(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術のように排出経路がダイに形成された構成であっても、基材シートに対する塗布液の吐出を開始した後、ある程度の時間が経過すると、ダイ内に残っていた気体が再び気泡として塗布液に混ざった状態で吐出されてしまう場合があった。このような場合には、ダイを分解して清掃した後、ダイ内に塗布液を供給し、排出経路を介してダイ内の塗布液に含まれる気体を排出するといった作業を再び行わなければならないため、生産性が著しく低下する。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、ダイ内の塗布液に含まれる気体を効果的に除去することができる塗布物の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ダイ内の塗布液に含まれる気体を効果的に除去するための構成として、通常であればキャビティー内に生じる気泡に着目するものと考えられる。しかしながら、本願発明者らは、キャビティーに塗布液を供給するための供給経路に着目し、当該供給経路内に気泡が滞留しやすいこと、及び、基材シートに対する塗布液の吐出開始後に、塗布液の流量の変動や装置の振動などに起因して供給経路内の気泡がキャビティーへと移動し、その気泡が塗布液に混ざった状態で吐出される場合があることを発見した。
【0008】
本発明に係る塗布物の製造方法は、ダイから基材シートの表面に塗布液を吐出することにより、前記基材シートに塗布液が塗布された塗布物を製造するための方法であって、前記ダイ内を幅方向に延びるキャビティー内に供給経路から塗布液を供給する供給工程と、前記キャビティー内の塗布液の一部を当該塗布液に含まれる気体とともに排出経路から排出する排出工程と、前記排出工程の後に、前記キャビティーに連通するように前記ダイに形成されたスロットから、前記基材シートの表面に塗布液を吐出する吐出工程とを含み、前記供給経路は、塗布液の供給方向に沿って前記キャビティーまで常に上昇するように形成されており、前記供給経路を形成する壁面の粗さは、最大高さRzが0.2μm以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、供給経路が塗布液の供給方向に沿ってキャビティーまで常に上昇するように形成されているため、塗布液に含まれる気体が浮力によってキャビティーまで移動しやすく、供給経路内に気体が滞留するのを防止することができる。特に、供給経路を形成する壁面の粗さは、最大高さRzが0.2μm以下で滑らかであるため、供給経路内の気体をキャビティーまで円滑に移動させることができる。
【0010】
したがって、キャビティー内の塗布液の一部を塗布液に含まれる気体とともに排出経路から排出させる際、供給経路内の気体も良好に排出経路から排出させることができるので、ダイ内の塗布液に含まれる気体を効果的に除去することができる。これにより、基材シートの表面に塗布された塗布液の一部にヌケやスジなどが生じるのを防止することができ、良好に塗布物を製造することができる。
【0011】
前記キャビティーの一端部に前記供給経路が連通し、他端部に前記排出経路が連通していてもよい。
【0012】
本発明によれば、キャビティー内の塗布液の一部を塗布液に含まれる気体とともに排出経路から排出させる際、供給経路内の気体をキャビティーの一端部から当該キャビティー内に移動させ、他端部の排出経路から排出させることができる。
【0013】
前記キャビティーの中間部に前記供給経路が連通し、両端部にそれぞれ前記排出経路が連通していてもよい。
【0014】
本発明によれば、キャビティー内の塗布液の一部を塗布液に含まれる気体とともに排出経路から排出させる際、供給経路内の気体をキャビティーの中間部から当該キャビティー内に移動させ、両端部の排出経路から排出させることができる。
【0015】
前記スロットは、上方向に対して傾斜した方向に向かって塗布液を吐出するものであってもよい。
【0016】
本発明によれば、従来の塗工装置と比べて、キャビティー内の気体が浮力によってスロットから吐出されてしまう可能性が低い。したがって、基材シートの表面に塗布された塗布液の一部にヌケやスジなどが生じるのを効果的に防止することができ、より良好に塗布物を製造することができる。
【0017】
本発明に係る塗布物の製造装置は、ダイから基材シートの表面に塗布液を吐出することにより、前記基材シートに塗布液が塗布された塗布物を製造するための装置であって、前記ダイには、前記ダイ内を幅方向に延びるキャビティーと、前記キャビティー内に塗布液を供給するための供給経路と、前記キャビティー内の塗布液の一部を当該塗布液に含まれる気体とともに排出するための排出経路と、前記キャビティーに連通し、前記基材シートの表面に塗布液を吐出するためのスロットとが形成され、前記供給経路は、塗布液の供給方向に沿って前記キャビティーまで常に上昇するように形成されており、前記供給経路を形成する壁面の粗さは、最大高さRzが0.2μm以下であることを特徴とする。
