特許第5773917号(P5773917)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5773917
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】車両用自動変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 3/66 20060101AFI20150813BHJP
【FI】
   F16H3/66 B
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-58131(P2012-58131)
(22)【出願日】2012年3月15日
(65)【公開番号】特開2013-190073(P2013-190073A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2014年2月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119644
【弁理士】
【氏名又は名称】綾田 正道
(72)【発明者】
【氏名】山下 勝則
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 堅一
(72)【発明者】
【氏名】小栗 和夫
【審査官】 中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0312027(US,A1)
【文献】 特開2011−069396(JP,A)
【文献】 特開2011−033137(JP,A)
【文献】 特開2006−342910(JP,A)
【文献】 特開2009−047303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と、
出力軸と、
サン・ギヤ、リング・ギヤおよびピニオン・キャリヤの3つの回転要素を備える第1遊星歯車組〜第3遊星歯車組と、
ブレーキおよび第1クラッチ〜第5クラッチの6個の摩擦締結要素と、
を備え、
前記第1遊星歯車組の3つの回転要素を、共通速度線図上で前記第1遊星歯車組の歯数比に対応する間隔に応じて並べ、この並び順に第1要素、第2要素、第3要素とし、
前記第2遊星歯車組の3つの回転要素を、共通速度線図上で前記第2遊星歯車組の歯数比に対応する間隔に応じて並べ、この並び順に第4要素、第5要素、第6要素とし、
前記第3遊星歯車組の3つの回転要素を、共通速度線図上で前記第3遊星歯車組の歯数比に対応する間隔に応じて並べ、この並び順に第7要素、第8要素、第9要素とし、
前記入力軸を、前記第3要素に常時連結するとともに、第1クラッチの締結により前記第8要素に、また第2クラッチの締結により前記第9要素にそれぞれ連結可能にし、
前記出力軸を、前記第5要素および前記第7要素に常時連結し、
前記第1要素を、静止部に常時固定し、
前記第2要素を、前記第4要素に常時連結するとともに、第3クラッチの締結により前記第9要素に連結可能にし、
前記第6要素を、第4クラッチの締結により前記第8要素に、また第5クラッチの締結により前記第9要素に締結可能にし、
前記第8要素を、ブレーキの締結により前記静止部に固定可能にした、
ことを特徴とする車両用自動変速機。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用自動変速機において、
記ブレーキは、第1速、第2速、および後退で締結し、
前記第1クラッチは第5速〜第8速で締結し、
前記第2クラッチは、第4速および第7速で締結し、
前記第3クラッチは、第3速、第8速、および後退で締結し、
前記第4クラッチは、第2速〜第5速で締結し、
前記第5クラッチは、第1速および第6速で締結する、
ことを特徴とする車両用自動変速機。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両用自動変速機において、
前記第1遊星歯車組〜第遊星歯車組は、それぞれの3つの回転要素がサン・ギヤ、リング・ギヤ、前記サン・ギヤおよび前記リング・ギヤの両方に噛み合う複数のピニオンを回転自在に支持するピニオン・キャリヤを有する・シングル・ピニオン・タイプである、
ことを特徴とする車両用自動変速機。

【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の車両用自動変速機において、
前記第1要素、前記第4要素、および前記第7要素は、それぞれリング・ギヤであり、
前記第2要素、前記第5要素、および前記第8要素は、それぞれピニオン・キャリヤであり、
前記第3要素、前記第6要素、および前記第9要素は、それぞれサン・ギヤである、
ことを特徴とする車両用自動変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用自動変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用自動変速機は、エンジンの出力回転速度および出力トルクを車両走行に適した大きさに変換するため、遊星歯車組等が用いられて複数の変速段を得るようにしている。最近は、燃費向上を目的として変速段の多段化が進んでいる。この場合、第1速のギヤ比が車両の発進性能や登坂性能で決まるので、高速段側でより多段化する傾向にある。
