【文献】
Yan B et al,Cofilin immunolabelling correlates with depth of invasion in gastrointestinal endocrine cell tumors,Acta Histochem,2008年11月11日,112(1),101-106
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0027】
1.胃癌検出用マーカー
(概要)
本発明の第一の態様は、胃癌を検出するための胃癌検出用マーカーに関する。本発明は、Cofilin1タンパク質が健常者よりも胃癌患者の血液中に多く存在する知見に基づくものである。後述の本発明の第二の態様で説明するように、被検体の血液中に存在する当該タンパク質の量の多寡によって、その被検体の胃癌の罹患を検出し得る。
【0028】
(発明の構成)
本発明において「胃癌検出用マーカー」とは、胃癌を検出するための生物学的マーカーであって、被検体が胃癌に罹患していることを示す指標となる物質をいう。本発明の胃癌検出用マーカーは、Cofilin1タンパク質、その変異体及び/又はそれらの断片(以降、本明細書において、これらをまとめて、しばしば「Cofilin1タンパク質等」と呼ぶ)で構成される。
【0029】
本発明の「Cofilin1タンパク質」は、前述のようにアクチン細胞骨格結合性タンパク質をいう。本発明においては、166アミノ酸からなる約18kDaの各生物種Cofilin1タンパク質が該当するが、好ましくはヒト由来のCofilin1タンパク質(GenBank アクセッションNP_005498.1)、具体的には、配列番号1に示されるポリペプチドである。
【0030】
本明細書において前記Cofilin1タンパク質の「変異体」とは、Cofilin1タンパク質の、好ましくは配列番号1に示されるヒト由来の野生型Cofilin1タンパク質を構成するアミノ酸配列又はその部分配列において、1以上、好ましくは1〜数個のアミノ酸の欠失、置換、付加又は挿入を含む変異体、あるいは該アミノ酸配列又はその部分配列と約80%以上、約85%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上の%同一性を示す変異体を意味する。ここで、「数個」とは、約10、9、8、7、6、5、4、3又は2個以下の整数を指す。また、「%同一性」とは、BLASTやFASTAによるタンパク質の検索システムを用いて、ギャップを導入して又はギャップを導入しないで、決定することができる(Karlin,S.ら、1993年、Proceedings of the National Academic Sciences U.S.A.、第90巻、p.5873-5877;Altschul,S.F.ら、1990年、Journal of Molecular Biology、第215巻、p.403−410;Pearson,W.R.ら、1988年、Proceedings of the National Academic Sciences U.S.A.、第85巻、p.2444-2448)。Cofilin1タンパク質の変異体の具体例として、被検体の種類(例えば、被検者の場合は人種)や個体に基づく多型(SNIPsを含む)、スプライス変異等が挙げられる。
【0031】
本明細書において「断片」とは、野生型Cofilin1タンパク質、好ましくは配列番号1で示されるヒト由来の野生型Cofilin1タンパク質又はその変異体を構成するアミノ酸の少なくとも7個以上全数未満、少なくとも10個以上全数未満、少なくとも15個以上全数未満、好ましくは少なくとも20個以上全数未満、少なくとも25個以上全数未満、より好ましくは少なくとも35個以上全数未満、少なくとも40個以上全数未満、少なくとも50個以上全数未満の連続するアミノ酸残基からなり、1個又は複数のエピトープを保持するポリペプチド断片をいう。このような断片は、後述する本発明に関わる抗体又はその断片と免疫特異的に結合することができる。このようなペプチド断片をCofilin1タンパク質に包含する理由は、たとえ断片化されていても血液中のCofilin1タンパク質を定量できれば、本発明の目的を達し得、また、血液中の上記野生型Cofilin1タンパク質(好ましくは配列番号1で示されるヒト由来の野生型Cofilin1タンパク質)又はその変異体の全長ポリペプチドが、例えば、血液中に存在するプロテアーゼやペプチダーゼ等によって断片化されて存在する可能性があるからである。
【0032】
2.胃癌検出方法
(概要)
本発明の第二の態様は、胃癌を検出する方法に関する。本発明は、Cofilin1タンパク質が健常者よりも胃癌患者の血液中に多く存在する知見に基づき、被検体由来の体液中の存在する本発明の胃癌検出用マーカーCofilin1の量を測定し、その結果から胃癌を検出する方法である。
【0033】
(発明の構成)
本発明の方法は、(1)胃癌検出用マーカーCofilin1測定工程、及び(2)罹患決定工程を含む。以下、それぞれの工程について詳細に説明をする。
【0034】
2−1.胃癌検出用マーカーCofilin1測定工程
「胃癌検出用マーカーCofilin1測定工程」とは、被検体由来の体液中に存在する本発明の胃癌検出用マーカー、すなわち、Cofilin1タンパク質、その変異体及び/又はそれらの断片の量をインビトロで測定する工程である。
【0035】
本明細書において、「被検体」とは、胃癌の罹患の検出対象となる検体であって、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、特に好ましくはヒトが該当する。本明細書において、被検体がヒトの場合には、以降、特に「被検者」とする。
【0036】
本明細書において「体液」とは、胃癌検出のために供される試料であって、生物学的流動体を意味する。体液は、本発明の胃癌検出用マーカーCofilin1が含まれる可能性のある生物学的流動体であればよく、特に限定はされない。例えば、血液、尿、リンパ球培養上清、髄液、消化液(胃液、唾液を含む)、汗、腹水、鼻水、涙、膣液、精液等が含まれる。好ましくは、血液又は尿である。ここでいう「血液」とは、全血、血漿及び血清を含む。全血は、静脈血、動脈血又は臍帯血を問わない。体液は、同一個体から得られる異なる二以上の組合せであってもよい。本発明の胃癌の検出方法は、侵襲性の低い血液や尿からも検出可能であることから、簡便な検出法として非常に有用である。
