特許第5773890号(P5773890)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5773890
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】下注ぎ造塊方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 7/10 20060101AFI20150813BHJP
   B22D 7/06 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   B22D7/10 101
   B22D7/06 G
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-2188(P2012-2188)
(22)【出願日】2012年1月10日
(65)【公開番号】特開2013-141677(P2013-141677A)
(43)【公開日】2013年7月22日
【審査請求日】2014年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100061745
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 大輔
(72)【発明者】
【氏名】出浦 哲史
(72)【発明者】
【氏名】岩永 浩司
(72)【発明者】
【氏名】飛松 晴記
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−051822(JP,A)
【文献】 特開昭51−016217(JP,A)
【文献】 特開2003−145250(JP,A)
【文献】 特開2012−016715(JP,A)
【文献】 米国特許第04119468(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 7/00−7/12
B22D 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶鋼を注入管を介して下方から鋳型に装入することにより鋳塊を製造する下注ぎ造塊方法を行うに際し、
前記鋳型内の溶鋼に浴面を被覆するための被覆材を添加した後、平均粒径が200μm以上5mm以下の金属Ca及び/又はCa合金を、保温材を添加する前又は同時に添加することとし、
前記浴面の表面積に対する前記金属Ca及び/又はCa合金のCa成分の添加量が0.35kg/m以上10kg/m以下の範囲内の値となるように前記金属Ca及び/又はCa合金を添加すると共に、保温材の成分含有量と添加した前記金属Ca及び/又はCa合金のCa成分含有量との関係を示す[%Ca]/([%Al]+3[%Fe]+[%FeO]+2[%SiO]+2[%MnO]+[%S])が0.08以上0.25以下の範囲内の値となるようにしていることを特徴とする下注ぎ造塊方法。
ただし、[%X]:保温材中X含有量(モル%)とする。
【請求項2】
溶鋼を注入管を介して下方から鋳型に装入することにより鋳塊を製造する下注ぎ造塊方法を行うに際し、
前記鋳型内の溶鋼に浴面を被覆するための被覆材を添加した後、平均粒径が200μm以上5mm以下の金属Ca及び/又はCa合金を含有する保温材を添加することとし、
前記浴面の表面積に対する前記金属Ca及び/又はCa合金のCa成分の添加量が0.35kg/m以上10kg/m以下を満たすように前記保温材を添加すると共に、保温材の成分含有量と添加した前記金属Ca及び/又はCa合金のCa成分含有量との関係を示す[%Ca]/([%Al]+3[%Fe]+[%FeO]+2[%SiO]+2[%MnO]+[%S])が0.08以上0.25以下の範囲内の値となるようにしていることを特徴とする下注ぎ造塊方法。
ただし、[%X]:保温材中X含有量(モル%)とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼を注入管を介して鋳型に装入することにより鋳塊を製造する下注ぎ造塊方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶鋼を注入管を介して鋳型に装入することにより鋳塊を製造する方法として、鋳型の下方から鋳型内に溶鋼を注入することにより鋳塊を製造する下注ぎ造塊方法がある。特許文献1は、このような下注ぎ造塊方法を開示するものである。
