電気絶縁性が優れていることはもとより、熱伝導性が良く放熱性が優れている点で推奨できる。
【0026】
回路層(12)を構成する金属としては、導電性が高くかつ絶縁基板(11)とろう付またははんだ付が可能な金属を用いるものとし、特に高純度アルミニウムを推奨できる。
【0027】
応力緩和材(20)は、剛性の高いセラミック製の絶縁基板(11)とヒートシンク(15)との接合界面に発生する熱応力を緩和するための層であるから、軟質の金属を用いることが好ましく、特に高純度アルミニウムが好ましい。
【0028】
ヒートシンク(13)を構成する金属は、軽量性、強度維持、成形性、耐食性に優れた材料を用いることが好ましく、これらの特性を有するものとしてAl−Mn系合金やAl−Fe系合金等のアルミニウム合金を推奨できる。ヒートシンク(13)は応力緩和材(20)側の外面がフラットであれば応力緩和材(20)と広い面積でろう付して高い放熱性能が得られるので、応力緩和材(20)側の面以外の外部形状や内部形状は問わない。ヒートシンクの他の形状として、平板、平板の他方の面にフィンをろう付したヒートシンク、平板の他方の面にフィンを立設したヒートシンク、中空部内にフィンを設けたチューブ型ヒートシンク等を例示できる。
【0029】
前記放熱装置(1)は、各部材をろう材(図示省略)を介して重ねて仮組し、一括してろう付することによって作製することができる。ろう材はAl−Si系合金、Al−Si−Mg系合金等のろう材を用いる。ろう材はろう材箔として層間に配置しても良いし、回路層(12)、応力緩和材(20)、ヒートシンク(13)を構成する金属と一体化したブレージングシートとして用いることもできる。
【0030】
[応力緩和材]
図1に示した応力緩和材(20)は応力吸収空間として複数の円形貫通穴(21)を有するパンチングメタルである。前記貫通穴(21)は絶縁基板(11)側の面およびヒートシンク(13)側の面の両方に開口し、その穴径は絶縁基板(11)側において開口面に向かって連続的に拡大されている。この穴径の拡大により、貫通穴(21)の開口縁部の全周において、貫通穴(21)の横断面積を拡大する凹部(22)が形成されている。放熱装置(1)の縦断面において、前記凹部(22)の内壁面(23)の形状は絶縁基板(11)に対して一定の角度(θ)で傾斜する直線で表されるテーパー面である。
【0031】
前記放熱装置(1)のろう付時、絶縁基板(11)と応力緩和材(20)との間に配置されたろう材は、凹部(22)の毛細管力によって絶縁基板(11)と応力緩和材(20)とが接触する接合界面に引き込まれる。開口部である貫通穴(21)上のろう材も接合界面に引き込まれるので、接合界面に供給されない余剰のろう材量が減少しかつ余剰のろう材(B)は凹部(22)内に溜まる。従って、余剰のろう材(B)が貫通穴(21)に流れ込んで応力吸収空間を塞ぐことが防がれ、本来の貫通穴(21)の容積、即ち凹部(22)を含まない貫通穴(21)の容積を維持して貫通穴(21)による応力緩和力を確保できる。また、ろう材は凹部(22)の毛細管力によって接合界面に引き込まれるので、少ない量のろう材でも良好なろう付を達成することができる。
【0032】
前記絶縁基板(11)に対する凹部(22)の内壁面(23)の傾斜角度(θ)は、余剰ろう材による応力吸収空間の閉塞を効果的に防止できる角度として10〜80°の間に設定することが好ましい。前記傾斜角度(θ)が10°未満では余剰ろう材を溜めるための容量が小さくなるので、閉塞防止効果が小さくなる。一方、80°を超えると毛細管力が小さくなってろう材の引き込み力が低下するので、閉塞防止効果が小さくなる。また、前記凹部(22)の内壁面(23)は縦断面において直線で形成されたものであり、直線で表される内壁面(23)の傾斜角度(θ)は、強い引き込み力を得るために、上記範囲内でも特に角度の小さい範囲に設定することが好ましい。具体的には10〜40°が好ましく、特に15〜35°が好ましい。
【0033】
図1の応力緩和材(20)は貫通穴(21)の絶縁基板(11)側にのみ凹部(22)を設けたものであるが、
