特許第5773995号(P5773995)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5773995
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】リン酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/6574 20060101AFI20150813BHJP
   B01J 27/138 20060101ALI20150813BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20150813BHJP
【FI】
   C07F9/6574 Z
   B01J27/138 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】13
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-514718(P2012-514718)
(86)(22)【出願日】2011年5月12日
(86)【国際出願番号】JP2011002658
(87)【国際公開番号】WO2011142136
(87)【国際公開日】20111117
【審査請求日】2014年2月28日
(31)【優先権主張番号】特願2010-112649(P2010-112649)
(32)【優先日】2010年5月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000149561
【氏名又は名称】大八化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100062409
【弁理士】
【氏名又は名称】安村 高明
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】小野 佑紀
(72)【発明者】
【氏名】小野 悟
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/032277(WO,A1)
【文献】 特開2002−193986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 9/6574
C09K 21/12
CASREACT(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程(1):
式(I)で表されるオキシ三ハロゲン化リン
【化18】
(式中、Xはハロゲンである。)
と、式(II)で表されるフェノール類またはナフトール類
【化19】
(式中、R、R、R、R及びRは、互いに独立して、水素原子、直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−6アルキル基、または直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−4アルキル基で置換されていてもよいC6−12アリール基であるか、またはRとR、RとR、RとR、またはRとRは、これらが結合するベンゼン環の炭素原子と共に6員環を形成してもよい。但し、R、R、R、R及びRは同時に水素原子ではない。)
とを1.1〜3.0:1のモル比で、金属ハロゲン化物の存在下で、ハロゲン化水素捕捉剤を用いることなしに反応させて、式(III)で表されるモノ置換ホスホロジハリデートを製造する工程
【化20A】
(式中、X、R、R、R、R及びRは前記と同じ意味を有する。)
および工程(2):
式(III)で表される、工程(1)で得られたモノ置換ホスホロジハリデートと、
【化20B】
式(IV)で表されるジオール類とを、ハロゲン化水素捕捉剤を用いることなしに反応させて脱ハロゲン化水素反応を行い、
【化21】
(式中、R及びRは互いに独立して、水素原子、直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−6アルキル基、または直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−4アルキル基で置換されていてもよいC6−12アリール基である。)
式(V)で表されるリン化合物を得る工程
【化22】
(式中、R、R、R、R、R、RおよびRは、前記と同じ意味を有する。)
を包含するリン酸エステルの製造方法。
【請求項2】
工程(2)において、式(IV)で表されるジオール類の使用量の比が、式(III)で表されるモノ置換ホスホロジハリデートのハロゲン原子に対して0.90〜0.99当量である、請求項1に記載のリン酸エステルの製造方法。
【請求項3】
工程(1)の金属ハロゲン化物が塩化マグネシウムおよび/または塩化アルミニウムである、請求項1〜2のいずれか1項に記載のリン酸エステルの製造方法。
【請求項4】
工程(1)の反応が、反応温度80〜140℃で行われる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリン酸エステルの製造方法。
【請求項5】
工程(1)において、オキシ三ハロゲン化リンとフェノール類またはナフトール類との反応の後に、未反応のオキシ三ハロゲン化リンを除去する工程を包含する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリン酸エステルの製造方法。
【請求項6】
工程(1)における未反応のオキシ三ハロゲン化リンの除去が、温度80〜140℃、圧力20kPa以下の減圧下で行われる、請求項5に記載のリン酸エステルの製造方法。
【請求項7】
工程(2)の反応が、反応温度70〜160℃で行われる、請求項1〜6のいずれか1項に記載のリン酸エステルの製造方法。
【請求項8】
工程(2)において、式(IV)で表されるジオール類に対して0.5〜6重量倍の溶剤が使用され、該溶剤がトルエン、キシレン、クロロベンゼンおよびo−ジクロロベンゼンからなる群より選択される1種以上の溶剤である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のリン酸エステルの製造方法。
【請求項9】
工程(2)により得られる式(V)で表されるリン酸エステルを精製する工程をさらに包含し、該精製工程においては、酸洗浄、アルカリ洗浄、水洗浄、減圧蒸留、および再結晶から選択される少なくとも1種類の処理が行われる、請求項1〜8のいずれか1項に記載のリン酸エステルの製造方法。
【請求項10】
工程(2)により得られる式(V)で表されるリン酸エステル中の不純物を、温度70〜160℃、圧力20kPa以下の減圧下で除去する工程をさらに包含する、請求項1〜8のいずれか1項に記載のリン酸エステルの製造方法。
【請求項11】
工程(1)の式(I)で表されるオキシ三ハロゲン化リンがオキシ塩化リンまたはオキシ臭化リンである、請求項1〜10のいずれか1項に記載のリン酸エステルの製造方法。
【請求項12】
工程(1)の式(II)で表されるフェノール類またはナフトール類が2−ヒドロキシビフェニルである、請求項1〜11のいずれか1項に記載のリン酸エステルの製造方法。
【請求項13】