【0003】
このような従来の多段自動変速機としては、下記のものが知られている。
すなわち、特許文献1に記載のものは、4組の遊星歯車組と、2個のブレーキおよび3個のクラッチとを備え、前進8速、後退1速を得るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4672738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記引用文献1に記載の従来の車両用自動変速機では、第1速での変速比(ギヤ比)が4.700で第8速のギヤ比が0.667であるため、レシオ・カバーレッジ(全変速比幅であり、前進1速のギヤ比を最高変速段のギヤ比で割った値)が7.05しかない。この結果、低速走行時の駆動力を確保しつつ高速走行時におけるエンジンの回転速度を抑えて燃料消費量を減らすことには限界があり、さらなる燃料消費量の改善が望まれる。
また、前進1速の変速比(ギヤ比)が4.700であるのに対し、後退のギヤ比が3.28と、これらギヤ比間での差が大きくなる結果、同じアクセル・ペダルの踏込量に対する駆動力差が大きくなるので、ドライバーが運転操作に違和感を持つといった問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、低速走行時における駆動力を確保しながら高速走行時におけるエンジンの回転速度を抑えて燃料消費量をさらに低減させることができ、かつ前進1速走行時と後退時の間でのアクセル・ペダル操作の違和感を小さくすることができるようにした車両用自動変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のため、本発明による車両用自動変速機は、
入力軸と、
出力軸と、
サン・ギヤ、リング・ギヤおよびピニオン・キャリヤの3つの回転要素を備える第1遊星歯車組〜第3遊星歯車組と、
ブレーキ、および第1クラッチ〜第5クラッチの6個の摩擦締結要素と、
を備え、
第1遊星歯車組の3つの回転要素を、共通速度線図上で第1遊星歯車組の歯数比に対応する間隔に応じて並べ、この並び順に第1要素、第2要素、第3要素とし、
第2遊星歯車組の3つの回転要素を、共通速度線図上で第2遊星歯車組の歯数比に対応する間隔に応じて並べ、この並び順に第4要素、第5要素、第6要素とし、
第3遊星歯車組の3つの回転要素を、共通速度線図上で第3遊星歯車組の歯数比に対応する間隔に応じて並べ、この並び順に第7要素、第8要素、第9要素とし、
入力軸を、第3要素に常時連結するとともに、第1クラッチの締結により第8要素に、また第2クラッチの締結により第9要素にそれぞれ連結可能にし、
出力軸を、第5要素および第7要素に常時連結し、
第1要素を、静止部に常時固定し、
第2要素を、第4要素に常時連結するとともに、第3クラッチの締結により第9要素に連結可能にし、
第6要素を、第4クラッチの締結により第8要素に、また第5クラッチの締結により第9要素にそれぞれ締結可能にし、
第8要素を、ブレーキの締結により静止部に固定可能にした、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車両用自動変速機にあっては、低速走行時における駆動力を確保しながら高速走行時におけるエンジンの回転速度を抑えて燃料消費量をさらに低減することができ、かつ前進1速走行時と後退時との間でのアクセル・ペダル操作の違和感を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例1の車両用自動変速機の歯車列およびこの歯車列の作動を切り替える摩擦締結要素をスケルトンで示す図である。
図2】実施例1の車両用自動変速機の摩擦締結要素の締結関係を示す作動表の図である。
図3】実施例1の車両用変速機における、第1速での各遊星歯車組の共通速度線図である。
図4】実施例1の車両用変速機における、第2速での各遊星歯車組の共通速度線図である。
図5】実施例1の車両用変速機における、第3速での各遊星歯車組の共通速度線図である。
図6】実施例1の車両用変速機における、第4速での各遊星歯車組の共通速度線図である。
図7】実施例1の車両用変速機における、第5速での各遊星歯車組の共通速度線図である。
図8】実施例1の車両用変速機における、第6速での各遊星歯車組の共通速度線図である。
図9】実施例1の車両用変速機における、第7速での各遊星歯車組の共通速度線図である。
図10】実施例1の車両用変速機における、第8速での各遊星歯車組の共通速度線図である。
図11】実施例1の車両用変速機における、後退での各遊星歯車組の共通速度線図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0011】
まず、実施例1の車両用自動変速機の構成を説明する。
この実施例1の車両用自動変速機は、入力軸1と、3組の遊星歯車組2〜4と、6つの摩擦締結要素(ブレーキやクラッチからなる)5〜10と、出力軸12と、を備えており、たとえばエンジン横置きのフロント・エンジン・フロント・ホイール駆動車(いわゆるFF車)に適用される。
【0012】
入力軸1は、図示しないエンジン(ガソリン・エンジンやディーゼル・エンジンなどの内燃機関)に図示しないトルク・コンバータを介して常時連結される。
一方、出力軸12は、入力軸1に平行に配置され、図示しない終減速機、差動歯車組等を介して左右の駆動輪に連結されている。
