(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
弁ハウジングと、該弁ハウジングに移動可能に支持され該弁ハウジングのメインポートを開閉する主弁体と、前記弁ハウジングに対して移動可能に支持され前記主弁体に形成されたパイロットポートを開閉するパイロット弁体とを有し、前記パイロット弁体と、前記主弁体とを開閉駆動する電動モータを備える電動弁であって、
前記電動モータのロータの回転を前記パイロット弁体に伝達するパイロット弁駆動機構と、前記電動モータの回転を前記主弁体に伝達する主弁駆動機構と、を備え、
前記パイロット弁駆動機構の前記電動モータのロータの1回転当たりの移動量を、前記主弁駆動機構の前記電動モータのロータの1回転当たりの移動量より大きく設定したことを特徴とする電動弁。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記構造のパイロット型制御弁は、主弁が全閉のとき、主弁はパイロット弁により閉方向に押さえ付けられており、主弁逆圧はパイロット部ばねに依存する構造となっている。また、主弁開弁点では、1次側の圧力に依存しており、主弁動作はパイロット部に依存している。このため、開弁直後に圧力バランスが崩れ、主弁が振動するチャタリングが発生する場合がある。
【0006】
さらに、従来の主弁とパイロット弁とを有する電動流量制御弁では、1つの制御パターンとして弁開度とリフト量の勾配が大きい場合には均圧時間が短くなり、制御時間を短くすることができるが、流量制御の分解能が落ちることになり、きめ細かい制御ができない。また、もう1つのパターンとして弁開度とリフト量の勾配を小さくすると、流量制御の分解能を高めることができるが、均圧時間が長くなり、制御時間も非常に長くなるという問題点がある。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、主弁の開弁直後のチャタリングを防止することができる電動弁を提供することにある。また、主弁を開閉制御する制御時間を短縮することができると共に、分解能を上げた流量制御が可能な電動弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成すべく、本発明に係る電動弁は、基本的には、弁ハウジングと、該弁ハウジングに移動可能に支持され該弁ハウジングのメインポートを開閉する主弁体と、前記弁ハウジングに対して移動可能に支持され前記主弁体に形成されたパイロットポートを開閉するパイロット弁体とを有し、前記パイロット弁体と、前記主弁体とを開閉駆動する電動モータを備える。そして、前記電動モータのロータの回転を前記パイロット弁体に伝達するパイロット弁駆動機構と、前記電動モータの回転を前記主弁体に伝達する主弁駆動機構と、を備え、前記パイロット弁駆動機構の前記電動モータのロータの1回転当たりの移動量を、前記主弁駆動機構の前記電動モータのロータの1回転当たりの移動量より大きく設定したことを特徴としている。
【0009】
前記のごとく構成された本発明の電動弁は、電動モータで主弁体及びパイロット弁体を制御するとき、パイロット弁駆動機構の移動量が主弁駆動機構の移動量より大きく設定されているため、電動モータを駆動すると、先ずパイロット弁体がパイロットポートを離れて圧力を開放する。そして、主弁体前後の差圧が小さくなった状態で該主弁体が電動モータにより強制的にメインポートから離脱されて流量を調整するため、主弁体の開弁が該主弁体の前後の圧力差に依存しない。これにより、主弁体のチャタリングを防止することができる。また、主弁体の移動量はパイロット弁体の移動量より小さく設定されているため、主弁体前後の圧力差を小さくするまでの時間(すなわち主弁体の開弁に要する時間)を短縮できると共に、分解能の高い流量制御が可能となる。
【0010】
