(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記加算回路は、電流信号に変換された前記発振信号と前記出力信号のいずれか一方と、電流信号に変換された前記参照信号との加算を行う、請求項3に記載の物理量センサ。
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の構成では、物理量センサに外部から機械的な振動等が印加されると、内部の振動体が振動してしまうので、被検波信号には不要なノイズが重畳してしまう。特に検波する周波数の奇数倍の周波数をもつノイズが被検波信号に重畳してしまった場合、そのノイズ成分は検波回路で除去されずに出力信号に混入してしまう。これは、スイッチングによる検波の原理上の問題である。これを回避するための一つの手法として、同一周波数の信号どうしをアナログ的に乗算することが考えられる。
【0005】
乗算回路としてよく使われる回路要素としてギルバート乗算回路が挙げられる。例えば、特許文献2に記載のギルバート乗算回路による検波を物理量センサに適用しようとすると、乗算による検波をするために、被検波信号と同一周波数でかつ振幅が一定の信号が必要である。振動型の物理量センサにおいては、振動体の励振レベルを、定電圧回路などを使った参照信号に基づいて一定レベルに制御するといった、いわゆるAGC制御が行われている。したがって、AGC制御によって、制御された発振信号を乗算用信号として用いることが考えられる。しかしながら、実際は、参照信号は温度変化によって変化する。
【0006】
また、被検波信号は角速度のほかに振動体の励振レベルにも比例するため、単純に被検波信号と発振信号とを乗算すると、参照信号が2乗された成分が検出信号に現れることになり、検出信号に大きな誤差が生じることとなる。これは近年物理量センサに求められている、広い使用温度範囲での高精度化を実現するうえで妨げになってしまう。
【0007】
本発明は、上記の問題を解決することを可能とした物理量セン
サを提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、外来振動によるノイズを抑え、かつ、参照電圧の変動による出力信号の変動を抑えることを可能とする物理量セン
サを提供することを目的とする。
【0009】
物理量センサは、外部から印加された物理量を電気信号に変換する振動子と、参照信号を出力する参照信号生成回路と、参照信号に基づいた発振信号によって振動子を発振させる発振回路と、振動子からの出力信号に対して、発振信号との乗算及び参照信号による除算を行うことによって出力信号の検波を行う検波回路を有することを特徴とする。
【0010】
物理量センサは、外部から印加された物理量を電気信号に変換する振動子と、参照信号を出力する参照信号生成回路と、参照信号に基づいて振動子を発振させる発振回路と、発振回路からの発振信号に基づいて振動子からの出力信号を検波する検波回路と、を有する物理量センサにおいて、検波回路は、発振信号と出力信号のいずれか一方に参照信号を加算する加算回路と、発振信号と出力信号のうち参照信号が加算された信号と他方の信号とを乗算するギルバート乗算回路と、を備えることを特徴とする。
【0011】
この構成により、外来振動によるノイズを抑えるために乗算回路による検波を用いながら、参照信号の変動の影響を抑えた高精度な物理量センサを実現することが可能となる。
【0012】
さらに、物理量センサおいて、検波回路は、エミッタ結合した一対のバイポーラトランジスタからなる第1差動トランジスタ及びエミッタ結合した一対のバイポーラトランジスタからなる第2差動トランジスタを有する乗算コアと、コレクタ結合した一対のバイポーラトランジスタからなる線形化トランジスタ対と、発振信号及び出力信号のいずれか一方に参照信号を加算する加算回路を有し、第1差動トランジスタの一方のベース及び第2差動トランジスタの一方のベースと線形化トランジスタの一方のバイポーラトランジスタのエミッタが接続され、第1差動トランジスタの他方のベース及び第2差動トランジスタの他方のベースと線形化トランジスタの他方のバイポーラトランジスタのエミッタが接続され、第1及び第2差動トランジスタの結合されたエミッタに対して発振信号及び出力信号のいずれか一方が入力され、線形化トランジスタ対のエミッタに対して前記発振信号及び前記出力信号のいずれか他方が入力される、ことが好ましい。
【0013】
