特許第5774323号(P5774323)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5774323プレストレストコンクリート梁のせん断耐力算定方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5774323
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】プレストレストコンクリート梁のせん断耐力算定方法。
(51)【国際特許分類】
   E04C 3/26 20060101AFI20150820BHJP
   E04B 1/22 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   E04C3/26
   E04B1/22
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-19501(P2011-19501)
(22)【出願日】2011年2月1日
(65)【公開番号】特開2012-158917(P2012-158917A)
(43)【公開日】2012年8月23日
【審査請求日】2013年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】馬場 重彰
(72)【発明者】
【氏名】坂本 成弘
(72)【発明者】
【氏名】道越 真太郎
【審査官】 仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−81971(JP,A)
【文献】 特開平9−209499(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 3/26
E04B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の孔部が並んで形成されたプレストレストコンクリート梁のせん断耐力算定方法であって、
前記複数の孔部の上下および隣接する孔部同士の間に配置された、上弦材、下弦材、およびせん断補強筋による、鉄筋が負担する第一のせん断耐力を算定し
隣接する2つの孔部間を跨ぐ上弦材、下弦材、せん断補強筋、およびコンクリートからなるトラス機構における、コンクリートストラットが負担する第二のせん断耐力を算定し、
前記複数の孔部の上部側で、梁下面端部の支持点と梁上面中央部の加力点とを結ぶアーチ機構で伝達される、コンクリートが負担する第三のせん断耐力を算定するとともに、
前記複数の孔部の下部側で、梁下面端部の支持点と梁上面中央部の加力点とを結ぶアーチ機構で伝達される、コンクリートが負担する第四のせん断耐力を算定し、
前記梁のせん断耐力が、前記第一のせん断耐力、前記第二のせん断耐力、前記第三のせん断耐力、および前記第四のせん断耐力の和とするせん断耐力算定方法により決定されるせん断補強筋の鉄筋量を、前記孔部の上下および前記孔部の間に備えたことを特徴とするプレストレストコンクリート梁のせん断耐力算定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、せん断耐力算定方法およびプレストレストコンクリート梁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プレキャストプレストレストコンクリート梁(以降、PCaPC梁と呼ぶ)が知られている。
このPCaPC梁に設備配管用の開口部を設ける場合、「プレストレストコンクリート設計施工規準・同解説」(以降、PC規準と呼ぶ)(非特許文献1)に従って梁のせん断耐力を評価している。具体的には、開口部の上下の弦材のトラス機構を想定し、このトラス機構によるせん断耐力を梁のせん断耐力として算定している。つまり、開口位置でのせん断耐力を圧縮弦材と引張弦材のトラス機構のみによる耐力の和としている。
【0003】
そして、この算定したせん断耐力に基づいて、配筋位置や配筋量を決定している。この際、開口部の周囲には、開口部を補強するため、せん断補強筋を開口部の脇に集約して配したり、上端主筋および下端主筋が共に2段となっている場合には、開口部の上下にもせん断補強筋を配したりする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】プレストレストコンクリート設計施工規準・同解説、1998年11月、日本建築学会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、PC規準では、開口位置でのせん断耐力を圧縮弦材と引張弦材のトラス機構のみによる耐力の和としているため、実験より得られる耐力と比較すると、せん断耐力を過少評価していることになる。よって、開口部上下位置での鉄筋(せん断補強筋)が過大になる、という問題があった。また、開口部の最大径(PC規準では1/3が上限)が大きくなると、必要なせん断補強筋比が上昇するため、開口部の上下により集約して配することになる。よって、配筋し難くなったり、コンクリートの充填性が低下したりして、施工性が低下する、という問題があった。
【0006】
