【実施例】
【0020】
図2は、本発明によるFMCWレーダー方式による液位測定装置の実施例を示す。
図2において、液位測定装置は、DSP11、デジタル・アナログ変換器13、VCO14、結合回路15、スイッチ16、混合器20、AGC21、アナログ・デジタル変換器22を有してなる。デジタル・アナログ変換器13とVCO14を含む構成部分は送信系を構成し、混合器20からアナログ・デジタル変換器22に至る構成部分は受信系を構成している。DSP11はメモリ12を内蔵し、メモリ12には、掃引時間Tに対するVCO14の発振周波数を決定するVCO14への印加電圧の関係すなわちV−TカーブがV−Tテーブルとして記憶されている。メモリ12にはまた、後で説明するプリディストーションテーブル、プリディストーションV−Tカーブテーブルなどが記憶されている。
【0021】
ここまで説明した部分は、スイッチ16が追加されていることを除けば
図9に示す従来のレーダー方式による距離測定装置の構成と同じである。したがって、測定時の動作も上記従来例と同じである。すなわち、DSP11は、メモリ12に記憶されているV−Tテーブルから、掃引時間とサンプリングポイント数により決定されるクロック周波数に同期してVCO14の動作を制御する電圧を読み出す。読み出された制御電圧値はデジタル・アナログ変換器13でアナログ信号に変換され、VCO14に制御電圧として印加される。VCO14は制御電圧に対応した周波数の信号、すなわち時間の経過とともに周波数が連続的に変化する高周波信号を出力する。この高周波信号が結合回路15、スイッチ16を経て適宜のアンテナから被測定系25に向けて送信される。
【0022】
被測定系25には測定地点である液体の液面があり、液面で上記高周波信号が反射される。反射された高周波信号は被測定系25を戻り上記アンテナでとらえられ、スイッチ16、結合回路15を経て受信系に導かれる。受信系の混合器20では、受信信号と受信時の発振信号が混合され、受信周波数とその瞬間の発振周波数との差信号、すなわちビート信号が取り出される。ビート信号は、AGC21で適正振幅に調整されたのち、アナログ・デジタル変換器22でデジタル信号に変換され、DSP11に入力される。
【0023】
DSP11では、掃引時間Tの間、V−Tカーブデータの読み出し、ビート信号の取り込みを実行し、取り込んだ時間軸上のビート信号データ群にフィルタリング処理を施して不要なノイズを除去する。さらに、DSP11で上記ビート信号データ群をFFT(Fast Fourier Transform)処理して周波数軸のデータに変換し、その結果からビート周波数FBを抽出する。このビート周波数FBを前記式1に入力して演算処理することによって測定地点までの距離Lを求める。したがって、DSP11は、上記ノイズ除去用のフィルタ、ビート周波数FBの抽出部としてのFFT処理部を備えている。
【0024】
以上説明した液位測定装置の設置例を
図3に模式的に示す。
図3において符号10はレーダーユニットを含む液位測定装置を、符号40は液位測定装置10を設置したタンクを示している。タンク10は液化ガスなどの液体41を収納するもので、タンク40内にはタンク40の天板から円筒形状の導波管30がタンク40の底に向かって垂直に設置されている。導波管30内には液体41が進入することができ、タンク40内の液体レベルと導波管30内の液体レベルが一致するようになっている。タンク40の天板上には導波管30の上方においてレーダーユニットからなる上記液位測定装置10が設置されている。液位測定装置10は、
図2に示す各ブロックで構成されたFMCWレーダー方式による液位測定装置で、この液位測定装置10と導波管30の上端との間には変換器32が介在している。変換器32は、上記ユニット10から出力される信号を電波に変換して上記液面に向かい導波管30内に放射するアンテナである。
【0025】
タンク40内の液体41の面から天井面までの空間には、液体41の蒸発気体が充満している。上記天井面から液体41の面までの距離をLとする。導波管30の内径をdで表している。F
Tは液位測定装置10から液面に向かって導波管30内に放射される電波の周波数を、F
Rは上記電波が液面で反射され導波管30内を液位測定装置10に向かって戻る電波の周波数を示している。
【0026】
図2に示す本発明に係る液位測定装置の実施例が前記従来のレーダー方式による距離測定装置の例と異なる点は、近端反射部材26を備えている点である。近端反射部材26は、液位測定装置すなわちレーダーユニット10から放射される電波を反射することができる部材からなり、
