特許第5774369号(P5774369)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5774369
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】M型保持器付きころ
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/46 20060101AFI20150820BHJP
   F16C 9/04 20060101ALI20150820BHJP
   F16C 19/26 20060101ALI20150820BHJP
   F16C 33/34 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   F16C33/46
   F16C9/04
   F16C19/26
   F16C33/34
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-109497(P2011-109497)
(22)【出願日】2011年5月16日
(65)【公開番号】特開2012-241734(P2012-241734A)
(43)【公開日】2012年12月10日
【審査請求日】2014年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】太向 真也
【審査官】 稲垣 彰彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−162353(JP,A)
【文献】 特開2009−138853(JP,A)
【文献】 特開2001−153143(JP,A)
【文献】 特開2009−47294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
33/30−33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周方向の複数箇所に、ころを内径側への脱落を可能に保持するポケットを有する環状の保持器と、前記各ポケット内に保持される複数のころからなり、前記保持器は、両端に内径側に延びるフランジ部が形成され、前記各ポケット間の柱部が、前記各フランジ部の外径端にそれぞれ続く両端の外径側部とこれらの外径側部から内径側へ斜めに続く傾斜部と、中央の内径側部とでなり、保持器全体の断面形状がM字状とされたM型保持器であるM型保持器付きころにおいて、
前記保持器の柱部における前記中央の内径側部の内径を前記ころのピッチ円中心径よりも小さくし、かつ前記中央の内径側部の外径を前記ころのピッチ円中心径よりも大きくしたことを特徴とするM型保持器付きころ。
【請求項2】
請求項1において、前記保持器の各ポケットにおける両側面のうち、少なくとも前記柱部の内径側部の側面部分全域をころを案内するころ案内面部としたM型保持器付きころ。
【請求項3】
請求項1において、前記保持器の各ポケットにおける両側面のうち、前記柱部の内径側部の側面部分に、ころを案内するころ案内面部と、このころ案内面部よりも周方向に凹陥した逃げ部とを設けたM型保持器付きころ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記保持器におけるフランジ部の内径を、前記柱部の内径側部の内径に対して同径以上としたM型保持器付きころ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記保持器におけるフランジ部の内径を前記ころのピッチ円中心径以上としたM型保持器付きころ。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記M型保持器付きころが風力発電減速機の回転軸支持用であるM型保持器付きころ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、各種の用途、例えば風力発電減速機用や、一般産業機械用、内燃機関のコネクティングロッド支持用等に適用されるM型保持器付きころに関する。
【背景技術】
【0002】
保持器付きころの従来例として、保持器の円周方向に隣接するポケット間の柱部の側面におけるころの案内面部を、ころのピッチ円中心PCDに相当する径方向位置に設定することで、安定してころを案内するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1〜3)。
【0003】