特許文献1では、下注ぎ法または上注法によってキルド鋼を製造するに当って、鋳込前溶鋼の温度をTL(液相開始温度)+20℃以上にするとともに、その溶鋼の注入中ないしはその直後に、溶鋼トン当り総発熱量が1800Kcal以上になる量の早期燃焼型高カロリー保温剤、ただし発熱して最高温度に達するピーク時間が3分以内のものをもって、鋳型内湯面上を被覆し、鋼塊底部の沈澱晶帯における介在物集積を、軽減抑制している。
【0003】
また、特許文献1に示すような下注ぎ造塊法ではないが介在物の群生化を防止するものとして特許文献2に開示されたものがある。
特許文献2では、アルミニウム、チタン、ジルコニウム等を単独又は複合して含有する溶鋼を0.5〜30ton/分の注入速度で鋳造するに際して金属カルシウム若しくはカルシウムを含む合金粒を0.5〜2.0kg/分の供給速度で注入溶鋼流に添加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭47−026334号公報
【特許文献2】特開昭49−035232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2には、鋳塊中の介在物の集積を低減する技術が開示されている。しかし、これら文献に開示の技術を下注ぎ造塊方法による鋳塊の製造に用いたとしても、介在物の集積を十分に低減することは困難であり、その結果、サイズの大きな介在物である粗大介在物の発生を十分に抑制することが困難となっているのが実情である。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、鋳塊中の粗大介在物の発生を抑制し、清浄度の優れた鋳塊を製造することができる下注ぎ造塊方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、次の手段を講じた。
即ち、本発明における課題解決のための技術的手段は、溶鋼を注入管を介して下方から鋳型に装入することにより鋳塊を製造する下注ぎ造塊方法を行うに際し、前記鋳型内の溶鋼に浴面を被覆するための被覆材を添加した後、平均粒径が200μm以上5mm以下の金属Ca及び/又はCa合金を、保温材を添加する前又は同時に添加することとし、前記浴面の表面積に対する前記金属Ca及び/又はCa合金のCa成分の添加量が0.35kg/m以上10kg/m以下の範囲内の値となるように前記金属Ca及び/又はCa合金を添加すると共に、保温材の成分含有量と添加した前記金属Ca及び/又はCa合金のCa成分含有量との関係を示す[%Ca]/([%Al]+3[%Fe]+[%FeO]+2[%SiO]+2[%MnO]+[%S])が0.08以上0.25以下の範囲内の値となるようにしている点にある。
【0007】
本発明の他の技術的手段は、溶鋼を注入管を介して下方から鋳型に装入することにより鋳塊を製造する下注ぎ造塊方法を行うに際し、前記鋳型内の溶鋼に浴面を被覆するための被覆材を添加した後、平均粒径が200μm以上5mm以下の金属Ca及び/又はCa合金を含有する保温材を添加することとし、前記浴面の表面積に対する前記金属Ca及び/又はCa合金のCa成分の添加量が0.35kg/m以上10kg/m以下を満たすように前記保温材を添加すると共に、保温材の成分含有量と添加した前記金属Ca及び/又はCa合金のCa成分含有量との関係を示す[%Ca]/([%Al]+3[%Fe]+[%FeO]+2[%SiO]+2[%MnO]+[%S])が0.08以上0.25以下の範囲内の値となるようにしている点にある。なお、[%X]は、保温材中X含有量(モル%)である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、鋳塊中の粗大介在物の発生を抑制し、清浄度の優れた鋳塊を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】下注ぎ造塊を行う下注ぎ造塊装置の概略図である。
図2】下注ぎ造塊の流れを示す図であって、(a)造塊の初期段階であり、(b)造塊の中期段階であり、(c)終期段階でCaを添加した時であり、(d)終期段階で保温材を添加した時を示している。
図3】実施例における[%Ca]/([%Al]+3[%Fe]+[%FeO]+2[%SiO]+2[%MnO]+[%S])の値と介在物最大径との関係図である。
