(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5774496
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊の培養方法、評価方法および保存方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/09 20100101AFI20150820BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20150820BHJP
C12Q 1/68 20060101ALI20150820BHJP
C12N 1/04 20060101ALI20150820BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20150820BHJP
【FI】
C12N5/00 202U
C12Q1/02
C12Q1/68 A
C12N1/04
!C12N15/00 A
【請求項の数】21
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2011-550927(P2011-550927)
(86)(22)【出願日】2011年1月19日
(86)【国際出願番号】JP2011050866
(87)【国際公開番号】WO2011090068
(87)【国際公開日】20110728
【審査請求日】2013年8月23日
(31)【優先権主張番号】特願2010-9292(P2010-9292)
(32)【優先日】2010年1月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304057472
【氏名又は名称】株式会社ルネッサンス・エナジー・インベストメント
(73)【特許権者】
【識別番号】506286928
【氏名又は名称】地方独立行政法人 大阪府立病院機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 正宏
【審査官】
荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−534022(JP,A)
【文献】
特開2002−173500(JP,A)
【文献】
特表2009−501004(JP,A)
【文献】
国際公開第01/092481(WO,A1)
【文献】
特表2008−507563(JP,A)
【文献】
特表2006−507327(JP,A)
【文献】
特開2010−227088(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/101119(WO,A1)
【文献】
特表平02−501746(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/129735(WO,A1)
【文献】
浦住幸治郎,ヒト乳癌細胞の無血清培養そのホルモン依存性に関する研究及び初代培養への応用,日本外科学会雑誌,1990年,Vol.91, No.6,p.718-728,特に、II.方法等を参照
【文献】
藤井良典ら,無血清浮遊培養系を用いた口腔扁平上皮癌細胞のsphere形成能とその癌幹細胞としての細胞・分子生物学的特性,日本口腔科学会雑誌,2009年,Vol.58, No.4,p.239
【文献】
本多靖明他,抗癌剤の感受性テストについて 遺伝子診断を含めて 泌尿器癌 コラ-ゲン・ゲルドロップ培養法を用いた抗癌剤,癌治療と宿主,1998年,Vol.10, No.4,p.409-415,特に、4.方法等を参照
【文献】
仲地一郎ら,肺腺癌におけるBRAF遺伝子の重要性について,日本呼吸器学会雑誌,2005年,Vol.43 増刊号,p.156
【文献】
中川久子ら,培養口腔扁平上皮癌細胞の血管新生活性における低酸素環境の影響,日本口腔科学会雑誌,2008年,Vol.57, No.1,p.93
【文献】
SUNDLISAETER, E., et al.,Neuropathol. Appl. Neurobiol.,2006年,Vol.32, No.4,pp.419-427
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00− 5/09
C12Q 1/00− 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から摘出した癌組織の細片化物をコラゲナーゼを含む酵素で処理する工程;
該酵素処理物から、サイズを分ける方法を用いて、直径、長径、または体積平均粒子径20μm以上500μm以下であって、3個以上の癌細胞を含む塊を選別回収する工程;および
該回収された塊を無血清の基礎培地に血清代替物を添加して得られる培地で少なくとも3時間培養し、略球形または楕円球形の培養物を得る工程を含む、癌組織由来細胞塊の培養方法。
【請求項2】
前記酵素が、C. histolyticum neutral protease、thermolysinおよびdispaseからなる群より選択される1種以上のプロテアーゼ;およびコラゲナーゼI、コラゲナーゼII、およびコラゲナーゼIVからなる群より選択される1種以上のコラゲナーゼを含む混合酵素である請求項1記載の癌組織由来細胞塊の培養方法。
【請求項3】
さらに、前記略球形または楕円球形の培養物を機械的に分割する工程を含む、請求項1または2記載の癌組織由来細胞塊の培養方法。
【請求項4】
さらに、ホルモンを培地中に添加して培養する、請求項1から3までのいずれか1項記載の癌組織由来細胞塊の培養方法。
【請求項5】
前記癌組織由来細胞塊が、乳癌、子宮癌、および前立腺癌からなる群より選択される1つの癌由来であり、前記ホルモンが、エストロゲン、プロジェステロン、およびテストステロンからなる群より選択される少なくとも1つのホルモンである、請求項4記載の培養方法。
【請求項6】
生体から摘出した癌組織の細片化物をコラゲナーゼを含む酵素で処理する工程;
該酵素処理物から、サイズを分ける方法を用いて、直径、長径、または体積平均粒子径20μm以上500μm以下であって、3個以上の癌細胞を含む塊を選別回収する工程;
該回収された塊を少なくとも3時間、ホルモンの存在下または不存在下において培養する工程;および
培養後の培養物の状態を、ホルモンの有無により比較する工程、を含む、癌組織由来細胞塊のホルモン依存性の評価方法。
【請求項7】
前記癌組織由来細胞塊が、乳癌、子宮癌、および前立腺癌からなる群より選択される1つの癌由来であり、前記ホルモンが、エストロゲン、プロジェステロン、およびテストステロンからなる群より選択される少なくとも1つのホルモンである、請求項6記載のホルモン依存性の評価方法。
【請求項8】
前記比較する工程が、前記癌組織由来細胞塊の増殖状態または生死状態を比較することである、請求項6または7記載のホルモン依存性の評価方法。
【請求項9】
生体から摘出した癌組織の細片化物をコラゲナーゼを含む酵素で処理する工程;
該酵素処理物から、サイズを分ける方法を用いて、直径、長径、または体積平均粒子径20μm以上500μm以下であって、3個以上の癌細胞を含む塊を選別回収する工程;
該回収された塊を少なくとも3時間培養し、略球形または楕円球形の培養物を得る工程;および
該培養物の遺伝子を評価する工程、を含む癌組織由来細胞塊の評価方法。
【請求項10】
前記遺伝子が、KRAS遺伝子またはBRAF遺伝子であり、前記評価が、遺伝子の変異の有無を検知することである、請求項9記載の癌組織由来細胞塊の評価方法。
【請求項11】
前記遺伝子を評価する工程が、該遺伝子発現量を検知することである、請求項9または10記載の癌組織由来細胞塊の評価方法。
【請求項12】
前記培養が、低酸素状態および通常の酸素状態でなされ、前記遺伝子を評価する工程が、低酸素状態と通常の酸素状態下での培養における該遺伝子発現量の比較である、請求項11記載の癌組織由来細胞塊の評価方法。
【請求項13】
前記遺伝子が、VEGF遺伝子である、請求項11または12記載の評価方法。
【請求項14】
生体から摘出した癌組織の細片化物をコラゲナーゼを含む酵素で処理する工程;
該酵素処理物から、サイズを分ける方法を用いて、直径、長径、または体積平均粒子径20μm以上500μm以下であって、3個以上の癌細胞を含む塊を選別回収する工程;
該回収された塊を少なくとも3時間培養し、略球形または楕円球形の培養物を得る工程;および
該培養物を冷凍する工程、を含む癌組織由来細胞塊の冷凍保存方法。
【請求項15】
癌組織由来細胞塊の単一細胞化処理、および細胞凝集促進処理または細胞死抑制薬剤処理を含む方法である、請求項14記載の冷凍保存方法。
【請求項16】
前記単一細胞化処理が、トリプシン、ディスパーゼ、および場合により、コラゲナーゼ、パパイン、ヒアルロニダーゼ、C. histolyticum neutral protease、thermolysin、およびdispaseからなる群より選択される1種、またはこれらの2種以上の組合せによる処理であり、細胞凝集促進処理または細胞死抑制薬剤処理が、ROCK阻害剤またはカスパーゼ阻害剤による処理である、請求項15記載の冷凍保存方法。
【請求項17】
ガラス化法による、請求項14記載の冷凍保存方法。
【請求項18】
前記癌組織由来細胞塊が、該癌組織由来細胞塊が有する遺伝子情報と関連付けられた状態で保存されている、請求項14から17までのいずれか1項記載の冷凍保存方法。
【請求項19】
前記癌組織由来細胞塊が、由来する患者の臨床情報と関連付けられた状態で保存されている、請求項14から17までのいずれか1項記載の冷凍保存方法。
【請求項20】
前記癌組織由来細胞塊が、該癌組織由来細胞塊の培養条件情報と関連付けられた状態で保存されている、請求項14から17までのいずれか1項記載の冷凍保存方法。
【請求項21】
前記培養条件情報が、ホルモン依存性の有無である、請求項20記載の冷凍保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊を用いた培養方法、評価方法および保存方法に関する。より詳細には、本発明は、インビトロで癌を再構築でき、かつ増殖能を保持する癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊を用いた培養方法、評価方法および保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がんを克服するため様々な研究が積み重ねられてきた結果、早期がんの治療成績は飛躍的に向上している。しかし、進行がんの治療は依然として困難で、がんは日本人の死因のトップを占め続けている。厚生労働省による平成19年人口動態統計では、年間34万人以上ががんにより死亡している。
【0003】
これまでのがん研究では、特にインビトロにおいてその挙動を調べる場合は、培養に最適化した条件で継代培養され確立された癌細胞株を用いた実験が主流である。このような癌細胞株には、ヒト乳癌細胞株(MDF7、NCI/ADR HS578T、MDA−MB−22231/ATCC、MDA−MB−4335、MDA−N、BT−549、T−47D)、ヒト子宮頸癌細胞株(HeLa)、ヒト肺癌細胞株(A549、EKVX, HOP−62、HOP−92、NCI−H23、NCI−H226、NCI−H322M、NCI−H460、NCI−H522)及びヒト大腸癌細胞株(Caco−2、COLO 205、HCC−2998、HCT−15、HCT−116、HT29、KM12、SW−620)ヒト前立腺癌細胞株(DU−145、PC−3、LNCaP)、などが含まれ、実際に広く研究に用いられている。
