特許第5773951号(P5773951)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ムサシノ機器株式会社の特許一覧

特許5773951液位測定装置およびそのVCOプリディストーション方法
<>
  • 特許5773951-液位測定装置およびそのVCOプリディストーション方法 図000007
  • 特許5773951-液位測定装置およびそのVCOプリディストーション方法 図000008
  • 特許5773951-液位測定装置およびそのVCOプリディストーション方法 図000009
  • 特許5773951-液位測定装置およびそのVCOプリディストーション方法 図000010
  • 特許5773951-液位測定装置およびそのVCOプリディストーション方法 図000011
  • 特許5773951-液位測定装置およびそのVCOプリディストーション方法 図000012
  • 特許5773951-液位測定装置およびそのVCOプリディストーション方法 図000013
  • 特許5773951-液位測定装置およびそのVCOプリディストーション方法 図000014
  • 特許5773951-液位測定装置およびそのVCOプリディストーション方法 図000015
  • 特許5773951-液位測定装置およびそのVCOプリディストーション方法 図000016
  • 特許5773951-液位測定装置およびそのVCOプリディストーション方法 図000017
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5773951
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】液位測定装置およびそのVCOプリディストーション方法
(51)【国際特許分類】
   G01F 23/284 20060101AFI20150813BHJP
【FI】
   G01F23/284
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-131115(P2012-131115)
(22)【出願日】2012年6月8日
(65)【公開番号】特開2013-253937(P2013-253937A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2014年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】391014631
【氏名又は名称】ムサシノ機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088856
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 佳之夫
(72)【発明者】
【氏名】大浦 秀人
(72)【発明者】
【氏名】杉山 直樹
【審査官】 濱本 禎広
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−271428(JP,A)
【文献】 特開平10−115677(JP,A)
【文献】 特開2001−056246(JP,A)
【文献】 特表2006−506639(JP,A)
【文献】 特開2002−090447(JP,A)
【文献】 特表2009−511901(JP,A)
【文献】 特開2011−247598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 23/00,23/14−23/296
G01S 7/00− 7/42
G01S 13/00−13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
掃引時間において予め決められた周波数を掃引しながら導波管を通して液面に向かって電波を送信し、液面で反射される上記電波を受信した瞬間の送信周波数と反射波の受信周波数の差であるビート周波数によって液面までの距離を測定するFMCWレーダー方式の液位測定装置であって、
掃引周波数信号を生成するVCOと、
上記VCOで生成する信号の周波数を掃引するための電圧−時間カーブ(以下「V−Tカーブ」という)が記憶されている電圧−時間テーブル(以下「V−Tテーブル」という)と、
掃引周波数に対するビート周波数の差分を解析するスペクトラム解析部と、
上記スペクトラム解析部による解析結果から上記ビート周波数の差分の変化度合いに対応して上記V−Tテーブルを補正するためのプリディストーションテーブルを生成するプリディストーションテーブル生成部と、
