(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも1つの生体分解性ポリマーを含む生体分解性カバー材であって、前記カバー材がシート、フィルムまたはマットであり、前記カバー材が、1つまたは複数の薬剤を含むコーティングを少なくとも1つ含み、前記カバー材がインプラントの少なくとも一部の下に配置される、
インプラントの内部および周囲での瘢痕組織の形成を阻止もしくは低減するための、
インプラントの内部および周囲での被膜拘縮を阻止または低減するための、あるいは
インプラントの周囲での細菌感染もしくはコロニー化の阻止または予防のための、生体分解性カバー材。
前記生体分解性ポリマーが、ポリヒドロキシブチレート(PHBT)およびポリヒドロキシブチレートおよびチロシン由来ポリカーボネートのコポリマーからなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の生体分解性カバー材。
前記抗菌剤が、リファンピン、ミノサイクリン、ゲンタマイシン、バンコマイシン、トリクロサン、ノボビオシン、セファロスポリンの単独または組合せからなる群から選択される、請求項7に記載の生体分解性カバー材。
【背景技術】
【0002】
[0002] 豊胸術および乳房再建手術においては、局所合併症が頻発する。これらの手術合併症のより深刻なものには、感染、被膜拘縮、血腫および疼痛がある。乳癌治療の一部として放射線治療を受けた女性では、術後感染および被膜拘縮がより高い割合で持続するように思われる。
【0003】
[0003] 感染は埋込みの数日後から数年後までのいつでも起こり得るが、手術時期直後により高い頻度で起こる。患者が手術の時期から数日ないし6週間の間に疼痛、発熱、およびインプラント周囲の圧痛を示すとき、急性感染が診断される。1つの報告によると、コロニー化したインプラントからの培養細菌の中のStaphylococcus aureus、Propionii acneおよびStaphylococcus epidermis(Pittetら(2005)Lancet Infect. Dis. 5:94-106頁)による感染の発生率は1〜24%の範囲にある(Nahabedianら(2003)Plast. Reconstr. Surg. 112:467-76頁)。
【0004】
[0004] 乳房インプラントの使用によって生じる別の問題は、インプラント周囲の過剰な瘢痕組織の形成である。そのような組織は硬化し、被膜拘縮として知られる現象、すなわちインプラント周囲の締め付けまたは圧搾を起こすことがある。瘢痕組織および被膜形成は正常なプロセスであるが、被膜拘縮が起こると、乳房は不格好となり、痛みを生じ、硬くなり、不自然な外観および感触を得ることがある。さらに、被膜拘縮は感染、血腫および漿液腫の後でより一般的であると思われる。インプラント表面の組織化およびインプラントの筋肉下配置は、被膜拘縮の発生率を低下させるかも知れない(FDA Breast Implant Consumer Handbook, 2004, 28頁)。
【0005】
[0005] インプラント感染は最も一般的に、手術中の清潔野の汚染または手術中のリンパ節または乳管切開から生じる汚染に起因する。細菌は乳管を通して乳房組織中に深く移動することがある。したがって、腺下に配置する間に導管を通して切開することによって、配置後にインプラントが汚染される一次的ではあるが直接の外部ルートが開かれる。乳管および乳頭からコロニー化される細菌は、皮膚上に見られる外因性細菌相、すなわちコアグラーゼ陰性Staphylococcus、P.acne、およびBacillus subtillusと類似している(Pittet、上記)。
【0006】
[0006] 無症状感染は被膜拘縮の原因となることが理解される。無症状感染は、バイオフィルムの形成を伴う、または伴わない、表面の細菌コロニー化であると定義される。無症状感染は通常顕在的感染に伴う兆候および症状(疼痛、圧痛、発熱および膿等)を示さず、慢性炎症反応として表れる。この炎症反応は、持続する組織のリモデリングを引き起こすことがあり、それにより線維組織の集積およびその結果としてのインプラントの歪みおよび被膜の硬化が生じる。
【0007】
[0007] 大部分の外科医は乳房インプラントに伴う感染の発生を低減するための予防的努力に関わっている。たとえば、無菌性に対する細心の注意に加えて、多くの外科医はインプラントポケットにベタジン、ゲンタマイシン、セファゾリン、ポビドンヨードまたは別の抗生物質溶液を潅注する。術後のカウンセリング手段には、少なくとも2週間(または完全に治癒するまで)切開部位に触らず、また切開部位を湯に漬けないように患者を指導することが含まれている。埋込み後のコロニー化を防ぐため、手術に先立って患者に予防的経口抗生物質を与えることもできる。さらに、筋肉下にインプラントを配置することにより、乳管との手術的接触が避けられる(または少なくとも最小化される)。
【0008】
[0008] Adamsらは、細菌によるインプラントのコロニー化によって引き起こされる被膜拘縮を低減するための方法を考案した。彼らは抗菌性潅注溶液を最適化し、術前および術中の無菌手技を採用した。Adamsの「三重抗生物質溶液」は、もともとバシトラシン、ゲンタマイシン、およびセファゾリンの混合物を含んでおり、乳房インプラントをコロニー化することが最も一般的に知られている細菌に対して活性であることが示された。Adamsはその後、同じ時期の全国発生率が15〜20%に達するのに対し、これらの手技を取り入れた手術を受けた患者の被膜拘縮発生率が1%であることを示す6年間の臨床研究結果を発表した(Adamsら(2006)Plast. Reconstr. Surg. 117:30-36頁)。
【0009】
[0009] 抗生物質または抗菌剤が乳房インプラント付近に存在する期間を延長するために、Darouicheらはシリコーン製乳房インプラントをリファンピンおよびミノサイクリンの混合物に浸漬してウサギのモデルに埋め込んだ。抗生物質浸漬インプラントは非浸漬対照インプラントに比べて細菌コロニー化を防止したが、浸漬プロセスは抗生物質のシリコーンゲル内への溶出を引き起こすことが、インプラントの膨潤によって証明された。別の例においては、外科医は乳房インプラント内にポビドンヨード溶液を直接注入したが、これはシリコーンシェルが弱化し漏洩することがあるというリスクを伴う。実際、その使用による破裂が報告された結果として、FDAは、乳房インプラントにポビドンヨードを使用することは禁忌であると発表した。
【0010】
[0010] 被膜拘縮を低減するためのいくつかの努力には、(最初の治癒期間が完了した後に)インプラントをマッサージするよう患者に勧めることおよびビタミンEを摂取することを含む術後手段が含まれる。被膜拘縮が起こってしまうと、経口投与されたロイコトリエン受容体拮抗剤が被膜拘縮の量を低減し得ることが、事例証拠によって示されている(Schlesingerの米国特許第6951869号)。
【0011】
[0011] 被膜拘縮を予防する技術として、外側のシリコーン表面を組織化することが採用されてきた。組織化された表面は、より生体適合性で、組織の内方成長を促進すると考えられる。しかし、これらのインプラントは市場にあまり浸透していない。なぜなら、使用時にインプラントが皮下に堅く配置され、受容者が動くときに目に見えるくぼみ形成をもたらすことがしばしばあるからである。組織化されたインプラントはまた、平滑なインプラントよりも厚いシェルおよび高い破裂率を有する傾向がある。
【0012】
[0012] Quaidは、生体適合性、非生体吸収性の未硬化シリコーンエラストマーをシリコーンインプラントの外側表面に適用して外層を創出する方法を記載している(米国特許第4889744号)。通常は塩である溶質粒子を粘着層に包埋し、この粘着層を次に部分的に硬化し、適当な溶媒に曝して溶質粒子を除去し、次いで完全に硬化する。完全に硬化した外層から溶質を除去した後に層中に残存する複数の空隙によって、開放気孔構造が残る。結果として得られる医用インプラントは、組織化された外側表面および単一構造の両方を有する。McGhanは、インプラントの典型的にはシリコーンのシェルに接着した生体適合性、生体吸収性材料で作製されたハイブリッドインプラントを記載している(米国特許第6913626号)。1つの実施形態においては、McGhanのインプラントは、外殻内に部分的に包埋された不連続の生体吸収性粒子を有する。
【0013】
[0013] Braumanは、インプラントシェルにラミネートされたまたは結合した(たとえば接着された)層を有する乳房インプラントを記載している(米国特許第4648880号およびRE35,391)。この層は粗い組織化表面を有し、Dacron(登録商標)(ポリ(エチレングリコール)テレフタレート)、Teflon(登録商標)またはシリコーン等の非生体分解性材料から作製されている。Braumanのインプラントは、シェルと外層との間に結合したバリアー層を任意選択で含んでもよい。そのようなインプラントは、体内で薄い層に裂けやすい。