図3に示す導波管30内に、かつ、タンク40の天井面であるとともに変換器32の電波放射面でもある基準面位置から既知の長さ位置に設置されている。近端反射部材26は、VCOキャリブレイションを行うのに必要な部材である。VCOキャリブレイションとは、VCO14から出力される信号のF−Tカーブが直線になるように、メモリ12に記憶するV−TカーブをVCO14のF−V特性に対応して補正することをいう。すなわち、前記V−Tカーブの直線性が保たれていても、VCO14の個体の特性、経時変化などによってVCO14のF−Vカーブの直線性が崩れていると、VCO14から出力されるF−Tカーブが崩れる。そこで、上記F−Tカーブの直線性が保たれるように校正する。
【0027】
ただし、VCOキャリブレイションは本願発明の主題ではなく、本願発明の主題はVCOプリディストーションにあるので、以下、VCOプリディストーションを行うための具体的な構成およびVCOプリディストーションの方法について説明する。
【0028】
導波管内を伝搬する電波の波長λgは、次の式2で表される。
式2
ここで、λoは伝搬する周波数の波長、λcは遮断(カットオフ)周波数すなわち導波管で伝送可能な最低周波数の波長である。
【0029】
図4に示すような横断面が方形の導波管であって、内面側における長辺の寸法がa、短辺の寸法がbの導波管の場合、遮断周波数の波長λcは、次の式3で表すことができる。
式3
ここで、m,nはそれぞれ導波管内伝送のモード数である。したがって、基本モードすなわちTE10モードの場合、m=1,n=0であるから、λc=2aになる。
【0030】
また、
図5に示すような横断面が円形の導波管であって、内径がdの導波管の場合、遮断周波数の波長λcは、次の式4で表すことができる。
式4
λc=Knm・d
ここで、Knmは伝送モードごとに固有の値になる。すなわち、TE11モードではKnm=1.706、TE01モードではKnm=0.82である。
【0031】
導波管内を伝搬する電波の速度vgは次の式5で表すことができる。
式5
式5からわかるように、導波管内の電波の速度vgは伝搬する周波数の波長λoの関数になっており、周波数が変化すると上記速度vgが変化することになる。
図6のグラフは、管内速度の周波数特性、すなわち周波数(f)の変化に対する管内速度(vg)の変化を表していて、周波数に対して管内速度が非直線的に変化している。
【0032】
式5を式1に代入すると式6が得られる。
式6
【0033】
式6からビート周波数FBは次の式7によって求めることができる。
式7
【0034】
図7は、反射面が固定の場合に、掃引周波数に対するビート周波数FBの変化を表したグラフを示しており、掃引周波数の変化に対してビート周波数FBが直線的に変化せず、非直線的に変化している。
【0035】
また、
図8は、ビート信号をFFT処理して得られるスペクトラム波形を示しており、波形Aは自由空間反射の場合のスペクトラム波形を、波形Bは円形の導波管内反射の場合のスペクトラム波形を示している。自由空間反射の場合に比べて円形の導波管内反射の場合が、スペクトラム波形が広がっている。これは、測定点すなわち電波の反射点が変わらなくても円形導波管内ではFMCWレーダーの周波数掃引によってビート周波数が変化することを示している。そして、円形導波管内での周波数掃引の場合、ビート信号をFFT演算処理して得られるスペクトラム波形が広がることによりピーク検出の精度が悪くなり、測定精度が劣化する要因となることが分かる。
【0036】
上に述べたように、測定精度が劣化する原因は、FMCWレーダーの周波数掃引によりビート周波数が変化することにある。そこで、周波数掃引によるビート周波数の変化を見越して、前記VCO14に印加する制御電圧のV−Tカーブ特性を、ビート周波数の変化に対し逆特性とし、ビート周波数の変化を抑制する。ビート周波数の変化を抑制すると、
図8の波形Bで示すスペクトラムの広がりが抑制され、スペクトラム波形が先鋭化することによって測定精度の劣化を抑制することができる。上記のように、VCO14に印加する制御電圧が逆特性となるV−Tカーブを生成することを「VCOプリディストーション」という。
【0037】
図1は、VCOプリディストーションの手順を示している。
図1の中央縦方向に処理ステップを示す。各処理ステップには、ステップごとにS1,S2,・・・のように符号を付している。以下、VCOプリディストーションの手順を説明する。
【0038】
まず、予め用意されているV−Tカーブテーブルから掃引時間の経過に対応してVCO14の制御電圧を読み出し、この制御電圧をVCO14に印加してVCO14で制御電圧に対応した周波数の信号を生成する。V−Tカーブテーブルはもともと直線性が保たれているはずであるが、VCO14から出力されるF−Tカーブ(