例えば、特許文献3に開示の保持器付きころでは、図4に示すように、保持器11がその断面形状をM字状としたM型保持器からなり、その柱部15は、両端の外径側部15a,15aとこれらの外径側部15aから内径側へ斜めに続く傾斜部15cと、中央の内径側部15bとでなる。この柱部15の傾斜部15cの側面が、ころ14を案内する案内面部16とされている。
【0004】
特許文献2に開示の保持器付きころでは、図5に示すように、保持器21における柱部25は、内径が小さく一様な両端の厚肉部25a,25aと、内径が大きく一様な中央の薄肉部25bとを有し、厚肉部25aから薄肉部25bにかけて内径が漸増している。この柱部25の厚肉部25a側面が、ころ24を案内する案内面部26とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−266827号公報
【特許文献2】特開平01−299317号公報
【特許文献3】特開平11−101242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図4図5に示した従来の保持器付きころでは、保持器21におけるポケット抜き高さh、つまり柱部15(25)における内径の最も小さい箇所と外径の最も大きい箇所までの径寸法差が大きい。このため、ころ14(24)の径が大きい保持器付きころの場合(例えば、φ20mm以上のもの)、ポケット13(23)をプレス加工により打ち抜いて形成することが難しくなる。ポケット13(23)は、レーザーやワイヤーカットなどを用いると、ポケット抜き高さhが高くても加工できるが、この場合にはコスト増は避けられない。
【0007】
例えば、風力発電機では風力を効率的に得るために大型化が必要であり、一般的な風力発電減速機の回転軸支持用として用いる保持器付きころは、一般産業機械用や内燃機関用のものに比べて何倍も大きい。このような風力発電減速機用の保持器付きころでは、ころ径が大きくなるので、上記した構成の従来の保持器付きころをそのまま採用すると保持器11(21)も大きくなる。そのため、ポケット抜き高さhが大きくなり、プレス加工によるポケット13(23)の形成が困難になる。
【0008】
この発明の目的は、ころ径が大きい場合でも保持器におけるポケットの抜き加工が容易なM型保持器付きころを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明のM型保持器付きころは、円周方向の複数箇所に、ころを内径側への脱落を可能に保持するポケットを有する環状の保持器と、前記各ポケット内に保持される複数のころからなり、前記保持器は、両端に内径側に延びるフランジ部が形成され、前記各ポケット間の柱部が、前記各フランジ部の外径端にそれぞれ続く両端の外径側部とこれらの外径側部から内径側へ斜めに続く傾斜部と、中央の内径側部とでなり、保持器全体の断面形状がM字状とされたM型保持器であるM型保持器付きころにおいて、前記保持器の柱部における前記中央の内径側部の内径を前記ころのピッチ円中心径よりも小さくし、かつ前記中央の内径側部の外径を前記ころのピッチ円中心径よりも大きくしたことを特徴とする。
【0010】
この構成によると、M型の保持器における柱部の中央の内径側部の内径をころのピッチ円中心径よりも小さくし、かつ前記内径側部の外径をころのピッチ円中心径よりも大きくすることで、内径側部の径方向位置をころのピッチ円中心付近に持ち上げているので、保持器全体の断面高さを低く抑えることができる。このため、保持器のポケットをプレス加工で打ち抜いて形成するときのポケット抜き高さを低減できる。その結果、ころ径が大きいM型保持器付きころの場合でも、保持器のポケットをプレス加工により形成でき、コストを低減できる。また、保持器全体の断面高さが低く抑えられることから、このM型保持器付きころを回転軸の支持に用いた場合、回転軸とハウジングの間に広い空間が確保されて通油性を良くすることができ、油膜切れによる摩耗や剥離を防止することができる。
保持器の柱部は、前記内径側部の内径をころのピッチ円中心径よりも小さくし、かつ前記内径側部の外径を前記ころのピッチ円中心径よりも大きくした形状であるため、ポケット内のころは、柱部の前記内径側部で案内されることになる。なお、この保持器は、ころを内径側への脱落を可能に、つまり非拘束に保持するものであるため、内径側部の外径をころのピッチ円中心径よりも大きくしても、ころの保持に対して支障は生じない。
【0011】
この発明において、前記保持器の各ポケットにおける両側面のうち、少なくとも前記柱部の内径側部の側面部分全域をころを案内するころ案内面部としても良い。