【0014】
[0014] そのような組織の内方成長による被膜へのインプラントの部分的または完全癒着は、インプラントを除去しまたは置換することが必要になった場合には、望ましくないであろう。さらに、被膜とインプラントの外側表面との間の部分的または非対称的癒着は、望ましくない美容的影響を引き起こすかも知れない。上記の不利益にもかかわらず、生体適合性、非生体吸収性の組織接触外側表面を有する組織化されたインプラントは、患者における被膜拘縮の発生率を低減すると一般に考えられている。それにもかかわらず、埋込み後の被膜拘縮に抵抗し、インプラントの被膜への癒着に抵抗する埋込み可能な液体充填補綴物に対する需要は依然としてある。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[0036] 本発明は乳房インプラント用の生体分解性エラストマー性カバー材を対象としている。カバー材はインプラントに形が合う形状を有しており、通常、手術中にその挿入に先立って手術室内でインプラントの上に配置される。カバー材は、乳房インプラントとともに前もって組み立てておいて、その形態で手術チームに供給してもよい。
【0026】
[0037] いくつかの実施形態においては、生体分解性カバー材は実質的にインプラント自体と同じ形状および寸法(たとえば円形、涙滴型、等高線型、解剖学的型等)を有するが、それはインプラントを完全には覆わない。いくつかの実施形態においては、カバー材はシャワーキャップに似た形状をしている。他の実施形態においては、同じくシャワーキャップに似た形状またはインプラントに適合する形状をしているが、カバー材は乳房インプラントよりわずかに小さく、インプラントにぴったりと適合するように、典型的には加熱および冷却によって、引き伸ばしおよび収縮することができる。いくつかの実施形態においては、部分的カバー材は、インプラントの後面および最小限量の側面に適合し、特定のインプラントに適合した寸法を保ちながら、成形したシートまたは浅いカップに近似している。本発明の生体分解性カバー材およびシートは被膜拘縮を低減するためおよび周囲組織に薬剤を送達するために有用であり、治癒を促進し、または乳房インプラントに伴う感染、疼痛、および/もしくは他の病的状態を予防する。
【0027】
カバー材の一般的態様
[0038] 本発明によれば、本発明の生体分解性カバー材は、乳房インプラントの少なくとも一部を覆うための寸法および形状を有する1つまたは複数の生体分解性(エラストマー性)ポリマー層を含む。カバー材は、外側表面(これは組織に面しまたはこれと係合する)、内側表面(これはインプラントシェルに面しまたはこれと係合する)およびインプラントを受容するための可撓性開口部を画定する周辺端部を有する。いくつかの実施形態においては、可撓性開口部はインプラントの後面(後部側)に向かって開いている。他の実施形態においては、可撓性開口部はインプラントの前面(前部側)に向かって開いている。そのようなカバー材は、特に後面に開口部を有するものは、シャワーキャップと形状が類似しているように見える。可撓性開口部は引き伸ばして変形させ、シャワーキャップの弾性バンドが装着のために伸び、次いで元のように縮んで入浴者の髪の周囲のシールのようにぴったりと適合するのと同様に、インプラントの周囲に適合させることができる。本発明のカバー材は、乳房インプラント上にシールを形成しないことに留意すべきである。カバー材の別の形状はクラゲ様形状(延長された巻きひげを有する円形キャップ)であり、ここではカバー材は乳房インプラントシェルの一側面を覆う。乳房インプラントシェルの凸状前表面を完全には覆わない前開きまたは後開きカバー材は、「キャップ」様または「クラゲ」様と考えることができ、後者は巻きひげを有するが、この巻きひげは凸状前表面(または後開きの場合は後面)にわたって置かれても、置かれなくてもよい。
【0028】
[0039] 前開きカバー(たとえば小型の低い側面を有するカップまたはキャップ様の形状をした)は、組織化された解剖学的形状のインプラント(涙滴形状)とともに用いることに利点がある。なぜなら、特定の機構に縛られるわけではないが、組織と組織化された表面との相互作用は埋込み後にインプラントを適切な配向に維持するために重要であると考えられるからである。後開きカバーは、それらが一般に表面積が大きく、したがってより多くの薬剤を担持できる能力を有するので、有利である。乳房インプラントは、より大きな開口部を有するカバー材に、より容易に挿入することができ、それにより術中の操作をより少なくし、汚染のリスクをより少なくすることができる。しかし、より小さな可撓性開口部は、カバーが薬剤送達および組織との接触のためにより大きな表面積を有し得ることを意味する。この後者の能力は、被膜拘縮の予防およびポケットの一体性(必要が生じた場合にインプラントの除去を容易にすること)のためには重要であり得る。
【0029】
[0040]
図1に本発明の1つの実施形態の断面図を示す。この実施形態においては、乳房インプラントアセンブリー10は、乳房インプラントシェル30の上に一般に均一な厚さを有するカバー材20を有する。このカバー材は、乳房インプラントシェルの後面または後部側に可撓性開口部を有し、単一の生体分解性ポリマー層から形成されている。
【0030】
[0041] 可撓性開口部は典型的には円形で、インプラントのカバー材への挿入を可能にするため、および/またはインプラントの後面(後面への開口のため)または前面(前面への開口のため)のカバー量の変化を達成するための寸法を有している。可撓性開口部は、カバー材がインプラントを受容して所望の適合性をもってインプラントの周囲に適合するように操作することを可能にする任意の形状をとることができる。たとえば、
図2はインプラント30の上の大きな開口部25を有するカバー材20を示す。
図3は可撓性開口部の代替の実施形態を示す。ここではカバー材20は小さな開口部22およびスリット24を有し、それによりインプラントの後面のより大きな面積を覆っている。単一のスリットは、カバー材を製造するための成形または製造プロセスと適合するならば、可撓性開口部を提供するのに充分であり得る。任意の適当な配列の複数スリットも用いることができる。単独でも組合せでも、スリットの長さ、開口部の寸法または開口部の選択された形状を変化させることができ、それによって充分な寸法および可撓性を有する開口部を提供し、たとえば
図2および
図3に示されるようにカバー材の中にインプラントを挿入することができる。露出された組織化インプラントの前表面全体に接近して残された開口部を有するカバー材の例を
図4に示す。別の実施形態においては、カバー材はデバイスの周囲を取り囲むように設計することができる。円形のインプラントに対しては、カバー材は実質的に円筒形であり、側面に適合するようにカーブする一方、インプラントの前後面の両方に開口部を残す。当業者は、所与の寸法の乳房インプラント用の可撓性開口部のための適切な形状、寸法および構成を容易に決定することができる。
【0031】
[0042] 乳房インプラントは商業的に入手可能で、いくつかの形状および広範囲の寸法で供給される。現在使用されているほとんどの乳房インプラントは生理食塩液が充填された強力なシリコーンエラストマーのシェルからなっているが、シリコーンゲルが充填されたインプラントもまた使用されている。乳房インプラントの形状は、円形、涙滴型、等高線型または解剖学的形状等でよい。涙滴型、等高線型または解剖学的という用語は一般に互換可能で、むしろ乳房の天然の解剖学的形状に近い形状を有するインプラントを記載するためのものである。乳房インプラントの寸法は、デバイス体積(通常cc)、直径および突起(または輪郭)によって特定される。商業的に入手可能なインプラントは120ccから850ccの範囲にあるが、より大きな寸法は特注で作製することができる。本発明によれば、たとえばインプラントの寸法および形状と合致する型を用いることによって、任意のサイズのインプラントに適合する生体分解性カバー材を作製することができる。型の例を
図5に示す。
【0032】
[0043] 本発明のカバー材は任意の寸法の乳房インプラントに合致するように作製することができ、種々の体積の乳房インプラントの範囲に適応するのに充分な可撓性に作製することができる。典型的にはカバー材は特定の体積範囲に設計されるが、約25〜75ccの変動が典型的である。換言すれば、300ccのインプラント用に設計されたカバー材は、275または350ccのインプラントに適応することができる。
【0033】
[0044] 本発明の寸法および形状を有するカバー材のためのポリマー層を調製する方法には、浸漬モールディング、スプレーコーティングおよび従来のまたは当技術分野で既知の他の方法が含まれる。型用の材料はポリプロピレン、ナイロン、Teflon(登録商標)、およびデルリンピーク等のプラスチック、ステンレススチールおよびチタン等の金属、ならびにガラスおよびセラミックス等の従来のものである。カバー材を作製するために用いられるポリマーと適合性のある型を選択することは、当技術分野の範囲内である。たとえば、浸漬コートしたポリマーカバー材は、引き裂きまたは顕著な伸長なしに型から容易に取り出すことができるはずである。