【0037】
「被検体由来の体液」とは、被検体から既に採取された体液をいい、体液を採取する行為自体は、本発明の態様には包含されない。被検体由来の体液は、被検体から採取されたものを直ちに本発明の方法に供してもよいし、採取後、直接、又は適当な処理を施した後に、冷蔵又は凍結したものを本発明の方法に供する前に、室温に戻して使用してもよい。冷蔵又は凍結前の適当な処理としては、例えば、全血にヘパリン等を添加して抗凝固処理を施した後、又は血漿若しくは血清として分離すること等が含まれる。これらの処理は、当該分野で公知の技術に基づいて行なえばよい。
【0038】
本明細書においてに「本発明の胃癌検出用マーカーの量」とは、被検体由来の体液中に存在するCofilin1タンパク質等の分量をいう。この分量は、絶対量又は相対量のいずれであってもよい。絶対量の場合、所定の体液量中に含まれる胃癌検出用マーカーの質量又は容量が該当する。相対量の場合、特定の測定値に対する被検体由来の胃癌検出用マーカーの測定値によって表わされる相対的な値をいう。例えば、濃度、蛍光強度、吸光度等が挙げられる。
【0039】
胃癌検出用マーカーの量は、インビトロで公知の方法を用いて測定することができる。例えば、前記タンパク質等と特異的に結合可能な物質を用いて測定する方法が挙げられる。
【0040】
本明細書において「特異的に結合可能」とは、ある物質が、本発明の標的である胃癌検出用マーカー、すなわち、Cofilin1タンパク質、その変異体及び/又はそれらの断片とのみ実質的に複合体を形成することを意味する。ここで、「実質的に」とは、非特異的な結合以外の結合を意味する。
【0041】
「特異的に結合可能な物質」としては、例えば、Cofilin1結合タンパク質が挙げられる。より具体的には、例えば、Cofilin1タンパク質を抗原とし、それを認識して結合する「抗Cofilin1抗体」、好ましくは配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを認識し結合する抗体、又はCofilin1タンパク質の変異体を抗原とし、それを認識して結合する「抗Cofilin1変異体抗体」、好ましくは配列番号1の変異体のアミノ酸配列を有するポリペプチドを認識し結合する抗体、及び/又はそれらの抗体断片である。あるいは、それらの化学修飾誘導体であってもよい。ここで、「化学修飾誘導体」とは、前記抗Cofilin1抗体、抗Cofilin1変異体抗体及び/又はそれらの断片のCofilin1タンパク質等との特異的な結合活性を獲得又は保持する上で必要な機能上の修飾、又は前記抗Cofilin1抗体、抗Cofilin1変異体抗体及び/又はそれらの断片を検出する上で必要な標識のための修飾のいずれをも含む。
【0042】
機能上の修飾には、例えば、グリコシル化、脱グリコシル化、PEG化が挙げられる。
【0043】
標識上の修飾には、例えば、蛍光色素(FITC、ローダミン、テキサスレッド、Cy3、Cy5)、蛍光タンパク質(例えば、PE、APC、GFP)、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ)、又はビオチン若しくは(ストレプト)アビジンによる標識が挙げられる。
【0044】
抗体は、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体のいずれであってもよい。特異的検出を可能にするため、好ましくは、モノクローナル抗体である。Cofilin1タンパク質等と特異的に結合する抗Cofilin1ポリクローナル抗体等(抗Cofilin1ポリクローナル抗体、抗Cofilin1変異体ポリクローナル抗体及び/又はそれらの抗体の断片に対するポリクローナル抗体を含む)又はモノクローナル抗体等(抗Cofilin1モノクローナル抗体、抗Cofilin1変異体モノクローナル抗体及び/又はそれらの抗体の断片に対するモノクローナル抗体を含む)は、後述する方法によって作製することができる。その他、抗ヒトCofilin1ポリクローナル抗体は、Protein Group社等より市販されており、それを利用することもできる。本発明の抗体のグロブリンタイプは、上記特徴を有するものである限り、特に限定されるものではなく、IgG、IgM、IgA、IgE、IgDのいずれでもよいが、IgG及びIgMが好ましい。抗体断片は、例えばFab、Fab’、F(ab’)
2、Fv、ScFv等が含まれるが、これらに限定されない。遺伝子工学技術によって産生可能な抗体断片及び誘導体もまた含まれる。そのような抗体には、例えば合成抗体、組換え抗体、多重特異性抗体(二重特異性抗体を含む)、単鎖抗体等が含まれる。本発明の抗Cofilin1タンパク質抗体等は、前記タンパク質の少なくとも5個、好ましくは少なくとも8個のアミノ酸からなる1若しくは数個のエピトープに対する抗体である。特異的なポリクローナル抗体は、例えば、アガロース等の担体にCofilin1タンパク質等を結合したカラムに、該タンパク質を免疫したウサギ等の抗血清を通し、カラム担体に結合したIgG抗体を回収することを含む手法によって作製することができる。
【0045】
(1)抗Cofilin1抗体の作製
以下、本発明で使用する抗Cofilin1ポリクローナル抗体等及びモノクローナル抗体等の作製方法について具体的に説明をする。
【0046】
(1−1)免疫原の調製
本発明において抗体を作製するにあたり、免疫原(抗原)としてのCofilin1タンパク質等を調製する。本発明において免疫原として使用可能なCofilin1タンパク質は、例えば、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するヒトCofilin1タンパク質若しくはその変異体又はそのポリペプチド断片、あるいはそれらと他のペプチド(例えば、シグナルペプチド、標識ペプチド等)との融合ポリペプチドである。免疫原としてのCofilin1タンパク質は、例えば、配列番号1のアミノ酸配列情報を利用して、当技術分野で公知の手法、例えば固相ペプチド合成法等により、免疫原として使用するためのCofilin1タンパク質断片を合成することができる。免疫原としてCofilin1タンパク質断片を使用する場合は、KLH、BSA等のキャリアータンパク質に連結させて使用するのが好ましい。