【0013】
3組の遊星歯車組、すなわち第1遊星歯車組2、第2遊星歯車組3、第3遊星歯車組4は、本実施例ではすべてシングル・ピニオン・タイプであって、入力軸1上で、エンジン側から上記の順に配置される。
【0014】
第1遊星歯車組2は、サン・ギヤ21と、リング・ギヤ22と、これらサン・ギヤ21およびリング・ギヤ22の両方に噛み合う複数のピニオン23を回転自在に支持するピニオン・キャリヤ24と、の3つの回転要素を備えている。ここで、第1遊星歯車組2の歯数比α1(サン・ギヤ21の歯数比/リング・ギヤ22の歯数比)は、たとえば0.595に設定してある。
【0015】
第2遊星歯車組3は、サン・ギヤ31と、リング・ギヤ32と、これらサン・ギヤ31およびリング・ギヤ32の両方に噛み合う複数のピニオン33を回転自在に支持するピニオン・キャリヤ34と、の3つの回転要素を備えている。ここで、第2遊星歯車組3の歯数比α2(サン・ギヤ31の歯数比/リング・ギヤ32の歯数比)は、たとえば0.485に設定してある。
【0016】
第3遊星歯車組4は、サン・ギヤ41と、リング・ギヤ42と、これらサン・ギヤ41およびリング・ギヤ42の両方に噛み合う複数のピニオン43を回転自在に支持するピニオン・キャリヤ44と、の3つの回転要素を備えている。ここで、第3遊星歯車組4の歯数比α3(サン・ギヤ41の歯数比/リング・ギヤ42の歯数比)は、たとえば0.515に設定してある。
【0017】
これらの3組の遊星歯車組2〜5は、以下のように連結される。
入力軸1は、第1遊星歯車組2のサン・ギヤ21に常時連結されるとともに、インターメディエット・アンド・ハイ・クラッチ9の締結により第3遊星歯車組4のピニオン・キャリヤ44に、またフォース・アンド・セブンス・クラッチ10の締結により第3遊星歯車組4のサン・ギヤ41に、それぞれ連結可能である。
出力軸12は、入力軸1平行に配置され、第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34および第3遊星歯車組4のリング・ギヤ42に常時連結される。
【0018】
第1遊星歯車組2のリング・ギヤ22は、自動変速機ケース13に常時固定される。
第1遊星歯車組2のピニオン・キャリヤ24は、第2遊星歯車組3のリング・ギヤ32に常時連結されている。
【0019】
第1遊星歯車組2では、上述のように、リング・ギヤ22が自動変速機ケース13に常時固定され、ピニオン・キャリヤ24がサード・エイス・アンド・リバース・クラッチ6の締結により第3遊星歯車組4のサン・ギヤ41に連結可能であるとともに上述のように第2遊星歯車組3のリング・ギヤ32に常時連結され、サン・ギヤ21が入力軸1に常時連結されている。
【0020】
第2遊星歯車組3では、リング・ギヤ32が上述のように第1遊星歯車組2のピニオン・キャリヤ24に常時連結され、ピニオン・キャリヤ34が上述のように出力軸12および第3遊星歯車組4のリング・ギヤ42に常時連結され、サン・ギヤ31がインターメディエット・クラッチ7の締結により第3遊星歯車組4のピニオン・キャリヤ44に、またロー・アンド・シックスス・クラッチ8の締結により第3遊星歯車組4のサン・ギヤ41に連結可能である。
【0021】
第3遊星歯車組4では、リング・ギヤ42が上述のように出力軸12および第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34に常時連結され、ピニオン・キャリヤ44がロー・アンド・リバース・ブレーキ5の締結により自動変速機ケース13に固定可能であるとともに、上述のように、インターメディエット・アンド・ハイ・クラッチ9の締結により入力軸1に、またインターメディエット・クラッチ7の締結により第2遊星歯車組3のサン・ギヤ31に、それぞれ連結可能である。一方、サン・ギヤ41は、上述のように、フォース・アンド・セブンス・クラッチ10の締結により入力軸1に、またロー・アンド・シックスス・クラッチ8の締結により第2遊星歯車組3のサン・ギヤ31に、またフォース・アンド・セブンス・クラッチ10の締結により入力軸1に、それぞれ連結可能である。
【0022】
なお、ロー・アンド・リバース・ブレーキ5は本発明のブレーキに、またインターメディエット・アンド・ハイ・クラッチ9は本発明の第1クラッチに、またフォース・アンド・セブンス・クラッチ10は本発明の第2クラッチに、またサード・エイス・アンド・リバース・クラッチ6は本発明の第3クラッチに、またインターメディエット・クラッチ7は本発明の第4クラッチに、またロー・アンド・シックスス・クラッチ8は本発明の第5クラッチに、また自動変速機ケース13は本発明の静止部に、それぞれ相当する。
【0023】
また、第1遊星歯車組2のリング・ギヤ22は本発明の第1要素に、そのピニオン・キャリヤ24は本発明の第2要素に、またそのサン・ギヤ21は本発明の第3要素に、それぞれ相当する。
第2遊星歯車組3のリング・ギヤ32は本発明の第4要素に、そのピニオン・キャリヤ34は本発明の第5要素に、またそのサン・ギヤ31は本発明の第6要素に、それぞれ相当する。
第3遊星歯車組4のリング・ギヤ42は本発明の第7要素に、そのピニオン・キャリヤ44は本発明の第8要素に、またそのサン・ギヤ41は本発明の第9要素に、それぞれ相当する。
【0024】
上記摩擦締結要素は、本実施例では油圧作動による多板式のものを用いる。
