【実施例】
【0019】
図1は、本発明によるFMCWレーダー方式による液位測定装置の実施例を示す。
図1において、液位測定装置は、DSP11、デジタル・アナログ変換器13、VCO14、結合回路15、スイッチ16、混合器20、AGC21、アナログ・デジタル変換器22を有してなる。デジタル・アナログ変換器13とVCO14を含む構成部分は送信系を構成し、混合器20からアナログ・デジタル変換器22に至る構成部分は受信系を構成している。DSP11はメモリ12を内蔵し、メモリ12には、掃引時間Tに対するVCO14の発振周波数を決定するVCO14への印加電圧の関係すなわちV−TカーブがV−Tテーブルとして記憶されている。
【0020】
ここまで説明した部分は、スイッチ16が追加されていることを除けば
図7に示す従来のレーダー方式による距離測定装置の構成と同じである。したがって、測定時の動作も上記従来例と同じである。すなわち、DSP11は、メモリ12に記憶されているV−Tテーブルから、掃引時間とサンプリングポイント数により決定されるクロック周波数に同期してVCO14の動作を制御する電圧を読み出す。読み出された制御電圧値はデジタル・アナログ変換器13でアナログ信号に変換され、VCO14に制御電圧として印加される。VCO14は制御電圧に対応した周波数の信号、すなわち時間の経過とともに周波数が連続的に変化する高周波信号を出力する。この高周波信号が結合回路15、スイッチ16を経て適宜のアンテナから被測定系25に向けて送信される。
【0021】
被測定系25には測定地点である前記液体41の液面があり、液面で上記高周波信号が反射される。反射された高周波信号は被測定系25を戻り上記アンテナでとらえられ、スイッチ16、結合回路15を経て受信系に導かれる。受信系の混合器20では、受信信号と受信時の発振信号が混合され、受信周波数とその瞬間の発振周波数との差信号、すなわちビート波形信号が取り出される。ビート波形信号は、AGC21で適正振幅に調整されたのち、アナログ・デジタル変換器22でデジタル信号に変換され、DSP11に入力される。
【0022】
DSP11では、掃引時間Tの間、V−Tテーブルの読み出し、ビート波形信号の取り込みを実行し、取り込んだ時間軸上のビート波形信号データ群にフィルタリング処理を施して不要なノイズを除去する。さらに、DSP11で上記ビート波形信号データ群をFFT(Fast Fourier Transform)処理して周波数軸のデータに変換し、その結果からビート周波数F
Bを抽出する。このビート周波数F
Bを前記(1)式に入力して演算処理することによって測定地点までの距離Lを求める。したがって、DSP11は、上記ノイズ除去用のフィルタ、ビート周波数F
Bの抽出部としてのFFT処理部を備えている。
【0023】
以上説明した液位測定装置の設置例を
図6に模式的に示す。
図6において符号10はレーダーユニットを、符号40は液位測定装置10を設置したタンクを示している。タンク10は液体41を収納するもので、レーダーユニット10は、
図1に示す各ブロックで構成されたFMCWレーダー方式による液位測定装置で、変換器32は、上記ユニット10から出力される信号を電波に変換して上記液面に向かい電波を放射するアンテナである。
【0024】
F
Tはレーダーユニット10から液面に向かって導波管30内に放射される電波の周波数を、F
Rは上記電波が液面で反射され導波管30内をレーダーユニット10に向かって戻る電波の周波数を示している。
【0025】
図1に示す本発明に係る液位測定装置の実施例が前記従来のレーダー方式による距離測定装置の例と異なる点は、近端反射部材26を備えている点である。近端反射部材26は、液位測定装置すなわちレーダーユニット10から放射される電波を反射することができる部材からなり、基準面位置から既知の長さ位置に設置されている。近端反射部材26は、本発明の特徴であるVCOキャリブレイションを行うのに必要な部材である。そこで次に、VCOキャリブレイションの必要性とVCOキャリブレイションそのものについて説明する。
【0026】
VCOにおける制御電圧に対する発振周波数の関係は必ずしも直線性を備えているとは限らない。また、温度変化により、あるいは経年変化により特性が変化するのが一般的である。
