(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5774336
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】車両および車両の制御装置ならびに車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20150820BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20150820BHJP
H02J 7/10 20060101ALI20150820BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20150820BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20150820BHJP
B60L 7/14 20060101ALI20150820BHJP
B60L 3/00 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
B60L15/20 J
H02J7/00 P
H02J7/00 Y
H02J7/10 A
H01M10/44 P
H01M10/48 P
B60L7/14
B60L3/00 S
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-60926(P2011-60926)
(22)【出願日】2011年3月18日
(65)【公開番号】特開2012-200048(P2012-200048A)
(43)【公開日】2012年10月18日
【審査請求日】2014年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232807
【氏名又は名称】ニチユ三菱フォークリフト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】中村 貢
(72)【発明者】
【氏名】高野 真一
【審査官】
清水 康
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−284608(JP,A)
【文献】
特開2003−264906(JP,A)
【文献】
特開2010−193665(JP,A)
【文献】
特開2006−094691(JP,A)
【文献】
特開2007−074891(JP,A)
【文献】
特開2011−234487(JP,A)
【文献】
特開2004−135417(JP,A)
【文献】
特開2005−218251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00 − 3/12
B60L 7/00 − 13/00
B60L 15/00 − 15/42
H01M 10/44
H01M 10/48
H02J 7/00
H02J 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載のモータによる回生電力が充電されるバッテリの端子電圧に基づいて、前記モータの回生トルク指令値を制限する車両の制御装置であって、
前記バッテリの端子電圧が予め設定されている第1閾値を超えた場合に充電継続不可能と判断して前記回生トルク指令値をゼロに設定し、
前記バッテリの端子電圧が前記第1閾値と前記バッテリの公称電圧との間に設定された第2閾値を超えた場合に、予め設定されている前記回生トルク指令値の上限値の初期値から前記バッテリの端子電圧と前記第2閾値との差分の積分値を減算した値を前記回生トルク指令値の上限値とすることで、予め設定されている前記回生トルク指令値の上限値を前記バッテリの劣化度合いに応じて徐々に低下させ、前記回生トルク指令値を前記上限値内に制限する車両の制御装置。
【請求項2】
車両に搭載されるバッテリの端子電圧に基づいて、前記バッテリを駆動源とするモータの力行トルク指令値を制限する車両の制御装置であって、
前記バッテリの端子電圧が予め設定されている第4閾値未満となった場合に運転継続不可能と判断して前記力行トルク指令値をゼロに設定し、
前記バッテリの端子電圧が前記第4閾値と前記バッテリの公称電圧との間に設定された第3閾値未満となった場合に、予め設定されている前記力行トルク指令値の上限値の初期値から前記バッテリの端子電圧と前記第3閾値との差分の積分値を減算した値を前記力行トルク指令値の上限値とすることで、予め設定されている前記力行トルク指令値の上限値を前記バッテリの劣化度合いに応じて徐々に低下させ、前記力行トルク指令値を前記上限値内に制限する車両の制御装置。