工程(2)の式(IV)で表されるジオール類が2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールである、請求項1〜12のいずれか1項に記載のリン酸エステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族置換基とホスホリナン骨格とを併せもつリン化合物を、高価なハロゲン化水素捕捉剤(トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジンなど)を用いることなしに、金属ハロゲン化物の存在下のみで反応させ、従来の方法と比べて良好な収率、純度にてリン酸エステルを得ることができる新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リン化合物は、その特異的な性質を生かして農薬、可塑剤、難燃剤、金属抽出剤などに幅広く使用されている。特に難燃剤として優れた機能を有し、ポリエステル、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリウレタンなど様々な合成樹脂や合成繊維などに使用され、その用途も多岐にわたっている。
【0003】
ポリエステル繊維はその優れた力学特性、易加工性から衣類、インテリア、不織布、産業用資材などの分野で使用されており、近年の防災意識の高まりの中、カーテン、カーシートなどの用途では難燃性がより重要な役割を担っており、難燃化への要望は日々大きくなっている。
【0004】
これまでポリエステル繊維用難燃剤としてはヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)を代表とするハロゲン系化合物が主に使用されてきた。しかしながら、これらの化合物は難分解性且つ生体蓄積性の高い物質として規制されつつあり、また難燃加工された製品が燃焼するときに有毒なハロゲン化水素を発生させることから、より安全性の高い難燃剤の開発が望まれている。その結果、ポリエステル繊維用難燃剤としては、ハロゲン元素を含有しないリン化合物の研究が盛んに行われている。
【0005】
ハロゲンを含有しないリン化合物からなるポリエステル繊維用難燃剤及びそれを用いた難燃化方法としては次のような先行技術がある。
【0006】
特開2002−275473号公報(特許文献1)にはジベンズオキサホスホリンオキシド骨格を有するリン化合物、特開2000−328445号公開(特許文献2)及び特開2003−27373号公開(特許文献3)にはレゾルシノールビス−ジフェニルホスフェート(RDP)がそれぞれ開示されている。しかしながらこれらの化合物は高難燃性を有しているが、耐光性、耐久性、染色性など物性面において欠点を有している。
【0007】
それら問題点を克服する化合物として特再WO2007/032277号公報(特許文献4)にはリン化合物として5,5−ジメチル−2−(2’−フェニルフェノキシ)−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−オキシドが開示されている。この化合物は耐加水分解性及び耐熱性に優れるため、難燃加工剤としたときの保存安定性に優れ、樹脂や繊維の物性を低下させることなしに高い難燃性を付与することができる。またポリエステル繊維に対して高い固着性、吸尽性を有し、染料が繊維に固着するのを妨げず、難燃染色処理後の繊維が優れた耐光性と耐久性及び高い摩擦堅牢度を有する非常に優れたリン化合物である。
【0008】
そして、上記化合物の合成方法として一般的に次の方法が知られている。
【0009】
特許文献4に示されているのは、ハロゲン化水素捕捉剤としてトリエチルアミンおよび必要であれば塩化マグネシウムなどのルイス酸系触媒共存下で、ジ置換ホスホロハリデートと置換されていてもよいフェノール類或いはナフトール類を反応させ、対応するホスフェートを合成する方法が記載されている。
【0010】
しかしながら、この方法では純度良く合成することが難しく、再結晶により純度の向上を図っている。さらにハロゲン化水素捕捉剤として高価なアミン類(トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジンなど)を使用するため、原料費が大幅にアップする。さらに反応中にアミン類のハロゲン化水素塩が副生し攪拌効率を悪化させるため、反応溶剤がより多く必要となる。その上、ハロゲン化水素捕捉後のアミン類のハロゲン化水素塩の除去は濾過及び水処理が公知の技術として知られているが、濾過ではアミン類のハロゲン化水素塩中へ多くの目的物であるリン酸エステルが残存し、対応機器も大規模となることから工業的には水処理が考えられる。しかし、大量の水が必要となるため、生産における容積効率が大幅に低下する。またアミン類のハロゲン化水素塩除去時の水層側は有機性アミン塩が多く含まれるため、有機物を取り込みやすく、収率低下を引き起こす。その上、アミン塩水からアミンの回収工程では、アミン類を遊離させるため多量の水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどの強アルカリ水溶液が必要であり、更なるコストアップとなる。さらに、アミン類回収後の水溶液はアルカリ金属塩濃度が高く且つ少量のアミンが残存する影響で通常設備では廃水処理が困難となる。また回収後のアミンは水を含んでいるため、脱水、蒸留工程などが必要となる。
【0011】
上記に示したように反応にアミン類を用いることは原料費がアップするのみではなく、回収、精製するための助剤などが必要になるという欠点がある。更にアミン類のハロゲン化水素塩を高い濃度で含む水は環境上の問題から通常の方法で廃棄することができず、廃水処理に特殊な処理が必要になる。このように、コスト、設備、手間などの様々な観点から、アミン類を用いる反応を工業的に採用することには非常に不利益が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−275473号公報
【特許文献2】特開2000−328445号公報
【特許文献3】特開2003−27373 号公報
【特許文献4】特再WO2007/032277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は芳香族置換基とホスホリナン骨格とを併せもつリン化合物を高価なハロゲン化水素捕捉剤(トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジンなど)を用いることなしに、金属ハロゲン化物の存在下のみで反応させ、複雑な後処理工程や溶剤の回収工程を経ることもなく、さらに従来の方法と比べて良好な収率、純度で得ることができる新規な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、以下の方法により、上記課題が解決されることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明によれば、以下の方法が提供される:
(項1)
工程(1):
式(I)で表されるオキシ三ハロゲン化リン
【0016】
【化1】
【0017】
(式中、Xはハロゲンである。)
と、式(II)で表されるフェノール類またはナフトール類
【0018】
【化2】
【0019】
(式中、R、R、R、R及びRは、互いに独立して、水素原子、直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−6アルキル基、または直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−4アルキル基で置換されていてもよいC6−12アリール基であるか、またはRとR、RとR、RとR、またはRとRは、これらが結合するベンゼン環の炭素原子と共に6員環を形成してもよい。但し、R、R、R、R及びRは同時に水素原子ではない。)
とを1.1〜3.0:1のモル比で、金属ハロゲン化物の存在下で反応させて、式(III)で表されるモノ置換ホスホロジハリデートを製造する工程
【0020】
【化3】
【0021】
(式中、X、R、R、R、R及びRは前記と同じ意味を有する。)
および工程(2):
式(III)で表される、工程(1)で得られたモノ置換ホスホロジハリデートと、