また、本発明に係る電動弁の好ましい具体的な態様としては、前記主弁駆動機構と前記パイロット弁駆動機構とは、前記電動モータの回転を直線運動に変換するねじ送り機構であり、前記パイロット弁駆動機構のねじ送りピッチを、前記主弁駆動機構のねじ送りピッチより大きく設定したことを特徴としている。この構成によれば、パイロット弁ねじ送り機構の大きいねじ送りピッチでパイロット弁体が先に開弁し、主弁ねじ送り機構の小さいねじ送りピッチで主弁体が後から開弁するため、主弁体の開弁時に差圧が小さくなり、主弁体のチャタリングを防止することができる。また、主弁体のねじ送り量が小さいため、きめ細かい制御が可能となる。
【0011】
さらに、本発明に係る電動弁の好ましい具体的な他の態様としては、前記主弁駆動機構は、前記ロータに連結されたロータ軸体と、該ロータ軸体に追従して移動する前記主弁体とから構成され、前記主弁体は、前記ロータ軸体に遊び空隙を有して連結されていることを特徴としている。この構成によれば、パイロット弁体が先に開弁して差圧を小さくし、主弁体は、遊び空隙を有して連結されているロータ軸体によりパイロット弁体より遅れて移動するため、主弁体のチャタリングを確実に防止することができる。
【0012】
また、本発明に係る電動弁の好ましい具体的なさらに他の態様としては、前記パイロット弁駆動機構は、前記ロータの内周側にロータ軸方向に形成した溝部と、前記パイロット弁体をロータ軸方向に移動させる弁ホルダとを備えており、前記弁ホルダから延出する連動アームが前記溝部に係合することを特徴としている。この構成によれば、簡単な構成でロータと弁ホルダとを連動させることができ、動作を安定させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電動弁は、パイロット弁体と主弁体の双方を1つの電動モータによる2つの駆動機構で駆動し、パイロット弁体の移動量を主弁体の移動量より大きく設定しているので、最初にパイロット弁体を開き、次いで主弁体を開くため、パイロット弁体で主弁前後の圧力差を低減した状態で主弁を制御することができる。これにより、主弁体開弁時の圧力変動によるチャタリング現象を防止することができ、また当該電動弁の駆動用モータとして低トルクのものを使用することができる。さらに、パイロット弁体の移動量を大きくしているため均圧時間を短くでき、制御時間を短縮できる。さらにまた、主弁体の移動量が小さいため、きめ細かい流量制御を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る電動弁の一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る電動弁の、パイロット弁が閉状態で主弁も閉状態の主要部縦断面図、
図2は、
図1のA−A線に沿う水平方向断面図、
図3はパイロット弁が開状態で主弁は閉状態の主要部縦断面図、
図4は、パイロット弁が開状態で主弁も開状態の主要部縦断面図、
図5は
図1〜4の電動弁の動作説明に供されるグラフであり、ロータ11、パイロット弁体13a及び主弁体20のリフト量と弁開度(パルス数)との関係を示すものである。
【0016】
図1〜5において、電動弁1は、例えばマルチエアコン等の空調機において、室外機と室内機との間に配在するのに好適なもので、型式としては電動式パイロット型とされ、主弁2と該主弁2の上側に設けられた電動式パイロット弁3とからなっている。電動弁1は、弁ハウジング本体5と、弁ハウジング本体5の上部に溶接等で連結された筒状部材6と、筒状部材6の上部開口を塞ぐべく溶接等で連結された蓋状部材7とからなる弁ハウジング4を有している。
【0017】
筒状部材6は、ステンレス等の非磁性の金属板を素材としており、弁ハウジング本体5と蓋状部材7に密封接合されている。弁ハウジング本体5には、内部に弁室8が形成され、側部には弁室8に連通する入口ポート9が接続され、底部には弁室8に連通する出口ポート10が接続されている。入口ポート9から導入された冷媒を主弁2と、パイロット弁3で流量を制御して出口ポート10から導出する構成である。
【0018】
弁ハウジング4を構成する弁ハウジング本体5と、筒状部材6と、蓋状部材7の上部内部空間、すなわち筒状部材6に囲まれた空間には、電動モータMを構成するロータ11が回転軸線O回りに回転可能であると共に上下動可能に配置されている。ロータ11は上部が開口する有底円筒状に形成され、ロータの底面にはロータ軸体12が嵌合固着され、ロータ11とロータ軸体12とは連結されている。ロータ11には、その外周筒状部に多数の磁極が形成されている。
