(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5774300
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】排気浄化装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/24 20060101AFI20150820BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20150820BHJP
F01N 3/36 20060101ALI20150820BHJP
F02D 21/08 20060101ALI20150820BHJP
F02D 41/38 20060101ALI20150820BHJP
F02M 25/07 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
F01N3/24 S
F01N3/28 301A
F01N3/36 C
F02D21/08 301D
F02D41/38 B
F01N3/24 E
F02M25/07 570J
F02M25/07 570P
F02M25/07 580D
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-279017(P2010-279017)
(22)【出願日】2010年12月15日
(65)【公開番号】特開2012-127249(P2012-127249A)
(43)【公開日】2012年7月5日
【審査請求日】2013年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 博
(72)【発明者】
【氏名】堀内 裕史
【審査官】
橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−336547(JP,A)
【文献】
特開2009−215977(JP,A)
【文献】
特開2001−115829(JP,A)
【文献】
特開2010−053842(JP,A)
【文献】
特開2006−207549(JP,A)
【文献】
特開2007−263123(JP,A)
【文献】
特開2011−241746(JP,A)
【文献】
特開2004−150319(JP,A)
【文献】
特開2004−239109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N3/00−3/027
3/029−3/031
3/033−3/037
3/04−3/38
9/00
F02B47/08−47/10
F02D13/00−28/00
41/00−41/40
F02M25/06−25/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンで排気ガス中のHC,CO,NOxの同時低減を図るための排気浄化装置であって、ターボチャージャのタービンより下流の排気通路から排気ガスの一部を抜き出して前記ターボチャージャのコンプレッサより上流の吸気通路へ再循環する低圧ループと、排気マニホールドから排気ガスの一部を抜き出して吸気マニホールドの入口付近に再循環する高圧ループと、これら低圧ループ及び高圧ループの夫々に備えられて排気ガスの再循環量を調整する再循環量調整手段と、前記排気通路の途中に備えられた三元触媒と、前記各再循環量調整手段及び前記ディーゼルエンジンの燃料噴射装置を制御する制御装置とを備え、該制御装置は、前記各再循環量調整手段を制御して低圧ループで加速時に黒煙を生じない程度に抑えたEGR率でベースとなる排気ガス再循環を実施し且つ高圧ループでは不足EGR率分を補足するべく追加の排気ガス再循環を実施することで空燃比を理論空燃比近傍に抑制すると共に、前記燃料噴射装置を制御してメイン噴射直後の着火可能なタイミングでアフタ噴射を実施することで該アフタ噴射による未燃燃料分の増加とその一部の酸化反応による酸素消費とにより空燃比を理論空燃比まで下げるように構成されていることを特徴とする排気浄化装置。
【請求項2】
三元触媒がHCを吸着し得るようゼオライト又はマグネシアを触媒原料として含んでいることを特徴とする請求項1に記載の排気浄化装置。
【請求項3】
三元触媒より上流側の排気管内に燃料を直接噴射する燃料添加手段が備えられ、制御装置が必要に応じて前記燃料添加手段による燃料添加を実施し得るように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の排気浄化装置。
