(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5774465
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】繊維強化プラスチック製テープの製造方法およびそれに用いる製造装置
(51)【国際特許分類】
B29B 15/10 20060101AFI20150820BHJP
B29C 70/52 20060101ALI20150820BHJP
B29C 70/06 20060101ALI20150820BHJP
B29K 105/06 20060101ALN20150820BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20150820BHJP
【FI】
B29B15/10
B29C67/14 D
B29C67/14 L
B29K105:06
B29K105:08
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-286821(P2011-286821)
(22)【出願日】2011年12月27日
(65)【公開番号】特開2013-132890(P2013-132890A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076484
【弁理士】
【氏名又は名称】戸川 公二
(74)【代理人】
【識別番号】100148437
【弁理士】
【氏名又は名称】中出 朝夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 圭太
(72)【発明者】
【氏名】夏梅 透
【審査官】
深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−264326(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/149129(WO,A1)
【文献】
特開昭58−138616(JP,A)
【文献】
特開平05−050432(JP,A)
【文献】
特開2007−331285(JP,A)
【文献】
特開昭64−001507(JP,A)
【文献】
特開2007−118216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16,15/08−15/14
C08J 5/04− 5/10, 5/24
B29C 70/00−70/88
B29C 47/00−47/96
D06M 13/00−15/715
B29K 105/06
B29K 105/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の連続長繊維の強化繊維糸(1・1…)を長手方向に引き揃えて所定幅の帯状の強化繊維糸束(1A)にする一方、
この強化繊維糸束(1A)を樹脂塗布機(3)を通過させて熱可塑性樹脂からなるマトリックス樹脂を塗布しつつ送り出す一方、
上下一対に対向するガイド片(21・22)からなるガイド(2)であって、このガイド(2)の上側ガイド片(21)に成形された凹凸部と、下側ガイド片(22)に成形された凹凸部とが所定間隔で互い違いに向き合って対面することによって、これらの凹凸部の間に蛇行山部(23・23…)を有する隙間部(C)を形成している一方、このガイド(2)の上側ガイド片(21)または下側ガイド片(22)の少なくとも一方を揺動自在なサスペンション(24)により支持することにより離反方向に移動可能に構成されており、
前記強化繊維糸束(1A)を所定幅に開繊して前記ガイド(2)の隙間部(C)内に通過させるとき、この強化繊維糸束(1A)により生じる衝撃微動を、前記サスペンション(24)の弾性振動により吸収するとともに、このサスペンション(24)により支持したガイド片が、隙間部(C)内を通過する強化繊維糸束(1A)を略一様の圧力で押さえ付けながら各強化繊維糸(1)の周囲にマトリックス樹脂を付着含浸せしめて送り出して、
然る後、前記強化繊維糸束(1A)に含浸せしめたマトリックス樹脂を冷却硬化させることを特徴とする繊維強化プラスチック製テープの製造方法。
【請求項2】
ガイド(2)の上側ガイド片(21)に成形された凹凸部を蛇行波形の凹凸面により構成する一方、下側ガイド片(22)に成形された凹凸部を蛇行波形の凹凸面により構成して、
