(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、多段圧延機は、小径のワークロールの外側にこのワークロールより大径とされた中間ロールやバックアップロールなどが複数配備されており、上述したロール冷却装置や形状検出器を設置可能なスペースがワークロールの周囲に殆ど確保できない場合が多い。特に、圧延材の巻込み防止・通板ガイド・ロールクーラント噴射といった機能を担うストリップガイドなどが取り付けられた多段圧延機では、ストリップガイドが邪魔になってワークロールの周囲に設置スペースがない場合が多い。
【0008】
また、特許文献1〜3の多段圧延機では、ワークロール自体の温度を調整することで圧延材の形状制御を行う構成となっているため、加熱されたワークロールが圧延材の表面に直に接触することになって、圧延材に光沢ムラが発生しやすくなる。
さらに、圧延材と接触するワークロールの表面には、ワークロールの潤滑油なども大量に供給されている。それゆえ、加熱または冷却されたオイルなどを潤滑油などが大量に存在するワークロールの周囲に供給しても、オイルと潤滑油とが混じり合ってしまい、ワークロールに対する加熱効果や冷却効果が得られにくいという問題もあった。
【0009】
本発明は、上記問題点を鑑みて為されてものであって、設置スペースの制約を受けたり光沢ムラを発生させたりすることなくワークロールのロールクラウンを大きく変化させることができる
多段圧延機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明の多段圧延機の形状制御方法は以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明に係る多段圧延機の形状制御方法は、圧延材を圧延する上下一対のワークロールの外側に、当該ワークロールを支えるサポートロールが配備されている多段圧延機に対して、前記サポートロールを局部的に加熱することで、当該サポートロールに接触するワークロールのロールクラウンを変化させ、前記ワークロール間で圧延される圧延材の圧延形状を制御することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明に係る多段圧延機は、圧延材を圧延する上下一対のワークロールの外側に、当該ワークロールを支えるサポートロールが配備されている多段圧延機であって、
前記サポートロールに接触するワークロールのロールクラウンを変化させるために、当該サポートロールを局部的に加熱する加熱手段が設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
本発明者は、ワークロールではなくワークロール以外のロール(中間ロールやバックアップロールなどのサポートロール)を局部的に加熱したり冷却したりすれば、設置スペースの制約が少なく、また圧延材に接触するロール表面の温度差もなくなって光沢ムラの発生も抑制できるのではないかと考えた。そして、ワークロールを用いた場合より大径のサポートロールを用いた場合の方がワークロールのロールクラウンをより大きく変化させることができ、さらに圧延材の圧延形状をより良好に制御できることを知見して、本発明を完成させたのである。
【0013】
なお、前記加熱手段は、前記サポートロールの軸心方向に沿って配備されているのが好ましい。また、このような加熱手段としては、前記サポートロールの表面に誘導電流を発生させる誘導コイルを備えているものや、前記サポートロールの表面に温度調整されたクーラントを噴射するクーラント噴射手段を備えているもの、または前記サポートロールの表面に温度調整された空気を噴射する空気噴射手段を備えているものを用いることができる。
【0014】
なお、本発明の多段圧延機にはクラスタ型のみならず縦型のものが含まれる。例えば、前記ワークロールの外側に当該ワークロールに接触する中間ロールが配備されており、前記中間ロールの外側に当該中間ロールに接触するようにバックアップロールが配備されている場合にあっては、前記中間ロール及び/又はバックアップロールが前記サポートロールとされていても良い。
【0015】
また、中間ロールを備えていない4段の縦型圧延機のように、前記ワークロールの外側に当該ワークロールに支持するバックアップロールが配備されている場合にあっては、前記バックアップロールが前記サポートロールとされていても良い。
また、本発明に係る多段圧延機の最も好ましい形態は、圧延材を圧延する上下一対のワークロールの