図2に示すように、ヒートシンク(13)側の開口縁部にも凹部(24)を設けるができ、ヒートシンク(13)側に凹部(24)を設けることによってヒートシンク(13)と応力緩和材(20)との接合界面にろう材を引き込むことができる。本発明において、凹部は絶縁基板側、ヒートシンク側の面のどちらか一方のみに設けても、両方に設けても良い。少なくも一方の面に凹部が設ければ、余剰ろう材による閉塞を防止する効果を奏することができる。
【0034】
また、以下に説明する
図3〜5、7A、7Bに示す応力緩和材においても、凹部は貫通穴の絶縁基板側、ヒートシンク側の面のどちらか一方のみに設けても、両方に設けても良い。
【0035】
(他の凹部形状例1)
図3に示した応力緩和材(30)は、縦断面において、凹部(32)の内壁面(33)の形状が貫通穴(32)内に突出する方向に湾曲する曲線で形成されたものである。内壁面(33)がこのような曲線で形成された凹部(32)は、直線で形成された
図1の凹部(22)よりも毛細管力が高くろう材の引き込み力も強い。一方、
図1の内壁面(32)が直線で形成された凹部(22)は曲線で形成された凹部(32)よりも容量が大きいので、余剰ろう材をより多く溜めることができる。
【0036】
図3の曲線で形成された凹部(32)において、絶縁基板(11)に対する内壁面(33)の傾斜角度(θ)を以下のとおりに定義する。
【0037】
前記凹部(32)の内壁面(33)を形成する曲線の両端点のうちの絶縁基板(11)から遠い方の端点をP1とする。この端点P1から絶縁基板(11)までの距離(h)を2等分する直線が内壁面(33)と交わる点をP2とし、交点P2における接線と絶縁基板(11)とが成す角度(θ)を内壁面(33)の傾斜角度とする。前記定義において、端点P1から絶縁基板(11)までの距離(h)は凹部(32)の高さである。曲線で形成された内壁面(33)についても前記傾斜角度(θ)の好ましい範囲は10〜80°である。曲線で表される内壁面の場合は、強い引き込み力を得るために、傾斜角度(θ)を上記範囲内でも特に角度の大きい範囲に設定することが好ましい。具体的には、30〜80°が好ましく、特に40〜75°が好ましい。
【0038】
(他の凹部形状例2)
図4に示す応力緩和材(40)は、貫通穴(41)の凹部(42)の傾斜する内壁面(43)に、周方向に沿って環状の溝(44)をに沿って設けたものである。凹部(42)に引き込まれた余剰ろう材は溝(44)に導かれて周方向に流れるので、周方向において均一に余剰ろう材を溜めことができる。また、溝(44)によって凹部(42)の容積が拡大するので、より多くの余剰ろう材を溜めることができる。溝(44)の数は限定されず、1本でも複数本であっても良い。また、溝は周方向で閉じられた環状溝である必要はなく、螺旋状の溝であっても良い。さらに、溝の断面形状も限定されず、図示例のV字形の溝(44)の他、U字形の溝を例示できる。
【0039】
図4は、
図1の内壁面(23)と同じく縦断面において直線で形成された内壁面(43)に溝を設けた例を示したものであるが、
図2の曲線で形成された内壁面(33)にも溝を設けることができる。
【0040】
(他の凹部形状例3)
図5に示す応力緩和材(50)は、貫通穴(51)の凹部(52)の内壁面が、絶縁基板(11)に対して垂直な側面(53)と平行な底面(54)との2つの面によって段状に形成されている。このような段状の凹部(52)は容積が大きいので、多くの余剰ろう材を溜めることができる。
【0041】
(他の凹部形状例4)
図6に示す応力緩和材(55)は、貫通穴(56)の凹部(57)の内壁面が、絶縁基板(11)に対して傾斜する側面(59)と平行な底面(58)との2つの面によって段状に形成されている。前記凹部(57)は
図5の凹部(52)と
図1の凹部(22)との中間形状であり、段状に形成することで凹部(57)の容積を大きくするとともに、側面(59)を傾斜させることで毛細管力によるろう材引き込み効果を高めたものである。
【0042】
本発明において、凹部形状は上記例に限定されるものではなく、応力吸収空間の開口縁部に形成されて応力吸収空間の横断面積を拡大するものである限り、任意に設定することができる。
【0043】
[応力緩和空間の他の形状]
本発明において、応力緩和材の応力吸収空間は、絶縁基板側およびヒートシンク側の少なくとも一方に開口している限り、その形状や数は限定されない。従って、本発明の放熱装置では以下のような形状の応力緩和材も使用できる。
