【実施例】
【0028】
表1は、本発明の下注ぎ造塊方法によって鋳塊を製造した実施例と、本発明の下注ぎ造
塊方法とは異なる方法によって鋳塊を製造した比較例とを示したものである。
【0029】
【表1】
【0030】
実施例及び比較例において、下注ぎ造塊方法を行う前の一次精錬は、当業者常法により電気炉にてスクラップを溶解した後に精錬を行い、20〜100トンの溶鋼2を取鍋3に出鋼した。また、一次精錬後の溶鋼2に対してLF装置及び蓋脱ガス装置(VD)による二次精錬を行い、溶鋼2の成分調整及び温度調整をした。一次精錬及び二次精錬が終了した溶鋼2に対して、下注ぎ造塊方法によって鋳塊(インゴット)を製造した。
【0031】
本実施形態では、鋳型5による鋳造後に、凝固したインゴットを当業者常法によって約1300℃まで加熱して、熱間鍛造により150〜700mmの断面直径を有する鍛造材に成形した。
上述の一次精錬は、電気炉による精錬でなくてもよく転炉などの他の装置で行ってもよい。また、二次精錬も、必ずしもLF装置や蓋脱ガス装置で行う必要はなく、還流脱ガス装置(RH)やCAS装置などの他の装置で行ってもよい。さらに、一次精錬や二次精錬における溶鋼2の成分、処理温度及び溶鋼量などは、本発明の本質に関わる部分ではなく上述したものに限定されない。なお、下注ぎ造塊方法における鋳型5のサイズは、20トン〜90トンのインゴットを製造できるものとしているが、インゴットのサイズ及び形状も、本実施形態で開示したものに限定されるものではない。
【0032】
なお、下注ぎ造塊方法を行うにあたって、後述する比較例の一部では、実施例との比較を分かりやすくするために被覆材10が消費されて溶鋼2の浴面が面積率において、80%以上露出されても追加の被覆材10を添加せず、一部の浴面が露出したままCa12等の添加を行った。
また、実施例及び比較例では、誘導溶解炉を鋳型5に模した小型実験も一部実施した。小型実験では、溶鋼量3〜30kgの溶鋼2を誘導溶解炉で溶解し、成分調整後、鋳型5と同様に、速やかに被覆材10を添加した。その後、溶鋼2の浴面の表面積に対するCa成分の添加量が0.35kg/m
2〜10kg/m
2を満たすように、パウダー状のCa12とCa成分を含まない保温材11を同時に添加、またはCa12を含有する保温材11を添加した。なお、Ca成分を含有する保温材11又はCa12を添加するにあたって
は、式(4)として示した[%Ca]/([%Al]+3[%Fe
2O
3]+[%FeO]+2[%SiO
2]+2[%MnO
2]+[%S])が、0.08〜0.25を満たすように保温材11及びCa12を添加した。そして、保温材11を添加した後は、誘導溶解炉の電力を停止して炉内で溶鋼2を凝固させた。
【0033】
鍛造後の鋼塊や誘導溶解炉(小型実験)にて凝固させた鋼塊から試料として小片を取り出して研磨した後、電子顕微鏡(SEM)による介在物の観察を行った。実施例及び比較例では、15×15mm四方の視野内で検出された最大介在物の大きさを表中の介在物サイズとした。
表1に示すように、このように試料を作成して観察した結果、実施例1〜11では、最大介在物のサイズを200μm以下とすることができた。実施例1〜11は、上述の本実施形態による下注ぎ造塊方法に従って、鋳型5内の溶鋼2に浴面を被覆するための被覆材10を添加した後、Ca12を含有する保温材11を添加するか、又は保温材11とCa12とを別々に添加するかのいずれかを行った。このとき、上述したように、浴面の表面積に対するCa成分の添加量は0.35kg/m
2〜10kg/m
2の範囲を満たすようにし、さらに、式(4)の値が0.08〜0.25の範囲を満たすようにした。
【0034】
図3は、実施例1〜11に関して、上述した式(4)の値と表1に示した介在物最大径との関係をまとめたものである。
図3に示すように、Ca成分の添加量を0.35kg/m
2〜10kg/m
2の範囲の値となるように調整すると、式(4)の値Xが0.08〜0.25の範囲にあるときは、介在物最大径は200μm未満である。しかし、式(4)の値Xが0.08未満であれば、介在物最大径は200μmを大きく超えて500μm以上となり、式(4)の値Xが0.25より大きいときも、介在物最大径は200μmを大きく超えて400μm以上となることがわかる。即ち、
図3のグラフから見ても、式(4)の値が0.08や0.25となったときが、介在物最大径を小さくするための境界となる。
【0035】
図4は、実施例1〜11に関して、Ca成分の添加量と介在物最大径との関係をまとめたものである。
図4に示すように、式(4)の値を0.08〜0.25の範囲の値となるように調整すると、Ca成分の添加量が0.35kg/m
2〜10kg/m
2の範囲にあるときは、介在物最大径は200μm未満である。しかし、Ca成分の添加量が0.35kg/m
2未満であれば、介在物最大径は200μmを大きく超えて350μm以上となり、Ca成分の添加量が10kg/m
2より大きいときも、介在物最大径は200μmを大きく超えて400μm以上となることがわかる。即ち、
図4のグラフから見ても、Ca成分の添加量が0.35kg/m
2や10kg/m
2となったときが、介在物最大径を小さくするための境界となる。
【0036】
一方で、被覆材10を添加した比較例12〜27では、Ca成分の添加量に関する第1条件、及び、式(4)に関する第2条件のいずれかが満たされておらず、介在物最大径は200μmよりも大きくなった。つまり、第1条件が満たされているが第2条件が満たされていない、又は、第2条件が満たされているが第1条件が満たされていない比較例12〜27では、介在物最大径は200μmよりも大きくなった。