これらのガイド片(21・22)が所定間隔で互い違いに向き合って対面することによって、これら蛇行波形の凹凸面の間に蛇行山部(23・23…)を有する隙間部(C)を形成していることを特徴とする請求項1記載の繊維強化プラスチック製テープの製造方法。
【請求項3】
ガイド(2)の上側ガイド片(21)に成形された凹凸部を加圧ロール(23a)により構成する一方、下側ガイド片(22)に成形された凹凸部を加圧ロール(23a)により構成して、
これらのガイド片(21・22)が所定間隔で互い違いに向き合って対面することによって、これら加圧ロール(23a・23a)の間に蛇行山部(23・23…)を有する隙間部(C)を形成していることを特徴とする請求項1記載の繊維強化プラスチック製テープの製造方法。
【請求項4】
樹脂塗布機(3)内において、マトリックス樹脂を塗布する負荷抵抗をブレーキにして、ガイド(2)の入口と出口とにおける強化繊維糸(1)にかかるテンションを略一定にすることを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の繊維強化プラスチック製テープの製造方法。
【請求項5】
樹脂塗布機(3)としてクロスヘッド押出機を用いて、マトリックス樹脂を塗布することを特徴とする請求項1〜4の何れか一つに記載の繊維強化プラスチック製テープの製造方法。
【請求項6】
引取り機(4)によって強化繊維糸束(1A)を引き取ることを特徴とする請求項1〜5の何れか一つに記載の繊維強化プラスチック製テープの製造方法。
【請求項7】
ガイド(2)を加熱または冷却して、マトリックス樹脂の硬化度を調整することを特徴とする請求項1〜6の何れか一つに記載の繊維強化プラスチック製テープの製造方法。
【請求項8】
複数の連続長繊維の強化繊維糸(1・1…)を長手方向に引き揃えて、所定幅の帯状の強化繊維糸束(1A)にすることができ、かつ、この強化繊維糸束(1A)を通過させて熱可塑性樹脂からなるマトリックス樹脂を塗布しつつ送り出すことができる樹脂塗布機(3)を備える一方、
上下一対に対向するガイド片(21・22)からなるガイド(2)であって、このガイド(2)の上側ガイド片(21)に成形された凹凸部と、下側ガイド片(22)に成形された凹凸部とが所定間隔で互い違いに向き合って対面することによって、これらの凹凸部の間に蛇行山部(23・23…)を有する隙間部(C)を形成している一方、このガイド(2)の上側ガイド片(21)または下側ガイド片(22)の少なくとも一方を揺動自在なサスペンション(24)により支持することにより離反方向に移動可能に構成されており、
前記強化繊維糸束(1A)を所定幅に開繊して前記ガイド(2)の隙間部(C)内に通過可能であって、この強化繊維糸束(1A)により生じる衝撃微動を、前記サスペンション(24)の弾性振動により吸収するとともに、このサスペンション(24)により支持したガイド片が、隙間部(C)内を通過する強化繊維糸束(1A)を略一様の圧力で押さえ付けながら各強化繊維糸(1)の周囲にマトリックス樹脂を付着含浸せしめて送り出すことができるように構成したことを特徴とする繊維強化プラスチック製テープの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチック製品の製造技術の改良、更に詳しくは、高速生産条件下において送られる強化繊維糸が暴れて振動しても、その衝撃を吸収しつつ追従することができ、強化繊維の損傷を防ぐことができる繊維強化プラスチック製テープの製造方法およびそれに用いる製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のとおり、炭素繊維などの強化繊維を樹脂内に封入した複合材料として繊維強化プラスチック(Fiber-Reinforced-Plastics:FRP)が、建造物等の補強資材として多く用いられている。
【0003】
従来、かかるFRPをテープ状に作製するにあっては、引抜成形で熱可塑性樹脂(マトリックス樹脂)の槽の中に繊維を通し、強化繊維に樹脂を被覆し、槽から出た後にロールにより圧力をかけ、繊維と樹脂とを密着させる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、かかる製造方法にあっては、マトリックス樹脂を溶融させてから強化繊維糸束に加圧しているために、この樹脂を含浸させるまで加圧することが難しく、マトリックス樹脂が未含浸となって十分な強度が得られないという問題があった。