【請求項3】
前記上限値の変化に基づいて、前記上限値がゼロに到達する時期を予測し、予測した時期を前記バッテリの交換時期の目安として表示させる請求項1または請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の車両の制御装置を備える車両。
【請求項5】
車載のモータによる回生電力が充電されるバッテリの端子電圧に基づいて、回生トルク指令値を制限する車両の制御方法であって、
前記バッテリの端子電圧が予め設定されている第1閾値を超えた場合に充電継続不可能と判断して前記回生トルク指令値をゼロに設定し、
前記バッテリの端子電圧が前記第1閾値と前記バッテリの公称電圧との間に設定された第2閾値を超えた場合に、予め設定されている前記回生トルク指令値の上限値の初期値から前記バッテリの端子電圧と前記第2閾値との差分の積分値を減算した値を前記回生トルク指令値の上限値とすることで、予め設定されている前記回生トルク指令値の上限値を前記バッテリの劣化度合いに応じて徐々に低下させ、前記回生トルク指令値を前記上限値内に制限する車両の制御方法。
【請求項6】
車両に搭載されるバッテリの端子電圧に基づいて、前記バッテリを駆動源とするモータの力行トルク指令値を制限する車両の制御方法であって、
前記バッテリの端子電圧が予め設定されている第4閾値未満となった場合に運転継続不可能と判断して前記力行トルク指令値をゼロに設定し、
前記バッテリの端子電圧が前記第4閾値と前記バッテリの公称電圧との間に設定された第3閾値未満となった場合に、予め設定されている前記力行トルク指令値の上限値の初期値から前記バッテリの端子電圧と前記第3閾値との差分の積分値を減算した値を前記力行トルク指令値の上限値とすることで、予め設定されている前記力行トルク指令値の上限値を前記バッテリの劣化度合いに応じて徐々に低下させ、前記力行トルク指令値を前記上限値内に制限する車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、バッテリを主電源として備える車両および車両の制御装置ならびに車両の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、フォークリフトなどの主電源として用いられるバッテリは、充放電を繰り返すことで劣化が進むと、内部抵抗が上昇し、少ない電流による充電または放電でも端子電圧が大きく変化するようになる。また、バッテリの劣化が更に進むと、端子電圧が異常に上昇または低下するようになり、最終的には、電力変換器や制御回路などの機器を破損させるおそれがある。
【0003】
このような事態を防止するために、例えば、バッテリの内部抵抗がある閾値を超えた場合に電池交換サインを表示して、バッテリの交換時期をユーザに通知することが一般的に行われている。
また、ユーザが上記のような電池交換サインに従わずにバッテリを継続して使い続けたときの対策として、例えば、バッテリの端子電圧の低下の度合いに応じて、負荷を段階的に遮断させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−51316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば、フォークリフトの力行中に二次電池の端子電圧が低下して動力が突然切られると、作業が止まってしまう。また、回生中にバッテリ電圧が上昇して動力が切られると、ブレーキのききが急に変化し、操作性が悪化するなどの問題がある。また、回生中におけるバッテリ電圧の上昇を抑えるために、回生抵抗を別途外付けし、回生抵抗により電力を消費させることも考えられるが、電力を熱で消費することとなるためエネルギーが無駄になる上、コストアップにもつながる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、充放電の繰り返しなどにより内部抵抗が上昇し、端子電圧が通常の範囲を超えて増加または低下した場合であっても、運転の操作性を損なわずに、できるだけ長期にわたって二次電池を使用し続けることのできる車両および車両の制御装置ならびに車両の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、車載のモータによる回生電力が充電されるバッテリの端子電圧に基づいて、前記モータの回生トルク指令値を制限する車両の制御装置であって、前記バッテリの端子電圧が予め設定されている第1閾値を超えた場合に充電継続不可能と判断して前記回生トルク指令値をゼロに設定し、前記バッテリの端子電圧が前記第1閾値と前記バッテリの公称電圧との間に設定された第2閾値を超えた場合に、
