【実施例1】
【0021】
図1は本発明の一実施例を適用する軌道スラブのレール締結装置の一例(直結8形一般用)を示す断面図、
図2はその要部の分解斜視図に樹脂充填系を加えて示す図、
図3はレール高さ調整方法の動作流れ図である。
【0022】
図1において符号10は軌道スラブであり、このスラブ10はレール長さ方向に数mの長さを持ったPC(Prestressed concrete)の板であり、路盤に位置決めされて敷設される。このスラブ10には所定位置に予め埋込栓カラー12が埋込まれている。
【0023】
同図において14は鉄製のタイプレートであり、レール長さ方向に約18cmの長さを持つ。このタイプレート14はゴムマットなどの絶縁板16を挟んでスラブ10上に位置決めされて置かれる。このタイプレート14はアンカー用Tボルト18とナット20によってスラブ10に固定される。
【0024】
Tボルト18は下端にT字型のボルト頭18aを持つ。前記埋込栓カラー12はこのボルト頭18aを通すように略ダ円形の平断面形状を持ち、ボルト頭18aをここに上方から挿入して90°回転させることによりボルト頭18aを埋込栓カラー12の底に設けた係合部12aに係合させるものである。
【0025】
ここにTボルト18とタイプレート14とは絶縁カラー22により電気的に絶縁される。この絶縁カラー22は、円筒形のボス部と、このボス部24の上端から外径方向へ拡径するフランジ部とを有する。この絶縁カラー22は、例えばガラス短繊維を約8重量%混入したポリカーボネート樹脂を射出成形することにより製作される。
【0026】
Tボルト18には、
図1に示すように、絶縁板16、タイプレート14が通され、さらに鉄製のカバープレート28、絶縁カラー22、座金30、ばね座金32、座金34が通される。そして最後にナット20が螺着され、締付けられる。ここに絶縁カラー22のボス部はカバープレート28およびタイプレート14のボルト孔内へ進入している。このようにしてタイプレート14とTボルト18との間は絶縁カラー22により電気的に絶縁される。
【0027】
図1で36はレールであり、レール高さ調節用の樹脂注入式可変パッド38および軌道パッド40を介してタイプレート14に載せられる。そしてレール36を押える板ばね42は、ボルト44およびナット46によってタイプレート14に締付け固定される。
【0028】
ここにタイプレート14には、レール底部ガイド用の突壁48,48が一体に形成されている。これらの突壁48,48は、レール36の底部36Aの幅にほぼ一致する間隔を空けて起立する。前記可変パッド38および軌道パッド40はこれら突壁48,48の間に敷かれ、その上にレール36の底部36Aが載せられる。そしてレール36は両突壁48,48により左右方向(幅方向)への移動が規制される。
【0029】
突壁48,48には下方に向って広がった切欠部50,50が幅方向に横断するように形成され、ここに前記ボルト44の略台形に形成されたボルト頭(図示せず)が係合する。
【0030】
軌道パッド40はステンレス鋼板で作られた金属板52と、この金属板52の下面に接着されたゴム板54とを有する。金属板52は、タイプレート14のレール長手方向の長さよりも長く作られ、タイプレート14の長さに対応する部分を挟む両端部分が幅方向に突出して舌状部56となっている。4つの舌状部56はその先端部分が下方へ折曲されている。これらの舌状部56はタイプレート14の突壁48,48に係合してその位置決めを行うものである。
【0031】
次に可変パッド38を説明する。この可変パッド38は、
図4、5に示すように偏平状かつ略四角形の袋本体38aと、この袋本体38aの中に広げて敷かれたメッシュ状補強材38bとを持ち、この袋本体38aの内部に樹脂を注入して硬化させたものである。この可変パッド38は、ポリエチレンやポリプロピレン、EVA、ナイロンなどのシートをラミネートしたものなどから所定形状の上下一対のシートを切抜き、これら上下のシートの周縁を溶着して袋状とし、内側に扁平な樹脂充填室を形成したものである。
【0032】
この可変パッド38の袋本体38aは