【0005】
また、従来の他のFRPテープの製造方法としては、シートのベルトプレス成形で、強化繊維/樹脂シート/強化繊維といった積層を行い、ライン上で連続成形するという技術も開示されている。
【0006】
しかしながら、樹脂を十分に含浸したプレス成形体を作るためには、2.5〜4MPaの圧力で15分間もの成形時間が必要であり、コストがかかってしまうという問題があった。
【0007】
また、従来、パウダースラリー法で、強化繊維を樹脂パウダーを分散させた液槽中に通し、この樹脂パウダーを繊維内に分散させた後に加熱し、繊維と樹脂とを密着させるという技術も開示されている。
【0008】
しかしながら、パウダーを分散させる溶媒には溶剤が使われるため、溶解する熱可塑性樹脂が制限されてしまうとともに、含浸後に溶媒を除去して回収する必要があって作業性が悪く、また、溶媒が残留するために、得られた複合材の物性に悪影響を与えることがある。
【0009】
また、<特許文献2〜4>には、強化繊維をガイド部材に挿通して、内部に形成された蛇行する屈曲山部で樹脂を含浸させる技術が開示されている。
【0010】
しかしながら、これらの特許文献に記載される方法によって製造された成形品は、マトリックス樹脂が十分に含浸しておらず、高速生産条件下では、金型内の屈曲山部で発生する樹脂を含浸させるための圧力で強化繊維が損傷(き裂発生)する現象が生じるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−118216号公報
【特許文献2】特開昭63−264326号公報
【特許文献3】特開平6−293023号公報
【特許文献4】特開平8−118490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来の繊維強化プラスチック製品の製造方法に上記のような問題があったことに鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、高速生産条件下において送られる強化繊維糸が暴れて振動しても、その衝撃を吸収しつつ追従することができ、強化繊維の損傷を防ぐことができる繊維強化プラスチック製テープの製造方法およびそれに用いる製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者が上記技術的課題を解決するために採用した手段を、添付図面を参照して説明すれば、次のとおりである。
【0014】
即ち、本発明は、複数の連続長繊維の強化繊維糸1・1…を長手方向に引き揃えて所定幅の帯状の強化繊維糸束1Aにする一方、
この強化繊維糸束1Aを樹脂塗布機3を通過させて熱可塑性樹脂からなるマトリックス樹脂を塗布しつつ送り出す一方、
上下一対に対向するガイド片21・22からなるガイド2であって、このガイド2の上側ガイド片21に成形された凹凸部と、下側ガイド片22に成形された凹凸部とが所定間隔で互い違いに向き合って対面することによって、これらの凹凸部の間に蛇行山部23・23…を有する隙間部Cを形成している一方、このガイド2の上側ガイド片21または下側ガイド片22の少なくとも一方を揺動自在なサスペンション24により支持することにより離反方向に移動可能に構成されており、
前記強化繊維糸束1Aを所定幅に開繊して前記ガイド2の隙間部C内に通過させるとき、この強化繊維糸束1Aにより生じる衝撃微動を、前記サスペンション24の弾性振動により吸収するとともに、このサスペンション24により支持したガイド片が、隙間部C内を通過する強化繊維糸束1Aを略一様の圧力で押さえ付けながら各強化繊維糸1の周囲にマトリックス樹脂を付着含浸せしめて送り出して、
然る後、前記強化繊維糸束1Aに含浸せしめたマトリックス樹脂を冷却硬化させるという技術的手段を採用したことによって、繊維強化プラスチック製テープの製造方法を完成させた。
【0015】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ガイド2の上側ガイド片21に成形された凹凸部を蛇行波形の凹凸面により構成する一方、下側ガイド片22に成形された凹凸部を蛇行波形の凹凸面により構成して、
