特許第5773932号(P5773932)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5773932電動モータの回転情報検出方法、電動モータの回転情報検出装置、電動モータ制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5773932
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】電動モータの回転情報検出方法、電動モータの回転情報検出装置、電動モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 7/06 20060101AFI20150813BHJP
【FI】
   H02P5/06 S
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-81905(P2012-81905)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-212028(P2013-212028A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2014年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】510123839
【氏名又は名称】オムロンオートモーティブエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101786
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 秀行
(72)【発明者】
【氏名】小澤 晃史
(72)【発明者】
【氏名】長濱 克臣
【審査官】 マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−236170(JP,A)
【文献】 特開2007−318837(JP,A)
【文献】 特開昭64−064581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシを備えた電動モータに流れる電流を検出し、該電流に発生するリプルの周波数に基づいて、前記電動モータの回転情報を検出する電動モータの回転情報検出方法において、
前記電動モータに流れる電流の時系列波形データを周波数解析して、得られた周波数単位の波形データの所定の低域にある極大値を有する、モータ電流の基本波の周波数を基本周波数候補とし、
前記電動モータの整流子数と前記電動モータに流れる電流の変化特性とに基づいて予め設定された係数を、前記基本周波数候補に乗じて、リプル周波数候補を算出し、
前記周波数単位の波形データで前記リプル周波数候補の両隣にある極大値を有する周波数をリプル周波数候補として追加し、
前記リプル周波数候補の最大振幅が所定のしきい値以上である場合に、該最大振幅を有する前記リプル周波数候補をリプル周波数とする、ことを特徴とする電動モータの回転情報検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電動モータの回転情報検出方法において、
前記電動モータに流れる電流の時系列波形データを周波数解析する前に、
前記電流の時系列波形データの近似関数を算出して、該近似関数に基づいて前記電流の時系列波形データの傾向を補正する、ことを特徴とする電動モータの回転情報検出方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電動モータの回転情報検出方法において、
前記リプル周波数に基づいてフィルタ係数を算出し、
前記電動モータに流れる電流の時系列波形データを前記フィルタ係数でフィルタリング処理して、リプル電流の時系列波形データを抽出し、
前記リプル電流の時系列波形データからリプルパルス信号を生成する、ことを特徴とする電動モータの回転情報検出方法。
【請求項4】
ブラシを備えた電動モータに流れる電流を検出する電流検出手段を備え、
前記電動モータに流れる電流に発生するリプルの周波数に基づいて、前記電動モータの回転情報を検出する電動モータの回転情報検出装置において、
前記電流検出手段により検出した電流の時系列波形データを周波数解析する解析手段と、
前記リプル周波数を推定する推定手段と、をさらに備え、
前記推定手段は、
前記解析手段による周波数解析で得られた周波数単位の波形データの所定の低域にある極大値を有する、モータ電流の基本波の周波数を基本周波数候補とし、