【0004】
がんの患者別の診断や治療実現等の為に、癌細胞の初代培養が有望とされ、研究が進められている。例えば初代培養細胞を用いたCD−DST法(Collagen gel droplet embedded drug sensitivity test)などが開発されている。このインビトロの試験法は、患者からの単離組織あるいは細胞をコラーゲン・ゲル小滴内に包埋し、三次元培養と画像比色定量法を組み合わせて検証する薬剤感受性試験である(例えば非特許文献1)。しかしながら、初代培養細胞については、培養法が確立しておらず、取り扱いが困難である。
【0005】
癌細胞の研究の成果として、がんを構成する癌細胞は複数の亜集団から成り立っている可能性があり、「腫瘍始原細胞」あるいは「腫瘍幹細胞」と呼ばれる、小集団であるが自己複製が可能で、分化によって大多数の癌細胞の源となりえる亜集団の存在を支持する報告が相次いでいる(例えば、非特許文献2および3)。このような幹細胞は、例えば、生体から摘出した腫瘍を、単一の細胞にまで分離してソートすることによって取得することができ、そのうちのいくらかがインビトロにおいても増殖能を示すとされている(非特許文献4)。しかしながら、このようにがんの起源を幹細胞で説明する説には、否定的な報告もあり(非特許文献5)、仮説の域を出ない。
【0006】
がん研究が広く行われている現状にあってもなお、がんについては未知の点が多い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Takamura Yら(2002)Prediction of chemotherapeutic response by collagen gel droplet embedded culture-drug sensitivity test in human breast cancers. Int.J.Cancer,98,450-455
【非特許文献2】Vermeulen Lら(2008)Single-cell cloning of colon cancer stem cells reveals a multi-lineage differentiation capacity. PNAS Vol.105 No.36 13427-13432
【非特許文献3】Ricci-Vitiani Lら(2007)Identification and expansion of human colon-cancer-initiating cells. Nature Vol.445 111-115
【非特許文献4】Todaro Mら(2007)Colon cancer stem cells dictate tumor growth and resist cell death by production of interleukin-4. Cell Stem Cell 1:389-402
【非特許文献5】Shmelkov S V ら(2008)CD133 expression is not restricted to stem cells, and both CD133+ and CD133- metastatic colon cancer cells initiate tumors. The Journal of Clinical Investigation Vol. 118 2111-2120
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、生体内での癌細胞の挙動をインビトロにおいて再現することができ、生体内での状態を正確に検証し得る、癌の分析や治療の研究の為の試料として有用な、新規な癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊についての、培養方法、ホルモン依存性あるいは遺伝子評価方法、および保存方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、個々の癌患者の治療感受性試験を行うことを企図し、癌研究の研究材料として用いられてきた細胞株が患者癌とは異質のものである可能性や、初代培養細胞が、雑多な細胞集団であり、低い細胞生存率などの解決すべき課題が多いことを考慮して、前記課題を解決すべく研究材料としての癌細胞の培養について鋭意検討を重ねた結果、新規な癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊を調製し、それを培養、保存し、様々な評価に用い得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、インビトロにおいても個体における生体内での癌細胞の挙動を正確に反映できるような、新規な癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊を用いて、新規な培養、保存、様々な評価方法を提供することを目的とする。
【0011】
本発明は、癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊を培養する方法であって、該癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊を、無血清の基礎培地に血清代替物を添加して得られる培地で培養する、培養方法、に関する。
【0012】
上記無血清の基礎培地に血清代替物を添加して得られる培地は、STEMPRO(登録商標)であり得る。
【0013】
上記癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊は、大腸癌、卵巣癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、子宮癌、腎癌、膀胱癌、咽頭癌、あるいは膵臓癌由来であり得る。
【0014】
さらにホルモンを培地中に添加して培養することもできる。
【0015】
上記癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊は、乳癌、子宮癌、および前立腺癌からなる群より選択される1つの癌由来であり、上記ホルモンは、エストロゲン、プロジェステロン、およびテストステロンからなる群より選択される少なくとも1つのホルモンであり得る。
【0016】
上記癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊は、培養の一定期間毎に分割処理され得る。
【0017】
本発明はまた、癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊を、ホルモンの存在下または不存在下において培養する工程;および培養後の癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊の状態を、ホルモンの有無により比較する工程、を含む、癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊のホルモン依存性の評価方法、に関する。
【0018】
上記癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊は、乳癌、子宮癌、および前立腺癌からなる群より選択される1つの癌由来であり、上記ホルモンは、エストロゲン、プロジェステロン、およびテストステロンからなる群より選択される少なくとも1つのホルモンであり得る。
【0019】
上記比較する工程が、前記癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊の増殖状態または生死状態を比較することであり得る。
【0020】
本発明はまた、癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊を培養する工程;および培養された癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊の遺伝子を評価する工程、を含む癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊の評価方法、に関する。
【0021】
上記遺伝子は、KRAS遺伝子またはBRAF遺伝子であり、上記評価は、遺伝子の変異の有無を検知することであり得る。
【0022】
上記遺伝子を評価する工程は、該遺伝子発現量を検知することであり得る。
【0023】
上記培養が、低酸素状態および通常の酸素状態でなされ、前記遺伝子を評価する工程が、低酸素状態と通常の酸素状態下での培養における該遺伝子発現量の比較であってもよい。
【0024】
上記遺伝子は、VEGF遺伝子であり得る。
【0025】
本発明はまた、癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊を保存する方法であって、冷凍による保存方法、に関する。
【0026】
上記保存方法は、癌組織由来細胞塊の単一細胞化処理、および細胞凝集促進処理または細胞死抑制薬剤処理を含む方法であり得る。
【0027】
上記単一細胞化処理が、トリプシン、ディスパーゼ、および場合により、コラゲナーゼ、パパイン、ヒアルロニダーゼ、C. histolyticum neutral protease、thermolysin、およびdispaseからなる群より選択される1種、またはこれらの2種以上の組合せによる処理であり、細胞凝集促進処理または細胞死抑制薬剤処理が、ROCK阻害剤またはカスパーゼ阻害剤による処理であり得る。
【0028】
上記保存方法は、ガラス化法によってもよい。
【0029】
上記癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊が、該癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊が有する遺伝子情報と関連付けられた状態で保存されていてもよい。
【0030】
上記癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊は、由来する患者の臨床情報と関連付けられた状態で保存されていてもよい。
【0031】
上記癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊が、該癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊の培養条件情報と関連付けられた状態で保存されていてもよい。
【0032】
上記培養条件情報は、ホルモン依存性の有無であり得る。
【発明の効果】
【0033】
本発明の癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊は、培養条件を整えることにより長期間にわたり増殖能を保持したまま培養することができる。また、保存も可能であり、遺伝子情報や臨床情報と関連づけることが可能である。これにより、画一的ではなく、その患者個々に対応した最適な治療方法を迅速かつ正確に確立することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図2】本発明の癌組織由来細胞塊の1つの態様では、左から、細胞が表面抗原CD133、CD44、CD166等を発現することを示す図である。