本発明は、せん断補強筋量が過大になるのを防止できるせん断耐力算定方法およびプレストレストコンクリート梁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項に記載のプレストレストコンクリート梁のせん断耐力算定方法は、複数の孔部が並んで形成されたプレストレストコンクリート梁のせん断耐力算定方法であって、前記複数の孔部の上下および隣接する孔部同士の間に配置された、上弦材、下弦材、およびせん断補強筋による、鉄筋が負担する第一のせん断耐力を算定し、隣接する2つの孔部間を跨ぐ上弦材、下弦材、せん断補強筋、およびコンクリートからなるトラス機構におけるコンクリートストラットが負担する第二のせん断耐力を算定し、前記複数の孔部の上部側で、梁下面端部の支持点と梁上面中央部の加力点とを結ぶアーチ機構で伝達される、コンクリートが負担する第三のせん断耐力を算定するとともに、前記複数の孔部の下部側で、梁下面端部の支持点と梁上面中央部の加力点とを結ぶアーチ機構で伝達される、コンクリートが負担する第四のせん断耐力を算定し、前記梁のせん断耐力が、前記第一のせん断耐力、前記第二のせん断耐力、前記第三のせん断耐力、および前記第四のせん断耐力の和とするせん断耐力算定方法により決定されるせん断補強筋の鉄筋量を、前記孔部の上下および前記孔部の間に備えたことを特徴とする
【0009】
PC規準のせん断耐力の評価式は、梁のせん断耐力を孔部の位置でのトラス機構のみで構成するため、実際よりも小さくなることが判明している。
そこで、この発明によれば、梁のせん断耐力を、従来の孔部の位置でのトラス機構によるせん断耐力に、孔部間を跨ぐストラットによるせん断耐力、およびアーチ機構によるせん断耐力を加えて構成した。
これにより、せん断耐力の評価が実際のせん断耐力に近い値となるので、合理的な設計を行うことができる。よって、孔部の脇に配するせん断補強筋や孔部の上下のせん断補強筋を低減できるから、せん断補強筋量が過大になるのを防止して、施工性が低下するのを防止できる。
【0010】
本発明のプレストレストコンクリート梁は、前記孔部の最大径の梁成に対する比である開口率は、41.5%以下であることが好ましい
【0011】
コンクリート梁に孔部を形成する場合、PC規準では孔部の直径を梁成の1/3以下にするよう定めている。
しかしながら、この発明によれば、梁のせん断耐力を正確に評価できるようになるため、孔部の最大径が梁成の1/3を超えても、梁成の41.5%以下であれば、梁のせん断耐力を確保できる。
【0012】
本発明のプレストレストコンクリート梁は、前記孔部の脇のせん断補強筋は、普通鉄筋を複数束ねて配置されたもの、高強度鉄筋、または太径の鉄筋であることが好ましい
【0013】
この発明によれば、せん断補強筋を集約したり、高強度鉄筋や太径の鉄筋を採用したりすることで、配筋を容易にしたり、コンクリートの充填性を向上したりできる。よって、施工性が低下するのをさらに抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、梁のせん断耐力を、従来の孔部の位置でのトラス機構によるせん断耐力に、孔部間を跨ぐストラットによるせん断耐力、およびアーチ機構によるせん断耐力を加えて構成した。これにより、せん断耐力の評価が実際のせん断耐力に近い値となるので、合理的な設計を行うことができる。よって、孔部の脇に配するせん断補強筋や孔部の上下のせん断補強筋を低減できるから、せん断補強筋量が過大になるのを防止して、施工性が低下するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るせん断耐力算定方法が適用されるプレストレストコンクリート梁の側面図である。
図2】前記実施形態に係るせん断耐力算定方法のフローチャートである。
図3】前記実施形態に係るせん断耐力算定方法で想定する孔部間を跨ぐトラス機構を示す図である。
図4】前記実施形態に係る孔部間を跨ぐトラス機構の力学的な構造を示す図である。
図5】前記実施形態に係るせん断耐力算定方法で想定するアーチ機構を示す図である。
図6】本発明の実施例に係るせん断耐力算定方法が適用される試験体の断面図である。
図7】本発明の実施例に係る試験体の側面図である。
図8】本発明の実施例に係る試験体の加力方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るせん断耐力算定方法が適用されるプレストレストコンクリート梁1の側面図である。
【0017】
プレストレストコンクリート梁1には、複数の円形の貫通孔である孔部10が並んで設けられている。このプレストレストコンクリート梁1は、孔部10の上に位置する上弦材2、孔部10の下に位置する下弦材3、および孔部10同士の間に位置する束材部4で構成される。
【0018】
図2は、せん断耐力算定方法のフローチャートである。
ステップS1では、PC規準で示すように、上弦材2、下弦材3、および束材部4におけるトラス機構を想定する。以下の式では、このトラス機構をt1として表す。
そして、孔部の上下のトラス機構によるせん断耐力t1および束材部のトラス機構により伝達できるせん断耐力t1を算定する。
【0019】
まず、上弦材におけるトラス機構により伝達できるせん断耐力upt1を、式(1)に従って算定し、下弦材におけるトラス機構により伝達できるせん断耐力lowt1を、式(2)に従って算定する。
【0020】
【数1】