図4】実施例におけるCaの添加量の値と介在物最大径との関係図である。
図5】Caの平均粒径を200μm以上に調整した場合の実施例及び比較例の結果を表わす分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図を参照しながら、本発明の実施形態による下注ぎ造塊方法について説明する。
まず図1を参照して、本実施形態の下注ぎ造塊方法が適用される下注ぎ造塊装置1について説明する。図1は、下注ぎ造塊を行う下注ぎ造塊装置1の概略構成を示している。
下注ぎ造塊装置1は、下注ぎ造塊法により溶鋼2を鋳造するものであって、取鍋3内の溶鋼2を注入する注入管4と、この注入管4に注入された溶鋼2が装入される鋳型5と、注入管4と鋳型5とを連通する定盤6とを備えている。
【0011】
注入管4及び定盤6には溶鋼2が通る湯道7が形成されていて、注入管4は、定盤6から上方に向かって立つように設けられている。鋳型5は、下方に下注入口9が形成されており定盤6上に設置されている。鋳型5は、溶鋼2が定盤6の湯道7から下注入口9を経て下方から装入される構造となっている。鋳型5の上部には、押湯枠8が装着されている。
【0012】
このような下注ぎ造塊装置1にて下注ぎ造塊を行うにあたっては、まず、取鍋3を注入管4上に配置して、取鍋3内の溶鋼2を注入管4に注入する。溶鋼2は、注入管4及び定盤6に形成された湯道7を通り、下注入口9を経て鋳型5へ下方から到達し、鋳型5内で冷却されてインゴット等の鋳塊となる。この下注ぎ造塊方法においては、例えば船舶用部品や発電機用部品などに用いられる大型鍛造品等の素材となる鋳塊を製造することができる。
【0013】
本実施形態の下注ぎ造塊方法について詳しく説明する。
下注ぎ造塊方法において、鋳型5に装入された溶鋼2の浴面が大気と接触すると、溶鋼2は大気との接触面から酸化して清浄度を低下させる。そこで本実施形態では、溶鋼2の酸化を防止するために、溶鋼2の鋳型5内への注入が始まった段階で、溶鋼2の浴面を被覆するための被覆材10(C−SiO−CaO−Al系の被覆材)を鋳型5の上方から添加する。
【0014】
図2(a)に示すように、具体的には、溶鋼2が鋳型5内に注入される前に、被覆材10が装入された袋を鋳型5内の下注入口9の近傍に配置する。こうすれば、溶鋼2の鋳型5内への注入が始まった直後に溶鋼2の熱によって袋が溶けるので、溶鋼2の鋳型5内への注入が始まった早い段階から溶鋼2の浴面が被覆材10で覆われる。
次に、図2(b)に示すように、鋳型5内への溶鋼2の装入が続くと、溶鋼2の浴面は徐々に上昇してゆき、浴面上の被覆材10は、浴面が上昇する溶鋼2と鋳型5の内面との
間に流入しながら消費されていく。この過程では、消費量に応じて鋳型5の上方から被覆材10を追加添加することで、できるだけ溶鋼2の浴面が大気に露出しないようにし、溶鋼2の大気との接触を防止している。被覆材10の追加は、鋳型5内への溶鋼2の装入が開始されてから溶鋼2の浴面が押湯枠8に到達するまで実施し、その間、溶鋼2の表面積(浴面の面積)の70%以上が被覆材10で被覆されている状態を保つようにした。なお、被覆材10の添加方法は、上述した方法に限らない。被覆材10の入った袋を溶鋼2の注入開始前に鋳型5内に置かなくとも、溶鋼2の鋳型5内への注入が始まった直後から、被覆材10を鋳型5の上方から溶鋼2の浴面に直接添加してもよいし、その他の方法により添加してもよい。
【0015】
通常、下注ぎ造塊方法では、溶鋼2の浴面が鋳型5の上部付近に到達したときに、溶鋼2の温度を保つための保温材11を添加する。ここで、保温材11として酸化鉄(FeO)、MnO、SiO、及びAlを含む粉粒体などを添加するが、溶鋼2に保温材11を添加することで大きな粒径の高アルミナ系介在物(粗大介在物)が生成し、溶鋼2の清浄度が低下することがある。この保温材11は、パウダー形状の粉粒体であっても、ボード等の成形形状であってもよい。
【0016】
そこで、本発明では、保温材11を添加する前、又は保温材11の添加と同時にカルシウム(Ca)12を溶鋼2に添加する。この添加されたCa12によって、保温材11の添加時に生成する高アルミナ系介在物を、下記式(1)〜(3)に従ってCaO−Al系介在物へと改質する。このCaO−Al系介在物は凝集しにくく、その大きさは高アルミナ系介在物に比べて小さいので、溶鋼2の清浄度を向上させることができる。