【0047】
また、免疫原としてのCofilin1タンパク質等は、公知のDNA組換え技術を利用して得ることができる。Cofilin1タンパク質等をコードするcDNAは、cDNAクローニング法によって作製できる。免疫原Cofilin1遺伝子等を発現する胃上皮細胞等の生体組織からtotal RNAを抽出し、それをオリゴdTセルロースカラムで処理して得られるポリA(+)RNAからRT−PCR法によってcDNAライブラリーを作製し、このライブラリーからハイブリダイゼーションスクリーニング、発現スクリーニング、抗体スクリーニング等のスクリーニングによって目的のcDNAクローンを得ることができる。必要に応じて、cDNAクローンをさらにPCR法によって増幅することもできる。これによって目的の遺伝子に対応するcDNAを得ることができる。cDNAクローニング技術は、例えばSambrook,J.及び Russel,D.著、Molecular Cloning, A LABORATORY MANUAL、Cold Spring Harbor Laboratory Press、2001年1月15日発行、の第1巻7.42〜7.45、第2巻8.9〜8.17に記載されている。
【0048】
続いて、上記の方法等で得られたcDNAクローンを発現ベクターに組み込み、該ベクターによって形質転換又はトランスフェクションされた原核又は真核宿主細胞を培養することによって、目的のCofilin1タンパク質等を該細胞から得ることができる。このとき、目的のタンパク質等を培養上清中から得る場合には、そのポリペプチドをコードするDNAの5’末端に、分泌シグナル配列をコードするヌクレオチド配列をフランキングすることによって細胞外に成熟ポリペプチドを分泌させることができる。
【0049】
発現ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpET21a、pGEX4T、pC118、pC119、pC18、pC19等)、枯草菌由来のプラスミド(例えば、pUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えば、YEp13、YEp24、YCp50等)等が挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(λ gt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、ワクシニアウイルス等の動物ウイルス、バキュロウイルス等の昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。ベクター及び発現系は、Novagen社、宝酒造、第一化学薬品、Qiagen社、Stratagene社、Promega社、Roche Diagnositics社、インビトロジェン社、Genetics Institute社、GE ヘルスケア社等から入手可能である。
【0050】
発現ベクターにCofilin1タンパク質等のcDNAを挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当な制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法等が採用される。ベクターには、該タンパク質をコードするDNAの他に、調節エレメント、例えばプロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、リボソーム結合部位、複製開始点、ターミネーター、選択マーカー等を含むことができる。またポリペプチドの精製を容易にするために標識ペプチドをポリペプチドのC末端又はN末端につけた融合ポリペプチドとしてもよい。代表的な標識ペプチドには、6〜10残基のヒスチジンリピート、FLAG、mycペプチド、GFPタンパク質等が挙げられるが、標識ペプチドはこれらに限られるものではない。またDNA組換え技術については、Sambrook, J.& Russel, D.(上記)に記載されている。DNA断片とベクター断片とを連結させるには、公知のDNAリガーゼを用いる。
【0051】
宿主細胞としては、細菌等の原核細胞(例えば、エシェリヒア・コリ:Escherichia coli等の大腸菌、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)等の枯草菌)、酵母(例えば、サッカロマイセス・セレビシアエ)、昆虫細胞(例えば、Sf細胞)、哺乳動物細胞(例えば、COS、CHO、BHK)等を用いることができる。宿主細胞への組換えベクターの導入方法は、それぞれの宿主へDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。細菌に該ベクターを導入する方法であれば、例えば、ヒートショック法、カルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。これらの技術は、いずれも当該分野で公知であり、様々な文献に記載されている。例えば、Sambrook, J. et. al., (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual Second Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkを参照されたい。また、動物細胞に該ベクターを導入する方法であれば、例えば、リポフェクチン法(PNAS(1989) Vol.86, 6077)、(PNAS(1987) Vol.84, 7413)、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法(Virology(1973) Vol.52, 456−467)、リポソームを用いる方法、DEAE−Dextran法等が好適に用いられる。
【0052】