【0034】
ナノ紡糸カバー材
[0045] 別の実施形態においては、本発明のカバー材は、乳房インプラント用生体分解性カバー材であって、該カバー材は、前記乳房インプラントの少なくとも一部を包みまたは覆うための寸法および形状を有する1つまたは複数の生体分解性ポリマー層のナノ繊維のシート、フィルムまたはマットを含む。この実施形態において、包材として用いる場合には、生体分解性カバー材は外側表面および内側表面および2つの周辺端部を有する。たとえば、ナノ繊維カバー材は、乳房インプラントの外側直径の周囲に円筒状に包むことができ、外科医が欲する任意の角度でインプラントの凸状前面に、またはインプラントの平たい後面に置くことができる。そのようなナノ繊維カバー材は、典型的には柔軟で伸長性があり、そのためカバー材は極めて可撓性が高く、それを形成することができる形状および寸法になる。
【0035】
[0046] ナノ繊維は当技術分野で既知の方法で調製することができ、織物または非織物としてシート、フィルムまたはマットに形成することができる。ナノ繊維を調製する好ましい方法においては、ポリマー溶液(任意選択により薬剤を含む)は、シートにまたは型上に電気紡糸することができる。そのような方法においては、ナノ繊維は固化して織物様材料を形成する。たとえば、米国特許第6382526号は、本発明に有用なナノ繊維の製造のためのプロセスおよび装置を開示している。ナノ繊維を形成する任意の方法を用いることができる。ナノ紡糸によって製造されるシート、マットまたはフィルムの性質は、繊維を形成する材料および/または電気紡糸プロセスにおける電極電圧、高電圧および低電圧電極間の距離、チューブの(またはその周りにチューブが作製されるコアワイヤの)回転速度、電場強度、コロナ放電開始電圧またはコロナ放電電流等の製造パラメーターによって決定される。
【0036】
厚さおよび適合性
[0047] 本発明のカバー材はいずれも多層または単層であってよい。カバー材の全厚さは、約25μm〜約500μm、約50μm〜約300μm、約100μm〜約250μm、および約80μm〜120μmの範囲にある。多層カバー材の場合は、それぞれの異なった層は逐次的に前の層にまたはその上に塗布することができる。いくつかの実施形態においては、内側バリアー層は、乳房インプラントシェルの内部またはその上への、カバー材からの薬剤もしくは他の賦形剤の拡散または移動を防止するために用いられる。
【0037】
[0048] 本発明のカバー材のある種の物理機械学的性質は、インプラントシェルのそれと同様である。たとえば、体温において、シェルおよびカバー材の両方は、柔軟で展性がある。カバー材はまたエラストマー性であるので、それらはインプラントの周囲に引き伸ばすことができ、または伸び縮みしてインプラントの周囲にぴったりと適合することができる。あるいは、カバー材は完全に繊維状、編み、織り、または非織り構造から作製されて柔軟性と可撓性を与え、それにより乳房インプラントをぴったりと合ったカバー材の内部に取り付けることができる。
【0038】
[0049] したがってカバー材は、インプラントの周囲に形が合った、ほとんどくっついた様式の堅固な適合度で適合することもできるし、または緩んだもしくはゆったりした方式の低い適合度で適合することもできる。ゆったりした適合を用いる場合は、インプラント間の距離はわずか数mmがよく、好ましくはわずか1〜2mmがよい。
【0039】
生体分解性ポリマー
[0050] 本発明のカバー材は、任意選択で1つまたは複数の薬剤を含む生体分解性ポリマー層から形成される。生体分解性ポリマーを作製する方法は当技術分野でよく知られている。
【0040】
[0051] 本明細書においては、「生体分解性ポリマー」は、加水分解を受けやすい、酸化されやすい、または酵素作用もしくはそれらの任意の組合せを受けやすい生体適合性ポリマーであり、その作用は部分的にでも完全にでもポリマーの分解をもたらす。生体分解性であるポリマーは、たとえば分解生成物の性質および寸法に依存し得る多様な再吸収時間を有することが理解されるであろう。
【0041】
[0052] 生体適合性ポリマーは、生きた組織または生きた系に適合性があり、動物またはヒトにおけるまたはそれらによる使用に対して受容可能なポリマーである。したがって、生体適合性ポリマーは、いかなる顕著なまたは受容できない程度の生理学的損害をも引き起こさず、いかなるまたはいかなる顕著な量の炎症または免疫反応をも引き起こさず、また生きた組織または系に対して毒性または有害性を有しない。たとえば、生体適合性ポリマーは、悪影響なしに、生きた対象または組織に、摂取、埋込み、設置または他の方法で使用することができる。
【0042】
[0053] 多くの生体分解性ポリマーは、本発明のカバー材の製造における使用に適している。本発明において使用するためのポリマーの選択において、ポリマーならびにポリマー−薬剤の組合せのガラス転移温度(Tg)は、他のパラメーターとともに考慮することができる。たとえば、充分に低いTgを有するポリマーは、低温で加圧してフィルムにすることができる。いくつかの薬剤は高温で分解することがあるので、低Tgポリマーは薬剤の存在下においてさえも、熱的方法を使用する可能性を提示している。本明細書においては、低Tgポリマーは、40℃未満のTgを有するポリマーである。たとえば浸漬コーティングによって調製されたもののようなフィルムである本発明のカバー材は、望ましくは約20℃〜約30℃の範囲のTgを有するが、その範囲は約10℃のような低温から体温付近まで、または約40℃までもの範囲で変化してもよい。これらのTg値はカバー材の最終処方(ポリマー、薬剤または他の任意の成分を含む)に対するものである。なぜならポリマーに賦形剤(たとえば薬剤または可塑剤)を添加することによりTgが低下または上昇することがあることがよく知られているからである。
【0043】
[0054] したがって、フィルムが本発明において使用するために充分な可撓性を有しているかどうかを評価する1つの方法は、ポリマーの伸びを測定することである。適切なフィルムは、降伏点における伸びが約10%〜約400%の間であり、伸びが10%未満ではフィルムは一般に剛直すぎ、400%を超えるとしなやかすぎる。
【0044】
[0055] 高いガラス転移温度を有するポリマーは剛直になる傾向があり、フィルムにすると、そのような形態の乳房インプラント用のカバー材における使用には剛直すぎるであろう。そのような場合には、薬剤の組み込みによってガラス転移温度が低下し、剛直なポリマーがより柔軟になって使用により適するようになることがある。あるいは、これらの高Tgポリマーはそのままで本発明に有用である。なぜならそれらはナノ紡糸によって本発明のカバー材に形成するためのフェルトにすることができるからである。そのようなフェルトは、ポリマーそれ自体がフィルムに形成したときに剛直であっても、カバー材を柔軟にする。
【0045】
[0056] 本発明のカバー材を調製するためにポリマー、薬剤および加工方法を選択することは、当技術分野の技能の範囲内である。
【0046】
[0057] したがって、本発明における使用に適した生体分解性ポリマーには、これだけに限らないが、
[0058] ポリ乳酸、ポリグリコール酸ならびにポリ(L−ラクチド)(PLLA)、ポリ(D,L−ラクチド)(PLA)、ポリグリコール酸またはポリグリコリド(PGA)、ポリ(L−ラクチド−co−D,L−ラクチド)(PLLA/PLA)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)(PLLA/PGA)、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)(PLA/PGA)、ポリ(グリコリド−co−トリメチレンカーボネート)(PGA/PTMC)、ポリ(D,L−ラクチド−co−カプロラクトン)(PLA/PCL)およびポリ(グリコリド−co−カプロラクトン)(PGA/PCL)等のそれらのコポリマーおよび混合物;