【0018】
前記キャビティーの一端部に前記供給経路が連通し、他端部に前記排出経路が連通していてもよい。
【0019】
前記キャビティーの中間部に前記供給経路が連通し、両端部にそれぞれ前記排出経路が連通していてもよい。
【0020】
前記スロットは、上方向に対して傾斜した方向に向かって塗布液を吐出するものであってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係る塗布物の製造装置の一例を示した概略図である。
図2は、本発明の一実施形態に係る塗布物の製造方法の一例を示したフローチャートである。本実施形態における塗布装置は、ダイ1、タンク2、ポンプ3及びバルブ4を備えており、搬送ロール5によって基材シート6を搬送しながら、当該基材シート6の表面にダイ1から塗布液7を吐出することにより、基材シート6に塗布液7が塗布された塗布物を製造するための装置である。
【0023】
ダイ1には、塗布液7が供給されるキャビティー11と、キャビティー11内に塗布液7を供給するための供給経路12と、キャビティー11内の塗布液7を基材シート6の表面に吐出するためのスロット13と、キャビティー11内の塗布液7の一部を排出するための排出経路14とが形成されている。
【0024】
ダイ1から吐出される塗布液7は、タンク2内に貯留されている。タンク2は、供給管8を介してダイ1の供給経路12に連通している。ポンプ3は、供給管8の途中に介在しており、当該ポンプ3の駆動により、タンク2内の塗布液7が供給管8を介してダイ1内に供給されるようになっている。また、タンク2は、排出管9を介してダイ1の排出経路14に連通している。バルブ4は、排出管9の途中に介在しており、当該バルブ4を開いた状態でポンプ3を駆動させることにより、ダイ1内の塗布液7の一部が排出管9を介してタンク2内に循環するようになっている。
【0025】
塗布物を製造する際には、ポンプ3の駆動が開始されることにより(ステップS1)、タンク2内の塗布液7が、供給管8及び供給経路12を介してダイ1のキャビティー11内に供給される(ステップS2)。このようにしてダイ1内に供給される塗布液7には、機外の空気などの気体が含まれている場合があり、気体が含まれた状態の塗布液7をそのまま基材シート6の表面に吐出すると、基材シート6の表面に塗布された塗布液7の一部にヌケやスジなどが生じ、製造された塗布物が不良品となるおそれがある。
【0026】
そこで、本実施形態では、ポンプ3を駆動しながらバルブ4を開いた状態とすることにより(ステップS3)、キャビティー11内の塗布液7の一部を当該塗布液7に含まれる気体とともに排出経路14から排出させ(ステップS4)、排出管9を介してタンク2内に戻すことができるようになっている。このような排出工程により気泡抜き作業を行った後、ポンプ3を駆動しながらバルブ4を閉じた状態とすることにより(ステップS5)、気泡が除去されたキャビティー11内の塗布液7をスロット13から吐出させる(ステップS6)。このような吐出工程を所定時間行うことにより、基材シート6の表面に塗布液7が塗布された塗布物を製造することができる。
【0027】
基材シート6としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー等の透明ポリマーからなるフィルムが挙げられる。また、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体等のスチレン系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ないしノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体等のオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー等の透明ポリマーからなるフィルムも挙げられる。さらに、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマーや前記ポリマーのブレンド物等の透明ポリマーからなるフィルムなども挙げられる。特に光学用途に用いる場合には、透明であり、かつ複屈折の少ないものが好適に用いられる。ただし、基材シート6は、上記のようなものに限らず、他の各種材料により形成された可撓性を有する支持体であってもよい。
【0028】