大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。培養は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養等の好気的条件下、37℃で6〜24時間行う。培養期間中、pHは中性付近に保持する。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。哺乳類細胞等の形質転換体を培養する場合においても、それぞれの細胞に適した培地中で培養後、培養上清又は細胞内に生産されたタンパク質を回収する。このとき培地には血清を含んでもよく、含まなくてもよいが、無血清培地での培養がより望ましい。Cofilin1タンパク質等が菌体内又は細胞内に生産される場合には、菌体又は細胞を破砕することによりタンパク質を抽出する。また、Cofilin1タンパク質等が菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去する。
【0053】
標識ペプチドを付けずに本発明に係るタンパク質を生産した場合には、その精製法として例えばイオン交換クロマトグラフィーによる方法を挙げることができる。またこれに加えて、ゲルろ過や疎水性クロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィー等を組み合わせる方法でもよい。一方、当該タンパクにヒスチジンリピート、FLAG、myc、GFPといった標識ペプチドを付けている場合には、一般に用いられるそれぞれの標識ペプチドに適したアフィニティークロマトグラフィーによる方法を挙げることができる。単離・精製が容易となるような発現ベクターを構築するとよい。特にポリペプチドと標識ペプチドとの融合タンパク質の形態で発現するように発現ベクターを構築し、遺伝子工学的に当該タンパク質を調製すれば、単離・精製も容易である。Cofilin1タンパク質等が得られたか否かは、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動等により確認することができる。
【0054】
(1−2)抗体の作製
このようにして得られたCofilin1タンパク質等を抗原としてCofilin1タンパク質等を特異的に認識する抗体を得ることができる。
【0055】
より具体的には、タンパク質、タンパク質断片、タンパク質変異体、融合タンパク質等は、抗体形成を引き出す抗原決定基又はエピトープを含むが、これら抗原決定基又はエピトープは、直鎖でもよいし、より高次構造(断続的)でもよい。なお、該抗原決定基又はエピトープは、当該技術分野に知られるあらゆる方法によって同定できる。
【0056】
本発明のタンパク質によってあらゆる態様の抗体が誘導される。該タンパク質の全部若しくは一部又はエピトープが単離されていれば、慣用的技術を用いてポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体のいずれも調製可能である。方法には例えば、Kennetら(監修),Monoclonal Antibodies,Hybridomas: A New Dimension in Biological Analyses,Ple num Press,New York,1980に挙げられた方法がある。
【0057】
(1−2−1)ポリクローナル抗体の作製
ポリクローナル抗体を作製するために、まず、得られたCofilin1タンパク質等を緩衝液に溶解して免疫原を調製する。なお、必要であれば、免疫を効果的に行うためにアジュバントを添加してもよい。アジュバントの例としては、市販の完全フロイントアジュバント(FCA)、不完全フロイントアジュバント(FIA)等が挙げられ、これらを単独で又は混合して用いることができる。
【0058】
次に、前記調製した免疫原を、哺乳動物、例えばラット、マウス(例えば近交系マウスのBalb/c)、ウサギ等に投与し、免疫する。免疫原の1回の投与量は、免疫動物の種類、投与経路等により適宜決定されるものであるが、動物1匹当たり約50〜200μgとされる。免疫原の投与方法としては、例えば、FIA又はFCAを用いた皮下注射、FIAを用いた腹腔内注射、又は0.15mol/L塩化ナトリウムを用いた静脈注射が挙げられるが、この限りでない。また、免疫の間隔は特に限定されず、初回免疫後、数日から数週間間隔で、好ましくは1〜4週間間隔で、2〜10回、好ましくは3〜4回追加免疫を行う。初回免疫の後、免疫動物の血清中の抗体価の測定をELISA(Enzyme−Linked Immuno Sorbent Assay)法等により繰り返し行い、抗体価がプラトーに達したときは、免疫原を静脈内又は腹腔内に注射し、最終免疫とする。免疫後は、血液からCofilin1タンパク質等に対するポリクローナル抗体が回収できる。モノクローナル抗体が必要な場合には、後述の抗Cofilin1抗体産生ハイブリドーマを作製すればよい。
【0059】
(1−2−2)モノクローナル抗体の作製
免疫動物からの抗体産生細胞の回収
本発明によれば、Cofilin1タンパク質等を特異的に認識する抗Cofilin1モノクローナル抗体を生産するハイブリドーマを作製することができる。こうしたハイブリドーマは、慣用的技術によって産生し、そして同定することが可能である。こうしたハイブリドーマを産生するための1つの方法は、動物を本発明のタンパク質で免疫し、免疫された動物から抗体産生細胞を採取し、その抗体産生細胞を骨髄腫(ミエローマ)細胞株に融合させ、それによりハイブリドーマ細胞を生成し、そしてCofilin1タンパク質等に結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを同定すればよい。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾臓細胞又は局所リンパ節細胞が好ましい。これらの細胞は、Cofilin1タンパク質等で免疫した動物から摘出又は採取したものを用いればよい。動物に免疫する方法は、前記ポリクローナル抗体の作製の項に準ずる。抗体産生細胞と融合させる骨髄腫細胞株としては、マウス等の動物の一般に入手可能な株化細胞を使用することができる。使用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミンを含む)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。また株化細胞は、免疫動物と同種系の動物に由来するものが好ましい。骨髄腫細胞株の具体例としては、BALB/cマウス由来のヒポキサンチン・グアニン・ホスホリボシル・トランスフェラーゼ(HGPRT)欠損細胞株であるP3X63−Ag.8株(ATCC TIB9)、P3X63‐Ag.8.U1株(JCRB9085)、P3/NSI/1‐Ag4‐1株(JCRB0009)、P3x63Ag8.653株(JCRB0028)又はSp2/0‐Ag14株(JCRB0029)等が挙げられる。
