【実施例】
【0040】
(実施例)
<負極活物質の製造方法>
スズ原料として、SnO粉末(株式会社高純度研究所社製)を準備した。このスズ原料をボールミル装置(ドイツ・フリッチュ社製、P−7)に投入し、空気中、室温、回転数450rpmで20時間メカニカルミリング処理した。
【0041】
次いで、メカニカルミリング処理後のスズ原料を、加熱炉にて空気中、400℃で3時間加熱した。このときの昇温速度は10℃/分であった。
【0042】
3時間加熱した後、熱処理したスズ原料を自然冷却して実施例の負極活物質を得た。
【0043】
<負極>
得られた負極活物質と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダー樹脂としてのポリアミック酸溶液(ポリイミド前駆体)とを混合し、スラリーを調製した。スラリー中の各成分の組成比は固形分として、負極活物質:AB:ポリイミドバインダー=85:5:10である。このスラリーを、厚さ20μmの電解銅箔(集電体)の表面にドクターブレードを用いて塗布し、銅箔上に負極活物質層を形成した。
【0044】
その後、80℃で20分間乾燥し、次いで200℃で20時間真空乾燥した。この工程により、負極活物質層から有機溶媒を揮発させて除去した。その後、直径15mmの円板状に打ち抜き、プレス機により、集電体と負極活物質層を強固に密着接合させた。これを200℃で20時間加熱硬化させて、活物質層の厚さが15μm程度の電極を形成した。
【0045】
<正極>
正極としては、直径15.5mmの円板状、厚さ500μmの金属Li箔を用いた。
【0046】
<電解液>
エチレンカーボネートと、エチルメチルカーボネートとを3:7(体積比)で混合し、混合溶媒を調製した。この混合溶媒に、LiPF
6を1Mの濃度となるように溶解することで、非水電解液を調製した。
【0047】
<リチウムイオン二次電池>
上記の負極、正極および電解液を用いてコイン電池を製作した。詳しくは、ドライルーム内で、厚さ25μmのポリプロピレン微孔質膜からなるセパレータ(Celgard2400)と、厚さ500μmのガラス不織布フィルタと、を正極と負極との間に挟装して、電極体電池とした。この電極体電池を、ステンレス容器からなる電池ケース(CR2032型コイン電池用部材、宝泉株式会社製)に収容した。電池ケースには上記の電解液を注入した。電池ケースをカシメ機で密閉して、実施例のリチウムイオン二次電池を得た。
【0048】
(比較例1)
比較例1の負極活物質はSnである。このSnを負極活物質とし、実施例1と同じ方法で比較例1のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0049】
(比較例2)
比較例2の負極活物質の製造方法は、スズ原料すなわちSnOにメカニカルミリング処理のみを施し加熱処理を施さなかったこと以外は実施例1の負極活物質の製造方法と同じである。比較例2の負極活物質は、メカニカルミリング処理されたスズ原料(すなわち負極活物質前駆体)である。比較例2の負極活物質を用い、実施例1と同じ方法で比較例2のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0050】
<試験>
(SEMによる硫黄系正極活物質の分析)
スズ原料、実施例の負極活物質および比較例2の負極活物質を、走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)により表面観察した。このときの加速電圧は20kVであり倍率は500倍と2000倍であった。スズ原料のSEM像を
図1に示し、比較例2の負極活物質のSEM像を
図2に示し、実施例の負極活物質のSEM像を
図3に示す。
【0051】
図1〜
図3に示すように、メカニカルミリング処理後の負極活物質つまり比較例2および実施例の負極活物質は、メカニカルミリング処理前の負極活物質つまりスズ原料に比べて小径である。具体的には、比較例2の負極活物質の平均粒径は1μm程度であり、実施例の負極活物質の平均粒径は2μm程度である。これに対して、スズ原料の平均粒径は15μm程度である。これは、スズ原料すなわちSnOがメカニカルミリング処理により微粉化されたためと考えられる。つまり、負極活物質の粒径により、スズ原料(SnO)がメカニカルミリング処理されているか否かを推測できる。スズ原料を原料とする負極活物質の平均粒径は0.2〜5μm程度であるのが好ましく、0.5〜2μm程度であるのがより好ましいと考えられる。平均粒径がこれらの範囲内にあれば、SnOが充分にメカニカルミリング処理されていると判断できる。なお、実施例の負極活物質の平均粒径が比較例2の負極活物質の平均粒径よりも大きいのは、メカニカルミリング処理後の加熱処理により、負極活物質が凝集したためだと考えられる。参考までに、本明細書においては、SEM像を基に10〜20個の負極活物質の粒子径を測定し、測定した粒子径の平均値を算出した。この平均値を負極活物質の平均粒径とした。