それぞれの外側に、当該ワークロールに接触する
2本の中間ロールが配備されており、前記中間ロールの外側に、
前記中間ロールよりも大径であり、当該中間ロールに接触するように
3本のバックアップロールが配備されている多段圧延機であって、前記中間ロールに接触する
前記ワークロールのロールクラウンを変化させるために、
前記バックアップロールの前記圧延材側を通って前記中間ロールの外周面に対面して当該中間ロールを局部的に加熱する加熱手段が、前記中間ロールの軸心方向に沿って設けられていることを特徴とする。
なお、好ましくは、前記加熱手段は、前記中間ロールの表面に誘導電流を発生させる誘導コイルを備えているとよい。
なお、好ましくは、前記加熱手段は、前記中間ロールの表面に温度調整されたクーラントを噴射するクーラント噴射手段を備えているとよい。
なお、好ましくは、前記加熱手段は、前記中間ロールの表面に温度調整された気体を噴射する気体噴射手段を備えているとよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の
多段圧延機によれば、設置スペースの制約を受けたり光沢ムラを発生させたりすることなくワークロールのロールクラウンを大きく変化させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
「第1実施形態」
以下、本発明に係る多段圧延機1の形状制御方法及び多段圧延機1の実施形態を、図を基に説明する。まず、本発明の形状制御方法が適用されたクラスタ型の多段圧延機を例に挙げて、本発明の多段圧延機1を説明する。
図1に示されるように、多段圧延機1は、ワークロール2、中間ロール3、バックアップロール4(以下、本実施形態では中間ロール3とバックアップロール4とを合わせてサポートロール12という)を複数本組み合わせて構成されており、複数本のロールを組み合わせたさまがちょうど葡萄の房のように見えることからクラスタ型の多段圧延機と呼ばれるものである。図例の多段圧延機1は、2本のワークロール2と4本の中間ロール3と6本のバックアップロール4との12段構成とされており、水平に架け渡されたステンレス、チタン、特殊鋼、銅などからなる板状の圧延材Wを圧延(特に冷間圧延)する際に用いられる。
【0019】
なお、
図1の紙面上での上下を多段圧延機1を説明する際の上下とする。また、
図1の紙面上での左右を多段圧延機1を説明する際の左右とする。また、
図1の紙面貫通方向を多段圧延機1を説明する際の幅方向とする。これらの方向は駆動側(ドライブサイド)から多段圧延機1を見た際の方向と一致する。また、以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0020】
まず、多段圧延機1を構成する各種ロールについて説明する。
図1に示すように、ワークロール2は、他のロールに比べて小径なロールであり、ステンレスの圧延材Wを冷間圧延する設備の場合であれば20〜100mmφ程度の径に形成されている。ワークロール2は、上下一対で構成されており、上下のロール間に圧延材Wを挟み込みつつ圧延材Wに圧延荷重を加えられるように配備されている。
【0021】
次に、ワークロール2を支えるサポートロール12について説明する。
本実施形態のサポートロール12は、ワークロール2の外側に設けられてこのワークロール2に接触する中間ロール3と、中間ロール3の外側に設けられてこの中間ロール3に接触するバックアップロール4とを有している。
中間ロール3は、それぞれのワークロール2の外側(上側のワークロール2の場合であれば上側のワークロール2のさらに上側、下側のワークロール2の場合であれば下側のワークロール2のさらに下側)に隣接して配備されるロールであり、互いに水平方向に距離をあけてワークロール1本につき2本ずつ配備されている。中間ロール3は、ワークロール2よりも大径なロールであって、外周面がワークロール2の外周面に接触するように配備されている。図例では、上側の中間ロール3はその外周面を上側のワークロール2の外周面に接触させるように、また下側の中間ロール3はその外周面を下側のワークロール2の外周面に接触させるようにして配備されている。これらの中間ロール3は、軸端部に図示しないユニバーサルスピンドルが連結されており、モータで発生した駆動力をユニバーサルスピンドルを介して伝達されることにより駆動回転する構成となっている。
【0022】