上記V−Tカーブに上記プリディストーションテーブルを適用してプリディストーションV−Tカーブテーブルを生成するプリディストーションV−Tカーブテーブル生成部と、
上記プリディストーションV−Tカーブテーブルを記憶し、上記VCOに上記掃引周波数信号を生成させるために上記プリディストーションV−Tカーブテーブルから上記VCOに印加する制御電圧を記憶するメモリと、
を備えた液位測定装置。
【請求項2】
上記スペクトラム解析部による解析結果からビート周波数の差分の変化度合いに対応するスペクトラム補正関数を生成するスペクトラム補正関数生成部を備え、
上記プリディストーションテーブル生成部は、上記スペクトラム補正関数に基づきV−Tカーブを補正カーブするためのプリディストーションテーブルを生成する請求項1記載の液位測定装置。
【請求項3】
上記スペクトラム解析部は、ビート周波数の差分をFFT演算処理するFFT演算部を有してなる請求項1または2記載の液位測定装置。
【請求項4】
上記V−Tテーブルは、VCOキャリブレイションが実行された直線性のある周波数−時間特性(以下「F−T特性」という)を実現する請求項1、2または3記載の液位測定装置。
【請求項5】
掃引時間において予め決められた周波数を掃引しながら導波管を通して液面に向かって電波を送信し、液面で反射される上記電波を受信した瞬間の送信周波数と反射波の受信周波数の差であるビート周波数によって液面までの距離を測定するFMCWレーダー方式の液位測定装置におけるVCOプリディストーション方法であって、
VCOで生成する信号の周波数を電圧−時間カーブ(以下「V−Tカーブ」という)が記憶されている電圧−時間テーブル(以下「V−Tテーブル」という)に従い掃引する工程と、
掃引周波数に対するビート周波数の差分をスペクトラム解析する工程と、
上記スペクトラム解析結果から上記ビート周波数の差分の変化度合いに対応して上記V−Tカーブを補正するためのプリディストーションテーブルを生成する工程と、
上記V−Tカーブに上記プリディストーションテーブルのV−T補正カーブを適用してプリディストーションV−Tカーブテーブルを生成する工程と、
上記プリディストーションV−Tカーブテーブルをメモリに記憶する工程と、
上記プリディストーションV−Tカーブテーブルから上記VCOに上記掃引周波数信号を生成するための制御信号として供する工程と、
を備えた液位測定装置のVCOプリディストーション方法。
【請求項6】
上記スペクトラム解析結果からビート周波数の差分の変化度合いに対応するスペクトラム補正関数を生成する工程を備え、上記スペクトラム補正関数に基づきV−Tカーブを補正するためのプリディストーションテーブルを生成する請求項5記載の液位測定装置のVCOプリディストーション方法。
【請求項7】
上記スペクトラム解析は、ビート周波数の差分をFFT演算処理することによって行う請求項5または6記載の液位測定装置のVCOプリディストーション方法。
【請求項8】
上記VCOに供するV−Tテーブルは、上記VCOから直線性のあるF−T特性が得られるようにVCOキャリブレイションが実行されている請求項5、6または7記載の液位測定装置のVCOプリディストーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば液化ガスなどの液体を保管するタンクなどにおける液体の液面レベルを測定するレーダー方式による液位測定装置およびそのVCOプリディストーション方法に関するもので、特に、導波管を用いることによる導波管内での電波の伝搬速度変化に起因する計測誤差を抑制するものである。
【背景技術】
【0002】
液位測定装置に用いられるレーダー方式の一つとしてFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)レーダー方式がある。このFMCWレーダー方式は、図10に示すように、予め決められた固定時間(この時間を、掃引時間(T)という)において、予め決められた周波数(F)を掃引しながら測定地点に向かって電波を送信するものである。図11に示すように、送信地点で送信された電波が、測定地点(送信地点からの距離をLとする)で反射されて送信地点に戻るまでの往復時間tの間に、送信周波数がF・t/T(Hz)だけ掃引される。この掃引された周波数は、反射波(受信周波数F)を受信した瞬間の送信周波数Fと受信周波数Fの差(ビート周波数F)になる。
【0003】
上記往復時間tは
t=(T/F)×FB
であるから、上記ビート周波数FBを計測することができれば、送信地点から測定地点まで電波が往復するのに要した時間tを計測することができる。自由空間における電波の伝搬速度は光速Cと同じであるから、送信地点から測定地点までの距離Lは、次の式1で表すことができる。
式1
L=C×t/2=C×T×FB/2F
【0004】