予め設定されている前記回生トルク指令値の上限値の初期値から前記バッテリの端子電圧と前記第2閾値との差分の積分値を減算した値を前記回生トルク指令値の上限値とすることで、予め設定されている
前記回生トルク指令値の上限値を前記バッテリの劣化度合いに応じて徐々に低下させ、前記回生トルク指令値を前記上限値内に制限する車両の制御装置を提供する。
【0008】
このような車両の制御装置によれば、バッテリの端子電圧が第2閾値を超えた場合に、
予め設定されている回生トルク指令値の上限値の初期値からバッテリの端子電圧と第2閾値との差分の積分値を減算した値を回生トルク指令値の上限値とすることで、回生トルク指令値の上限値をバッテリの劣化度合いに応じて徐々に低下させ
るので、回生トルク指令値の上限をほぼ連続的に変化させることが可能となる。そして、この上限値を超えないように回生トルク指令値を制限するので、回生トルクが急激に変化することを防止でき、操作性が急激に悪化することを防止することができる。また、バッテリの端子電圧が第2閾値よりも大きい第1閾値に達するまでバッテリの使用を継続するので、バッテリを長期にわたって使用することが可能となる。
【0011】
本発明は、車両に搭載されるバッテリの端子電圧に基づいて、前記バッテリを駆動源とするモータの力行トルク指令値を制限する車両の制御装置であって、前記バッテリの端子電圧が予め設定されている第4閾値未満となった場合に運転継続不可能と判断して前記力行トルク指令値をゼロに設定し、前記バッテリの端子電圧が前記第4閾値と前記バッテリの公称電圧との間に設定された第3閾値未満となった場合に、
予め設定されている前記力行トルク指令値の上限値の初期値から前記バッテリの端子電圧と前記第3閾値との差分の積分値を減算した値を前記力行トルク指令値の上限値とすることで、予め設定されている
前記力行トルク指令値の上限値を前記バッテリの劣化度合いに応じて徐々に低下させ、前記力行トルク指令値を前記上限値内に制限する車両の制御装置を提供する。
【0012】
このような車両の制御装置によれば、バッテリの端子電圧が第3閾値未満となった場合に、
予め設定されている力行トルク指令値の上限値の初期値からバッテリの端子電圧と第3閾値との差分の積分値を減算した値を力行トルク指令値の上限値とすることで、力行トルク指令値の上限値をバッテリの劣化度合いに応じて徐々に低下させ
るので、力行トルク指令値の上限をほぼ連続的に変化させることが可能となる。そして、この上限値を超えないように力行トルク指令値を制限するので、力行トルク指令値が急激に変化することを防止することができ、操作性が急激に悪化することを防止することが可能となる。また、バッテリの端子電圧が第3閾値よりも小さい第4閾値に達するまでバッテリの使用を継続するので、バッテリを長期にわたって使用することが可能となる。
【0015】
上記車両の制御装置において、前記上限値の変化に基づいて、前記上限値がゼロに到達する時期を予測し、予測した時期を前記バッテリの交換時期の目安として表示させることとしてもよい。
【0016】
このように、回生トルク指令値の上限値や力行トルク指令値の上限値がゼロに到達する時期を予測して、その時期をバッテリの交換時期の目安として表示するので、ユーザはバッテリの交換時期を確認しながら車両の操作を行うことが可能となる。
【0017】
本発明は、上記いずれかに記載の車両の制御装置を備える車両を提供する。
【0018】
本発明は、車載のモータによる回生電力が充電されるバッテリの端子電圧に基づいて、回生トルク指令値を制限する車両の制御方法であって、前記バッテリの端子電圧が予め設定されている第1閾値を超えた場合に充電継続不可能と判断して前記回生トルク指令値をゼロに設定し、前記バッテリの端子電圧が前記第1閾値と前記バッテリの公称電圧との間に設定された第2閾値を超えた場合に、
予め設定されている前記回生トルク指令値の上限値の初期値から前記バッテリの端子電圧と前記第2閾値との差分の積分値を減算した値を前記回生トルク指令値の上限値とすることで、予め設定されている
前記回生トルク指令値の上限値を前記バッテリの劣化度合いに応じて徐々に低下させ、前記回生トルク指令値を前記上限値内に制限する車両の制御方法を提供する。