バックアップロール4は、それぞれの中間ロール3の外側に配備されるロールであり、いずれも中間ロール3より一般的に大径に形成されている。これらのバックアップロール4は、互いに水平方向に距離をあけて配備されており、その外周面が中間ロール3の外周面に接触するように配備されていて中間ロール3を外側から押さえ付けながら支持できる構成となっている。
【0023】
ストリップガイド5は、圧延材Wの巻込み防止・通板ガイド・ロールクーラント噴射といった機能を担う板状の部材であり、水平に架け渡された圧延材Wの上側と下側とにそれぞれ配備されている。ストリップガイド5は、圧延材Wから上下方向に一定の距離をあけるようにして且つ圧延材Wに沿うように水平方向に向かって設けられている。これらのストリップガイド5は、幅方向に圧延材Wとほぼ等しい幅を備えている。また、ストリップガイド5は、ワークロール2の左側(上流側)と右側(下流側)とのそれぞれに配備されていて、左右のストリップガイド5の間からワークロール2が外周面の一部を圧延材W側に向かって突き出すようになっている。
【0024】
ところで、多段圧延機1には圧延材Wにクォータ伸びなどの形状不良を修正する形状制御手段6が備えられている。このような形状制御手段6は、ワークロール2のロールクラウンを変化させることによりワークロール2により圧延される圧延材Wの形状を制御する構成となっており、ワークロール2を局部的に加熱したり冷却したりしてそのロールクラウン(サーマルクラウン)を変化させる加熱手段7を備えている。加熱手段7にはワークロール2に加熱(冷却)されたクーラントなどを噴射する方式やワークロール2を誘導加熱する方式が採用されるが、いずれの方法でも噴射ノズルや誘導コイルなどの部材を加熱(冷却)対象であるワークロール2の周囲に配備しなくてはならない。
【0025】
ところが、多段圧延機1では上述したようにワークロール2の外側にワークロール2を取り囲むように中間ロール3やバックアップロール4が配備されており、ワークロール2の上下には形状制御手段6を取り付ける設置スペースが確保できないことが多い。また、圧延材Wの巻込みを防止・通板ガイド・ロールクーラント噴射といった機能を担うストリップガイド5を設けると、ワークロール2の左右両側にも形状制御手段6を取り付ける設置スペースが確保できなくなってしまう。
【0026】
そこで、本実施形態の多段圧延機1に設けられる形状制御手段6は、局部的に加熱したり冷却したりする対象をワークロール2ではなく中間ロール3(サポートロール12)としている。具体的には、本実施形態の形状制御手段6は、中間ロール3を局部的に加熱する加熱手段7を備えていて、この加熱手段7で中間ロール3を局部的に加熱することにより中間ロール3にロールクラウン(サーマルクラウン)を付与し、この中間ロール3を介して間接的にワークロール2のロールクラウンを調整する構成となっている。なお、本実施形態の形状制御手段6や形状制御方法では、中間ロール3を局部的に加熱するものを「加熱手段7」というが、この「加熱手段7」には言うまでもなく中間ロール3を局部的に冷却する冷却手段が付帯されていても良い。
【0027】
次に、
図1〜
図4を用いて、第1実施形態の形状制御手段6を備えた多段圧延機1を説明する。本実施形態の形状制御手段6はワークロール2に接触する中間ロール3を局部的に加熱する加熱手段7を有しており、第1実施形態の加熱手段7は中間ロール3の表面に誘導電流を発生させる誘導コイルを備えている。
図2に示すように、加熱手段7は、内部に誘導コイルを備えた加熱器本体8と、この加熱器本体8を支持する支持フレーム体9とを備えている。加熱器本体8は、誘導コイルを内蔵した板状の部材であって、中間ロール3の外周面から一定の距離だけ離れた位置に取り付けられている。支持フレーム体9は、加熱器本体8を中間ロール3から一定の距離に取り付けるためのフレーム部材であって、内部には加熱器本体8に電力を供給する配線が納められている。
【0028】
加熱手段7は、上述したように全部で4本備えられた中間ロール3のそれぞれに対応して4箇所に亘って配備されている。例えば、左上の中間ロール3に対しては中間ロール3の左下の外周面に対面して加熱器本体8が位置するように、また右上の中間ロール3に対しては中間ロール3の右下の外周面に対面して加熱器本体8が位置するように、加熱手段7は左右で取付方向が反転したような配置で取り付けられている。
【0029】
図3に示すように、加熱手段7は、第1実施形態では幅方向(軸心に沿った方向)の両端側に2箇所に亘って備えられており、それぞれ中間ロール3の幅方向へ移動可能となっており、幅方向の任意の位置を局部的に加熱できる構成となっている。