【0060】
細胞融合
細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI−1640培地等の動物細胞培養用培地中で、抗体産生細胞と骨髄腫細胞株とを約1:1〜 20:1の割合で混合し、細胞融合促進剤の存在下にて融合反応を行う。細胞融合促進剤として、平均分子量1500〜4000ダルトンのポリエチレングリコール等を約10〜80%の濃度で使用することができる。また場合によっては、融合効率を高めるために、ジメチルスルホキシド等の補助剤を併用してもよい。さらに、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて抗体産生細胞と骨髄腫細胞株とを融合させることもできる(Nature, 1977, Vol.266, 550‐552)。
【0061】
ハイブリドーマの選別及びクローニング
細胞融合処理後の細胞から目的とする抗Cofilin1抗体等を産生するハイブリドーマを選別する。その方法として、細胞懸濁液を、例えばウシ胎児血清含有RPMI−1640培地等で適当に希釈後、マイクロタイタープレート上に200万個/ウェル程度まき、各ウェルに選択培地を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。培養温度は、20〜40℃ 、好ましくは約37℃である。ミエローマ細胞がHGPRT欠損株又はチミジンキナーゼ欠損株のものである場合には、ヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジンを含む選択培地(HAT培地)を用いることにより、抗体産生能を有する細胞と骨髄腫細胞株のハイブリドーマのみを選択的に培養し、増殖させることができる。その結果、選択培地で培養開始後、約14日前後から生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
【0062】
次に、増殖してきたハイブリドーマの培養上清中に、目的とする抗体が存在するか否かをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、特に限定されない。例えば、ハイブリドーマとして生育したウェルに含まれる培養上清の一部を採取し、酵素免疫測定法(EIA:Enzyme Immuno Assay、及びELISA)、放射免疫測定法(RIA:Radio Immuno Assay)等によって行うことができる。融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行い、最終的にモノクローナル抗体産生細胞であるハイブリドーマを樹立する。本発明のハイブリドーマは、後述するように、RPMI−1640、DMEM等の基本培地中での培養において安定であり、胃癌に由来するCofilin1タンパク質と特異的に反応するモノクローナル抗体を産生、分泌するものである。
【0063】
抗体の回収
モノクローナル抗体は、慣用的技術によって回収可能である。すなわち樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法又は腹水形成法等を採用することができる。細胞培養法においては、ハイブリドーマを10% ウシ胎児血清含有RPMI−1640培地、MEM培地又は無血清培地等の動物細胞培養培地中で、通常の培養条件(例えば37℃、5%CO
2濃度)で2〜10日間培養し、その培養上清から抗体を取得する。腹水形成法の場合は、ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種系動物の腹腔内にハイブリドーマを約1000万個投与し、ハイブリドーマを大量に増殖させる。そして、1〜2週間後に腹水又は血清を採取する。
【0064】
上記抗体の採取方法において、抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー等の公知の方法を適宜に選択して、又はこれらを組み合わせることにより、精製された本発明のモノクローナル抗体を得ることができる。
【0065】
本発明のモノクローナル抗体には、キメラ抗体、例えば、ネズミモノクローナル抗体のヒト化型が含まれる。また本発明によれば、上記抗体の抗原結合断片も提供される。慣用的技術によって産生可能な抗原結合断片の例には、Fab及びF(ab’)
2断片が含まれるが、これらに限定されない。遺伝子工学技術によって産生可能な抗体断片及び誘導体もまた提供される。本発明の抗体は、インビトロ及びインビボのいずれにおいても、本発明のポリペプチド又はその(ポリ)ペプチド断片の存在を検出するためのアッセイに使用可能である。また本発明の抗体は、免疫アフィニティークロマトグラフィーによってタンパク質又はタンパク質断片を精製することにも使用することができる。
【0066】
アッセイにおける特異的検出を可能にするために、モノクローナル抗体の使用が好ましいが、ポリクローナル抗体であっても、精製ポリペプチドを結合したアフィニティーカラムに抗体を結合させることを含む、いわゆる吸収法によって、特異抗体を得ることができる。
【0067】
(2)抗Cofilin1抗体等を用いた本発明の胃癌検出用マーカーのインビトロ測定
前記(1)で作製した抗Cofilin1抗体等を用いた被検者由来の体液中に存在する本発明の胃癌検出用マーカー、すなわち、Cofilin1タンパク質等の量をインビトロで測定する方法(免疫学的測定法)としては、例えば、酵素免疫測定法(ELISA、EIA)、蛍光免疫測定法、放射免疫測定法(RIA)、発光免疫測定法、免疫比濁法、ラテックス凝集反応、ラテックス比濁法、赤血球凝集反応、粒子凝集反応又はウェスタンブロット法が挙げられる。
【0068】