【請求項4】
吸入空気量を絞り込む吸気絞り手段が備えられ、制御装置が必要に応じて前記吸気絞り手段による吸入空気量の絞り込みを実施し得るように構成されていることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の排気浄化装置。
【請求項5】
三元触媒の後段にパティキュレートフィルタが備えられていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の排気浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
排気系に装着されて排気ガス中のHC,CO,NOxを同時に低減させる触媒として三元触媒が従来から知られており、該三元触媒における反応では、HC及びCOの酸化にNOxのO
2が使われ、該NOxがN
2に還元されると共に、前記HC及びCOが酸化されてCO
2と水(H
2O)になるので、有害三成分が同時に無害化されることになる。
【0003】
ただし、三元触媒には、O
2が過不足なく燃料を燃焼させる空燃比、即ち、理論空燃比(ストイキオメトリ)でないと十分な効果が発揮されないという短所があり、排気ガスの残存酸素量が多いディーゼルエンジンで三元触媒は使用されておらず、主としてガソリンエンジンに適用されているのが実情である。
【0004】
因みに、ディーゼルエンジンでは、単純に燃料の噴射量を増やして空気過剰率(λ)を1程度(理論空燃比)にしても気筒内での燃焼が失火してしまうという不具合があり、また、失火直前の状態にあってもCO,HCがそれほど増えないという不具合もあるため、三元触媒を用いてHC,CO,NOxの同時低減を図ることは不可能と考えられている。
【0005】
図2は従来におけるディーゼルエンジンに適用した排気浄化装置の一例を示すもので、ここに図示している例では、ディーゼルエンジン1から排気マニホールド2を介して排出される排気ガス3が流通する排気管4の途中に、酸素共存下でも選択的にNOxをアンモニアと反応させ得る性質を備えた選択還元型触媒5が装備されている。
【0006】
そして、この選択還元型触媒5より上流側の排気管4に、尿素水6を還元剤として噴射する尿素水添加用インジェクタ7(尿素水添加手段)が設置されていると共に、前記選択還元型触媒5の直後には、リークアンモニア対策として余剰のアンモニアを酸化処理するNH
3スリップ触媒8が装備されている。
【0007】
また、前記尿素水添加用インジェクタ7による尿素水6の添加位置より上流側の排気管4に、排気ガス3中の未燃燃料分を酸化処理する機能を高めた酸化触媒9が装備されていると共に、該酸化触媒9の直後には、自身にも酸化触媒を一体的に担持したパティキュレートフィルタ10が装備されている。
【0008】
斯かる排気浄化装置によれば、尿素水添加用インジェクタ7から尿素水6が噴射されて排気ガス3中でアンモニアと炭酸ガスに熱分解され、活性下限温度以上の温度条件下で活性状態となっている選択還元型触媒5上で排気ガス3中のNOxがアンモニアと効果的に反応して良好に還元浄化されることになる。
【0009】
また、ここに図示している例では、選択還元型触媒5の上流側にパティキュレートフィルタ10が装備されているので、該パティキュレートフィルタ10により排気ガス3中のパティキュレートが捕集されて除去され、パティキュレートの堆積量が所定量に達した際に、ディーゼルエンジン1側でメイン噴射に続いて圧縮上死点より遅い非着火のタイミングでポスト噴射を実施すると、このポスト噴射により排気ガス3中に未燃の燃料(主としてHC:炭化水素)が添加され、この未燃の燃料が酸化触媒9を通過する間に酸化反応し、その反応熱で昇温した排気ガス3の流入により後段のパティキュレートフィルタ10の触媒床温度が上げられてパティキュレートが強制的に燃焼除去される。
【0010】
尚、この種の尿素水を還元剤として排気ガス中のNOxを還元浄化する選択還元型触媒を備えた排気浄化装置に関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−239109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、斯かる従来の排気浄化装置においては、NOxの還元浄化を行うために尿素水6の添加が必要であるため、この尿素水6を貯留しておくための尿素水タンク11や尿素水供給管12、供給ポンプ13といった付帯設備が必要となり、設備コストが高くつくという問題があり、また、尿素水タンク11が空にならないように尿素水6を随時補給しなければならないという手間もかかった。