【0022】
【化4】
【0023】
(式中、X、R、R、R、R及びRは前記と同じ意味を有する。)
式(IV)で表されるジオール類とを反応させて脱ハロゲン化水素反応を行い、
【0024】
【化5】
【0025】
(式中、R及びRは互いに独立して、水素原子、直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−6アルキル基、または直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−4アルキル基で置換されていてもよいC6−12アリール基である。)
式(V)で表されるリン化合物を得る工程
【0026】
【化6】
【0027】
(式中、R、R、R、R、R、RおよびRは、前記と同じ意味を有する。)
を包含するリン酸エステルの製造方法。
【0028】
(項2)
工程(2)において、式(IV)で表されるジオール類の使用量の比が、式(III)で表されるモノ置換ホスホロジハリデートのハロゲン原子に対して0.90〜0.99当量である、上記項1に記載のリン酸エステルの製造方法。
【0029】
(項3)
工程(1)の金属ハロゲン化物が塩化マグネシウムおよび/または塩化アルミニウムである、上記項1〜2のいずれか1項に記載のリン酸エステルの製造方法。
【0030】
(項4)
工程(1)の反応が、反応温度80〜140℃で行われる、上記項1〜3のいずれか1項に記載のリン酸エステルの製造方法。
【0031】
(項5)
工程(1)において、オキシ三ハロゲン化リンとフェノール類またはナフトール類との反応の後に、未反応のオキシ三ハロゲン化リンを除去する工程を包含する、上記項1〜4のいずれか1項に記載のリン酸エステルの製造方法。
【0032】
(項6)
工程(1)における未反応のオキシ三ハロゲン化リンの除去が、温度80〜140℃、圧力20kPa以下の減圧下で行われる、上記項5に記載のリン酸エステルの製造方法。
【0033】
(項7)
工程(2)の反応が、反応温度70〜160℃で行われる、上記項1〜6のいずれか1項に記載のリン酸エステルの製造方法。
【0034】
(項8)
工程(2)において、式(IV)で表されるジオール類に対して0.5〜6重量倍の溶剤が使用され、該溶剤がトルエン、キシレン、クロロベンゼンおよびo−ジクロロベンゼンからなる群より選択される1種以上の溶剤である、上記項1〜7のいずれか1項に記載のリン酸エステルの製造方法。
【0035】
(項9)
工程(2)により得られる式(V)で表されるリン酸エステルを精製する工程をさらに包含し、該精製工程においては、酸洗浄、アルカリ洗浄、水洗浄、減圧蒸留、および再結晶から選択される少なくとも1種類の処理が行われる、上記項1〜8のいずれか1項に記載のリン酸エステルの製造方法。
【0036】
(項10)
工程(2)により得られる式(V)で表されるリン酸エステル中の不純物を、温度70〜160℃、圧力20kPa以下の減圧下で除去する工程をさらに包含する、上記項1〜8のいずれか1項に記載のリン酸エステルの製造方法。
【0037】
(項11)
工程(1)の式(I)で表されるオキシ三ハロゲン化リンがオキシ塩化リンまたはオキシ臭化リンである、上記項1〜10のいずれか1項に記載のリン酸エステルの製造方法。
【0038】
(項12)
工程(1)の式(II)で表されるフェノール類またはナフトール類が2−ヒドロキシビフェニルである、上記項1〜11のいずれか1項に記載のリン酸エステルの製造方法。
【0039】
(項13)
工程(2)の式(IV)で表されるジオール類が2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールである、上記項1〜12のいずれか1項に記載のリン酸エステルの製造方法。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、芳香族置換基とホスホリナン骨格とを併せて有するリン化合物を高価なハロゲン化水素捕捉剤(トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジンなど)を用いることなしに、金属ハロゲン化物の存在下のみで反応させ、複雑な後処理工程や溶剤の回収工程を経ることもなく、従来の方法と比べて安価且つ良好な純度、収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明のリン酸エステルの製造方法は以下の工程(1)と工程(2)とを含む。
【0042】
(工程(1))
工程(1)においては、式(I)で表されるオキシ三ハロゲン化リン
【0043】
【化7】
【0044】
(式中、Xはハロゲンである。)
と、式(II)で表されるフェノール類またはナフトール類
【0045】
【化8】
【0046】
(式中、R、R、R、R及びRは、互いに独立して、水素原子、直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−6アルキル基、または直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−4アルキル基で置換されていてもよいC6−12アリール基であるか、またはRとR、RとR、RとR、またはRとRは、これらが結合するベンゼン環の炭素原子と共に6員環を形成してもよい。但し、R、R、R、R及びRは同時に水素原子ではない。)
とを反応させて、式(III)で表されるモノ置換ホスホロジハリデートを製造する工程である。
【0047】
【化9】
【0048】
(式中、X、R、R、R、R及びRは前記と同じ意味を有する。)
これを反応式で表すと次のように示される。
【0049】
【化10】
【0050】
(式(I)の特徴)
工程(1)の式(I)のXは、ハロゲン原子である。例えば、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素である。3つのXはそれぞれ同一であってもよく、異なっても良いが、1つの実施形態では3つのXを同一とすることが式(I)の化合物の合成の容易さの点で好ましい。
【0051】
原料として入手しやすいこと、また後述するような合成が容易であることから、Xは臭素または塩素が好ましく、塩素がより好ましい。
【0052】
式(I)の化合物は、具体的には、オキシ塩化リン、オキシ臭化リンなどが挙げられ、そのいずれも使用可能である。入手のし易さやコストの点で、オキシ塩化リンが特に好ましい。
【0053】
(式(II)の特徴)
式(II)のR、R、R、R及びRは、互いに独立して、水素原子、直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−6アルキル基、あるいは直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−4アルキル基で置換されていてもよいC6−12アリール基であるか、またはRとR、RとR、RとR、またはRとRは、これらが結合するベンゼン環の炭素原子と共に6員環を形成してもよい。但し、R、R、R、RおよびRのすべてが同時に水素原子であることはない。
好ましい実施形態においては、式(II)のR、R、R、R及びRは、互いに独立して、水素原子、あるいは直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−4アルキル基で置換されていてもよいC6−12アリール基であるか、またはRとR、RとR、RとR、またはRとRは、これらが結合するベンゼン環の炭素原子と共に6員環を形成してもよい。但し、この実施形態においてもR、R、R、RおよびRのすべてが同時に水素原子であることはない。