さらに、物理量センサおいて、検波回路は、発振信号、出力信号及び参照信号を、それぞれ電圧信号から電流信号に変換する変換回路を有することが好ましい。
【0014】
さらに、物理量センサにおいて、加算回路は、電流信号に変換された発振信号と出力信号のいずれか一方と、電流信号に変換された参照信号との加算を行うことが好ましい。この構成により、加算回路としては配線をつなぎ合わせるだけの構成で高精度の加算操作を行うことが可能となる。
【0015】
さらに、物理量センサにおいて、加算回路は、発振信号と出力信号のいずれか一方と、参照信号との加算を、電圧信号の状態で行う、ことが好ましい。この構成により、通常の集積回路の内部信号である電圧信号の状態で加算操作を行うことができ、検波回路の周辺の回路構成に応じて効率的な構成とすることができる。
【0016】
物理量センサによれば、乗算検波における参照信号の変動成分を補償することが可能となるため、参照電圧の変動による出力信号の影響が小さく、外来振動によるノイズにも強い高精度の物理量センサを実現することが可能となる。
【0017】
乗除算回路は、エミッタ結合した一対のバイポーラトランジスタからなる第1差動トランジスタ及びエミッタ結合した一対のバイポーラトランジスタからなる第2差動トランジスタを有する乗算コアと、コレクタ結合した一対のバイポーラトランジスタからなる線形化トランジスタ対と、第1入力信号及び第2入力信号のいずれか一方に、第3入力信号を加算する加算回路を有し、第1差動トランジスタの一方のベース及び前記第2差動トランジスタの一方のベースと線形化トランジスタの一方のバイポーラトランジスタのエミッタが接続され、第1差動トランジスタの他方のベース及び第2差動トランジスタの他方のベースと線形化トランジスタの他方のバイポーラトランジスタのエミッタが接続され、第1及び第2差動トランジスタの結合されたエミッタに対して第1入力信号及び第2入力信号が入力され、線形化トランジスタ対のエミッタに対して第3入力信号が入力され、第1入力信号及び第2入力信号を乗算して第3入力信号で除算した信号が出力されることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下図面を参照して、物理量センサについて説明する。但し、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0020】
図1は、物理量センサ1の全体構成を説明したブロック図である。
【0021】
物理量センサ1は、センサ素子10と、発振回路20と、検出回路30と、参照信号生成回路40とで構成した、振動型の角速度センサである。
【0022】
センサ素子10は、音叉形状に形成した圧電材料の表面に金属電極を配して構成した、回転角速度を検知するジャイロ振動子であり、駆動部11と検出部12を備えている。センサ素子10は、発振回路20によって発振駆動される。センサ素子10が振動中に回転角速度を受けると、微弱な交流信号がセンサ素子出力S12として検出部12から出力される。なお、センサ素子10として、他の形状を有する振動素子、例えば、3本の振動脚を有する振動素子を用いることも可能である。
【0023】
参照信号生成回路40は、後述のAGC制御回路のための基準信号を生成する回路である。参照信号生成回路40は、定電圧回路を含み、周囲温度や電源電圧に依存しないほぼ一定の電圧である参照信号S41を生成する。
【0024】
発振回路20は、センサ素子10に対し、モニタ回路21および可変ゲインアンプ22とで発振ループを形成した、いわゆるAGC機能を有する発振回路である。発振回路20は、AGC制御回路23を備えており、センサ素子10の励振電流の実効値が参照信号S41と等しくなるように可変ゲインアンプ22のゲインを制御する機能を有している。センサ素子10の励振電流は、モニタ回路21により電圧信号に変換されている。
【0025】
上記の構成により、AGC制御回路23によりセンサ素子10は発振制御がなされ、モニタ回路21が出力する発振信号S21は参照信号S41に基づいた振幅を有する交流信号となる。この発振信号S21は後述の検波回路30での乗算に用いる信号としても利用する。
【0026】
検出回路30は、センサ素子10の検出部12からの出力信号であるセンサ素子出力S12を増幅する増幅回路31と、増幅回路31の出力信号である増幅信号S31に含まれる角速度信号成分を検波する検波回路32と、検波回路32の出力信号である検波信号S32を増幅および平滑化して、物理量センサ出力S30として出力するフィルタ回路とで構成される。検波回路32は、増幅回路31の出力信号と発振信号S21とをアナログ的に乗算する演算回路である。発振回路20および検出回路30は電源V+、V−を印加することにより動作する集積回路であり、同一の半導体素子上に構成されている。なお、発振回路20および検出回路30は、別々の半導体素子上に構成されるようにしても良い。