これらのガイド片21・22が所定間隔で互い違いに向き合って対面することによって、これら蛇行波形の凹凸面の間に蛇行山部23・23…を有する隙間部Cを形成するという技術的手段を採用することができる。
【0016】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ガイド2の上側ガイド片21に成形された凹凸部を加圧ロール23aにより構成する一方、下側ガイド片22に成形された凹凸部を加圧ロール23aにより構成して、
これらのガイド片21・22が所定間隔で互い違いに向き合って対面することによって、これら加圧ロール23a・23aの間に蛇行山部23・23…を有する隙間部Cを形成するという技術的手段を採用することができる。
【0017】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、樹脂塗布機3の金型内において、マトリックス樹脂を塗布する負荷抵抗をブレーキにして、ガイド2の入口と出口とにおける強化繊維糸1にかかるテンションを略一定にするという技術的手段を採用することができる。
【0018】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、樹脂塗布機3としてクロスヘッド押出機を用いて、マトリックス樹脂を塗布するという技術的手段を採用することができる。
【0019】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、引取り機4によって強化繊維糸束1Aを引き取るという技術的手段を採用することができる。
【0020】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ガイド2を加熱または冷却して、マトリックス樹脂の硬化度を調整するという技術的手段を採用することができる。
【0021】
また、本発明は、複数の連続長繊維の強化繊維糸1・1…を長手方向に引き揃えて、所定幅の帯状の強化繊維糸束1Aにすることができ、かつ、この強化繊維糸束1Aを通過させて熱可塑性樹脂からなるマトリックス樹脂を塗布しつつ送り出すことができる樹脂塗布機3を備える一方、
上下一対に対向するガイド片21・22からなるガイド2であって、このガイド2の上側ガイド片21に成形された凹凸部と、下側ガイド片22に成形された凹凸部とが所定間隔で互い違いに向き合って対面することによって、これらの凹凸部の間に蛇行山部23・23…を有する隙間部Cを形成している一方、このガイド2の上側ガイド片21または下側ガイド片22の少なくとも一方を揺動自在なサスペンション24により支持することにより離反方向に移動可能に構成されており、
前記強化繊維糸束1Aを所定幅に開繊して前記ガイド2の隙間部C内に通過可能であって、この強化繊維糸束1Aにより生じる衝撃微動を、前記サスペンション24の弾性振動により吸収するとともに、このサスペンション24により支持したガイド片が、隙間部C内を通過する強化繊維糸束1Aを略一様の圧力で押さえ付けながら各強化繊維糸1の周囲にマトリックス樹脂を付着含浸せしめて送り出すことができるように構成するという技術的手段を採用することによって、繊維強化プラスチック製テープの製造装置を完成させた。
【発明の効果】
【0022】
本発明にあっては、複数の連続長繊維の強化繊維糸を長手方向に引き揃えて所定幅の帯状の強化繊維糸束にする一方、この強化繊維糸束を樹脂塗布機を通過させて熱可塑性樹脂からなるマトリックス樹脂を塗布しつつ送り出す一方、
上下一対に対向するガイド片からなるガイドであって、このガイドの上側ガイド片に成形された凹凸部と、下側ガイド片に成形された凹凸部とが所定間隔で互い違いに向き合って対面することによって、これらの凹凸部の間に蛇行山部を有する隙間部を形成している一方、このガイドの上側ガイド片または下側ガイド片の少なくとも一方を揺動自在なサスペンションにより支持することにより離反方向に移動可能に構成されており、
前記強化繊維糸束を所定幅に開繊して前記ガイドの隙間部内に通過させるとき、この強化繊維糸束により生じる衝撃微動を、前記サスペンションの弾性振動により吸収するとともに、このサスペンションにより支持したガイド片が、隙間部内を通過する強化繊維糸束を略一様の圧力で押さえ付けながら各強化繊維糸の周囲にマトリックス樹脂を付着含浸せしめて送り出して、然る後、前記強化繊維糸束に含浸せしめたマトリックス樹脂を冷却硬化させることによって、高速で生産することができ、また、この高速生産の条件下において、送られる強化繊維糸が暴れて振動しても、その衝撃を吸収しつつ追従することができるので、強化繊維の損傷を防ぐことができる。