前記電動モータの整流子数と前記電動モータに流れる電流の変化特性とに基づいて予め設定された係数を、前記基本周波数候補に乗じて、リプル周波数候補を算出し、
前記周波数単位の波形データで前記リプル周波数候補の両隣にある極大値を有する周波数をリプル周波数候補として追加し、
前記リプル周波数候補の最大振幅が所定のしきい値以上である場合に、該最大振幅を有する前記リプル周波数候補をリプル周波数と推定する、ことを特徴とする電動モータの回転情報検出装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電動モータの回転情報検出装置において、
前記解析手段により前記電動モータに流れる電流の時系列波形データを周波数解析する前に、前記電流の時系列波形データの近似関数を算出して、該近似関数に基づいて前記電流の時系列波形データの傾向を補正する補正手段を備えた、ことを特徴とする電動モータの回転情報検出装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の電動モータの回転情報検出装置において、
前記推定手段により推定した前記リプル周波数に基づいてフィルタ係数を算出する算出手段と、
前記電動モータに流れる電流の時系列波形データを前記フィルタ係数でフィルタリング処理して、リプル電流の時系列波形データを抽出する抽出手段と、
前記リプル電流の時系列波形データからリプルパルス信号を生成する生成手段と、を備えた、ことを特徴とする電動モータの回転情報検出装置。
【請求項7】
ブラシを備えた電動モータに流れる電流を検出する電流検出手段を備え、
前記電動モータに流れる電流に発生するリプルの周波数に基づいて、前記電動モータの回転情報を検出し、該回転情報に基づいて前記電動モータの駆動を制御する電動モータ制御装置において、
前記電流検出手段により検出した電流の時系列波形データを周波数解析する解析手段と、
前記リプル周波数を推定する推定手段と、をさらに備え、
前記推定手段は、
前記解析手段による周波数解析で得られた周波数単位の波形データの所定の低域にある極大値を有する、モータ電流の基本波の周波数を基本周波数候補とし、
前記電動モータの整流子数と前記電動モータに流れる電流の変化特性とに基づいて予め設定された係数を、前記基本周波数候補に乗じて、リプル周波数候補を算出し、
前記周波数単位の波形データで前記リプル周波数候補の両隣にある極大値を有する周波数をリプル周波数候補として追加し、
前記リプル周波数候補の最大振幅が所定のしきい値以上である場合に、前記最大振幅を有する前記リプル周波数候補をリプル周波数と推定する、ことを特徴とする電動モータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータに流れる電流の変化に基づいて、電動モータの回転数や回転角といった回転情報を検出する方法および装置と、検出した回転情報に基づいて電動モータの回転を制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンコーダなどの外部検出手段を用いずに、駆動中の電動モータに流れる電流の変化に基づいて、電動モータの回転数などの回転情報を検出する方法および装置が提案されている。
【0003】
たとえば、特許文献1では、ブラシを備えた電動モータに流れる電流を検出して、この電流波形の周波数分析を行い、リプル(ripple:脈動電流)の周波数を抽出する。電動モータのブラシと摺接する整流子が切り替わる度に、電動モータに流れる電流にリプルが発生するため、リプル周波数と整流子数により、電動モータの回転数が求められる。
【0004】
また、特許文献2では、電動モータの入力電流波形を所定の間隔でサンプリングして、サンプリングデータを採取し、該データを時間軸方向に一定周期で順次シフトさせて複数のシフトサンプリングデータを作成する。そして、サンプリングデータと各シフトサンプリングデータの差分の絶対値の和の値を、一定周期でプロットして正規化電流波形を取得し、該波形を周波数分析して得た高調波の基本周波数に基づいて、電動モータの回転数を演算する。
【0005】
電流などの変動値の時系列の波形データを、フーリエ変換などのアルゴリズムで周波数解析して、周波数の波形データに変換し、振幅の高い周波数を抽出することは、特許文献3に開示されているように、一般に行われている。特許文献3では、高いピークを有する周波数のゲインレベルの変動に基づいて、電動モータに結合された機械の故障を診断する。
【0006】