【0013】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、ディーゼルエンジンでも三元触媒を適用し得るようにして尿素水タンクや尿素水供給管、供給ポンプといった付帯設備を不要とし、尿素水の補給といった手間も省けるようにした排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ディーゼルエンジンで排気ガス中のHC,CO,NOxの同時低減を図るための排気浄化装置であって、ターボチャージャのタービンより下流の排気通路から排気ガスの一部を抜き出して前記ターボチャージャのコンプレッサより上流の吸気通路へ再循環する低圧ループと、排気マニホールドから排気ガスの一部を抜き出して吸気マニホールドの入口付近に再循環する高圧ループと、これら低圧ループ及び高圧ループの夫々に備えられて排気ガスの再循環量を調整する再循環量調整手段と、前記排気通路の途中に備えられた三元触媒と、前記各再循環量調整手段及び前記ディーゼルエンジンの燃料噴射装置を制御する制御装置とを備え、該制御装置は、前記各再循環量調整手段を制御して低圧ループで加速時に黒煙を生じない程度に抑えたEGR率でベースとなる排気ガス再循環を実施し且つ高圧ループでは不足EGR率分を補足するべく追加の排気ガス再循環を実施することで空燃比を理論空燃比近傍に抑制すると共に、前記燃料噴射装置を制御してメイン噴射直後の着火可能なタイミングでアフタ噴射を実施することで該アフタ噴射による未燃燃料分の増加とその一部の酸化反応による酸素消費とにより空燃比を理論空燃比まで下げるように構成されていることを特徴とするものである。
【0015】
而して、このようにすれば、低圧ループ側でベースとなる排気ガス再循環が実施され、高圧ループ側では不足EGR率分を補足するべく追加の排気ガス再循環が実施されるので、低圧ループと高圧ループの併用により高いEGR率が実現され、空燃比を理論空燃比近傍に抑制することが可能となる。
【0016】
即ち、高圧ループ側で分担しなければならない排気ガスの再循環量が高圧ループの単独使用の場合よりも少なくて済み、可変ノズル式のターボチャージャ等で無理な排気ガスの絞り込みを行わなくても、高圧ループ側で分担すべき量の排気ガス再循環が比較的容易に実現されることになる。
【0017】
これまで高いEGR率で排気ガスを再循環するのに低圧ループが採用されてこなかったのは、走行中に運転者によりアクセルが踏み込まれて加速状態に入った場合に、空気過剰率が急激に低下して黒煙が発生し易かったからである。
【0018】
即ち、低圧ループにおいては、ターボチャージャのコンプレッサより上流の吸気通路へ排気ガスが戻されるが、ここからコンプレッサ、インタークーラ、吸気マニホールドを経てエンジンに到るまでの経路が長く、この長い経路に排気ガスの混合した吸気が存在することになるため、加速時にアクセルの踏み込みに即応して燃料噴射量が増加した場合に、低圧ループの再循環量調整手段を直ちに閉じても、前記長い経路中の排気ガス混じりの吸気が全て使い切られるまで空気過剰率の低い状態が持続して黒煙が発生し易いという欠点がある。
【0019】
これに対し、高圧ループにおいては、吸気マニホールドの入口付近に排気ガスが戻されるので、排気ガスの混合した吸気は吸気マニホールド内にしか存在せず、加速時に燃料噴射量が増加しても、高圧ループの再循環量調整手段を閉じれば、吸気マニホールド内の排気ガス混じりの吸気が程無く使い切られて空気過剰率が早期に回復するので、加速時における黒煙の発生を回避し易いという利点がある。
【0020】
本発明の場合には、低圧ループと高圧ループとを併用し、加速時に黒煙を生じない程度に抑えたEGR率で低圧ループによりベースとなる排気ガス再循環を実施しているにすぎないので、加速時に高圧ループ側の排気ガスの再循環量を即時低減することで黒煙の発生を未然に回避することが可能である。
【0021】
そして、このように低圧ループと高圧ループとにより多量の排気ガスが再循環されて空燃比が理論空燃比近傍に抑制された条件下で、ディーゼルエンジンでのメイン噴射直後の着火可能なタイミングでアフタ噴射が実施されると、該アフタ噴射による未燃燃料分の増加とその一部の酸化反応による酸素消費とにより空燃比が理論空燃比まで下げられ、ディーゼルエンジンでも三元触媒を機能させてHC,CO,NOxの同時低減を図ることが可能となる。
【0022】