【
図3】インビトロの培養過程における本発明の癌組織由来細胞塊の形状の変化と増殖能を表す図である。上段左より、0日目、13日目、23日目を表わし、下段は、31日目を表わす。
【
図4】本発明の癌組織由来細胞塊を用いた、インビトロにおける5−FUによる薬剤感受性試験の結果を示す図である。
【
図5】本発明の癌組織由来細胞塊をマウスに移植して得られた腫瘍組織(右)と癌組織由来細胞塊の由来である生体内から摘出した腫瘍組織(左)とを比較した図である。
【
図6】本発明の癌組織由来細胞塊を用いた、インビトロにおける放射線感受性試験の結果を示す図である。
【
図7】様々な癌組織から得られた本発明の癌組織由来細胞塊を示す図である。上段左より、大腸癌、膵臓癌、卵巣癌、2段目左より、咽頭癌、乳癌、肺癌、3段目左欄より、前立腺癌、腎癌、膀胱癌を示す。
【
図8】乳癌組織由来細胞塊を用いた、ホルモン感受性培養試験の結果を表す図である。左は、エストラジオール−、右は+を示す。それぞれ、0日目から6日目までの変化を示す。
【
図9】マウス膵島腫瘍から得られた本発明の癌組織由来細胞塊を示す図である。
【
図10】本発明の癌組織由来細胞塊を冷凍保存した前後(左右)の状態を比較した図である。
【
図11】癌組織由来細胞塊由来の癌細胞凝集塊を示す図である。
【
図12】ヒト大腸癌手術検体由来の癌細胞凝集塊を示す図である。
【
図13】癌組織由来細胞塊をトリプシン処理後凍結保存し融解した後の状態を示す図である。左は0日目、右は1日目である。
【
図14】癌細胞凝集塊を用いた、インビトロにおけるドキソルビシンによる薬剤感受性試験の結果を示す図である。
【
図15】癌組織由来細胞塊による、KRASまたはBRAFの遺伝子変異検出を示す図である。
【
図16】癌組織由来細胞塊における、通常の大気圧条件下と低酸素によるVEGF発現誘導試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の癌組織由来細胞塊は、個体から得られた癌組織から3個以上の癌細胞を含む塊として分離処理された分離物またはその培養物であり、インビトロにおいて、増殖能を保持することができるようなものであり得る。
【0036】
ここで、「個体から得られた癌組織から3個以上の癌細胞を含む塊として分離処理された分離物」とは、生体内で発生した癌から得られた癌組織を処理して得られた3個以上、好ましくは8個以上の癌細胞を含む分離物を指す。このような分離物には、単一細胞にまで分離されているものは含まれず、また単一細胞に分離されてから再構築した構成物は含まれない。但し、この分離物は、生体から分離した直後の物だけではなく、例えば生理食塩水中で一定時間保持したものや冷凍または冷蔵した物も含む。
【0037】
個体から「得られた癌組織」とは、手術等により摘出することで得られる癌組織の他、注射針や内視鏡で組織検査用としてインビトロで取り扱い可能なように取得された癌組織を指す。
【0038】
「個体から得られた癌組織から3個以上の癌細胞を含む塊として分離処理された分離物の培養物」とは、生体内で発生した癌から得られた癌組織を処理して得られた3個以上の癌細胞を含む塊として分離処理された分離物をインビトロにおいて培養することによって得られるものを指す。培養する時間は特に限定されず、わずかな時間でも培地中に存在させたものであればよい。このような培養物は、一定期間、好ましくは3時間以上培養することによって、略球形あるいは楕円球形を呈する場合が多い。ここでの培養物には、このような一定期間経過後の略球形あるいは楕円球形の培養物も、そこに至るまでの不定形の培養物も含まれる。さらに、このような略球形あるいは楕円球形の培養物をさらに分割して得られる不定形、さらなる培養による略球形物あるいは楕円球形物もここでいう培養物である。
【0039】
本発明の癌組織由来細胞塊が、インビトロにおいて、「増殖能を保持することができる」とは、温度37℃、5%CO
2インキュベーターの細胞培養条件下で、少なくとも10日以上、好ましくは13日以上、さらに好ましくは30日以上の期間増殖能を保持することができることをいう。
【0040】
このような癌組織由来細胞塊は、そのまま培養を続けることでも10日以上、好ましくは13日以上、さらに好ましくは30日以上の期間において増殖能を保持し得るが、さらに培養中に定期的に機械的分割を行うことで、実質的に無期限に増殖能を保持し得る。
【0041】
機械分割は手術用メス、ナイフ、ハサミの他、眼科尖刀などを用いて行うことができる。あるいは注射器に注射針を装着して培養液と共に癌組織由来細胞塊を吸引排出することを繰り返すことによっても行うことができる。本発明に好ましく用いられるのは、例えば1ml注射器と27Gの注射針であるが、限定はされない。
【0042】
ここで、本発明の癌組織由来細胞塊の培養の為の培地は、特に限定はされないが、好ましくは、動物細胞培養用培地が用いられる。特に好ましくは、幹細胞培養用の無血清培地が用いられる。このような無血清培地は、幹細胞の培養に用いられるものであればなんら限定はされない。無血清培地とは、無調製または未精製の血清を含まない培地を指し、精製された血液由来成分や動物組織由来成分(例えば、増殖因子)を添加して使用することができる。
【0043】
本発明の無血清培地は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製し得る。基礎培地としては、例えば、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、およびこれらの組合せが挙げられる。
【0044】
このような無血清培地に、血清代替物を添加して、本発明の癌組織由来細胞塊を培養することができる。血清代替物は、例えば、アルブミン、アミノ酸(例えば、非必須アミノ酸)、トランスフェリン、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノールまたは3’チオールグリセロール、あるいはこれらの均等物などを適宜含有するものであり得る。
【0045】
本発明の培養方法においては、市販の血清代替物を使用することもできる。このような市販の血清代替物としては、例えば、ノックアウト血清リプレースメント(KSR)、Chemically-defined Lipid concentrated脂肪酸濃縮液(Gibco社製)、グルタマックス(Gibco社製)が挙げられる。
【0046】
本発明の癌組織由来細胞塊を培養するための培地はまた、ビタミン、増殖因子、サイトカイン、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類等を含有し得る。
【0047】
特に、EGFとbFGFを含む無血清培地、例えばノックアウト血清リプレースメント(KSR、インビトロジェン社製)のような血清代替物とbFGFとを含む無血清培地等の任意の無血清培地を好ましく使用することができる。血清代替物あるいはEGF等の含有量は、培地全体の10〜30%w/vであることが好ましい。
【0048】
このような培地としては限定はされないが、市販品としては、STEMPROヒトES細胞用無血清培地(Gibco)が挙げられる。
【0049】
癌組織由来細胞塊の培養に用いられる培養器は、一般的に動物細胞の培養が可能なものであれば特に限定されないが、例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトルが挙げられる。
【0050】
培養器は、細胞非接着性で、細胞外マトリックス(ECM)等による細胞支持用基質を培地に共存させて三次元培養することが好ましい。細胞支持用基質は、癌組織由来細胞塊の接着を目的とするものであり得る。このような細胞支持用基質としては、細胞外マトリックスを用いたマトリゲル、例えば、コラーゲンゲルや、ゼラチン、ポリ−L−リジン、ポリ−D−リジン、ラミニン、フィブロネクチンが挙げられる。このような条件は、特に本発明の癌組織由来細胞塊を増殖させたい場合に好適に用いられる。
【0051】
その他の培養条件は、適宜設定でき、例えば、培養温度は、限定されるものではないが好ましくは、約30〜40℃である。最も好ましくは37℃である。CO
2濃度は、例えば約1〜10%、好ましくは約2〜5%である。
【0052】
本発明の癌組織由来細胞塊は、このような培地および培養条件で培養し得る。さらに癌組織由来細胞塊の培養には、その個別の性質によって、他の細胞との共培養が好ましい場合、あるいはホルモンのような追加の特殊な補充物の存在が必要な場合もあり得る。
【0053】
具体的には、共培養を、フィーダー細胞と共に行ってもよい。フィーダー細胞としては、胎児線維芽細胞等のストローマ細胞等を用いることができる。具体的には、限定はされないが、NIH3T3などが好ましい。
【0054】
あるいは、特定種類の乳癌、子宮癌、前立腺癌に対しては、ホルモンを存在させて培養することが好ましい。具体的には、乳癌に対するエストロゲン、子宮癌に対するプロジェステロン、前立腺癌に対するテストステロンなどであるが、これらに限定されず、各種ホルモンを添加し、培養条件を好都合に調整することができる。さらに、このようなホルモンの存在によって、癌組織由来細胞塊の培養後の挙動、例えば生死状態または増殖状態がどのように変化するかを調べることで、由来する患者の癌のホルモン依存性がわかり、抗ホルモン薬治療の有効性が予測できる可能性がある。
【0055】
本発明の癌組織由来細胞塊は、浮遊培養で培養することも可能である。浮遊培養では、培地中において、培養器に対して非接着性の条件下で癌組織由来細胞塊を培養する。このような浮遊培養としては、例えば、胚様体培養法(Kellerら, Curr. Opin. Cell Biol. 7, 862-869 (1995))、SFEB法(例、Watanabeら, Nature Neuroscience 8, 288-296 (2005);国際公開第2005/123902号参照)が挙げられる 。特に限定はされないが、例えばほぼ球形を有する、時によっては基底膜様物を有する安定した癌組織由来細胞塊の形成時や維持の場合に用いられ得る。
【0056】
本発明の癌組織由来細胞塊には、個体の癌組織由来細胞塊から分離処理した直後の物も含まれ、冷蔵、冷凍保存後の物も含まれ、さらにはそれらの培養物も含まれる。培養は、好ましくは3時間以上、より好ましくは、少なくとも10時間以上、さらに好ましくは、少なくとも24時間行われ、培養はそれ以上の期間行うことができる。培養物は、遅くとも36時間までに球形などの一定形状を示し得る。
【0057】
癌組織由来細胞塊を構成する癌細胞は、少なくとも3個以上、好ましくは8個以上、より好ましくは10個以上、さらに好ましくは20個以上、もっとも好ましくは50個以上である。本発明の癌組織由来細胞塊が、分離物である場合には、好ましくは1000個以下、より好ましくは、500個以下程度である。分離物を培養した後の培養物であれば、培養によってその数を増加させることが可能である。但し、培養物であっても好ましくは1万個以下、より好ましくは5000個以下である。