図2に示すように、タイプレート14の突壁48間を埋める寸法よりも、レール長手方向に長い四角形であり、両端の突出部分の対角位置には樹脂注入口58と空気抜き口60とが形成されている。注入口58は、略対角方向外側へ延出した細い通路状である。注入口58には樹脂の注入を許容する一方向弁58aが取付けられている。また空気抜き口60は、レール長手方向に突出している。空気抜き口60内にはその通路に沿って長い詰め栓60aが装填されている。
【0033】
詰め栓60aは例えば棒状の綿で作られ、長手方向に空気を通し易くかつ樹脂液を通しにくくしたものである。この詰め栓60aは、可変パッド38を作る際に上下一対のシートの間に挟んで両シートを溶着することにより、空気抜き口60に装填することができる。
【0034】
袋本体38aの中には、本発明に係るメッシュ状補強材38bが収容されている。このメッシュ状補強材38bは、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維のいずれかの糸、紐あるいは幅が狭い帯状に編んだものをメッシュ状に形成したものである。
図6、
図7はメッシュの構造例を示すものであり、
図6の(A)は三本の糸を三軸構造にした三本模紗織りの構造を示す平面図、(B)は同じく編み目構造の拡大斜視図である。
図7の(A)は二本の縦横の糸を編んだ2軸構造のラッセル織りの構造を示す平面図、(B)は同じくその編み目構造の拡大斜視図である。
【0035】
図6に示す三軸構造は、3本の糸38cで囲まれる正三角形の開口38dを形成したものであり、各辺が非平行なのでこの開口に入って硬化した樹脂との食いつきが良く樹脂が剥離しにくくなって強度が増大する。このため樹脂と一体化し易く高強度、高弾性を持たせることが可能である。糸の織り構造は、
図7に示すメッシュ状補強材38b′のように、縦と横の糸38c′で形成される開口38d′が正方形あるいは長方形になるラッセル織りであってもよい。この構造では織機が単純になり、製造が容易である。また各糸の交叉部38e、38e′は糸が移動するのを防ぐために固着しておく。例えば交叉部38e、38e′を接着剤で固定したり、熱圧着により固定しておく。
【0036】
なおメッシュ状補強材38b、38b′(以下
図7のものを含めて単に38bという。38c′、38d′、38e′についても同様。)は、樹脂注入口58付近で袋本体38aの上面(または下面)に熱溶着部39で熱溶着されている(
図4、5)。この熱溶着部39は樹脂注入口58から樹脂を注入する際にメッシュ状補強材38bが移動したり注入口58付近でまくれたり折れ曲がったりするのを防ぐものである。
【0037】
この可変パッド38の上には前記した軌道パッド40が重ねられる(
図1、2)。この時軌道パッド40は、両端部分がタイプレート14の両側へ突出し、舌状部56はタイプレート14の両端面、すなわち突壁48,48の両端面に係合する(
図1参照)。このように4つの舌状部56がそれぞれ突壁48,48の両端面に係合するから、軌道パッド40は正確に位置決めされる。すなわちこの舌状部56は軌道パッド40の移動を規制するストッパとして機能する。
【0038】
この軌道パッド40の上にレール36を載せた状態でレールの高さ調節を行う。この作業はレール36を後記するスペーサー、高さ調整用ブロック、ジャッキ、扛上機などを用いて所定の高さに保持し、この状態で注入口58から樹脂液を注入し、空気が空気抜き口60の詰め栓60aを通って大気へ抜けた後に、樹脂液が詰め栓60aを塞いだ状態で注入することにより行われる。この樹脂の注入は樹脂充填装置70によって行われ、充填する樹脂の量によってレールを所定の高さに支持する。注入口58には一方向弁58aが装着されているので樹脂は逆流することがない。そして、樹脂は所定時間後に硬化する。
【0039】
次に樹脂充填器70を
図2を用いて説明する。この樹脂充填器70は、主剤を収容する気密タンク(収容タンク)72と、硬化剤を収容する気密タンク(収容タンク)74と、これらのタンク72、74に空気圧を供給し主剤と硬化剤を送出する空気ポンプ(樹脂供給ポンプ)76と、送出された樹脂を袋体に注入する樹脂注入ガン78と、ポンプ76を駆動する制御部(図示せず)とを備える。ここに充填樹脂としてポリエステル樹脂を用いる時は、主剤はポリエステル樹脂にコバルト、硬化促進剤を添加したものであり、硬化剤はポリエステル樹脂に有機過酸化物を添加したものである。
【0040】