更に、本発明においては、三元触媒がHCを吸着し得るようゼオライト又はマグネシアを触媒原料として含んでいることが好ましく、このようにすれば、過渡運転時等に空燃比が一時的に理論空燃比より大きくなっても、三元触媒に吸着されているHCにより該三元触媒の表面雰囲気を理論空燃比に保持してHC,CO,NOxを同時低減する反応を継続させることが可能となる。
【0023】
また、本発明においては、三元触媒より上流側の排気管内に燃料を直接噴射する燃料添加手段が備えられ、制御装置が必要に応じて前記燃料添加手段による燃料添加を実施し得るように構成されていることが好ましく、更には、吸入空気量を絞り込む吸気絞り手段が備えられ、制御装置が必要に応じて前記吸気絞り手段による吸入空気量の絞り込みを実施し得るように構成されていても良い。
【0024】
このようにすれば、ディーゼルエンジンの運転状況に応じて燃料添加手段により排気管内に燃料を直接噴射して未燃燃料分を補ったり、吸気絞り手段により吸入空気量を絞り込んだりすることで空燃比の低下を助勢することが可能となり、これら燃料添加手段及び吸気絞り手段を適宜に併用することで過剰なアフタ噴射を回避することが可能となる。
【0025】
また、本発明においては、三元触媒の後段にパティキュレートフィルタが備えられていることが好ましく、このようにすれば、パティキュレートフィルタにより排気ガス中のパティキュレートが捕集されて除去されることになり、しかも、そのパティキュレートの堆積量が所定量に達した際に、前記燃料添加手段等を利用して燃料を添加すれば、この未燃の燃料が三元触媒を通過する間に酸化反応し、その反応熱で昇温した排気ガスの流入により後段のパティキュレートフィルタの触媒床温度が上げられてパティキュレートが強制的に燃焼除去されることになる。
【発明の効果】
【0026】
上記した本発明の排気浄化装置によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0027】
(I)本発明の請求項1に記載の発明によれば、ディーゼルエンジンでも空燃比を理論空燃比まで下げて三元触媒を機能させることができるので、尿素水タンクや尿素水供給管、供給ポンプといった付帯設備を不要とすることができて設備コストの大幅な削減を図ることができ、しかも、尿素水の補給といった手間も省くことができて運転者の負担を著しく軽減することができる。
【0028】
(II)本発明の請求項2に記載の発明によれば、過渡運転時等に空燃比が一時的に理論空燃比より大きくなっても、三元触媒に吸着されているHCにより該三元触媒の表面雰囲気を理論空燃比に保持してHC,CO,NOxを同時低減する反応を継続させることができるので、三元触媒のHC,CO,NOxを同時低減する反応の継続性を大幅に向上することができる。
【0029】
(III)本発明の請求項3,4に記載の発明によれば、ディーゼルエンジンの運転状況に応じて燃料添加手段により排気管内に燃料を直接噴射して未燃燃料分を補ったり、吸気絞り手段により吸入空気量を絞り込んだりすることで空燃比の低下を助勢することができるので、これら燃料添加手段及び吸気絞り手段を適宜に併用することで過剰なアフタ噴射を回避することができ、過剰なアフタ噴射により燃料がオイルに混入して該オイルが希釈してしまうことを防止することができる。
【0030】
(IV)本発明の請求項5に記載の発明によれば、排気ガス中のパティキュレートをパティキュレートフィルタにより捕集して除去することができ、しかも、三元触媒をパティキュレートフィルタの強制再生のための酸化触媒の替わりに使うことで従来通りの燃料添加によるパティキュレートフィルタの再生を行うことができ、パティキュレートフィルタの強制再生のための酸化触媒を新たに設けなくて済むことで全体構成のコンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明を実施する形態の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0033】
図1は本発明を実施する形態の一例を示すもので、
図2と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。
【0034】
ここに図示している例では、ディーゼルエンジン1がターボチャージャ14を備えており、図示しないエアクリーナから導かれた吸気15が吸気管16を通し前記ターボチャージャ14のコンプレッサ14aへと送られ、該コンプレッサ14aで加圧された吸気15がインタークーラ17へと送られて冷却され、該インタークーラ17から更に吸気マニホールド18へと吸気15が導かれてディーゼルエンジン1の各気筒19に分配されるようになっている。
