特許第5773822号(P5773822)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5773822
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】ころ軸受の保持器
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/46 20060101AFI20150813BHJP
【FI】
   F16C33/46
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-211181(P2011-211181)
(22)【出願日】2011年9月27日
(65)【公開番号】特開2013-72477(P2013-72477A)
(43)【公開日】2013年4月22日
【審査請求日】2014年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】特許業務法人アイミー国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100091409
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100096792
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 八郎
(74)【代理人】
【識別番号】100091395
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 博由
(72)【発明者】
【氏名】大橋 いず美
【審査官】 稲垣 彰彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−138853(JP,A)
【文献】 特開2006−46391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
33/30−33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の環状部と、ころを収容するポケットを形成するように一対の前記環状部を連結する複数の柱部とを備えるころ軸受の保持器であって、
前記保持器の回転軸線と平行であって前記回転軸線を含む平面で切断した断面において、前記柱部は、前記保持器の回転軸線方向に対して傾斜して延びる一対の傾斜部を含み、
一対の前記傾斜部における前記ポケットの側壁面は、前記保持器の回転軸線方向に沿って延びる領域であって、前記ころを案内するころ案内部を有し、
前記ころ案内部のうち、前記保持器の回転軸線方向における中央領域は、前記保持器の回転軸線方向における両端部領域において前記側壁面が周方向にそれぞれ凹んだ凹部を形成するように、前記側壁面の一部を周方向に突出させるようにして形成される凸部を備える、ころ軸受の保持器。
【請求項2】
前記凹部、および前記凸部は、前記傾斜部の傾斜方向に沿って延びる形状である、請求項1に記載のころ軸受の保持器。
【請求項3】
前記凸部のうち、前記凹部側に位置する角部には、面取りがなされている。請求項1または2に記載のころ軸受の保持器。
【請求項4】
前記面取りは、R面取りである、請求項3に記載のころ軸受の保持器。
【請求項5】
前記凹部、および前記凸部は、曲面で連なる構成である、請求項1〜4のいずれかに記載のころ軸受の保持器。
【請求項6】
前記保持器を径方向から見た場合に、前記傾斜部における側壁面のうち、前記保持器の回転軸線方向における両端部領域は、前記保持器の回転軸線方向における中央領域よりも、前記柱部側に凹んだ形状である、請求項1〜5のいずれかに記載のころ軸受の保持器。
【請求項7】
前記保持器の回転軸線と平行であって前記回転軸線を含む平面で切断した断面において、前記柱部は、前記保持器の回転軸線に沿って一対の前記環状部からそれぞれ内方側へ延び、内方側の端部で一対の前記傾斜部とそれぞれ連なる一対の延出部と、一対の前記傾斜部の内方側の端部同士を連結するように、前記保持器の回転軸線に沿って延びる連結部とを含む、請求項1〜6のいずれかに記載のころ軸受の保持器。
【請求項8】
前記保持器の回転軸線と平行であって前記回転軸線を含む平面で切断した断面において、前記ころ案内部が位置する部分における前記傾斜部の肉厚は、前記延出部および前記連結部のうちの少なくともいずれか一方の肉厚よりも厚い、請求項7に記載のころ軸受の保持器。
【請求項9】