ところで、駆動中の電動モータに流れる電流には、リプル以外に、外部要因や電動モータの機械的なばらつきなどに起因したノイズが発生することがある。このため、電流波形を周波数解析して得た波形で、ノイズの周波数の振幅がリプルの周波数の振幅と同様に、他より大きく突出して、ノイズの周波数をリプルの周波数として誤検出してしまうおそれがある。このように誤検出した周波数では、電動モータの回転情報を精度よく検出することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−80921号公報
【特許文献2】特開2005−341744号公報
【特許文献3】特開2010−166686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、ノイズの影響を低減して、電動モータの回転情報を精度よく検出することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、ブラシを備えた電動モータに流れる電流を検出し、該電流に発生するリプルの周波数に基づいて、電動モータの回転情報を検出する電動モータの回転情報検出方法において、電動モータに流れる電流の時系列波形データを周波数解析して、得られた周波数単位の波形データの所定の低域にある極大値を有する、モータ電流の基本波の周波数を基本周波数候補とし、電動モータの整流子数と電動モータに流れる電流の変化特性とに基づいて予め設定された係数を、基本周波数候補に乗じて、リプル周波数候補を算出し、周波数単位の波形データでリプル周波数候補の両隣にある極大値を有する周波数をリプル周波数候補として追加し、リプル周波数候補の最大振幅が所定のしきい値以上である場合に、該最大振幅を有するリプル周波数候補をリプル周波数とする。
【0010】
また、本発明では、ブラシを備えた電動モータに流れる電流を検出する電流検出手段を備え、電動モータに流れる電流に発生するリプルの周波数に基づいて、電動モータの回転情報を検出する電動モータの回転情報検出装置において、さらに、電流検出手段により検出した電流の時系列波形データを周波数解析する解析手段と、リプル周波数を推定する推定手段とを備える。推定手段は、解析手段による周波数解析で得られた周波数単位の波形データの所定の低域にある極大値を有する、モータ電流の基本波の周波数を基本周波数候補とし、電動モータの整流子数と電動モータに流れる電流の変化特性とに基づいて予め設定された係数を、基本周波数候補に乗じて、リプル周波数候補を算出し、周波数単位の波形データでリプル周波数候補の両隣にある極大値を有する周波数をリプル周波数候補として追加し、リプル周波数候補の最大振幅が所定のしきい値以上である場合に、該最大振幅を有するリプル周波数候補をリプル周波数と推定する。
【0011】
また、本発明では、ブラシを備えた電動モータに流れる電流を検出する電流検出手段を備え、電動モータに流れる電流に発生するリプルの周波数に基づいて、電動モータの回転情報を検出し、該回転情報に基づいて電動モータの駆動を制御する電動モータ制御装置において、さらに、前記解析手段と前記推定手段とを備える。
【0012】
上記によると、電動モータの電流の時系列波形データを周波数解析して得られた周波数単位の波形データにおいて、低域にある基本周波数とほぼ比例関係にあるリプル周波数を確実に検出することができる。このため、ノイズの影響を低減して、リプル周波数に基づいて、電動モータの回転情報を精度よく検出することができる。また、精度よく検出した電動モータの回転情報に基づいて、電動モータの回転を適切に制御することができる。
【0013】
また、本発明では、上記電動モータの回転情報検出方法において、電動モータに流れる電流の時系列波形データを周波数解析する前に、電流の時系列波形データの近似関数を算出して、該近似関数に基づいて電流の時系列波形データの傾向を補正してもよい。
【0014】
また、本発明では、上記電動モータの回転情報検出装置において、さらに、解析手段により電動モータに流れる電流の時系列波形データを周波数解析する前に、電流の時系列波形データの近似関数を算出して、該近似関数に基づいて電流の時系列波形データの傾向を補正する補正手段を備えてもよい。
【0015】
また、本発明では、上記電動モータの回転情報検出方法において、リプル周波数に基づいてフィルタ係数を算出し、電動モータに流れる電流の時系列波形データをフィルタ係数でフィルタリング処理して、リプル電流の時系列波形データを抽出し、リプル電流の時系列波形データからリプルパルス信号を生成してもよい。
【0016】