【0035】
更に、このディーゼルエンジン1の各気筒19から排出された排気ガス3は、排気マニホールド2を介しターボチャージャ14のタービン14bへと送られ、該タービン14bを駆動した排気ガス3が排気管4を介し車外へ排出されるようにしてあり、該排気管4の途中には、理論空燃比(ストイキオメトリ)でHC,CO,NOxの同時低減化を図り得る三元触媒20と、該三元触媒20の直後に配置されたパティキュレートフィルタ10とが装備されている。
【0036】
ここで、前記三元触媒20は、HCを吸着し得るようゼオライトやマグネシア等を触媒原料として含んでおり、排気ガス3中に含まれるHCを吸着して三元触媒20上に保持し得るようになっていて、過渡運転時等に空燃比が一時的に理論空燃比より大きくなっても、三元触媒に吸着されているHCによりHC,CO,NOxを同時低減する反応が継続されるようにしてある。
【0037】
そして、このディーゼルエンジン1にあっては、前記パティキュレートフィルタ10の下流側から排気ガス3の一部を抜き出して前記ターボチャージャ14のコンプレッサ14aより上流の吸気管16へ再循環する低圧ループ21と、排気マニホールド2から排気ガス3の一部を抜き出して吸気マニホールド18の入口付近に再循環する高圧ループ22とが装備されている。
【0038】
前記低圧ループ21及び高圧ループ22の夫々には、排気ガス3の再循環量を調整するためのEGRバルブ23,24(再循環量調整手段)と、再循環される排気ガス3を冷却するためのEGRクーラ25,26が装備されており、該EGRクーラ25,26で冷却水と排気ガス3とを熱交換させることにより排気ガス3の温度を低下し且つその容積を小さくすることで、ディーゼルエンジン1の出力をあまり低下させずに燃焼温度を下げて効果的にNOxの発生を低減し得るようにしてある。
【0039】
そして、前記各EGRバルブ23,24の開度が、エンジン制御コンピュータ(ECU:Electronic Control Unit)を成す制御装置27からの開度指令信号23a,24aとにより制御されるようになっており、これらの制御については、アクセル開度をディーゼルエンジン1の負荷として検出するアクセルセンサ28(負荷センサ)からのアクセル開度信号28aと、ディーゼルエンジン1の機関回転数を検出する回転センサ29からの回転数信号29aとに基づいて以下の如く実行されるようになっている。
【0040】
即ち、制御装置27では、低圧ループ21により加速時に黒煙を生じない程度に抑えたEGR率(例えば10%程度)でベースとなる排気ガス再循環を実施し且つ高圧ループ22では不足EGR率分(例えば25%程度分)を補足するべく追加の排気ガス再循環を実施して空燃比を理論空燃比近傍(空気過剰率が約1.1付近)に抑制し得るよう現在の運転状態に応じた各EGRバルブ23,24の開度が指示されるようになっている。
【0041】
しかも、前記制御装置27においては、前記アクセルセンサ28からのアクセル開度信号28aと、前記回転センサ29からの回転数信号29aとに基づいて、前記ディーゼルエンジン1の燃料噴射装置30を燃料噴射指令信号30aにより制御し得るようになっており、前述の低圧ループ21と高圧ループ22とによる排気ガス再循環の実施により理論空燃比近傍まで抑制した空燃比を、メイン噴射直後の着火可能なタイミングでアフタ噴射を実施することで該アフタ噴射による未燃燃料分の増加とその一部の酸化反応による酸素消費とにより更に下げ、これにより空燃比を理論空燃比(空気過剰率が約1.0)まで下げられるようにしてある。
【0042】
また、空燃比を理論空燃比まで下げる制御においては、吸気管16に備えられている吸気バルブ31が必要に応じ吸気絞り手段として併用されるようになっており、制御装置27からの開度指令信号31aにより前記吸気バルブ31が吸入空気量を絞り込むことで空燃比の低下が助勢されるようになっている。
【0043】
更に、本形態例においては、三元触媒20より上流側の排気管4に、該排気管4内に燃料を直接噴射するための燃料添加弁32が燃料添加手段として備えられており、この燃料添加弁32には、所要場所に配置された図示しない燃料タンクから燃料が供給されるようになっていて、前記制御装置27からの燃料噴射指令信号32aにより前記燃料添加弁32による燃料添加が実施されて空燃比の低下が助勢されるようになっている。
【0044】