[0059] ポリ(オキサ)エステル、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリジオキサノン(PDS)、ポリプロピレンフマレート、ポリ(エチルグルタメート−co−グルタミン酸)、ポリ(tert−ブチルオキシ−カルボニルメチルグルタメート)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリカプロラクトン−co−ブチルアクリレート、ポリヒドロキシブチレート(PHBT)およびポリヒドロキシブチレートのコポリマー、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(ホスフェートエステル)、ポリ(アミノ酸)、ポリデプシペプチド、マレイン酸無水物コポリマー、ポリイミノカーボネート、ポリ[(97.5%ジメチル−トリメチレンカーボネート)−co−(2.5%トリメチレンカーボネート)]、ポリ(オルソエステル)、チロシン由来ポリアリレート、チロシン由来ポリカーボネート、チロシン由来ポリイミノカーボネート、チロシン由来ポリホスホネート、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアルキレンオキシド(PAO)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒアルロン酸、キトサンおよび再生セルロース等の多糖、ならびにゼラチンおよびコラーゲン等のタンパク質、ならびにそれらの混合物およびコポリマー、とりわけ上記のいずれかのPEG誘導体またはブレンドが含まれる。カバー材に所望の可撓性、曲げやすさおよび/または柔軟性を付与するこれらすべてのポリマーは、本発明のカバー材を作製するために用いられることを意図している。
【0047】
[0060] いくつかの実施形態において、生体分解性ポリマーは、適当な化学部分と共重合してポリアリレート、ポリカーボネート、ポリイミノカーボネート、ポリホスホネートまたは他の種類のポリマーを形成するジフェノールモノマー単位を有する。
【0048】
[0061] たとえば、生体分解性チロシン由来ポリアリレートには、米国特許第5099060号、第5216115号、第5317077号、第5587507号、第5658995号、第5670602号、第6048521号、第6120491号、第6319492号、第6475477号、第6602497号、第6852308号、第7056493号、RE37,160E、およびRE37,795Eに記載されているもの、ならびに米国特許出願公開第2002/0151668号、第2003/0138488号、第2003/0216307号、第2004/0254334号、第2005/0165203号に記載されているもの、ならびにPCT WO99/52962、WO01/49249、WO01/49311、WO03/091337に記載されているものが含まれる。これらの特許および出版物には、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリイミノカーボネート、ポリチオカーボネート、ポリホスホネートおよびポリエーテルを含むチロシン由来ジフェノールモノマー単位もしくは他のジフェノールモノマー単位を含む他の有用なポリマーも開示されている。
【0049】
[0062] 同様に、前記の特許および出版物にはこれらのポリマーを作製するための方法が記載されており、それらのうちのいくつかの方法は、他の生体分解性ポリマーを合成するために適用することができる。最後に、前記の特許および出版物には、ポリエチレングリコール(PEG)を含むポリアルキレンオキシドとのブレンドおよびコポリマーも記載されている。これらすべてのポリマーは、本発明において使用することを意図している。
【0050】
[0063] 前記のポリマーの代表的な構造は、参照により本明細書に組み込まれる上述の特許および出版物、ならびに実施例および
図6に記載されている。その物理的特性がシリコーンのそれと一致し得るので、ポリアリレートが好ましい。さらに、ポリアリレートは、そのTgの範囲を調節して乳房インプラントの外殻をコートするためのフィルムを形成することができるので、好ましい。
【0051】
[0064] ポリマーおよびそのサブユニットを命名するために本明細書で用いる略語には、B、4−ヒドロキシ安息香酸;BnまたはBz、ベンジル;DまたはDAT、デスアミノチロシンまたはデスアミノチロシル;DATE、デスアミノチロシンエチルエステル;EまたはEt、エチル;glu、グルタレート;MまたはMe、メチル;PEG、ポリエチレングリコール;Succ、スクシネート;およびT、チロシンが含まれる。
【0052】
[0065] 本明細書においては、ジフェノールモノマー単位に基づくポリマーは2つの部分名を有する。第1部分はジフェノール部分を識別し、第2部分はジフェノール部分が共重合する基を識別する。名称はポリ(ジフェノール二酸)、ポリ(ジフェノールカーボネート)、ポリ(ジフェノールイミノカーボネート)等の形式で書かれる。
【0053】
[0066] ジフェノール部分は一般に、その3成分、すなわち2つの芳香族環部分およびチロシンエステル部分によって命名される。たとえば、DTEはデスアミノチロシル−チロシンエチルエステルであり、DTBnはデスアミノチロシル−チロシンベンジルエステルである。(エステルではなく)遊離酸が存在する場合、第3成分の名称は省略される。したがって、DTは対応する遊離酸の形態、すなわちデスアミノチロシル−チロシンであり、BTEはジフェノールモノマー4−ヒドロキシ安息香酸−チロシンエチルエステルであり、BTは対応する遊離酸の形態、すなわち4−ヒドロキシ安息香酸−チロシンである。
【0054】
[0067] 名称の第2部分は、二酸、カーボネート、イミノカーボネート等の、ジフェノール部分がそれと重合する基を識別する。したがって、具体例にはポリ(DTEグルタレート)、ポリ(DTBnカーボネート)等が含まれる。
【0055】
[0068] ジフェノール部分または共重合した基(2つの二酸等)の混合物がポリマー中に存在する場合には、名称のその部分に記号「co」が含まれてもよく、または2つの部分の一方の百分率の表示とともにハイフンを有してもよい。たとえば、ポリ(DTE:10DT−co−スクシネート)およびポリ(DTE−10−DTスクシネート)は互換的に用いられ、90%デスアミノチロシル−チロシンエチルエステルと10%デスアミノチロシル−チロシンとの混合物を二酸であるコハク酸と共重合することによって作製されたポリマーを意味する。混合二酸の例は、ポリ(DTE−co−50:50PEG−ビス−スクシネートアジペート)である。
【0056】
[0069] さらなる好ましいポリアリレートは、デスアミノチロシル−チロシン(DT)とデスアミノチロシル−チロシンエステル(DTエステル)とのランダムコポリマーであり、このコポリマーは約0.001%DT〜約80%DTを含み、エステル部分は18個までの炭素原子を有する分枝または非分枝アルキル、アルキルアリール、またはアルキレンエーテル基であってよく、そのいずれの基も任意選択でその中にポリアルキレンオキシドを有してもよい。同様に、ポリアリレートの別の基は前記のものと同様であるが、デスアミノチロシル部分は4−ヒドロキシベンゾイル部分によって置き換えられる。好ましいDTまたはBT含量には、DTまたはBTが約1%〜約30%、約5%〜約30%、約10〜約30%のコポリマーが含まれる。好ましい二酸(ポリアリレートを形成する際に用いられる)には、コハク酸、グルタル酸、セバシン酸、アジピン酸およびグリコール酸、ならびにPEGまたは他のPAOおよび米国特許第7271234号に記載されたポリエチレングリコール−ビス−アルキル二酸等のポリエチレングリコール二酸が含まれる。
【0057】
[0070] 本発明に有用なさらなる生体分解性ポリマーは、2005年11月3日に出願された米国仮特許出願第60/733988号およびその対応PCT出願である2006年11月3日に出願されたPCT/US06/42944に開示された生体分解性、再吸収性ポリアリレートおよびポリカーボネートである。これらのポリマーには、これだけに限らないが、BTEグルタレート、DTMグルタレート、DTプロピルアミドグルタレート、DTグリシンアミドグルタレート、BTEスクシネート、BTMスクシネート、BTEスクシネートPEG、BTMスクシネートPEG、DTMスクシネートPEG、DTMスクシネート、DT N−ヒドロキシスクシンイミドスクシネート、DTグルコサミンスクシネート、DTグルコサミングルタレート、DT PEGエステルスクシネート、DT PEGアミドスクシネート、DT PEGエステルグルタレートおよびDT PEGエステルスクシネートが含まれる。
【0058】
[0071] 有用なチロシン由来ポリアリレートは、DTE−DTスクシネートファミリーのポリマー、たとえば約1、2、5、10、15、20、25、27.5、30、35、40%、45%および50%DTを含むが、これに限らない、0〜50%、5〜50%、5〜40%、1〜30%または10〜30%DTを有するポリマーである。
【0059】
[0072] さらに、本発明において用いられるポリアリレートポリマーは、米国仮特許出願第60/733988号に記載されているような分解プロセスを促進するために、0.1〜99.9%のPEG基またはPEG二酸基(
図6の下のポリマーを参照)を有してもよい。
【0060】