【0021】
ここで、bは幅であり、upj、lowjは上弦材および下弦材の主筋間距離であり、uplowは上弦材および下弦材のせん断補強筋比であり、upσwylowσwyは上弦材および下弦材のせん断補強筋の降伏強度であり、upφ、lowφは上弦材および下弦材のトラス機構角度である。
そして、孔部の上下のトラス機構によるせん断耐力t1を、式(3)に従って算定する。
【0022】
【数2】
【0023】
次に、束材部のトラス機構により伝達できるせん断耐力t1を、式(4)に従って算定する。
【0024】
【数3】
【0025】
ここで、jは束材部の主筋間距離であり、は束材部のせん断補強筋比であり、σwyは束材部のせん断補強筋の降伏強度であり、φは束材部のトラス機構角度である。
【0026】
ステップS2では、PC規準で示されたトラス機構によるせん断耐力Qt1を求める。
すなわち、式(5)に示すように、束材部のトラス機構によるせん断耐力t1と孔部のトラス機構によるせん断耐力t1とを比較し、このうち小さい方を、孔部間を跨がない孔部の位置でのトラス機構によるせん断耐力Qt1とする。
【0027】
【数4】
【0028】
ステップS3では、孔部間を跨ぐトラス機構によるせん断耐力Qt2を算定する。以下の式では、このトラス機構をt2として表す。
すなわち、上述のPC規準のトラス機構では、束材部のトラス機構によるせん断耐力を全て使用しているわけではない。
【0029】
そこで、上述のトラス機構に加えて、図3に示すように、孔部10間を跨ぐトラス機構を想定する。このトラス機構は、コンクリートストラット20、主筋21およびコンクリートストラット20が着地する範囲の孔部脇のせん断補強筋22で形成され、孔部上下のせん断補強筋を使用しない。ここで、孔部の左右のせん断補強筋を使用してトラス機構を形成できることから、図3(a)、(b)に示すように、孔部間を跨ぐトラス機構は、孔部間隔だけずれた2種類存在すると考えられる。このように孔部の上下を通るストラットが存在するため、孔部は2本分のストラットが負担できるせん断力を伝達できることになる。
【0030】
次に、図4に示すように、孔部間を跨ぐトラス機構の力学的条件を検討する。このトラス機構のストラットは孔部脇に着地し、その箇所の束材部のせん断補強筋および主筋とコンクリートでトラスを形成することになる。一本のストラット部が負担できるせん断耐力は、ストラット幅に存在する束材部のせん断補強筋の降伏荷重である。ただし、束材部のせん断補強筋は、孔部の上弦材と下弦材の合計のせん断耐力分のせん断力伝達に使用されていることを考慮しなければならない。
【0031】
つまり、束材部では上下弦材分のせん断耐力を差し引いた分だけ余力が存在していることになる。孔部の上弦材および下弦材のせん断耐力を差し引いた束材部耐力の残余分ext1を、式(6)に従って算定する。
【0032】
【数5】
【0033】
よって、束材部せん断補強筋強度の余裕度αを、式(7)に従って算定する。
【0034】
【数6】
【0035】
次に、孔部間を跨ぐストラットが着地する範囲のせん断補強筋の耐力outt2を、式(8)に従って算定する。
【0036】
【数7】
【0037】
ここで、outは孔部間を跨ぐストラットが着地する範囲のせん断補強筋の断面積(図10参照)であり、outσwyは孔部間を跨ぐストラットが着地する範囲のせん断補強筋の降伏強度である。
【0038】
よって、孔部間を跨ぐストラットが伝えられるせん断耐力Qt2を、式(9)に従って算定する。
【0039】
【数8】
【0040】
ステップS4では、トラス機構によるせん断耐力Qを、式(10)に従って算定する。
【0041】
【数9】
【0042】
ステップS5では、アーチ機構によるせん断耐力Qを算定する。
PC規準による有孔梁の耐力検討では、アーチ機構によるせん断耐力の寄与を考慮していない。しかし、本発明では、図5に示すように、上弦材および下弦材それぞれを伝達できるアーチ機構を設定し、検討を試みる。ここでは、主筋の降伏により伝達できるせん断力を考慮すると、上弦材のアーチ機構によるせん断耐力upは、式(11)で表される。また、下弦材のアーチ機構によるせん断耐力lowは、式(12)で表される。
【0043】
【数10】
【0044】
ここで、upa、lowaは、上弦材および下弦材主筋の断面積であり、upσlowσは、上弦材および下弦材主筋の降伏強度であり、upθ、lowθは、上弦材および下弦材のアーチ角度である。
【0045】
よって、アーチ機構により伝達できるせん断耐力Qを、式(13)に従って算定する。
【0046】
【数11】
【0047】
ステップS6では、梁のせん断耐力Qを、式(14)に従って算定する。
【0048】
【数12】
【0049】
[実施例]
本発明のせん断耐力算定方法を、「高強度異形鉄筋を用いたプレテンション方式PCaPC梁の構造性能」(日本建築学会大会学術講演梗概集(関東)、C−2、PP.949−950、2008.9)に示された、試験体1、2のせん断破壊実験に適用する。
【0050】
図6は、試験体の断面図であり、図7は、試験体の側面図である。
試験体1、2は、実大スケールの2体であり、いずれもφ415@1200の孔部を有している。つまり、開口率は41.5%となっている。試験体1、2は、梁幅が300mm、梁成が1200mm、梁長さが12000mmである。