塗布液7としては、ダイ1から吐出可能であり、塗膜層を形成することが可能なものであれば制限はなく、目的とする塗膜層の機能に応じて、塗布液7を選択することができる。前記塗布液7により形成できる塗膜層としては、偏光層、光学補償層、位相差層、ハードコート層、反射防止層、防眩層等の各種の光学機能層、帯電防止層、表面保護層、導電機能層、粘着剤層、接着性層、透明コート層、アンカー層、オリゴマー防止層などが挙げられる。また、塗布液7としては、水溶液、水分散液、エマルション等の水系塗布液;有機溶剤を用いた溶液の溶剤系塗布液;ハイソリッド系塗布液;無溶剤型塗布液等の各種のものを用いることができる。
【0029】
塗布液7には、塗膜層に応じて各種の塗膜層形成材料を含有することができる。塗膜層形成材料としては、例えば、熱可塑型樹脂、熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂、二液混合型樹脂などのベース材料が挙げられる。前記硬化型樹脂には、ポリマーの他に、モノマー、オリゴマーを含む。また、塗布液7には、ベース材料に加えて、各種粘度調整剤、剥離調整剤、粘着付与剤、可塑剤、軟化剤、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉、その他の無機粉末等からなる充填剤、顔料、着色剤(顔料、染料など)、pH調整剤(酸または塩基)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤等を含有することができる。
【0030】
図3は、ダイ1の外観構成の一例を示した斜視図である。
図4は、ダイ1の横断面図であり、
図3におけるA−Aを通り水平面で切断した断面図を示している。
図5Aは、ダイ1の縦断面図であり、
図4におけるB−B断面図を示している。
図5Bは、ダイ1の縦断面図であり、
図4におけるC−C断面図を示している。
図5Cは、ダイ1の縦断面図であり、
図4におけるD−D断面図を示している。
【0031】
本実施形態では、第1部材15と第2部材16を連結することにより、これらの部材15,16間にキャビティー11及びスロット13が形成されたダイ1が構成されている。この例では、第1部材15及び第2部材16が上下に並べられた状態で連結されることにより、第1部材15が上部材、第2部材16が下部材として機能している。第1部材15及び第2部材16はそれぞれ幅方向に長い形状を有しており、互いに幅方向が平行になるように重ね合わせられた状態で連結されることにより、全体として幅方向に長い形状を有するダイ1が形成されている。ただし、ダイ1は、1つの部材により形成されていてもよいし、さらに多くの部材が連結されることにより形成されていてもよい。
【0032】
第1部材15及び第2部材16は、それらの幅方向の両端面がそれぞれ端面部材17により互いに連結されている。これにより、ダイ1内を幅方向に延びるように第1部材15と第2部材16の間に形成されているキャビティー11及びスロット13は、それらの幅方向の両端部がそれぞれ閉塞された状態となっている。したがって、供給経路12を介してキャビティー11内に供給される塗布液7は、キャビティー11及びスロット13における幅方向の両端部から流出することなく、キャビティー11に連通するようにダイ1に形成されたスロット13を介して、ダイ1における短手方向の一側面から流出する。スロット13における塗布液7が流出する部分は、ダイ1の幅方向に沿って一直線状に延びる吐出口18として機能する。
【0033】
この例では、供給経路12は、下部材である第2部材16に形成されており、排出経路14は、上部材である第1部材15に形成されている。より具体的には、供給経路12は、第2部材16内を斜め上方向に向かって延びる第1経路12Aと、第1経路12Aの上端部から鉛直上方に向かって延び、その上端部がキャビティー11に連通する第2経路12Bとにより、屈曲形状に形成されている(
図5A参照)。また、排出経路14は、第1部材15内を鉛直上方に向かって延び、その下端部がキャビティー11に連通する一直線状の経路からなる(
図5C参照)。
【0034】
ただし、供給経路12は、塗布液7の供給方向に沿ってキャビティー11まで常に上昇するような形状であれば、屈曲形状に限らず、湾曲形状や一直線状などの他の形状であってもよい。また、供給経路12は、屈曲部又は湾曲部が1箇所にのみ設けられた構成に限らず、複数箇所に設けられていてもよい。一方、排出経路14は、一直線状に限らず、屈曲形状又は湾曲形状などの他の形状であってもよい。この場合、排出経路14は、屈曲部又は湾曲部が1箇所にのみ設けられていてもよいし、複数箇所に設けられていてもよい。
【0035】
本実施形態では、供給経路12が、キャビティー11における幅方向の一端部に連通し(
