特許第5773880号(P5773880)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5773880-薄肉ジョイント部材の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5773880
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】薄肉ジョイント部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 53/36 20060101AFI20150813BHJP
   F16B 7/04 20060101ALI20150813BHJP
   B21D 19/08 20060101ALI20150813BHJP
   B21H 3/08 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   B21D53/36 Z
   F16B7/04 301U
   B21D19/08 D
   B21H3/08
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-539257(P2011-539257)
(86)(22)【出願日】2010年10月5日
(86)【国際出願番号】JP2010005952
(87)【国際公開番号】WO2011055485
(87)【国際公開日】20110512
【審査請求日】2013年7月11日
(31)【優先権主張番号】特願2009-254785(P2009-254785)
(32)【優先日】2009年11月6日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592236670
【氏名又は名称】株式会社吉野工作所
(74)【代理人】
【識別番号】100098936
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100098888
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 明子
(72)【発明者】
【氏名】吉野 昌宏
【審査官】 石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−046019(JP,A)
【文献】 特開2001−295511(JP,A)
【文献】 特開2001−173616(JP,A)
【文献】 特開平02−290922(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 53/36
B21D 19/08
B21H 3/08
F16B 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本のパイプを保持するパイプの曲面に沿って円弧状に湾曲したジョイント部材どうしの間に保持し、前記ジョイント部材どうしにボルトを通してボルトナット締結することで前記2本のパイプを連結するパイプ連結用メタルジョイントのナット側薄肉ジョイント部材の製造方法において、
素材として炭素量が0.20〜0.25mass%、ボロン量が0.001〜0.005mass%のボロン鋼製の肉厚が1.0〜1.3mmの薄肉の金属板を用い、
折り曲げ加工を施して全体を立体成形した後に、
バーリング加工を施して肉厚が0.8mm以上の筒状体に成形し、
その筒状体に転造タップ加工を施してネジ山を3〜3.5山としたネジ部を形成した後に、
無酸化炉内で加熱温度870〜900℃、保持時間30分の条件で加熱した後、油に投入して焼入れ処理することで、
1600MPaの強度と500Hvの硬度を確保しつつ、ナット機能を担わせたことを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2本のパイプを一対のジョイント部材の間に保持し、ジョイント部材どうしをそれぞれの連結孔を利用してボルトナット締結することで前記2本のパイプを連結するパイプ連結用メタルジョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のメタルジョイントは、特許文献1に示すように、一対のジョイント部材の間に2本のパイプを係合保持し、ボルトを一対のジョイント部材の連結孔に挿通し、ナットに螺合させて締付けることで連結していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−283123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
而して、従来の場合には、一対のジョイント部材をほぼ同じ構造にできる利点はあるが、連結作業時にナットを落とす等の問題があり、最近強く要求されている組立て工数の低減には対応できていない。
一方、ナットを一方のジョイント部材に溶接したりカシメ取付けしたりして一体化することも提案されたが、一体化するのにかなりの手間が掛かるため、コスト高を招く等の問題がある。
また、最近ではジョイントについても、材料コストや輸送コストを軽減するために、薄肉軽量化を図ることが要求されており、強度が980MPa程度のハイテン材を素材として活用して肉厚を従来の2.6mmからより薄肉化しようと試みられたが、肉厚は精々2mm程度までしか薄肉化できず、またジョイント部材は折り曲げ加工時に大きな曲率で曲げられるため、ハイテン材の場合には、割が発生して、しかも生産設備の一つである金型の消耗も激しく持ちが悪くなるため、量産化に至らなかった。