以上、FMCWレーダー方式による距離測定原理を概略的に説明した。図9は、FMCWレーダー方式距離測定装置の従来例を示す。図9において、FMCWレーダー方式距離測定装置は、DSP(デジタル信号処理装置:Digital Signal Prosessor)101、デジタル・アナログ変換器103、VCO(電圧制御発振器)104、結合回路105、混合器110、AGC(自動利得制御回路)111、アナログ・デジタル変換器112を有してなる。デジタル・アナログ変換器103とVCO104を含む構成部分は送信系を構成し、混合器110からアナログ・デジタル変換器112に至る構成部分は受信系を構成している。DSP101はメモリ102を内蔵し、メモリ102には、掃引時間Tに対するVCO104の発振周波数を決定するVCO104への印加電圧の関係すなわち電圧−時間カーブ(以下「V−Tカーブ」という)が電圧−時間テーブル(以下「V−Tテーブル」という)として記憶されている。
【0005】
DSP101は、メモリ102からV−Tテーブルを読み出し、時間の経過に伴って連続的に変化する電圧値をデジタル・アナログ変換器103でアナログ信号に変換してVCO104の制御電圧とする。VCO104の発振周波数は制御電圧に応じて連続的に変化する。この発振信号が結合回路105を経て適宜のアンテナから測定地点(例えば、液体の液面)に向けて送信される。上記アンテナから測定地点までの間に被測定系120が介在している。測定地点で反射された電波は被測定系120を戻り上記アンテナでとらえられ、結合回路105を経て受信系に導かれる。受信系では、混合器110で受信信号と受信時の発振信号が混合され、受信周波数とその瞬間の発振周波数との差、すなわち前記ビート周波数FB信号が取り出される。
【0006】
ビート周波数FB信号は、AGC111で適宜の振幅値に制御されたのち、アナログ・デジタル変換器112でデジタル信号に変換され、DSP101に入力される。DSP101では、前記式1を適用して演算処理することによって測定地点までの距離Lを求める。
【0007】
以上説明したFMCWレーダー方式距離測定原理は、自由空間において成立する。しかるに、反射係数が低い計測対象の距離をレーダー方式で計測する装置では、電波の伝送路に導波管を用いる。導波管を用いることにより、伝送路における伝送損失を大幅に低減することができるからである。
【0008】
しかし、伝送路に導波管を用いたレーダー方式液面計測装置では、導波管内の伝搬速度が導波管の内径および導波管内を伝搬する電波のモードに依存し、周波数によって変化する。このため、FMCWレーダーのビート周波数が周波数掃引に伴って変化し、液面計測装置の計測精度を低下させる。よって、液面計測装置の計測精度を高めるためには、導波管内を伝搬する電波の周波数特性を考慮する必要がある。
【0009】
図9に示す例のように、FMCWレーダーの送信機は一般的にVCO104を使用している。VCO104は、制御電圧を印加することによって発振し、かつ、掃引時間Tにおいて、掃引周波数に対応する制御電圧を連続的に変化させることにより発振周波数が連続的に変化する。図10では、掃引開始から掃引停止までの時間をTで表し、掃引開始から掃引停止までの発振周波数の変化幅をFで表している。以下、VCO104に印加する制御電圧Vに対するVCO104の発振周波数Fの変化を表すグラフを周波数−電圧特性(以下「F−V特性」という)といい、掃引時間TにおけるVCO104の発振周波数の変化を表すグラフを周波数−時間特性(以下「F−T特性」という)という。
【0010】
VCOは、一般的には周波数の安定した信号を発振することができるPLL(フェイズ・ロックド・ループ)回路に用いられており、上記VCO104のように周波数を掃引する用途は特殊な用途といえる。VCO104から出力される周波数−電圧特性(F−V特性)の直線性は、FMCWレーダーで要求される計測精度を得るには不十分である。そのため、FMCWレーダーでは、VCO104から出力されるF−T特性の直線性を保証するために、補正されたF−T特性になる補正後電圧―時間テーブル(以下、これを「補正後V−Tカーブテーブル」という)を生成し、このテーブルを用いてVCO104の発振電圧を制御している。
【0011】
しかし、VCO104から出力されるF−Vカーブの直線性が保証されていても、伝送路に導波管を用いている液面計測装置では、前述のように導波管内を伝搬する電波の周波数特性によって計測精度が劣化する。
【0012】