ここで、前記制御装置27における空燃比を理論空燃比まで下げる制御は、例えば、総燃料噴射量とディーゼルエンジン1の機関回転数との二次元マップによりディーゼルエンジン1の運転領域を複数に分割し、その分割した各運転領域ごとに割り付けた目標値で、各EGRバルブ23,24、燃料噴射装置30、吸気バルブ31、燃料添加弁32を制御させるようにすれば良い。
【0045】
尚、吸気バルブ31による吸入空気量の絞り込みと、燃料添加弁32による燃料添加とにより空燃比の低下を助勢するようにしているのは、過剰なアフタ噴射を防止したいからであり、ピストンが下降し始めた段階でのアフタ噴射が過剰に行われると、その噴射燃料がシリンダ壁に付着してオイルに混入し、該オイルを希釈してしまう虞れがあるからである。
【0046】
適正な吸入空気量を確保できる範囲内で吸気バルブ31による吸入空気量の絞り込みを行えば、シリンダ壁への燃料の付着を回避できる程度のアフタ噴射に留めても、空燃比を理論空燃比まで下げることが可能となる。ただし、ディーゼルエンジン1の運転状況によっては、吸気バルブ31による吸入空気量の絞り込みを実施した場合に、吸入空気量の不足を招く虞れがある。
【0047】
このため、吸入空気量の不足を招く虞れがある場合には、吸気バルブ31による吸入空気量の絞り込みを吸入空気量の不足を招かない程度に留め、燃料添加弁32により燃料添加を実施して空燃比を理論空燃比まで下げるようにすれば良い。ただし、燃料添加弁32による燃料添加は燃費の悪化に繋がるため、あくまでもアフタ噴射を優先して燃料添加弁32の燃料添加を必要最小限に抑えるようにする必要があることは勿論である。
【0048】
而して、このようにすれば、低圧ループ21側でベースとなる排気ガス再循環が実施され、高圧ループ22側では不足EGR率分を補足するべく追加の排気ガス再循環が実施されるので、低圧ループ21と高圧ループ22の併用により高いEGR率が実現され、空燃比を理論空燃比近傍に抑制することが可能となる。
【0049】
即ち、高圧ループ22側で分担しなければならない排気ガス3の再循環量が高圧ループ22の単独使用の場合よりも少なくて済み、可変ノズル式のターボチャージャ等で無理な排気ガス3の絞り込みを行わなくても、高圧ループ22側で分担すべき量の排気ガス再循環が比較的容易に実現されることになる。
【0050】
これまで高いEGR率で排気ガス3を再循環するのに低圧ループ21が今まで採用されてこなかったのは、走行中に運転者によりアクセルが踏み込まれて加速状態に入った場合に、空気過剰率が急激に低下して黒煙が発生し易かったからである。
【0051】
即ち、低圧ループ21の場合には、ターボチャージャ14のコンプレッサ14aより上流の吸気管16へ排気ガス3が戻されるが、ここからコンプレッサ14a、インタークーラ17、吸気マニホールド18を経てディーゼルエンジン1に到るまでの経路が長く、この長い経路に排気ガス3の混合した吸気が存在することになるため、加速時にアクセルの踏み込みに即応して燃料噴射量が増加した場合に、低圧ループ21のEGRバルブ23を直ちに閉じても、前記長い経路中の排気ガス3混じりの吸気が全て使い切られるまで空気過剰率の低い状態が持続して黒煙が発生し易くなってしまう欠点がある。
【0052】
これに対し、高圧ループ22においては、吸気マニホールド18の入口付近に排気ガス3が戻されるので、排気ガス3の混合した吸気15は吸気マニホールド18内にしか存在せず、加速時に燃料噴射量が増加しても、高圧ループ22のEGRバルブ24を閉じれば、吸気マニホールド18内の排気ガス3混じりの吸気15が程無く使い切られて空気過剰率が早期に回復するので、加速時における黒煙の発生を回避し易いという利点がある。
【0053】
本形態例の場合には、低圧ループ21と高圧ループ22とを併用し、加速時に黒煙を生じない程度に抑えたEGR率で低圧ループ21によりベースとなる排気ガス再循環を実施しているにすぎないので、加速時に高圧ループ22側の排気ガス3の再循環量を即時低減することで黒煙の発生を未然に回避することが可能である。
【0054】
そして、このように低圧ループ21と高圧ループ22とにより多量の排気ガス3が再循環されて空燃比が理論空燃比近傍に抑制された条件下で、ディーゼルエンジン1でのメイン噴射直後の着火可能なタイミングでアフタ噴射が実施されると、該アフタ噴射による未燃燃料分の増加とその一部の酸化反応による酸素消費とにより空燃比が理論空燃比まで下げられ、ディーゼルエンジン1でも三元触媒20を機能させてHC,CO,NOxの同時低減を図ることが可能となる。
【0055】