図2(a)は、VCOの一般的なF−V特性の例を示すもので、直線性が崩れている。
図2(b)はメモリ12に記憶されている補正前のV−Tテーブルを示しており、時間軸に対して制御電圧が直線的に変化している。DSP11でメモリ12から上記V−Tテーブルを読み出し、時間の経過とともに変化する制御電圧値をデジタル・アナログ変換器13でアナログ信号に変換してVCO14に印加したとする。V−Tカーブは直線であっても、VCO14のF−V特性の直線性が上記のように崩れていると、VCO14から出力される時間軸に対する発振周波数の関係を表すF−T特性は、
図2(c)に示すように非直線となる。したがって、このF−T特性を用いて液位の測定を行っても、精度の良好な測定を行うことはできない。
【0027】
そこで、VCO14から出力される信号のF−T特性が直線になるように、メモリ12に記憶するV−TカーブをVCO14のF−V特性に対応して補正する。
図3はこの補正について示すもので、
図3(a)は
図2(a)と同じVCO14の非直線性F−V特性を示す。
図3(b)は、メモリ12に記憶されている補正後V−TテーブルによるV−Tカーブを示している。この補正後のV−Tカーブは、VCO14の非直線性F−V特性と逆特性の非直線性になっている。上記補正後のV−Tカーブテーブルを読み出し、時間の経過とともに変化する制御電圧値をデジタル・アナログ変換器13でアナログ信号に変換してVCO14に印加すると、
図3(c)に示すような直線性が確保された補正後のF−T特性を得ることができる。この補正後のF−T特性を用いて液位の測定を行うと、精度の良好な測定を行うことができる。
【0028】
図3(b)に示すような、VCO14のF−V特性に対応した補正後V−Tテーブルを生成する処理を、ここではVCOキャリブレイション(校正)という。VCOキャリブレイションを行うことにより直線性を保ったF−T特性を得ることができ、高精度の液位測定を行うことができる。
【0029】
次に、VCOキャリブレイションを行うための具体的な構成およびVCOキャリブレイションの方法について説明する。VCOキャリブレイションは、
図9に示すように、FMCWレーダーが、掃引時間を通じてF−T特性の直線性が確保されているとき、既知の距離からの電波の反射によって生じるビート周波数F
B信号が、掃引周波数帯域を通して同じ周波数になることを活用する。
【0030】
図1に示す実施例において、VCOキャリブレイションは、DSP11が制御信号線CALを通じてスイッチ16を被測定系25から近端反射部材26側に切り替えて行う。近端反射部材26は、前述のとおり、基準面位置から既知の長さ位置に設置されているため、F−T特性の直線性が確保されていれば、近端反射部材26からの反射信号を受信することによって得られる前記ビート信号波形は固定された正弦波信号になる。これに対して、
図2(c)に示す補正前のF−T特性のように非直線性のカーブになる場合は、掃引時間T内でビート周波数が変動するため、ビート信号波形は正確な正弦波信号にならない。このF−T特性の直線性が保たれている場合と保たれていない場合の動作の違いを
図4に示す。
【0031】
図4(a)は掃引時間T内でビート周波数F
Bが変動しない場合を示しており、掃引時間内における送信信号と受信信号の掃引周波数はともに直線性を保っているから、送信信号と受信信号のビート信号の周波数F
Bは掃引時間内のどこでも一定である。したがって、このときのビート信号の波形は
図4(c)の波形Aで示すように、ビート周波数F
Bが一定で波形の崩れがない正確な正弦波になる。
【0032】
これに対して
図4(b)は、掃引時間T内でビート周波数F
Bが変動し、F−T特性が非直線性になる場合を示している。このときのビート信号の波形は
図4(c)の波形Bで示すように、正確な正弦波である上記波形Aから崩れた波形になり、ビート周波数F
Bが本来のビート周波数からずれる。したがって、このビート周波数F
B信号を前記式(1)に適用して測定地点までの距離Lを求めても、精度の高い距離Lを求めることはできず、測定結果に誤差を生ずる。
【0033】
図5は、
図1に示す実施例において、VCO14の出力信号のF−T特性が直線になるように、V−Tテーブルを補正するVCOキャリブレイションの手順を説明している。