【0052】
(X線回折による硫黄系正極活物質の分析)
実施例の負極活物質および比較例2の負極活物質について、X線回折分析を行った。装置として粉末X線回折装置(リガク社製、MiniFlex)を用いた。測定条件は、CuKα線、電圧:30kV、電流:20mA、スキャン速度:2°/分、サンプリング:0.01°、積算回数:1回、回折角(2θ):5°〜80°であった。X線回折で得られた回折パターンを
図4に示す。
図4に示すように、実施例の負極活物質および比較例2の負極活物質には、Snのピーク(図中▲)、SnOのピーク(図中×)およびSnO
2のピーク(図中○)が確認された。また、実施例の負極活物質において確認されたSnのピークは、比較例2の負極活物質で検出されたSnのピークに比べて、強度が低く数も少なかった。このことから、SnOをメカニカルミリング処理することでSnが生成することがわかる。また、実施例(酸化処理後)の負極活物質におけるSnのピークが、SnO
2のピークに比べて相対的に小さくなっていることから、酸化処理によりSnの表面の酸化被膜が成長したことがわかる。つまりこの結果から、実施例の負極活物質はSnからなる芯部と芯部を覆う被覆部とで構成され、被覆部にはSnO
2が含まれていることがわかる。
【0053】
(熱質量分析による硫黄系正極活物質の分析)
比較例1の負極活物質および比較例2の負極活物質の熱質量変化(TG)を測定した。測定装置としてはリガク製熱分析装置(Thermo Plus TG8120)を用いた。詳しくは、空気を300ml/分の流量で供給しつつ、各試料を室温から400℃まで10℃/分の昇温速度で加熱し、温度と質量変化との関係を測定することによって、熱質量−示差熱分析を行った。分析結果を
図5に示す。
図5に示すように、比較例2の負極活物質(つまり、SnOのメカニカルミリング処理品)は、比較例1の負極活物質(つまり単体Sn)に比べて質量変化が大きい。具体的には、比較例2の負極活物質の質量は、加熱前には23mgであり、室温から100℃まで加熱すると0.11mg減少し、その後、400℃まで加熱すると0.636mg増加した。つまり、SnOのメカニカルミリング処理品を加熱すると、100℃までの加熱で吸着水0.11mgが蒸発し、その後、0.636−(−0.11)=0.746mg質量増加した。
【0054】
Sn1モルは118.69gであり、SnO
21モルは150.69gである。メカニカルミリング処理によるSnOの不均化反応は、2SnO→Sn+SnO
2であると考えられる。このためSnOのメカニカルミリング処理品(加熱前)に含まれるSnの質量は、{118.69/(118.69+150.69)}×23≒10.134(mg)であると考えられる。
【0055】
SnOのメカニカルミリング処理品に含まれるSn全てがSnO
2にまで酸化されたと仮定し、そのときに増加した質量をxとすると、O
2/Sn=32/118.69=x/10.134であるため、x=2.732(mg)となる。上述した加熱で増加した質量全てがSnの酸化によると仮定すると、実際に生じた質量増加は0.746mgであったため、SnがSnO
2に変化した割合は(0.746/2.7)×100=27.6%であった。
【0056】
上述したように、理論上、SnOに含まれるSn原子の50%がメカニカルミリング処理でSnO
2になると考えられる。また、SnOのメカニカルミリング処理品に含まれるSnの27.6%が酸化処理によりSnO
2に変化すると考えられる。このため、メカニカルミリング処理および加熱処理後の実施例の負極活物質にSnO
2として含まれているSn原子は、この負極活物質全体に含まれているSn原子を100原子%とすると、(メカニカルミリング処理で生じた50原子%)+(酸化処理で生じた27.6原子%)=77.6原子%であると考えられる。
【0057】
なお、SnOのメカニカルミリング処理品は、酸化処理前の段階で、50原子%のSnO
2を含むと考えられる。したがって、本発明の負極活物質は、負極活物質全体に含まれているSn原子を100原子%としたときに、50原子%を超えるSn原子をSnO