【0017】
2Al+3FetO=Al+3tFe ・・・(1)
2Al+3/2MnO=Al+3/2Mn ・・・(2)
2Al+3/2SiO=Al+3/2Si ・・・(3)
以下、Ca12の添加方法や添加量について詳しく説明する。
本実施形態では、図2(c)に示すように、鋳型5内への溶鋼2の注入が開始されてから溶鋼2が押湯枠8に達して鋳造が終了するまでの間に、Ca12を添加する。Ca12の添加後に、図2(d)に示すように保温材11を添加する。
【0018】
具体的には、鋳造の終了が近くなった段階で、溶鋼2の浴面を覆った被覆材10の上方からCa12を添加して、Ca12の添加後に保温材11を添加する。
添加されるCa12は、純金属Ca(金属Ca)であってもCa合金であってもよい。Ca合金としては、Ca−Si合金、Ca−Ni合金などがあるが、鋼成分の規格に応じて任意に選択することができる。また、保温材11は、Ca12の添加に続いて連続的に添加され、且つ、Ca12の添加から1分以内に添加されるのが好ましい。Ca12の添加から保温材11の添加までの時間は、鋳造の作業手順や鋳造設備の制約などに応じて1分より長くなってもかまわないが、この時間があまり長くなってしまうと、Ca12が上述の改質剤としては十分に働かなくなることに注意しなくてはならないため、長くても10分以内とする方がよい。
【0019】
なお、鋳造の終了が近くなった段階でCa12を添加すると述べたが、鋳造の終了が近くなった段階とは、鋳造の終了10分前くらいが目安となる。もちろんこの目安は10分に限らず、鋳造工程の操業条件や上述の式(1)〜(3)の反応速度に応じて任意に変更することができる。
上述のように、大きな粒径の高アルミナ系介在物(粗大介在物)の生成を抑制することを目的として、保温材11を添加する前、又は保温材11の添加と同時にCa12を溶鋼2に添加する。このとき、本実施形態では、Ca12の添加量について2つの条件を課している。以下、それぞれの条件について説明する。
【0020】
まず1つめの条件として、Ca12を添加するに際し、溶鋼2の浴面の表面積(m)に対するCa12中のCa成分(純Ca)の添加量(kg)である1m当たりの添加量が、0.35kg/m以上10kg/m以下(0.35kg/m〜10kg/m)の範囲を満たすこととしている(第1条件)。言い換えれば、添加される金属Ca及び
Ca合金中のCa成分相当量を押湯枠8から内側の浴面の表面積で割って得られた値を、Ca成分の添加量として規定する。その上で、Ca成分の添加量が0.35kg/m〜10kg/mの範囲内となるようにCa12の添加量を決定し添加する。
【0021】
Ca成分の添加量が0.35kg/m未満であると、高アルミナ系介在物を十分にCaO−Al系介在物へと改質するにはCa成分は不足する。一方で、Ca成分の添加量が10kg/mよりも多いと、大きな粒径のCaO系の介在物が発生してしまうことにより溶鋼2の清浄度が低下してしまうおそれがある。
ところで、保温材11は、Al、Si、FeO、MnO、SiO、MnO、C、Sの各成分を含有している。例えば、保温材11の組成は、FeO:10〜20質量%、Fe:10〜20質量%、Al:20〜25質量%、Al:25〜40質量%、SiO:5〜10質量%である。
【0022】
そこで2つめの条件として、本実施形態では、保温材11中の各成分の含有量(成分含有量)に対するCa12中のCa成分の含有量(Ca成分含有量)の割合(含有割合)を規定している。Ca成分の含有割合を規定するために、保温材11の各成分の含有量とCa成分の含有量との関係を、下記の式(4)で表現し、式(4)で得られる値が0.08以上0.25以下(0.08〜0.25)の範囲を満たすことを2つめの条件としている(第2条件)。
【0023】
[%Ca]/([%Al]+3[%Fe]+[%FeO]+2[%SiO]+2[%MnO]+[%S]) ・・・(4)
ただし、式(4)で示される「%」は、「モル%」である。
ここで、保温材11中には、硫黄Sが含有されているが、Sの含有量は200ppm程度(不可避不純物程度の量)であり、実質的に零(≒0)と考えてもよい。言い換えれば、Sの含有量は他の成分に比べて微量であるため、式(4)にSの含有量を代入したとしても、式(4)の値が大きく変化することはなく、実質的に影響が出ない。
【0024】