【0058】
本発明で「癌細胞」というときは、通常用いられる意味で使用され、生体内において、制限のない分裂・増殖とアポトーシスからの逸脱という、正常細胞で見られる秩序が乱れた細胞をいう。より詳細には、細胞増殖制御機能を失っているか極めて減弱している細胞を指し、典型的には、80%以上の高い頻度で無限増殖能力を獲得しており、その多くは浸潤転移能力も備えている事が多く、その結果ヒトをはじめとする、特には哺乳動物を、死に至らしめる悪性新生物と位置付けられる細胞であることを意味する。
【0059】
本発明では、由来する癌組織の種類は特に限定されず、哺乳類を始めとする動物に生じる、リンパ腫、芽腫、肉腫、脂肪肉腫、神経内分泌腫瘍、中皮腫、神経鞘腫、髄膜腫、腺腫、黒色腫、白血病、リンパ性悪性腫などであり得るが、特には哺乳類の上皮細胞に生じる癌腫であることが好ましい。このような上皮細胞に生じる癌腫には、非小細胞肺癌、肝細胞癌、胆道癌、食道癌、胃癌、結腸直腸癌、膵臓癌、子宮頚癌、卵巣癌、子宮内膜癌、膀胱癌、咽頭癌、乳癌、唾液腺癌、腎癌、前立腺癌、陰唇癌、肛門癌、陰茎癌、精巣癌、甲状腺癌、頭頸部癌などが含まれる。哺乳類をはじめとする動物に特に限定はないが、サルやヒトを含む霊長目に属する動物、マウス、リス、ラットなどのげっ歯目に属する動物、ウサギ目に属する動物、イヌ、ネコなどのネコ目に属する動物が例示される。
【0060】
そのうち、本発明では、特に大腸癌組織由来、卵巣癌組織由来、乳癌組織由来、肺癌組織由来、前立線癌組織由来、腎癌組織由来、膀胱癌組織由来、咽頭癌組織由来、または膵臓癌由来であることが特に好ましいが、限定はされない。
【0061】
大腸癌組織由来の癌組織由来細胞塊である場合には、含まれる癌細胞は、特に限定はされないが、CD133を発現することもある。
【0062】
生体内で発生した癌から得られた癌組織の分離処理には、限定はされないが、個体から得られた癌組織を、酵素処理することが含まれる。
【0063】
酵素処理は、コラゲナーゼ、トリプシン、パパイン、ヒアルロニダーゼ、C. histolyticum neutral protease、thermolysin、およびdispaseのうちの1種、またはこれらの2種以上の組合せによる処理であり得る。酵素処理条件は、生理学的に許容されるpH、例えば約6〜8、好ましくは約7.2〜7.6に緩衝された等張の塩溶液、例えばPBSやハンクスのバランス塩溶液中で、例えば約20〜40℃、好ましくは約25〜39℃で、結合組織を分解するために十分な時間、例えば約1〜180分間、好ましくは30〜150分間で、そのために十分な濃度、例えば約0.0001〜5%w/v、好ましくは約0.001%〜0.5% w/vであり得る。
【0064】
限定はされないが、この酵素処理の条件は、コラゲナーゼを含む混合酵素で処理することが含まれる。例えば、C. histolyticum neutral protease、thermolysin、およびdispaseからなる群より選択される1種以上のプロテアーゼ;およびコラゲナーゼI、コラゲナーゼII、およびコラゲナーゼIVからなる群より選択される1種以上のコラゲナーゼを含む混合酵素で処理することが含まれる。
【0065】
このような混合酵素には、限定はされないが、リベラーゼブレンザイム1(登録商標)などが含まれる。
【0066】
本発明の癌組織由来細胞塊は、あるいは、3個以上の癌細胞集合体を含み、略球形あるいは楕円球形を呈するものであり得る。
【0067】
限定はされないが、該癌細胞集合体の外周面に存在する基底膜様物を含む場合もある。
【0068】
ここで、特に限定はされないが、集合体を形成する癌細胞は、CD133、CD44、CD166、CD117、CD24、およびESAからなる群より選択される1種以上の表面抗原を細胞表面に有する場合が多い。CD133、CD44、CD166、CD117、CD24、およびESAは、一般的には、リンパ球等の白血球、線維芽細胞、上皮細胞、腫瘍細胞などの細胞に発現している表面抗原である。これらの表面抗原は、細胞-細胞間、細胞-マトリックス間接着としての機能の他、様々なシグナル伝達に関わるが、各種幹細胞の表面マーカーでもある。
【0069】
本発明において、細胞群が、CD133のような表面抗原を「発現する」というときには、細胞群中に存在する細胞の80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは実質的にすべてが表面抗原を示している状態を指す。
【0070】
本明細書において、「基底膜様物」とは、限定はされないが、好ましくは、コラーゲン、ラミニン、ニドゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカンなどのプロテオグリカン、フィブロネクチンなどの糖タンパク質のうち少なくともいずれか1種を含有する物質を指す。本発明では、ラミニンを含有する基底膜様物であることが好ましい。
【0071】
ラミニンは基底膜を構成する高分子糖タンパク質である。ラミニンの機能は、多岐に渡り、例えば、細胞接着、細胞間信号伝達、正常細胞および癌細胞の増殖などの細胞機能に関与している。ラミニンは、3つの異なるサブユニットのそれぞれがジスルフィド結合で結ばれた構造を有しており、それぞれのサブユニットの異なる種類によって、11種類が見出されている。
【0072】
これらのうち、ラミニン5は、通常、上皮細胞のみから産生され、上皮細胞の基底膜への接着や運動機能を促進する活性を有する成分として知られている。このラミニン5はα3鎖、β3鎖、γ2鎖のそれぞれ1本ずつが複合体を形成した構造を有し、特にγ2鎖はLN5固有と考えられており、他のLN分子種には含まれていない。
【0073】
本発明の癌組織由来細胞塊は、癌細胞の集合体の外周がこのような基底膜様物が形成する膜に全体として包まれた構成を有し得る。このような形態は、癌組織由来細胞塊の電子顕微鏡による観察あるいは基底膜構成要素の免疫染色、またはその両方を組み合わせる ことによって解析することができる。そして、癌細胞の集合体部分は、正常細胞を含まない純粋な癌細胞のみの集団である。
【0074】
ラミニンの存在は、例えば、ラミニンを認識する抗体、例えば、シグマ−アルドリッチ社のマウスラミニン由来ラビット抗体と癌組織由来細胞塊とを接触させ、抗体抗原反応を測定することによって検出することができる。
【0075】
また、ラミニンの種類までを特定する特異的な抗体を用いることも可能である。例えば、ラミニン5の存在は、例えば、特に上記の固有のγ2鎖あるいはその断片に反応性を有する抗体と癌組織由来細胞塊とを接触させ、抗体の反応を測定することによって、検出することができる。
【0076】
本発明の癌組織由来細胞塊においては、薄い膜状の基底膜様物が塊の大きさによって、数μm程度、好ましくは、40から120nm程形成されていることが好ましいが限定はされない。
【0077】
本発明の癌組織由来細胞塊のサイズは、限定はされず、粒径または体積平均粒径8μm〜10μm程度の不定形のものも含まれ、また、培養した後に大きく成長した1mm粒径以上のものも含まれる。好ましくは、直径が40μm〜1000μmであり、より好ましくは40μm〜250μm、さらに好ましくは、80μm〜200μmである。
【0078】
本発明の癌組織由来細胞塊では、特に棚状配列、シート状配列、重層配列および合胞状配列からなる群より選択される1以上の配列を有する場合が多いが、特に限定はされない。
【0079】
本発明の癌組織由来細胞塊は、典型的には、生体から摘出した癌組織の細片化物を酵素処理する工程;および酵素処理物のうち、3個以上の癌細胞を含む塊を選別回収する工程を含む方法によって調製され得る。
【0080】
さらに、限定はされないが、本発明の癌組織由来細胞塊は、このようにして回収した成分を3時間以上培養する工程を含む方法によって調製され得る。
【0081】
まず、生体から摘出した癌組織は、そのまま細片化することもでき、また、まず、細片化前に、動物細胞培養用培地で維持することができる。このような動物細胞培養用培地には、特に限定はされないが、ダルベッコMEM(DMEM F12など)、イーグルMEM 、RPMI、Ham‘s F12、アルファMEM、イスコフ改変ダルベッコなどが含まれる。この際に、細胞非接着性の培養器にて、浮遊培養することが好ましい。
【0082】
癌組織はまた、細片化に先立って洗浄することも好ましい。このような洗浄には、限定はされないが、酢酸緩衝液(酢酸 + 酢酸ナトリウム)、リン酸緩衝液(リン酸 + リン酸ナトリウム)、クエン酸緩衝液(クエン酸 + クエン酸ナトリウム) 、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水などの緩衝液等を用いることができる。本発明においては、特に好ましくは、HBSS中で組織の洗浄を行うことができる。洗浄の回数は、1回から3回が適度である。
【0083】
細片化は、洗浄後の組織を、ナイフ、はさみ、カッター(手動、自動)などで分割することによって行うことができる。細片化後のサイズや形は特に限定されず、ランダムに行い得るが、好ましくは、1mm〜5mm角、より好ましくは1mm〜2mm角の均一なサイズとする。
【0084】
次にこのようにして得られる細片化物は酵素処理に供される。このような酵素処理は、コラゲナーゼ、トリプシン、パパイン、ヒアルロニダーゼ、C. histolyticum neutral protease、thermolysin、およびdispaseのうちの1種、またはこれらの2種以上の組合せによる処理であり得る。酵素処理条件は、生理学的に許容されるpH、例えば約6〜8、好ましくは約7.2〜7.6に緩衝された等張の塩溶液、例えばPBSやハンクスのバランス塩溶液中で、例えば約20〜40℃、好ましくは約25〜39℃で、結合組織を分解するために十分な時間、例えば約1〜180分間、好ましくは30〜150分間で、そのために十分な濃度、例えば約0.0001〜5%w/v、好ましくは約0.001%〜0.5% w/vであり得る。
【0085】
限定はされないが、この酵素処理の条件は、例えば、コラゲナーゼを含む混合酵素で処理することであり得る。より好ましくは、C. histolyticum neutral protease、thermolysin、およびdispaseからなる群より選択される1種以上のプロテアーゼ;およびコラゲナーゼI、コラゲナーゼII、およびコラゲナーゼIVからなる群より選択される1種以上のコラゲナーゼを含む混合酵素で処理することが含まれる。
【0086】
このような混合酵素には、限定はされないが、リベラーゼブレンザイム1(登録商標)などが含まれる。
【0087】
次にこのようにして得られた酵素処理物のうち、3個以上の癌細胞を含む塊を選別回収することが好ましい。選別回収の方法は特に限定されず、サイズを振分ける当業者に公知のいずれの方法も使用することができる。
【0088】
サイズの振分け方法としては、簡便な方法としては、目視、位相差顕微鏡による分別、あるいは篩によるが、当業者に利用可能な粒子径による分別法であれば特に限定されない。篩を使う場合は、篩メッシュサイズ20μmを通過し、かつ500μmを通過しない成分を回収することが好ましい。より好ましくは篩メッシュサイズ40μmを通過し、かつ250μmを通過しない成分を回収する。
【0089】