【0019】
本発明は、車両に搭載されるバッテリの端子電圧に基づいて、前記バッテリを駆動源とするモータの力行トルク指令値を制限する車両の制御方法であって、前記バッテリの端子電圧が予め設定されている第4閾値未満となった場合に運転継続不可能と判断して前記力行トルク指令値をゼロに設定し、前記バッテリの端子電圧が前記第4閾値と前記バッテリの公称電圧との間に設定された第3閾値未満となった場合に、
予め設定されている前記力行トルク指令値の上限値の初期値から前記バッテリの端子電圧と前記第3閾値との差分の積分値を減算した値を前記力行トルク指令値の上限値とすることで、予め設定されている
前記力行トルク指令値の上限値を前記バッテリの劣化度合いに応じて徐々に低下させ、前記力行トルク指令値を前記上限値内に制限する車両の制御方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、充放電の繰り返しなどにより内部抵抗が上昇し、端子電圧が通常の範囲を超えて増加または低下した場合であっても、運転の操作性を損なわずに、できるだけ長期にわたって二次電池を使用し続けることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る車両の概略構成図である。
【
図2】第1閾値から第4閾値について説明するための図である。
【
図3】バッテリの劣化指数が100%に達する時期を予測する方法の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係る車両および車両の制御装置ならびに車両の制御方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。また、以下の説明では、車両としてフォークリフトを一例として取り挙げて説明するが、本発明は、車両に搭載されたバッテリを走行や荷役の駆動源とする車両に広く適用することができる。
【0023】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態に係る車両および車両の制御装置ならびに車両の制御方法ついて、
図1を用いて説明する。
図1は、フォークリフトが備える種々の構成のうち、走行モータ3に電力を供給する動力源の主要構成を示した概略構成図である。
図1において、車両1は、バッテリ2と、走行モータ3と、バッテリ2と走行モータ3との間に設けられた双方向インバータ(電力変換手段)4とを備えている。なお、ここでは、バッテリを動力源とする負荷として走行モータ3を例示しているが、負荷は走行モータに限られない。例えば、荷役モータでもよい。走行モータ3は力行および回生を行うが、荷役モータは力行のみ行うため、荷役モータを負荷とした場合には、以下の説明における力行の部分のみが採用されることとなる。
【0024】
バッテリ2は、例えば、二次電池セルを直列に接続した電池モジュールを備えている。
双方向インバータ4は、例えば、6つのスイッチング素子からなる3相ブリッジ回路を備え、力行時においてはバッテリ2の直流電力を三相交流電力に変換して走行モータ3に供給し、回生時においては走行モータ3において発電された三相交流電力を直流電力に変換して、バッテリ2に充電する。
【0025】
双方向インバータ4が備えるスイッチング素子のオンオフは、インバータ制御装置5によって制御され、走行モータ3の速度やトルクが制御される。
双方向インバータ4から走行モータ3に流れる三相の電流は電流検出回路6によって検出されインバータ制御装置5に出力される。なお、
図1では、双方向インバータ4から出力される3相の電力線にそれぞれ電流センサを設置し、各U相、V相、W相の電流を検出する場合を例示しているが、例えば、U相、V相、W相のうち、いずれか2つの電流値を検出し、検出した2相の電流から残りの1相の電流を演算で求めることとしてもよい。
また、バッテリ2の端子電圧Vdcが電圧検出回路7によって検出されインバータ制御装置5に出力される。更に、走行モータ3には速度センサが設けられており、この速度センサの検出値がインバータ制御装置5に出力される。
【0026】
インバータ制御装置5は、例えば、MPU(Micro Processing Unit)であり、内蔵メモリに記録されている制御用コンピュータプログラムを読み出して実行することにより、モータ負荷に応じて決定されるモータ回転数指令値やトルク指令値に応じたインバータ3の制御信号(例えば、PWM制御信号)を生成し、双方向インバータ4に与える。インバータ制御装置5が採用する制御方法は公知のものであり、例えば、ベクトル制御、V/f制御などが挙げられる。