【0027】
ここで、乗算検波について簡単に説明する。
【0028】
一般に、振幅がそれぞれA、Bである同じ周波数かつ同じ位相の正弦波どうしを乗算すると次式(1)のようになる。
(A・sinθ)・(B・sinθ)=A・B・(1−cos2θ)/2 (1)
【0029】
ここで、θを時間に比例した位相角(θ=ω・t)とみなせば、三角関数の性質から、上記の乗算からは、元の信号の2倍の周波数の信号と直流信号との2つの成分が得られることが分かる。この信号を低周波のみを通過するフィルタを通すと、(−A・B・cos2θ/2)の成分がカットされるので、(A・B/2)という大きさの直流信号が得られる。発振信号S21と増幅信号S31とはいずれも同じ周波数の信号である。例えば、Aがほぼ一定、Bが印加される回転角速度に比例であるような信号を選び、前式で表されるような演算操作を行えば、回転角速度に比例した信号が得られる。次に説明する検波回路30は、この原理を用いて検波操作を行うものである。
【0030】
ところで、センサ素子10を発振させるための発振信号S21、センサ素子10から出力される回転角速度に比例する増幅信号S31、及び参照信号生成回路40から出力される参照信号S41を、以下の様に設定する。
S21=A・sinωt
S31=B・sinωt
S41=Vref
【0031】
ここで、Vrefは基準電圧値である。AGC制御回路23によって、発振信号S21の振幅は、参照信号S41に基づいて一定となるように制御されることから、「A」はVrefの関数となる。また、増幅信号S31は発振信号S21に基づいて振動されたセンサ素子10から出力するので、「B」もVrefの関数となる。したがって、単純に発振信号S21と増幅信号S31とを用いて乗算検波を行うと、検出される回転角速度に比例した直流信号(A・B/2)は上記式(1)から理解できるように、Vrefの二乗に比例する。
【0032】
ところで、参照信号S41は、必ずしも完全に一定とはならず、温度補償回路等を設けても、微小であるが温度等によって変化する。また、参照信号S41にノイズ等が重畳される場合も考えられる。参照信号S41が変化又は参照信号S41にノイズが重畳された場合、検出される回転角速度に比例した直流信号は、参照信号S41が変化又はノイズの二乗に応じて、大きく変化してしまう。このような変化は、物理量センサの広い使用温度範囲での高精度化を実現する上での妨げとなる。
【0033】
そこで、物理量センサの検波回路32では、後述するように、以下の式(2)に基づいて乗算検波が行われるように構成されている。
(A・sinθ)・(B・sinθ)/Vref=A・B・(1−cos2θ)/(2・Vref) (2)
【0034】
式(2)より、検出される回転角速度に比例した直流信号は、(A・B/(2・Vref))に対応、即ち、Vrefの二乗ではなく、Vrefに比例する。したがって、参照信号S41の変化やノイズの重畳によって、物理量センサの出力が大きく変化することがない(後述する式(8)参照)。
【0035】
図2は、物理量センサの検波回路32を説明した回路図である。
【0036】
検波回路32は、第1〜第3のV−I変換回路110、120、130と、乗除算回路140と、I−V変換回路150と、移相回路160とで構成されている。
【0037】
検波回路32は、発振信号S21および増幅信号S31をそれぞれ電流信号へ変換するための第1のV−I変換回路110および第2のV−I変換回路120を備えている。特にこれらのV−I変換回路には出力形式が差動出力のものを用いる。
【0038】
なお、第1のV−I変換回路110には、移相回路160を介して発振信号S21を入力している。これは先に示した乗算検波の式のように、乗算する信号どうしの位相を揃えるためである。位相調整した信号を発振信号S21’とする。
【0039】
検波回路32はさらに、参照信号S41を電流信号へ変換するための第3のV−I変換回路130を備えている。第3のV−I変換回路130は等しい出力電流を2つの端子から出力する構成としている。これらのV−I変換回路の構成については後述する。
【0040】