すなわち、ロー・アンド・リバース・ブレーキ5には、油圧作動式の多板ブレーキを、またサード・エイス・アンド・リバース・クラッチ6〜フォース・アンド・セブンス・クラッチ10の5個のクラッチには、油圧作動式の多板クラッチを用いる。
なお、これらの摩擦締結要素は、図示しないコントローラにより電子制御される図示しないコントロール・バルブからの圧油の供給、抜きにより、それらの締結、解放が制御される。これらのコントローラやコントロール・バルブの構成および作用はよく知られているので、ここではそれらの説明は省略する。
【0025】
図2の作動表に、上記自動変速機の歯車列における変速段を切り替える上記各摩擦締結要素の締結・解放の制御、および上記歯数比α1〜α3を用いた場合の各変速段でのギヤ比を示す。
図2中、横方向に各変速段を、また縦方向に摩擦締結要素、ギヤ比、レシオ・カバーレッジ(全変速比幅であり、前進1速のギヤ比を最高変速段のギヤ比で割った値)R/C、前進1速のギヤ比に対する後退のギヤ比の割合(Rev/1st)が、それぞれ記載してある。なお、同図中、○印は、この○印に相当する摩擦締結要素が締結状態にあることを、また空白はその摩擦締結要素が解放状態にあることを意味する。
【0026】
次に、各変速段における動力の伝達経路を、そのときの共通速度線図とともに説明する。
ここで、共通速度線図とは、縦軸に各回転要素の回転速度を取り、横軸にこれら回転要素を遊星歯車組2〜5の歯数比α1〜α3の大きさに応じて割り振った線図である。
すなわち、横軸上に、シングル・ピニオン・タイプの遊星歯車組の場合には、リング・ギヤ、ピニオン・キャリヤ、サン・ギヤ3つの回転要素の回転速度軸を、この順に(左右いずれの方向でもよい)、リング・ギヤおよびピニオン・キャリヤ間の大きさをこの遊星歯車組の歯数比αとした場合、ピニオン・キャリヤおよびサン・ギヤ間の大きさが1となる割合でそれぞれ離して配置したものである。
【0027】
この場合、縦軸には、回転速度ゼロより上方にエンジンの駆動方向と同じ回転方向の回転速度をとり、回転速度ゼロより下方にエンジンの駆動方向と逆回転方向の回転速度をとるようにする。
共通速度線図にあっては、リング・ギヤ、ピニオン、サン・ギヤのそれぞれの噛み合い関係は歯と歯とが1対1で噛み合うリニアな関係となるので、各回転要素の回転速度を結ぶと直線関係となる。
【0028】
次に、上記各摩擦要素の締結関係を示した図2、および各変速段における共通速度線図を示した図3図11に基づいて、各変速段での動力伝達について説明する。
共通速度線図にあっては、それらのリング・ギヤにはRを、またピニオン・キャリヤにはCを、またサン・ギヤにはSを付け、これらの記号に第1遊星歯車組2〜第4遊星歯車組5に応じてそれぞれ1〜4の添え字を付けてある。また、共通速度線図間で同じ回転速度となる回転要素同士間については、点線で結んである。
【0029】
本実施例では、図3図11の共通速度線図では、回転速度軸は、以下のように配置される。
すなわち、第1遊星歯車組2のサン・ギヤ21と第3遊星歯車組4のサン・ギヤ41とが共通の回転速度軸を、第2遊星歯車組3のサン・ギヤ31と第3遊星歯車組4のピニオン・キャリヤ44とが共通の回転速度軸を、第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34と第3遊星歯車組4のリング・ギヤ42とが共通の回転速度軸を、第1遊星歯車組2のピニオン・キャリヤ24と第2遊星歯車組3のリング・ギヤ32とが共通の回転速度軸を、それぞれ有するように配置される。
また、第1遊星歯車組2の各回転要素の回転速度間を結ぶ直線は太線で、第2遊星歯車組3の各回転要素の回転速度間を結ぶ直線は一点鎖線で、第3遊星歯車組3の各回転要素の回転速度間を結ぶ直線は細線で、それぞれ示してある。
【0030】
まず、前進走行で第1速から順にシフト・アップしていく場合を説明する。
第1速を得るには、ロー・アンド・リバース・ブレーキ5およびロー・アンド・シックスス・クラッチ8を締結する。
このとき、図3に示すように、第1遊星歯車組2では、サン・ギヤ21が入力軸1に常時連結されてこれと同じ回転速度で回転し、リング・ギヤ22が自動変速機ケース13に常時固定されて回転速度0であるので、そのピニオン・キャリヤ24は、入力軸1の回転速度のα1/(1+α1)倍の減速回転速度で回転する。
第2遊星歯車組3では、リング・ギヤ32が第1遊星歯車組2のピニオン・キャリヤ24に常時連結されてこれと同じ減速回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ34が第3遊星歯車組4のリング・ギヤ42に常時連結されてこれと同じ回転速度で回転し、サン・ギヤ31がロー・アンド・シックスス・クラッチ8の締結で第3遊星歯車組4のサン・ギヤ41に連結されてこれと同じ回転速度で回転する。
第3遊星歯車組4では、リング・ギヤ42は上述のように第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34に連結されてこれと同じ回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ44がロー・アンド・リバース・ブレーキ5の締結により自動変速機ケース13に固定されて回転速度0となり、サン・ギヤ41が上述のように第2遊星歯車組3のサン・ギヤ31に連結されてこれと同じ回転速度で回転する。
