【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、直接製錬容器内でプロセス条件を制御することにより、この容器内の金属及びスラグの溶融浴内にある溶融スラグが、容器内の溶融浴におけるスラグ温度が1400〜1550℃の範囲にあるときに0.5〜5ポアズの範囲の粘度を有するようにすることを含む、溶融浴による直接製錬法を提供する。
【0017】
本発明は、(a)酸化鉄及び少なくとも3重量%の酸化チタンを含有する金属含有供給材料、(b)固体炭素質供給材料、及び(c)酸素含有ガスを、鉄及びスラグの溶融浴を収容する直接製錬容器に供給する段階と、及び容器で金属含有供給材料を直接製錬し、溶融鉄、酸化チタンを含有する溶融スラグ、及び排ガスのプロセス製造物を生成する段階とを含む直接製錬法において、スラグ温度が直接製錬容器の溶融浴内で1400〜1550℃の範囲にあるときに溶融スラグが0.5〜5ポアズの範囲の粘度を有するように、本明細書に記載のようにプロセス条件を制御することを特徴とする、直接製錬法を提供する。
【0018】
本明細書では、「溶融スラグ」という用語は、完全に液体であるスラグを意味すると理解される。
【0019】
本明細書では、「溶融スラグ」という用語は、固体材料及び液相のスラリーを含むスラグも意味すると理解される。
【0020】
溶融スラグ中の固体材料は、この直接製錬法のスラグ温度で固体酸化物相であってもよく、スラグは、液体スラグ相中に固体酸化物相があるスラリーである。
【0021】
本明細書では「プロセス条件」という用語は広い意味を有するものとし、例えば(a)温度及び圧力、固体供給材料及び酸素含有ガスの容器内への注入速度などの直接製錬容器内の動作条件、(b)溶融浴の組成、特にスラグ組成、及び(c)溶融浴の特性に及ぶことが意図されている。溶融浴の組成は、溶融浴の温度が1400〜1550℃の範囲で本明細書に記述されるようにスラグが溶融スラグになるように、スラグの構成成分の選択を含むことができる。上述の「溶融スラグ」の定義に示されるように、溶融スラグは、この直接製錬法の動作温度範囲で固体酸化物相及び液体スラグ相を含むことができる。溶融スラグの特性には、例として、上述の溶融スラグの粘度及び/又は酸素ポテンシャルが含まれる。特性には、例として、溶融スラグの塩基度及びスラグの乱流も含まれる。これらの特性は、動作条件及びスラグ組成に依存する。
【0022】
本発明は、上述の研究及び開発の結果としての出願人の認識に基づいている。
(a)ハイスメルト法と、ハイスメルト法に類似した特徴を有し又はハイスメルト法を採用するその他の溶融浴による方法では、酸化鉄、酸化チタン、及び任意選択で酸化バナジウムを含有する金属含有供給材料を直接製錬するための動作の窓がある。
(b)この窓内で動作する溶融浴による方法は、これらチタン含有材料を製錬して、酸化バナジウムを含有するチタノマグネタイトを含むチタノマグネタイトを製錬するのに現在使用されている高炉よりも効果的に、溶融鉄を生成する機会を提供する。
【0023】
特に、出願人は、本発明が、ハイスメルト型の方法の溶融浴をベースとする製錬法から、2種の価値ある生成物、即ち(a)バナジウム金属を含有できる溶融鉄生成物と、(b)顔料用チタニアを生成するための硫酸塩法の供給材料として使用できるTiO
2形の酸化チタンを少なくとも50%などの高濃度の有するスラグ生成物とを生成する機会を提供することに気付いた。特に、出願人は、溶融浴を有する方法で、この方法から放出された溶融スラグの冷却速度を制御することにより、硫酸塩法での処理に適したミクロ構造を優先的に形成する機会があることに気付いた。
【0024】
この方法は、スラグの組成を制御し、且つ溶融浴の温度をスラグの液相線温度よりも低く、通常は僅かに低く制御して、固体酸化物相が溶融スラグの液相から析出するようにし、それによってスラグの粘度を制御することによって、プロセス条件を制御することを含むことができる。
【0025】
本明細書で使用される「粘度」及び「液相線温度」という用語は、FactSageソフトウェア(液相線温度の場合はFactSage 6.1以降、及び粘度の場合は「FactSage Viscosity 6.0以降」)により計算された粘度及び液相線温度を意味すると理解される。種々の測定及び計算技法から得られる非標準的結果の可能性を考えれば、FactSage計算による合理的説明は、これらの用語の意味において暗黙的であるように定義される。その計算は、実行される場合、FactSageソフトウェアを使用するための指針に完全に一致し、必要なら、FactSageソフトウェアの所有者によって見直し及び認可がなされる。特に、ある可能性のある化学種の組合せを(故意に又はそれ以外の理由で)省略する計算は、本明細書で使用される「粘度」及び「液相線温度」に一致しているとは見なされないことになる。