ここで、選別の対象となる3個以上の癌細胞を含む塊は、本発明の癌組織由来細胞塊であり、一定範囲のサイズを有する。一定範囲のサイズとは、体積平均粒子径8μm〜10μm程度の小さなものも含まれるが、球形に近い場合は、直径20μm以上500μm以下、好ましくは30μm以上400μm以下、より好ましくは40μm以上250μm以下、楕円形状の場合には、長径20μm以上500μm以下、好ましくは30μm以上400μm以下、より好ましくは40μm以上250μm以下、不定形の場合には、体積平均粒子径20μm以上500μm以下、好ましくは30μm以上400μm以下、より好ましくは40μm以上250μm以下、である。体積平均粒子径の測定には、位相差顕微鏡(IX70;オリンパス社製)にCCDカメラを取り付けたものを用い、粒度分布及び粒子形状を評価することによって行うことができる。
【0090】
このようにして得られた選別回収成分である分離処理物あるいはその培養物のいずれもが、本発明の癌組織由来細胞塊である。培養物は、選別回収成分たる分離物を、わずかな時間に培地中に存在したものであってもよいし、例えば、少なくとも3時間以上、好ましくは10時間以上36時間まで、より好ましくは24時間〜36時間の期間培養することで、略球形あるいは略楕円球形の形状になったものでもよい。培養時間は、36時間を超えて、数日、あるいは10日以上、13日以上、または30日以上経過したものであってもよい。
【0091】
培養は、培地中で長期間そのまま行うことも可能であるが、好ましくは、培養途中で定期的に機械的分割を行うことで、実質的に無限に増殖能を保持させることもできる。
【0092】
本発明の癌組織由来細胞塊は、例えば、直径100マイクロメーターの癌組織由来細胞塊10個以下(細胞1000個以下に相当)でも、異種動物への移植における定着度が高い。従って、本発明の癌組織由来細胞塊は、マウスを始めとする癌モデル動物の簡便な作成に有用であり、より厳密な癌組織の検証、薬剤感受性の評価、あるいは放射線治療を始めとする治療態様の評価が可能となる。
【0093】
本発明の癌組織由来細胞塊は、冷凍保存することが可能であり、通常の保存状態においてその増殖能を保持することができる。
【0094】
本発明の癌細胞凝集塊は、癌組織由来細胞塊または個体から得られる癌組織を、単一細胞化した後に該単一細胞化物中の個々の細胞同士または完全には個々の細胞にまでは分離されなかったいくつかの細胞の集合同士、または個々の細胞と完全には個々の細胞にまでは分離されなかったいくつかの細胞とが、全体として細胞数3個以上に凝集することによって形成される凝集物またはその培養物であって、インビトロにおいて、増殖能を保持することができるようなものである。
【0095】
ここで、「癌組織由来細胞塊または個体から得られる癌組織を単一細胞化する」とは、癌組織由来細胞塊または得られた癌組織の少なくとも一部をインビトロにおいて単一細胞がある程度含まれるようにまで分離させる処理を施すことをいう。従って、典型的には、このような処理後に、個々の単一細胞にまで分離した細胞がいくらか存在し、個々にまでは分離されない状態のものが混在しており、このような場合であっても、本明細書でいう「単一細胞化する」に該当する。この時に混在する個々にまでは分離されない状態のものには、細胞数10個までの集合体、好ましくは細胞数2〜3個の集合体が含まれる。
【0096】
「細胞数3個以上に凝集」とは、生体内で発生した癌から得られた癌組織または本発明者らが見出した癌組織由来細胞塊を単一細胞化処理して得られた個々の細胞同士または個々にまでは分離されなかったいくつかの細胞の集合体同士、またはそれらの組合せ同士が、少なくとも3個あるいはそれ以上の複数の細胞を含むように集まった状態を指す。
【0097】
癌組織由来細胞塊または生体内で発生した癌から得られた癌組織を単一細胞化処理に供する場合は、限定はされないが、個体から得られた癌組織を、酵素処理することが含まれる。
【0098】
酵素処理は、典型的には、トリプシン、ディスパーゼ、および場合により、コラゲナーゼ、パパイン、ヒアルロニダーゼ、C. histolyticum neutral protease、thermolysin、およびdispaseのうちの1種、またはこれらの2種以上の組合せによる処理であり得る。酵素処理条件は、生理学的に許容されるpH、例えば約6〜8、好ましくは約7.2〜7.6に緩衝された等張の塩溶液、例えばPBSやハンクスのバランス塩溶液中で、例えば約20〜40℃、好ましくは約25〜39℃で、結合組織を分解するために十分な時間、例えば約1〜180分間、好ましくは30〜150分間で、そのために十分な濃度、例えば約0.0001〜5%w/v、好ましくは約0.001%〜0.5% w/vであり得る。
【0099】
限定はされないが、この酵素処理は、典型的には、トリプシンまたはディスパーゼ処理単独でもよい。
【0100】
単一細胞化処理の後には、個々に分離された細胞、および個々にまで完全に分離されない細胞も含まれる。
【0101】
このような細胞は、このまま凝集させてもよいが、例えば、細胞凝集を促進させる薬剤あるいは細胞死を抑制する薬剤を加えて処理することもできる。このような薬剤としては、ROCK阻害剤や、カスパーゼ阻害剤などの細胞死に関連する酵素の阻害剤が含まれる。
【0102】
ROCKとは、Rho-associated coiled-coilキナーゼ(ROCK:GenBankアクセッション番号:NM_005406)のことであり、Rho GTPaseの主たるエフェクター分子の1つで、多様な生理現象を制御していることが知られている(Rho結合キナーゼともいう)。ROCK阻害剤としては、例えば、Y27632、などが例示される。その他に、Fasudil(HA1077)、H−1152、Wf−536(これらはすべて和光純薬工業株式会社から入手できる)、及びそれらの誘導体、並びにROCKに対するアンチセンス核酸、RNA干渉誘導性核酸やこれらを含むベクターが挙げられる。
【0103】
トリプシン処理(例えば限定はされないが、0.25%トリプシン-EDTA、37℃5分間処理)を始めとする酵素処理によって単一細胞または10個以下の細胞の集合にまで分離した処理物を、凝集に先立って、96ウェル培養プレートに低密度(例えば500個/0.32cm
2、培地容量0.15 ml程度)で播種する。維持培養液中にただちに、あるいは数日培養後に、ROCK阻害剤を1〜100μM程度、好ましくは10μM程度の濃度添加することができる。
【0104】
このような凝集物をインビトロにおいて培養することができる。培養する時間は特に限定されず、わずかな時間でも培地中に存在させたものであればよい。このような培養物は、一定期間、好ましくは3時間以上培養することによって、略球形あるいは楕円球形を呈する場合が多い。ここでの培養物には、このような一定期間経過後の略球形あるいは楕円球形の培養物も、そこに至るまでの不定形の培養物も含まれる。さらに、このような略球形あるいは楕円球形の培養物をさらに分割して得られる不定形、さらなる培養による略球形物あるいは楕円球形物もここでいう培養物である。
【0105】
本発明の癌細胞凝集塊が、インビトロにおいて、「増殖能を保持することができる」とは、温度37℃、5%CO
2インキュベーターの細胞培養条件下で、少なくとも10日以上、好ましくは13日以上、さらに好ましくは30日以上の期間増殖能を保持することができることをいう。
【0106】
このような癌細胞凝集塊は、そのまま培養を続けることでも10日以上、好ましくは13日以上、さらに好ましくは30日以上の期間において増殖能を保持し得るが、さらに培養中に定期的に機械的分割を行うことで、またはさらに単一細胞化処理と凝集を行うことで、実質的に無期限に増殖能を保持し得る。
【0107】
ここで、本発明の癌細胞凝集塊の培養の為の培地は、癌組織由来細胞塊の培養の為の培地と同様である。
【0108】
本発明の癌細胞凝集塊は、このような培地および培養条件で培養し得る。さらに癌細胞凝集塊の培養には、その個別の性質によって、他の細胞との共培養が好ましい場合、あるいはホルモンのような追加の特殊な補充物の存在が必要な場合もあり得る。
【0109】
具体的には、共培養を、フィーダー細胞と共に行ってもよい。フィーダー細胞としては、胎児線維芽細胞等のストローマ細胞等を用いることができる。具体的には、限定はされないが、NIH3T3などが好ましい。
【0110】
あるいは、特定種類の乳癌、子宮癌、前立腺癌に対しては、癌組織由来細胞塊の場合と同様に、ホルモンを存在させて培養することが好ましい。具体的には、乳癌に対するエストロゲン、子宮癌に対するプロジェステロン、前立腺癌に対するテストステロンなどであるが、これらに限定されず、各種ホルモンを添加し、培養条件を好都合に調整することができる。さらに、このようなホルモンの存在によって、癌細胞凝集塊の培養後の挙動、例えば生死状態または増殖状態がどのように変化するかを調べることで、由来する患者の癌のホルモン依存性がわかり、抗ホルモン薬治療の有効性が予測できる可能性がある。
【0111】
本発明の癌細胞凝集塊はまた、癌組織由来細胞塊と同様に、浮遊培養で培養することも可能である。
【0112】
癌細胞凝集塊を構成する癌細胞は、少なくとも3個以上、好ましくは8個以上、より好ましくは10個以上、さらに好ましくは20個以上であり、その数において上限は特にはない。本発明の癌細胞凝集塊が、分離物である場合には、好ましくは1000個以下、より好ましくは、500個以下程度である。分離物を培養した後の培養物であれば、培養によってその数を増加させることが可能である。但し、培養物であっても好ましくは1万個以下、より好ましくは5000個以下である。
【0113】
本発明の癌細胞凝集塊のサイズは、限定はされず、粒径または体積平均粒径8μm〜10μm程度の不定形のものも含まれ、また、培養した後に大きく成長した1mm粒径以上のものも含まれる。好ましくは、直径が40μm〜1000μmであり、より好ましくは40μm〜250μm、さらに好ましくは、80μm〜200μmである。
【0114】
本発明の癌細胞凝集塊では、特に棚状配列、シート状配列、重層配列および合胞状配列からなる群より選択される1以上の配列を有する場合が多いが、特に限定はされない。
【0115】
本発明の癌細胞凝集塊は、典型的には、生体から摘出した癌組織を単一細胞化する工程;および該単一細胞化物中の細胞同士を細胞数3個以上に凝集させる工程を含む方法によって調製され得る。
【0116】
さらに、限定はされないが、本発明の癌細胞凝集塊は、凝集した成分を3時間以上培養する工程を含む方法によって調製され得る。
【0117】
まず、本発明の癌細胞凝集塊が、癌組織由来細胞塊から得られる場合には、そのまま酵素処理に供するが、生体から摘出した癌組織は、そのまま酵素処理に供することで単一細胞化することもできる一方で、酵素処理に先立って、細片化することが好ましい。細片化前に、動物細胞培養用培地で維持することができる。このような動物細胞培養用培地には、特に限定はされないが、ダルベッコMEM(DMEM F12など)、イーグルMEM 、RPMI、Ham‘s F12、アルファMEM、イスコフ改変ダルベッコなどが含まれる。この際に、細胞非接着性の培養器にて、浮遊培養することが好ましい。
【0118】