図5A参照)、排出経路14が、キャビティー11における幅方向の他端部に連通している(
図5C参照)。したがって、排出工程(
図2のステップS4)の際には、供給経路12を介してキャビティー11内に一端部から供給される塗布液7が、
図4においてキャビティー11内に矢印で示すように一方向に流動し、その一部がキャビティー11の他端部から排出経路14を介して排出される。その後、吐出工程(
図2のステップS6)の際には、バルブ4が閉じられた状態であるため、キャビティー11内の塗布液7は排出経路14を介して排出されず、
図4においてスロット13内に矢印で示す方向に流動し、吐出口18から基材シート6の表面に吐出される。
【0036】
上記のような構成により、供給経路12は、その下端部から上端部に向かう塗布液7の供給方向に沿って、キャビティー11まで常に上昇するように形成されている。したがって、塗布液7に含まれる気体が浮力によってキャビティー11まで移動しやすく、供給経路12内に気体が滞留するのを防止することができる。特に、本実施形態における供給経路12を形成する壁面の粗さは、JIS規格(JIS B 0601)に規定される最大高さRzが0.2μm以下で滑らかになっている。そのため、供給経路12内の気体をキャビティー11まで円滑に移動させることができる。
【0037】
したがって、キャビティー11内の塗布液7の一部を塗布液7に含まれる気体とともに排出経路14から排出させる際、供給経路12内の気体も良好に排出経路14から排出させることができるので、ダイ1内の塗布液7に含まれる気体を効果的に除去することができる。これにより、基材シート6の表面に塗布された塗布液7の一部にヌケやスジなどが生じるのを防止することができ、良好に塗布物を製造することができる。
【0038】
このような効果を奏する理由について、推定されるメカニズムを以下に説明する。まず、塗布液7に含まれる気泡は、塗布液7の流れ及び浮力の2要因で移動すると考えられる。塗布液7の流れに起因して、塗布液7が流れる方向に気泡は移動するが、塗布液7の流速は流路の壁面に近づくほど遅くなるため、壁面に近づくほど気泡の移動速度は遅くなる。また、浮力に起因して、気泡は鉛直上方に移動するため、塗布液7の流路の上面側に気泡が移動する。したがって、流路の上面近傍では、浮力により集まってきた気泡が、流速が遅いため下流側に移動しにくい状態となっており、この上面近傍において滞留しやすくなる。
【0039】
上記のようにして流路の上面近傍に滞留した気泡は、全く移動しないわけではないが、流路の壁面に付着して移動しにくくなる。このように滞留している気泡は、送液流量の変動や装置の振動などの各種要因によって、流路の壁面から離れて移動する。そのため、ダイ内の塗布液7の一部を気泡とともに排出した場合に、その後の吐出工程において、最初のうちは吐出される塗布液7に気泡が含まれていなかったとしても、しばらくしてから気泡が流路の壁面から離れて移動する場合がある。特に、スロットと比べて流路の断面積が大きい供給経路では、気泡が滞留しやすい。そこで、本実施形態のように、供給経路12を塗布液7の供給方向に沿ってキャビティー11まで常に上昇するように形成し、かつ、供給経路12を形成する壁面の粗さは、最大高さRzが0.2μm以下となるようにすることにより、排出工程中に供給経路12内の気泡を浮力によってキャビティー11まで良好に移動させることができるので、その後の吐出工程において気泡が供給経路12からキャビティー11内に移動してスロット13から吐出されるのを防止することができる。
【0040】
特に、本実施形態では、キャビティー11の一端部に供給経路12が連通し、他端部に排出経路14が連通しているため、キャビティー11内の塗布液7の一部を塗布液7に含まれる気体とともに排出経路14から排出させる際、供給経路12内の気体をキャビティー11の一端部から当該キャビティー11内に移動させ、他端部の排出経路14から排出させることができる。
【0041】
また、本実施形態では、スロット13が水平方向に延びるようにダイ1が配置されることにより、上方向に対して傾斜した方向である水平方向に向かって塗布液7が吐出されるようになっている。したがって、従来の塗工装置と比べて、キャビティー11内の気体が浮力によってスロット13から吐出されてしまう可能性が低い。したがって、基材シート6の表面に塗布された塗布液7の一部にヌケやスジなどが生じるのを効果的に防止することができ、より良好に塗布物を製造することができる。
【0042】
このような効果は、水平方向又は水平方向よりも下方に向かって塗布液7が吐出されるような構成であれば特に顕著であるが、これに限らず、上方向に対してあらゆる角度で傾斜した方向に向かって塗布液7が吐出されるような構成であってもよい。なお、上方向に向かって塗布液7が塗布されるような構成においても本発明は適用可能である。