[0073] 本発明において有用なさらなる生体分解性ポリマーは、2007年5月2日に出願された米国仮特許出願第60/915673号に記載されたジヒドロキシ安息香酸(DHB)系ポリマーであり、DHB系ポリマーと本明細書に記載された任意の生体分解性ポリマーとのコポリマーおよびブレンドを含む。たとえば、DHB系ポリマーは、二酸または他の適合性部分と重合したDHBエステルとDHB遊離酸との混合物を有してもよい。同様に、DHB系ポリマーは、コハク酸、グルタル酸またはアジピン酸等の二酸とPEGビス−スクシネート、PEGビス−グルタレートまたはPEG ビス−アジペートとの混合物とともに重合することができる。PEGビス−スクシネート二酸を
図6の下のポリマーに示す。これらすべての組合せは、たとえば米国特許第5658995号または第6120491号に示されるようなポリアルキレンオキシドとの共重合と同様に意図される。
【0061】
[0074] ある種のポリアリレートは固有の微細組織化を有し、これは乳房インプラント上に一時的に組織化された外側表面を形成する際に望ましい。特定の理論に限定するものではないが、この固有の微細組織化はいくつかの異なった機構の結果として生じる。第1に、ポリアリレート幹は硬セグメント(芳香族単位)および軟セグメント(脂肪族二酸単位)からなると考えることができる。硬および軟単位を有するポリマーは相分離することが知られており、これにより異なった組織を有するミクロドメインが生じる。第2に、ポリアリレート側鎖は、その可撓性に基づいて選択することができる。ポリアリレート幹とは異なった可撓性を有する側鎖は、ポリアリレート幹から相分離し、異なった構造および異なった組織を有するミクロドメインを生じるであろう。第3に、比較的疎水性のポリアリレートと親水性のポリマーとを共重合することによって、比較的疎水性および親水性のドメインへの相分離が起こり得る。最後に、ポリアリレートとポリアリレートに比較的溶解しにくい薬剤との製剤化によって、相分離およびミクロドメイン形成が起こり得る。
【0062】
[0075] 微細組織化は、異なった水接触角を有する2つの異なったポリマーをブレンドすることによっても創出することができる。
【0063】
[0076] 本発明における使用を意図したポリマーには、これだけに限らないが、
[0077] 1)p(85:15 DTE:DT−co−スクシネート)
[0078] 2)p(90:10 DTE:DT−co−アジペート)
[0079] 3)p(DTE−co−50:50 PEG400ビス−スクシネート:アジペート)
[0080] 4)p(DTE−co−50:50 PEG600酸:アジペート)
[0081] 5)p(DTE−co−10:90 PEG600酸:アジペート)
[0082] 6)p(DTE−co−10:90 PEG400酸:アジペート)
[0083] 7)p(DTE−co−30:70 PEG400ビス−スクシネート:アジペート)
[0084] 8)p(70:30 DTE:PEGアルコール−co−グルタレート)
[0085] 9)p(DHBメチルエステル−co−グルタレート)
[0086] 10)p(85:15 DHBメチルエステル:DHB−co−グルタレート)
[0087] 11)p(85:15 DHBベンズアミド:DHB−co−グルタレート)
[0088] 12)p(DHBメチルエステル−co−15:85 PEG400ビス−グルタレート:グルタレート)が含まれる。
【0064】
[0089] 本発明における使用を意図したブレンドには、これだけに限らないが、上にリストしたポリマー(1)〜(12)のブレンドが含まれ、その中にはポリマー1および4の50:50ブレンド、ポリマー2および3の50:50ブレンド、ポリマー3および5の50:50ブレンド、ポリマー9および12の20:80ブレンド、ポリマー10および12の20:80ブレンドならびにポリマー11および12の20:80ブレンドが含まれる。
層
【0065】
[0090] 本発明によれば、カバー材は1つまたは複数の生体分解性ポリマー層を有する。カバー材中の層の配置は実施形態により異なってもよい。それぞれの層は、1回または複数回の浸漬、コーティングもしくはポリマー溶液の塗布、またはナノ繊維の形成によって形成することができる。それぞれの層には任意選択により1つまたは複数の生物学的活性薬剤を含有させることができる。たとえば、本発明のカバー材は、(a)単一または複数の平滑ポリマー層;(b)単一または複数の組織化ポリマー層;(c)内側バリアー層および外側平滑ポリマー層;(d)内側バリアー層、中間ポリマー層、および外側組織化ポリマー層を有することができる。これの任意の変形が意図される。
【0066】
[0091] いくつかの実施形態においては、本発明のカバー材は内側生体吸収性バリアー層を有する。この層は、カバー材の1つまたは複数の中央および/または外側層における任意の薬剤、賦形剤またはポリマー分解生成物の乳房インプラントのシェル内への移動または拡散(これはシェルの破裂または損傷をもたらすことがある)を防止することができる。バリアーはまた、任意の活性成分を周囲組織に導くことができる。バリアー層は、外側層にいかなる薬剤も存在せずに用いることもできる。
【0067】
[0092] 適当なバリアーコーティング材料には水溶性ポリマー性生体分解性医薬賦形剤が含まれ、その中には、これだけに限らないが、アカシア、寒天、アルブミン、アルギン酸、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸カルシウム、カルボマー、カルボキシメチルセルロース、カラギーナン、セラトニア、キトサン、クロスメロースナトリウム、ゼラチン、グアーガム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、メチルセルロース、ペクチン、ポリカルボフィル、ポリデキストロース、ガントレツ、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテートフタレート、アルギン酸カリウム、アルギン酸プロピレングリコール、デンプンナトリウム、トラガカント、キサンタンガム、グリコレート、前もってゲル化したデンプン、ならびに前記のいずれかの薬学的に許容される塩が含まれる。
【0068】
[0093] バリアー層は、カバー材の他のポリマー層を調製する際に用いられる溶媒の使用に適合させるために、有機溶媒の浸透に抵抗性であるべきである。バリアー層はまた薬剤溶出に抵抗性であるべきである。薬剤溶出は通常、非常に疎水性の薬剤が、シリコーン等の同様に疎水性のポリマー内に移動する際に起こる。したがって、好ましいバリアーは通常、高度に親水性で水溶性である。テトラヒドロフラン(THF)および塩化メチレンを浸透させないバリアー層用の好ましいポリマーには、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム、Carbopol 971P NF、Carbopol 974P NFおよびポリビニルアルコールが含まれる。
【0069】
薬剤
[0094] 本発明のカバー材を調製するプロセスに適合する任意の薬剤、生物学的剤、または活性成分は、ポリマー性生体分解性層の1つまたは複数に組み込むことができる。
【0070】
[0095] さらに、埋込み中に手術部位に送達することが望ましい任意の薬剤または生物学的活性剤は、カバー材のポリマー層の1つまたは複数に処方することができる。そのような薬剤および剤の用量は当技術分野で知られている。したがって、当業者は送達が望ましい薬剤または剤の量を決定することができ、また特定の体積の乳房インプラントへのコーティングのポリマー層に担持させるべき量を計算することができる。たとえば、乳房インプラントは厚さが既知の薄いカバー材を有する半球または四分の一球としてモデル化することができる。
【0071】
[0096] 薬剤溶出時間は、薬剤とその作用の時間経過に基づいて決定することができ、一般に3〜100日の経過にわたる。たとえば、7〜10日の(またはそれを超える)抗生物質活性は、インプラントのコロニー化を防止または低減するのに充分であり、それにより被膜拘縮(または、たとえば臨床試験で評価することができるその総発生率)を防止または低減することができる。
【0072】
[0097] 本発明によれば、カバー材のポリマー層への処方のための薬剤および生物学的活性剤には、これだけに限らないが、麻酔薬、抗生物質(別名、抗菌剤または抗バクテリア剤)、抗炎症剤、線維化阻害剤、抗瘢痕化剤、ロイコトリエン阻害剤/拮抗剤、細胞増殖阻害剤等が含まれる。
【0073】
[0098] 本明細書においては、「薬剤」は小分子であっても、タンパク質、核酸等の大分子であっても、すべての型の治療薬を含んで用いられる。本発明の薬剤は、単独または組み合わせて用いることができる。
【0074】
[0099] 非ステロイド抗炎症剤の例には、これだけに限らないが、アセトアミノフェン、アスピリン、セレコキシブ、ジクロフェナク、ジフルニサル、フルルビプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、ケトロラク、メクロフェナメート、メロキシカム、サリチル酸メチル、ナブメトン、ナプロキセン、オキサプロジン、ピロキシカム、スリンダク、トルメチンおよびトロラミンが含まれる。