したがって、第2遊星歯車組3のサン・ギヤ31と第3遊星歯車組4のサン・ギヤ41とは、エンジンの駆動方向とは逆方向の減速回転速度で回転する。
一方、第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34、第3遊星歯車組4のリング・ギヤ42、およびこれらに常時接続された出力軸12は、減速速度である第1速(ギヤ比6.908)で回転駆動される。
【0031】
次に、第1速から第2速にするには、第1速の状態からロー・アンド・シックスス・クラッチ8を解放するとともに、インターメディエット・クラッチ7を締結する。
そうすると、図4に示すように、第1遊星歯車組2では、第1速の場合と同様に、サン・ギヤ21が入力軸1と同じ回転速度で回転し、リング・ギヤ22が回転速度0となり、ピニオン・キャリヤ24が減速回転速度で回転する。
第2遊星歯車組3では、リング・ギヤ32が第1遊星歯車組2のピニオン・キャリヤ24に常時連結されてこれと同じ減速回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ34が第3遊星歯車組4のリング・ギヤ42に常時連結されてこれと同じ回転速度で回転し、サン・ギヤ31が、インターメディエット・クラッチ7の締結により第3遊星歯車組4のピニオン・キャリヤ44に連結されてこれと同じ回転速度で回転する。
第3遊星歯車組4では、リング・ギヤ42は上述のように第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34に連結されてこれと同じ回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ44がロー・アンド・リバース・ブレーキ6の締結により自動変速機ケース13に固定されて回転速度0となる。
したがって、第2遊星歯車組3のサン・ギヤ31と第3遊星歯車組4のピニオン・キャリヤ44は、回転速度がゼロとなり、第3遊星歯車組4のサン・ギヤ41はエンジンの駆動方向とは逆方向の減速回転速度で回転する。
また、第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34、第3遊星歯車組4のリング・ギヤ42、およびこれらに常時接続された出力軸12は、第1速より早い減速速度である第2速(ギヤ比4.061)で回転駆動される。
【0032】
第2速から第3速にするには、第2速の状態からロー・アンド・リバース・ブレーキ5を解放するとともに、サード・エイス・アンド・リバース・クラッチ6を締結する。
そうすると、図5に示すように、第1遊星歯車組2では、第1速、第2速の場合と同様に、サン・ギヤ21が入力軸1と同じ回転速度で回転し、リング・ギヤ22が回転速度0となり、ピニオン・キャリヤ24が減速回転速度で回転する。
第2遊星歯車組3では、リング・ギヤ32が第1遊星歯車組2のピニオン・キャリヤ24に常時連結されてこれと同じ減速回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ34が第3遊星歯車組4のリング・ギヤ42に常時連結されてこれと同じ回転速度で回転し、サン・ギヤ31が、インターメディエット・クラッチ7の締結により第3遊星歯車組4のピニオン・キャリヤ44に連結されてこれと同じ回転速度で回転する。
第3遊星歯車組4では、リング・ギヤ42は上述のように第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34に連結されてこれと同じ回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ44がインターメディエット・クラッチ7の締結により第2遊星歯車組3のサン・ギヤ22に連結されてこれと同じ回転速度で回転し、サン・ギヤ41がサード・エイス・アンド・リバース・クラッチ6の締結により第1遊星歯車組2のピニオン・キャリヤ24に連結されてこれと同じ減速回転速度で回転する。
したがって、第2遊星歯車組3および第3遊星歯車組4のすべての回転要素は一体となって、第1遊星歯車組2のピニオン・キャリヤ24と同じ上記減速回転速度で回転する。
この結果、第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34、第3遊星歯車組4のリング・ギヤ42、およびこれらに常時接続された出力軸12は、第2速より早い減速回転速度である第3速(ギヤ比2.681)で回転駆動される。
【0033】
第3速から第4速にするには、サード・エイス・アンド・リバース・クラッチ6を解放するとともに、フォース・アンド・セブンス・クラッチ10を締結する。
そうすると、図6に示すように、第1遊星歯車組2では、第1速〜第3速の場合と同様に、サン・ギヤ21が入力軸1と同じ回転速度で回転し、リング・ギヤ22が回転速度0となり、ピニオン・キャリヤ24が減速回転速度で回転する。
第2遊星歯車組3では、リング・ギヤ32が第1遊星歯車組2のピニオン・キャリヤ24に常時連結されてこれと同じ減速回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ34が第3遊星歯車組4のリング・ギヤ42に常時連結されてこれと同じ回転速度で回転し、サン・ギヤ31が、インターメディエット・クラッチ7の締結により第3遊星歯車組4のピニオン・キャリヤ44に連結されてこれと同じ回転速度で回転する。