【0043】
図6は、別の実施形態に係るダイ100の横断面図であり、
図3のA−A断面と同様の位置における断面図を示している。
図7Aは、ダイ100の縦断面図であり、
図6におけるE−E断面図を示している。
図7Bは、ダイ100の縦断面図であり、
図6におけるF−F断面図を示している。
図7Cは、ダイ100の縦断面図であり、
図6におけるG−G断面図及びH−H断面図を示している。
【0044】
本実施形態では、供給経路12が、キャビティー11における幅方向の中間部に連通し(
図7A参照)、排出経路14が、キャビティー11における幅方向の両端部にそれぞれ連通している(
図7C参照)という点が、上記実施形態とは異なっている。このように、排出経路14は、1つに限らず、複数設けられていてもよい。同様に、供給経路12は、1つに限らず、複数設けられていてもよい。上記のような供給経路12及び排出経路14の配置位置の構成以外は、上記実施形態と同様の構成であるため、図に同一符号を付して説明を省略する。
【0045】
排出工程(
図2のステップS4)の際には、供給経路12を介してキャビティー11内に中間部から供給される塗布液7が、
図6においてキャビティー11内に矢印で示すように幅方向両側に流動し、その一部がキャビティー11の両端部から排出経路14を介して排出される。その後、吐出工程(
図2のステップS6)の際には、バルブ4が閉じられた状態であるため、キャビティー11内の塗布液7は排出経路14を介して排出されず、
図6においてスロット13内に矢印で示す方向に流動し、吐出口18から基材シート6の表面に吐出される。
【0046】
上記のような構成により、キャビティー11内の塗布液7の一部を塗布液7に含まれる気体とともに排出経路14から排出させる際、供給経路12内の気体をキャビティー11の中間部から当該キャビティー11内に移動させ、両端部の排出経路14から排出させることができる。供給経路12は、キャビティー11における幅方向の中央位置に連通していることが好ましいが、これに限らず、排出経路14がそれぞれ連通している両端部の間(中間部)であれば何れの位置であってもよい。
【0047】
図8A〜
図8Dは、供給経路の形成態様の変形例を示した縦断面図である。これらの
図8A〜
図8Dに例示されるような供給経路の形成態様は、塗布液7の供給方向に沿ってキャビティー11まで常に上昇するように形成された態様に含まれる。
【0048】
図8Aに例示されたダイ110では、キャビティー11内に塗布液7を供給するための供給経路111が、下部材である第2部材16に形成されている。供給経路111は、第2部材16内を斜め上方向に向かって延び、その上端部がキャビティー11に連通する一直線状の経路からなる。このように、供給経路111は、塗布液7の供給方向に沿ってキャビティー11まで常に上昇するように形成されている。
【0049】
図8Bに例示されたダイ120では、キャビティー11内に塗布液7を供給するための供給経路121が、上部材である第1部材15と下部材である第2部材16とに跨るように形成されている。供給経路121は、第2部材16内を斜め上方向に向かって延びる第1経路121Aと、第1経路121Aの上端部から当該第1経路121Aと同方向である斜め上方向に向かって延び、その上端部がキャビティー11に連通する第2経路121Bとにより、一直線状に形成されている。このように、供給経路121は、第1経路121A及び第2経路121Bのいずれにおいても、塗布液7の供給方向に沿ってキャビティー11まで常に上昇するように形成されている。
【0050】
図8Cに例示されたダイ130では、キャビティー11内に塗布液7を供給するための供給経路131が、スロット13が延びる方向と平行に延びるように、下部材である第2部材16に形成されている。したがって、スロット13が水平方向に延びるようにダイ130を配置した場合には、供給経路131も水平方向に延びるような構成となるが、この例では、スロット13が斜め上方向に向かって延びるようにダイ130を配置することにより、供給経路131も斜め上方向に向かって延び、その上端部がキャビティー11に連通する一直線状の経路となっている。このように、供給経路131は、塗布液7の供給方向に沿ってキャビティー11まで常に上昇するように形成されている。
【0051】