より好ましい実施形態においては、式(II)のR、R、R、R及びRは、互いに独立して、水素原子、あるいは直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−4アルキル基で置換されていてもよいC6−12アリール基である。但し、この実施形態においてもR、R、R、RおよびRのすべてが同時に水素原子であることはない。
【0054】
上述したとおり、式(II)の化合物において、R、R、R、RおよびRのすべてが同時に水素原子であることはない。従って、式(II)の化合物は無置換のフェノールではない。すなわち、R、R、R、RおよびRのうち、水素原子は1個〜4個である。R、R、R、RおよびRのうち、水素原子が2個〜4個であることが好ましく、3個または4個であることが好ましく、さらに好ましくは4個である。また、RまたはRが水素以外であることが好ましい。すなわち、R、RおよびRが水素であることが好ましい。
【0055】
なお、本願明細書中「置換されていてもよい」との用語は、置換基を有するか、または有さないかのいずれかであることを意味する。例えば、置換されていてもよいアルキル基は、置換アルキルまたは非置換アルキル基を意味する。置換されていてもよいアリール基は、置換アリールまたは非置換アリール基を意味する。
【0056】
、R、R、R及びRが「直線状もしくは分岐鎖状のC1−6アルキル基」である場合、アルキル基の炭素数は、1、2、3、4、5または6のいずれであってもよい。直鎖状アルキルの具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシルなどが挙げられる。分岐鎖状のアルキル基の具体例としては、イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチルなどが挙げられる。
【0057】
、R、R、R及びRが「直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−4アルキル基で置換されていてもよいC6−12アリール基」である場合、その「アリール基」の具体例としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基が挙げられる。また、アリール基に置換基として導入され得る「直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−4アルキル基」におけるアルキル基の炭素数は1、2、3または4のいずれであってもよい。直鎖状のアルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチルが挙げられる。分岐鎖状のアルキル基の具体例としては、イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチルなどが挙げられる。
【0058】
式(II)の化合物の入手しやすさ、またポリエステル繊維用難燃剤として式(V)のリン化合物を用いたときに繊維に対する高い吸尽性が得られることから、R、R、R、R及びRのうちのいずれか1つが置換されていないアリール基であり、その他が水素原子であることが好ましい。R、R及びRのうちいずれか1つがフェニル基であることが、より好ましい。さらに好ましくはR及びRのいずれか1つがフェニル基である。
【0059】
式(II)の化合物が置換フェノール類である場合、フェノールの2位が置換されていることが好ましい。フェノールの2位に置換基が存在する場合、その立体障害のためにフェノールの反応性が一般的に低下しやすいが、本願発明の方法においては良好な反応性が維持されるため、有利である。その置換されていてもよいフェノール類の具体例としては、2−ヒドロキシビフェニル、3−ヒドロキシビフェニル、4−ヒドロキシビフェニル、2,6−ジフェニルフェノールなどが挙げられる。ここで、フェノールが1つ以上の置換基を有することが好ましい。フェノールの2位に置換基が存在することが好ましい。
【0060】
式(II)の化合物が置換されていてもよいナフトール類である場合、その具体例としては、1−ナフトールおよび2−ナフトールなどが挙げられる。これらの中でも、入手し易さやコストの観点、そしてポリエステル繊維用難燃剤としてリン化合物を用いたときに、繊維に対する吸尽性が向上するという観点で2−ヒドロキシビフェニル、3−ヒドロキシビフェニル、4−ヒドロキシビフェニル、1−ナフトール、および2−ナフトールが好ましく、2−ヒドロキシビフェニル、4−ヒドロキシビフェニル、および2−ナフトールがより好ましく、2−ヒドロキシビフェニルが特に好ましい。
【0061】
(触媒)
工程(1)における反応は、金属ハロゲン化物の存在下において行う。金属ハロゲン化物は、ルイス酸性を有するものが好ましい。
【0062】
工程(1)において、金属ハロゲン化物は、触媒として作用する。金属ハロゲン化物中の金属は任意の金属であり、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属などであり得る。この金属の好ましい具体例としては、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、チタン、ホウ素などが挙げられる。金属ハロゲン化物中のハロゲンは任意のハロゲンであり、具体的には、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。この金属ハロゲン化物の例としては、具体的には塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、四塩化チタン、三フッ化ホウ素エーテル錯体などが挙げられる。またこれらの金属ハロゲン化物は2種類以上を混合して用いてもよい。上記反応においては、その反応性および取扱いの点から塩化マグネシウムを触媒として用いることが特に好ましい。
【0063】
(触媒の使用量)
工程(1)における金属ハロゲン化物の使用量は、特に限定されない。金属ハロゲン化物の量は、フェノール類またはナフトール類、すなわち式(II)の化合物1モルに対して好ましくは0.001モル以上であり、より好ましくは0.005モル以上であり、さらに好ましくは0.008モル以上であり、特に好ましくは0.009モル以上である。また、好ましくは0.1モル以下であり、より好ましくは0.05モル以下であり、さらに好ましくは0.02モル以下であり、特に好ましくは0.015モル以下である。触媒の使用量が少な過ぎる場合には反応性が低下し、高温での反応が必要となるためモノ置換ホスホロジハリデート(式(III))の純度が著しく低下する。また、触媒の使用量が多すぎる場合には、急激に反応が進行するため反応の制御が困難となる。
【0064】
(オキシ三ハロゲン化リンの過剰率)
工程(1)の反応におけるオキシ三ハロゲン化リン(式(I))の使用量の比率は、フェノール類またはナフトール類(すなわち、式(II)の化合物)1モルに対して1.1モル以上かつ3.0モル以下である。
【0065】
オキシ三ハロゲン化リンの使用量の比率が少なすぎる場合、例えば、フェノール類またはナフトール類1モルに対して1.1モルを下回ると、得られるモノ置換ホスホロジハリデート(式(III))の純度が著しく低下し、耐加水分解性や耐熱性が劣り、難燃性が悪くなるなどの影響があるため好ましくない。またオキシ三ハロゲン化リンの使用比率がフェノール類またはナフトール類1モルに対して3モルを超えて使用しても、対応するモノ置換ホスホロジハリデート(式(III))の純度は大きく変化がないだけでなく、いたずらに多量のオキシ三ハロゲン化リンを使用することとなる。具体的には、オキシ三ハロゲン化リンの使用量の比率は、フェノール類またはナフトール類1モルに対して1.2モル以上、1.3モル以上、または1.4モル以上とすることもできる。1.5モル以上とすることが好ましく、さらに、1.6モル以上、1.7モル以上、1.8モル以上または1.9モル以上とすることも可能である。2.0モル以上が特に好ましい。また必要に応じて2.1モル以上または2.2モル以上とすることも可能である。オキシ三ハロゲン化リンの使用量の比率は、フェノール類またはナフトール類1モルに対して好ましくは2.9モル以下であり、より好ましくは2.8モル以下であり、さらに好ましくは2.7モル以下であり、いっそう好ましくは2.6モル以下であり、特に好ましくは2.5モル以下である。また、必要に応じて2.4モル以下または2.3モル以下とすることも可能である。