前記保持器の回転軸線と平行であって前記回転軸線を含む平面で切断した断面において、前記傾斜部の肉厚は、前記延出部および前記連結部の双方の肉厚よりも厚い、請求項7または8に記載のころ軸受の保持器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ころ軸受の保持器(以下、単に「保持器」という場合がある)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のトランスミッションのアイドラーや、オートバイのエンジンのコンロッド(コネクティングロッド)の大端部等に使用されるころ軸受の保持器として、断面が略M字形状であるM型保持器がある。M型保持器は、いわゆる鍔部を有し、ころを収容するポケット間に位置する柱部において、保持器の回転軸線の方向における中央部が、保持器の回転軸線の方向における両端部よりも内径側に凹んだ形状である。
【0003】
ここで、このような形状の保持器に関する技術が、特開平11−101242号公報(特許文献1)、特開平11−101243号公報(特許文献2)、特開平11−101244号公報(特許文献3)、および特開2004−353809号公報(特許文献4)に開示されている。
【0004】
特許文献1によると、保持器の耐久性向上および強度向上のために、保持器のポケット壁面の内径側部分と環状部の内側面との繋ぎアールRについて、針状ころの直径Drに対して所定の関係を有する針状ころ軸受が開示されている。特許文献2によると、潤滑油の流通性およびコンタミの排出性の向上の観点から、保持器の環状部の内径(直径)D1が、針状ころの内接円直径D0、針状ころの直径Drに対して、所定の関係を有する値に設定された針状ころ軸受が開示されている。特許文献3によると、保持器の環状部の内径側に突出した部分の内側面が、外径側に向かって軸受内方へ傾斜していることを特徴とする針状ころ軸受が開示されている。特許文献4によると、針状ころ軸受の保持器の軽量化の観点から、保持器の縮径部の肉厚を案内面の肉厚および環状部のフランジ部肉厚未満として、大きな荷重の加わる部位の肉厚を確保し、高強度と高速性とを両立させた針状ころ軸受が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−101242号公報
【特許文献2】特開平11−101243号公報
【特許文献3】特開平11−101244号公報
【特許文献4】特開2004−353809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
昨今、軸受の使用環境として、潤滑油が少ない希薄潤滑環境等、過酷な環境下で用いられる場合も多い。そして、このような過酷な環境下においても、ころの円滑な転動が求められている。ここで、上記した特許文献1〜特許文献4に開示の軸受を用いた場合においても、ポケットの側壁面ところとの間において、ポケットの側壁面ところとの接触時におけるトルクの増大が発生する場合がある。そうすると、ころの円滑な転動を図ることができないおそれがある。
【0007】
この発明の目的は、ころの円滑な転動を図ることができるころ軸受の保持器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るころ軸受の保持器は、一対の環状部と、ころを収容するポケットを形成するように一対の環状部を連結する複数の柱部とを備える。保持器の回転軸線と平行であって回転軸線を含む平面で切断した断面において、柱部は、保持器の回転軸線方向に対して傾斜して延びる一対の傾斜部を含む。一対の傾斜部におけるポケットの側壁面は、保持器の回転軸線方向に沿って延びる領域であって、ころを案内するころ案内部を有する。ここで、ころ案内部のうち、保持器の回転軸線方向における中央領域は、保持器の回転軸線方向における両端部領域において側壁面が周方向にそれぞれ凹んだ凹部を形成するように、側壁面の一部を周方向に突出させるようにして形成される凸部を備える。
【0009】
このように構成することにより、ころ案内部の中央領域において形成された凸部で、ポケットの側壁面ところとが接触することになる。そうすると、ポケットの側壁面ところとが接触する際のポケットの側壁面ところとの接触面積を小さくすることができる。したがって、トルクの低減を図ることができ、ころを円滑に転動させることができる。ここで、ころ案内部とは、一対の傾斜部における側壁面において、ころPCDが位置する部分に相当する領域である。
【0010】
ここで、凹部、および凸部は、傾斜部の傾斜方向に沿って延びる形状であってもよい。このように構成することにより、ころが径方向に多少移動した場合であっても、凸部ところとを適切に接触させることができる。
【0011】