第3遊星歯車組4では、リング・ギヤ42は上述のように第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34に連結されてこれと同じ回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ44がインターメディエット・クラッチ7の締結により第2遊星歯車組3のサン・ギヤ22に連結されてこれと同じ回転速度で回転し、サン・ギヤ41がフォース・アンド・セブンス・クラッチ10の締結により入力軸1に連結されてこれと同じ回転速度で回転する。
したがって、第3遊星歯車組4のサン・ギヤ41は、第1遊星歯車組2のサン・ギヤ21と同じ回転速度、すなわち入力軸1と同じ回転速度で回転する。第3遊星歯車組4のピニオン・キャリヤ44および第2遊星歯車組3のサン・ギヤ31は、同じ減速回転速度で回転する。
また、第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34、第3遊星歯車組4のリング・ギヤ42、およびこれらに常時接続された出力軸12は、ピニオン・キャリヤ44およびサン・ギヤ31の上記減速回転速度より遅い回転速度だが、第3速より早い減速速度となる第4速(ギヤ比2.158)で回転駆動される。
なお、第2遊星歯車組3のリング・ギヤ32は、第1遊星歯車組2のピニオン・キャリヤ34と同じ減速回転速度、すなわちピニオン・キャリヤ34およびリング・ギヤ42の上記減速回転速度より遅い減速回転速度で回転する。
【0034】
第4速から第5速にするには、フォース・アンド・セブンス・クラッチ10を解放するとともに、インターメディエット・アンド・ハイ・クラッチ9を締結する。
そうすると、図7に示すように、第1遊星歯車組2では、第1速〜第4速の場合と同様に、サン・ギヤ21が入力軸1と同じ回転速度で回転し、リング・ギヤ22が回転速度0となり、ピニオン・キャリヤ24が減速回転速度で回転する。
第2遊星歯車組3では、リング・ギヤ32が第1遊星歯車組2のピニオン・キャリヤ24に常時連結されてこれと同じ減速回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ34が第3遊星歯車組4のリング・ギヤ42に常時連結されてこれと同じ回転速度で回転し、サン・ギヤ31が、インターメディエット・クラッチ7の締結により第3遊星歯車組4のピニオン・キャリヤ44に連結されてこれと同じ回転速度で回転する。
第3遊星歯車組4では、リング・ギヤ42は上述のように第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34に連結されてこれと同じ回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ44がインターメディエット・アンド・ハイ・クラッチ9の締結により入力軸1に連結されてこれと同じ回転速度で回転する。
したがって、第3遊星歯車組4のサン・ギヤ41は、増速回転速度で回転し、第2遊星歯車組3のサン・ギヤ31および第3遊星歯車組4のピニオン・キャリヤ44は、入力軸1と同じ回転速度で回転する。第2遊星歯車組3のリング・ギヤ32は、第1遊星歯車組2のピニオン・キャリヤ24と同じ減速速度で回転する。
また、第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34、第3遊星歯車組4のリング・ギヤ42、およびこれらに常時接続された出力軸12は、リング・ギヤ32およびピニオン・キャリヤ24より早い回転速度で、第4速より早い減速速度である第5速(ギヤ比1.706)で回転駆動される。
【0035】
第5速から第6速にするには、インターメディエット・クラッ7を解放するとともに、ロー・アンド・シックスス・クラッチ8を締結する。
そうすると、図8に示すように、第1遊星歯車組2では、第1速〜第5速の場合と同様に、サン・ギヤ21が入力軸1と同じ回転速度で回転し、リング・ギヤ22が回転速度0となり、ピニオン・キャリヤ24が減速回転速度で回転する。
第2遊星歯車組3では、リング・ギヤ32が第1遊星歯車組2のピニオン・キャリヤ24に常時連結されてこれと同じ減速回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ34が第3遊星歯車組4のリング・ギヤ42に常時連結されてこれと同じ回転速度で回転し、サン・ギヤ31が、ロー・アンド・シックスス・クラッチ8の締結により第3遊星歯車組4のサン・ギヤ31に連結されてこれと同じ回転速度で回転する。
第3遊星歯車組4では、リング・ギヤ42は上述のように第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34に連結されてこれと同じ回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ44がインターメディエット・アンド・ハイ・クラッチ9の締結により入力軸1に連結されてこれと同じ回転速度で回転する。
したがって、第2遊星歯車組3のサン・ギヤ31および第3遊星歯車組4のサン・ギヤ41は、同じ増速回転速度で回転する。また、第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34および第3遊星歯車組4のリング・ギヤ42は、同じ減速回転速度で回転する。