それ故、本発明は、上記課題を解決するために、製品強度を落としたりコスト高を招いたりすることなく、薄肉でしかもナット側についてはナット機能を十分に担えるジョイント部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一方のジョイント部材に直接ナットとしての機能を担わせてナットレス化を図ろうとしても、ジョイント部材が薄肉軽量化されている場合には、肉厚の薄い連通孔にシボリをつけてタップを切ることになるが、薄肉のため強度がどうしても低くなり、ネジが破損してしまう。そのため、ジョイント部材の薄肉軽量化を優先すれば、結果的にナット状のものを溶接やカシメにより取り付けることになって、コスト面の問題を解決できない。
本発明者は、思考錯誤の結果、素材として特定のものを用い、バーリング加工を施して十分なネジ形成面を確保した上でそこに転造タップ加工により十分な肉厚を確保しながら複数のネジ山を形成し、その後に焼入れ処理を施してネジ山の強度を高めることにより、上記課題を同時に解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
請求の範囲第1項の発明は、2本のパイプを保持するパイプの曲面に沿って円弧状に湾曲したジョイント部材どうしの間に保持し、前記ジョイント部材どうしにボルトを通してボルトナット締結することで前記2本のパイプを連結するパイプ連結用メタルジョイントのナット側薄肉ジョイント部材の製造方法において、素材として炭素量が0.20〜0.25mass%、ボロン量が0.001〜0.005mass%のボロン鋼製の肉厚が1.0〜1.3mmの薄肉の金属板を用い、折り曲げ加工を施して全体を立体成形した後に、バーリング加工を施して肉厚が0.8mm以上の筒状体に成形し、その筒状体に転造タップ加工を施してネジ山を3〜3.5山としたネジ部を形成した後に、無酸化炉内で加熱温度870〜900℃、保持時間30分の条件で加熱した後、油に投入して焼入れ処理することで、1600MPaの強度と500Hvの硬度を確保しつつ、ナット機能を担わせたことを特徴とする製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、ジョイント部材について、製品強度を落としたりコスト高を招いたりすることなく、薄肉軽量化を達成できる。ナット側薄肉ジョイント部材についてはナットレス化が図れる。
また、ボルト側薄肉ジョイント部材、即ちナットの付いていない側の薄肉ジョイント部材に貫通穴や溝を付けることで、ボルト側薄肉ジョイント部材とナット側薄肉ジョイント部材の仕分けが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る一対の薄肉ジョイント部材の斜視図である。
図2図1のナット側薄肉ジョイント部材の破断図である。
図3図2のナット側薄肉ジョイント部材の拡大破断図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態に係るメタルジョイント部材について、図面に従って説明する。
ナット側薄肉ジョイント部材が、相方のボルト側薄肉ジョイント部材と一対となって所謂メタルジョイントを構成している。図1はナット側薄肉ジョイント部材1とその相方のボルト側薄肉ジョイント部材3を示す。
【0014】
以下、先ずナット側薄肉ジョイント部材1について説明する。
素材はS20C(JIS規格)相当の低炭素鋼にボロンが添加されたボロン鋼製の薄肉の金属板を用いる。このボロン鋼は、炭素量:0.20〜0.25mass%、ボロン量:0.001〜0.005mass%であり、焼入れ可能となっている。このボロン鋼は、焼入れ前はHv:130程度で十分に軟らかく、焼入れすると、1600MPa位の強度で500Hv程度の硬度が確保される。
素材の金属板の肉厚は1.0〜1.3mmであり、この実施の形態では1.2mmになっている。従来の冷間圧延鋼板を素材として用いて製造したジョイント部材の肉厚は2.6mm程度であるから半減していることになる。
【0015】
ナット側薄肉ジョイント部材1は、第1保持部5と、第2保持部7と、第1保持部5と第2保持部7とを連結する連結部9とでなる。第1保持部5と第2保持部7はそれぞれ同じ板面側で円弧状に湾曲して、保持するパイプの曲面に沿っている。第1保持部5の軸方向側端面には係合用に凹凸部11が形成されている。
連結部9は第2保持部7に連続して円弧状に湾曲した湾曲面となっており、その端面が第1保持部5の外周面に連結している。連結部9には凹部13が形成されており、この凹部13は湾曲側とは反対方向に凹んでいる。凹部13の縁14は第2保持部7側では、略コの字状になっている。
【0016】
図2図3において符号15は円形の低い筒状体を示し、この筒状体15は凹部13内に形成された孔の縁から凹部13側に立ち上がっている。この筒状体15の内面にはネジ部17が形成されている。
筒状体15の内周面の高さ寸法は、ナット側薄肉ジョイント部材1の肉厚より大きくなっており、その内周面には、この種のジョイント部材に使用するボルトに適応したネジ山が複数、好ましくは3〜3.5山形成できるようになっており、この実施の形態では3山の例が図示されている。
また、筒状体15の最低肉厚(w)は、好ましくは0.8mm以上であり、この実施の形態では、0.9mmになっている。
【0017】
ナット側薄肉ジョイント部材1は、上記した金属板を素材として用い、これをプレスにより打抜き成形して、先ず展開状態でほぼ横Y字状に形成し、次に折り曲げ加工して立体状に成形している。
ナット側薄肉ジョイント部材1については、凹部13にバーリング加工により筒状体15を形成しており、その内面には転造タップ加工によりネジ部17が形成されている。