【0023】
また、本発明の製造方法では、熱可塑性樹脂を含浸させているため、インサートインジェクション成形などの二次成形において、界面密着性を確保することができ、また、熱硬化性樹脂に比べ冷凍保存の必要がなく使用期間を限定する必要はない。また、輸送において冷凍輸送の必要もないために輸送コストを軽減することができる。
【0024】
更にまた、熱可塑性のフィラメントワインディング成形において、熱硬化性樹脂ならば焼き固める工程で多くの成形時間が必要となるが、樹脂を巻きつける工程での成形ができ、成形時間の短縮が図れる。また、テープを溶かしながら貼り付ける、Automated Rayup法(オートレイアップ法)に使用できる。
【0025】
また、本発明の繊維強化プラスチック製テープの製造装置は、上記のような優れた性能を有する繊維強化プラスチック製テープを製造するにあたり、高速かつ大量生産が容易で優れた機能を発揮できることから、産業上の利用価値は頗る大きいと云える。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態の繊維強化プラスチック製テープの製造装置を表わす全体説明概略図である。
【
図2】本発明の実施形態の繊維強化プラスチック製テープの製造装置のガイドを表わす説明概略図である。
【
図3】本発明の実施形態の繊維強化プラスチック製テープの製造装置の変形例を表わす拡大断面写真である。
【
図4】本発明の実施形態の繊維強化プラスチック製テープの製造装置のガイドの変形例を表わす説明概略図である。
【
図5】本発明の実施形態の繊維強化プラスチック製テープの製造装置のガイドの変形例を表わす説明概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明を実施するための形態を、具体的に図示した図面に基づいて、更に詳細に説明すると、次のとおりである。
【0028】
本発明の実施形態を
図1から
図5に基づいて説明する。
図1は本発明の装置であり、図中、符号1で指示するものは強化繊維糸であり、また、符号2で指示するものはガイド、符号3で指示するものは樹脂塗布機、符号4で指示するものは引取り機、符号5で指示するものはテンション調整ロールである。
【0029】
しかして、本実施形態の繊維強化プラスチック製テープの製造方法について以下に説明する。まず、複数の連続長繊維の強化繊維糸1・1…を長手方向に引き揃えて所定幅の帯状の強化繊維糸束1Aにする。
【0030】
本実施形態の強化繊維糸1は、金属繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、芳香族ポリアミド繊維、炭素繊維、バサルト繊維などの有機または無機の強化繊維からなる連続する長繊維糸を採用することができる。
【0031】
次いで、この強化繊維糸束1Aを樹脂塗布機3を通過させて、熱可塑性樹脂からなるマトリックス樹脂を塗布しつつ送り出す。本実施形態では、樹脂塗布機3として押出機(より好ましくはクロスヘッド押出機)を採用することができ、熱可塑性樹脂を効率的に塗布することができる。
【0032】
本実施形態のマトリックス樹脂2は熱可塑性樹脂材料であって、この熱可塑性樹脂材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド61、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12などのポリアミド系、ポリ塩化ビニル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリイミド熱可塑性ポリウレタン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルアミド、ポリエーテルイミド、アクリルニトリル・スチレン樹脂を単独または複数の組み合わせからなるものを採用することができる。
【0033】
また、本実施形態では、リールRから解舒した強化繊維糸1を、テンション調整ロール5を通過させて、所定のテンションをかけながらガイド2を通過させることができる。