加熱手段7では、加熱器本体8の誘導コイルから中間ロール3内に向けて高周波の磁力線を放射して、中間ロール3の内部に磁界を形成できるようになっている。このようにして中間ロール3の内部に磁界が発生すると、中間ロール3の内部に渦電流が生じ、渦電流の電気抵抗によりジュール熱が発生して、中間ロール3における磁力線が放射された部分だけが非接触状態で加熱される。
【0030】
図3及び
図4に示すように、加熱手段7では、加熱手段7からの距離が近いほど中間ロール3の内部に強い磁界が生じ、より大きなジュール熱の発生が可能となるため、
図3の例では加熱手段7が設けられる中間ロール3の両端部3aが中央部3bより高温になる。その結果、このような加熱手段7を用いることで中間ロール3に対してその両端部3aが中央部3bより熱膨張して大径となるようなロールクラウンを付与でき、この中間ロール3に接触するワークロール2も中間ロール3のロールクラウンの影響を受けて両端部2aが中央部2bより大径となるようなロールクラウンとなり、ワークロール2で圧延される圧延材Wの形状の制御が可能となるのである。
【0031】
第1実施形態の加熱手段7は上述したようにワークロール2ではなく中間ロール3に取り付けられて中間ロール3を局部的に加熱する構成となっている。例えば、
図2を用いて説明すれば、ワークロール2の側方にはストリップガイド5が配備されていて、加熱器本体8を取り付けられる設置スペースが確保できない。ところが、中間ロール3の右下側であれば加熱器本体8を設置するスペースは十分に確保可能となり、設置スペースの制約を受けることなく加熱手段7を配備することが可能となる。
【0032】
また、圧延材Wに接触するワークロール2の表面温度が高くなると、ワークロール2と圧延材Wとの摩擦係数が微妙に変化して圧延材Wに光沢ムラが発生することがある。しかし、中間ロール3を加熱する第1実施形態の加熱手段7では、ワークロール2には加熱手段7が設けられておらずワークロール2の表面温度は直接加熱される中間ロール3ほど高くなることがない。それゆえ、ワークロール2を加熱する場合より光沢ムラの発生を抑制乃至防止することが可能となる。
【0033】
さらに、多段圧延機1ではワークロール2に比べて中間ロール3は一般に大径であり、大径な中間ロール3を加熱して熱膨張させた方が、ワークロール2のロールクラウンをより大きく変化させることができ、圧延材Wの圧延形状をより大幅に変更することができる。例えば、ロールの熱膨張量ΔLは、ロール径L、線膨張係数α、温度変化ΔTを用いて、ΔL=α×L×ΔTとして示される。ワークロール2と中間ロール3とが同じ線膨張係数の材質で形成されていた場合、ロール径Lが大きいほど温度変化ΔTに対する熱膨張量ΔLは大きくなるため、小径なワークロール2を加熱するより中間ロール3を加熱する方がロールクラウンをより大きく変化させることができる。
【0034】
小径のワークロール2に発生するたわみ変形は高次の変化曲線で表される断面を示すことが知られている。したがって、中間ロール3に付与されたロールクラウンをなぞるような格好でワークロール2はたわむため、中間ロール3のロールクラウンと対応した幅方向位置でロールギャップが変化することにより、(ワークロール2を局部加熱したときと同様に)加熱位置と対応する幅方向位置での形状を変化させることが可能となる。
【0035】
なお、第1実施形態に示す誘導加熱式の加熱手段7では、後述する第2実施形態のように引火の可能性があるクーラントを用いていないので、中間ロール3をより高温まで加熱してワークロール2に大きなロールクラウンを付与することが可能となる。
「第2実施形態」
次に、第2実施形態の形状制御手段6を説明する。
【0036】
第2実施形態の形状制御手段6は、第1実施形態で説明した誘導加熱式の加熱手段7に代えて温度調整されたクーラントを噴射する噴射式の加熱手段7を備えている。
図5に示すように、第2実施形態の加熱手段7は、中間ロール3の表面にクーラントを噴射するクーラント噴射手段10(噴射ノズル)と、このクーラント噴射手段10にクーラントを供給する配管11とを備えている。この配管11は、図示しない温度調整器に連結されており、温度調整器ではクーラントを加熱又は冷却して所定の温度に調整できるようになっている。
【0037】
クーラント噴射手段10は、温度調整されたクーラントを中間ロール3の表面に噴射するための噴射ノズルであり、中間ロール3の外周面から一定の距離をあけた位置に取り付けられていて、クーラントを所定の強さ(流量)で噴射できる構成となっている。