【0066】
(反応温度)
工程(1)の反応温度は特に限定されない。工程(1)の反応温度は好ましくは80℃以上であり、より好ましくは85℃以上であり、さらに好ましくは90℃以上であり、特に好ましくは95℃以上である。また、工程(1)の反応温度は好ましくは140℃以下であり、より好ましくは130℃以下であり、さらに好ましくは120℃以下であり、いっそう好ましくは115℃以下である。また、110℃以下とすることも可能であり、特に好ましくは105℃以下である。反応温度が低すぎると反応性が低下するので好ましくない。また反応温度が高すぎると、モノ置換ホスホロジハリデート(式(III))以外にジ置換ホスホロハリデート、トリ置換ホスフェートなどが副生し、純度が低下するので好ましくない。
【0067】
工程(1)の反応時間は、反応温度などの条件を考慮して適宜設定することが可能である。好ましくは15分間以上であり、より好ましくは30分間以上であり、さらに好ましくは1時間以上である。また好ましくは1日以下であり、より好ましくは12時間以下であり、さらに好ましくは5時間以下であり、3時間以下、2時間以下または1時間30分以下とすることも可能である。
【0068】
(雰囲気)
工程(1)の反応は、通常の雰囲気下で行うことができる。しかし、防湿のため、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0069】
(オキシ三ハロゲン化リンの回収)
工程(1)の反応後に、必要に応じて、未反応のオキシ三ハロゲン化リンを除去する。具体的な除去方法としては、未反応のオキシ三ハロゲン化リンを低沸点成分として減圧下で蒸留することにより除去するのが簡便であって好ましい。その減圧蒸留の温度は、特に限定されないが、80℃以上が好ましく、85℃以上がより好ましく、90℃以上がさらに好ましく、特に好ましくは95℃以上である。また、140℃以下であることが好ましく、130℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることがさらに好ましく、いっそう好ましくは110℃以下であり、特に好ましくは105℃以下である。圧力は20kPa以下であることが好ましく、15kPa以下がより好ましく、10kPa以下がさらに好ましく、8kPa以下が特に好ましい。圧力の下限は特にないが、設備のコスト等の観点から制約がある場合には、1kPa以上、3kPa以上、または5kPa以上の圧力を使用することができる。
【0070】
除去したオキシ三ハロゲン化リンは、回収して、次の反応の原料として再利用することもできる。再利用する場合には、回収したものにさらなる処理(例えば、精製など)を行わずに、そのまま次の反応の原料として再利用することもできる。
【0071】
反応系中にオキシ三ハロゲン化リンが残留したまま工程(2)を行うと、工程(2)の反応においてオキシ三ハロゲン化リンがジオール類と反応して、目的物(式(V))の純度が低下する原因となるため、好ましくない。
【0072】
(反応溶剤)
工程(1)の反応は、通常は溶剤を使用せずに行うことが可能である。しかし、必要に応じて、反応に不活性な溶剤を使用してもよい。使用可能な溶剤としては、例えば、以下のものが挙げられる:
ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、及び石油スピリットなどの炭化水素系溶剤;
クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、クロロトルエンおよびo−ジクロロベンゼンなどのハロゲン含有炭化水素系溶剤;
ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル以上のポリエチレングリコールジメチルエーテル、及びエチレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル系溶剤。
【0073】
(工程(2))
工程(2)においては、式(III)で表される、工程(1)で得られたモノ置換ホスホロジハリデートと、
【0074】
【化11】
【0075】
(式中、X、R、R、R、R及びRは前記と同じ意味を有する。)
式(IV)で表されるジオール類とを反応させる。
【0076】
【化12】
【0077】
(式中、R及びRは互いに独立して、水素原子、直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−6アルキル基、または直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−4アルキル基で置換されていてもよいC6−12アリール基である。)
この工程においては、式(III)の化合物と式(IV)の化合物との間で、脱ハロゲン化水素反応を行う。そして、式(V)で表されるリン化合物を得る。
【0078】
【化13】
【0079】
(式中、R、R、R、R、R、RおよびRは、前記と同じ意味を有する。)
この反応を反応式で表すと、次のように示される。
【0080】
【化14】
【0081】
(式(IV)の特徴)
工程(2)における式(IV)のR及びRは互いに独立して、水素原子、直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−6アルキル基、または直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−4アルキル基で置換されていてもよいC6−12アリール基である。
【0082】
及びRの「直線状もしくは分岐鎖状のC1−6アルキル基」および、または「直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−4アルキル基で置換されていてもよいC6−12アリール基」としては、前述のR、R、R、R及びRで定義した置換基が挙げられる。
【0083】
及びRの組み合わせとしては原料として入手しやすいこと、また後述するような合成が容易であることから、R及びRの両方が直鎖状もしくは分岐鎖状のC1−6アルキル基であることが好ましい。R及びRの両方が直鎖状のC1−6アルキル基であることがより好ましく、R及びRの両方が直鎖状のC1−4アルキル基であることがさらに好ましい。R及びRがメチル基とメチル基の組み合わせであるか、エチル基とn−ブチル基の組み合わせであることが特に好ましい。
【0084】
工程(2)における式(IV)のジオール類としては、モノ置換ホスホロジハリデートと反応したときに6員環を形成できるジオール、すなわち、1,3−プロパンジオールのように、2つの水酸基の間に3つの炭素原子を有する構造(HO−C−C−C−OH)を有する化合物が望ましい。6員環以外を形成するエタンジオールや1,4−ブタンジオール系は環化反応と架橋反応、エステル交換反応などが複雑に反応し、副生成物や高分子成分が出来るため、好ましくない。
【0085】