【0044】
(応力吸収空間の他の形状例1)
図7の応力緩和材(60)の応力緩和空間は有底の穴(61)(62)である。個々の有底の穴(61)(62)は絶縁基板(11)およびヒートシンク(13)のいずれか一方のみに開口し、開口縁部に凹部(63)(64)を有している。凹部(63)(64)の形状は
図1、3〜6に示した凹部(22)(32)(42)(52)(57)のいずれの形状であっても良い。
【0045】
また、前記有底の穴(61)(62)が絶縁基板(11)側、ヒートシンク(13)側のいずれか一方にのみ設けられている場合も本発明に含まれる。
【0046】
(応力吸収空間の形状例2)
応力緩和材と絶縁基板との接合面、および応力緩和材とヒートシンクとの接合面において、溶融したろう材は中央部から外周側に向かって流れる傾向があり、余剰ろう材量は中心部で少なく外周側にいくほど増えていく。このため、応力緩和材が複数の応力吸収空間を有する場合、外周側に位置する応力吸収空間ほど余剰ろう材によって塞がれ易いという状況がある。
【0047】
このような状況に対し、応力吸収空間に設ける凹部の容積を余剰ろう材量分布に対応させて、凹部の容積を中心部から外周側にいくほど大きくなるように設定することによって、どの位置にある応力吸収空間においても余剰ろう材を凹部内に溜めて応力吸収空間を塞がないようにすることができる。具体的には、接合面において、外周側に位置する応力吸収空間の凹部の横断面における断面積が中心側に位置する応力吸収空間の凹部の断面積よりも大きくなるように設定することが好ましい。凹部の横断面における断面積に差をつける方法として、外側に位置する応力吸収空間の横断面における断面積を中心側に位置する応力吸収空間の断面積よりも大きくなるように形成する方法を推奨できる。凹部は応力吸収空間の開口周縁部に設けられるので、応力吸収空間の断面積が大きくなれば自ずと凹部の断面積も大きくすることができる。また、電子素子は応力緩和材の中心部上に取り付けられることが多く、熱の主たる伝達経路となる中心部よりも外周側の応力吸収空間の断面積が大きくなるように設定した方が効率良く放熱できるので、放熱性能を維持するという観点から、中心側よりも外周側に位置する応力吸収空間の断面積を大きくすることが好ましい。
【0048】
図8Aおよび
図8Bに示す応力緩和材(70)は上述した凹部の横断面における断面積の大小差を実現したものである。応力緩和材(70)は、中心に1個の断面円形の第1貫通穴(71)を有し、この第1貫通穴(71)を取り囲んで第1貫通穴(71)よりも直径の大きい断面円形の4個の第2貫通穴(72)を有し、さらにこれらの第2貫通穴(72)を取り囲んで第2貫通穴(72)よりも直径の大きい断面円形の8個の第3貫通穴(73)を有している。また、第1〜第3貫通穴(71)(72)(73)の開口周縁部には、
図1の凹部(22)と同様に、第1〜第3内壁面(77)(78)(79)が絶縁基板(11)に対して傾斜するテーパー面で形成された第1〜第3凹部(74)(75)(76)が設けられている。第1〜第3凹部(74)(75)(76)の高さ(h)および第1〜第3内壁面(77)(78)(79)の傾斜角度(θ)は共通であるが、第1〜第3貫通穴(71)(72)(73)の直径差に伴って第1〜第3凹部(74)(75)(76)の開口直径が異なり、これらの断面積は、第1凹部(74)が最も小さく、第2凹部(75)は第1凹部(74)よりも大きく、第3凹部(76)は第2凹部(75)よりもさらに大きく設定されている。
【0049】
本発明において応力吸収空間の形状は図示例の円形に限定されず、角形や楕円形の貫通穴または有底穴、細長い溝、スリット状の貫通穴等であっても良い。また、凹部は応力吸収空間の開口縁部の全周に形成することに限定されるものではなく、一部にのみ形成されている場合も本発明に含まれる。ただし、凹部を開口縁部の全周に形成すれば全周でろう材を接合面に引き込むことができ、余剰ろう材が凹部の無い部分から応力吸収空間に流れ込むおそれもないので、全周に凹部を設けることが好ましい。また、より多くのろう材を引き込むことによって、接合面により多くのろう材を供給することができる。
【実施例】
【0050】
図1および