図6に示すように、第2実施形態の加熱手段7では、クーラント噴射手段10から中間ロール3の表面に向けて噴射されたクーラントにより、噴射部分の中間ロール3だけが局部的に加熱又は冷却され、中間ロール3にロールクラウンを付与することが可能となる。
【0038】
また、加熱手段7は幅方向の両端側に2箇所に亘って且つそれぞれが中間ロール3の幅方向へ移動可能となるように備えられており、中間ロール3の任意の幅方向位置を局部的に加熱できる構成となっている。例えば、
図6に示す加熱手段7から中間ロール3の表面温度より高温に加熱されたクーラントを中間ロール3の両端側に噴射すると、中間ロール3の両端部が中央部より高温になる。その結果、第1実施形態の加熱手段7と同様に中間ロール3に対してその両端部が中央部より熱膨張して大径となるようなロールクラウンを付与でき、この中間ロール3に接触するワークロール2で圧延される圧延材Wの形状の制御が可能となる。
【0039】
第2実施形態の形状制御手段6では、第1実施形態の誘導加熱式の加熱手段7に比べて構造がシンプルな噴射式の加熱手段7を採用しているため、装置の価格を低く抑えられ、メンテナンスも容易であり、既存の設備に簡単に追加して設けることができる。
また、温度調整器でクーラントを中間ロール3の表面温度より低温に冷却し、冷却されたクーラントを中間ロール3に噴射すれば、噴射した部分の中間ロール3の径を小径にすることも可能となる。それゆえ、第2実施形態の形状制御手段6では、ワークロール2にさらに多様なロールクラウンを付与して圧延材Wの形状をより精緻に制御することが可能となる。
「第3実施形態」
次に、第3実施形態の形状制御手段6を説明する。
【0040】
第3実施形態の形状制御手段6は、第1実施形態で説明した誘導加熱式の加熱手段7及びクーラント噴射式の加熱手段7に代えて温度調整された空気やガスなどの気体(以下、気体という)を噴射する気体噴射式の加熱手段7を備えている。
図7に示すように、第3実施形態の加熱手段7は、中間ロール3の表面に気体を噴き付ける気体噴射手段15(噴射ノズル)と、この気体噴射手段15に温調された気体を供給する気体配管16とを備えている。この気体配管16は、図示しない温度調整器に連結されており、温度調整器では気体を加熱又は冷却して所定の温度に調整できるようになっている。
【0041】
気体噴射手段15は、温度調整された気体を中間ロール3の表面に噴き付けるためのエアノズルであり、第2実施形態のクーラント噴射手段10と同様に中間ロール3の外周面から一定の距離をあけた位置に取り付けられていて、気体を所定の流量で噴射できる構成となっている。
図8に示すように、第3実施形態の加熱手段7では、気体噴射手段15から中間ロール3の表面に噴き付けられた気体により、気体が吹きかけられた中間ロール3だけが局部的に加熱又は冷却され、中間ロール3にロールクラウンを付与することが可能となる。
【0042】
第3実施形態の形状制御手段6では、第2実施形態のクーラント噴射式の加熱手段7に対して、中間ロール3の表面に噴き付けられる媒体が気体である点に大きな特徴がある。つまり、第2実施形態の場合とは異なり、中間ロール3の表面にクーラントが接触する心配が全くないので、中間ロール3やワークロール2に光沢ムラが発生する心配が全くない。
【0043】
なお、第3実施形態の形状制御手段6が有するその他の構成及び作用効果については第2実施形態と同じであるため、それらに対する説明は省略する。
また、第3実施形態の形状制御手段6では、温度調整器で気体を所定の温度に加熱又は冷却してから気体噴射手段15まで送る例を挙げたが、例えば気体噴射手段15に加熱ヒータが組み込まれたものを用いれば、気体噴射手段15だけで気体を温度調整することも可能となる。
「第4実施形態」
次に、第4実施形態の形状制御手段6を説明する。
【0044】
図9に示すように、第4実施形態の形状制御手段6は、第1実施形態の誘導加熱式の加熱手段7と同じ加熱手段7を備えたものであるが、第1実施形態とは異なり誘導加熱式の加熱手段7を中間ロール3の軸方向(ロール幅方向)に等間隔に複数並べ、複数並べられた加熱手段7のうち所定の位置のものだけを動作させることにより中間ロール3におけるロール幅方向の一部だけを加熱できるようにしている。
【0045】
なお、第4実施形態の形状制御手段6では、加熱手段7に誘導加熱式を採用しているが、加熱手段7は第2実施形態で説明した噴射式や第3実施形態で説明した熱風加熱式を採用しても良い。