図5の中央に縦方向に処理ステップを示す。各処理ステップには、ステップごとにS1,S2,・・・のように符号を付している。
【0034】
VCOキャリブレイションを行う前提として、前述のように、F−T特性の直線性が確保されている状態で、スイッチ16を近端反射部材16側に切り換え、近端反射部材26からの反射信号を受信する。近端反射部材26は、予め測定装置ユニットからの距離が正確に計測されている固定長の反射点である。近端反射部材26までの距離は予め精度よく定められているため、F−T特性の直線性が確保されていることによって、固定された正弦波信号のビート信号波形を得ることができる。上記固定された正弦波信号のビート信号波形を「固定正弦波」、この固定正弦波信号を生成する部分を「固定正弦波信号生成部」ということにする。固定正弦波信号生成部は前記DSP11内に一機能をなす部分として存在している。直線性が確保されているF−T特性は、掃引時間に対して掃引周波数が直線状に変化するように予め設定されているもので、DSP11のメモリ12にV−Tテーブルとして記憶されている。
【0035】
次に、
図5のステップS1に示すように、初期V−Tテーブルすなわち補正前のV−Tテーブルで掃引を行い、放射される電波の周波数F
Tと上記電波が液面で反射されて戻る電波の周波数F
Rのビート波形を取得する(S2)。
図5右上の正弦波状の波形は上記のようにして取得されるビート波形の例を示す。次に、ステップS2で取得したビート波形と上記固定正弦波とを時間軸上で対比しながら上記ビート波形の上記固定正弦波に対するずれを解析する(S3)。
図5の右側第2段目の波形図は上記ビート波形解析のイメージを示しており、取得したビート波形が固定正弦波に対し時間軸上においてずれる様子がわかる。
【0036】
上記ビート波形解析ステップにおいて、固定正弦波に対する上記ビート波形の誤差を掃引時間軸上で解析した結果から波形誤差関数:e(x)を生成する(S4)。
図5の右側第3段目の波形図は上記波形誤差関数:e(x)の例を示しており、時間軸上において、基準値に対し波形誤差が上から下に連続的に生じている様子がわかる。
【0037】
次に、波形誤差が生じないようにするために、波形誤差関数:e(x)に基づき、V−Tテーブルを補正する補正V−Tカーブテーブルを生成する(S5)。
図5の右側最下段の波形図はV−Tカーブを補正するための補正V−Tカーブを示しており、上記波形誤差関数:e(x)の波形に対応した波形になっている。V−Tカーブを補正する補正V−Tカーブテーブルを生成する部分は、DSP11内に一機能をなす部分として存在している。
【0038】
次に、上記補正V−Tカーブテーブルを適用して補正後V−Tテーブルを生成する(S6)。
図5の左下に示す二つのグラフのうち左側のグラフはV−Tカーブを示しており、カーブa1は補正前のV−Tカーブを、カーブa2は補正後のV−Tカーブを示している。上記二つのグラフのうち右側のグラフはVCO11から出力されるF−T特性を示しており、カーブb1は補正前のF−T特性を、カーブb2は補正後のF−T特性を示している。上記a2で示す補正後のV−Tカーブは、上記ステップS6で生成される補正後V−Tテーブルの例を示しており、この補正後V−TテーブルをVCO11に適用することにより、VCO11からは上記b2で示す直線性を保った補正後F−T特性を得ることができる。補正後V−Tカーブテーブルおよびこれを生成する部分は、DSP11内に一機能をなす部分として存在している。
【0039】
以上のようにしてVCO11のキャリブレイションが行われ、キャリブレイション後のVCO11からは掃引時間に対して周波数が直線的に変化するF−T特性の信号を出力することができる。この直線的に変化するF−T特性の信号を測定対象である液面に向けて放射し、液面からの反射信号を受信して得られる前記ビート信号F
Bは波形に歪みがなく、液面までの距離を精度よく測定することができる。
【0040】
VCO11のキャリブレイションは、固定正弦波信号に対してリアルタイムで行うことができるから、液位測定装置が設置されている環境条件の変化や、経時的なVCOの特性変化などに迅速に対応して、常に高い精度で液位の計測を行うことができる。