この結果、ピニオン・キャリヤ34およびリング・ギヤ42に常時連結された出力軸12は、第5速より早い減速回転速度である第6速(ギヤ比1.322)で回転駆動される。
【0036】
第6速から第7速にするには、ロー・アンド・シックスス・クラッチ8を解放するとともに、フォース・アンド・セブンス・クラッチ10を締結する。
そうすると、図9に示すように、第1遊星歯車組2では、第1速〜第6速の場合と同様に、サン・ギヤ21が入力軸1と同じ回転速度で回転し、リング・ギヤ22が回転速度0となり、ピニオン・キャリヤ24が減速回転速度で回転する。
第2遊星歯車組3では、リング・ギヤ32が第1遊星歯車組2のピニオン・キャリヤ24に常時連結されてこれと同じ減速回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ34が第3遊星歯車組4のリング・ギヤ42に常時連結されてこれと同じ回転速度で回転する。
第3遊星歯車組4では、リング・ギヤ42は上述のように第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34に連結されてこれと同じ回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ44がインターメディエット・アンド・ハイ・クラッチ9の締結により入力軸1に連結されてこれと同じ回転速度で回転し、サン・ギヤ41がフォース・アンド・セブンス・クラッチ10の締結により入力軸1に連結されてこれと同じ回転速度で回転する。
したがって、第3遊星歯車組4は、このすべての回転要素が一体となって入力軸1と同じ回転速度で回転する。
また、第2遊星歯車組3のサン・ギヤ31は、増速回転速度で回転する。
また、第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34、第3遊星歯車組4のリング・ギヤ42、およびこれらに常時接続された出力軸12は、直結となる第7速(ギヤ比1.000)で回転駆動される。
【0037】
第7速から最高速段である第8速にするには、フォース・アンド・セブンス・クラッチ10を解放するとともに、サード・エイス・アンド・リバース・クラッチ6を締結する。
そうすると、図10に示すように、第1遊星歯車組2では、第1速〜第7速の場合と同様に、サン・ギヤ21が入力軸1と同じ回転速度で回転し、リング・ギヤ22が回転速度0となり、ピニオン・キャリヤ24が減速回転速度で回転する。
第2遊星歯車組3では、リング・ギヤ32が第1遊星歯車組2のピニオン・キャリヤ24に常時連結されてこれと同じ減速回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ34が第3遊星歯車組4のリング・ギヤ42に常時連結されてこれと同じ回転速度で回転する。
第3遊星歯車組4では、リング・ギヤ42は上述のように第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34に連結されてこれと同じ回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ44がインターメディエット・アンド・ハイ・クラッチ9の締結により入力軸1に連結されてこれと同じ回転速度で回転し、サン・ギヤ41がサード・エイス・アンド・リバース・クラッチ6の締結により第1遊星歯車組2のピニオン・キャリヤ24に連結されてこれと同じ減速回転速度で回転する。
したがって、第2遊星歯車組3のサン・ギヤ31は、増速回転速度で回転する。
また、第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34、第3遊星歯車組4のリング・ギヤ42、およびこれらに常時接続された出力軸12は、増速回転速度である第8速(ギヤ比0.767)で回転駆動される。
【0038】
一方、後退を得るには、ロー・アンド・リバース・ブレーキ5およびサード・エイス・アンド・リバース・クラッチ6を締結する。
そうすると、図11に示すように、第1遊星歯車組2では、第1速〜第8速の場合と同様に、サン・ギヤ21が入力軸1と同じ回転速度で回転し、リング・ギヤ22が回転速度0となり、ピニオン・キャリヤ24が減速回転速度で回転する。
第2遊星歯車組3では、リング・ギヤ32が第1遊星歯車組2のピニオン・キャリヤ24に常時連結されてこれと同じ減速回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ34が第3遊星歯車組4のリング・ギヤ42に常時連結されてこれと同じ回転速度で回転する。
第3遊星歯車組4では、リング・ギヤ42は上述のように第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34に連結されてこれと同じ回転速度で回転し、ピニオン・キャリヤ44がロー・アンド・リバース・ブレーキ5の締結により自動変速機ケース13に固定されて回転速度0であり、サン・ギヤ41がサード・エイス・アンド・リバース・クラッチ6の締結により第1遊星歯車組2のピニオン・キャリヤ24に連結されてこれと同じ減速回転速度で回転する。
したがって、第2遊星歯車組3のサン・ギヤ31は、エンジンの駆動方向とは逆方向の減速回転速度で回転する。