【0075】
[00100] 麻酔薬の例には、これだけに限らないが、リドカイン、ブピバカイン、メピバカインおよびキシロカインが含まれる。局部麻酔薬は弱い抗菌性があり、急性疼痛および感染の防止において二重の役割を果たし得る。
【0076】
[00101] 抗菌剤の例には、これだけに限らないが、
[00102] アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ストレプトマイシン、およびトブラマイシン等のアミノグリコシド;
バシトラシン、クリンダマイシン、ダプトマイシン、リンコマイシン、リネゾリド、メトロニド、ポリミキシン、リファキシミン、バンコマイシン等の抗生物質;
セファゾリン等のセファロスポリン類;
エリスロマイシン、アジスロマイシン等のマクロライド抗生物質;
ペニシリン等のβ−ラクタム抗生物質;
シプロフロキサシン等のキノロン類;
スルファジアジン等のスルホンアミド類;
ミノサイクリンおよびテトラサイクリン等のテトラサイクリン類;および
リファンピン、トリクロサンおよびクロルヘキシジン等の他の抗生物質が含まれる。
【0077】
[00103] 本発明のカバー材のポリマー層に組み込むことができる他の薬剤には、これだけに限らないが、ケフレックス、アシクロビル、セフラジン、マルファレン、プロカイン、エフェドリン、アドリアマイシン、ダウノマイシン、プルムバギン、アトロピン、キニン、ジゴキシン、キニジン、生物学的活性ペプチド、セフラジン、セファロチン、cis−ヒドロキシル−L−プロリン、メルファラン、ペニシリンV、ニコチン酸、ケモデオキシコール酸、クロラムブシルならびにパクリタキセル、シロリムス、5−フルオロウラシル等の抗新生物薬等が含まれる。他の薬剤には、血管増殖阻害剤として作用するものまたは上皮細胞増殖因子、PDGF、VEGF、FGF(線維芽細胞増殖因子)等の種々の増殖因子を阻害するものが含まれる。これらの薬剤には、抗増殖因子抗体(ニュートロフィン−1)、エンドスタチンおよびサリドマイド等の増殖因子受容体特異的阻害剤が含まれる。
【0078】
[00104] 本発明の好ましい抗菌剤には、リファンピン、ミノサイクリン、ゲンタマイシン、バンコマイシン、トリクロサンの単独または組合せが含まれる。リファンピンおよびミノサイクリンは、抗菌剤の好ましい組合せである。
【0079】
[00105] ロイコトリエン阻害剤/拮抗剤の例には、これだけに限らないが、アシタザノラスト、イラルカスト、モンテルカスト、プランルカスト、ベルルカスト、ザフィルルカスト、およびジレウトン等のロイコトリエン受容体拮抗剤が含まれる。
【0080】
[00106] 本発明のカバー材に組み込むことができる別の薬剤は、2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム(Mesna)であり、これはウサギにおいてインプラントの周囲の被膜形成を低減することが示されている(Ajmalら,(2003)Plast. Reconstr. Surg. 112:1455-1461頁)。被膜形成を低減する他の薬剤は、本発明のカバー材に組み込むことができる。
【0081】
カバー材および乳房インプラントのアセンブリー
[00107] 製造後、本発明のカバー材は手術直前に乳房インプラントに組み立てるために、包装および滅菌することができる。あるいは、本発明のカバー材は、完成した乳房インプラントアセンブリーを手術室に送達できるように、製造時に乳房インプラントに組み立て、包装、滅菌することができる。いずれの場合でも、カバー材を取り扱う際には、清潔で滅菌された手袋および/または非傷害性の器具を用いるべきである。
【0082】
[00108] 本発明のカバー材は、いくつかの異なった方法により乳房インプラント挿入用に調製することができる。たとえば、カバー材を無菌で送達し、拡張バルーンまたは他の支持体等の補綴形態上で前もって拡張することができる。使用直前にバルーンを収縮させまたは支持体を他の方法で変化させて、拡張したシェルを取り出し、インプラントの凸状(前面)側を完全に覆って乳房インプラントをカバー材内に配置し、インプラントの側面全体をカバー材の挿入穴に対面させることができる。そのような実施形態により、手術中に必要なカバーの取扱量が最小になるであろう。
【0083】
[00109] あるいは、カバー材が37℃またはその付近もしくは近傍に少なくとも1つのガラス転移温度を有する場合には、カバー材を拡張しないままで外科医に送達することができる。この場合には、インプラントを挿入する前に、挿入穴の内部に指を入れてカバー材を両手で無菌的に掴み、より広い形状になるように穏やかに穴を引っ張ることによって、カバー材を引き伸ばすことができる。
【0084】
[00110] 別の選択肢として、引き伸ばしおよびインプラントの挿入の前に、滅菌生理食塩液浴(潅注溶液)中で、または滅菌もしくは無菌条件が維持されているオーブン内で、カバー材を穏やかに温めることができる。インプラントがカバー材の中に適切に配置されれば、室温付近にガラス転移温度を有するカバー材はインプラントの形に沿って自然に戻るはずである。カバー材/インプラントの組合せを穏やかに探ることおよび/または捏ねることによって、カバー材をインプラントの周囲でさらに操作することができる。平滑なインプラントを滅菌生理食塩液中に数秒間浸漬することにより、カバー材内部へのインプラントの配置を容易にすることもできる。なぜなら、それによって表面が滑りやすくなり、カバー材がインプラントの周囲でより容易に滑ることができるようになるからである。
【0085】
[00111] たとえば、厚さ約100ミクロン、直径約12cmで、約5cmの挿入穴を有するカバー材を、挿入穴の両側を掴んで、15〜30秒、反対方向に引くことによって、穏やかに引き伸ばすことができる。次いでカバー材を90度回転させ、挿入穴の幅が約7〜10cmになるまでこのプロセスを繰り返す。この寸法のカバー材においては、一方の手でインプラントの2つの対辺を掴み、別の手でカバー材を開いて保持することによって、300ccまたは340ccの平滑なインプラントがカバー材の挿入穴に押し込まれる。カバー材内部のインプラントを指で探り、その後でカバー材の凸状外側表面をならすことによって、インプラントをカバー材内部で整列させることができる。カバー材がインプラント上に配置されれば、この組合せを加温した潅注溶液内に入れることによって、インプラント周囲でのカバー材の収縮および形合わせを容易にすることができる。
【0086】
[00112] 一旦カバー材と形が合えば、標準の乳房再建または豊胸手術手技を用いて、インプラントアセンブリーを患者に挿入することができる。乳房再建は通常、乳房全切除術の後に生じるが、乳房の先天的変形または外傷性傷害に対しても実施することができる。豊胸術は典型的には美容的理由によって女性によって実施される。しかし、本発明のカバー材は、トランスジェンダー手術に関連する乳房インプラントとともに用いることができる。
【0087】
追加的態様
[00113] 本発明の別の態様は、乳房インプラントおよび本発明の任意の生体分解性カバー材を含むキットを対象としている。該キットは、添付のインプラントをカバー材に挿入するための取扱説明書を任意選択で含む。キット内のカバー材は、キットとともに供給されるインプラントと寸法が合致している。キットは滅菌されている。手術時にキットを開き、インプラントを本明細書に記載されたようにカバー材に挿入する。
【0088】
[00114] あるいは、キットは本発明の乳房インプラントアセンブリーからなっていてもよい。そのようなアセンブリーは、乳房インプラントを含むまたはその周囲を包む本発明の生体分解性カバー材のいずれか1つを含む。上記のキットと同様に、アセンブリーのカバー材およびインプラントは、適切に寸法が合致している。
【0089】
[00115] 本発明のさらなる態様は、対象者における豊胸術、乳房再建または乳房修復による術後合併症を低減する方法を対象としており、これは本発明の乳房インプラントアセンブリーを外科的に対象者に埋め込むことを含む。本発明のアセンブリーは、標準的な外科的豊胸術、再建または修復手順で用いられ、それらの手順において何ら主な変更または複雑化に導くものではない。実際、インプラントシェルが収縮するか破裂する際に起こり得るような追加手順において、本発明のそのようなアセンブリーを交換する必要が生じた場合には、その手順は容易になるであろう。なぜなら、インプラントシェルには成長中の組織がほとんどまたは全くなく、また本発明によるカバー材を当初に有していなかったシェルよりも容易に除去することができるはずであるからである。
【0090】