【0026】
この直接精錬法は、溶融スラグ中の固体材料がこの溶融スラグの少なくとも5%であるように、プロセス条件を制御することを含むことができる。
【0027】
溶融スラグ中の固体材料は、溶融スラグの少なくとも10%であることができる。
【0028】
溶融スラグ中の固体材料は、溶融スラグの30%未満であることができる。
【0029】
溶融スラグ中の固体材料は、溶融スラグの15〜25%を構成できる。
【0030】
金属含有供給材料は、酸化鉄及び酸化チタンを含有する任意の材料であることができる。適切な供給材料の実例は、チタン磁鉄鉱、チタノマグネタイト及びイルメナイトである。
【0031】
金属含有供給材料がチタノマグネタイトのみを含む状況では、酸化チタンは、金属含有供給材料の40重量%未満であることができる。
【0032】
金属含有供給材料がチタノマグネタイトのみを含む状況では、酸化チタンは、金属含有供給材料の30重量%未満であることができる。
【0033】
金属含有供給材料がチタノマグネタイト及びイルメナイトを含む状況では、酸化チタンは、金属含有供給材料の50重量%未満であることができる。
【0034】
金属含有供給材料は、酸化鉄及び酸化チタンと、酸化バナジウムなどのその他の金属酸化物を含有する任意の材料であることができる。適切な供給材料の1つの実例は、チタン−バナジウム磁鉄鉱である。
【0035】
金属含有材料が酸化バナジウムを含有する状況では、この直接精錬法は、溶融鉄及びバナジウム、酸化チタン及び酸化バナジウムを含有する溶融スラグ、及び排ガスのプロセス生産物を生成することを含む。
【0036】
プロセス条件に応じてこの直接精錬法での金属とスラグ生成物との間のバナジウムの分配は、金属生成物に対して少なくとも50%、通常は少なくとも65%、より典型的には少なくとも80%であることができる。
【0037】
一般論として、金属含有材料が酸化バナジウムを含有する状況のみならず、この直接精錬法は、スラグ中の鉄と金属中の炭素との濃度の比を2:1未満、典型的には1.5:1未満、より典型的には1:1から1.3:1に制御することによってプロセス条件を制御することを含むことができる。
【0038】
この直接精錬法は、溶融スラグが高い酸素ポテンシャルを有するように、プロセス条件を制御することを含むことができる。
【0039】
本明細書では、「酸素ポテンシャル」の文脈における「高い」という用語は、高炉スラグに対して高いことを意味すると理解される。
【0040】
この直接精錬法は、スラグ中の酸化チタンが+4価の状態からより低い原子価状態に還元されることを最小限に抑えるため、溶融スラグの酸素ポテンシャルが十分高くなるようにプロセス条件を制御することを含むことができる。原子価のより低い状態は、スラグ粘度を低減させ、泡沫状のスラグが形成されるリスクが増大する。泡沫状のスラグは、プロセス制御に関する問題をもたらすので望ましくない。
【0041】
この直接精錬法は、溶融スラグが高い酸素ポテンシャルを有するように溶融スラグのFeO含量が少なくとも3重量%であるように、プロセス条件を制御することを含むことができる。
【0042】
この直接精錬法は、溶融スラグが高い酸素ポテンシャルを有するように溶融スラグのFeO含量が少なくとも4重量%であるように、プロセス条件を制御することを含むことができる。
【0043】
この直接精錬法は、溶融スラグが高い酸素ポテンシャルを有するように溶融スラグのFeO含量が少なくとも5重量%であるように、プロセス条件を制御することを含むことができる。
【0044】
この直接精錬法は、溶融スラグのFeO含量が6重量%未満であるように、プロセス条件を制御することを含むことができる。
【0045】
この直接精錬法は、溶融スラグのFeO含量が10重量%未満であるように、プロセス条件を制御することを含むことができる。
【0046】
この直接精錬法は、溶融スラグの炭素含量が少なくとも3重量%であるように、プロセス条件を制御することを含むことができる。
【0047】
この直接精錬法は、溶融スラグの炭素含量が少なくとも4重量%であるように、プロセス条件を制御することを含むことができる。
【0048】
この直接精錬法は、溶融スラグの炭素含量が5重量%未満であるように、プロセス条件を制御することを含むことができる。
【0049】
この直接精錬法は、溶融スラグの粘度が0.5〜4ポアズの範囲にあるように、プロセス条件を制御することを含むことができる。