第4実施形態の形状制御手段6では、複数の加熱手段7のうちロール幅方向のどの位置にある加熱手段7を作動させるかで中間ロール3の加熱パターンを幅方向で様々に変化させることができる。例えば、図例では灰色の加熱手段7が加熱されており、中間ロール3における幅方向の両端部3aが中央部3bに対して加熱され膨張されている。このようにすれば、ワークロール2のロールクラウンに対して微妙な調整が可能となるため、圧延材Wの圧延形状をより精緻に調整することができる。
「第5実施形態」
上述した第1実施形態〜第4実施形態は、クラスタ型の多段圧延機の中間ロール3に形状制御手段6が設けられた例であった。一方、第5実施形態の多段圧延機1では、形状制御手段6がクラスタ型の多段圧延機のバックアップロール4に設けられてこのバックアップロール4を加熱するものを採用している。
【0046】
図11(a)に示す従来の形状制御手段では、バックアップロール4は、幅方向に複数に分割されたベアリング13(分割ロール)と、このベアリング13の軸を回転自在に支持する複数のサドル14とを有している。このサドル14は油圧や電動機などの手段を用いてワークロール2側に個別に移動可能となっており、サドル14がワークロール2側に移動すればこのサドル14に支持されたベアリング13の軸端もワークロール2側に移動する。
【0047】
上述した従来の形状制御手段を用いて形状を制御する場合は、
図11(b)に示すように複数のサドル14のひとつをワークロール2側に移動させると、このサドル14と幅方向に隣接した2つのベアリング13の軸端が移動してバックアップロール4にロールクラウンが付与され、中間ロール3を介してワークロール2にもロールクラウンを付与することが可能となる。
【0048】
上述した従来のバックアップロール4に設けられたサドル14を利用したロールクラウン制御や、バックアップロールベアリング内に偏心リングを入れて油圧等により個々のベアリングの位置を変える方式のクラウンコントロールに比べると、
図11(c)に示すように、第5実施形態の形状制御手段6では、上述した加熱手段7をバックアップロール4から距離をあけて且つバックアップロール4の幅方向に移動可能に設けて、ベアリング13のさらに一部の部分を加熱できるようにしてより局部的なロールクラウンの制御を可能としているのである。
【0049】
この第5実施形態の形状制御手段6は、上述したサドル14によるロールクラウンの制御に比べるとロールクラウンを微妙に変化させることができるため、サドル14によるロールクラウンの制御と併用して且つ補助的に用いることでロールクラウンを従来のものよりさらに精緻に制御することを可能とする。
なお、
図11(c)の形状制御手段6には噴射式の加熱手段7が用いられているが、言うまでもなく第5実施形態の形状制御手段6には上述した誘導加熱式や熱風加熱式の加熱手段7を用いることもできる。
「第6実施形態」
上述した第1実施形態〜第5実施形態は、形状制御手段6がクラスタ型の多段圧延機に設けられた中間ロール3及び/又はバックアップロール4に設けられた例であった。しかし、本発明の形状制御手段6が設けられる多段圧延機1には、クラスタ型だけではなく、縦型圧延機などが含まれる。次に、第6実施形態として上述した形状制御手段6が設けられた縦型の4段圧延機や6段圧延機を例に挙げて、本実施形態の多段圧延機を説明する。
【0050】
縦型の4段圧延機は上下一対のワークロール2の外側(上側のワークロール2のさらに上側及び下側のワークロール2のさらに下側)にバックアップロール4がそれぞれ設けられている。
この4段圧延機の場合であれば、それぞれのバックアップロール4に上述した加熱手段7が設けられ、この加熱手段7を作動させることでバックアップロール4を幅方向で局部的に加熱することができる。その結果、バックアップロール4を介してワークロール2のロールクラウンを微妙に調整でき、圧延材Wの圧延形状をより精緻に調整することが可能となる。
【0051】
また、6段圧延機の場合は、上下一対のワークロール2の外側に中間ロール3を介してバックアップロール4がそれぞれ設けられているため、この中間ロール3に上述した加熱手段7を設けても良いし、バックアップロール4に加熱手段7を設けても良い。むろん、中間ロール3とバックアップロール4との双方に加熱手段7を設けることもできる。
【実施例】
【0052】
次に、本発明の形状制御手段6を用いて形状制御を行った場合に、圧延材Wの形状がどのように変化するかを、実施例及び比較例を用いて詳しく説明する。