また、本形態例においては、三元触媒20がHCを吸着し得るようゼオライトやマグネシア等を触媒原料として含んでいるので、過渡運転時等に空燃比が一時的に理論空燃比より大きくなっても、三元触媒20に吸着されているHCによりHC,CO,NOxを同時低減する反応を継続させることが可能となる。
【0056】
更に、空燃比を理論空燃比まで下げる制御に関し、本形態例においては、ディーゼルエンジン1の運転状況に応じて燃料添加弁32により排気管4内に燃料を直接噴射して未燃燃料分を補ったり、吸気バルブ31により吸入空気量を絞り込んだりすることで空燃比の低下を助勢することが可能であるため、これら燃料添加弁32及び吸気バルブ31を適宜に併用することで過剰なアフタ噴射を回避することが可能となる。
【0057】
更に、三元触媒20の後段にパティキュレートフィルタ10が備えられているので、パティキュレートフィルタ10により排気ガス3中のパティキュレートが捕集されて除去されることになり、しかも、そのパティキュレートの堆積量が所定量に達した際に、前記燃料添加弁32等を利用して燃料を添加すれば、この未燃の燃料が三元触媒20を通過する間に酸化反応し、その反応熱で昇温した排気ガス3の流入により後段のパティキュレートフィルタ10の触媒床温度が上げられてパティキュレートが強制的に燃焼除去されることになる。
【0058】
従って、上記形態例によれば、ディーゼルエンジン1でも空燃比を理論空燃比まで下げて三元触媒20を機能させることができるので、尿素水タンク11(
図2参照)や尿素水供給管12(
図2参照)、供給ポンプ13(
図2参照)といった付帯設備を不要とすることができて設備コストの大幅な削減を図ることができ、しかも、尿素水6の補給といった手間も省くことができて運転者の負担を著しく軽減することができる。
【0059】
更に、過渡運転時等に空燃比が一時的に理論空燃比より大きくなっても、三元触媒20に吸着されているHCにより該三元触媒20の表面雰囲気を理論空燃比に保持してHC,CO,NOxを同時低減する反応を継続させることができるので、三元触媒20のHC,CO,NOxを同時低減する反応の継続性を大幅に向上することができる。
【0060】
また、ディーゼルエンジン1の運転状況に応じて燃料添加弁32により排気管4内に燃料を直接噴射して未燃燃料分を補ったり、吸気バルブ31により吸入空気量を絞り込んだりすることで空燃比の低下を助勢することができるので、これら燃料添加弁32及び吸気バルブ31を適宜に併用することで過剰なアフタ噴射を回避することができ、過剰なアフタ噴射により燃料がオイルに混入して該オイルが希釈してしまうことを防止することができる。
【0061】
更に、排気ガス3中のパティキュレートをパティキュレートフィルタ10により捕集して除去することができ、しかも、三元触媒20をパティキュレートフィルタ10の強制再生のための酸化触媒の替わりに使うことで従来通りの燃料添加によるパティキュレートフィルタ10の再生を行うことができ、パティキュレートフィルタ10の強制再生のための酸化触媒を新たに設けなくて済むことで全体構成のコンパクト化を図ることができる。
【0062】
また、特に
図1に示している如きパティキュレートフィルタ10の下流側から排気ガス3の一部を抜き出して再循環させるようにすれば、再循環する排気ガス3に含まれるパティキュレート(煤分)による吸気系(コンプレッサ14aや吸気管16、インタークーラ17等)の汚損を回避することもできる。
【0063】
尚、本発明の排気浄化装置は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、圧縮上死点近辺で行われるべきメイン噴射を圧縮上死点より早いタイミングで行い、気筒内への燃料の先行投入により燃料の予混合化を促進してから着火燃焼させるようにした予混合圧縮着火を併用し、ディーゼルエンジンにおける燃焼性を極力良好に保持し得るように支援させても良いこと、また、排気マニホールド直後の排気温度の高い領域の排気管に小型の三元触媒を追加装備するようにしても良いこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0064】
1 ディーゼルエンジン
2 排気マニホールド
3 排気ガス
4 排気管
9 酸化触媒
10 パティキュレートフィルタ
14 ターボチャージャ
14a コンプレッサ
14b タービン
15 吸気
16 吸気管
19 気筒
20 三元触媒
21 低圧ループ
22 高圧ループ
23 EGRバルブ(再循環量調整手段)
24 EGRバルブ(再循環量調整手段)
27 制御装置
30 燃料噴射装置
31 吸気バルブ(吸気絞り手段)
32 燃料添加弁(燃料添加手段)