【0027】
また、インバータ制御装置5は、車両の上位制御装置10と双方向通信が可能な構成とされている。上位制御装置10は、車両全体を統合制御する装置であり、上記インバータ制御装置5と同様に演算処理機能を搭載している。上位制御装置10は、例えば、アクセルペダルの操作量などに基づいて走行モータ3の力行トルク指令値を算出し、この力行トルク指令値をインバータ制御装置5に出力する。また、ブレーキペダルの操作量などに基づいて走行モータ3の回生トルク指令値を算出し、この回生トルク指令値をインバータ制御装置5に出力する。
【0028】
ここで、上位制御装置10は、インバータ制御装置5から送信されてくるバッテリ2の端子電圧に基づいて、回生トルク指令値および力行トルク指令値を制限する機能を有している。
具体的には、上位制御装置10には、
図2に示すように第1閾値から第4閾値までの4つの閾値が予め記憶されている。
第1閾値Vdc_1および第2閾値Vdc_2は回生時に参照される閾値である。
第1閾値Vdc_1は、バッテリ充電の継続が不可能であると判断する閾値であり、双方向インバータ4やインバータ制御装置5などの耐圧に基づいて決定されている。具体的には、第1閾値は、双方向インバータ4のスイッチング素子の耐圧に多少の余裕を持たせ、耐圧よりも少しだけ小さい値に設定されている。なお、余裕の持たせ方については、設計により任意に調整できるものとする。
【0029】
第2閾値は、バッテリ2の公称電圧と第1閾値Vdc_1との間に設定されており、例えば、以下の(1)式に示すような値に設定されている。
【0030】
Vdc_2=Vn+(R+L×Imax) (1)
【0031】
上記(1)式において、Vdc_2は第2閾値、Vnはバッテリ2の公称電圧、Rはカタログなどに記載されているバッテリの内部抵抗値、Lはバッテリ2から双方向インバータ4までのケーブル抵抗、Imaxは使用する最大直流電流値である。
【0032】
例えば、公称電圧48.0V、カタログ記載の内部抵抗値が10mΩ、バッテリ2から双方向インバータ4までのケーブル抵抗が5mΩ、最大直流電流値を100Aとした場合には、1.5Vの電圧上昇があることとなり、第2閾値Vdc_2は48.0V+1.5V=49.5Vに設定される。
【0033】
第3閾値Vdc_3および第4閾値Vdc_4は力行時に参照される閾値である。
第4閾値Vdc_4は、バッテリ駆動による運転継続が不可能であると判断する閾値であり、インバータ制御装置や上位制御装置10の最低動作電圧に基づいて決定されている。具体的には、第4閾値Vdc_4は、上位制御装置10やインバータ制御装置5が動作する最低電源電圧に多少の余裕を持たせ、最低電源電圧よりも少しだけ大きい値に設定されている。なお、余裕の持たせ方については、設計により任意に調整できるものとする。
【0034】
第3閾値Vdc_3は、バッテリ2の公称電圧と第4閾値Vdc_4との間に設定されており、例えば、以下の(2)式に示すような値に設定されている。
【0035】
Vdc_3=Vn−(R+L×Imax) (2)
【0036】
上記(2)式において、Vdc_3は第3閾値、Vn、R、L、Imaxは上記(2)式と同様である。
【0037】
例えば、公称電圧48.0V、カタログ記載の内部抵抗値が10mΩ、バッテリ2から双方向インバータ4までのケーブル抵抗が5mΩ、最大直流電流値を100Aとした場合には、1.5Vの電圧降下があることとなり、第3閾値Vdc_3は48.0V−1.5V=46.5Vに設定される。
【0038】
バッテリ2の端子電圧は、バッテリ2が劣化していない場合には、内部抵抗Rはほぼカタログ記載の値となり、力行時および回生時において上記第2閾値と第3閾値との間の範囲に収まる。これに対し、バッテリ2の充放電が繰り返し行われることなどにより、バッテリ2が徐々に劣化すると、内部抵抗がカタログ記載の値から徐々に外れて大きくなり、バッテリ2の端子電圧が、回生時には第2閾値Vdc_2を超えることとなり、力行時には第3閾値Vdc_3を下回ることとなる。
【0039】
以下、回生時および力行時における上記閾値を用いた上位制御装置10による回生トルク指令値および力行トルク指令値の決定方法について説明する。
まず、回生時においては、バッテリ2が劣化していない場合には、インバータ制御装置5から通知されるバッテリ2の端子電圧は第2閾値Vdc_2以下となる。この場合には、予め設定されている回生トルク指令値の上限値の初期値を用いて回生トルク指令値を制限する。すなわち、走行モータ3の回生トルク指令値がこの指令上限値の初期値を超えない範囲となるように制限し、この回生トルク指令値をインバータ制御装置5に出力する。