図8Dに例示されたダイ140では、キャビティー11内に塗布液7を供給するための供給経路141が、下部材である第2部材16に形成されている。供給経路141は、第2部材16内をスロット13が延びる方向と平行に延びる第1経路141Aと、第1経路141Aの一端部から当該第1経路141Aに対して垂直上方に向かって延び、その上端部がキャビティー11に連通する第2経路141Bとにより、屈曲形状に形成されている。したがって、スロット13が水平方向に延びるようにダイ140を配置した場合には、供給経路141の第1経路141Aも水平方向に延びるような構成となるが、この例では、スロット13が斜め上方向に向かって延びるようにダイ140を配置することにより、供給経路141の第1経路141A及び第2経路141Bがいずれも斜め上方向に向かって延びるような構成となっている。このように、供給経路141は、第1経路141A及び第2経路141Bのいずれにおいても、塗布液7の供給方向に沿ってキャビティー11まで常に上昇するように形成されている。
【0052】
以上のように、供給経路を構成している全ての経路が、塗布液7の供給方向に沿ってキャビティー11側に常に上昇するように形成されている。この場合、供給経路を構成している全ての経路が、水平方向に対して5°以上傾斜していることが好ましく、10°以上傾斜していればより好ましい。また、供給経路を形成する壁面の粗さは、最大高さRzが0.2μm以下であるが、0.1μm以下であればより好ましく、0.05μm以下であればさらに好ましい。
【0053】
図9A〜
図9Dは、供給経路の形成態様として好ましくない例を示した縦断面図である。これらの
図9A〜
図9Dに例示されるような供給経路の形成態様は、塗布液7の供給方向に沿ってキャビティー11まで常に上昇するように形成された態様には含まれない。
【0054】
図9Aに例示されたダイ210では、キャビティー11内に塗布液7を供給するための供給経路211が、スロット13が延びる方向と平行に延びるように、下部材である第2部材16に形成されている。この例では、
図8Cの例とは異なり、スロット13が水平方向に延びるようにダイ210が配置されているため、供給経路211も水平方向に延びており、その一端部がキャビティー11に連通する一直線状の経路となっている。このように、供給経路211は、塗布液7の供給方向に沿ってキャビティー11まで常に上昇しているとは言えない。
【0055】
図9Bに例示されたダイ220では、キャビティー11内に塗布液7を供給するための供給経路221が、下部材である第2部材16に形成されている。供給経路221は、第2部材16内をスロット13が延びる方向と平行に延びる第1経路221Aと、第1経路221Aの一端部から当該第1経路221Aに対して垂直上方に向かって延び、その上端部がキャビティー11に連通する第2経路221Bとにより、屈曲形状に形成されている。この例では、
図8Dの例とは異なり、スロット13が水平方向に延びるようにダイ220が配置されているため、供給経路221の第1経路221Aも水平方向に延びるような構成となっている。このように、供給経路221は、第1経路221Aにおいて、塗布液7の供給方向に沿ってキャビティー11まで常に上昇しているとは言えない。
【0056】
図9Cに例示されたダイ230では、キャビティー11内に塗布液7を供給するための供給経路231が、下部材である第2部材16に形成されている。供給経路231は、第2部材16内を斜め下方向に向かって延び、その下端部がキャビティー11に連通する一直線状の経路からなる。このように、供給経路231は、塗布液7の供給方向に沿ってキャビティー11まで常に上昇しているとは言えない。
【0057】
図9Dに例示されたダイ240では、キャビティー11内に塗布液7を供給するための供給経路241が、下部材である第2部材16に形成されている。供給経路241は、第2部材16内を斜め下方向に向かって延びる第1経路241Aと、第1経路241Aの下端部から鉛直上方に向かって延び、その上端部がキャビティー11に連通する第2経路241Bとにより、屈曲形状に形成されている。このように、供給経路241は、第1経路241Aにおいて、塗布液7の供給方向に沿ってキャビティー11まで常に上昇しているとは言えない。
【実施例】
【0058】
以下では、供給経路の形状、及び、供給経路を形成する壁面の粗さが異なる複数種類のダイを用いて塗布物を製造し、製造された塗布物が不良品であるか否かを観察した結果について説明する。塗布液としては、ハードコート層形成材料(JSR株式会社製、商品名「オプスターZ7540」)を80重量部、レベリング剤(大日本インキ化学工業株式会社製、商品名「GRANDIC PC−4100」)を2重量部、光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名「イルガキュア127」)を0.3重量部、酢酸ブチルを8重量部、メチルエチルケトンを8重量部混合した液を用いた。上記ハードコート層形成材料は、固形分が56重量%、溶媒が酢酸ブチル及びメチルエチルケトン(重量比:酢酸ブチル/メチルエチルケトン=76/24)である。