樹脂注入ガン78はスタティックミキサーなどの混合器(ノズル)である。この樹脂注入ガン78は、コック(開閉弁、図示せず)付きのノズルホルダ78aと、ロッド状のノズル部78bとを持ち、タンク72から吐出される主剤と、タンク74から吐出される硬化剤とを均一に混合してロッド状のノズル部78bから吐出する。
【0041】
次にこの樹脂充填器70を用いてレール高さを調整する方法を説明する。
図1において、まずレール36をタイプレート14から解放する。すなわちタイプレート14からナット46を緩め、板ばね42を取外す。そしてレール36とスラブ10の間に、スペーサとなる高さ調整用ブロックなどの高さ調整具(図示せず)を挟んで、レール36の高さを所定の高さ(例えば目標の高さ)に設定する(
図3,ステップS200)。高さ調整用ブロックを挟むのに代えて、レール36をジャッキあるいは扛上機などを用いて引き揚げて保持してもよい。
【0042】
この状態ではレール底部36Aの下に間隙ができるので、軌道パッド40を押し上げてその下に樹脂充填前の可変パッド38の袋を挿入する(ステップS202)。そして前記
図2に説明した樹脂充填装置70を用いてこの可変パッド38の袋に樹脂を充填する(ステップS204)。この樹脂の充填にあたり、まず樹脂注入ガン78のロッド状のノズル部78bを可変パット38の注入口58に挿入して固定する。この状態でポンプ76でタンク72、74内を加圧すれば、主剤および硬化剤が樹脂注入ガン78に送られる。
【0043】
主剤および硬化剤はこの樹脂注入ガン78で均質に混合されて、可変パッド38に流入する。この時注入口58に設けた一方向弁58aを通るから、混合した樹脂は可変パッド38から樹脂注入ガン78に逆流することがない。袋本体38aに入った樹脂はその一部がメッシュ状補強材38bの熱溶着部39を迂回しつつメッシュ状補強材38bの上・下面に分かれて
図4に矢印で示すように流動する。
【0044】
ここにメッシュ状補強材38bは前記のように、糸をメッシュ状に
して糸の交叉部を固着したものであり、開口(目合い)の寸法を2〜15mmとしたものである。このため樹脂の流入に伴い、樹脂充填室内の空気は開口を自由に流れるから、メッシュ状補強材38bの表面あるいは裏面に溜まって可変パッド38の樹脂の中に泡状に混入することがない。メッシュ状補強材38bは熱溶着部39で袋本体38aに熱溶着され、また樹脂もメッシュの開口を自由に流れるから、樹脂がメッシュ状補強材38bを折り曲げたり皺をつけたりすることもなく、またメッシュ状補強材38bを樹脂の中に偏在させることなく均一に広げた状態で樹脂を硬化させることができる。このため可変パッド38の強度を向上させ、その耐久性を増大させることができる。
【0045】
可変パッド38に混合した樹脂が注入されると、可変パッド38内の空気は空気抜き口60から詰め栓60aを通って大気中へ押し出される。詰め栓60aは空気に対して圧損(通路抵抗)が小さいので、空気は円滑に排出される。空気が完全に抜けると可変パッド38内の樹脂液がこの空気抜き口60に入り、樹脂液は詰め栓60aに浸入する。
【0046】
詰め栓60aは樹脂液に対して圧損(通路抵抗)が非常に大きいので、樹脂液はこの詰め栓60aに袋本体38a側から浸み込むだけで通過しない。また浸み込んだ樹脂液は、詰め栓60aに捕捉されて詰め栓60aの通気孔を塞ぐだけでなく、詰め栓60aの中でここに捕捉された樹脂液の硬化が速やかに進行する。このため詰め栓60aは空気抜き口60を完全に閉じることになる。
【0047】
その後空気ポンプ76の駆動により可変パッド38内に樹脂液がさらに圧入される。このため可変パッド38の厚さが増える。レール36とタイプレート14との間の間隙がなくなる厚さになったら、樹脂注入ガン78のコック(開閉弁)を閉じて、樹脂注入ガン78bのロッド部78bを注入口58から抜けばよい。可変パッド38に入った混合樹脂はしばらく放置することによって硬化する(ステップS206)。このようにして順次異なる可変パッド38に樹脂を充填すればよい。
【0048】
樹脂の硬化後にレール高さ調整具を取外す(ステップS208)。また樹脂の硬化後には、樹脂注入口58および空気抜き口60をその根元付近で切断して除去する(ステップS210)。作業が終わったら、樹脂注入ガン78を取外し、洗浄する。すなわち主剤と硬化剤が樹脂注入ガン78内で硬化する前に混合した樹脂を取り除く必要があるからである。