[00116] 本発明の範囲から逸脱することなく、上述の発明に種々の削除、追加および修正を行なうことが可能であること、およびそのような修正および変更のすべては添付した特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内にあることが意図されていることは、当業者には認識されるであろう。引用したすべての参考文献、特許、特許出願または他の文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例1】
【0091】
ポリマー合成
[00117] 実施例2〜5および9〜11で用いたポリマーのリストを表1に示し、それらの構造を
図6に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
[00118] これらのポリマーおよび一般にチロシン由来ジフェノールポリアリレートポリマーは、米国特許第5216115号および第5597507号に一般的に記載されている方法により、カルボジイミド介在カップリング反応を用いて合成した。簡単には、ジオールおよび二酸の等モル量を、塩化メチレン中でカップリング剤としてジイソプロピルカルボジイミドを用いて、ジメチルアミノピリジンおよびp−トルエンスルホン酸触媒の存在下で縮合した。遊離酸部分を含むポリアリレートについて同様の合成を行ない、その後に米国特許第6120491号に記載されている方法で水素化を行なった。ポリマーは通常、イソプロパノールからの沈殿を繰り返すことによって分離した。
【0094】
[00119] p(DTE:15%DT−co−スクシネート)の合成の例示的な例として、85%DTEと15%DTBnとの混合物を等モル量のコハク酸と縮合した。重合が完了した後、ポリマーを水素化してチロシンベンジルエステルを遊離酸に転化し、p(DTE:15%DT−co−スクシネート)を得た。混合二酸を用いた例では、PEG400ビス−スクシネートとアジピン酸との50:50混合物を等モル量のDTEと縮合することによって、p(DTE−co−50:50PEG400ビス−スクシネート:アジペート)を合成した。
【実施例2】
【0095】
乳房インプラントカバー材の調製:成形
[00120] 表1のポリマー1の10gとポリマー2の10gとを、テトラヒドロフラン(THF)180mLとメタノール(MeOH)20mL中で混合することによってポリマーブレンドを調製し、ポリマーが1:1比(w/w)の10%(w/v)溶液を得た。ポリマーが溶解した後に、リファンピン1.1gとミノサイクリン1.1gをそれぞれの溶液に添加し、よく混合した。乳房インプラントの形状をもったポリプロピレンまたはデルリンの型をホルダーに固定し、DipTech Systems,Inc.社製の浸漬機を用いて、溶液にゆっくりと出し入れして浸漬した。それぞれの連続的な浸漬の間に60分の間隔をおいて、それぞれの型に5回の浸漬を適用した。浸漬した型を室温で24時間乾燥し、その後55℃のオーブンで16時間乾燥した。乾燥後に、成形ポリマー溶液から乳房インプラントカバー材が製造され、これは型から容易に剥離した。
【実施例3】
【0096】
薬剤放出研究
[00121] 表1のポリマー1の1gとポリマー2の1gとを塩化メチレン15mL中で混合することによって、薬剤放出研究用のポリマーブレンドフィルムを調製した。ポリマーが溶解した後に、リファンピン0.2gおよびミノサイクリン0.2gを添加し、よく混合した。溶液をTEFLON(登録商標)被覆ガラス表面に注ぎ、薄塗りナイフで0.25mmに伸ばした。アルミニウム箔で包んだガラス皿でフィルムを覆い、室温で一夜乾燥した。フィルムを剥ぎ取り、琥珀色の袋に入れて真空オーブン中25℃で3日間乾燥した。乾燥したフィルムを約10mgの小片に切断し、PBS10mLを含む20mLのバイアルに入れた。分析のため定期的に一定量の緩衝液を取り出し、新鮮な緩衝液で置換した。試料をHPLCで分析し、放出されたリファンピンおよびミノサイクリンの累積量を決定した。
【0097】
[00122] これらのブレンドにおいて、ミノサイクリンの約40%〜約85%が15日以内に放出され、リファンピンの約45%〜約70%が20日以内に放出された(
図7)。
【実施例4】
【0098】
カバー材の厚さ
[00123] 層の厚さは粘度に依存し、その粘度は浸漬溶液中のポリマー濃度に依存する。9:1THF:MeOH中の全濃度10%、15%または20%(w/v)における1:1比のポリマーの溶液について、ブレンド2およびブレンド3の粘度を決定した。
図8の結果は、粘度(72°Fにおける流動時間として測定)がポリマー濃度とともに増加することを示す。
【0099】
[00124] カバー材の厚さは、浸漬回数を増加することによって増加させることができる。9:1THF:MeOH中10%ブレンド3の溶液を調製した。この溶液を、実施例2に記載された複数浸漬および乾燥によってカバー材を製造するために用いた。
図9は、5回の浸漬で調製したカバー材の厚さが約80〜85μmである一方、6回の浸漬で調製したカバー材の厚さは少なくとも約125〜130μmであったことを示す。
[00125]
【実施例5】
【0100】
組織化乳房インプラントカバー材:成形
[00126] ポリマー−薬剤溶液にカンファー1.1gを加えたこと以外は実施例2に記載のように、ブレンド1および薬剤を用いてカバー材を調製した。溶液中への型の浸漬に進む前にカンファーを完全に溶解させるようにした。55℃で乾燥した後、型を真空下30℃で48時間乾燥した。この時間内にカンファーが昇華し、後に組織化表面が残った。カバー材は容易に型から剥離した。
【実施例6】
【0101】
組織化乳房インプラントカバー材:層状成形
[00127] 実施例2に記載のようにブレンド1および薬剤を用いてカバー材を調製し、型に4回の浸漬を適用した。実施例4に記載のようにカンファー含有ポリマー−薬剤溶液も調製し、コートした型をカンファー−ポリマー−薬剤溶液に1回浸漬した。実施例4のようにして、すなわち室温で24時間、55℃のオーブンで16時間、および真空下30℃で48時間、乾燥を進めた。再び、カンファーが昇華し、後に組織化表面が残った。カバー材は容易に型から剥離した。
【実施例7】
【0102】
予め形成した組織化乳房インプラントカバー材:電気紡糸
[00128] たとえばSubbiahら(2005年)J.Appl.Poly.Sci.96:557〜569頁に記載のようにナノ繊維を製造する条件下で、DTE:27.5DTスクシネート8g、リファンピン1gおよびミノサイクリン1gのクロロホルム50mL溶液をマンドレル(2.5インチ×3インチ×0.5インチ)上に電気紡糸することによって、ポリアリレート繊維のマットを調製する。乾燥後、マットを取り出し、成形して乳房インプラントカバー材を準備する。
【実施例8】
【0103】
包んだ組織化乳房インプラントカバー材:電気紡糸
[00129] ポリアリレート繊維を平坦な表面上に紡糸したこと以外は実施例7に記載のように、平坦な200μm厚のマットを調製した。乳房インプラントの周囲を包むために、このマットから3インチ×5インチの片を切り出した。
【実施例9】
【0104】
用量
[00130] 特定の薬剤用量を送達することができる乳房インプラントカバー材を製造する浸漬溶液を調製するために必要な薬剤の量を、円形の乳房インプラントを半球または四分の一球に相当する球状キャップとして近似して、種々の体積の乳房インプラントについて計算した。したがって、体積125cm
3で球状半径3.9cmの円形インプラントは、半球モデルでは表面積144cm
2を有し、一方四分の一球モデルでは表面積は182cm
2で、計算された球状半径は5.8cmである。ポリマーマトリックス中に10%の薬剤を含ませて調製した体積125cm
3のインプラント用の100μm厚のインプラントカバー材は、半球モデルにおいては薬剤187mgを有し、300μm厚のインプラントは薬剤561mgを有することになる。
【実施例10】
【0105】
組織化試料からのゲンタマイシンの放出
[00131] 溶媒キャスティング法を用いて、ゲンタマイシン含有組織化ポリマー試料を調製した。これらの研究において、溶液/懸濁液を下記のように調製した。試料1:1,4−ジオキサン4mL中DTE:10%DTスクシネート0.4gおよびゲンタマイシン(GM)100mg;試料2:1,4−ジオキサン6mL中DTE:10%DTスクシネート0.3g、GM75mgおよびカンファー1g;ならびに試料3:1,4−ジオキサン3mLおよび水0.3mL中にDTE0.3gおよびNaCl7gを混合した。溶液/懸濁液を溶媒キャストし、乾燥してフィルムを形成した。試料3を部分的に乾燥した後、フィルムを冷水4Lに浸漬してAgNO
3テストが陰性になるまで1時間ごとに交換することによって、NaClを除去した。フィルムは次に、GM75mg/mLの水溶液をフィルムを通してポンプで送り、次に完全に乾燥することによって、GMを担持させた。
【0106】