上記のような、導波管を用いた液面計測装置において、導波管内を伝搬する電波の周波数特性を考慮して計測精度を高める先行技術は見つからなかったが、本発明に関連のある技術を開示するものとして特許文献1がある。特許文献1には、FMCWレーダーに適用可能な、通常の動作モードとキャリブレイション(校正)モードの二つのモードを持ったVCOを備えた周波数キャリブレイション構造が記載されている。上記VCOは、キャリブレイションモードにおいてそれ自身がPLL回路に組み込まれてキャリブレイションVCOの代わりをするというもので、本願発明とは技術思想を異にするものである。
【0013】
また、特許文献2には、計算される液位に対して液体上方のガスの誘電率が影響を及ぼすことを避けるために、送信機が、導波管内での伝播モードでマイクロ波信号の群速度が上記誘電率に基本的に影響しない所定の誘電率範囲内にある周波数帯域でマイクロ波信号を送信するように適合させる液位測定装置が開示されている。特許文献2に記載されている技術思想は、導波管内を伝搬する電波の周波数特性に着目しているものの、周波数特性による計測精度劣化を回避する技術思想が本願発明と異なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第7,804,369号公報
【特許文献2】特表2006−506639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、伝送路に導波管を用いている場合に、導波管内を伝搬する電波の周波数特性によって計測精度が劣化することを防止することができる液面計測装置およびこの液面計測装置が備えるVCOのプリディストーション方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、
掃引時間において予め決められた周波数を掃引しながら導波管を通して液面に向かって電波を送信し、液面で反射される上記電波を受信した瞬間の送信周波数と反射波の受信周波数の差であるビート周波数によって液面までの距離を測定するFMCWレーダー方式の液位測定装置であって、
掃引周波数信号を生成するVCOと、
上記VCOで生成する信号の周波数を掃引するための電圧−時間カーブ(以下「V−Tカーブ」という)が記憶されている電圧−時間テーブル(以下「V−Tテーブル」という)と、
掃引周波数に対するビート周波数の差分を解析するスペクトラム解析部と、
上記スペクトラム解析部による解析結果から上記ビート周波数の差分の変化度合いに対応して上記V−Tテーブルを補正するためのプリディストーションテーブルを生成するプリディストーションテーブル生成部と、
上記V−Tカーブに上記プリディストーションテーブルを適用してプリディストーションV−Tカーブテーブルを生成するプリディストーションV−Tカーブテーブル生成部と、
上記プリディストーションV−Tカーブテーブルを記憶し、上記VCOに上記掃引周波数信号を生成させるために上記プリディストーションV−Tカーブテーブルから上記VCOに印加する制御電圧を記憶するメモリと、
を備えていることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
導波管内を伝搬する電波が周波数特性を持っていても、この周波数特性に対応してVCOの発振周波数を制御することができるため、発振周波数と受信周波数とのビート周波数の広がりが抑制され、計測精度の劣化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る液位測定装置の実施例におけるVCOプリディストーション処理のプロセスを順に示すフローチャートである。
図2】本発明に係る液位測定装置の実施例を示すブロック図である。
図3】本発明に係る液位測定装置による測定の様子を概念的に示す模式図である。
図4】横断面が方形の導波管の例を示す斜視図である。
図5】横断面が円形の導波管の例を示す斜視図である。
図6】導波管内における電波の周波数に対する伝搬速度の例を示すグラフである。
図7】導波管を用いた液位測定装置の掃引周波数に対するビート周波数の関係を示すグラフである。
図8】自由空間反射によるビート信号と円形導波管内反射によるビート信号をFFT処理することによって得られるスペクトラム波形を比較して示すグラフである。
図9】従来の液位測定装置の例を示すブロック図である。
図10】FMCWレーダーによる周波数掃引の例を示すグラフである。
図11】FMCWレーダーの周波数掃引による距離計測原理を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る液位測定装置およびそのVCOプリディストーション方法の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0020】