また、本発明では、上記電動モータの回転情報検出装置において、さらに、推定手段により推定したリプル周波数に基づいてフィルタ係数を算出する算出手段と、電動モータに流れる電流の時系列波形データをフィルタ係数でフィルタリング処理して、リプル電流の時系列波形データを抽出する抽出手段と、リプル電流の時系列波形データからリプルパルス信号を生成する生成手段とを備えてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ノイズの影響を受けずに、リプル周波数を確実に検出して、電動モータの回転情報を精度よく検出することができる。また、精度よく検出した回転情報に基づいて、電動モータの回転を適切に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態による電動モータ制御装置の構成図である。
図2】同装置の電動モータ回転情報検出用の制御ブロック図である。
図3図2の傾向補正ブロックの詳細図である。
図4図2のFFTブロックの詳細図である。
図5】リプル周波数の推定処理の手順を示したフローチャートである。
図6】モータ電流を高速フーリエ変換して得た周波数のスペクトルの一例を示した図である。
図7】モータ電流の時系列波形データの一例を示した図である。
図8図7の周波数のスペクトルの一例を示した図である。
図9図2のバンドパスフィルタ設計ブロックの詳細図である。
図10図2のフィルタリング処理ブロックの詳細図である。
図11図2のリプルパルス処理ブロックの詳細図である。
図12】リプル電流の二値化処理の手順を示したフローチャートである。
図13】リプル電流とリプルパルス信号の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。各図において、同一の部分または対応する部分には、同一符号を付してある。
【0020】
まず、本発明の一実施形態による電動モータ制御装置100の構成を、図1を参照しながら説明する。
【0021】
電動モータ制御装置100の制御部1は、マイクロコンピュータから成る。モータ駆動部2は、1対のリレーまたは4つのスイッチング素子を備えた開閉回路から成る。制御部1は、モータ駆動部2を動作させて、バッテリ5から電動モータ4に電流を流して、電動モータ4を回転させる。
【0022】
電動モータ4は、ブラシと整流子を備えたDCモータから成る。制御部1は、電動モータ4の動力により、駆動対象物30を動作させる。たとえば、駆動対象物30は、車両のパワーウインドウであり、電動モータ制御装置100は、パワーウインドウ用のECU(電子制御装置)である。
【0023】
電流検出部3は、電動モータ4に流れるモータ電流を所定周期で検出して、制御部1に出力する。電動モータ4の駆動中、電動モータ4のブラシと摺接する整流子が切り替わる度に、モータ電流にリプル(ripple:脈動電流)が発生する。制御部1の回転情報検出部10は、後述するように、モータ電流のリプルの周波数に基づいて、電動モータ4の回転数と回転角などの回転情報を検出する。
【0024】
電動モータ制御装置100は、本発明の「電動モータの回転情報検出装置」の一例である。電流検出部3は、本発明の「電流検出手段」の一例である。
【0025】
制御部1の位置検出部20は、回転情報検出部10で検出された電動モータ4の回転角に基づいて、駆動対象物30の動作位置を検出する。制御部1は、回転情報検出部10で検出された回転数に基づいて、モータ駆動部2を動作させて、電動モータ4の回転速度を制御する。また、制御部1は、回転情報検出部10で検出された回転角や、位置検出部20で検出された動作位置に基づいて、モータ駆動部2を動作させて、電動モータ4の回転量や、駆動対象物30の動作量を制御する。
【0026】
次に、本発明の一実施形態による電動モータ4の回転情報検出方法を、図2図13を参照しながら説明する。本方法を実行するのは、電動モータ制御装置100の制御部1である。
【0027】
制御部1には、図2に示すような、電動モータ4の回転情報検出用の制御ブロック11〜16が設けられている。これらのブロックの各機能は、実際にはソフトウェアによって実現されるが、ハードウェアで実現してもよい。図1の電流検出部3で検出された電動モータ4のモータ電流値は、随時、制御部1に入力されて、制御部1の内蔵メモリに所定数保存される。そして、所定サンプル数のモータ電流値が時系列波形データとして、図2の傾向補正ブロック11に入力される。傾向補正ブロック11は、本発明の「補正手段」の一例である。
【0028】