【0019】
ロータ軸体12は下部が開口する有底円筒状に形成され、ロータ軸体12の上部にはパイロット弁3のパイロット弁体13aを下端に有する弁軸13が弁ハウジング4に対して上下動可能であると共に回転可能に配置されている。電動モータMは、弁ハウジング4を構成する筒状部材6の外周側に装着されるステータ(図示せず)と、弁ハウジング4の内部に回転自在に位置するロータ11とから構成されるステッピングモータであり、電源回路(図示せず)から供給される駆動パルスにより回転させるものが使用されており、駆動パルス数により回転角度が設定される。
【0020】
ロータ軸体12は弁ハウジング本体5の上部を貫通する駆動孔5aに回転可能に、上下に摺動可能に嵌合している。この駆動孔5aには、内周面の下半分の部位に雌ねじ5bが形成され、ロータ軸体12の外周面の下半分の部位に形成された雄ねじ12aが噛み合っている。したがって、図示していない電動モータMのステータに通電してロータ11を回転させると、ロータ11と一体的に固着されたロータ軸体12も回転し、噛み合っている雌ねじ5bと雄ねじ12aによりロータ軸体12とロータ11は上下方向に移動できる構成となっている。弁ハウジング本体5の固定側の雌ねじ5bと、ロータ軸体12の移動側の雄ねじ12aにより主弁駆動機構として主弁ねじ送り機構17が構成される。
【0021】
弁ハウジング4の上部に固着された蓋状部材7は下面に凹部7aが形成され、この凹部に下方が開口する有底円筒状の弁送り筒体15が溶接等で固着されている。この弁送り筒体15の内周面にはパイロット弁3の弁軸13を移動させる機構を構成する雌ねじ15aが形成されている。弁送り筒体15の内部には下方が開口する有底円筒状の弁ホルダ16が位置しており、この弁ホルダ16の外周面に形成された雄ねじ16aが弁送り筒体15の内周面の雌ねじ15aと噛み合っている。弁ホルダ16の移動側の雄ねじ16aと、弁送り筒体15の固定側の雌ねじ15aによりパイロット弁駆動機構としてパイロット弁ねじ送り機構14が構成される。
【0022】
弁ホルダ16は上面の中心に貫通孔が形成され、この貫通孔にパイロット弁3を構成する弁軸13が回転可能に嵌合し、弁軸13の上端にはプッシュナット18が圧入固定され、弁軸13と弁ホルダ16を連結している。弁軸13の上方の段差部と弁ホルダ16の上部内面との間には圧縮コイルばね19が縮装され、弁軸13を下方に付勢している。弁ホルダ16は下端部より外周側に連動アーム16bが突出形成され、この連動アーム16bの先端はロータ11の内周面に上下方向に延在形成されたキー溝11a内に延出している。この構成により、ロータ11が弁軸13(回転軸線O)を中心として回転すると、弁ホルダ16は連動アーム16bによりロータ11に追従して回転され、弁ホルダ16の外周の雄ねじ16aと弁送り筒体15の内周の雌ねじ15aにより弁ホルダ16は上下に移動可能な構成となっている。
【0023】
ロータ11の下面には移動側の上ストッパ体11bが突出形成されており、弁ハウジング本体5の上面から上方に突出形成された固定側の下ストッパ体5cと当接可能に同一円周状に配置されている。ロータ11が回転して上下に移動され、ロータ11の上ストッパ体11bが弁ハウジング本体5の下ストッパ体5cに当接することでロータ11の下方への移動が制限され、電動モータMに駆動パルスが供給されていてもロータ11の回転が強制的に停止される構成となっている。また、ストッパ体同士が当接した状態から、ロータ11が1回転すると上ストッパ体11bは下ストッパ体5cから離れるようにストッパ体同士の高さが設定されている。
【0024】
弁ハウジング本体5の内部の弁室8には、主弁2を構成する主弁体20が、回転軸線Oに沿って上下に摺動可能に配置されている。主弁体20は中心を上下方向に貫通するパイロット通路21が形成された中心軸部20Aと、中心軸部20Aの下端部から円盤状に延出形成された主弁部20Bと、中心軸部20Aの上端部から水平方向に延出形成された連動鍔部20Cと、中心軸部20Aの中央部から水平方向に延出形成された中央鍔部20Dとを備えている。