図2は、本発明によるFMCWレーダー方式による液位測定装置の実施例を示す。図2において、液位測定装置は、DSP11、デジタル・アナログ変換器13、VCO14、結合回路15、スイッチ16、混合器20、AGC21、アナログ・デジタル変換器22を有してなる。デジタル・アナログ変換器13とVCO14を含む構成部分は送信系を構成し、混合器20からアナログ・デジタル変換器22に至る構成部分は受信系を構成している。DSP11はメモリ12を内蔵し、メモリ12には、掃引時間Tに対するVCO14の発振周波数を決定するVCO14への印加電圧の関係すなわちV−TカーブがV−Tテーブルとして記憶されている。メモリ12にはまた、後で説明するプリディストーションテーブル、プリディストーションV−Tカーブテーブルなどが記憶されている。
【0021】
ここまで説明した部分は、スイッチ16が追加されていることを除けば図9に示す従来のレーダー方式による距離測定装置の構成と同じである。したがって、測定時の動作も上記従来例と同じである。すなわち、DSP11は、メモリ12に記憶されているV−Tテーブルから、掃引時間とサンプリングポイント数により決定されるクロック周波数に同期してVCO14の動作を制御する電圧を読み出す。読み出された制御電圧値はデジタル・アナログ変換器13でアナログ信号に変換され、VCO14に制御電圧として印加される。VCO14は制御電圧に対応した周波数の信号、すなわち時間の経過とともに周波数が連続的に変化する高周波信号を出力する。この高周波信号が結合回路15、スイッチ16を経て適宜のアンテナから被測定系25に向けて送信される。
【0022】
被測定系25には測定地点である液体の液面があり、液面で上記高周波信号が反射される。反射された高周波信号は被測定系25を戻り上記アンテナでとらえられ、スイッチ16、結合回路15を経て受信系に導かれる。受信系の混合器20では、受信信号と受信時の発振信号が混合され、受信周波数とその瞬間の発振周波数との差信号、すなわちビート信号が取り出される。ビート信号は、AGC21で適正振幅に調整されたのち、アナログ・デジタル変換器22でデジタル信号に変換され、DSP11に入力される。
【0023】
DSP11では、掃引時間Tの間、V−Tカーブデータの読み出し、ビート信号の取り込みを実行し、取り込んだ時間軸上のビート信号データ群にフィルタリング処理を施して不要なノイズを除去する。さらに、DSP11で上記ビート信号データ群をFFT(Fast Fourier Transform)処理して周波数軸のデータに変換し、その結果からビート周波数FBを抽出する。このビート周波数FBを前記式1に入力して演算処理することによって測定地点までの距離Lを求める。したがって、DSP11は、上記ノイズ除去用のフィルタ、ビート周波数FBの抽出部としてのFFT処理部を備えている。
【0024】
以上説明した液位測定装置の設置例を図3に模式的に示す。図3において符号10はレーダーユニットを含む液位測定装置を、符号40は液位測定装置10を設置したタンクを示している。タンク10は液化ガスなどの液体41を収納するもので、タンク40内にはタンク40の天板から円筒形状の導波管30がタンク40の底に向かって垂直に設置されている。導波管30内には液体41が進入することができ、タンク40内の液体レベルと導波管30内の液体レベルが一致するようになっている。タンク40の天板上には導波管30の上方においてレーダーユニットからなる上記液位測定装置10が設置されている。液位測定装置10は、図2に示す各ブロックで構成されたFMCWレーダー方式による液位測定装置で、この液位測定装置10と導波管30の上端との間には変換器32が介在している。変換器32は、上記ユニット10から出力される信号を電波に変換して上記液面に向かい導波管30内に放射するアンテナである。
【0025】
タンク40内の液体41の面から天井面までの空間には、液体41の蒸発気体が充満している。上記天井面から液体41の面までの距離をLとする。導波管30の内径をdで表している。Fは液位測定装置10から液面に向かって導波管30内に放射される電波の周波数を、Fは上記電波が液面で反射され導波管30内を液位測定装置10に向かって戻る電波の周波数を示している。
【0026】
図2に示す本発明に係る液位測定装置の実施例が前記従来のレーダー方式による距離測定装置の例と異なる点は、近端反射部材26を備えている点である。近端反射部材26は、液位測定装置すなわちレーダーユニット10から放射される電波を反射することができる部材からなり、図3に示す導波管30内に、かつ、タンク40の天井面であるとともに変換器32の電波放射面でもある基準面位置から既知の長さ位置に設置されている。近端反射部材26は、VCOキャリブレイションを行うのに必要な部材である。VCOキャリブレイションとは、VCO14から出力される信号のF−Tカーブが直線になるように、メモリ12に記憶するV−TカーブをVCO14のF−V特性に対応して補正することをいう。すなわち、前記V−Tカーブの直線性が保たれていても、VCO14の個体の特性、経時変化などによってVCO14のF−Vカーブの直線性が崩れていると、VCO14から出力されるF−Tカーブが崩れる。そこで、上記F−Tカーブの直線性が保たれるように校正する。