【0034】
具体的には、炭素繊維からなる強化繊維糸50000本で、幅40mmに広げた強化繊維糸1・1…をテンション調整用ロール5によって所定のテンションをかけながら張って、樹脂塗布機3内に連続的に送る。そして、この樹脂塗布機3内においてマトリックス樹脂を連続的に被覆する。この際、一時的に吐出が不安定になることがあるため、必要に応じて、小型の押出機を使用することができる。
【0035】
ここで、本実施形態におけるガイド2の構造は、上下一対に対向するガイド片21・22からなり、このガイド2の上側ガイド片21に成形された凹凸部と、下側ガイド片22に成形された凹凸部とが所定間隔で互い違いに向き合って対面することによって、これらの凹凸部の間に蛇行山部23・23…を有する隙間部Cを形成している(
図2参照)。
【0036】
本実施形態では、ガイド2の上側ガイド片21に成形された凹凸部を、蛇行波形の凹凸面により構成する一方、下側ガイド片22に成形された凹凸部を蛇行波形の凹凸面により構成する。
【0037】
そして、このガイド2の上側ガイド片21または下側ガイド片22の少なくとも一方を揺動自在なサスペンション24により支持することにより離反方向に移動可能に構成する。本実施形態のサスペンション24は、スプリングバネを採用して弾性を付与する。
【0038】
また、本実施形態では、ガイド2を加熱または冷却して、マトリックス樹脂の硬化度を調整することができ、加熱により樹脂を溶融させて流動性を高くして、強化繊維糸束1Aへの樹脂含浸性を高めることができる。
【0039】
更にまた、本実施形態では、強化繊維糸1の繊維径を3〜30μmにすることができ、繊維糸の周囲にマトリックス樹脂を確実に付着させることができる。3μmより小さいと製品としての強度が不十分になるおそれがあり、逆に、30μmより大きいと樹脂が含浸せずにテープとしての形態安定性が損なわれ、また、柔軟性が無くなって良好な賦形性が得られなくなるからである。
【0040】
なお、本実施形態では、引取り機4によって強化繊維糸束1Aを引き取ることによって、前記強化繊維束1Aを樹脂塗布機3およびガイド2に次々と送り出させることができる。この際、10m/min以上の引取り速度で、品質が安定させることが望ましい。
【0041】
そして、前記強化繊維糸束1Aを所定幅に開繊して前記ガイド2の隙間部C内に通過させるとき、この強化繊維糸束1Aにより生じる衝撃微動を、前記サスペンション24の弾性振動(本実施形態では上下振動)により吸収するとともに、このサスペンション24により支持したガイド片が、隙間部C内を通過する強化繊維糸束1Aを略一様の圧力で押さえ付けながら各強化繊維糸1の周囲にマトリックス樹脂を付着含浸せしめて送り出すことができる。
【0042】
本実施形態では、樹脂塗布機3の金型内において、マトリックス樹脂を塗布する負荷抵抗をブレーキにして、ガイド2の入口と出口とにおける強化繊維糸1にかかるテンションを略一定にすることができる。
【0043】
然る後、前記強化繊維糸束1Aに含浸せしめたマトリックス樹脂を冷却硬化させる。本実施形態では、樹脂塗布機3から出た後、ガイド2を通り30mmまで開繊したところで厚み200μmとなり、それを空冷することにより賦形することによって、(本実施形態の成形品仕様では、厚み200μm、幅25mm、繊維量(Vf)が全体積の50%以下の)繊維強化プラスチック製テープを得ることができる。
【0044】
図3に示す写真は、本実施形態の製造方法によって作製した強化繊維テープの切断面を800倍に拡大したものである。写真を目視で確認したところ、ボイド(気泡)は見られないため、含浸度は100%であると判断される。
【0045】
なお、本実施形態においては、引き取り速度の線速が5m/minを超える場合、サスペンション付蛇行型のガイド2で、含浸に必要な圧力が発生できる状態まで蛇行山部23の数を増やしたり、また、サスペンション24に使用する弾性部材の種類などを調整することができる。
【0046】
なお、本実施形態のガイド2は、
図4に示すように、サスペンション24をエアシリンダ式のサスペンション(所謂「エアサス」)にすることができ、強化繊維糸束1Aにより生じる衝撃微動を、このサスペンション24の弾性振動により吸収することができる。
【0047】