6員環を形成するプロパンジオール系の具体例としては、1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−フェニル−1,3−プロパンジオールなどが挙げられる。これらの中でも、入手し易さやコストの点で1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールが好ましく、反応生成物の化学安定性が高い点で2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールがより好ましく、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールが特に好ましい。
【0086】
一般的に、オキシ三ハロゲン化リンとフェノール類とをハロゲン化水素捕捉剤の不存在下で反応させてトリ置換ホスフェートを合成しようとする場合、生成するホスフェートは酸に対し安定である。しかし、オキシ三ハロゲン化リンと脂肪族アルコールとをハロゲン化水素捕捉剤の不存在下で反応させて、下記式(A)にしたがってトリ置換ホスフェートを製造しようとするときには、得られるホスフェートが酸に対して不安定である。そのため、式(B)に示すような副反応が起こり、目的物の収率が大幅に低下する。そのため、オキシ三ハロゲン化リンと脂肪族アルコールとを反応させる場合には、ハロゲン化水素捕捉剤を用いることが必要とされている。したがって、脂肪族アルコールを用いてトリ置換ホスフェートを製造する場合に、本発明のようにハロゲン化水素捕捉剤なしにアルキルホスフェート類が高収率で得られることは驚くべき発見である。
【0087】
【化15】
【0088】
【化16】
【0089】
(ジオール類の過剰率)
工程(2)の反応におけるジオール類(式(IV))の使用量は、工程(1)において生成したモノ置換ホスホロジハリデート(式(III))のハロゲン原子含有量に対して決定する。ハロゲン原子含有量の測定は以下のように行う。
【0090】
ハロゲン原子含有量測定は、例えば、以下の方法で行う。オキシ三ハロゲン化リンを除去した後の反応溶液をエタノール及び、又は水に溶解し、水酸化ナトリウム及び、又は水酸化カリウムを加えてアルカリ性にし、約30分間環流する。氷冷などにより冷却後、硝酸を加えて酸性にし、硝酸銀溶液で滴定することによりハロゲン原子含有量を測定することができる。
【0091】
工程(2)の反応におけるジオール類(式(IV))の使用量の比率は、モノ置換ホスホロジハリデート(式(III))のハロゲン原子に対して、0.90当量以上であることが好ましく、0.91当量以上であることがより好ましく、0.92当量以上であることがさらに好ましく、0.93当量以上であることが特に好ましい。また、0.99当量以下であることが好ましく、0.98当量以下であることがより好ましく、0.97当量以下であることがさらに好ましく、0.96当量以下であることが特に好ましい。また、0.95当量以下とすることも可能である。
【0092】
なお、式(III)の化合物と式(IV)の化合物との反応では、式(III)の化合物1モルと式(IV)の化合物1モルが反応するため、上記ハロゲン原子に対する1当量は、式(III)の化合物1モルに対する式(IV)の化合物1モルに相当する。
【0093】
モノ置換ホスホロジハリデートのハロゲン原子に対するジオール類の使用比率が低すぎる場合には、反応生成物中に未反応のモノ置換ホスホロジハリデートが多く残り、収率の低下および廃水負荷の増大を招くので好ましくない。またジオール類の使用比率が高すぎる場合には、エステル交換反応、架橋反応などの副反応によりジオール類が環状構造を取らないためジオキサホスホリナン骨格を形成せず、目的物であるリン化合物(式(V))の純度の低下を引き起こしやすく、結果的に難燃性が低下しやすい。よって、工程(2)におけるジオール類(式(IV))の使用比率は1つの好ましい実施形態では0.90〜0.99当量であり、0.93〜0.97当量がより好ましく、0.93〜0.95当量がさらに好ましい。
【0094】
工程(2)の反応は、有機溶剤の存在下で行うことができる。
【0095】
有機溶剤は、この反応に不活性な溶剤であれば特に限定されない。使用可能な有機溶剤としては、以下の溶剤が挙げられる。
ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及び石油スピリットなどの炭化水素系溶剤;クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、クロロトルエン及びo−ジクロロベンゼンなどのハロゲン含有炭化水素系溶剤;ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル以上のポリエチレングリコールジメチルエーテル、及びエチレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル系溶剤などが挙げられる。これらの中でも、取り扱い易さの面でトルエン、キシレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼンが好ましく、トルエン、クロロベンゼンがより好ましく、トルエンが特に好ましい。
【0096】
溶剤の使用量は、反応が良好に進行できるように適宜設定することが可能であり、特に限定されない。好ましくは、使用するジオール類の0.5重量倍以上であり、より好ましくは1重量倍以上、さらに好ましくは1.5重量倍以上、特に好ましくは2重量倍以上である。また、好ましくは使用するジオール類の6重量倍以下であり、より好ましくは5重量倍以下であり、さらに好ましくは4重量倍以下であり、特に好ましくは3重量倍以下である。
【0097】
また、工程(2)においては、ジオール類(式(IV))と溶剤の混合物中へモノ置換ホスホロジハリデートを追加するか、逆にモノ置換ホスホロジハリデートと溶剤の混合物中へジオール類(式(IV))を追加してもどちらでも良いが、反応性、目的化合物の純度等の点で後者の方法が好ましい。
【0098】
(温度)
工程(2)の反応温度は、好ましくは70℃以上であり、より好ましくは75℃以上であり、さらに好ましくは80℃以上であり、いっそう好ましくは85℃以上である。特に好ましくは90℃以上である。また、好ましくは160℃以下であり、より好ましくは150℃以下であり、さらに好ましくは140℃以下であり、いっそう好ましくは130℃以下であり、ひときわ好ましくは120℃以下であり、特に好ましくは110℃以下であり、最も好ましくは105℃以下である。反応温度が低すぎる場合には、反応性が低下するので好ましくない。また、反応温度が高すぎる場合には、副反応が起こりやすく、目的物(式(V))の純度が低下するので好ましくない。
【0099】
(反応時間)
工程(2)の反応時間は、反応温度などの条件に依存して適宜設定することが可能である。好ましくは30分以上であり、より好ましくは1時間以上である。また、好ましくは12時間以下であり、より好ましくは6時間以下である。
【0100】
(雰囲気)
工程(2)の反応は、通常の雰囲気下で行うことができる。しかし、防湿のため、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
【0101】
また工程(2)の反応では、必要に応じて、副生するハロゲン化水素を除去する。具体的には、例えば、系内を減圧状態にするか、あるいは窒素ガスなどの不活性ガスを吹き込む方法により、生成(副生)する塩化水素を除去することが好ましい。
【0102】
(後処理条件)
工程(2)の反応済混合物において、式(V)のリン酸エステル中には原料、未反応物、酸性成分などの不純分が残存していることから、必要に応じて除去工程を行うことが好ましい。この除去方法としては例えば酸洗浄、アルカリ洗浄、水洗浄、減圧蒸留、再結晶などが挙げられる。