【0050】
この直接精錬法は、溶融スラグの粘度が0.5〜3ポアズの範囲にあるように、プロセス条件を制御することを含むことができる。
【0051】
この直接精錬法は、溶融スラグの粘度が2.5ポアズ超であるように、プロセス条件を制御することを含むことができる。
【0052】
この直接精錬法は、溶融浴において、溶融スラグの特性、例えばスラグ組成及び/又はスラグ粘度の制御を容易にするために、1種又は複数の添加剤を添加することを含むことができる。
【0053】
例として、添加剤は、スラグの粘度を低下させ泡沫状スラグのリスクを最小限に抑えるため、例えばCaOによって溶融スラグの塩基度を制御するように選択できる。
【0054】
この直接精錬法は、溶融スラグが下記の構成成分を、表示される範囲内で有するように、プロセス条件を制御することを含むことができる。
TiO
2:少なくとも15重量%、
SiO
2:少なくとも15重量%、
CaO:少なくとも15重量%、
Al
2O
3:少なくとも10重量%、及び
FeO:少なくとも3重量%
【0055】
溶融スラグは、少なくとも20重量%のTiO
2を含むことができる。
【0056】
溶融スラグは、少なくとも50重量%のTiO
2を含むことができる。
【0057】
溶融スラグは、15〜20重量%のSiO
2を含むことができる。
【0058】
溶融スラグは、15〜30重量%のCaOを含むことができる。
【0059】
溶融スラグは、10〜20重量%のAl
2O
3を含むことができる。
【0060】
溶融スラグは、4〜10重量%のFeOを含むことができる。
【0061】
スラグ組成物は、MnOなどのその他の構成成分を含むことができる。
【0062】
本発明によるスラグ組成物の特定の実例は、下記の通りである。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
化学成分A及びBは、中国産チタノマグネタイトの形をした100%の供給材料の使用に基づき、化学成分Cは、ニュージーランド産チタノマグネタイトの形をした100%の供給材料の使用に基づく。
【0067】
この直接精錬法は、この方法を、直接製錬容器内で大気圧よりも高い圧力で操作することを含むことができる。
【0068】
酸素含有ガスは、酸素に富む空気又は工業用酸素であることができる。
【0069】
この直接精錬法は、固体供給材料が溶融浴の溶融鉄層に少なくとも部分的に侵入するように、容器の側壁を経て下向き及び内向きに延びる固体材料注入ランスを介して、溶融浴内に金属含有供給材料及び固体炭素質材料及びキャリア・ガスを注入することにより、固体供給材料を容器内に供給することを含むことができる。
【0070】
この直接精錬法は、溶融浴の実質的な撹拌をもたらすために、固体供給材料及びキャリア・ガスの注入を制御することを含めてこの方法を制御することを含むことができる。
【0071】
溶融浴の撹拌の程度は、浴内が実質的に均一な温度であるようなものであってもよい。
【0072】
この直接精錬法は、個別のプロセス流として、この直接精錬法の溶融金属及び溶融スラグ生成物を放出することを含むことができる。
【0073】
この直接精錬法は、硫酸塩法での処理に適したミクロ構造を優先的に形成するように、工程で放出される溶融スラグの冷却速度を制御することを含むことができる。
【0074】
この直接精錬法は、上述のようなハイスメルト法であることができる。
【0075】
この直接精錬法は、(a)米国特許第6,440,195号に記載されているような直接製錬容器上の製錬サイクロン及び(b)供給材料を直接製錬容器に供給する前の金属含有供給材料の前還元、と併せてハイスメルト容器を必要とする、ハイスメルト法の変形例であってもよい。
【0076】
本発明は、溶融浴を有する直接製錬法によって、酸化鉄及び少なくとも3重量%の酸化チタンを含有する金属含有供給材料を製錬するために使用する直接製錬容器も提供し、この容器は、金属及びスラグの溶融浴を収容し、溶融スラグは1400〜1550℃の温度範囲及び0.5〜5ポアズの範囲の粘度を有する。
【0077】
本発明は、上述の直接製錬法により生成されたバナジウム金属を含有できる溶融鉄生成物も提供する。
【0078】
本発明は、上述の直接製錬法により生成された、少なくとも50%などのTiO
2の形の酸化チタンを高濃度で有するスラグ生成物も提供する。
【0079】
本発明は、上述の直接製錬法により生成された、顔料用チタニアを生成するための硫酸塩法に用いられる供給材料も提供する。
【0080】
本発明について、以下、添付図面を参照しながらより詳細に記述する。