式(4)の値が0.08未満であると、保温材11によって生成する高アルミナ系介在物量に対するCa成分の量が少なすぎるために、添加したCa12によっては、十分に高アルミナ系介在物をCaO−Al系介在物へと改質することができない。一方、式(4)の値が0.25よりも大きいと、保温材11に対するCa成分の量が多すぎるために大きな粒径のCaO系の介在物が発生してしまい、溶鋼2の清浄度が低下してしまうおそれがある。
【0025】
したがって本実施形態では、1つめの条件である、Ca成分の添加量が0.35kg/m〜10kg/mの範囲にあることと、2つめの条件である、式(4)に示す関係が0.08〜0.25の範囲の値となることとを同時に満たすようにCa12を添加する。
なお、保温材11とCa12とを別々に添加する場合には、保温材11が微量の金属Ca及びCa合金を含有していてもよい。保温材11が微量の金属Ca及びCa合金を含有している場合であっても、式(4)に示す保温材11中の各成分の含有量とCa成分の添加量との関係が、0.08〜0.25の範囲に含まれる値であればよい。
【0026】
上述の説明では、鋳造の開始から溶鋼2が押湯枠8に達して鋳造が終了するまでの間に、Ca12と保温材11とを別々に添加していたが、これに代えて、保温材11とCa12とを混ぜ合わせて、保温材11とCa12とを同時に添加するようにしてもよい。例えば、保温材11を添加する前に保温材11に金属CaからなるCa12を混合して、Ca成分を含有する保温材11を用意しておき、その保温材11を溶鋼2に添加するようにしてもよい。
【0027】
Ca12が混合された保温材11を添加する場合も、保温材11中の各成分の含有量の関係を示す式(4)が0.08〜0.25の範囲に含まれる値であればよい。また、上述したように、Ca12が混合された保温材11を、Ca成分の添加量が0.35kg/m〜10kg/mを満たすように添加する必要がある。
【実施例】
【0028】
表1は、本発明の下注ぎ造塊方法によって鋳塊を製造した実施例と、本発明の下注ぎ造
塊方法とは異なる方法によって鋳塊を製造した比較例とを示したものである。
【0029】
【表1】
【0030】
実施例及び比較例において、下注ぎ造塊方法を行う前の一次精錬は、当業者常法により電気炉にてスクラップを溶解した後に精錬を行い、20〜100トンの溶鋼2を取鍋3に出鋼した。また、一次精錬後の溶鋼2に対してLF装置及び蓋脱ガス装置(VD)による二次精錬を行い、溶鋼2の成分調整及び温度調整をした。一次精錬及び二次精錬が終了した溶鋼2に対して、下注ぎ造塊方法によって鋳塊(インゴット)を製造した。
【0031】
本実施形態では、鋳型5による鋳造後に、凝固したインゴットを当業者常法によって約1300℃まで加熱して、熱間鍛造により150〜700mmの断面直径を有する鍛造材に成形した。
上述の一次精錬は、電気炉による精錬でなくてもよく転炉などの他の装置で行ってもよい。また、二次精錬も、必ずしもLF装置や蓋脱ガス装置で行う必要はなく、還流脱ガス装置(RH)やCAS装置などの他の装置で行ってもよい。さらに、一次精錬や二次精錬における溶鋼2の成分、処理温度及び溶鋼量などは、本発明の本質に関わる部分ではなく上述したものに限定されない。なお、下注ぎ造塊方法における鋳型5のサイズは、20トン〜90トンのインゴットを製造できるものとしているが、インゴットのサイズ及び形状も、本実施形態で開示したものに限定されるものではない。
【0032】
なお、下注ぎ造塊方法を行うにあたって、後述する比較例の一部では、実施例との比較を分かりやすくするために被覆材10が消費されて溶鋼2の浴面が面積率において、80%以上露出されても追加の被覆材10を添加せず、一部の浴面が露出したままCa12等の添加を行った。
また、実施例及び比較例では、誘導溶解炉を鋳型5に模した小型実験も一部実施した。小型実験では、溶鋼量3〜30kgの溶鋼2を誘導溶解炉で溶解し、成分調整後、鋳型5と同様に、速やかに被覆材10を添加した。その後、溶鋼2の浴面の表面積に対するCa成分の添加量が0.35kg/m〜10kg/mを満たすように、パウダー状のCa12とCa成分を含まない保温材11を同時に添加、またはCa12を含有する保温材11を添加した。なお、Ca成分を含有する保温材11又はCa12を添加するにあたって
は、式(4)として示した[%Ca]/([%Al]+3[%Fe]+[%FeO]+2[%SiO]+2[%MnO]+[%S])が、0.08〜0.25を満たすように保温材11及びCa12を添加した。そして、保温材11を添加した後は、誘導溶解炉の電力を停止して炉内で溶鋼2を凝固させた。