また、凸部のうち、凹部側に位置する角部には、面取りがなされていてもよい。こうすることにより、ポケットの側壁面ところとが接触する際のころの摩耗を小さくすることができる。また、潤滑油の通油性が向上する。したがって、より適切に、ポケットの側壁面ところとを接触させることができる。また、面取りは、R面取りであってもよい。こうすることにより、滑らかな面でポケットの側壁面ところとを接触させることができ、より確実に、ポケットの側壁面ところとが接触する際のころの摩耗の低減および潤滑油の通油性の向上を図ることができる。
【0012】
また、凹部、および凸部は、曲面で連なる構成であってもよい。このような構成によれば、さらに確実に、ポケットの側壁面ところとが接触する際のころの摩耗の低減および潤滑油の通油性の向上を図ることができる。
【0013】
また、保持器を径方向から見た場合に、傾斜部における側壁面のうち、保持器の回転軸線方向における両端部領域は、保持器の回転軸線方向における中央領域よりも、柱部側に凹んだ形状であるであってもよい。このような構成であれば、例えば、製造時において、プレスによって径方向から部材を打ち抜いてポケットを形成する際に、この打ち抜き工程で、上記した凹部および凸部を形成することができる。したがって、容易に、上記した形状の保持器を製造することができ、生産性が良好になる。
【0014】
なお、好ましい一実施形態として、保持器の回転軸線と平行であって回転軸線を含む平面で切断した断面において、柱部は、保持器の回転軸線に沿って一対の環状部からそれぞれ内方側へ延び、内方側の端部で一対の傾斜部とそれぞれ連なる一対の延出部と、一対の傾斜部の内方側の端部同士を連結するように、保持器の回転軸線に沿って延びる連結部とを含む。このような保持器は、いわゆるM型保持器であり、保持器の強度向上等を図ることができる。
【0015】
また、保持器の回転軸線と平行であって回転軸線を含む平面で切断した断面において、ころ案内部が位置する部分における傾斜部の肉厚は、延出部および連結部のうちの少なくともいずれか一方の肉厚よりも厚く構成してもよい。このように傾斜部の肉厚を厚くすることにより、ポケット内に収容されたころのスキューの角度を小さくすることができる。また、ころが接触する部分の剛性を高くすることができる。したがって、軸受の長寿命化を図ることができる。
【0016】
また、保持器の回転軸線と平行であって回転軸線を含む平面で切断した断面において、傾斜部の肉厚は、延出部および連結部の双方の肉厚よりも厚く構成してもよい。このような構成によっても、軸受の長寿命化を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
このように構成することにより、ころ案内部の中央領域において形成された凸部で、ポケットの側壁面ところとが接触することになる。そうすると、ポケットの側壁面ところとが接触する際のポケットの側壁面ところとの接触面積を小さくすることができる。したがって、トルクの低減を図ることができ、ころを円滑に転動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】この発明の一実施形態に係るころ軸受の保持器を示す斜視図である。
図2】この発明の一実施形態に係るころ軸受の保持器の一部を、内径側から見た図である。
図3】この発明の一実施形態に係るころ軸受の保持器の一部を示す概略断面図であり、保持器の回転軸線と平行であって保持器の回転軸線を含む平面で切断した断面に相当する。
図4】この発明の一実施形態に係るころ軸受の保持器の一部を示す概略断面図であり、保持器の回転軸線と平行であって保持器の回転軸線を含む平面で切断した断面に相当する。
図5】この発明の一実施形態に係るころ軸受の保持器の一部を示す概略断面図であり、保持器の回転軸線方向から見た場合に相当する。
図6】この発明の一実施形態に係る針状ころ軸受の保持器の一部を示す概略断面図であり、図3中の三点鎖線で図示したVIで示す領域の拡大図である。
図7】この発明の一実施形態に係る針状ころ軸受の保持器の一部を拡大して示す図であり、図6中の矢印VIIで示す方向から見た図に相当する。
図8】この発明の他の実施形態に係るころ軸受の保持器の一部を示す概略断面図である。