傾向補正ブロック11では、図3(a)に示す2次関数近似ブロック11aで、図3(b)に示すようなモータ電流の時系列波形データを、最小二乗法により2次関数で近似して、図3(c)に示すような近似データを算出する。そして、モータ電流の時系列波形データの各値から、近似データの各値を減算して、モータ電流の時系列波形データの傾向を補正する。
【0029】
これにより、たとえば、図3(b)に示すように波形全体にわたって下降および上昇の度合いが大きかったモータ電流の時系列波形データは、図3(d)に示すように下降および上昇の度合いが抑えられた波形データとなる。傾向補正後のモータ電流の時系列波形データは、傾向補正ブロック11から、図2のFFT(高速フーリエ変換)ブロック12へ出力される。FFTブロック12は、本発明の「解析手段」の一例である。
【0030】
FFTブロック12では、傾向補正後のモータ電流の時系列波形データを、FFTにより周波数解析する。これにより、図4(b)に示すような傾向補正後のモータ電流の時系列波形データが、たとえば図4(c)に示すような周波数のスペクトル(周波数単位の波形データ)に変換される。
【0031】
周波数解析により得られたスペクトルは、FFTブロック12から、図2のリプル周波数推定ブロック13へ出力される。リプル周波数推定ブロック13は、本発明の「推定手段」の一例である。
【0032】
リプル周波数推定ブロック13では、まず、図6に示すように、スペクトルの所定の低域にある、極大値を有する周波数を全て基本周波数候補Fbとする(図5のステップS1)。次に、基本周波数候補Fbのうち、最大振幅を有する周波数Fbmを検出する(図5のステップS2)。そして、その周波数Fbmに所定の係数Kを乗じて、リプル周波数候補Frbを算出する(ステップS3)。
【0033】
係数Kは、電動モータ4に備わる整流子の数Rと、電動モータ4に流れる電流の変化特性とに基づいて、予め設定されている。具体的には、整流子の数Rを、回転子が1回転したときに電動モータ4に流れた電流の時系列波形データの基本波の数Bで除した値を、係数Kとして設定している(係数K=整流子数R/基本波数B)。
【0034】
たとえば、電動モータ4に備わる整流子が8つあって、電動モータ4の回転子が1回転したときのモータ電流の時系列波形データが、図7に実線で示すように変化した場合、リプルは8つ発生している。これは、電動モータ4の回転子が1回転したときに、ブラシと摺接する整流子が8回切り替わって、その度にブラシと整流子の間で電流の流れ方(大小)が変化するからである。
【0035】
また、図7では、8つのリプルが発生する間に、リプルが重畳されたモータ電流の大きな基本波は、破線で示すように2つ(2周期)発生している。この場合、整流子数R=8を、基本波数B=2で除して、係数K=4となる(係数K=整流子数R/基本波数B=8/2=4)。つまり、係数Kは、電動モータ4の整流子数R(=1回転あたりのリプル数)と基本波数Bの比である。
【0036】
図7に示すようなモータ電流の時系列波形データを、FFTにより周波数解析すると、図8に示すようなスペクトルが得られる。図8において、低域にある極大値を有する周波数は、モータ電流の基本波の周波数、つまり基本周波数である。そして、高域で最大振幅の極大値を有する周波数は、リプル周波数である。リプル周波数は、基本周波数の約4倍になっている。つまり、リプル周波数は基本周波数の約係数K倍であり、リプル周波数と基本周波数はほぼ比例関係にある。
【0037】
電動モータ4の整流子数Rは、たとえば電動モータ4の仕様書などに開示されている。電動モータ4の1回転あたりの基本波数Bは、電動モータ4毎に異なるため、たとえば予め実験により計測しておく。
【0038】
上記のようなデータの特性に着目して、図5のステップS3では、基本周波数候補Fbmを係数K倍して、リプル周波数候補Frbを算出している。
【0039】
また、図5のステップS1で、基本周波数候補Fbを検出するスペクトルの低域(図5のステップS1、図6図8)は、電動モータ4の使用領域に、電動モータ4の1回転あたりの基本波数Bを乗じた値以下の範囲に設定されている。たとえば、電動モータ4の使用領域が50Hzで、基本波数Bが2の場合、50Hz×2=100Hzであるため、上記低域は0〜100Hzとなる。
【0040】
図5のステップS3でリプル周波数候補Frbを算出すると、図6に示すように、スペクトルでリプル周波数候補Frbの両隣にある極大値を有する周波数をリプル周波数候補Frr、Frlとして追加する(図5のステップS4)。そして、これらリプル周波数候補Frb、Frr、Frlの各振幅のうち、最大振幅Amを検出し(ステップS5)、該最大振幅Amが所定のしきい値以上か否かを判定する(ステップS6)。
【0041】