このように、保持器の各ポケットにおける両側面のうち、少なくとも柱部の内径側部の側面部分全域をころ案内面部とした場合には、ころの案内面を広く確保でき、より円滑なころの案内が可能となる。また、M型の保持器における柱部の内径側部の径方向位置をころのピッチ円中心付近に持ち上げて、この内径側部の側面をころ案内面部としてころを案内するので、ころ案内面部が横長となり、従来のM型保持器付きころの場合と同等の安定した案内が可能である。
【0012】
この発明において、前記保持器の各ポケットにおける両側面のうち、前記柱部の内径側部の側面部分に、ころを案内するころ案内面部と、このころ案内面部よりも周方向に凹陥した逃げ部を設けても良い。この構成の場合、前記逃げ部により通油性を確保することができる。
【0013】
この発明において、前記保持器におけるフランジ部の内径を、前記柱部の内径側部の内径に対して同径以上としても良い。
このように、保持器の両端のフランジ部の内径を、柱部における内径側部の内径に対して同径か、または同径よりも大きくすると、このM型保持器付きころで支持される回転軸と保持器の両端との間の径方向隙間が大きくなる。そのため、通油性を向上させることができる。
【0014】
この発明において、前記保持器におけるフランジ部の内径を前記ころのピッチ円中心径以上としても良い。
このように、保持器の両端のフランジ部の内径を、ころのピッチ円中心径と同径か、または同径よりも大きくした場合、このM型保持器付きころで支持される回転軸と保持器の両端との間の径方向隙間がさらに大きくなる。そのため、通油性をより一層向上させることができる。
【0015】
この発明において、前記M型保持器付きころが風力発電減速機の回転軸支持用であっても良い。一般的な風力発電機では、風車直径が10mを超える大径であるため、その減速機の回転軸の大径である。そのため、M型保持器付きころを風力発電減速機の回転軸支持用として採用する場合、ころ径が大きくなるが、この発明のM型保持器付きころでは、ころ径が大きい場合でも保持器におけるポケットの抜き加工が可能となるので、コスト低減が可能となる。
【発明の効果】
【0016】
この発明のM型保持器付きころは、円周方向の複数箇所に、ころを内径側への脱落を可能に保持するポケットを有する環状の保持器と、前記各ポケット内に保持される複数のころからなり、前記保持器は、両端に内径側に延びるフランジ部が形成され、前記各ポケット間の柱部が、前記各フランジ部の外径端にそれぞれ続く両端の外径側部とこれらの外径側部から内径側へ斜めに続く傾斜部と、中央の内径側部とでなり、保持器全体の断面形状がM字状とされたM型保持器であるM型保持器付きころにおいて、前記保持器の柱部における前記中央の内径側部の内径を前記ころのピッチ円中心径よりも小さくし、かつ前記中央の内径側部の外径を前記ころのピッチ円中心径よりも大きくしたため、ころ径が大きい場合でも保持器におけるポケットの抜き加工が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この発明の第1の実施形態に係るM型保持器付きころの断面図である。
図2】この発明の他の実施形態に係るM型保持器付きころの断面図である。
図3】この発明のさらに他の実施形態に係るM型保持器付きころの断面図である。
図4】従来例の断面図である。
図5】他の従来例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の第1の実施形態を図1と共に説明する。図1はこの実施形態のM型保持器付きころの断面図を示す。このM型保持器付きころは、円周方向の複数箇所にころ保持用のポケット3を有する環状の保持器1と、内径側に脱落可能に前記保持器1のポケット3内に保持される複数のころ4とを備える。各ポケット3は、ころ4を内径側への脱落を可能に、つまり非拘束に保持する形状である。ポケット3は多数設けられるが、同図ではその一部のみを図示し、他は省略してある。
【0019】
保持器1は、断面形状がM字状とされた型のものであり、両端に内径側に延びるフランジ部2が形成され、各ポケット3間の柱部5が、各フランジ部2の外径端にそれぞれ続く両端の外径側部5aと、これらの外径側部5aから内径側へ斜めに続く傾斜部5cと、中央の内径側部5bとでなる台形状に形成され、保持器全体の断面形状が略M字状とされている。保持器1の柱部5における内径側部5bの内径Diは、ポケット3に保持されるころ4の軸心径(ピッチ円中心径(PCD))よりも小さくされ、かつ前記内径側部5bの外径Doは、ころ4のピッチ円中心径(PCD)よりも大きくされている。保持器1の両端のフランジ部2の内径Dfiは、柱部5における前記内径側部5bの内径Diと同一に揃えられている。