【0103】
また、後処理では分層性及び結晶析出防止のため、必要に応じて溶剤を加えても良い。その場合、用いる溶剤は反応に用いた反応溶剤でもよいが、他の溶剤でも問題ない。
【0104】
溶剤を用いる場合の量は、好ましくは、工程(2)で使用したジオール類の1重量倍以上であり、より好ましくは2重量倍以上、さらに好ましくは3重量倍以上である。また、好ましくは使用したジオール類の6重量倍以下であり、より好ましくは5重量倍以下であり、さらに好ましくは4重量倍以下である。
【0105】
酸洗浄では、反応生成物中の金属成分を除去することができる。具体的には、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、蓚酸、クエン酸などの酸性水(例えば、0.5〜5%塩酸水、0.5〜5%シュウ酸水溶液)を用いて、得られた反応生成物を洗浄すればよい。
【0106】
アルカリ洗浄では、反応生成物中の酸性成分を除去することが出来る。具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ水(例えば1〜5%水酸化ナトリウム水溶液、1〜10%炭酸ナトリウム水溶液)を用いて、得られた反応生成物を洗浄すればよい。
【0107】
低沸点成分等の不純分を除去するための減圧蒸留としては、例えば、水蒸気蒸留が挙げられる。水蒸気蒸留の温度は、好ましくは70℃以上であり、より好ましくは80℃以上であり、より好ましくは100℃以上である。また、好ましくは160℃以下であり、より好ましくは150℃以下であり、さらに好ましくは140℃以下である。圧力は、好ましくは20kPa以下であり、より好ましくは15kPa以下であり、さらに好ましくは10kPa以下である。圧力の下限は特にないが、設備のコスト等の観点から制約がある場合には、1kPa以上、3kPa以上、または5kPa以上の圧力を使用することができる。
【0108】
また、反応物をより簡便に高純度にて得る方法として再結晶を行ってもよい。その場合、溶剤としては任意の溶剤が使用可能である。例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼンなどの溶剤を用いて、得られた反応済混合物を再結晶させても良い。
【0109】
(まとめ)
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【実施例】
【0110】
本発明を以下の実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の範囲が限定されるものではない。
【0111】
(実施例1)
(工程1)
攪拌機、温度計および環流管を備えた1リットルの四つ口フラスコに、2−ヒドロキシビフェニル170.2g(1モル)、オキシ塩化リン337.3g(2.2モル)および無水塩化マグネシウム0.95g(0.01モル)を充填し、この混合液を窒素雰囲気下で攪拌しながら105℃まで3時間かけて加熱昇温し、同温度(105℃)で1時間攪拌し、反応を行った。反応後、液温105℃で6.7kPaに達するまで減圧して、その圧力を1時間維持して過剰(未反応)のオキシ塩化リンを回収し、2−ビフェニリルホスホロジクロリデートを290.8g(塩素含有率:24.7%)得た。
【0112】
(工程2)
次に、攪拌機、温度計、滴下装置および環流管を備えた2リットルの四つ口フラスコに2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール98.9g(0.95モル、該ホスホロジクロリデートのハロゲン原子に対して0.94当量)とトルエン197.8gを充填し、この混合液を窒素雰囲気下で攪拌しながら90℃まで1時間かけて昇温し、工程1で得られた2−ビフェニリルホスホロジクロリデート290.8gを90℃/2時間かけて追加した。その後、105℃まで1時間かけて昇温し、同温度(105℃)で1時間攪拌し、反応を行った。反応後、同温度(105℃)で減圧下(40.2kPa)にトルエンを環流させながら3時間反応を行った。
【0113】
その後、反応溶液を90℃まで冷却し、窒素を導入してフラスコ内を常圧にし、トルエン336gを追加し、同温度(90℃)で1.4%シュウ酸水溶液200g、および2.3%炭酸ナトリウム水溶液200gで順次洗浄し、最後に水200gで水洗いを行った。さらに140℃で減圧下(2.7kPa)にて水蒸気蒸留を行い、反応生成物から低沸点成分を除去し、5,5−ジメチル−2−(2’−フェニルフェノキシ)−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−オキシドの白色固体287.8g(LC純度:98.5%)を得た。固体のすべてが目的化合物であると仮定した場合の収率は95.2%であった。
【0114】
(実施例2)
(工程1)
実施例1の工程1と同様にして、2−ビフェニリルホスホロジクロリデートを得た。
【0115】
(工程2)
次に、攪拌機、温度計、滴下装置および環流管を備えた2リットルの四つ口フラスコに2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール98.9g(0.95モル、該ホスホロジクロリデートのハロゲン原子に対して0.94当量)とトルエン197.8gを充填し、この混合液を窒素雰囲気下で攪拌しながら75℃まで1時間かけて昇温し、工程1で得られた2−ビフェニリルホスホロジクロリデート290.8gを2時間かけて追加した。その後、同温度(75℃)で1時間攪拌し、反応を行った。反応後、同温度(75℃)で減圧下(40.2kPa)で6時間反応を行った。
【0116】
反応後、実施例1と同様の条件にて処理を行い、5,5−ジメチル−2−(2’−フェニルフェノキシ)−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−オキシドの白色固体282.6g(LC純度:98.1%)を得た。固体のすべてが目的化合物であると仮定した場合の収率は93.5%であった。
【0117】
(実施例3)
(工程1)
実施例1の工程1と同様にして、2−ビフェニリルホスホロジクロリデートを得た。
【0118】
(工程2)
次に、攪拌機、温度計、滴下装置および環流管を備えた2リットルの四つ口フラスコに工程1で得られた2−ビフェニリルホスホロジクロリデート290.8gとトルエン197.8gを充填し、この混合液を窒素雰囲気下で攪拌しながら90℃まで1時間かけて昇温し、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール98.9g(0.95モル、該ホスホロジクロリデートのハロゲン原子に対して0.94当量)を2時間かけて追加した。その後、温度(105℃)まで1時間掛けて昇温し、同温度にて1時間攪拌し、反応を行った。反応後、同温度(105℃)で減圧下(40.2kPa)にトルエンを環流させながら3時間反応を行った。
【0119】
その後、反応溶液を80℃まで冷却し窒素を導入してフラスコ内を常圧にした後、トルエンを336g追加し、同温度(80℃)で1.1%塩酸水200g、および7%炭酸ナトリウム水溶液200gで順次洗浄し、最後に水200gで水洗いを行った。さらに140℃で減圧下(2.7kPa)にて水蒸気蒸留を行い、反応生成物から低沸点成分を除去し、5,5−ジメチル−2−(2’−フェニルフェノキシ)−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−オキシドの白色固体288.1g(LC純度:98.9%)を得た。固体のすべてが目的化合物であると仮定した場合の収率は95.3%であった。
【0120】
(比較例1)
(反応)