【0025】
主弁体20の下端の主弁部20Bが弁ハウジング本体5の弁座部5d(メインポート)に当接することで主弁2を閉じ、主弁体20が上方に移動して弁座部5dとの間隙を変化させることで流量を調整するように構成されている。主弁体20の中心軸部20Aを貫通するパイロット通路21は中間部で上方が大径部となるように、例えば45度程度の傾斜面で段差部が形成され、この段差部はパイロット弁3の弁軸13の下端(すなわちパイロット弁体13a)が接離する弁座部21a(パイロットポート)として機能する。主弁体20の上端の連動鍔部20Cと、中間の中央鍔部20Dとの間の中心軸部20Aには水平方向に貫通する連通孔22が形成され、パイロット通路21と連通している。
【0026】
主弁体20の上端の連動鍔部20Cはロータ軸体12の下方開口の内部空間に位置しており、
図1に示すように主弁2が閉じている状態において、鍔部20Cの下方に遊び空隙Cを有して対向する連動リング23がロータ軸体12の下端部に圧入状態に嵌合している。この遊び空隙Cは主弁ねじ送り機構17の送り量を伝達する経路中に設けられた主弁の移動を遅らせる機能を有しており、主弁体20は遊び空隙Cを有してロータ軸体12に連結されている。連動リング23の内周は主弁体20の中心軸部20Aと僅かな間隙があり、連動リング23に対して主弁体20は回転可能であると共に、上下に摺動可能となっている。主弁体20の上端面とロータ軸体12の上面との間に圧縮コイルばね24が縮装され、主弁体20を下方に付勢している。
【0027】
主弁体20が位置する弁室8の上部は弁室8に対して小径に形成され、この小径の上部空間の内周面に主弁体20の中央鍔部20Dが僅かな間隙を有して対向している。弁室8の上部空間を中央鍔部20Dが分断して背圧室25を画成している。すなわち、
図1に示すように主弁2が閉じているときは、主弁体20の下端の主弁部20Bと中央鍔部20Dとで弁室8を画成し、主弁体20の上端の連動鍔部20Cと中央鍔部20Dとで背圧室25を画成している。主弁体20の中央鍔部20Dには上下方向に均圧孔26が貫通され、弁室8と背圧室25とを連通している。また、主弁体20の中心軸部20Aに水平方向に貫通する連通孔22は、背圧室25内の冷媒等の流体をパイロット弁3の開弁時にパイロット通路21に導入する機能を有している。
【0028】
本発明の一実施形態の電動弁1においては、主弁2とパイロット弁3とは1つの電動モータMにより駆動される。主弁2はロータ軸体12の雄ねじ12aと、弁ハウジング本体5の雌ねじ5bからなる主弁ねじ送り機構(主弁駆動機構)17で主弁体20を駆動する。また、パイロット弁3は、弁ホルダ16の外周の雄ねじ16aと、弁送り筒体15の内周の雌ねじ15aとからなるパイロット弁ねじ送り機構(パイロット弁駆動機構)14でパイロット弁体13aを有する弁軸13を駆動する。
【0029】
そして、パイロット弁ねじ送り機構14のねじ送りピッチが、主弁ねじ送り機構17のねじ送りピッチより大きくなるように設定されている。本実施の形態では、パイロット弁ねじ送り機構14のねじ送りピッチは0.8mmに設定され、主弁ねじ送り機構17のねじ送りピッチは0.6mmに設定されている。このため、電動モータMの1回転でパイロット弁3の弁軸13は0.8mm上昇、下降し、主弁2の主弁体20は0.6mm上昇、下降するように構成され、主弁2の移動量に対してパイロット弁3に移動量が大きくなるように構成されている。このように、ロータ11の1回転当たりのパイロット弁体13aの上下方向の移動量は、主弁体20の上下方向の移動量より大きく設定されている。
【0030】
前記の如く構成された本実施形態の電動弁1の動作について以下に説明する。
図1は主弁2とパイロット弁3とが閉じた状態であり、主弁体20は弁ハウジング本体5の弁座部5dに接触しており、入口ポート9から導入された冷媒等の流体は弁室8内に入り、出口ポート10へ導出されず、パイロット弁3のパイロット弁体13aが弁座部21aに接触して閉じた状態となっている。また、ロータ11の上ストッパ体11bと弁ハウジング本体5の下ストッパ体5cとが当接してロータ11が機械的にロックされた状態となっている。