【0037】
さらに、比較例28〜32は、被覆材10を添加しなかったり、途中で被覆材10が消費されても被覆材10を追加添加しなかったりした場合(表中、被覆材の添加「ナシ」)であり、これらの場合でも、介在物最大径は200μmよりも大きくなった。
以上、本実施形態の下注ぎ造塊方法によれば、鋳型5内の溶鋼2に浴面を被覆するための被覆材10を添加した後、上述の第1条件及び第2条件を満たすように、Ca12を含有する保温材11を添加するか、保温材11を添加する前又は同時にCa12を添加する。これによって、溶鋼2での粗大介在物の発生を抑制するとともに鋳塊中の介在物最大径を200μm以下にすることができ、清浄度の優れた鋳塊を製造することができる。
【0038】
ここまで説明した本実施形態による下注ぎ造塊方法において、介在物最大径をさらに小さくする方法について、以下に説明する。上述の下注ぎ造塊方法では、第1条件及び第2条件を満たすことで介在物最大径を200μm以下に抑制できると説明したが、第1条件及び第2条件を満たすことに加えて、Ca12である金属Ca及びCa合金の平均粒径を
調整すると、介在物最大径を200μm未満に抑制することができ、介在物の平均粒径も抑制することができる。
【0039】
具体的には、保温材11とともに溶鋼2に添加するCa12の平均粒径を200μm以上となるように調整する。以下の表2に示す実施例1〜20のように、第1条件及び第2条件を満たすことに加えてCa12の平均粒径を200μm以上とすることで、介在物最大径を150μm以下に抑制することができる。
【0040】
【表2】
【0041】
すでに述べたように、Ca12として金属CaやCa合金を添加する目的は、保温材11の添加時に生成する高アルミナ系介在物を、凝集しにくいCaO−Al
2O
3系介在物へと改質することである。しかし、Ca12のCa成分は、改質に寄与する前に保温材11の成分であるFe
2O
3やSiO
2などによって酸化されてCaOへと変化してしまう。そこで、本願発明の発明者らは、Ca12の表面側のCa成分がCaOに変化しても、当該Ca12の中心部分のCa成分が保温材11内に残って介在物改質効果が得られるように、Ca12の平均粒径を大きくする試みを行った。その結果、表2の実施例1〜20に示すような優良な結果を得ることができた。
【0042】
表2の比較例についても触れておく。比較例19〜26では、Ca12の平均粒径を200μm以上となるように調整したにもかかわらず、Ca成分の添加量に関する第1条件
、及び、式(4)に関する第2条件のいずれかを満たさなかった。従って、介在物最大径は、150μmを遥かに超える大きな値となった。
比較例27,28ではともに、型内剤層と示される被覆材10を添加しなかったり、途中で被覆材10が消費されても被覆材10を追加添加しなかったりした場合(表中、型内剤層「ナシ」)である。比較例27では、Ca12の平均粒径を200μm以上となるように調整したうえで、第1条件及び第2条件をともに満たしても、介在物最大径は150μmを遥かに超える大きな値となった。Ca成分の添加量に関する第1条件を満たさなかった比較例28では、介在物最大径は比較例27における値よりも大きな値となった。
【0043】
比較例29〜40では、全てCa12の平均粒径を200μm未満とした。しかし、比較例31,32を除いて、すでに述べたように第1条件及び第2条件をともに満たしたので、介在物最大径は150μmよりも大きいものの200μm以下に抑制できた。Ca成分の添加量に関する第1条件、及び、式(4)に関する第2条件のいずれかを満たさなかった比較例31,32では、介在物最大径は、150μmを超えるだけでなく、200μmをも遥かに超える大きな値となった。
【0044】
図5のグラフは、これら実施例1〜18と比較例19〜40の結果を表わす分布図である。黒のひし形が実施例1〜18の結果を示し、白抜きの正方形が比較例19〜40の結果を示している。
図5に示すように、介在物最大径(又は介在物最大長径)が150μm以下となるのは、Ca12の平均粒径を200μm以上とした実施例1〜18においてであることが一目でわかる。
【0045】
このように、本実施形態の下注ぎ造塊方法によれば、鋳型5内の溶鋼2に浴面を被覆するための被覆材10を添加した後、平均粒径が200μm以上のCa12を用意し、上述の第1条件及び第2条件を満たすように、Ca12を含有する保温材11を添加するか、保温材11を添加する前又は同時にCa12を添加する。このようにCa12の平均粒径を200μm以上に調整することによって、溶鋼2での粗大介在物の発生を抑制するとともに鋳塊中の介在物最大径を150μm以下にすることができ、さらに清浄度の優れた鋳塊を製造することができる。
【0046】
ここで、Ca12の平均粒径を200μm以上とするとしたが、その平均粒径の上限を特に設けてはいない。平均粒径が大きくなるに従って概ね良好な結果が得られるが、上述の下注ぎ造塊方法を実施するには、実際の操業上の諸条件や、保温材11とCa12の化学反応速度などを考慮してCa12の平均粒径の上限が決定される。本願の発明者らは、本実施形態による下注ぎ造塊方法では、200μm以上5mm以下程度が選択される平均粒径の範囲として適当であり、200μm以上3mm以下程度がより好ましいとの知見を得ている。
【0047】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。上記の実施形態では、保温材11の添加は、鋳込み途中で行っているが、鋳込み終了時(浴面の上昇が停止したタイミング)でもあっても構わない。