乗除算回路140は、入力される電流信号を乗算し、電流出力として出力する回路である。乗除算回路140は、複数のバイポーラトランジスタで構成した、いわゆるギルバート乗算回路であると言える。乗除算回路140は入力信号および出力信号がいずれも差動形式のものを用いている。
【0041】
ここで、乗除算回路140の構成について説明する。
【0042】
乗除算回路140は、バイポーラトランジスタ141〜144、145A、145Bと、バイアス電流源146A、146Bとで構成される。これらのトランジスタは全てPNP型である。
【0043】
乗除算回路140は、エミッタ結合した一対のバイポーラトランジスタ141及び142からなる第1差動トランジスタ及びエミッタ結合した一対のバイポーラトランジスタ143及び144からなる第2差動トランジスタを有する乗算コアと、コレクタ結合した一対のバイポーラトランジスタ145A及び145Bからなる線形化トランジスタ対を有している。また、トランジスタ142と143のベースどうしが結合されている。さらに、トランジスタ145Aのエミッタは、トランジスタ141およびトランジスタ144のベースと接続している。またトランジスタ145Bのエミッタは、トランジスタ142およびトランジスタ143のベースと接続している。
【0044】
乗除算回路140はバイポーラトランジスタの指数特性から生じる非線形成分を抑制した線形化乗算回路である。乗算を行う部分はトランジスタ141〜144の4つの素子である。トランジスタ145A及び145Bでは、線形化のための前処理を行う構成となっている。
【0045】
トランジスタ145Aのエミッタには、第1のV−I変換回路110の出力電流と第3のV−I変換回路の一方の出力電流とが加算された電流が流れ込む構成となっている。同様にトランジスタ145Bのエミッタには、第1のV−I変換回路110の反転出力電流と第3のV−I変換回路のもう一方の出力電流とが加算された電流が流れ込む構成となっている。この様に、乗除算回路140では、電流信号の加算は結線で行えることから、第1のV−I変換回路110と第3のV−I変換回路130の出力端子どうしを結線することによって、第1のV−I変換回路110の出力電流と第3のV−I変換回路の出力電流とを加算する加算回路を構成している。
【0046】
トランジスタ145Aとトランジスタ145Bはいずれもダイオード接続となっており、これらのベースおよびコレクタは負側の電源V−に接続されている。
【0047】
トランジスタ141とトランジスタ142とはエミッタどうしが接続され、ここへ第2のV−I変換回路120の出力電流とバイアス電流Ibとが加算された電流が流れ込む構成となっている。同様にトランジスタ143とトランジスタ144のエミッタどうしは接続され、ここへ第2のV−I変換回路120の反転出力電流とバイアス電流Ibとが加算された電流が流れ込む構成となっている。バイアス電流Ibは、定電流回路であるバイアス電流源146A、146Bが生成する。
【0048】
トランジスタ141のコレクタとトランジスタ143のコレクタが接続され、乗算出力端子となっている。同様に、トランジスタ142のコレクタとトランジスタ144のコレクタが接続され、乗算反転出力端子となっている。
【0049】
I−V変換回路150は、乗除算回路140の出力電流信号を電圧信号に変換するものである。MOSトランジスタ151A〜154A、151B〜151Bによるいわゆる折り返しカスコード回路により差動電流入力を単相の電流信号に変換し、さらに変換抵抗156とオペアンプ155とによりI−V変換出力する構成としている。変換抵抗156はポリシリコン抵抗などの線形抵抗素子で構成されている。
【0050】
図2に示す乗除算回路140では、第3のV−I変換回路130からの供給電流が増加すると、線形化トランジスタ145A及び145Bへ供給されるバイアス電流が増加する。バイアス電流が増加すると、線形化トランジスタ145A及び145Bのベース・エミッタ間電圧が増加する。線形化トランジスタ145A及び145Bでは、バイアス電流が小さいとベース・エミッタ間電圧が低くなり、入力信号に対応する出力信号の電圧変化が大きくなる(即ち、ゲイン大)。この場合に、第1のV−I変換回路110からの信号成分が加わると、乗算コアへ出力される信号成分のゲインは大きくなる。逆に、線形化トランジスタ145A及び145Bでは、バイアス電流が大きいとベース・エミッタ間電圧が高くなり、入力信号に対応する出力信号の電圧変化が小さくなる(即ち、ゲイン小)。この場合に、第1のV−I変換回路110からの信号成分が加わると、乗算コアへ出力される信号成分のゲインは小さくなる。この関係を乗算コアの出力からみると、線形化トランジスタ145A及び145Bから得られる信号成分を乗算コアを介して得られる出力信号成分と、第1のV−I変換回路110からの信号成分との振幅比は、第3のV−I変換回路130からの供給電流に反比例するような動作を行うこととなるので、乗除算回路140全体の出力では、第3のV−I変換回路130からの出力によって除算したようになる。