図9】この発明のさらに他の実施形態に係るころ軸受の保持器の一部を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。図1は、この発明の一実施形態に係る針状ころ軸受の保持器を示す斜視図である。図2は、この発明の一実施形態に係る針状ころ軸受の保持器の一部を、内径側から見た図である。図3および図4は、この発明の一実施形態に係る針状ころ軸受の保持器の一部を示す概略断面図であり、保持器の回転軸線と平行であって保持器の回転軸線を含む平面で切断した断面に相当する。なお、図3は、図2に示すIII−III断面で切断した場合あって、ポケットが設けられた領域における断面図であり、図4は、図2に示すIV−IV断面で切断した場合であって、柱部が設けられた領域における断面図である。図5は、この発明の一実施形態に係る針状ころ軸受の保持器の一部を示す概略断面図であり、保持器の回転軸線方向から見た場合に相当する。図5は、図2に示すV−V断面で切断した場合である。なお、理解の容易の観点から、図3においては、ポケットを1つ図示している。また、理解の容易の観点から、図3および図4において、針状ころのピッチ円の直径であるころPCD(Pitch Circle Diameter)を、一点鎖線で示し、図1図3において、保持器の回転軸線を、二点鎖線で示している。また、理解の容易の観点から、図4において、任意のポケット14dに収容される針状ころを、点線で示している。
【0020】
図1図5を参照して、この発明の一実施形態に係る針状ころ軸受の保持器11は、自動車のトランスミッションのアイドラーや、オートバイのエンジンのコンロッド(コネクティングロッド)の大端部等に用いられる。保持器11は、複数の針状ころ13を保持する。針状ころ13を保持した保持器11は、保持器付きころとして、ラジアル方向の荷重を受ける。なお、軸受として用いられる場合には、潤滑油が適宜供給される。
【0021】
保持器11は、一対の環状部12a、12bと、針状ころ13を収容する複数のポケット14a、14b、14cを形成するように、一対の環状部12a、12bを連結する複数の柱部15a、15b、15cとを備える。ポケット14a、14b、14cは、図2等に示すように、図2における紙面上下方向である周方向に間隔を開けて、複数設けられている。すなわち、周方向に所定の間隔を開けて設けられるポケット14aとポケット14bとの間に、柱部15aが配置される構成である。保持器11は、複数のポケット14a、14b、14cのそれぞれに、1つずつ針状ころ13を収容して保持する。
【0022】
一方の環状部12aは、二点鎖線で示す保持器11の回転軸線16の一方方向の端部側から内径側に延びる円筒状の鍔部21aと、保持器11の回転軸線16の一方方向の端部側から対向する他方の環状部12b側に延びる円筒状の円環部22aとを備える構成である。鍔部21aのうち、内径側の端部における軸受外方側の角部には、面取り23aが施されている。また、鍔部21aのうち、内径側の端部における軸受内方側の角部には、面取り24aが施されている。これらの面取り23a、24aは共に、いわゆるC面取りである。他方の環状部12bについても同様に、円筒状の鍔部21bと、円筒状の円環部22bとを備える。そして、鍔部21bにおいても、鍔部21aと同様に、面取り23b、24bが施されている。保持器11の回転軸線16の方向における円環部22aと円環部22bとの間の領域が、柱部15aとなる。
【0023】
次に、柱部15aの構成について説明する。なお、保持器11に備えられる複数の柱部15a、15b、15cについては、いずれも同じ形状であり、基本的に、ポケット14aとポケット14bの間に設けられる柱部15aを基に説明する。
【0024】
柱部15aは、図3に示すように、保持器11の回転軸線16と平行であって回転軸線16を含む平面で切断した断面において、保持器11の回転軸線16の方向に対して傾斜して延びる一対の傾斜部26a、26bと、保持器11の回転軸線16に沿って一対の環状部12a、12bからそれぞれ内方側へ延び、内方側の端部で一対の傾斜部26a、26bとそれぞれ連なる一対の延出部27a、27bと、一対の傾斜部26a、26bの内方側の端部同士を連結するように、保持器11の回転軸線16に沿って延びる連結部28aとを含む。具体的には、円環部22aの内方側と延出部27aの外方側とが連なっており、円環部22bの内方側と延出部27bの外方側とが連なっている。すなわち、保持器11は、いわゆるM型保持器である。このようなM型保持器は、保持器の剛性が高いものである。なお、ここで、内方側とは、いわゆる保持器の内部側をいうものである。
【0025】
図3等における二点鎖線で示すころPCD17は、径方向において、一対の傾斜部26a、26bが設けられる領域に位置し、図3における紙面左右方向である保持器11の回転軸線16の方向に延びている。この一対の傾斜部26a、26bにおいてころPCD17が位置する部分が、ポケット14bに収容された針状ころ13とポケット14bの側壁面31aとの接触部となるころ案内部35a、35bとなる。
【0026】