また、第2遊星歯車組3のピニオン・キャリヤ34、第3遊星歯車組4のリング・ギヤ42、およびこれらに常時接続された出力軸12は、エンジンの駆動方向とは逆方向にサン・ギヤ31より遅い減速回転速度である後退速(ギヤ比-5.527、ここで-はエンジンの駆動方向とは逆方向を表す)で回転駆動される。
【0039】
上記はシフト・アップにつき、説明したが、シフト・ダウンはシフト・アップとは逆の順序で行われる。
【0040】
実施例1の自動変速機では、第1速〜第8速でのギヤ比および後退でのギヤ比は、α1を0.595、α2を0.485、α3を0.515とすると、上記のように、6.908、4.061、2.681、2.158、1.706、1.322、1.000、0.767、−5.527となる。したがって、隣合う変速段間の段間比は、第1速〜第2速間で1.701、第2速〜第3速間で1.515、第3速〜第4速間で1.242、第4速〜第5速間で1.632、第5速〜第6速間で1.290、第6速〜第7速間で1.322、第7速〜第8速間で1.304となり、良い段間比が得られる。
【0041】
また、図2に示すように、実施例1の自動変速機では、レシオ・カバーレッジR/Cを9.008と大きな値にすることができ、従来の自動変速機でのレシオ・カバーレッジ(引用文献1では7.05)より大きくなる。
また、リバース比/1速比は、実施例1の自動変速機では、0.800となり、従来の自動変速機での同比(引用文献1では0.70)より大きくなって、より1.00に近づく値となる
【0042】
以上のように構成した実施例1の自動変速機は、以下の効果を得ることができる。
実施例1の自動変速機3組の遊星歯車組2〜4と、1個のブレーキ5および5個のクラッチ6〜10からなる摩擦締結要素とを、図1のような連結関係とし、かつ図2の作動表に基づいて、摩擦締結要素を制御するようにしたので、各段に最適なギヤ比、および段間比を得ることが可能となる。
すなわち、前進8速を得ることができるので、車両の走行条件に適したギヤ比を選択するのが容易となる。
【0043】
また、上記レシオ・カバーレッジ(R/C)を9.008などと従来技術のものより大きくすることができるので、走行条件に応じたギヤ比を設定できる。
この場合、第1速を6.908などの大きなギヤ比に設定できるので、発進時など低速時における駆動力を確保でき、また、第8速を0.767などの小さなギヤ比に設定できるので、高速走行時はエンジンの回転速度を小さくして騒音の抑制や消費燃費の低減が可能となる。
【0044】
また、リバース比/1速比(Rev/1st)を、0.800などのように、従来技術(0.70)よりも大きくして1.00に近い値に設定できるので、第1速での前進時と後退時との間における駆動力差をより小さく抑えることができ、この結果ドライバーの運転(アクセル・ペダル操作など)上での違和感をなくすことができる。
【0045】
また、前進9速を達成しながらブレーキは1個で済むので、走行中の引きずりトルク(ブレーキは一方の側が自動変速機ケース等の非回転部材であるため、潤滑油の排出性がクラッチよりも劣る結果、クラッチより引きずり抵抗が大きくなる)を小さく抑えることが可能となり、燃費の低下を抑制することが可能となる。
【0046】
また、各遊星歯車組2〜4のギヤ比α1〜α3を0.5近くの値に設定することができるので、それらの回転要素の強度を十分確保しながら自動変速機の外形の大きさをコンパクトに抑えることが可能となる。
【0047】
以上、本発明を上記各実施例に基づき説明してきたが、本発明はこれらの実施例に限られず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で設計変更等があった場合でも、本発明に含まれる。
【0048】
たとえば、遊星歯車組2〜5の歯数比α1〜α3は上記実施例に限られない。
【0049】
また、上記実施例では、遊星歯車組2〜4をすべてシングル・ピニオン・タイプで構成したが、少なくとも1組以上をダブル・ピニオン・タイプのものとしても良い。このダブル・ピニオン・タイプの場合、共通速度線図は、ピニオン・キャリヤ、リング・ギヤ、サン・ギヤ3つの回転要素をこの順に(左右いずれの方向でもよい)、リング・ギヤおよびピニオン・キャリヤ間のこの遊星歯車組の歯数比αとした場合、ピニオン・キャリヤおよびサン・ギヤ間を1となる割合で配置する。
【符号の説明】
【0050】
1 入力軸
2 第1遊星歯車装置
21 サン・ギヤ
22 リング・ギヤ
23 ピニオン
24 ピニオン・キャリヤ
3 第2遊星歯車装置
31 サン・ギヤ
32 リング・ギヤ
33 ピニオン
34 ピニオン・キャリヤ
4 第3遊星歯車装置
41 サン・ギヤ
42 リング・ギヤ
43 ピニオン
44 ピニオン・キャリヤ
5 ロー・アンド・リバース・ブレーキ(ブレーキ)
6 サード・エイス・アンド・リバース・クラッチ(第3クラッチ)
7 インターメディエット・クラッチ(第4クラッチ)
8 ロー・アンド・シックスス・クラッチ(第5クラッチ)
9 インターメディエット・アンド・ハイ・クラッチ(第1クラッチ)
10 フォース・アンド・セブンス・クラッチ (第2クラッチ)
12 出力軸
13 自動変速機ケース(静止部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11