図10は、幅500mm、板厚50μmのステンレス箔を圧延材Wとして、この圧延材Wをロールバレル長600mm、50mmφのワークロール2を上下に備える多段圧延機1で圧延した際に、圧延材Wに生じる幅方向中心を基準とした伸び率差(I−unit)を実施例と比較例とで比較したものである。
【0053】
この多段圧延機1は、上述したワークロール2の外側にロールバレル長650mm、略70mmφの中間ロール3をそれぞれ一対ずつ備えている。実施例は、これらの中間ロール3に対してロール幅方向の中央から両端側に155〜220mmの範囲にクーラントを均等に噴射したものである。また、比較例は、ワークロール2に対してロール幅方向の中央から両端側に155〜220mmの範囲にクーラントを均等に噴射したものである。なお、中間ロール3及びワークロール2に噴射されるクーラントは40℃に加熱されたものと60℃加熱されたものとを用意し、比較のためにクーラントの噴射を行わなかったものと なお、幅方向中心を基準とした伸び率差(I−unit)は、圧延材Wを幅方向に複数条に分割し、各条ごとの伸びを測定したとき、板幅中心の条の長さを基準長さL
0とし、最も伸びの大きい条と基準長さL
0との伸びの差をΔLとするとき、幅方向中心を基準とした伸び率差(I−unit)は、ΔL/L
0×10
5で表される。
【0054】
図10(a)は中間ロール3を加熱した実施例の結果であり、
図10(b)はワークロール2を加熱した比較例の結果である。これらの
図10(a)及び
図10(b)は、いずれも圧延材Wの伸び率差をロール幅方向中央からの距離に応じて示している。
図10(a)におけるクーラントの噴射を行わない場合の結果(図中において塗りつぶされた菱形で示される結果)を見ると、幅方向中央から155mm〜220mmの領域に伸び比率が0を下回る領域が存在している。
【0055】
このような伸び比率が小さい部分に対しては、加熱されたクーラントを中間ロール3の幅方向中央から155mm〜220mmの領域に噴射することにより、ワークロール2のロールクラウンを調整して伸び比率を高くすることができる。
例えば、
図10(a)に示す40℃に加熱されたクーラントを噴射する場合(図中において白抜きの三角形で示される結果)では、155mm〜220mmの領域での伸び比率がI−unitで最大18程度まで高くなっている。また、60℃に加熱されたクーラントを噴射する場合(図中においてバツ印で示される結果)では、同じ領域での幅方向中心を基準とした伸び率差がI−unitで最大50程度まで高くなっている。
【0056】
ところが、加熱されたクーラントをワークロール2の幅方向中央から155mm〜220mmの領域に直接噴射して、ワークロール2のロールクラウンを調整した比較例(
図10(b))の結果では、伸び比率は
図10(a)の結果ほど高くなっていない。
例えば、40℃に加熱されたクーラントを噴射する場合では幅方向中心を基準とした伸び率差がI−unitで最大9程度、60℃に加熱されたクーラントを噴射する場合では伸び比率が最大35程度であり、加熱されたクーラントを中間ロール3に噴射した場合より伸び比率が明らかに小さくなっている。さらに、ワークロール2を直接加熱する場合では、圧延材Wでの光沢ムラの発生を抑制する点を考慮すれば、クーラントの加熱温度を60℃まで高くすることはできない。このことから、中間ロール3に温度調整されたクーラントを噴射して中間ロール3を介してワークロール2のロールクラウンを間接的に調整する実施例の方が、ワークロール2に直接クーラントを噴射する比較例より圧延材Wの伸び比率を大きくすることができ、より大きな形状制御能力を発揮できることがわかる。
【0057】
これらの結果から、本発明の形状制御手段6は、中間ロール3にホットクーラントを噴射することにより、ホットクーラント噴射位置に対応する位置で圧延材Wの出側形状が変化するため、クォータ伸び等の複合伸びに対して有効な形状制御手段であり、さらに、エッジ部分を伸ばすことで(ロールベンディングやシフト機能と比較して)板破断防止のための有効な形状制御アクチュエータとしても用いることができると言える。
【0058】
ところで、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
例えば、上記実施形態では誘導加熱式の加熱手段や噴射式の加熱手段を挙げて本発明の形状制御方法や形状制御手段6を説明した。しかし、本発明の形状制御方法や形状制御手段6に用いられる加熱手段7には誘導加熱式や噴射式以外の方式、例えば所定の温度に温度調整された空気やガスなどを中間ロール3に噴き付ける方式を採用することもできる。