【0051】
図3は、物理量センサのV−I変換回路を説明した回路図である。
【0052】
図3に示すV−I変換回路は、
図2に示す第1のV−I変換回路110および第2のV−I変換回路120に用いられる構成である。
【0053】
V−I変換回路は、MOSトランジスタと抵抗素子を利用したトランスコンダクタンスアンプであり、PchMOSトランジスタ201〜207(以下PMOS)とNchMOSトランジスタ211〜217(以下NMOS)と、変換抵抗220と、テール電流源230とで構成される。
【0054】
PMOS201のゲート端子はV−I変換回路の入力端子(IN)である。
図3に示すV−I変換回路が
図2に示す第1のV−I変換回路110として用いられた場合には、入力端子(IN)には、位相調整された発振信号S21´が入力される。
【0055】
PMOS201、202、NMOS201、202およびテール電流源230は、PMOS201、202を入力素子とし、NMOS211、212をそれぞれ負荷素子とした差動対回路である。PMOS201のゲート端子は差動対回路の非反転入力端子、またPMOS202のゲート端子は反転入力端子に相当し、この差動対回路へのバイアス電流供給をテール電流源230によって行う。
【0056】
NMOS211、212はダイオード接続とし、NMOS212へ流れた電流値をカレントミラーでNMOS214へ所定値倍してコピーする。また、NMOS211へ流れた電流値をNMOS213、PMOS203を介してPMOS204へ所定値倍してコピーする。PMOS204とNMOS214のドレイン端子どうしを接続し、この端子に反転入力端子に相当するPMOS202のゲート端子と変換抵抗220の一端を接続する。変換抵抗220の他端は信号グラウンドに接地する。なお、変換抵抗220はポリシリコン抵抗などの線形抵抗素子で構成する。
【0057】
さらにPMOS204に流れる電流値をカレントミラー接続でPMOS207へコピーし、NMOS214に流れる電流値をカレントミラー接続でNMOS217へコピーする。PMOS207とNMOS217のドレイン端子どうしを接続し、この接続点を出力端子(IOUT)とする。
図3に示すV−I変換回路が
図2に示す第1のV−I変換回路110として用いられた場合には、出力端子(IOUT)からは、出力電流(+)が出力される。
【0058】
NMOS211へ流れた電流値をカレントミラーでNMOS216へ所定値倍してコピーする。また、NMOS212へ流れた電流値はNMOS215、PMOS205を介してPMOS206へ所定値倍してコピーする。PMOS206とNMOS216のドレイン端子どうしを接続し、この接続点を反転出力端子(IOUTB)とする。
図3に示すV−I変換回路が
図2に示す第1のV−I変換回路110として用いられた場合には、出力端子(IOUTB)からは、反転出力電流(−)が出力される。
【0059】
このように接続することで、PMOS201〜204およびNMOS211〜214は、変換抵抗220の非接地側の一端を出力と見立てた電圧フォロワとして動作し、入力端子INへ入力した信号と同じ信号が変換抵抗220の一端に現れる。さらに変換抵抗220へ流れる電流は残りのMOSトランジスタによってコピーされ、IOUT端子からは入力信号電圧を変換抵抗220の抵抗値で除した値の電流が出力される。そしてIOUTBからは、IOUT端子から出力される電流とは絶対値が等しく方向が逆の電流が出力される。
【0060】
このV−I変換回路は、入力電圧をV、出力電流をIとした場合には次式(2)の関係が成り立つよう動作する。
I=±K・V (3)
【0061】
上記の式(3)において、符号が(+)の場合は出力端子の出力電流に対応し、符号が(−)の場合反転出力端子の出力電流に相当する。変換係数Kは、変換抵抗220の抵抗値の逆数となる。
【0062】