[00132] 試料1〜3を同一寸法の片にして、PBS中37℃でインキュベートし、一定期間ごとに溶液をサンプリングしてGM含量を分析することによって、GM放出を時間の関数として決定した。GM含量は、試料の一定量、イソプロパノールおよび試薬溶液を1:1:1で混合することにより、分光学的定量法で決定した。吸光度は、ポリスチレンキュベットを用いて332nmで混合後10〜40分の間に測定した。試薬溶液は、o−フタルジアルデヒド2.5g、メタノール62.5ml、2−メルカプトエタノール3mlおよび0.04M四ホウ酸ナトリウム蒸留水溶液560mlからなっていた。
【0107】
[00133] 試料1〜3中のGM量は、それぞれ20.65%±3.85%、15.60%±1.13%および46.04%±11.85%であった。試料1は微細組織化を有し、試料2は微細組織化および空孔2(カンファーの昇華後に残存)を有し、また試料3は微細組織化および空孔(塩の溶出の後に残存)を有する。GM放出の速度および全百分率は3試料のすべてについて同様であった(
図10)。
【実施例11】
【0108】
バリアー層を有する乳房インプラントカバー材
[00134] ヒドロキシエチルセルロース(HEC)10gを水200mlに溶解することにより、HECの5%水溶液を調製した。乳房インプラントの形状を有するシリコーン型をホルダーに固定して、溶液にゆっくりと浸漬し、ゆっくりと取り出した。それぞれの連続的な浸漬の間に30分の間隔をおいて、50℃でそれぞれの型に4回の浸漬を適用した。浸漬した型を50℃で一夜乾燥した。
【0109】
[00135] 表1のポリマー1の10gとポリマー2の10gとを、テトラヒドロフラン(THF)180mLとメタノール(MeOH)20mL中で混合することによってブレンド3を調製し、ポリマーが1:1比(w/w)の10%(w/v)溶液を得た。ポリマーが溶解した後に、リファンピン0.55gとミノサイクリン0.55gをそれぞれの溶液に添加し、よく混合した。上述のようにHECでプレコートしたシリコーン型をホルダーに固定し、溶液にゆっくりと出し入れして浸漬した。それぞれの連続的な浸漬の間に15〜20分の間隔をおいて、それぞれの型に5回の浸漬を適用した。浸漬した型を室温で一夜乾燥し、次いで50℃で24時間乾燥した。乾燥後、成形ポリマー溶液からHECバリアー層と抗生物質含有生体分解性層を有する乳房インプラントカバー材が製造され、これは型から容易に剥離した。透明なシリコーン型は透明なままであり(黄色の着色なし)、HEC層が薬剤のシリコーンへの拡散を防止するバリアーとしての役割を果たしたことを示した。
【実施例12】
【0110】
抗菌性カバー材におけるZOI抗生物質活性
[00136] ポリマーブレンド3、リファンピンおよびミノサイクリンを用い、適当な寸法の型(マンドレル)を用いて実施例2に記載のように、ウサギの寸法のシリコーン乳房インプラント(直径約3cm)用カバー材を調製した。カバー材から直径1cmのディスクを切り出した。
【0111】
[00137] 種々の細菌の臨床的および/または実験室的分離株に対する抗生物質活性を、抗生物質感受性用のKirby−Bauer試験を用いてポリマーフィルムについて評価した。試験した細菌には、Staphylococcus epidermidis(メチシリン耐性、臨床的分離株)、Staphylococcus aureus(メチシリン耐性)、Enteroccus faecalis(バンコマイシン耐性)およびEscherchia coliが含まれていた。
【0112】
[00138] 保存培養液をトリプシンソイアガー(TSA)に移して37℃で18〜24時間、好気的にインキュベートし、ハーベストして使用した。数個のコロニーを無菌スワブでTSAプレートから取り出し、濁度がMcFarlandの#0.5標準に達するまで無菌PBSに接種した。Mueller−Hinton IIアガー(MHA)上にローンストリーク(3本の交差ストリーク)を行なうことによってプレートを調製し、使用前に10〜15分乾燥させた。
【0113】
[00139] ディスクを無菌生理食塩液に37℃で1分間浸漬し、予熱したMHAプレート(プレート1枚あたりディスク1枚;それぞれのフィルムについて3回実施)の中央部に堅く押し付け、37℃でインキュベートした。無菌ピンセットを用いて、24時間ごとに片を新鮮な予熱したMHAプレートに移した。試料から阻害ゾーン(ZOI)の外縁までの距離を24時間ごとに測定した。表2に結果を示す。5〜6より大きなZOIは、細菌が抗生物質に感受性であったことを示す。
【0114】
【表2】
【実施例13】
【0115】
ウサギインプラント
[00140] 感染防止におけるカバー材の効果をウサギモデルで評価した。簡単には、カバーした乳房インプラントおよび対照を外科的にウサギに埋め込み、インプラントポケットにS.aureus細菌を直接接種し、下記のように感染性および炎症について評価した。
【0116】
[00141] ポリマーブレンド3、リファンピンおよびミノサイクリンを用い、適当な寸法の型(マンドレル)を用いて実施例2に記載のように、ウサギの寸法のシリコーン乳房インプラント(直径約3cm)用のカバー材を調製した。
【0117】
細菌接種材料の調製
[00142] 手術の前日に、解凍したストック80μLをトリプチケースソイブロス20mL中で37℃水浴中一夜振盪(4ストック)して培養することによって、凍結ストックから液体S.aureus培養液を調製した。一夜培養液を2本の50mL円錐チューブにまとめ(40ml/チューブ)、遠心分離し、細菌ペレットを新鮮な無菌生理食塩液20mLに再懸濁した。濃度を分光光度法によって決定し、TSAプレート上の1mLあたりのコロニー形成単位(CFU)によって確認した。細菌懸濁液を、埋め込むべきウサギのインプラント1つあたり培養液1mLを送達するための必要に応じて希釈し、試料の一定量をTSAプレートに載せてCFU/mLを確認した。
【0118】
手術
[00143] 対照インプラント、20%ベタジン生理食塩液溶液で潅注した対照インプラント、または抗菌性カバー材を有するインプラントを受容させるため、ウサギを3匹ずつ3群に分けた。それぞれの動物に、背柱のそれぞれの側の僧帽筋の胸部を通して外科的に皮下ポケットを形成した。したがってそれぞれのウサギに2個のインプラントを受容させた。別の切開を形成し、それを通して、細菌接種材料送達のためにポケットの中にカテーテルを潜らせた。ポケット1つあたり1個のデバイスを設置し、ポケットを外科的に閉じた。閉鎖後、カテーテルを通してポケットに1回分分量のS.aureusを送達し、カテーテルを抜去し、巾着縫合によって切開を閉じた。動物を回復させ、術後7日まで飼養した。7日後に血液を抜いて動物を安楽死させ、ポケットを無菌的に開いた。
【0119】
[00144] デバイスを取り出し、生理食塩液/Tween緩衝液(0.5%Tween−80)中に入れ、下記のようにしてデバイスから細菌を回収した。無菌スワブでポケットをぬぐい、培養して細菌増殖を評価した。
【0120】
細菌回収
[00145] 取り出したデバイスを、デバイスを覆うために充分な量の滅菌生理食塩液/Tween緩衝液に入れ、15秒間ボルテックス攪拌し、5分間超音波処理した。これらのデバイスを同量の滅菌生理食塩液/Tween緩衝液を入れた新鮮な容器に移し、30秒間ボルテックス攪拌し、5分間超音波処理した。超音波処理した溶液を段階希釈し、TSAプレートに載せてCFUを決定した。血液試料を培養して敗血症を評価した。
【0121】
組織学
[00146] 剖検時にインプラント周囲の組織を摘出してホルマリンに漬け、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色を用いる通常の組織学的分析のために処理した。
【0122】
結果
[00147] 対照およびベタジン対照においては、ポケット内またはデバイス上で取り出しの際に膿を目視検査することによって、23/24部位が感染の証拠を示した。ポケットおよびデバイスは、別の部位としてカウントした。抗菌性カバー材を受容した部位(12)のうち、ポケット内またはデバイス上に膿を示すものは全くなかった。
【0123】
[00148] 部位における炎症を紅斑および浮腫のスコアによって評価し、
図11に示す。取り出した乳房インプラント周囲の炎症反応は、(C)処置またはカバー材なし、(B)埋込み時にベタジンを潅注したがカバー材なし、および(T)抗菌性カバー材あり、である。スケールは任意単位であり、0は炎症なし、25はわずかな炎症、50は温和な炎症、75は中程度の炎症、100は顕著な炎症である。対照およびベタジン対照群と比較した抗菌性カバー材群の炎症反応の差異は統計的に有意である。2つの対照群の炎症反応の差異は統計的に有意でない。
【0124】
[00149] さらに、
図11に示したのと同じ試料の組(すなわちC、BおよびT群)について、抗菌性カバー材群で被膜形成が低減していた(
図12)。スコアは任意単位の被膜の厚さおよび不透明性の尺度であり、0は被膜なし、25はわずかな被膜/厚さ/不透明性、50は温和な被膜/厚さ/不透明性、75は中程度の被膜/厚さ/不透明性、100は顕著な被膜/厚さ/不透明性である。