本発明の胃癌検出用マーカー測定方法を、酵素免疫測定法、蛍光免疫測定法、放射免疫測定法又は発光免疫測定法等の標識を用いた免疫測定法により実施する場合には、前記抗Cofilin1抗体等を固相化するか、又は試料中の成分を固相化して、それらの免疫学的反応を行うことが好ましい。固相担体としては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリレート、ラテックス、ゼラチン、アガロース、セルロース、セファロース、ガラス、金属、セラミックス又は磁性体等の材質よりなるビーズ、マイクロプレート、試験管、スティック又は試験片等の形状の不溶性担体を用いることができる。固相化は、固相担体と前記抗Cofilin1抗体等又は試料成分とを物理的吸着法、化学的結合法又はこれらの併用等の公知の方法に従って結合させることにより行うことができる。
【0069】
本発明においては、前記抗Cofilin1抗体等と、体液中の胃癌細胞に由来する本発明の胃癌検出用マーカーとの反応を容易に検出するために、前記抗Cofilin1抗体等を標識することにより該反応を直接検出するか、又は標識二次抗体を用いることにより間接的に検出する。本発明の胃癌検出方法においては、感度の点で、後者の間接的検出(例えばサンドイッチ法等)を利用することが好ましい。
【0070】
標識物質としては、酵素免疫測定法の場合には、ペルオキシダーゼ(POD)、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコースオキシダーゼ、乳酸脱水素酵素、アミーゼ又はビオチン−アビジン複合体等を、蛍光免疫測定法の場合には、フルオレセインイソチオシアネート、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、置換ローダミンイソチオシアネート、ジクロロトリアジンイソチオシアネート、Alexa又はAlexaFluoro等を、そして放射免疫測定法の場合にはトリチウム、ヨウ素125又はヨウ素131等を用いることができる。また、発光免疫測定法は、NADH−、FMNH2−、ルシフェラーゼ系、ルミノール−過酸化水素−POD系、アクリジニウムエステル系又はジオキセタン化合物系等を用いることができる。
【0071】
標識物質と抗体との結合法は、酵素免疫測定法の場合にはグルタルアルデヒド法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法又は過ヨウ素酸法等の公知の方法を、放射免疫測定法の場合にはクロラミンT法、ボルトンハンター法等の公知の方法を用いることができる。測定の操作法は、公知の方法(Current protocols in Protein Sciences、1995年、John Wiley & Sons Inc.、Current protocols in Immunology、2001年、John Wiley & Sons Inc.)により行うことができる。
【0072】
例えば、前記抗Cofilin1抗体等を直接標識した場合には、体液中の成分を固相化し、標識した前記抗Cofilin1抗体等と接触させて、本発明の胃癌検出用マーカー(Cofilin1タンパク質等)−抗Cofilin1抗体等の複合体を形成させる。そして未結合の標識抗体を洗浄分離して、結合標識抗体量又は未結合標識抗体量より体液中の胃癌検出用マーカー(Cofilin1タンパク質等)の量を測定することができる。
【0073】
また、例えば、標識二次抗体を用いる場合には、本発明の抗体と試料とを反応させ(一次反応)、さらに標識二次抗体を反応させる(二次反応)。一次反応と二次反応は逆の順序で行ってもよいし、同時に行ってもよいし、又は時間をずらして行ってもよい。一次反応及び二次反応により、固相化した本発明の胃癌検出用マーカー−抗Cofilin1抗体等−標識二次抗体の複合体、又は固相化した抗Cofilin1抗体等−本発明の胃癌検出用マーカー−標識二次抗体の複合体が形成する。そして未結合の標識二次抗体を洗浄分離して、結合標識二次抗体量又は未結合標識二次抗体量より試料中の胃癌検出用マーカーの質量を測定することができる。
【0074】
具体的には、酵素免疫測定法の場合は標識酵素にその至適条件下で基質を反応させ、その反応生成物の量を光学的方法等により測定する。蛍光免疫測定法の場合には蛍光物質標識による蛍光強度を、放射免疫定法の場合には放射性物質標識による放射能量を測定する。発光免疫測定法の場合は発光反応系による発光量を測定する。
【0075】
本発明の方法では、免疫比濁法、ラテックス凝集反応、ラテックス比濁法、赤血球凝集反応又は粒子凝集反応等の免疫複合体凝集物の生成を、その透過光や散乱光を光学的方法により測るか、目視的に測る測定法により実施する場合には、溶媒としてリン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス緩衝液又はグッド緩衝液等を用いることができ、更にポリエチレングリコール等の反応促進剤や非特異的反応抑制剤を反応系に含ませてもよい。
【0076】
本発明の検出法の好ましい実施形態の一例を示す。最初に、本発明の抗体を一次抗体として不溶性担体に固定する。そして好ましくは、抗原が吸着していない固相表面を、抗原とは無関係のタンパク質(仔ウシ血清、ウシ血清アルブミン、ゼラチン等)によりブロッキングする。続いて、固定化された一次抗体と被検試料とを接触させる。次いで、上記一次抗体と異なる部位で本発明の胃癌検出用マーカーと反応する標識二次抗体とを接触させ、該標識からの信号を検出する。ここで用いる「一次抗体と異なる部位で胃癌検出用マーカーと反応する二次抗体」は、一次抗体と胃癌検出用マーカー(Cofilin1タンパク質等)との結合部位以外の部位を認識する抗体であれば特に制限はなく、免疫原の種類を問わず、ポリクローナル抗体、抗血清、モノクローナル抗体のいずれでもよく、またこれらの抗体のフラグメント(Fab、F(ab’)
2、Fab、Fv、ScFv等)を用いることもできる。更に、二次抗体として複数種のモノクローナル抗体を用いてもよい。
【0077】
また、これとは逆に、本発明の抗体に標識を付して二次抗体とし、本発明の抗体と異なる部位で、胃癌検出用マーカーと反応する抗体を一次抗体として不溶性担体に固定し、この固定化された一次抗体と被検試料とを接触させ、次いで、二次抗体として標識を付した本発明の抗体とを接触させ、前記標識からの信号を検出してもよい。
【0078】
また本発明の抗体は、上述したように、胃癌細胞に由来する胃癌検出用マーカーと特異的に反応するため、癌の検出薬として用いることができる。本発明の検出薬は、本発明の抗体を含むものであり、従って、本発明の検出薬を用いて、胃癌への罹患が疑われる個体から採取した試料中に含まれる胃癌細胞に由来する胃癌検出用マーカーを検出することによって、該個体の胃癌の罹患を検出することができる。