【0031】
この状態について詳細に説明すると、主弁2とパイロット弁3とが閉じた状態であり、主弁2の主弁部20Bは弁座部5d(メインポート)に接触して閉じた状態であり、パイロット弁3のパイロット弁体13aは主弁体20の中心に位置するパイロット通路21の弁座部(パイロットポート)21aに接触しており、閉じた状態となっている。そして、弁室8内の高圧の冷媒は均圧孔26を通して背圧室25に入り、背圧室25(及び弁室8)と出口ポート10との差圧(主弁体20の前後の差圧)、並びに圧縮コイルばね24の弾発力で主弁2を弁座部5dに押し付けている。
【0032】
先ず、
図1の上ストッパ体11bと下ストッパ体5cとが当接した状態に至る前状態のストッパ体同士が当接する前の状態からの動作について説明する。主弁2及びパイロット弁3が共に閉じ、上ストッパ体11bと下ストッパ体5cとが当接していない状態から、電動モータMに例えば順位相でパルス供給を行って、ロータ11を弁ハウジング本体5に対して一方向に回転させると、パイロット弁ねじ送り機構14と、主弁ねじ送り機構17によりロータ軸体12と弁ホルダ16が下降する。すなわち、弁送り筒体15の固定側の雌ねじ15aと、弁ホルダ16の移動側の雄ねじ16aとのねじ送りにより、弁ホルダ16が下方に移動して圧縮コイルばね19を圧縮する。また、弁ハウジング本体5の固定側の雌ねじ5bと、ロータ軸体12の移動側の雄ねじ12aとのねじ送りにより、ロータ軸体12が下方に移動して圧縮コイルばね24を圧縮する。
【0033】
この時点では、移動側の上ストッパ体11bは未だ固定側の下ストッパ体5cに当接しておらず、パイロット弁3の弁体13aがパイロット弁座部21aに着座したまま弁ホルダ16はさらに回転下降する。このときは、パイロット弁3の弁軸13に対して弁ホルダ16が下降するため、緩衝用の圧縮コイルばね19が圧縮せしめられることにより弁ホルダ16の下降力は吸収される。圧縮コイルばね19が圧縮されると、弁軸13の上端に固定されたプッシュナット18と弁ホルダ16との間に間隙が形成される。また、主弁2のロータ軸体12も弁ハウジング本体5に対して下降するため、圧縮コイルばね24も圧縮されて下降力は吸収される。
【0034】
その後、ロータ11がさらに回転して弁ホルダ16が下降すると、移動側の上ストッパ体11bが固定側の下ストッパ体5cに衝接し、電動モータMのステータコイルに対するパルス供給が続行されても弁ホルダ16の下降は強制的に停止される。
図1は、この状態を示しており、主弁体20の主弁部20Bは圧縮コイルばね24により弁座部(メインポート)5dに圧接しており、パイロット弁3の弁軸13は圧縮コイルばね19により弁座部(パイロットポート)21aに圧接している。
【0035】
主弁2及びパイロット弁3が閉状態(
図1に示される状態)にあり、ストッパ体5c、11b同士が当接した状態にあるとき(“0”パルスの状態)から、電動モータMに、逆位相でパルス供給を行って、ロータ11を前記とは逆方向に回転させると、ロータ11の回転はパイロット弁ねじ送り機構14と主弁ねじ送り機構17に伝達される。すなわち、ロータ11の回転はキー溝11a内に位置している弁ホルダ16の連動アーム16bを介して弁ホルダ16を回転させ、パイロット弁ねじ送り機構14を構成する弁ホルダ16の外周の雄ねじ16aと、弁送り筒体15の雌ねじ15aによって弁ホルダ16は上昇する。このときの弁ホルダ16の上昇量はロータ11の1回転に対してパイロット弁ねじ送り機構14のねじピッチ0.8mmとなっている。ロータ11が1回転すると上ストッパ体11bは下ストッパ体5cから離れ、ロータ11の機械的な移動制限は解除される。
【0036】
弁ホルダ16が弁送り筒体15の雌ねじ15aに沿って上昇して弁ホルダ16がプッシュナット18に当接すると、弁ホルダ16の中心に連結されている弁軸13はプッシュナット18と共に上昇し、弁軸13の下端のパイロット弁体13aがパイロットポート21aを離れてパイロット弁3が開く。パイロット弁3が開くと、背圧室25内の高圧の冷媒は主弁体20の連通孔22を通り、パイロット通路21を通過して微量の冷媒が出口ポート10に導出される。