癌組織はまた、細片化に先立って洗浄することも好ましい。このような洗浄には、限定はされないが、酢酸緩衝液(酢酸 + 酢酸ナトリウム)、リン酸緩衝液(リン酸 + リン酸ナトリウム)、クエン酸緩衝液(クエン酸 + クエン酸ナトリウム) 、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水などの緩衝液等を用いることができる。本発明においては、特に好ましくは、HBSS中で組織の洗浄を行うことができる。洗浄の回数は、1回から3回が適度である。
【0119】
細片化は、洗浄後の組織を、ナイフ、はさみ、カッター(手動、自動)などで分割することによって行うことができる。細片化後のサイズや形は特に限定されず、ランダムに行い得るが、好ましくは、1mm〜5mm角、より好ましくは1mm〜2mm角の均一なサイズとする。
【0120】
次にこのようにして得られる細片化物は酵素処理に供される。このような酵素処理は、前述の通り、主にトリプシン処理であり得る。酵素処理条件は、20℃〜45℃、数分から数時間であり得る。
【0121】
次にこのようにして得られた単一細胞化物中の細胞同士が細胞数3個以上に凝集するようにする。凝集に先立って、好ましくは、単一細胞化物に速やかにROCK阻害剤を添加することができる。
【0122】
ここで、凝集により得られる3個以上の癌細胞を含む凝集物は、本発明の癌細胞凝集塊であり、一定範囲のサイズを有する。一定範囲のサイズとは、体積平均粒子径8μm〜10μm程度の小さなものも含まれるが、球形に近い場合は、直径20μm以上500μm以下、好ましくは30μm以上400μm以下、より好ましくは40μm以上250μm以下、楕円形状の場合には、長径20μm以上500μm以下、好ましくは30μm以上400μm以下、より好ましくは40μm以上250μm以下、不定形の場合には、体積平均粒子径20μm以上500μm以下、好ましくは30μm以上400μm以下、より好ましくは40μm以上250μm以下、である。体積平均粒子径の測定には、位相差顕微鏡(IX70;オリンパス社製)にCCDカメラを取り付けたものを用い、粒度分布及び粒子形状を評価することによって行うことができる。
【0123】
このようにして得られた凝集物またはその培養物のいずれもが、本発明の癌細胞凝集塊である。培養物は、選別回収成分たる分離物を、わずかな時間に培地中に存在したものであってもよいし、例えば、少なくとも3時間以上、好ましくは10時間以上36時間まで、より好ましくは24時間〜36時間の期間培養することで、略球形あるいは略楕円球形の形状になったものでもよい。培養時間は、36時間を超えて、数日、あるいは10日以上、13日以上、または30日以上経過したものであってもよい。
【0124】
培養は、培地中で長期間そのまま行うことも可能であるが、好ましくは、培養途中で定期的に機械的分割を行うことで、実質的に無限に増殖能を保持させることもできる。
【0125】
さらに、本発明の癌細胞凝集塊は、例えば、直径100マイクロメーターの癌細胞凝集塊10個以下(細胞1000個以下に相当)でも、異種動物への移植における定着度が高い。従って、本発明の癌細胞凝集塊は、マウスを始めとする癌モデル動物の簡便な作成に有用であり、より厳密な癌組織の検証、薬剤感受性の評価、あるいは放射線治療を始めとする治療態様の評価が可能となる。
【0126】
本発明の癌細胞凝集塊は、冷凍保存することが可能であり、通常の保存状態においてその増殖能を保持することができる。
【0127】
このようにして得られる本発明の癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊は、インビトロにおいて、生体内の癌組織と同様の挙動を示し、安定的に培養することができ、しかも増殖能を保持する。
【0128】
従って、例えば得られた癌組織由来の腫瘍が感受性を有する既存薬剤の種類の特定、あるいは放射線への感受性の有無を、患者毎に個別に確認するのに有用である。薬剤あるいは放射線感受性は、公知のあらゆる方法を使用することができ、限定はされない。
【0129】
さらに、このような癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊を培養し、そして、培養された癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊の遺伝子を評価することで、もし遺伝子と薬剤または放射線との関係が既知である場合には、薬剤感受性を薬剤投与の前の遺伝子検査ののみで予め予測すること、あるいは放射線感受性を予め予測することなどが可能である。本願発明の癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊あるいはその培養方法を用いることで、微量な検体から、非常に効率よく、予測を行うことが可能となり、患者の負担軽減、操作の容易化が可能となる。さらに、このような遺伝子と薬剤または放射線感受性との未知の関係を解明することも可能となる。すなわち、分子標的薬が抗腫瘍薬として臨床応用されているが、副作用および医療経済的な観点から感受性を事前に検定し、薬剤が有効な患者の選別を行う必要性が高まっているが、分子標的薬は標的分子やその細胞内シグナルが明らかになっているので、分子生物学的に標的遺伝子の変異を検索することによって薬剤の有効性を判定できる例がある。
【0130】
このような遺伝子は特に限定されず、広く様々な、癌特有の遺伝子であってもよく、また、ヒトを含む動物の体質あるいは代謝を反映するものであってもよい。特に、薬剤との関係がわかっているものとして、KRAS遺伝子またはBRAF遺伝子が代表的に挙げられる。このうち、がん遺伝子であるKRASあるいはBRAFの突然変異は、上皮細胞成長因子受容体(EGFR)に対する抗体医薬品であるセツキシマブの大腸がんに関する効果の予測に利用できる可能性が明らかにされている。突然変異がある患者では、セツキシマブの効果が不十分になる。しかしながら、限られた量の生検材料から判定を行わなければならない手術適応のない症例などでは技術的な限界がある。特に癌細胞成分の少ない癌組織の場合、異常の検出は非常に困難である。本発明の培養法の特徴は純化した癌細胞塊が調製できること、さらにそれを拡大培養できることである。微量な検体を培養することにより、癌細胞を純化・増幅することによってKRASまたはBRAFなどの遺伝子解析を正確に行うことが可能となる。あるいは、UGT1A1遺伝子多型のような多型の検出であってもよい。この遺伝子も、多型により、抗癌剤に対する感受性が低いか少ないことが知られており、予めそのような情報を得ることで、副作用のみを誘発するような薬剤の投与を避けることができる。このような評価は、例えば、遺伝子の変異の有無を検知することであり得る。ここで、変異は、塩基の変更の他、欠損などあらゆる多様性を含む。遺伝子の変異の検知は、遺伝子に含まれる塩基を直接シークエンスすること、制限酵素切断部位を評価すること、など、公知のいずれの方法でも行い得る。
【0131】
前記遺伝子を評価する工程は、該遺伝子発現量を検知することであってもよい。遺伝子発現量の測定は、その遺伝子の転写産物であるmRNAの発現もしくは発現レベル、または同様に当該遺伝子の翻訳産物であるタンパク質またはタンパク質の断片の存在もしくは存在量を検出することなどで行われ得る。遺伝子の転写産物は、ノーザンブロット法、RT−PCR法、insitu ハイブリダイゼーション法、DNAマイクロアレイなどの、特定遺伝子の発現を特異的に検出する公知の方法に従って検出もしくは測定することができる。
【0132】
さらに、遺伝子評価の方法としては、低酸素状態および通常の酸素状態で培養を行い、低酸素状態と通常の酸素状態下での培養における遺伝子発現量の比較を行うことでなされる場合もある。このような評価方法に適した遺伝子としては、限定はされないが、VEGF遺伝子などが挙げられる。VEGF遺伝子から得られる情報は、血管新生阻害薬の大腸癌の治療薬への臨床応用に関連する。すなわち、例えば、ベバシズマブは、血管内皮増殖因子(VEGF:vascular endothelial growth factor)に対するヒト化モノクローナル抗体である。VEGFは、血管内皮細胞の細胞分裂を促進し、種々の癌細胞で発現が亢進している。VEGFが血管新生を促すことで栄養や酸素の供給を高め、癌細胞の増殖や転移に関与しているものと考えられている。ベバシズマブは、VEGFと特異的に結合し、その生物活性を阻害することで抗癌作用を示す。現在のところ、血管新生阻害薬の薬剤感受性を予測する有効な試験は存在しない。腫瘍のVEGF産生能を評価することは重要であると考えられるが、これまでの研究ではVEGFの病理組織学的な解析は治療効果を反映しない。腫瘍の内部環境は極めて不均一であり、血管新生が活発に行われている場を同定することは困難であることから、腫瘍全体としてのVEGF産生を評価することは必ずしも感受性予測につながらない可能性がある。癌組織は低酸素であることが知られており、低酸素は最も強力なVEGF誘導因子である。本発明において、培養条件を変化させることにより、癌細胞の「潜在能力」を評価することができる。
【0133】
癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊は、保存が可能であるが、冷凍による保存方法が好ましく用いられる。その冷凍保存方法としては、特に、癌組織由来細胞塊を、単一細胞化処理し、その後、凝集を促進させたり、細胞死を抑制する方法が好ましい。このような方法により、良好な保存状態が保たれ得る。ここで、単一細胞化の処理を行ってもすべての細胞が単一の細胞となっておらず、個々にまで完全に分離されない細胞が含まれる。単一の細胞であっても、凝集を起こさせたり、細胞死を抑止する薬剤を加えることで単細胞化した細胞も回収し、より良好な保存状態が保たれる。ここで、単一細胞化処理においては、トリプシン、ディスパーゼ、および場合により、コラゲナーゼ、パパイン、ヒアルロニダーゼ、C. histolyticum neutral protease、thermolysin、およびdispaseからなる群より選択される1種、またはこれらの2種以上の組合せによる処理である。ここで、細胞凝集を促進させたり細胞死を抑制する薬剤は、ROCK阻害剤や、カスパーゼ阻害剤などの細胞死に関連する酵素の阻害剤が含まれる。このような方法により、単細胞化した細胞も回収し、より良好な保存状態が保たれる。さらに、ガラス化法によってもよい。
【0134】
癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊が保存可能であるということは、癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊が有する遺伝子情報と関連付けられた状態で保存し、その情報を適宜必要に応じて利用することが可能になることでもある。ここでいう遺伝子情報とは、遺伝子評価で解明された遺伝子と同様に、変異や発現量の差異の情報であり得る。
【0135】
さらに、癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊は、由来する患者の臨床情報と関連付けられた状態で保存し、その情報を適宜必要に応じて利用することが可能である。由来する患者の臨床情報とは、患者の全身状態、局所の状態、薬剤に対する感受性、再発の有無、生存状況、などすべての臨床にかかわる情報を指す。