ネジ部17の形成後、焼入れ処理を施して、表面硬度や強度を上げる。
【0018】
本発明の製造方法では、素材に対して折り曲げ加工、バーリング加工、転造タップ加工と言った加工段階では十分な展伸性が要求され、最終製品の段階では一転して高い表面硬度と強度が要求されているが、上記したボロン鋼を用いるので上記の要求には十分に耐えられる。また、ネジ山も3〜3.5山と十分な数が確保され、且つ、転造タップ加工でネジ部17を形成したため、筒状体15の最低肉厚(w)として0.8mm以上が確保されていることも相俟って、実用時のボルトの締付けトルク(100kg・cm)にも破損せずに耐えられる。
因みに、炭素鋼は、炭素量:0.40mass%以上(S42C〜45C)のものでないと焼入れできないが、S35C位で既に焼入れ前の段階でHv:150程度とかなり硬くなっており、上記した加工を施すと割れ易い。
このように、ナット側薄肉ジョイント部材1は、特定のボロン鋼を素材として用いることで初めて実用化できたものである。
【0019】
ナット側薄肉ジョイント部材1は相方のボルト側薄肉ジョイント部材3と共に使用される。ボルト側薄肉ジョイント部材3は、ナット側薄肉ジョイント部材1と同様な形状をしているが、筒状体15の代わりに、孔開けしただけの連通孔19が形成されている点が異なる。ボルト側薄肉ジョイント部材3は、ナット側薄肉ジョイント部材1と同じ素材を用いて、同じように打抜き成形および折り曲げ加工した後、定法により孔開けをして製造することができる。したがって、共通する部位は同じ符号を付すことで説明を省略する。
【0020】
2本のパイプを連結させる際には、ナット側薄肉ジョイント部材1の湾曲凹面とボルト側薄肉ジョイント部材3の湾曲凹面を対向させ、第1保持部5、5との間に一方のパイプを保持させ、第2保持部7、7との間に他方のパイプを保持させる。また、ナット側薄肉ジョイント部材1とボルト側薄肉ジョイント部材3を凹凸部11で互いに係合させる。その上で、ボルトをボルト側薄肉ジョイント部材3の連通孔19側から挿通させ、ナット側薄肉ジョイント部材1のネジ部17に螺合させて締付ける。
【0021】
ボルト側薄肉ジョイント部材3側には、第1保持部5の中央付近に上下方向に延びる長穴(=貫通穴)23が形成されており、連結部9の両側縁側にそれぞれ上下方向に延びる長溝24が形成されている。
ナット側薄肉ジョイント部材1とボルト側薄肉ジョイント部材3は同じような形状をしているが、上記した長穴23と溝24により容易に区別が付くようになっている。
【0022】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の具体的構成が上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨から外れない範囲での設計変更があっても本発明に含まれる。
例えば、ジョイント部材は2本のパイプを交差方向に連結するものに限定されない。
【実施例1】
【0023】
素材としてボロン鋼(炭素量:0.20〜0.25mass%、ボロン量:0.001〜0.005mass%)製の金属板(肉厚:1.2mm)を用いて上記構成のナット側薄肉ジョイント部材1を製造した。ナット側薄肉ジョイント部材1の筒状体15のネジ山は3山、最低肉厚(w)は0.8mmとした。製造の際には、従来から慣用している生産設備を使用し、金型を薄肉に修正した。
それを、無酸化炉内で加熱温度870〜900℃、保持時間30分の条件で加熱した後、油に投入して焼入れ処理した。
【0024】
その後、ナット側薄肉ジョイント部材1を試験したところ、焼入れ処理により、1600MPa位の強度で500Hv程度の硬度が確保された。
また、同じ素材から同じようにして製造したボルト側薄肉ジョイント部材3と一対になって2本のパイプを係合保持し、M6キャップスクリューボルトで締付けたところ、200kg.cmの締付トルクで破損しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
資源高の時代、資源の少ない日本にとってジョイント部材の薄肉軽量化は省資源化にとって非常に大切であるが、それだけでなく、軽量化効果は製造時(フープ材、プレス、焼入れ、表面処理、仕上、商品配送)の各工程に波及して、輸送機材を軽量化でき、燃費の向上も図れる。
従来は主に冷間圧延鋼板(SPCC)を用いて一対のジョイント部材を製造し、ナットを併用してボルトナット締結をしていたが、その従来のジョイント部材に比べて、本発明の方法でボルト側を含めて一対のジョイント部材を薄肉軽量化したものに製造すれば、60%と言う驚異的な軽量化が図れる。2002年時の生産量である1600トンは766トンになり、834トン軽くなるので、軽量化効果が如何に大きいかは明らかである。
さらに、本発明の方法では素材として特殊鋼を用い、焼入れ処理を追加して行うことになるが、素材は薄肉のもの、例えば、従来2.6mmの板厚であったものを1.3mm以下、即ち半分以下の板厚のものに代えることができるので、結果的には従来品と殆ど同じ価格で販売することができ、コスト面の問題は解消できる。
【0026】
また、近年、環境問題でCO削減が求められているが、2002年時の販売数量を元にジョイント部材全ての薄肉軽量化が実施された場合には、表1に示すように年間
1,329トンものCO削減効果が期待できる。
【0027】
【表1】
【符号の説明】
【0028】
1‥‥ナット側薄肉ジョイント部材
3‥‥ボルト側薄肉ジョイント部材 5‥‥第1保持部
7‥‥第2保持部 9‥‥連結部 11‥‥凹凸部
13‥‥凹部 14‥‥(凹部の)縁 15‥‥筒状体
17‥‥ネジ部 19‥‥連通孔 23‥‥長穴 24‥‥溝
図1
図2
図3