攪拌機、温度計、滴下装置、塩酸回収装置及び環流管を備えた1リットルの四つ口フラスコに、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール104.0g(1モル)及びクロロベンゼン114.4gを充填した。得られた混合溶液を撹拌しながら45〜55℃に加温し、この混合溶液にオキシ塩化リン153.5g(1モル)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、混合溶液を75℃まで1時間かけて加熱昇温し、同温度(75℃)で1時間反応させて、発生する塩化水素65.7gを回収した。その後、同温度(75℃)26.6kPaで2時間減圧して、残存する塩化水素をガスとして回収した。このようにして反応混合物298.9gを得た。
【0121】
得られた反応混合物を室温まで冷却し、これに2−ヒドロキシビフェニル161.5g(0.95モル)、無水塩化マグネシウム0.9g及びクロロベンゼン145.6gを加えた。この混合溶液を撹拌しながら65〜75℃に加温し、この混合溶液にトリエチルアミン106.1g(1.05モル)を1時間かけて滴下による添加した。その後、同温度(75℃)で1時間反応させて、5,5−ジメチル−2−(2’−フェニルフェノキシ)−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−オキシドの混合溶液(LC純度:96.0%)を得た。
【0122】
(後処理)
得られた混合溶液に、トリエチルアミン過剰分に相当する塩酸水溶液を加えて85℃にて中和処理し、静置して油相を抽出した。次いで、得られた油相を85℃の水で洗浄し、脱水した。得られた油相を徐々に冷却して白色針状結晶259.8g(LC純度:98.8%)を得た。結晶のすべてが目的化合物であると仮定した場合の収率は86.0%であった。
【0123】
(比較例2)
トリエチルアミンを使用しないこと以外は比較例1と同様にて反応を試みた。
【0124】
しかし、反応終了後の溶液をGPCにて測定及び回収塩酸量を確認したところ、原料のピ
ークのみが見られ、反応は全く進行しなかった。
【0125】
(比較例3)
(工程1)
実施例1の工程1と同様にして、2−ビフェニリルホスホロジクロリデートを得た。
【0126】
(工程2)
次いで、工程1で得られた2−ビフェニリルホスホロジクロリデートを60℃まで冷却し、フェノール195.8g(2.08モル)を加え、この混合溶液を窒素雰囲気下で攪拌しながら130℃まで5時間かけて加熱昇温し、同温度(130℃)で減圧下(20kPa)で8時間反応を行った。
【0127】
この反応溶液を80℃まで冷却し、窒素を導入してフラスコ内を常圧にし、同温度(80℃)で1.6%塩酸および0.7%炭酸ナトリウム水溶液で順次洗浄し、最後に水洗いを行った。さらに140℃で減圧下(2.7kPa)に水蒸気蒸留を行い、反応生成物から低沸点成分を除去し、2−ビフェニリルジフェニルホスフェートを主成分とする無色透明の液体382.8g(LC純度:92.9%)を得た。液体のすべてが目的化合物であると仮定した場合の収率は95.1%であった。
【0128】
(比較例4)
(工程1)
実施例1の工程1と同様にして、2−ビフェニリルホスホロジクロリデートを得た。
【0129】
(工程2)
次に、攪拌機、温度計、滴下装置および環流管を備えた2リットルの四つ口フラスコにn−ブタノール140.8g(1.9モル)とトルエン592.1gを充填し、この混合液を窒素雰囲気下で攪拌しながら90℃まで1時間かけて昇温し、工程1で得られた2−ビフェニリルホスホロジクロリデート290.8gを90℃/2時間かけて追加した。その後、105℃まで1時間かけて昇温し、同温度(105℃)で1時間攪拌し、反応を試みた。
【0130】
しかし、反応終了後の溶液をLCにて分析した結果、目的生成物である2−ビフェニリルジブチルホスフェートは50%程度しか得られず、残りは塩酸により分解されたブチルクロライド及びビフェニリルブチルホスフェートが得られた。
【0131】
(比較例5)
(工程1)
実施例1の工程1と同様にして、2−ビフェニリルホスホロジクロリデートを得た。
【0132】
(工程2)
次に、攪拌機、温度計、滴下装置および環流管を備えた2リットルの四つ口フラスコに1,4−ブタンジオール85.6g(0.95モル)とトルエン592.1gを充填し、この混合液を窒素雰囲気下で攪拌しながら90℃まで1時間かけて昇温し、工程1で得られた2−ビフェニリルホスホロジクロリデート290.8gを90℃/2時間かけて追加した。その後、105℃まで1時間かけて昇温し、同温度(105℃)で1時間攪拌し、反応を試みた。
【0133】
しかし、反応終了後の溶液をLCにて測定した結果、目的生成物である2−(2’−フェニルフェノキシ)−1,3,2−ジオキサホスフェパン−2−オキシドはほとんど得られず、1,4−ブタンジオールで架橋した高分子量成分が得られた。
【0134】
【表1】
【0135】
【化17】
【0136】
R基は実施例、比較例に示した、対応するアルキル基、またはアリール基である。
【0137】
実施例1〜3、比較例1および2では、5,5−ジメチル−2−(2’−フェニルフェノキシ)−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−オキシドの製造をしている。
【0138】
表の結果より実施例1〜3では良好な収率、純度で主成分のモノ体である目的物を得ることができた。この結果から、工程(2)でプロパンジオール系と反応することで6員環安定構造を形成することができ、高純度にて生成物を得ることが出来たと考えられる。
【0139】
他方、アミンを用いた比較例1では高純度にて生成物を得るためには再結晶をしなければならず、その場合収率は86%と低い値となった。また、比較例2ではアミンを用いずに反応を行ったところ、反応は全く進行しなかった。
【0140】
すなわち、式(V)の化合物を目的化合物として製造する場合には、本発明の製造方法が顕著に優れており、最適であると言える。
【0141】
比較例3では2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールの代わりにフェノールを用いたところ、反応は進行したが純度は実施例1〜3に比較して低い結果となった。
【0142】
比較例4ではn−ブタノールを用いたところ、副生する塩酸により生成物が分解し、収率純度共に低い結果となった。
【0143】
また比較例5では1,4−ブタンジオールを用いて反応を行ったところ、環化反応と架橋反応が同時に進行し、純度がかなり低い結果となった。
【0144】
つまり、比較例3〜5では、実施例1〜3、比較例1および2における2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールに代えてそれぞれフェノール、n−ブタノールおよび1,4−ブタンジオールで反応をおこなうと、純度が低下したり、副反応が起こり主反応の進行が妨げられて収率が低下したことを示している。
【0145】
よって以上より、本発明の製造方法は、式(V)の化合物を目的化合物として製造する場合にのみ特異的に効果を発揮し、且つ最適の製造方法であると言える。
【産業上の利用可能性】
【0146】
以上のように、本発明によれば、芳香族置換基とホスホリナン骨格とを併せて有するリン化合物を、高価なハロゲン化水素捕捉剤(トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジンなど)を用いることなしに、複雑な後処理工程や溶剤の回収工程を経ることもなく、従来の方法と比べて安価且つ良好な純度、収率で製造することができる。そのため、本発明は、難燃剤の製造に関する技術分野において極めて有用である。