【0020】
保持器1の各ポケット3における両側面のうち、内径側部5bから傾斜部5cに跨がる側面部分は、ころ4を案内するころ案内面部6とされている。すなわち、ポケット3の円周方向幅は、内径側部5bと傾斜部5とに跨がる全体の範囲において、次に述べる逃げ部7を除いて同じ幅とされ、これにより前記ころ案内面部6が形成されている。そのため、ころ4は、保持器1における柱部5の、ピッチ円中心PCDの位置にある内径側部5bで案内されることになる。ただし、この実施形態では、内径側部5bの側面部分の軸方向中間領域が、ころ案内面部6よりも周方向に凹陥した逃げ部7とされ、この逃げ部7により通油性が確保される。
なお、保持器1は、鋼板等の金属板を断面M字状で円筒状にプレス加工で成形した後、ポケット3をプレス加工で打ち抜いたものであり、柱部5の厚さは、M字状への成形に伴う部分的な変化を除外して、全長に渡って同一厚さである。保持器1は、必ずしも金属板のプレス成形品に限らず、断面M字状で円筒状の削り出し品とし、これにポケット3をプレス加工等で形成したものであっても良い。
【0021】
この構成のM型保持器付きころによると、M型の保持器1における柱部5の中央の内径側部5bの内径Diをころ4のピッチ円中心径(PCD)よりも小さくし、かつ前記内径側部5bの外径Doをころ4のピッチ円中心径(PCD)よりも大きくすることで、内径側部5bの径方向位置をころ4のピッチ円中心PCD付近に持ち上げている。そのため、保持器全体の断面高さHを低く抑えることができる。つまり、保持器1のポケット3をプレス加工で打ち抜いて形成するときのポケット抜き高さを低減できる。その結果、ころ径が大きいM型保持器付きころの場合でも、保持器1のポケット3をプレス加工により形成でき、コストを低減できる。例えば、M型保持器付きころを風力発電減速機の回転軸支持用に用いる場合には、ころ径が大きくなるので、それに伴い保持器全体の断面高さも高くなる。しかし、この実施形態のM型保持器付きころでは、上記したように保持器全体の断面高さhを低く抑えることができるので、保持器1のポケット3をプレス加工により形成できる。
【0022】
また、保持器全体の断面高さHが低く抑えられることから、このM型保持器付きころを回転軸の支持に用いた場合、回転軸とハウジングの間に広い空間が確保されて通油性を良くすることができ、油膜切れによる摩耗や剥離を防止することができる。
また、M型の保持器1における柱部5の内径側部5bの径方向位置をころ4のピッチ円中心PCD付近に持ち上げて、この内径側部5bの側面をころ案内面部6としてころ4を案内するので、ころ案内面部6が横長となり、従来のM型保持器付きころの場合と同等の安定した案内が可能である。
なお、この保持器1は、ころ4を内径側への脱落を可能に、つまり非拘束に保持するものであるため、柱部5の内径側部5bの外径Doを、ころ4のピッチ円中心径(PCD)よりも大きくしても、ころ4の保持に対して支障は生じない。
【0023】
図2は、この発明の他の実施形態の断面図を示す。この実施形態のM型保持器付きころでは、図1に示す実施形態において、保持器1の各ポケット3における両側面のうちの、柱部5の内径側部5bの側面部分における逃げ部7を無くし、内径側部5bの側面部分全域をころ案内面部6としている。その他の構成は図1の実施形態の場合と同様である。
【0024】
このように、保持器1の各ポケット3における両側面のうちの、柱部5の内径側部5bの側面部分全域をころ案内面部6とした場合には、ころ4の案内面を広く確保でき、より円滑なころ4の案内が可能となる。
【0025】
図3は、この発明のさらに他の実施形態の断面図を示す。この実施形態のM型保持器付きころでは、図1に示す実施形態において、保持器1の両端のフランジ部2の内径Dfiを、柱部5における前記内径側部5bの内径Diより大きくしている。その他の構成は図1の実施形態の場合と同様である。
【0026】
このように、保持器1の両端のフランジ部2の内径Dfiを、柱部5における前記内径側部5bの内径Diより大きくすると、保持器全体の断面高さhがさらに低く抑えられることから、このM型保持器付きころを回転軸の支持に用いた場合、回転軸とハウジングの間により広い空間が確保されて通油性をさらに向上させることができる。
【符号の説明】
【0027】
1…保持器
2…フランジ部
3…ポケット
4…ころ
5…柱部
5a…外径側部
5b…内径側部
5c…傾斜部
6…ころ案内面部
7…逃げ部
図1
図2
図3
図4
図5