【0027】
ただし、VCOキャリブレイションは本願発明の主題ではなく、本願発明の主題はVCOプリディストーションにあるので、以下、VCOプリディストーションを行うための具体的な構成およびVCOプリディストーションの方法について説明する。
【0028】
導波管内を伝搬する電波の波長λgは、次の式2で表される。
式2

ここで、λoは伝搬する周波数の波長、λcは遮断(カットオフ)周波数すなわち導波管で伝送可能な最低周波数の波長である。
【0029】
図4に示すような横断面が方形の導波管であって、内面側における長辺の寸法がa、短辺の寸法がbの導波管の場合、遮断周波数の波長λcは、次の式3で表すことができる。
式3
ここで、m,nはそれぞれ導波管内伝送のモード数である。したがって、基本モードすなわちTE10モードの場合、m=1,n=0であるから、λc=2aになる。
【0030】
また、図5に示すような横断面が円形の導波管であって、内径がdの導波管の場合、遮断周波数の波長λcは、次の式4で表すことができる。
式4
λc=Knm・d
ここで、Knmは伝送モードごとに固有の値になる。すなわち、TE11モードではKnm=1.706、TE01モードではKnm=0.82である。
【0031】
導波管内を伝搬する電波の速度vgは次の式5で表すことができる。

式5

式5からわかるように、導波管内の電波の速度vgは伝搬する周波数の波長λoの関数になっており、周波数が変化すると上記速度vgが変化することになる。図6のグラフは、管内速度の周波数特性、すなわち周波数(f)の変化に対する管内速度(vg)の変化を表していて、周波数に対して管内速度が非直線的に変化している。
【0032】
式5を式1に代入すると式6が得られる。
式6
【0033】
式6からビート周波数FBは次の式7によって求めることができる。
式7
【0034】
図7は、反射面が固定の場合に、掃引周波数に対するビート周波数FBの変化を表したグラフを示しており、掃引周波数の変化に対してビート周波数FBが直線的に変化せず、非直線的に変化している。
【0035】
また、図8は、ビート信号をFFT処理して得られるスペクトラム波形を示しており、波形Aは自由空間反射の場合のスペクトラム波形を、波形Bは円形の導波管内反射の場合のスペクトラム波形を示している。自由空間反射の場合に比べて円形の導波管内反射の場合が、スペクトラム波形が広がっている。これは、測定点すなわち電波の反射点が変わらなくても円形導波管内ではFMCWレーダーの周波数掃引によってビート周波数が変化することを示している。そして、円形導波管内での周波数掃引の場合、ビート信号をFFT演算処理して得られるスペクトラム波形が広がることによりピーク検出の精度が悪くなり、測定精度が劣化する要因となることが分かる。
【0036】
上に述べたように、測定精度が劣化する原因は、FMCWレーダーの周波数掃引によりビート周波数が変化することにある。そこで、周波数掃引によるビート周波数の変化を見越して、前記VCO14に印加する制御電圧のV−Tカーブ特性を、ビート周波数の変化に対し逆特性とし、ビート周波数の変化を抑制する。ビート周波数の変化を抑制すると、図8の波形Bで示すスペクトラムの広がりが抑制され、スペクトラム波形が先鋭化することによって測定精度の劣化を抑制することができる。上記のように、VCO14に印加する制御電圧が逆特性となるV−Tカーブを生成することを「VCOプリディストーション」という。
【0037】
図1は、VCOプリディストーションの手順を示している。図1の中央縦方向に処理ステップを示す。各処理ステップには、ステップごとにS1,S2,・・・のように符号を付している。以下、VCOプリディストーションの手順を説明する。
【0038】
まず、予め用意されているV−Tカーブテーブルから掃引時間の経過に対応してVCO14の制御電圧を読み出し、この制御電圧をVCO14に印加してVCO14で制御電圧に対応した周波数の信号を生成する。V−Tカーブテーブルはもともと直線性が保たれているはずであるが、VCO14から出力されるF−Tカーブ(図1の左上右側のグラフ参照)の直線性が保たれるように、前記VCOキャリブレイションが実行されている。図1の左上左側に示すV−Tカーブは、予めVCO14の特性などに合わせてVCOキャリブレイションが実行された非直線性のV−Tカーブを示す。
【0039】