ここで、最大振幅Amが所定のしきい値以上であれば(ステップS6:YES)、最大振幅Amを有するリプル周波数候補Frb、Frr、Frlをリプル周波数と推定する(ステップS7)。図6の例では、リプル周波数候補Frb、Frr、Frlのうち、リプル周波数候補Frlの振幅が最大で、かつ、しきい値以上であるため、リプル周波数候補Frlをリプル周波数と推定する。
【0042】
一方、最大振幅Amが所定のしきい値未満であれば(図5のステップS6:NO)、周波数Fbmを基本周波数候補Fbから除外する(ステップS8)。そして、ステップS2以降の処理を再び実行する。
【0043】
リプル周波数推定ブロック13で推定されたリプル周波数は、リプル周波数推定ブロック13から、図2のバンドパスフィルタ設計ブロック14へ出力される。バンドパスフィルタ設計ブロック14は、本発明の「算出手段」の一例である。
【0044】
バンドパスフィルタ設計ブロック14では、図9に示すように、入力されたリプル周波数に基づいて、ブロック14aで低域側のエッジ周波数を設定し、ブロック14bで高域側のエッジ周波数を設定する。詳しくは、リプル周波数を所定比率C%増減した値を、それぞれ高域側と低域側のエッジ周波数とする。
リプル周波数+(リプル周波数のC%)=高域側のエッジ周波数
リプル周波数−(リプル周波数のC%)=低域側のエッジ周波数
【0045】
そして、ブロック14cで低域側と高域側のエッジ周波数に基づいて、バンドパスフィルタ係数を計算する。具体的には、窓関数法による一般的なFIR(有限インパルス応答)フィルタを設計して、各フィルタ係数を算出する。以下、手順を説明する。
【0046】
低域側のエッジ周波数Flと高域側のエッジ周波数Fhを設定した後、サンプリング周波数Fsで正規化したエッジ角周波数ωl、ωhを決定する。
ωl=2πFl/Fs、ωh=2πFh/Fs
次に、ωc=(ωh−ωl)/2をカットオフ角周波数とするローパスフィルタHl(n)を設計する。
Hl(n)=sin(n×ωc)/πn (n=0、±1、・・・、±M)
次に、窓関数W(n)を乗じる。
Hlw(n)=Hl(n)×W(n)
そして、以下の関係式を用いて、バンドパスフィルタのフィルタ係数Hbp(n)を算出する。
ω0=(ωl+ωh)/2
Hbp(n)=2cos(n×ω0)×Hlw(n)
【0047】
算出されたフィルタ係数は、バンドパスフィルタ設計ブロック14から、図2のフィルタリング処理ブロック15へ出力される。フィルタリング処理ブロック15は、本発明の「抽出手段」の一例である。
【0048】
フィルタリング処理ブロック15では、入力されたフィルタ係数で、モータ電流の時系列波形データをフィルタリング処理して、リプル電流の時系列波形データを抽出する。詳しくは、図10(a)に示すフィルタ演算ブロック15aで、入力されたフィルタ係数を用いた一般的なFIRフィルタ演算を行うことにより、図10(b)に示すようなモータ電流の時系列波形データから、図10(c)に示すようなリプル電流だけの時系列波形データを抽出する。
【0049】
抽出されたリプル電流の時系列波形データは、フィルタリング処理ブロック15から、図2のリプルパルス処理ブロック16へ出力される。リプルパルス処理ブロック16は、本発明の「生成手段」の一例である。
【0050】
リプルパルス処理ブロック16では、図11(b)に示すようなリプル電流の時系列波形データを、二値化処理して、図11(c)に示すような矩形波のリプルパルス信号を生成する。
【0051】
詳しくは、図12および図13に示すように、リプル電流の時系列波形データの時系列を追って、極小値を検出し、かつ、その極小値が所定の−(マイナス)側の不感帯しきい値以下であり、かつ、前回のリプルパルスが「High」(高レベル)であれば(ステップS11:YES)、リプルパルスを「Low」(低レベル)とする(ステップS12)。また、極大値を検出し、かつ、その極大値が所定の+(プラス)側の不感帯しきい値以上であり、かつ、前回のリプルパルスが「Low」であれば(ステップS13:YES)、リプルパルスを「High」とする(ステップS14)。
【0052】
なお、初回は、たとえば、リプル電流の時系列波形データで、極小値を検出し、かつ、その極小値が所定の−側の不感帯しきい値以下であれば、リプルパルスを「Low」とする。また、極大値を検出し、かつ、その極大値が所定の+側の不感帯しきい値以上であれば、リプルパルスを「High」とする。
【0053】
上記により生成されたリプルパルス信号は、リプルパルス処理ブロック16から、図1の回転情報検出部10へ出力される。