2として含めば良い。なお、本発明の負極活物質は、負極活物質全体に含まれているSn原子を100原子%としたときに65原子%を超えるSn原子をSnO
2として含むのが好ましく、70原子%を超えるSn原子をSnO
2として含むのがより好ましく、75原子%を超えるSn原子をSnO
2として含むのがさらに好ましい。本発明の負極活物質において、SnO
2の大部分は、Snの表面に配置されると考えられる。つまり、本発明の負極活物質は、Snからなる芯部と、この芯部を覆いSnO
2を含む被覆部と、を持つと考えられる。芯部はメカニカルミリング処理時に生成すると考えられ、被覆部の一部もまたメカニカルミリング処理時に生成すると考えられる。さらに、被覆部の他の一部は、芯部の一部が酸化処理によって酸化され、生成したSnO
2で構成されると考えられる。
【0058】
ところで、Snを加熱酸化する場合、加熱温度が270℃以下であればSnOが生じ、280℃以上390℃未満であればSnOとSnO
2との両方が生じ、390℃以上であればほぼSnO
2のみが生じることが知られている(例えば、「金属酸化物と複合酸化物」、田部浩三 他 編、講談社、1978年、p134参照)。したがって、Snを充分に酸化させSnO
2を生成させるためには、酸化工程における加熱温度は280℃以上であるのが好ましく、390℃以上であるのがより好ましいといえる。
【0059】
(電池特性の評価)
実施例および比較例1、2のリチウムイオン二次電池の充放電容量を測定した。詳しくは、各リチウムイオン二次電池に、負極活物質1cm
2あたり0.2mAとなる電流密度、放電終止電圧0V、充電終止電圧3.0V、0.1Cで1サイクル目の充放電を行った。2サイクル目以降は、負極活物質1cm
2あたり0.5mAとなる電流密度で充放電をおこなった。なお、2サイクル目以降の放電終止電圧、充電終止電圧およびCレートは1サイクル目と同じである。充放電は10サイクル繰り返した。評価試験(1サイクル目)の結果を表1に示す。実施例および比較例1、2のリチウムイオン二次電池の1サイクル目の充放電曲線を
図6に示す。実施例および比較例1、2のリチウムイオン二次電池のサイクル試験の結果を
図7および
図8に示す。なお、
図7はサイクル経過に伴う放電容量の変化を表すグラフであり、
図8はサイクル経過に伴うクーロン効率の変化を表すグラフである。
【0060】
【表1】
【0061】
表1および
図6に示すように、実施例のリチウムイオン二次電池は、比較例1、2のリチウムイオン二次電池に比べて充放電容量が大きい。実施例のリチウムイオン二次電池の容量はSnOの理論容量875を超えている。このため、実施例の負極活物質においては比較例1、2では生じていないコンバージョン反応が生じていると考えられる。また、この充放電容量は0.1Cという一般的なCレートで充放電した場合の容量である。このため、実施例のリチウムイオン二次電池は、通常の速度で充放電する場合にも充分に大きな容量を示すといえる。つまり、SnOにメカニカルミリング処理と酸化処理とを施す実施例の製造方法によると、充放電容量が大きくかつ一般的な用途のリチウムイオン二次電池に適用可能な負極活物質を製造できる。
【0062】
また、
図7に示すように、実施例のリチウムイオン二次電池は比較例1、2のリチウムイオン二次電池に比べてサイクル経過後にも充放電容量が大きかった。つまり実施例のリチウムイオン二次電池は比較例1、2のリチウムイオン二次電池に比べてサイクル特性に優れる。これは、実施例のリチウムイオン二次電池はSnおよびSnO以外にSnO
2を含むために体積変化が緩和されたこと、および、コンバージョン反応する活物質量(割合)が増加したことに由来すると考えられる。なお、
図8に示すように、実施例および比較例2のリチウムイオン二次電池における2回目充放電時のクーロン効率は、初回充放電時のクーロン効率に比べて上昇している。これは、活物質の不可逆容量が低減したためと考えられる。このクーロン効率の上昇は、実施例のリチウムイオン二次電池においてより顕著である。このため、実施例のリチウムイオン二次電池はサイクル特性に優れているといえる。さらに、比較例1のリチウムイオン二次電池における2回目充放電時のクーロン効率は、初回充放電時のクーロン効率に比べて大幅に減少している。これは比較例1の負極活物質において不可逆容量が生じていること、つまり、比較例1の負極活物質では合金化反応が生じコンバージョン反応が生じていないことを示している。