【0136】
さらに、癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊は、該癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊の培養条件情報と関連付けられた状態で保存することも可能である。培養条件情報とは、ホルモン依存性の有無、フィーダー細胞の必要性などであるがこれに限定されず、培養中に観察されるあらゆる情報であり得る。このような情報は、インビトロで構築されたものであっても、正確に生体内の状態を反映している可能性が高く、臨床への応用が可能である。
【0137】
本発明において、癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊の増殖率あるいは生存率を測定する方法には、例えば、生存細胞数を対照例とともに目視観察すること、CCDカメラ撮影後に画像解析すること、あるいはそれぞれの細胞に含まれる蛋白質結合性色素(例えば、スルホローダミンB)による染色により蛋白量として比色測定すること、SD(Succinyl dehidrogenase)活性、MTT活性あるいはMTS活性を測定することなどが含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明の癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊は、インビトロにおいて、幅広い用途に使用できる。そして、培養によって増殖させることができ、微量検体からのインビトロでの癌細胞増殖を可能にする。さらに、本発明の癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊は、保存、特に冷凍保存が可能である。さらに、遺伝子評価や培養条件評価などを行うことも可能であり、評価結果の情報に基づき、個人に合う的確な治療方法を見出すことに役立つ。すなわち、現在一般的には試行錯誤的あるいはカクテル療法的に用いられる制癌剤や放射線治療について飛躍的な改善をもたらすことができる。そのような療法を行う前に、患者それぞれから得られる癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊で、あらかじめ関連付けられる情報を収集し、効果のある治療方法のみを患者に適用することが可能になる。さらに、本発明の癌組織由来細胞塊または癌細胞凝集塊は、基となる細胞が注射針で採取したり、培養できる大きさでもあり得るために、手術を行う前の患者から得ることも可能であり、患者への負担が少ない状態で制癌剤や放射線治療の効果の予測を行うこともできる。
【実施例】
【0139】
以下に、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、各例中の部および%はいずれも重量基準である。以下に特に規定のない培養条件は全て37℃5%CO
2インキュベーター条件下である。遠心分離の条件は特に言及しない限り、4℃、1000rpm、5分である。
【0140】
(実施例1)
(ヒト大腸癌マウス移植腫瘍からの癌組織由来細胞塊の調製)
ヒト大腸癌マウス移植腫瘍を、以下のように異種移植法にて作製した。
【0141】
まず、無菌操作下でヒト腫瘍(大腸癌)の手術摘出標本を約2mm立方に細切する。次に重症免疫不全マウス(ヌードマウス、好ましくはNOD/SCIDマウス)の背部に約5mmの小切開を加えて皮下組織を剥離する。用意した腫瘍片を皮下に挿入した後、皮膚縫合クリップで閉創する。一部の移植腫瘍は約14日後から3ヶ月後に皮下腫瘍として観察される。
【0142】
得られた大腸癌マウスをSPF(specific pathogen free)飼育条件で飼育し、腫瘍が1cm大になった時点で、腫瘍の摘出を行い、20mlのDMEM(Gibco;11965-092)+1% Pen Strep(Gibco;15140-022)(ともに最終濃度として100units/ml ペニシリン, 100μg/ml)を入れた50ml遠心分離用チューブ(IWAKI;2345-050)に回収した。
【0143】
次に20ml HBSS(Gibco;14025-092)を入れて、転倒混和により腫瘍を洗浄した。次に新しいHBSSを20ml入れ、この操作を2回繰返し、腫瘍組織を10cm組織培養用ディッシュ(組織培養 ディッシュ)(IWAKI;3020-100)に移した。この培養ディッシュ上で、手術用ナイフを用いて壊死組織を除去した。
【0144】
壊死組織を除去した腫瘍片を、HBSS 30mlを入れた新しい10cm ディッシュへ移した。次に、手術用ナイフを用いて、腫瘍片を、約2mm角に細片化した。
【0145】
HBSSごと腫瘍細片を新しい50ml 遠心分離用チューブへ移した後、遠心分離を行い、上清を捨て、20ml HBSSにて、転倒混和により洗浄した。
【0146】
遠心分離及び洗浄を繰り返した。その後、20mlのDMEM+1% Pen Strep+0.28U/ml (最終濃度) Blendzyme 1 (Roche; 11988417001) を入れて混和した。これを、100mlの三角フラスコへ移し、37°C恒温槽内で、スターラーを低速で回転しながら2時間、リベラーゼブレンザイム1(ロッシュダイアグノスティックス社製)で処理した。
【0147】
次に、酵素処理物を、50ml 遠心分離用チューブに回収し、遠心分離し、上清を捨て、20ml HBSS を入れて混和した。ステンレスメッシュ(500μm)に通し、フィルターを通過した成分を50ml 遠心分離用チューブに回収し、さらに、遠心分離操作を行った。上清を捨て、1mg/ml DNaseI 溶液 (Roche; 1284932) (10mg/mlストック100μl+PBS 900μl)を入れて混和し、4°Cにて 5分静置し、さらに20mlHBSSを加え入れて混和した後、遠心分離を行い、上清を捨てた。20ml HBSSと混和した後、500−250−100μmと段階的に篩にかけ、次に40μmセルストレーナー(BD; 352340)に通した。HBSS 30mlを入れた10cm 組織培養用ディッシュ(組織培養ディッシュ)にセルストレーナーを浸して軽くゆすり、単細胞、40μm 以下の小細胞塊、およびくずを除去した。HBSS 30mlを入れた別の10cm 組織培養用ディッシュ(組織培養 ディッシュ)にセルストレーナーを移し、セルストレーナーに捕捉された細胞塊をピペッティングにより回収した。
【0148】
さらに、上記と同様の遠心分離操作を数回行って、得られた成分に、4ml StemPro hESC SFM (Gibco;A10007-01) + 8ng/ml bFGF (Invitrogen;13256-029) + 0.1mM 2-メルカプトエタノール(Wako;137-06862) + 1% PenStrep + 25μg/ml Amphotericin B (Wako;541-01961) を入れて混和し、6cm non-treated ディッシュ (EIKEN CHEMICAL;AG2000)に移した。
【0149】
これを、37°Cにて、 5%CO
2 インキュベーター(サンヨー社製MCO−17AIC)で36時間培養した。
【0150】
この結果、
図1に示すように、時間の経過と共に、不定形から整った球形へ変化し、少なくとも3〜6時間後には略球形であり、24時間後には完全に整った球形状の癌組織由来細胞塊が得られた。
【0151】
(実施例2)
(ヒト大腸癌手術検体からの癌組織由来細胞塊の調製)
大腸癌手術検体を用いた以外は、実施例1と同様にして癌組織由来細胞塊を取得した。この結果、
図7に示す通り、少なくとも12時間後には
図1と同様のほぼ球形状の癌組織由来細胞塊が得られた。
【0152】
(実施例3)
(ヒト卵巣癌手術検体からの癌組織由来細胞塊の調製)
卵巣癌手術検体を用いた以外は、実施例2と同様にして癌組織由来細胞塊を取得した。この結果、
図7に示す通り、少なくとも12時間後には
図1と同様のほぼ球形状の癌組織由来細胞塊が得られた。
【0153】
(実施例4)
(ヒトすい臓癌手術検体からの癌組織由来細胞塊の調製)
すい臓癌手術検体を用いた以外は、実施例2と同様にして癌組織由来細胞塊を取得した。この結果、
図7に示す通り、少なくとも12時間後には
図1と同様のほぼ球形状の癌組織由来細胞塊が得られた。
【0154】
(実施例5)
(ヒト小細胞癌手術検体からの癌組織由来細胞塊の調製)
肺癌の一種である小細胞癌手術検体を用いた以外は、実施例2と同様にして癌組織由来細胞塊を取得した。この結果、
図7に示す通り、少なくとも12時間後には
図1と同様のほぼ球形状の癌組織由来細胞塊が得られた。
【0155】
(実施例6)
(ヒト腎癌手術検体からの癌組織由来細胞塊の調製)
腎癌手術検体を用いた以外は、実施例2と同様にして癌組織由来細胞塊を取得した。この結果、
図7に示す通り、少なくとも12時間後には
図1と同様のほぼ球形状の癌組織由来細胞塊が得られた。
【0156】
(実施例7)
(ヒト膀胱癌手術検体からの癌組織由来細胞塊の調製)
膀胱癌手術検体を用いた以外は、実施例2と同様にして癌組織由来細胞塊を取得した。この結果、
図7に示す通り、少なくとも12時間後には
図1と同様のほぼ球形状の癌組織由来細胞塊が得られた。
【0157】
(実施例8)
(ヒト乳癌手術検体からの癌組織由来細胞塊の調製)
乳癌手術検体を用いた以外は、実施例2と同様にして癌組織由来細胞塊を取得した。この結果、
図7に示す通り、少なくとも12時間後には
図1と同様のほぼ球形状の癌組織由来細胞塊が得られた。
【0158】
(実施例9)
(ヒト前立腺癌手術検体からの癌組織由来細胞塊の調製)
前立腺癌手術検体を用いた以外は、実施例2と同様にして組織由来細胞塊を取得した。培養培地に、10
-8モル/L濃度のジヒドロテストステロン(DHT)を添加し、実施例1と同様に培養した。この結果、
図7に示す通り、少なくとも12時間後には
図1と同様のほぼ球形状の癌組織由来細胞塊が得られた。
【0159】
(実施例10)
(ヒト咽頭癌手術検体からの癌組織由来細胞塊の調製)
咽頭癌手術検体を用いた以外は、実施例2と同様にして癌組織由来細胞塊を取得した。この結果、
図7に示す通り、少なくとも12時間後には
図1と同様のほぼ球形状の癌組織由来細胞塊が得られた。
【0160】
(実施例11)
(乳癌由来癌組織由来細胞塊のホルモン感受性試験)
実施例8と同じ培地条件で、エストラジオールの有無で、複数の患者から得られた乳癌組織由来細胞塊の状態がどのように異なるかを調べた。その結果、
図8に示す通り、 エストラジオールの添加で増殖が促進する症例と、エストラジオールに反応しない症例とがあることがわかった。由来する患者のホルモン療法を行う際の感受性試験として応用できることがわかった。
【0161】
(実施例12)
(マウス膵島腫瘍からの癌組織由来細胞塊の調製)
RipTagはラットインスリンプロモーターの支配下にSV40-T antigenを強制発現させたトランスジェニックマウスで、膵島に腫瘍が発生する。RipTagマウスの膵島腫瘍を用いた以外は、実施例2と同様にして癌組織由来細胞塊を取得した。この結果、少なくとも12時間後には
図1と同様のほぼ球形状の癌組織由来細胞塊が得られた(
図9)。
【0162】
(実施例13)
実施例2で得られ、