【0040】
一方、バッテリ2が徐々に劣化し、インバータ制御装置5から通知されるバッテリ2の端子電圧が第2閾値Vdc_2を超えた場合には、バッテリ2の劣化の度合いに応じて回生トルク指令値の上限値を初期値から徐々に小さくしていき、走行モータ3の回生トルク指令値をバッテリ2の劣化の進行に応じて設定される上限値を超えないように制限する。
【0041】
具体的には、上位制御装置10は、以下の(3)式に示すように、バッテリ2の端子電圧と第2閾値Vdc_2との差分を積分した値を上限値の初期値から減算することで、走行モータ3の回生トルク指令値の上限値を徐々に低下させる。
【0043】
上記(3)式において、|T
p*|は回生トルク指令値の上限値、|T
ps*|は回生トルク指令値の上限値の初期値、ΔT
pはバッテリ2の端子電圧と第2閾値Vdc_2との差分を積分した値、Vdcは電圧検出回路7により検出されたバッテリ2の端子電圧である。
このように、回生トルク指令値の上限値をバッテリ2の劣化度合いに伴って連続的に徐々に小さい値に更新することにより、運転の操作性が急激に変化することを防止することができる。
【0044】
上位制御装置10は、バッテリ2の端子電圧が第2閾値Vdc_2を超えた場合に、上記(3)式に従って走行モータ2の回生トルク指令値の上限値を更新し、インバータ制御装置5に出力する回生トルク指令値を上限値以下に制約する。具体的には、上述したブレーキペダルの操作量などに基づいて算出された走行モータ3の回生トルク指令値と上記(3)式により設定した回生トルク指令値の上限値とを比較し、ブレーキペダルの操作量から算出した走行モータ3の回生トルク指令値が上限値以下であればその回生トルク指令値をインバータ制御装置5に出力し、ブレーキペダルの操作量から算出した回生トルク指令値が上限値を超える場合には、その回生トルク指令値を上限値に制限してインバータ制御装置5に出力する。
【0045】
そして、バッテリ2の劣化が更に進み、バッテリ2の端子電圧が上記第1閾値Vdc_1を超えた場合には、バッテリ2へのこれ以上の充電は不可能と判断して、回生トルク指令値をゼロに設定し、走行モータ3の回生を停止させ、バッテリ2への充電を停止させる。
【0046】
次に、力行時においては、バッテリ2が劣化していない場合には、インバータ制御装置5から通知されるバッテリ2の端子電圧は第3閾値Vdc_3以上となる。この場合には、予め設定されている力行トルク指令値の上限値の初期値を用いて力行トルク指令値を制限する。すなわち、走行モータ3の力行トルク指令値がこの指令上限値の初期値を超えない範囲となるように制限し、この力行トルク指令値をインバータ制御装置5に出力する。
【0047】
一方、バッテリ2が徐々に劣化し、インバータ制御装置5から通知されるバッテリ2の端子電圧が第3閾値Vdc_3未満となった場合には、バッテリ2の劣化の度合いに応じて力行トルク指令値の上限値を初期値から徐々に小さくしていき、走行モータの力行トルク指令値をバッテリ2の劣化の進行に応じて設定される上限値を超えないように制限する。
【0048】
具体的には、上位制御装置10は、以下の(4)式に示すように、バッテリ2の端子電圧と第3閾値Vdc_3との差分を積分した値を上限値の初期値から減算することで、走行モータ3の力行トルク指令値の上限値を徐々に低下させる。
【0050】
上記(4)式において、|T
r*|は力行トルク指令値の上限値、|T
rs*|は力行トルク指令値の上限値の初期値、ΔT
rはバッテリ2の端子電圧と第3閾値Vdc_3との差分を積分した値、Vdcは電圧検出回路7により検出されたバッテリ2の端子電圧である。
このように、力行トルク指令値の上限値をバッテリ2の劣化度合いに伴って連続的に小さい値に更新することにより、操作性が急激に変化することを防止することができる。
【0051】
上位制御装置10は、バッテリ2の端子電圧が第3閾値Vdc_3未満となった場合に、上記(4)式に従って走行モータ2の力行トルク指令値の上限値を更新し、インバータ制御装置5に出力する力行トルク指令値を上限値以下に制約する。具体的には、上述したアクセルペダルの操作量などに基づいて算出された走行モータ3の力行トルク指令値と上記(4)式により設定した力行トルク指令値の上限値とを比較し、アクセルペダルの操作量から算出した走行モータ3の力行トルク指令値が上限値以下であればその力行トルク指令値をインバータ制御装置5に出力し、アクセルペダルの操作量から算出した力行トルク指令値が上限値を超える場合には、その力行トルク指令値を上限値に制限してインバータ制御装置5に出力する。