【0079】
また、本発明の検出薬は、免疫学的測定を行うための手段であればいずれの手段においても利用することができるが、当技術分野で公知の免疫クロマト用テストストリップ等の簡便な手段と組み合わせて用いることによって、さらに簡便かつ迅速に癌を検出することができる。免疫クロマト用テストストリップとは、例えば、試料を吸収しやすい材料からなる試料受容部、本発明の検出薬を含有する試薬部、試料と検出薬との反応物が移動する展開部、展開してきた反応物を呈色する標識部、呈色された反応物が展開してくる提示部等から構成されるものであり、妊娠診断薬と同様の形態とすることができる。まず、試料受容部に試料を与えると、試料受容部は試料を吸収して試料を試薬部にまで到達させる。続いて、試薬部において、試料中の胃癌細胞由来の胃癌検出用マーカーと抗Cofilin1抗体等との反応が起こり、反応した複合体が展開部を移動して標識部に到達する。標識部においては、上記反応複合体と標識二次抗体との反応が起こって、その標識二次抗体との反応物が提示部にまで展開すると呈色が認められることになる。上記免疫クロマト用テストストリップは、使用者に対し苦痛や試薬使用による危険性を一切与えないものであるため、家庭におけるモニターに使用することができ、その結果を各医療機関レベルで精査・治療(外科的切除等)し、転移・再発予防に結びつけることが可能となる。また現在、このテストストリップは、例えば特開平10−54830号公報に記載されるような製造方法により安価に大量生産できるものである。また、本発明の検出薬と既知の胃癌の腫瘍マーカーに対する検出薬とを組み合わせて使用することにより、さらに信頼性の高い診断が可能になる。
【0080】
2−2.罹患決定工程
「罹患決定工程」とは、前記胃癌検出用マーカー測定工程で測定されたタンパク質量に基づいて胃癌の罹患を決定する工程である。測定された胃癌検出用マーカー、すなわち、Cofilin1タンパク質等の質量に基づいて胃癌の罹患を決定する。決定方法の一例として、例えば、被検体の胃癌検出用マーカーの量が健常体のそれと比較して統計学的に有意に多いときに胃癌に罹患していると決定する方法が挙げられる。
【0081】
ここで、「健常体」とは、少なくとも胃癌に罹患していない個体、好ましくは健康な個体をいう。さらに、健常体は、被検体と同一の生物種であることを要する。例えば、検査に供する被検体がヒト(被検者)の場合には、健常体もヒト(本明細書では、以降「健常者」とする)でなければばらない。健常体の身体的条件は、被検体と同一又は近似することが好ましい。身体的条件とは、例えば、ヒトの場合であれば、人種、性別、年齢、身長、体重等が該当する。
【0082】
「統計学的に有意」とは、例えば、得られた値の危険率(有意水準)が5%、1%又は0.1%より小さい場合が挙げられる。それ故、「統計学的に有意に多い」とは、被検体と健常体のそれぞれから得られた胃癌検出用マーカーの量的差異を統計学的に処理したときに両者間に有意差があり、かつ被検体の前記タンパク質量が健常体のそれと比較して多いことをいう。通常、体液中の胃癌検出用マーカーの量に関して、被検体が健常体の2倍以上、好ましくは3倍以上、より好ましくは4倍以上、最も好ましくは5倍以上多い場合が該当する。量的差異が3倍以上であれば信頼度は高く、統計学的にも有意に多いといえる。統計学的処理の検定方法は、有意性の有無を判断可能な公知の検定方法を適宜使用すればよく、特に限定しない。例えば、スチューデントt検定法、多重比較検定法を用いることができる。
【0083】
健常体の体液中における胃癌検出用マーカーの量は、前記工程で説明をした被検体の体液中における胃癌検出用マーカーの量の測定方法と同様の方法で測定することが好ましい。健常体の体液中における胃癌検出用マーカーの量は、被検体の体液中における胃癌検出用マーカーの量を測定する都度、測定することもできるが、予め測定しておいた胃癌検出用マーカーの量を利用することもできる。特に、健常体の様々な身体的条件における胃癌検出用マーカー質量を予め測定しておき、その値をコンピューターに入力してデータベース化しておけば、被検体の身体的条件を当該コンピューターに入力することで、その被験体との比較に最適な身体的条件を有する健常体の胃癌検出用マーカーの量を即座に利用できるので便利である。
【0084】
被検体の体液中の胃癌検出用マーカーの量が健常体の体液中の胃癌検出用マーカーの量よりも統計学的に有意に多い場合、その被検体は胃癌に罹患していると判定する。本発明において対象となる胃癌の病期は、特に限定はなく、早期胃癌から末期胃癌に及ぶ。特に、早期胃癌であっても、その検出が可能である点において、本発明の実益がある。「早期胃癌」とは、腫瘍が発生した局所(粘膜内)に限局していて、周囲組織への浸潤の無いもの、あるいは浸潤があってもその範囲が局所に限局しているものを言う。早期胃癌は、ステージ分類のステージ0とステージIを含む。胃癌の早期検出は、5年生存率を著しく向上させる。
【0085】
このように、本発明の胃癌の検出方法によれば、体液試料中の胃癌検出用マーカーを、抗体を用いて免疫学的に測定することを含む。本発明の方法によって、被検体が胃癌に罹患しているか否かを判定することができるだけでなく、胃癌患者と非胃癌患者の識別を可能にする。
【0086】
3.胃癌検出用キット
本発明の第三の態様は、胃癌検出キットである。
【0087】
「胃癌検出用キット」とは、胃癌の罹患の有無、罹患の程度若しくは改善の有無や改善の程度を検出するために、また胃癌の予防、改善又は治療に有用な候補物質をスクリーニングするために、直接又は間接的に利用されるものをいう。
【0088】
本態様のキットは、その構成物として、胃癌の罹患に関連して体液試料中、特に血液、血清、血漿において発現が変動するCofilin1タンパク質、好ましくは配列番号1に示されるアミノ酸配列又はその変異体配列を有するタンパク質を特異的に認識し、また結合可能な物質が包含される。具体的には、例えば、抗Cofilin1タンパク質抗体等若しくはその断片又はそれらの化学修飾誘導体が含まれる。これらの抗体は、固相担体に結合されていてもよい。その他、例えば、標識二次抗体、さらには標識の検出に必要な基質、担体、洗浄バッファー、試料希釈液、酵素基質、反応停止液、精製された標準物質としてのCofilin1タンパク質等、使用説明書等を含んでいてもよい。