図9に参照される積層構造の放熱装置(1)(100)において、応力吸収空間および凹部の形状を変えた種々の応力緩和材を用いて製作した。
【0051】
応力緩和材を除く部材は各例で共通のものを用いた。絶縁基板(11)は窒化アルミニウムからなる30mm×30mm×厚さ0.6mmの平板である。回路層(12)は99.99%以上の高純度アルミニウムからなる厚さ0.6mmの板である。ヒートシンク(13)はAl−1質量%Mn合金からなる扁平多穴チューブである。ろう材はAl−10質量%Si−1質量%Mg合金からなる厚さ40μmの箔である。
【0052】
また、熱応力緩和材は、99.99%以上の高純度アルミニウムからなり、28mm×28mm×厚さ1.6mmの平板に切削加工を施して応力吸収空間を形成したものである。応力吸収空間の数は13個であり、13個の応力吸収空間の位置は
図7Aに参照される配置であって各例で共通である。各例の応力吸収空間はいずれも横断面形状が円形の貫通穴であるが、凹部の形状または貫通穴の直径が異なる。
【0053】
[実施例1]
図1に示す応力緩和材(20)を用いた。13個の応力吸収空間は同一形状であり、直径(d)が2mmの円形の貫通穴(21)である。前記貫通穴(21)の絶縁基板(11)側の開口縁部の全周に凹部(22)が形成されている。前記凹部(22)の内壁面(23)は絶縁基板(11)に対して傾斜角度(θ)が30°で傾斜するテーパー面であり、板厚方向の高さ(h)は0.2mmである。
【0054】
[実施例2]
図3に示す応力緩和材(30)を用いた。この応力緩和材(30)は実施例1の応力緩和材(20)とは凹部(32)の形状のみが異なる。前記凹部(32)は、内壁面(33)が凹部(32)内に突出する方向に湾曲する曲線で構成されている。前記内壁面(33)の絶縁基板(11)に対する傾斜角度(θ)は60°である。
【0055】
[実施例3]
図4に示す応力緩和材(40)を用いた。この応力緩和材(40)は実施例1の応力緩和材(20)とは凹部(42)の形状のみが異なる。前記凹部(42)は、
図1の凹部(21)と同じ角度(θ)で傾斜する内壁面(43)の全周に溝(44)を形成したものである。
【0056】
[実施例4]
図5に示す応力緩和材(50)を用いた。この応力緩和材(50)は実施例1の応力緩和材(20)とは凹部(52)の形状のみが異なる。前記凹部(52)は、内壁面が側面(53)と底面(54)との2つの面によって段状に形成されたものである。
【0057】
[実施例5]
図8Aおよび8Bに示す応力緩和材(70)を用いた。この応力緩和材(70)において、中心に位置する最小径の第1貫通穴(71)の直径(d1)は2mm、中間に位置する第2貫通穴(72)の直径(d2)は 2.5mm、外周側に位置する第3貫通穴(73)の直径(d3)は3mmである。各凹部(74)(75)(76)の高さ(h)は共通であり、実施例1の応力緩和材(20)と同じ高さ(h)である。また、内壁面(77)(78)(79)は実施例1の応力緩和材(20)と同じ傾斜角度(θ)の傾斜面で形成されている。
【0058】
[比較例]
図9に示す応力緩和材(101)を用いた。この応力緩和材(101)は実施例1の応力緩和材(20)とは貫通穴(102)に凹部が設けられていないことのみが異なる。
【0059】
[ろう付]
実施例1〜5および比較例の応力緩和材を、
図1および
図9に示すように、回路層(12)、ろう材箔、絶縁基板(11)、ろう材箔、応力緩和材(20)(30)(40)(50)(70)(101)、ろう材箔、ヒートシンク(13)の順に積層した放熱装置(1)(100)を仮組みし、7×10
−4Paの真空中で600℃×20分で真空ろう付した。
【0060】
ろう付した放熱装置(1)(100)を切断して目視観察したところ、全ての放熱装置(1)(100)の全ての接合部分が良好にろう付されていた。また、実施例1〜5において、絶縁基板(11)と応力緩和材(20)(30)(40)(50)(70)の接合面の余剰ろう材は凹部(22)(32)(42)(52)(74)(75)(76)内に溜まっており、貫通穴(21)(31)(41)(51)(71)(72)(73)が余剰ろう材によって塞がれることなく円柱形の応力吸収空間の容積が確保されていた。一方、比較例は余剰ろう材が貫通穴(102)内に流れ込み、応力吸収空間の容積が減少していた。