針状ころ13を収容するポケット14bにおいて、ポケット14bを挟んで隣り合う柱部15a、15bの連結部28a、28b同士の周方向の間隔は、隣り合う柱部15a、15bにおける傾斜部26a、26c同士の周方向の間隔、および傾斜部26b、26d同士の周方向の間隔よりも狭くなっている。具体的には、柱部15aの連結部28aにおける側壁面34aと柱部15bの連結部28bにおける側壁面34bとの周方向の間隔は、柱部15aの傾斜部26aにおける側壁面32aと柱部15bの傾斜部26aにおける側壁面32cとの周方向の間隔、および柱部15aの傾斜部26bにおける側壁面32bと柱部15bの傾斜部26bにおける側壁面32dとの周方向の間隔よりも狭くなっている。そして、この柱部15a、15bのうちの最も内径側に位置する連結部28a、28bが、ポケット14bに収容された針状ころ13の内径側への脱落を防止する内径側ころ止め部29a、29bとなる。
【0027】
また、外径側においては、ポケット14bを挟んで隣り合う柱部15a、15bの延出部27a、27c同士の周方向の間隔、および延出部27b、27d同士の周方向の間隔は、隣り合う柱部15a、15bにおける傾斜部26a、26c同士の周方向の間隔および傾斜部26b、26d同士の周方向の間隔よりも狭くなっている。具体的には、柱部15aの延出部27aにおける側壁面33aと柱部15bの延出部27cにおける側壁面33cとの周方向の間隔、および柱部15aの延出部27bにおける側壁面33bと柱部15bの延出部27dにおける側壁面33dとの周方向の間隔は共に、柱部15aの傾斜部26aにおける側壁面32aと柱部15bの傾斜部26aにおける側壁面32cとの周方向の間隔、および柱部15aの傾斜部26bにおける側壁面32bと柱部15bの傾斜部26bにおける側壁面32dとの周方向の間隔よりも狭くなっている。そして、この柱部15a、15bのうちの最も外径側に位置する延出部27a、27b、27c、27dが、ポケット14bに収容された針状ころ13の外径側への脱落を防止する外径側ころ止め部30a、30bとなる。なお、ここでは、側壁面32a、32b、33a、33b、34aを総称して、ポケット14bの柱部15a側の側壁面31aという。
【0028】
図2等に示すように、一方の傾斜部26aにおける側壁面32aについては、保持器11の回転軸線16の方向において、中央領域38aが、端部領域38bよりも、周方向のポケット14b側に突出した形状である。すなわち、保持器11を径方向から見た場合に、傾斜部26aにおける側壁面32aのうち、保持器11の回転軸線16の方向における中央領域38aは、保持器11の回転軸線16の方向における両端部領域38bよりも、ポケット14b側に突出した形状である。この場合、側壁面32aにおける保持器11の回転軸線16の中央が最も突出するようにして、円弧状にポケット14b側に突出している。なお、他方の傾斜部26bにおける側壁面32bについても、同様の形状である。すなわち、保持器11を径方向から見た場合に、傾斜部26bにおける側壁面32bのうち、保持器11の回転軸線16の方向における中央領域38cは、保持器11の回転軸線16の方向における両端部領域38dよりも、ポケット14b側に突出した形状である。
【0029】
次に、柱部15aの詳細な構成について説明する。図6は、この発明の一実施形態に係る針状ころ軸受の保持器11の一部を示す概略断面図であり、図3中の三点鎖線で示したVIで示す領域の拡大図である。図7は、この発明の一実施形態に係る針状ころ軸受の保持器11の一部を拡大して示す図であり、図6中の矢印VIIで示す方向から見た図に相当する。図7においては、紙面上下方向が周方向となる。具体的には、紙面上側が、ポケット14bが位置する側となり、紙面下側が、柱部15aが位置する側となる。なお、理解の容易の観点から、図7に示す凸部の突出度合いについては、誇張して大きく図示している。
【0030】
図1図7を参照して、ころ案内部35aのうち、保持器11の回転軸線16の方向における中央領域は、保持器11の回転軸線16の方向における両端部領域において側壁面32aが周方向に凹んだ一対の凹部37a、37bを形成するように、側壁面32aの一部を周方向に突出させるようにして形成される凸部36aを備える構成である。
【0031】
この凸部36a、および一対の凹部37a、37bの構成について、具体的に説明する。ころ案内部35aは、柱部15aの傾斜部26aにおける内径側の壁面44aから柱部15aの傾斜部26aにおける外径側の壁面44bまで延びている。なお、ころ案内部35aは、図6中では、点45aと点45bとの間に示す領域である。ころ案内部35aの保持器11の回転軸線16の方向における長さは、壁面44aと壁面44bとの間の保持器11の回転軸線16の方向の長さLで示されるものである。そして、ころ案内部35aにおける母線形状は、図7に示す形状となる。
【0032】