【0033】
鍛造後の鋼塊や誘導溶解炉(小型実験)にて凝固させた鋼塊から試料として小片を取り出して研磨した後、電子顕微鏡(SEM)による介在物の観察を行った。実施例及び比較例では、15×15mm四方の視野内で検出された最大介在物の大きさを表中の介在物サイズとした。
表1に示すように、このように試料を作成して観察した結果、実施例1〜11では、最大介在物のサイズを200μm以下とすることができた。実施例1〜11は、上述の本実施形態による下注ぎ造塊方法に従って、鋳型5内の溶鋼2に浴面を被覆するための被覆材10を添加した後、Ca12を含有する保温材11を添加するか、又は保温材11とCa12とを別々に添加するかのいずれかを行った。このとき、上述したように、浴面の表面積に対するCa成分の添加量は0.35kg/m〜10kg/mの範囲を満たすようにし、さらに、式(4)の値が0.08〜0.25の範囲を満たすようにした。
【0034】
図3は、実施例1〜11に関して、上述した式(4)の値と表1に示した介在物最大径との関係をまとめたものである。図3に示すように、Ca成分の添加量を0.35kg/m〜10kg/mの範囲の値となるように調整すると、式(4)の値Xが0.08〜0.25の範囲にあるときは、介在物最大径は200μm未満である。しかし、式(4)の値Xが0.08未満であれば、介在物最大径は200μmを大きく超えて500μm以上となり、式(4)の値Xが0.25より大きいときも、介在物最大径は200μmを大きく超えて400μm以上となることがわかる。即ち、図3のグラフから見ても、式(4)の値が0.08や0.25となったときが、介在物最大径を小さくするための境界となる。
【0035】
図4は、実施例1〜11に関して、Ca成分の添加量と介在物最大径との関係をまとめたものである。図4に示すように、式(4)の値を0.08〜0.25の範囲の値となるように調整すると、Ca成分の添加量が0.35kg/m〜10kg/mの範囲にあるときは、介在物最大径は200μm未満である。しかし、Ca成分の添加量が0.35kg/m未満であれば、介在物最大径は200μmを大きく超えて350μm以上となり、Ca成分の添加量が10kg/mより大きいときも、介在物最大径は200μmを大きく超えて400μm以上となることがわかる。即ち、図4のグラフから見ても、Ca成分の添加量が0.35kg/mや10kg/mとなったときが、介在物最大径を小さくするための境界となる。
【0036】
一方で、被覆材10を添加した比較例12〜27では、Ca成分の添加量に関する第1条件、及び、式(4)に関する第2条件のいずれかが満たされておらず、介在物最大径は200μmよりも大きくなった。つまり、第1条件が満たされているが第2条件が満たされていない、又は、第2条件が満たされているが第1条件が満たされていない比較例12〜27では、介在物最大径は200μmよりも大きくなった。
【0037】
さらに、比較例28〜32は、被覆材10を添加しなかったり、途中で被覆材10が消費されても被覆材10を追加添加しなかったりした場合(表中、被覆材の添加「ナシ」)であり、これらの場合でも、介在物最大径は200μmよりも大きくなった。
以上、本実施形態の下注ぎ造塊方法によれば、鋳型5内の溶鋼2に浴面を被覆するための被覆材10を添加した後、上述の第1条件及び第2条件を満たすように、Ca12を含有する保温材11を添加するか、保温材11を添加する前又は同時にCa12を添加する。これによって、溶鋼2での粗大介在物の発生を抑制するとともに鋳塊中の介在物最大径を200μm以下にすることができ、清浄度の優れた鋳塊を製造することができる。
【0038】
ここまで説明した本実施形態による下注ぎ造塊方法において、介在物最大径をさらに小さくする方法について、以下に説明する。上述の下注ぎ造塊方法では、第1条件及び第2条件を満たすことで介在物最大径を200μm以下に抑制できると説明したが、第1条件及び第2条件を満たすことに加えて、Ca12である金属Ca及びCa合金の平均粒径を
調整すると、介在物最大径を200μm未満に抑制することができ、介在物の平均粒径も抑制することができる。
【0039】