また、試験体1、2のプレキャスト部は、梁幅が300mm、梁成が865mm、梁長さが7200mmである。
【0051】
試験体1と試験体2とは、表1に示すように孔部のせん断補強筋のみが異なり、下端筋はD41(SD685)を4本とし、これらの主筋を全て緊張材と兼用している。
【0052】
【表1】
【0053】
使用するコンクリートは、プレキャスト部がFc80、後打ち部がFc24である。コンクリート打設後16時間経過後に、強度が60N/mmであることを確認して、プレストレスを導入した。表2にコンクリートの材料試験結果、表3に鋼材の材料試験結果を示す。
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
以上の試験体1、2に、以下の手順で力を加えた。
すなわち、単純梁形式の対称2点集中荷重による変位漸増の一方向繰り返しとした。まず、図8に示すように、加力点から支持点までの距離が5000mmで曲げ破壊耐力まで載荷する(載荷1)。この際、部材角が1/500radで1回、1/200rad、1/100rad、1/50radで各々2回ずつ繰り返した。
次に、両端支点を2000mm内側に移動して、せん断破壊耐力を確認した(載荷2)。
その結果、せん断破壊耐力は、1103kNとなった。
【0057】
試験体1、2に本発明のせん断耐力算定方法を適用する。
まず、式(1)、式(2)により、孔部の上弦材および下弦材のトラス機構によるせん断耐力upt1lowt1を求める。
トラス機構の角度upφ、lowφは、PC規準に従い、45°と仮定すると、上弦材側のトラス機構によるせん断耐力upt1は、188kNとなり、下弦材側のトラス機構によるせん断耐力lowt1は125kNとなった。
よって、式(3)により、孔部のトラス機構によるせん断耐力t1は、313kNとなった。
【0058】
次に、式(4)により、束材部のトラス機構により伝達できるせん断耐力t1を求める。束材部のせん断補強筋として全数分を見込むと、束材部のトラス機構により伝達できるせん断耐力t1は936kNとなった。
【0059】
よって、式(5)より、トラス機構によるせん断耐力Qt1は313kNとなる。
したがって、孔部のトラス機構によるせん断耐力の方が小さく、束材部ではトラス機構によるせん断耐力を使い切ってはいない。よって、式(6)より、上下弦材分を差し引いた束材部耐力の残余分ext1は623kNであり、残余分が孔部間を跨ぐストラットとしてせん断力を負担できる。なお、式(7)より、余裕度αは0.666である。
【0060】
次に、孔部間を跨ぐストラットが着地する範囲のせん断補強筋の本数は3本であり、式(8)より、せん断補強筋の耐力outt2は265kNとなる。よって、式(9)より、孔部間を跨ぐストラット一本あたりのせん断耐力Qt2は、176kNである。
【0061】
以上より、式(10)より、複数の孔部を有する梁のトラス機構によるせん断耐力Qは665kNである。実験値は1103kNであるので、従来のPC規準によるトラス機構のみのせん断耐力評価では実験値を過小評価していることが判る。
そこで本発明では、アーチ機構によるせん断耐力分を考慮して試験体のせん断耐力評価を試みる。上弦材および下弦材のアーチ角度upθ、lowθは、図5を参照して、式(15)、式(16)により求める。
【0062】
【数13】
【0063】
よって、式(11)、式(12)により、上弦材および下弦材のアーチ機構によるせん断力負担分uplowは72kN、131kNとなる。
式(13)、式(14)より、アーチ機構により伝達できるせん断耐力Qは203kNとなり、梁のせん断耐力Qは868kNとなる。
実験値は1103kNであり、実験値に対する本計算結果の割合は0.79であった。また、実験値に対するPC規準の割合は0.29である。したがって、本発明によれば、PC規準に比べて、実験結果に近い評価をできることが判る。
【0064】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)梁のせん断耐力を、従来の孔部の位置でのトラス機構によるせん断耐力に、孔部間を跨ぐストラットによるせん断耐力、およびアーチ機構によるせん断耐力を加えて構成した。これにより、せん断耐力の評価が実際のせん断耐力に近い値となるので、合理的な設計を行うことができる。よって、孔部の脇に配するせん断補強筋や孔部の上下のせん断補強筋を低減できるから、せん断補強筋量が過大になるのを防止して、施工性が低下するのを防止できる。
【0065】
(2)梁のせん断耐力を正確に評価できるようになるため、孔部の最大径が梁成の1/3を超えても、梁のせん断耐力を確保できる。
【0066】
(3)梁のせん断耐力を正確に評価できるようになるため、コンクリート強度がFc30N/mm以上であっても、せん断補強筋比を抑えることができる。
【0067】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0068】
1…プレストレストコンクリート梁
2…上弦材
3…下弦材
4…束材部
10…孔部
20…コンクリートストラット
21…主筋
22…せん断補強筋
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8