凸部36aは、傾斜部26aのうち、保持器11の回転軸線16の方向の中央領域が周方向に突出するようにして形成されている。この中央領域については、図7において、点43aから点43bの間の長さLで示す紙面左右方向の領域である。そして、中央領域におけるさらなる中央領域、具体的には、図7において点42aから点42bの間の長さLで示す紙面左右方向の領域は、さらに周方向に突出した形状である。壁面44aと壁面44bとの間のちょうど中間に位置する点41が、最も突出した部分となる。
【0033】
そして、点43aから壁面44aに至る部分が、一対の凹部37a、37bのうちの一方の凹部37aを示す。すなわち、凹部37aが設けられた領域において、側壁面32aの一部が周方向に凹んだ形状となる。凹部37aについては、図7中の紙面左右方向において壁面44aに位置する最も左側の点45aが、最も周方向に凹んだ部分となる。同様に、点43bから壁面44bに至る部分が、一対の凹部37a、37bのうちの他方の凹部37bを示す。すなわち、凹部37bが設けられた領域において、側壁面32aの一部が周方向に凹んだ形状となる。凹部37bについては、図7中の紙面左右方向において壁面44bに位置する最も右側の点45bが最も周方向に凹んだ部分となる。
【0034】
凸部36aのうち、凹部37a側の角部47aおよび壁面44a側の角部48aには、面取りがなされている。具体的には、これらの面取りは、R面取りである。同様に、凸部36aのうち、凹部37b側の角部47bおよび壁面44b側の角部48bについても、面取りがなされている。具体的には、これらの面取りも、R面取りである。
【0035】
凸部36a、および一対の凹部37a、37b側に至る領域については、滑らかな曲面で構成されている。すなわち、凸部36aおよび一対の凹部37a、37bで構成されるころ案内部35aにおいては、図7に示すように、内径側の壁面44aから外径側の壁面44bに至るまで、滑らかな曲面で構成されている。そして、側壁面32aの一部である保持器11の回転軸線16の方向における両端部領域を周方向の柱部15a側に凹ませて、一対の凹部37a、37bとし、一対の凹部37a、37bの間の領域である保持器11の回転軸線16の方向における中央領域を周方向のポケット14bが位置する側に相対的に突出させて、凸部36aを形成する構成である。
【0036】
凹部37a、37bの凹み度合い、すなわち、凹部37a、37bのうちの周方向の最も凹んだ部分である点45a、45bと、凸部36aのうちの周方向の最も突出した部分である点41との間の長さ、具体的には、図7中の長さLで示す点45aと点45bを結ぶ線と点41との間の長さとしては、例えば、0.01mm(ミリメートル)が採用される。なお、点41を通って、保持器11の回転軸線16の方向の方向に沿う点線49は、点41と針状ころ13が接触した場合の針状ころ13の転動面の母線形状となる。
【0037】
この凸部36a、および一対の凹部37a、37bは、傾斜部26aの傾斜方向に沿って延びる形状である。具体的には、傾斜方向は、図6中の矢印Dで示す方向またはその逆の方向であり、保持器11の回転軸線16に対して、角度θだけ傾斜している。凸部36aが形成される領域39a、40aについては、図6中のハッチングした領域で示している。領域39aは、三点鎖線で囲まれた領域であり、領域40aは、四点鎖線で囲まれた領域である。領域40aで示す部分の方が、領域39aで示す部分よりも、周方向における柱部15a側に凹んでいる。
【0038】
他方の傾斜部26bについても、ころ案内部35bにおいて、凸部および一対の凹部が設けられている構成であるが、一方の傾斜部26aにおける構成と同様であるため、その説明を省略する。なお、図6中に、凸部36aに対応する凸部36b、一対の凹部37a、37bに対応する一対の凹部37c、37d、領域39aに対応する領域39b、および領域40aに対応する領域40bを示している。
【0039】
このような保持器11の構成によれば、ころ案内部35a、35bの中央領域において形成された凸部36a、36bで、ポケット14bの側壁面31aと針状ころ13とが接触することになる。そうすると、ポケット14bの側壁面31aと針状ころ13とが接触する際のポケット14bの側壁面31aと針状ころ13との接触面積を小さくすることができる。すなわち、ころ案内部35a、35bの全体で針状ころ13と接触するのではなく、中央領域に設けられた凸部36a、36bにおいて、針状ころ13と接触させることができる。したがって、トルクの低減を図ることができ、針状ころ13を円滑に転動させることができる。なお、この場合、点41のみで接触するのではなく、点41を含んである程度の幅を持った領域で針状ころ13ところ案内部35a、35bとが接触する。
【0040】