【0037】
また、ロータ11の回転はロータ軸体12に伝達され、主弁ねじ送り機構17を構成するロータ軸体12の雄ねじ12aと、弁ハウジング本体5の雌ねじ5bによってロータ軸体12は上昇する。このときのロータ軸体12の上昇量はロータ11の1回転に対して主弁ねじ送り機構17のねじピッチ0.6mmとなっている。しかしながら、ロータ軸体12は上昇しても、ロータ軸体12に嵌合している連動リング23と主弁体20の連動鍔部20Cとの間には遊び空隙Cがあるため、主弁体20は移動することはない。このため、弁座部5dと主弁体20の下端の主弁部20Bとは接触したままの状態が継続し、主弁2のメインポートは閉じた状態が継続する。
【0038】
すなわち、主弁ねじ送り機構17で、ロータ11の回転を直線変換して直線移動量を主弁体20に伝達する経路中で、ロータ軸体12の移動量が主弁体20に伝達されず主弁体の移動が中断される。ロータ軸体12が所定量上昇すると連動リング23と連動鍔部20Cとが接触し、更なるロータ11の回転でロータ軸体12と共に主弁体20は上昇して主弁部20Bと弁座部5dとが開き、入口ポート9内の高圧の冷媒は弁座部(メインポート)5dを通過して出口ポート10に流通する。
【0039】
ロータ11の回転が主弁ねじ送り機構17の小さいねじ送りピッチによってロータ軸体12を上昇させ、パイロット弁ねじ送り機構14の大きいねじ送りピッチによってパイロット弁3の弁軸13を上昇させ、
図3及び
図5に示される如くに、パルス数(弁開度)がTa(例えば32パルス)となったとき、弁ホルダ16の上方移動に伴ってパイロット弁3のパイロット弁部である弁軸13下端のパイロット弁体13aがパイロットポート21aから離れ始めてパイロット弁3が開き始め、
図5に示される如くに、パルス数がTb(例えば160パルス)になるまで、当該パイロット弁3における弁開度が徐々に微増して、背圧室25の冷媒がパイロット通路21を通じて出口ポート10に流出し、背圧室25の圧力が徐々に減圧される。このTbのときに主弁体20が開弁可能な小さな圧力差となる。
【0040】
このように、パイロット弁3が開き、主弁2が閉じた状態では、背圧室25の冷媒はパイロットポート21aからパイロット通路21に抜け背圧室25内は低圧となり、背圧室25と出口ポート10との間の圧力差が小さくなる。
【0041】
そして、パルス数(弁開度)がTbとなり、背圧室25と出口ポート10との間の圧力差が小さくなると、
図3に示される如くに、パイロット弁3のパイロット弁体13aがパイロット弁座部21aから所定距離αだけ離れ、以降パイロット弁3とパイロットポートとの距離は増加する。また、主弁2は、主弁体20の連動鍔部20Cと連動リング23との遊び空隙Cが0となり、電動モータMのロータ11の回転がロータ軸体12を介して主弁体20に伝達される。このため、遊び空隙Cが0となった後の駆動パルスにより主弁体20は主弁ねじ送り機構17によって0.6mmのピッチで上昇し、弁座部5dから離れて開き始める。
【0042】
この主弁2の開弁時には、予め開いているパイロット弁3により主弁体20の前後差圧(背圧室25及び出口ポート10の間の差圧)が小さくなっており、この状態で主弁体20は強制的に引き上げられる。このため、従来の制御弁のように、主弁がパイロット弁による差圧でリフト制御されることがなく、主弁体20は主弁ねじ送り機構17により電動モータMにより駆動されるため、主弁2の主弁体20に圧力変動が作用せず、チャタリング現象が解消される。この結果、電動弁1のチャタリング現象による異音発生や振動を防止することができる。
【0043】
続いて、電動モータMへの供給パルス数をさらに増加させていくと、パルス数がTc(例えば480パルス)になるまで、パイロット弁3はパイロット弁ねじ送り機構14により上昇移動され、主弁体20も