【実施例】
【0089】
本発明を以下の実施例によってさらに具体的に説明する。しかし、本発明は、この実施例によって制限されないものとする。
【0090】
<参考例>
(1)中空糸フィルターの作製
分画分子量約5万の孔径を膜表面に有するポリスルホン中空糸を100本束ね、中空糸中空部を閉塞しないようにエポキシ系ポッティング剤で両末端をガラス管に固定し、ミニモジュールを作成した。該ミニモジュール(モジュールA)は血清又は血漿中の高分子量タンパク質の除去に用いられ、その直径は約7mm、長さは約17cmである。同様に低分子量タンパク質の濃縮に用いられるミニモジュール(モジュールB)を分画分子量約3千の孔径の膜を用いて作成した。ミニモジュールは片端に中空糸内腔に連結する入口があり、反対側の端は出口となる。中空糸入口と出口はシリコンチューブによる閉鎖循環系流路であり、この流路内を液体がペリスタポンプに駆動されて循環する。また、中空糸外套のガラス管には、中空糸から漏出してきた液体を排出するポートを備え、1つモジュールセットが構成される。流路途中にT字のコネクターによって、モジュールを連結し、モジュールA3本と、モジュールB1本をタンデムに連結してひとつの中空糸フィルターとした。この中空糸フィルターを蒸留水にて洗浄し、PBS(0.15mM NaClを含むリン酸緩衝液、pH7.4)水溶液を充填した。分画原料の血清又は血漿は該中空糸フィルターの流路入口から注入され、分画・濃縮後に流路出口から排出される。該中空糸フィルターに注入された血清又は血漿は、モジュールA毎に分子量約5万で分子篩が作用し、分子量5万よりも低分子の成分はモジュールBで濃縮され、調製されるようになっている。
【0091】
<実施例1>
(1)健常者及び胃癌患者血液のタンパク質同定
50〜70歳代の胃癌患者6名から得た血清の混合液、及び同年代の健常者6名から得た血清の混合液を調製した。各混合液をポアサイズ0.22μmのフィルターでろ過して夾雑物質を取り除き、タンパク質濃度50mg/mLとなるように調製した。この血漿をさらに25mM重炭酸アンモニウム溶液(pH8.0)12.5mg/mLに希釈し、参考例(1)に示した中空糸フィルターによって分子量による分画を行った。分画後の血清サンプル(全量1.8mL、最大250μgのタンパク質を含む)を凍結乾燥した後、100μLの25mM重炭酸アンモニウム溶液(pH8.0)に再溶解した。このサンプルについて、総タンパク質の50分の1量のトリプシンで37℃、2〜3時間の条件でペプチド消化を行い、脱塩カラム(Waters社)による脱塩処理を行った後、さらにイオン交換カラム(KYAテクノロジーズ)によって8分画化した。その各々の分画を、逆相カラム(KYAテクノロジーズ)でさらに分画し、溶出されてきたペプチドについて、オンラインで連結された質量分析計Q−TOF Ultima(Micromass社)を用いて、サーベイスキャンモードで3回測定した。
【0092】
血液タンパク質を同定する基準として、(i)そのタンパク質に属するペプチドのうち、少なくとも一本以上がP値0.05以下の高い信頼性をもって検出されていること、(ii)ペプチドのMSデータの測定値及びMS/MSデータの測定値と、ペプチドの理論値との誤差が0.3ダルトン以下であること、という二つの基準を用い、誤ったタンパク質同定を極力排除できる条件での解析を行った。
【0093】
このデータを健常者と癌患者間で比較し、同定されたタンパク質のうち、3回の胃癌患者のサンプル測定のMASCOTスコアの平均が、健常者サンプルの平均と比べ、有意に高いタンパク質としてCofilin1タンパク質を見いだした(表1)。
【表1】
【0094】
(2)ウェスタンブロット法による血液中のCofilin1タンパク質の検出
胃癌患者16名(ステージI:7名、ステージIII:5名、ステージIV:4名)及び健常対照12名より血漿サンプルを得た。各サンプル100μLに対し、100μLのアフィゲルブルー(Bio−Rad)と50μLのProteinA−セファロース(GEヘルスケア)を加え、4℃で一晩反応させ、サンプル中のアルブミン及びイムノグロブリンを除去した。このようにして得られたサンプルをSDSサンプルバッファー(50mM トリス塩酸、pH6.8、1mM DTT、5% SDS、10% グリセロール)で可溶化及び沸騰処理を行い、SDS−ポリアクリルアミドゲル(16%)電気泳動にかけた後、タンパク質をPVDF膜へ移した。これをウサギポリクローナル抗体(Proteintech Group社)、さらにパーオキシダーゼ標識2次抗体と反応させた。免疫反応するタンパク質をSuperSignal West Femto Maximum Sensitivity Substrate(Pierce社)を用いてX線フィルムに感光させ可視化し、Cofilin1に相当するバンドのシグナル強度を、Scion Image(Scion Corporation)を用いて画像解析により数値化した。その結果、早期及び進行性胃癌患者において、健常対照者と比べて高値の血漿中Cofilin1タンパク質濃度が検出された(
図1)。
【0095】
<比較例1>
(1)胃癌検出におけるCEA及びCA19−9との性能比較
比較対象の腫瘍マーカーとして、CEA、及びCE19−9を選んだ。CEA(癌胎児性抗原)は,臨床的に最も広範囲かつ頻繁に利用されている腫瘍マーカーの一種であり、胃癌以外にも、肺癌,乳癌,胆道癌,膵癌,大腸癌等の検出に有用である。一方、CA19−9は、主に胃癌、大腸癌及び膵癌や胆嚢・胆管癌の進行例で高い陽性率を示すことが知られている。しかしながら、両マーカーともに感受性が低く、早期癌の検出には適していない。
【0096】
胃癌患者血漿及び健常対照中のCEAレベルを、CagAg CEA EIAキット(富士レビオ社)を用いて測定した(
図2A)。CEAは、ステージIVのみで高値を示ており、早期胃癌は検出出来ない。
【0097】
CA19−9レベル(
図2B)は、CagAg CA19−9 EIAキット(富士レビオ社)を用いて測定した。CA19−9は、ステージIII及びステージVIで特に高値を示すサンプルが存在するが、早期胃癌は検出出来ない。
【0098】
以上の結果から、本発明は、早期胃癌を検出する上で極めて優れた方法であることが立証された。