具体的には、保温材11とともに溶鋼2に添加するCa12の平均粒径を200μm以上となるように調整する。以下の表2に示す実施例1〜20のように、第1条件及び第2条件を満たすことに加えてCa12の平均粒径を200μm以上とすることで、介在物最大径を150μm以下に抑制することができる。
【0040】
【表2】
【0041】
すでに述べたように、Ca12として金属CaやCa合金を添加する目的は、保温材11の添加時に生成する高アルミナ系介在物を、凝集しにくいCaO−Al系介在物へと改質することである。しかし、Ca12のCa成分は、改質に寄与する前に保温材11の成分であるFeやSiOなどによって酸化されてCaOへと変化してしまう。そこで、本願発明の発明者らは、Ca12の表面側のCa成分がCaOに変化しても、当該Ca12の中心部分のCa成分が保温材11内に残って介在物改質効果が得られるように、Ca12の平均粒径を大きくする試みを行った。その結果、表2の実施例1〜20に示すような優良な結果を得ることができた。
【0042】
表2の比較例についても触れておく。比較例19〜26では、Ca12の平均粒径を200μm以上となるように調整したにもかかわらず、Ca成分の添加量に関する第1条件
、及び、式(4)に関する第2条件のいずれかを満たさなかった。従って、介在物最大径は、150μmを遥かに超える大きな値となった。
比較例27,28ではともに、型内剤層と示される被覆材10を添加しなかったり、途中で被覆材10が消費されても被覆材10を追加添加しなかったりした場合(表中、型内剤層「ナシ」)である。比較例27では、Ca12の平均粒径を200μm以上となるように調整したうえで、第1条件及び第2条件をともに満たしても、介在物最大径は150μmを遥かに超える大きな値となった。Ca成分の添加量に関する第1条件を満たさなかった比較例28では、介在物最大径は比較例27における値よりも大きな値となった。
【0043】
比較例29〜40では、全てCa12の平均粒径を200μm未満とした。しかし、比較例31,32を除いて、すでに述べたように第1条件及び第2条件をともに満たしたので、介在物最大径は150μmよりも大きいものの200μm以下に抑制できた。Ca成分の添加量に関する第1条件、及び、式(4)に関する第2条件のいずれかを満たさなかった比較例31,32では、介在物最大径は、150μmを超えるだけでなく、200μmをも遥かに超える大きな値となった。
【0044】
図5のグラフは、これら実施例1〜18と比較例19〜40の結果を表わす分布図である。黒のひし形が実施例1〜18の結果を示し、白抜きの正方形が比較例19〜40の結果を示している。図5に示すように、介在物最大径(又は介在物最大長径)が150μm以下となるのは、Ca12の平均粒径を200μm以上とした実施例1〜18においてであることが一目でわかる。
【0045】
このように、本実施形態の下注ぎ造塊方法によれば、鋳型5内の溶鋼2に浴面を被覆するための被覆材10を添加した後、平均粒径が200μm以上のCa12を用意し、上述の第1条件及び第2条件を満たすように、Ca12を含有する保温材11を添加するか、保温材11を添加する前又は同時にCa12を添加する。このようにCa12の平均粒径を200μm以上に調整することによって、溶鋼2での粗大介在物の発生を抑制するとともに鋳塊中の介在物最大径を150μm以下にすることができ、さらに清浄度の優れた鋳塊を製造することができる。
【0046】
ここで、Ca12の平均粒径を200μm以上とするとしたが、その平均粒径の上限を特に設けてはいない。平均粒径が大きくなるに従って概ね良好な結果が得られるが、上述の下注ぎ造塊方法を実施するには、実際の操業上の諸条件や、保温材11とCa12の化学反応速度などを考慮してCa12の平均粒径の上限が決定される。本願の発明者らは、本実施形態による下注ぎ造塊方法では、200μm以上5mm以下程度が選択される平均粒径の範囲として適当であり、200μm以上3mm以下程度がより好ましいとの知見を得ている。
【0047】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。上記の実施形態では、保温材11の添加は、鋳込み途中で行っているが、鋳込み終了時(浴面の上昇が停止したタイミング)でもあっても構わない。
【符号の説明】
【0048】
1 下注ぎ造塊装置
2 溶鋼
3 取鍋
4 注入管
5 鋳型
6 定盤
7 湯道
8 押湯枠
9 下注入口
10 被覆材
11 保温材
図1
図2
図3
図4
図5