【0054】
回転情報検出部10は、入力されたリプルパルス信号に基づいて、電動モータ4の回転数と回転角などの回転情報を検出する。たとえば、回転数は、電動モータ4の整流子数と単位時間あたりのパルス数とに基づいて算出したり、1パルスの幅の逆数を算出したりする。回転角は、基点からのパルス数に基づいて算出する。回転情報検出部10は、リプルパルス信号から複数時点の回転情報を連続して検出する。
【0055】
図2のリプル周波数推定ブロック13で推定されたリプル周波数からも、電動モータ4の回転数を演算することができる(回転数=リプル周波数/電動モータ4の極数×60)。この場合は、一時点の回転数が検出される。
【0056】
傾向補正ブロック11とFFTブロック12を経てから、リプル周波数推定ブロック13でリプル周波数を推定するのにかかる時間より、回転情報検出部10で、リプルパルス信号から各時点の電動モータ4の回転情報を検出するのにかかる時間の方が、短くなっている。
【0057】
上記実施形態によると、電動モータ4の電流の時系列波形データをFFTで周波数解析して得られた周波数のスペクトルにおいて、低域にある基本周波数とほぼ比例関係にあるリプル周波数を確実に検出することができる。このため、図6に破線で示すように、リプル周波数候補でない振幅の大きいノイズがモータ電流に発生しても、ノイズの周波数をリプル周波数と誤検出するのを防止することができる。
【0058】
よって、ノイズの影響を受けずに、リプル周波数に基づいて、電動モータ4の回転情報を精度よく検出することができる。また、精度よく検出した電動モータ4の回転情報に基づいて、電動モータ4の回転を適切に制御することができる。
【0059】
ところで、電動モータ4の動き始めや停止直前では、電動モータ4の電流が上昇傾向や下降傾向になる。このため、そのときのモータ電流の時系列波形データをFFTで周波数解析すると、得られた周波数のスペクトルの低域で極大値が顕著に出ず、基本周波数候補Fbを検出できないおそれがある。
【0060】
然るに、上記実施形態では、傾向補正ブロック11で、モータ電流の時系列波形データの傾向を近似関数(2次関数)により補正してから、FFTブロック12で周波数解析している。このため、FFTで得られた周波数のスペクトルの低域で極大値を顕著に出して、基本周波数候補Fbを確実に検出することができる。
【0061】
さらに、上記実施形態では、リプル周波数に基づいて、リプル電流の時系列波形データを抽出し、該波形データからリプルパルス信号を生成している。このため、リプルパルス信号から電動モータ4の回転数と回転角を複数時点で連続して検出することができる。また、リプル周波数から電動モータ4の回転数を直接演算するより、リプルパルス信号から電動モータ4の回転数などを検出する方が、検出の精度と分解能を上げることができる。
【0062】
本発明は、上述した以外にも種々の実施形態を採用することができる。たとえば、上記実施形態では、モータ電流の時系列波形データをFFTで周波数解析した例を示したが、本発明はこれに限定するものではなく、DFT(離散フーリエ変換)などの他のアルゴリズムで周波数解析するようにしてもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、リプル周波数に基づいて窓関数法によるFIRフィルタを設計して、バンドパスフィルタ係数を算出し、FIRフィルタ演算によりモータ電流の時系列データからリプルパルス電流の時系列データを抽出した例を示したが、本発明はこれに限定するものではない。これ以外のリプル周波数に基づく信号処理方法により、モータ電流の時系列データからリプルパルス電流の時系列データを抽出するようにしてもよい。
【0064】
さらに、上記実施形態では、パワーウインドウ用のECUから成る電動モータ制御装置100に本発明を適用した例を示したが、これ以外のブラシを備えた電動モータの回転情報が必要な種々の装置に、本発明は適用することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
3 電流検出部
4 電動モータ
11 傾向補正ブロック
12 FFTブロック
13 リプル周波数推定ブロック
14 バンドパスフィルタ設計ブロック
15 フィルタリング処理ブロック
16 リプルパルス処理ブロック
100 電動モータ制御装置
Am リプル周波数候補の最大振幅
B 整流子数
Fb 基本周波数候補
Frb、Frl、Frr リプル周波数候補
K 係数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13