この場合、凸部36a、36b、および一対の凹部37a、37b、37c、37dは、傾斜部27a、27bの傾斜方向に沿ってそれぞれ延びる形状であるため、針状ころ13が径方向に多少移動した場合であっても、凸部36a、36bと針状ころ13とを適切に接触させることができる。
【0041】
また、凸部36a、36bのうち、凹部37a、37b、37c、37dに位置する角部には、それぞれ面取りがなされているため、ポケット14bの側壁面31aと針状ころ13とが接触する際の針状ころ13の摩耗を小さくすることができる。また、潤滑油の通油性が向上する。したがって、より適切に、ポケット14bの側壁面31aと針状ころ13とを接触させることができる。また、面取りは、R面取りであるため、滑らかな面でポケット14bの側壁面31aと針状ころ13とを接触させることができ、より確実に、ポケット14bの側壁面31aと針状ころ13とが接触する際の針状ころ13の摩耗の低減および潤滑油の通油性の向上を図ることができる。
【0042】
また、この場合、凸部36a、36b、および凹部37a、37b、37c、37dはそれぞれ、曲面で連なる構成であるため、さらに確実に、ポケット14bの側壁面31aと針状ころ13とが接触する際の針状ころ13の摩耗の低減および潤滑油の通油性の向上を図ることができる。
【0043】
ここで、保持器11を径方向から見た場合に、傾斜部26a、26bにおける側壁面32a、32bのうち、保持器11の回転軸線16の方向における両端部領域38b、38dは、保持器11の回転軸線16の方向における中央領域38a、38cよりも、柱部15a側に凹んだ形状であるため、例えば、製造時において、プレスによって径方向から部材を打ち抜いてポケット14bを形成する際に、この打ち抜き工程で、上記した両端部領域38b、38dにおける凹部および中央領域38a、38cにおける凸部を形成することができる。したがって、容易に、上記した形状の保持器11を製造することができ、生産性が良好になる。
【0044】
ここで、保持器における柱部のうち、一対の傾斜部の板厚は、連結部および延出部の双方の肉厚よりも厚く構成してもよい。図8は、この場合における針状ころ軸受の一部を示す断面図であり、図3に示す断面に相当する。
【0045】
図8を参照して、針状ころ軸受の保持器51は、一対の環状部52a、52bと、針状ころ13を収容するポケットを形成するように一対の環状部52a、52bを連結する複数の柱部53とを備える。保持器51の回転軸線と平行であって回転軸線を含む平面で切断した断面において、柱部53は、保持器51の回転軸線の方向に対して傾斜して延びる一対の傾斜部54a、54bと、保持器51の回転軸線に沿って一対の環状部52a、52bからそれぞれ内方側へ延び、内方側の端部で一対の傾斜部54a、54bとそれぞれ連なる一対の延出部55a、55bと、一対の傾斜部54a、54bの内方側の端部同士を連結するように、保持器51の回転軸線に沿って延びる連結部56aとを含む。一対の傾斜部54a、54bにおけるポケットの側壁面は、保持器51の回転軸線方向に沿って延びる領域であって、針状ころを案内するころ案内部57a、57bを有する。ころ案内部57a、57bのうち、保持器51の回転軸線方向における中央領域は、保持器51の回転軸線方向における両端部領域において側壁面が周方向にそれぞれ一対の凹んだ凹部59a、59bを形成するように、側壁面の一部を周方向に突出させるようにして形成される凸部58aを備える。
【0046】
ここで、一対の傾斜部54a、54bの肉厚は、一対の延出部55a、55bおよび連結部56aの双方の肉厚よりも厚い。具体的には、傾斜部54aの外径面60aから内径面60bまでの最短の長さLは、延出部55aの外径面60aから内径面60bまでの最短の長さL、および連結部56aの外径面60aから内径面60bまでの最短の長さLよりも長く構成されている。図8に示す保持器51と図1等に示す保持器11とは、一対の傾斜部54a、54bにおける肉厚が異なるだけで、保持器51における他の基本的構成は、図1等に示す保持器11と同じである。
【0047】
このように傾斜部54a、54bの肉厚を厚くすることにより、ポケット内に収容された針状ころのスキューの角度を小さくすることができる。また、針状ころが接触する部分の剛性、具体的には、ころ案内部57a、57bの剛性を高くすることができる。したがって、軸受の長寿命化を図ることができる。
【0048】
なお、図8に示す実施形態において、一対の傾斜部の肉厚を、一対の延出部および連結部の双方の肉厚よりも厚くするよう構成したが、これに限らず、延出部および連結部のうちの少なくともいずれか一方の肉厚よりも厚く構成してもよい。
【0049】