図1の左上右側のグラフ参照)の直線性が保たれるように、前記VCOキャリブレイションが実行されている。
図1の左上左側に示すV−Tカーブは、予めVCO14の特性などに合わせてVCOキャリブレイションが実行された非直線性のV−Tカーブを示す。
【0039】
VCOキャリブレイションが実行された非直線性のV−Tカーブテーブルにしたがって周波数掃引し(S1)、掃引によって生成される電波を、円形の導波管を通じて測定点に向かって放射する。測定点で反射された電波を受信し、前述のとおり、掃引時間内における一定時点での受信周波数と送信周波数とのビート波形を取得する(S2)。
図1の右側上段の波形は上記ビート波形のイメージを示している。
【0040】
次に、上記ビート波形をFFT演算処理することによりビートスペクトラム解析を行う(S3)。
図1の右側上から2段目の波形図は上記ビート波形のスペクトラム解析のイメージを示している。上記波形図に示すように、掃引周波数の中心周波数に対するビート周波数の差分が求められ、掃引周波数に対するビート周波数の差分の変化度合いを解析することによりビート波形のスペクトラム解析を行う。このスペクトラム解析は、DSP11内に組み込まれたプログラムにより、DSP11の機能の一部として実行される。
【0041】
次に、ビート波形のスペクトラム解析結果から、スペクトラム補正関数:D(x)を生成する(S4)。
図1の右側第3段目の波形図は上記スペクトラム補正関数:D(x)の例を示しており、スペクトラム補正関数:D(x)は、上記ビート周波数の差分の変化度合いに対応している。スペクトラム補正関数:D(x)の生成は、DSP11内に組み込まれたプログラムにより、DSP11の機能の一部として実行される。
【0042】
次に、スペクトラム補正関数:D(x)に基づき、プリディストーションテーブルを生成する(S5)。プリディストーションテーブルはVCO14に適用するV−Tカーブを補正するためのテーブルで、
図1の右側最下段の波形図はV−T補正カーブを示している。V−T補正カーブは、スペクトラム補正関数:D(x)を表す波形に対して逆特性になっている。プリディストーションテーブル生成機能も、DSP11にその機能の一部として備えられている。
【0043】
次に、前記V−Tカーブに上記V−T補正カーブを適用してプリディストーションV−Tカーブテーブルを生成する(S6)。プリディストーションV−Tカーブテーブル生成機能も、DSP11にその機能の一部として備えられている。
図1の左下に示す二つのグラフのうち左側のグラフはV−Tカーブを示しており、カーブa1は補正前の初期V−Tカーブを、カーブa2はプリディストーションV−Tカーブを示している。なお、初期V−Tカーブa1は前記VCOキャリブレイション実施後のV−Tカーブである。
【0044】
上記二つのグラフのうち右側のグラフはVCO14から出力されるF−Tカーブを示しており、カーブb1はプリディストーション前のF−Tカーブを、カーブb2はプリディストーション後のF−Tカーブを示している。プリディストーション前のF−Tカーブb1は直線性を保っているが、このF−Tカーブb1にしたがって掃引周波数信号を生成すると、前述のように導波管内での電波の伝搬速度変化すなわち周波数変化が計測精度悪化の要因となる。そこで、プリディストーション後のF−Tカーブb2にしたがって掃引周波数信号を生成する。また、プリディストーション後のF−Tカーブb2は前記DSP11が内蔵しあるいは付随するメモリに、プリディストーションV−Tカーブテーブルとして保存される。
【0045】
以後の液面計測にプリディストーションV−Tカーブテーブルが利用される。プリディストーションV−TカーブテーブルにしたがってVCO14の発振周波数が制御されることにより、導波管内での電波の伝搬速度変化に対応した周波数信号が出力されるため、掃引時間内におけるビート周波数の変化が少なくなる。その結果、ビート周波数信号のスペクトラム波形が先鋭化し、計測精度が高くなる。
【0046】
このように、本発明に係る液位測定装置およびそのVCOプリディストーション方法によれば、プリディストーションが実行されているV−Tカーブテーブルに従ってVCOの発振周波数が制御される。したがって、導波管内を伝搬する電波が周波数特性を持っていても、この周波数特性に対応してVCOの発振周波数を制御することができ、発振周波数と受信周波数とのビート周波数の広がりが抑制され、ビート周波数のスペクトラム解析結果の先鋭度が高まって、計測精度を高めることができる。