図4に示される如くに、主弁ねじ送り機構17により上昇移動される。詳細には、パイロット弁3の弁軸13はパイロット弁ねじ送り機構14により、0.8mmのピッチで上昇し、主弁2は主弁ねじ送り機構17により、0.6mmのピッチで上昇する。すなわち、パイロット弁3は主弁2に先行して上昇する。つまり、電動式パイロット弁3は大きな移動量で移動するので主弁体20を上昇可能とするまでの時間が短く、その一方で、主弁2は小さな移動量で上昇するため、きめ細かい流量制御が可能となる。
【0044】
これにより、
図5に示される如くに、パルス数(弁開度)がTbからTcの間は、当該電動弁1における主弁体20のリフト量がパルス数に応じて緩やかな一定の勾配をもって滑らかに増加していく。すなわち、本実施形態では、パルス数がTbからTcになるまでは、主弁体20は主弁ねじ送り機構17のねじ送りピッチ(0.6mm)で上昇され、主弁体20がパルス数(回転量)に対して同距離ずつ上昇するように、各部の寸法仕様等が設定されている。なお、主弁体20が小さい送りピッチ(0.6mm)で上昇している間に、パイロット弁3の弁軸13は大きいねじ送りピッチ(0.8mm)で上昇するが、パイロットポートの間隔が増えるだけで主弁体20の流量制御には影響を与えることはほとんどない。
【0045】
そして、パルス数がTcになると、
図4に示される如くに、主弁体20は最大上昇位置βに到達し、主弁体20と弁座部5dとの隙間から最大流量の冷媒が本実施形態の電動弁1を通過することができる。このように、主弁体20の位置は駆動パルス数によって決定され、従来の制御弁のように圧力には依存しないため、主弁体20の位置は安定し、しかも主弁体20は小さいねじ送りピッチ(0.6mm)で移動されるため分解能の高い流量制御が可能となる。また、主弁体20の主弁部20Bは大口径であり、小さい移動量で大流量の冷媒を通過させることができる。さらに、
図5より明らかなように、パイロット弁体13aは大きな速度で引き上げられるので、主弁体20の前後の差圧が速やかに低減されて該主弁体20が駆動されるまでの時間が短縮され、その一方、主弁体20は、パイロット弁体13aよりも遅い速度で引き上げられるので、該主弁体20による流量制御を精緻に行うことができる。
【0046】
なお、図示してはいないが、弁ホルダ16を固定しているプッシュナット18が弁送り筒体15の面に当接してストッパとして機能するように構成してもよい。このようにパイロット弁3の上昇限度を機械的に制限するように構成すれば、電動モータMに供給するパルスを制限しなくても主弁の開口面積は主弁最大開度よりは大きくならず、このときの開度(最大開度)を維持することになる。また圧縮コイルばね24は省略することが可能である。
【0047】
以上のように、本実施形態の電動弁1では、1つの電動モータMでパイロット弁3と主弁2を駆動し、パイロット弁3の駆動機構14の送り量を主弁2の駆動機構17の送り量より大きく設定しているので、電動モータMに供給するパルス数に応じて弁開度(開口面積)を滑らかに変化させることができるとともに、均圧時間を早くすることができる。そのため、弁開度(開口面積)を任意に、かつきめ細かく調整することができるとともに、騒音の発生を効果的に抑えることができ、さらに、優れた応答性、動作安定性、制御特性等が得られる。また、主弁体20前後の差圧を小さくした状態で該主弁体20を引き上げるので、電動モータとして低トルクのものを採用することができる。換言すれば、大流量を制御することが可能となる。
【0048】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。例えば、主弁の送り量を0.6mmとし、パイロット弁の送り量を0.8mmとしたが、これに限られるものでなく、主弁の送り量よりパイロット弁の送り量が大きければ任意に設定することができる。
【0049】
また、主弁駆動機構やパイロット弁駆動機構としてねじ送り機構の例を示したが、回転運動を直線運動に変換する機構であれば、他の機構を用いることができる。さらに、パイロット弁ねじ送り機構の移動量を、主弁ねじ送り機構の移動量より大きく設定することで、主弁よりパイロット弁を先に開弁することができ圧力差を速やかに低減させることができるため、主弁ねじ送り機構の送り量を伝達する経路中に、主弁体の移動を中断させる遊び空隙がなくても主弁体のチャタリングを抑制することができる。