図3に示すV−I変換回路を、第3のV−I変換回路130として利用する場合には、PMOS207およびNMOS217に流れる電流値をカレントミラー接続でコピーする回路をもう一系統増やし、IOUT端子から出力される電流値と等しい電流が出力できるようにする。この場合、出力端子(IOUT)からは、出力電流(+)が出力され、もう一系統追加された出力端子からも、出力電流(+)が出力されることとなる。なお、
図3に示すV−I変換回路を、第3のV−I変換回路130として利用する場合には、出力端子(IOUTB)からの出力は利用しない。
【0063】
次に、
図1を用いて物理量センサ1の動作について説明する。
【0064】
物理量センサ1に電源V+、V−を印加すると、参照信号生成回路40は参照信号S41を出力し、発振回路20は参照信号S41に基づいた所定の電流値でセンサ素子10の駆動部11を交流駆動する。AGC制御がなされるため、発振信号S21には、参照信号S41に基づいた振幅の交流電圧が出力される。
【0065】
この状態で物理量センサ1に回転角速度が印加されると、回転角速度に応じた振幅を持つ交流信号がセンサ素子出力S12に現れる。検出回路30はこのセンサ素子出力S12を増幅しつつ電圧信号に変換し、増幅信号S31として検波回路32へ入力する。検波回路32には、さらに参照信号S41と発振信号S21とが入力されている。検波回路32は次に述べるように乗算検波を行い、次段のフィルタ回路33で平滑化処理がなされる。結果として物理量センサ1からは、印加した回転角速度に比例した振幅をもつ検出信号S30が出力される。
【0066】
次に、物理量センサ1の検波回路32の動作について説明する。
【0067】
発振信号S21の電圧値をV1、増幅信号S31の電圧値をV2、参照信号S41の電圧値をVrefとする。特にV1、V2は同じ周波数かつ同じ位相の正弦波信号(A・sinθの形式)である。
【0068】
参照信号S41の電圧値Vrefと第3のV−I変換回路130の出力電流Irとの関係は、第3のV−I変換回路130の変換抵抗の抵抗値をR3とすると次式(4)で表すことができる。
Ir=Vref/R3 (4)
【0069】
また、乗除算回路140の一方に入力される電流信号I1と、乗除算回路140のもう一方に入力される電流信号I2は次式(5)及び(6)のようになる。
I1=Ib±K1・V1 (5)
I2=Ir±K2・V2 (6)
なお複号は差動信号出力のそれぞれに相当する。
【0070】
さらに、乗除算回路140の出力電流I4は次式(7)のようになる。
I4=((K1・K2)/Ir)・(V1・V2) (7)
【0071】
ここでI−V変換回路150の変換抵抗155の抵抗値をR5とおくと、I−V変換回路150の出力信号である検波信号S32は次式(8)のようになる。
(検波信号S32の電圧値)
=(2・R5・(K1・K2)/Ir)・(V1・V2)
=(2・(R3・R5・K1・K2))・(V1・V2/Vref) (8)
【0072】
上記の式(8)のV1は、本例では発振信号S21の電圧値に対応する。発振信号S21は、AGC制御回路により発振振幅の制御がなされた信号であり、AGC制御の基準である参照信号S41の電圧値Vrefに依存(比例)する。
【0073】
またV2は、本例では検出部12から得られた角速度信号を増幅した増幅信号S31の電圧値に対応する。よって、増幅信号S31は、印加された角速度の強さに比例するが、角速度を検知するために駆動部11を励振する強さにも比例する。即ち、増幅信号S31は、参照信号S41の電圧値Vrefに比例する。
図4(a)に示す波形50は、発振信号S21の波形例であり、波形51は、増幅信号S31の波形例である。
【0074】
よってI−V変換回路150の出力信号、すなわち検波信号S32の電圧振幅は、印加された角速度に比例し、且つ参照信号S41の電圧値Vrefに比例することとなる。検波信号S32を平滑化した物理量センサ出力S30も同様である。
図4(b)に示す波形52は、検波信号S32の波形例であり、
図4(c)に示す波形53は、物理量センサ出力S30の波形例である。
【0075】
すなわち、物理量センサ1の出力S30における参照信号S41の依存性を1次程度に抑えることができることが分かる。この特性自体は、従来のスイッチによる検波回路を用いた物理量センサの同様の性質であるが、検波される元の信号成分としては、発振周波数と同じ周波数成分のみであり、外部振動等に起因するそれ以外の周波数成分をもつノイズが仮に含まれたとしても、乗算検波により直流よりも充分高い周波数に周波数変換されてしまうので、次段のフィルタ回路33により容易に除去可能である。