【0052】
そして、バッテリ2の劣化が更に進み、バッテリ2の端子電圧が第4閾値Vdc_4未満となった場合には、バッテリ2を駆動源とした運転継続は不可能と判断して、力行トルク指令値をゼロに設定し、バッテリ2から走行モータ3への電力供給を停止させる。
【0053】
以上説明したように、本実施形態に係る車両および車両の制御装置ならびに車両の制御方法によれば、バッテリの劣化度合いに応じてトルク指令値の上限値を徐々に低下させ、この上限値内にトルク指令値を抑える。これにより、バッテリ2の劣化状態に応じてトルク指令値を徐々に低減させることができ、回生トルクおよび力行トルクが急激に変化することを防止することができる。この結果、操作性を損なうことなく、バッテリを可能な限り長く使用することができる。すなわち、従来は、一般的に、バッテリ2の端子電圧が第2閾値を超えた場合、あるいは、第3閾値未満となった場合に、バッテリ交換が必要である旨をユーザに提示していたが、本実施形態によれば、第2閾値よりも大きく設定された第1閾値以上となるまで、また、第3閾値よりも小さく設定された第4閾値未満となるまで、バッテリ2を使用するので、バッテリ2の交換サイクルを長期化することができる。
【0054】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態に係る車両および車両の制御装置ならびに車両の制御方法について説明する。
本実施形態に係る車両は、上記第1実施形態に係る車両が備える構成において、上位制御装置10がトルク指令値の上限値の変化に基づいて、上限値がゼロに到達する時期を予測し、予測した時期をバッテリの交換時期の目安として表示させる機能を更に備えている。
【0055】
例えば、上位制御装置10は、以下の(5)式を用いて劣化指数を計算する。
【0056】
劣化指数(回生時)=|ΔT
p|/|T
ps*| (5)
劣化指数(力行時)=|ΔT
r|/|T
pr*|
【0057】
このように、上位制御装置10は、回生時、力行時のそれぞれについて劣化指数を算出し、それぞれの劣化指数が5%、10%、15%に到達するまでのインバータ制御装置5の動作時間をそれぞれ計時する。そして、この動作時間と劣化指数との関係を
図3に示すように、縦軸を劣化指数、横軸を動作時間とした座標空間にプロットし、プロットした点を最小2乗近似などの公知の統計手法を用いて近似することにより、劣化指数が100%、すなわち、上限値がゼロに到達するまでの時間を予測する。
【0058】
そして、上位制御装置10は、回生時の100%到達時期と力行時の100%到達時期とを比較し、短い方をバッテリの交換時期の目安として車両の表示部(図示略)に表示させ、ユーザに通知する。
【0059】
また、例えば、上位制御装置10は、劣化指数が15%に到達するまではデータが十分ではなく劣化指数100%の到達時期の予測精度が十分ではないため、バッテリの交換時期の目安を表示させるのは、劣化指数が15%に達したとき以降としてもよい。
【0060】
以上説明したように、本実施形態によれば、バッテリ2の劣化指数が100%に到達する時期を予測し、予測した時期をバッテリの交換時期の目安として表示することによりユーザに提示するので、ユーザはバッテリの交換時期や現在のバッテリの劣化状況を把握することができる。これにより、バッテリの交換時期や劣化状態を把握した上で車両の操作を行うことが可能となる。
【0061】
なお、上記第1または第2実施形態においては、上位制御装置10においてトルク指令値を上限値以下とする制限を行っていたが、トルク指令値の上限値の算出処理についてはインバータ制御装置5において行うこととしてもよい。この場合、上述したトルク指令値の上限値の管理はインバータ制御装置5が行うこととなる。具体的には、上位制御装置10からはアクセルペダルの操作量やブレーキペダルの操作量に応じたトルク指令値が入力され、インバータ制御装置5において、上述した(3)式や(4)式に基づく上限値の更新が行われ、上位制御装置10から入力されたトルク指令値と自身が管理している上限値とを比較して、トルク指令値が上限値以下となるように制限を行う。
【符号の説明】
【0062】
1 車両
2 バッテリ
3 走行モータ
4 双方向インバータ
5 インバータ制御装置
10 上位制御装置