【0059】
塗布液が塗布される基材シートとしては、トリアセチルセルロースフィルム(富士フィルム株式会社製、商品名「TD80UL」)を用いた。上記基材シートの厚さは、80μmである。塗布液をダイに供給するためのポンプとしては、ダイヤフラムポンプ(株式会社タクミナ製、TPLシリーズ)を用いた。供給経路を形成する壁面の粗さについては、計測機器として小型表面粗さ測定機(株式会社ミツトヨ製、型番SJ−401)を用いて測定した。
【0060】
塗布物を製造する際には、まず、ポンプを駆動してダイのキャビティー内に供給経路から塗布液を供給しつつ、その塗布液の一部を排出経路から排出させることにより、気泡抜き作業を行った。その後、基材シートを搬送ロールにより搬送しながら、ダイから基材シートの表面に塗布液を吐出させた。このようにして基材シートに塗布した塗布液の塗膜を、100℃で1分間加熱することにより乾燥させた。その後、高圧水銀ランプを用いて塗膜に紫外線(積算光量300mJ/cm
2)を照射することにより硬化処理を行い、厚み9μmのハードコート層が基材シート上に形成された塗布物を製造した。製造された塗布物について、気泡抜き作業の直後に塗布液が塗布された部分のハードコート層と、気泡抜き作業後に30分経過してから塗布液が塗布された部分のハードコート層とを目視し、点状欠点及びスジの有無を観察した。
【0061】
(実施例1)
実施例1では、
図5Aに示した形状の供給経路12を有するダイ1を用いて塗布物を製造した。供給経路12を形成する壁面の粗さについては、最大高さRzが0.19μmとなるように壁面を形成した。製造された塗布物を観察した結果、気泡抜き作業の直後に塗布液が塗布された部分のハードコート層と、気泡抜き作業後に30分経過してから塗布液が塗布された部分のハードコート層のいずれにおいても、点状欠点やスジなどの不良がないことが分かった。
【0062】
(比較例1)
比較例1では、実施例1と同様に、
図5Aに示した形状の供給経路12を有するダイ1を用いて塗布物を製造した。ただし、供給経路12を形成する壁面の粗さについては、最大高さRzが2.88μmとなるように壁面を形成した。製造された塗布物を観察した結果、気泡抜き作業の直後に塗布液が塗布された部分のハードコート層については、点状欠点やスジなどの不良がなかったが、気泡抜き作業後に30分経過してから塗布液が塗布された部分のハードコート層については、不良があることが分かった。
【0063】
(比較例2)
比較例2では、
図9Bに示した形状の供給経路221を有するダイ220を用いて塗布物を製造した。供給経路221を形成する壁面の粗さについては、最大高さRzが0.19μmとなるように壁面を形成した。製造された塗布物を観察した結果、気泡抜き作業の直後に塗布液が塗布された部分のハードコート層については、点状欠点やスジなどの不良がなかったが、気泡抜き作業後に30分経過してから塗布液が塗布された部分のハードコート層については、不良があることが分かった。
【0064】
(比較例3)
比較例3では、比較例2と同様に、
図9Bに示した形状の供給経路221を有するダイ220を用いて塗布物を製造した。ただし、供給経路221を形成する壁面の粗さについては、最大高さRzが2.88μmとなるように壁面を形成した。製造された塗布物を観察した結果、気泡抜き作業の直後に塗布液が塗布された部分のハードコート層については、点状欠点やスジなどの不良がなかったが、気泡抜き作業後に30分経過してから塗布液が塗布された部分のハードコート層については、不良があることが分かった。
【0065】
(比較例4)
比較例4では、
図9Dに示した形状の供給経路241を有するダイ240を用いて塗布物を製造した。供給経路241を形成する壁面の粗さについては、最大高さRzが0.19μmとなるように壁面を形成した。製造された塗布物を観察した結果、気泡抜き作業の直後に塗布液が塗布された部分のハードコート層については、点状欠点やスジなどの不良がなかったが、気泡抜き作業後に30分経過してから塗布液が塗布された部分のハードコート層については、不良があることが分かった。
【0066】
(比較例5)
比較例5では、比較例4と同様に、
図9Dに示した形状の供給経路241を有するダイ240を用いて塗布物を製造した。ただし、供給経路241を形成する壁面の粗さについては、最大高さRzが2.88μmとなるように壁面を形成した。製造された塗布物を観察した結果、気泡抜き作業の直後に塗布液が塗布された部分のハードコート層については、点状欠点やスジなどの不良がなかったが、気泡抜き作業後に30分経過してから塗布液が塗布された部分のハードコート層については、不良があることが分かった。
【0067】
実験結果は、下記表1の通りである。
【表1】