VCOキャリブレイションが実行された非直線性のV−Tカーブテーブルにしたがって周波数掃引し(S1)、掃引によって生成される電波を、円形の導波管を通じて測定点に向かって放射する。測定点で反射された電波を受信し、前述のとおり、掃引時間内における一定時点での受信周波数と送信周波数とのビート波形を取得する(S2)。図1の右側上段の波形は上記ビート波形のイメージを示している。
【0040】
次に、上記ビート波形をFFT演算処理することによりビートスペクトラム解析を行う(S3)。図1の右側上から2段目の波形図は上記ビート波形のスペクトラム解析のイメージを示している。上記波形図に示すように、掃引周波数の中心周波数に対するビート周波数の差分が求められ、掃引周波数に対するビート周波数の差分の変化度合いを解析することによりビート波形のスペクトラム解析を行う。このスペクトラム解析は、DSP11内に組み込まれたプログラムにより、DSP11の機能の一部として実行される。
【0041】
次に、ビート波形のスペクトラム解析結果から、スペクトラム補正関数:D(x)を生成する(S4)。図1の右側第3段目の波形図は上記スペクトラム補正関数:D(x)の例を示しており、スペクトラム補正関数:D(x)は、上記ビート周波数の差分の変化度合いに対応している。スペクトラム補正関数:D(x)の生成は、DSP11内に組み込まれたプログラムにより、DSP11の機能の一部として実行される。
【0042】
次に、スペクトラム補正関数:D(x)に基づき、プリディストーションテーブルを生成する(S5)。プリディストーションテーブルはVCO14に適用するV−Tカーブを補正するためのテーブルで、図1の右側最下段の波形図はV−T補正カーブを示している。V−T補正カーブは、スペクトラム補正関数:D(x)を表す波形に対して逆特性になっている。プリディストーションテーブル生成機能も、DSP11にその機能の一部として備えられている。
【0043】
次に、前記V−Tカーブに上記V−T補正カーブを適用してプリディストーションV−Tカーブテーブルを生成する(S6)。プリディストーションV−Tカーブテーブル生成機能も、DSP11にその機能の一部として備えられている。図1の左下に示す二つのグラフのうち左側のグラフはV−Tカーブを示しており、カーブa1は補正前の初期V−Tカーブを、カーブa2はプリディストーションV−Tカーブを示している。なお、初期V−Tカーブa1は前記VCOキャリブレイション実施後のV−Tカーブである。
【0044】
上記二つのグラフのうち右側のグラフはVCO14から出力されるF−Tカーブを示しており、カーブb1はプリディストーション前のF−Tカーブを、カーブb2はプリディストーション後のF−Tカーブを示している。プリディストーション前のF−Tカーブb1は直線性を保っているが、このF−Tカーブb1にしたがって掃引周波数信号を生成すると、前述のように導波管内での電波の伝搬速度変化すなわち周波数変化が計測精度悪化の要因となる。そこで、プリディストーション後のF−Tカーブb2にしたがって掃引周波数信号を生成する。また、プリディストーション後のF−Tカーブb2は前記DSP11が内蔵しあるいは付随するメモリに、プリディストーションV−Tカーブテーブルとして保存される。
【0045】
以後の液面計測にプリディストーションV−Tカーブテーブルが利用される。プリディストーションV−TカーブテーブルにしたがってVCO14の発振周波数が制御されることにより、導波管内での電波の伝搬速度変化に対応した周波数信号が出力されるため、掃引時間内におけるビート周波数の変化が少なくなる。その結果、ビート周波数信号のスペクトラム波形が先鋭化し、計測精度が高くなる。
【0046】
このように、本発明に係る液位測定装置およびそのVCOプリディストーション方法によれば、プリディストーションが実行されているV−Tカーブテーブルに従ってVCOの発振周波数が制御される。したがって、導波管内を伝搬する電波が周波数特性を持っていても、この周波数特性に対応してVCOの発振周波数を制御することができ、発振周波数と受信周波数とのビート周波数の広がりが抑制され、ビート周波数のスペクトラム解析結果の先鋭度が高まって、計測精度を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明による測定対象は、液体であればなんでもよいが、特に高精度の液面レベルを計測するアプリケーションに適している。
【符号の説明】
【0048】
11 DSP
12 メモリ
13 デジタル・アナログ変換器
14 VCO
15 結合回路
16 スイッチ
20 混合器
21 AGC回路
25 被測定系
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図9
図10
図11
図7
図8