なお、上記の実施の形態において、長さL〜長さL等の寸法については、保持器に要求される特性や製造工程等に応じて、任意に定められるものである。また、凸部および一対の凹部については、傾斜方向に延びる構成としたが、これに限らず、ころ案内部に相当する部分にのみ設ける構成としてもよい。さらには、上記した構成において凸部および凹部は、左右対称な構成としたが、特に凹部や凸部について、左右方向に偏って形成してもよい。さらには、一対の傾斜部のうち、一方側のみに凸部および一対の凹部を形成する構成であってもよい。
【0050】
また、上記の実施の形態においては、凸部および一対の凹部について、角部の面取りがなされており、滑らかな曲面で連なる構成としたが、これに限らず、図9に示すような構成であってもよい。
【0051】
図9は、この発明のさらに他の実施形態に係る針状ころ軸受の保持器のうち、柱部の一部を拡大して示す拡大断面図であり、図7に示す断面に相当する。図9を参照して、この発明のさらに他の実施形態に係る保持器61は、ころ案内部62のうち、保持器61の回転軸線方向における中央領域は、保持器61の回転軸線方向における両端部領域において側壁面が周方向に凹んだ一対の凹部64a、64bを形成するように、側壁面の一部を周方向に突出させるようにして形成される凸部63aを備える。凸部63aのうち、凹部64a、64b側に位置するそれぞれの角部65a、65bには、面取りがなされておらず、角ばったままである。また、凹部64aのうちの壁面66a側の角部65c、および凹部64bのうちの壁面66b側の角部65dについても、面取りがなされておらず、角ばったままである。このように構成されていてもよい。
【0052】
なお、上記の実施の形態においては、柱部において、保持器の回転軸線の方向の中央部に、保持器の回転軸線の方向に延びる連結部を備える構成であるが、これに限らず、保持器の回転軸線の方向に延びる連結部を備えない構成、すなわち、一対の傾斜部の軸受内方側の端部同士がそのまま連結され、柱部の中央領域において、略V字状となっているものであってもよい。
【0053】
また、上記の実施の形態においては、ころPCDで、ポケット内に収容された針状ころとポケットの側壁面、具体的には、傾斜部に設けられるころ案内部で接触することとしたが、これに限らず、ころPCDから外れた位置において針状ころところ案内部とが接触する場合にも適用される。
【0054】
なお、上記の実施の形態においては、柱部において、保持器の回転軸線の方向の中央部が回転軸線の方向の両端部によりも内径側に位置する形状であったが、これに限らず、回転軸線の方向の中央部が、回転軸線の方向の両端部よりも外径側に位置する形状であってもよい。
【0055】
また、上記の実施の形態においては、保持器は、一対の環状部がそれぞれ鍔部を有するいわゆるM型保持器であったが、これに限らず、鍔部を有しないいわゆるV型保持器であってもよい。
【0056】
なお、上記の実施の形態においては、ポケットに収容されるころとして針状ころを用いることとしたが、これに限らず、円筒ころや棒状ころを用いてもよい。
【0057】
また、上記の実施の形態においては、軸受として保持器付きころ、すなわち、軸受として複数の針状ころと、複数の針状ころを収容する保持器とから構成されることとしたが、これに限らず、外輪や内輪を備える構成としてもよい。
【0058】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
この発明に係るころ軸受の保持器は、ころの円滑な転動が要求される場合に、有効に利用される。
【符号の説明】
【0060】
11,51,61 保持器、12a,12b,52a,52b 環状部、13 針状ころ、14a,14b,14c,14d ポケット、15a,15b,15c,53 柱部、16 回転軸線、17 ころPCD、21a,21b 鍔部、22a,22b 円環部、23a,23b,24a,24b 面取り、26a,26b,26c,26d,54a,54b 傾斜部、27a,27b,27c,27d,55a,55b 延出部、28a,28b,56a 連結部、29a,29b 内径側ころ止め部、30a,30b 外径側ころ止め部、31a,32a,32b,32c,32d,33a,33b,33c,33d,34a,34b 側壁面、35a,35b,57a,57b,62 ころ案内部、36a,36b,58a,63a 凸部、37a,37b,37c,37d,59a,59b,64a,64b 凹部、38a,38c 中央領域、38b,38d、端部領域、39a,39b,40a,40b 領域、41,42a,42b,43a,43b,45a,45b 点、44a,44b,66a,66b 壁面、47a,47b,48a,48b,65a,65b,65c,65d 角部、49 点線、60a 外径面、60b 内径面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9