また、本実施形態のガイド2は、
図5に示すように、ガイド2の上側ガイド片21に成形された凹凸部を加圧ロール23aにより構成する一方、下側ガイド片22に成形された凹凸部を加圧ロール23aにより構成して、これらのガイド片21・22が所定間隔で互い違いに向き合って対面することによって、これら加圧ロール23a・23aの間に蛇行山部23・23…を有する隙間部Cを形成するようにすることができる。
【0048】
このように構成することによっても、強化繊維糸束1Aを所定幅に開繊して前記ガイド2の隙間部C内に通過させるとき、この強化繊維糸束1Aにより生じる衝撃微動を、前記サスペンション24の弾性振動により吸収するとともに、このサスペンション24により支持したガイド片が、隙間部C内を通過する強化繊維糸束1Aを略一様の圧力で押さえ付けながら各強化繊維糸1の周囲にマトリックス樹脂を付着含浸せしめて送り出すことができる。
【0049】
なお、この際、複数の加圧ロール23a・23a…を配設した(上側)ガイド片全体にサスペンション24を設けても良いし、各加圧ロール23aにそれぞれサスペンション24を設けることもできる。また、適宜、加圧ロール23aを温冷調節可能にすることも当然に可能である。
【実施例】
【0050】
本実施形態の製造方法において、線速および材料の条件を以下のように変化させて、材料特性および評価を〔表1〕に示す。
<条件>
ガイド種類
A−1 サスペンション なし
A−2 サスペンション 10kg(上側ガイド荷重)
A−3 サスペンション 20kg(上側ガイド荷重)
A−4 サスペンション 30kg(上側ガイド荷重)
線速
B−1 1
B−2 3
B−3 5
B−4 7
B−5 10
B−6 15
B−7 20
他の成形方法による成形品
D−1 ベルトプレス成形法
D−2 パウダースラリー成形法
D−3 サスペンション、蛇行部なし
【0051】
【表1】
【0052】
〔表1〕中の#1および#2の脚注は、以下の事項を示すものである。
「#1」判断基準
目標形状幅30mm×厚み200μmを目標断面として、
×:幅、厚み共に公差が±1mm超過
△:幅の公差は30mm±1mm、厚みの公差は±1mm超過
○:幅、厚み共に公差が±0.5〜1mm以内
「#2」判断基準
×:断面観察において強化繊維糸の外周表面樹脂被覆が50%未満,又は、50%以上被覆さている繊維糸の割合が98%未満,さらにはその両方である状態
△:断面観察において強化繊維糸の外周表面の50%〜70%未満が濡れている繊維糸数の割合が98%以上である状態
○:断面観察において強化繊維糸の外周表面の70%〜90%未満が濡れている繊維糸数の割合が98%以上である状態
◎:断面観察において強化繊維糸の外周表面の90%〜100%未満が濡れている繊維糸数の割合が98%以上である状態
【0053】
本発明は、概ね上記のように構成されるが、図示の実施形態に限定されるものでは決してなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、強化繊維糸1およびマトリックス樹脂の組み合わせは、要求される品質や形状に応じて組み合わせや使用量を選択することができる。
【0054】
また、ガイド2のガイド片に成形された凹凸部の数は少なくとも2つ以上必要であるが、繊維の種類や本数などによって変化する含浸度の相異に応じて、必要な圧力を加圧できるように増やすこともできる。
【0055】
更にまた、ガイド2のサスペンション24は、スプリングバネやエアサスに限らず、板バネ、流体圧シリンダーなどの種々の弾性機構を採用することができる。
【0056】
更にまた、本発明の製造方法によって作製したテープ状の部材を適宜組み合わせて、接着等の二次加工を行うことによって、テープの断面形状を、一文字に限らず、T字型、コの字型、円弧型、楕円型、屈曲型などの幾何学形状や装飾形状に成形して、フレームやサッシ、チャンネル部材等の建築資材とすることもでき、これら何れのものも本発明の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0057】
1 強化繊維糸
1A 強化繊維糸束
2 ガイド
21 上側ガイド片
22 下側ガイド片
23 蛇行山部
23a 加圧ロール
24 サスペンション
3 樹脂塗布機
4 引取り機
5 テンション調整ロール
C 隙間部
R リール