【0076】
従って、物理量センサ1が、検波回路32を有することによって、参照電圧S41の変動による出力信号S30heの影響が小さく、外来振動によるノイズにも強い高精度の物理量センサ1を実現することが可能となる。
【0077】
なお、K1、K2はV−I変換回路における変換比である。物理量センサ1において、K1、K2を線形抵抗素子に基づいて決定されるようにすれば、R3とK1(またはK2)の温度係数や半導体プロセス変動などを相殺することが可能となる。同様に、I−V変換回路150を構成する変換抵抗155にも同じ線形抵抗素子を用いることで、R5とK2(またはK1)の温度係数や半導体プロセス変動を相殺することも可能となる。
【0078】
第1のV−I変換回路110と第2のV−I変換回路120に用いる変換抵抗の値をそれぞれR1、R2とし、さらに第3のV−I変換回路130に用いる変換抵抗の値をR3とすると、検波信号S32は次式(9)で表すことができる。
(検波信号S32の電圧値)
=2・(R3・R5)/(R1・R2)・(V1・V2/Vref) (9)
【0079】
上記の式(9)から、第1〜第3のV−I変換回路110、120、130およびI−V変換回路150の変換抵抗を全て同一の材質からなる抵抗素子とすると、V−I変換回路およびI−V変換回路で生じる誤差が相殺されることが理解できる。
【0080】
なお、
図2に示す検波回路32では、参照信号S41の成分を発振信号21の成分に加算する際、第1のV−I変換回路110及び第3のV−I変換回路130において、それぞれ電流信号に変換した後に加算するように構成した。しかしながら、参照信号S41の成分と発振信号21の成分を電圧信号の状態で加算し、その後、V−I変換する構成としても良い。この場合、電圧信号の加算は、オペアンプと抵抗素子とを使った、よく知られた電圧加算回路で実現することが可能である。
【0081】
また、
図1に示した物理量センサ1におけるAGC制御に用いる参照信号S41は電圧信号であった。しかしながら、参照信号S41が電流信号であるような回路構成であっても良い。その場合、第3のV−I変換回路130が不要となる。
【0082】
さらに、
図1に示した物理量センサ1では、駆動部11から得られる発振信号S21に対して参照信号S41を加算するように構成した。しかしながら、センサ素子出力S12を増幅した増幅信号S31に対して参照信号S41を加算し、この加算信号と、発振信号S21とを電流乗算回路へ入力するように構成しても良い。前記のように変更を行っても、乗算順序が交換可能であることから、同様の出力信号S30が得られることは明らかである。
【0083】
図5は、乗除算回路140を説明するための図である。
【0084】
図5(a)は、
図2に示す乗除算回路140と、第1のV−I変換回路110〜第3のV−I変換回路130との関係を模式化して示したものである。
【0085】
前述したように、乗除算回路140の出力Zは、第1のV−I変換回路110へ入力される電圧信号Y、第2のV−I変換回路120へ入力される電圧信号X、第3のV−I変換回路130に入力される電圧Rとすると、Z=X・Y/Rと表すことができる。例えば、第3のV−I変換回路130に入力される電圧Rが、デジタル的に抵抗値を変更することが可能なデジタルボリューム等を利用して、任意の電圧を生成することが可能な生成回路からの調整出力であるとする。その場合、乗除算回路140の出力Zは、Z=Ka・X・Yという様に、別途ゲインアンプを用いることなく、2つの電圧信号の積をKa倍に調整可能な可変ゲイン乗算回路であると言うことができる。
【0086】
図5(b)は、
図2に示す乗除算回路140への入力を変更した変形例を示した図である。
図5(b)では、第1のV−I変換回路110に電圧Rを入力し、第3のV−I変換回路130に電圧信号Yを入力している。ただし電圧信号Yは正の信号である。
【0087】
図5(b)の場合、乗除算回路140の出力Zは、Z=X・R/Yと表すことができる。例えば、第1のV−I変換回路110に入力される電圧Rが、調整出力であるとする。その場合、乗除算回路140の出力Zは、Z=Kb・X/Yという様に、別途ゲインアンプを用いることなく、2つの電圧信号の比(商)をKb倍に調整可能な可変ゲイン除算回路であると言うことができる。
【0088】
図5(a)及び(b)に示した様に、乗除算回路140を検波回路に利用すれば、2つの信号の乗算と参照信号Vrefによる除算を1つの回路で同時に行うことが可能となる。