図7に示す培養中の癌組織由来細胞塊を培養後24時間で、培地と共に5ml取り出し、1000rpm、4℃にて遠心分離し、上清を捨てた。回収した癌組織由来細胞塊をセルバンカー(BLC-1、三菱化学メディスン社製)に懸濁し、さらに、10μMのY27632(和光純薬工業社製)を加え、冷凍保存チューブ(Cryogenic vials 2.0 ml、Nalge Nunc社製)に移して、−80℃ディープフリーザーで保存した。
【0163】
保存後7日間経過後、37℃のウォーターバスで短時間復温した。これをPBSに懸濁し、さらに1000rpm、4℃にて遠心分離し、上清を捨てた。得られた沈殿物をStemPro(インビトロ社製)に懸濁して、培養した。
図10に示すように、融解後24時間の細胞の状態は良好であった。
【0164】
さらに、得られた癌組織由来細胞塊の生存を、約1000個の細胞を含む塊としてNOD−SCIDマウスに移植することで確認した。
【0165】
(実施例14)
(癌組織由来細胞塊からの癌細胞凝集塊の調製)
実施例2と同様の方法で得られた癌組織由来細胞塊を、用いて以下の処理を行った。まず、24 ウェルプレート(未処理のディッシュ)中央にコラーゲンゲル(Cell Matrix type I-A : 5x DMEM : ゲル再構成用緩衝液 = 7 : 2 : 1) 50μL / wellを敷いた。37℃、30分静置してコラーゲンゲルを固化した。浮遊培養の癌組織由来細胞塊を(ウエルあたり100個)、1.5 mLチューブに回収する。これを5秒程度遠心分離し、上清を除去した。癌組織由来細胞塊を、コラゲナーゼゲル(ウエルあたり30μL)で懸濁し、予め固化したゲルの上に30μLずつ乗せた。37℃、30分静置して固化させ、 StemPro(EGF 50 ng/mL) 600μL /ウェルずつ入れた。2〜3日に一度培地を交換しながら、10日間培養した。
次に、培地を、1 mL / wellのDMEM(Gibco; 11965-092、コラゲナーゼIV 200 mg/mL含む)に交換し、37℃、5時間程度培養した。
培養後、1.5 mLエッペンチューブに移し、遠心分離(約5秒)し、上清を除去して、1 mLのPBSを加えて懸濁し、遠心分離(チビタン、約5秒)後上清除去を2回繰り返した。Trypsin / EDTA (0.05%)を1 mL加えて懸濁し、37℃で8分静置した。数回懸濁して、癌組織由来細胞塊様の大きな塊がなくなったことを確認した。これを、15 mLチューブに移し、2 mLのDMEM(Gibco; 11965-092)を加えて懸濁した。
次に、懸濁液を、遠心分離(1000 rpm、5分)し、上清を除去した。2 mL のStemPro(EGF 50 ng/mL、Y-27632 10μM)で懸濁し、φ35mm non-treated dish (Iwaki: 1000-035)に移した。これを、37℃で一晩培養した。
12時間経過後、直径40μm程度の癌組織由来細胞塊形成を確認した。培地をStemPro(EGF 50 ng/mL)に交換した。
【0166】
この結果、
図11に示すように、4日後には完全に整った球形状の癌細胞凝集塊が得られた。
【0167】
(実施例15)
(ヒト大腸癌手術検体からの癌細胞凝集塊の調製)
大腸癌手術検体を用いた以外は、実施例14と同様にして癌細胞凝集塊を取得した。この結果、
図12に示す通り、少なくとも12時間後には
図1と同様のほぼ球形状の癌細胞凝集塊が得られた。
【0168】
(実施例16)
実施例2と同様の方法で得られた癌組織由来細胞塊の細胞保存を行った。癌組織由来細胞塊を実施例14と同様の方法で、トリプシン処理して単一細胞化処理を行った。凍結保存液はセルバンカー1(十慈フィールド)にY-27632を添加したものを用いた。
【0169】
単細胞化して10日間凍結保存したものを、その後37℃のウォーターバスで短時間復温した。これをPBSに懸濁し、さらに1000rpm、4℃にて遠心分離し、上清を捨てた。得られた沈殿物をStemPro(インビトロ社製)に懸濁して、培養した。
図13に示すように、融解後24時間の細胞の状態は、良好で、融解後に癌組織由来細胞塊を再形成した。
【0170】
(比較例1)
ヒト大腸癌手術検体を用いて、文献記載の方法(Todaro Mら(2007)Colon cancer stem cells dictate tumor growth and resist cell death by production of interleukin-4. Cell Stem Cell 1:389-402)に従い単細胞にまで処理した試料を調製した。しかしながら、単細胞処理して選別したCD133陽性細胞は、インビトロでの増殖が見出せなかった。
【0171】
実施例等における評価項目は下記のようにして測定を行った。
【0172】
<表面抗原の同定>
【0173】
実施例1で得られた癌組織由来細胞塊をトリプシン・EDTAを用いて単細胞に分散させた。これらの細胞を蛍光で標識した表面抗原特異的抗体と反応させた後、フローサイトメトリー法により解析した。この結果、
図2に示すように、表面抗原を均一に同時に発現する細胞の存在が認められた。
【0174】
<基底膜様物の確認>
実施例1で得られた癌組織由来細胞塊を温度37℃、5%CO
2インキュベーターの培養条件下で、STEMPROヒトES細胞用無血清培地(Gibco)1ccで3日間培養を行った。これをホルマリン固定後パラフィン包埋し、薄切して抗ラミニン抗体染色(シグマ−アルドリッチ社製、マウスラミニン由来ラビット抗体)を、製造元の指示書に従って行ったところ、癌組織由来細胞塊の外周および、外周に近い細胞の細胞質内にラミニンの抗原性が観察された。これによって、本発明の癌組織由来細胞塊は、癌細胞の集合体の周辺をラミニンが取り囲んでいることが判明した。一方、手術検体処理後24時間ではラミニンの発現は確認できなかった。
【0175】
<低酸素の検知>
ピモニダゾールを用いた低酸素の検知の例
ニトロイミダゾール系化合物ピモニダゾールは酸素非存在下では蛋白や核酸とAdductを形成する特性を持つ。低酸素下でピモニダゾール処理された組織の低酸素領域は、ピモニダゾールを特異的に認識する抗体を用いて認識することができる。癌組織では血管から約100マイクロメーター離れると低酸素領域が出現するが、実施例1で得られた癌組織由来細胞塊でも外縁より約100マイクロメーターを境にして内部は低酸素領域で、広範な細胞死が観察された。
【0176】
<インビトロでの増殖能の評価>
インビトロにおける癌組織由来細胞塊の増殖能は、以下のようにして検証した。実施例1で得られた癌組織由来細胞塊をコラーゲンゲル(CellMatrix typeIA(Nitta Gelatin):5x DMEM (Gibco;12100-038):ゲル再構成用緩衝液(50mM NaOH, 260mM NaHCO3, 200mM HEPES)=7:2:1)に×10個ずつ包埋し、温度37℃、5%CO
2インキュベーターの培養条件下で、STEMPROヒトES細胞用無血清培地(Gibco)1ccで培養を行った。定期的に細胞の状態を観察し、CCDカメラを装着した位相差顕微鏡(倍率40倍)で大きさを測定した。その結果、
図3に示すように、機械的分割なしに、少なくとも13日間増殖能を保持することができた。さらに、13日目に機械的分割を行ったところ、さらに少なくとも13日間増殖能を保持していることが確認された。なお、機械的分割は、直径500マイクロメーターの癌組織由来細胞塊を眼科尖刀で4分割することで行った。
【0177】
<細胞数の確認>
実施例1と同様の方法で、100から250μmの癌組織由来細胞塊をトリプシン0. 25%、EDTA2.6mMで3分間処理し、約30回ピペッティングで機械的に分解した。これを96ウェル培養プレート1ウェルに1個の割合で細胞が入るように希釈して分注した。単細胞化されていない細胞塊については構成する細胞数をカウントして記録した。その後培養(同上の条件)をおこない、各ウェルの細胞数の増加を記録し、30日間培養観察をおこなった。その結果、3個の細胞があれば、細胞塊にまで成長できるものもあることが確認された。
【0178】
<薬剤感受性試験>
DNA合成に必要な代謝過程であるチミジル酸合成酵素と結合しDNA合成を阻害することが知られている5−FUを用いて、実施例2の試料による薬剤感受性試験を行った。試験は、癌組織由来細胞塊をコラーゲンゲル(CellMatrix typeIA(Nitta Gelatin):5x DMEM (Gibco;12100-038):ゲル再構成用緩衝液(50mM NaOH, 260mM NaHCO3, 200mM HEPES)=7:2:1)に×10個ずつ包埋し、温度37℃、5%CO
2インキュベーターの培養条件下で、STEMPROヒトES細胞用無血清培地(Gibco)1ccで培養を行った。さらに5−FUを0.01μg/ml、0.1μg/ml、1μg/ml、10μg/ml、100μg/mlの濃度で適用し、それぞれ培養0日目(上)と8日目(下)の状態を比較評価した。その結果を、
図4に示す(左から右へ、濃度の低い方より高い方へ)。癌組織由来細胞塊の面積に関する増大率について、薬剤非適用培養での面積に関する増大率を1として相対的に表記した。
図4において、5−FUの濃度依存的に、培養8日目における癌細胞増殖が抑制されており、本発明の癌組織由来細胞塊が、薬剤感受性試験で有用であることが実際に証明された。
【0179】
<異種動物への移植試験>
実施例2で得られた本発明の3日間培養した直径約100マイクロメーターの癌組織由来細胞塊 ×10個をMatrigel(BD社)に懸濁して、NOD−SCIDマウスの背部皮下に投与移植した。腫瘍形成の評価は、経時的に腫瘍のサイズを計測することにより行なった。その結果、本発明の実施例2の癌組織由来細胞塊を移植したマウス個体には顕著な腫瘍形成が認められ、本発明の癌組織由来細胞塊が高い腫瘍形成能を有することが確認された。この組織を解析すると、マウスに移植して形成された腫瘍と、生体内に存在していた腫瘍とで類似した組織型が得られていることがわかった(
図5)。
【0180】
<放射線照射試験>
実施例2で得られた本発明の使用した直径約100マイクロメーターの癌組織由来細胞塊をコラーゲンゲル(CellMatrix typeIA(Nitta Gelatin):5x DMEM (Gibco;12100-038):ゲル再構成用緩衝液(50mM NaOH, 260mM NaHCO3, 200mM HEPES)=7:2:1)に包埋し、温度37℃、5%CO
2インキュベーターの培養条件下で、STEMPROヒトES細胞用無血清培地(Gibco)1ccに×10個ずつ接種し、培養を行った。これにコバルトの放射性同位体を線源とするγ線を照射して、塊の状況を確認した。その結果を、
図6に示す。
図6において、照射線量依依存的に、培養8日目までにおける癌細胞増殖が抑制されており、本発明の癌組織由来細胞塊が、放射線照射試験で有用であることが実際に証明された。
【0181】
<薬剤感受性試験>
腫瘍細胞のDNAの塩基対間に挿入し、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、トポイソメラーゼII反応を阻害し、DNA、RNA双方の生合成を抑制することによって抗腫瘍効果を発揮することが知られているドキソルビシンを用いて、実施例12の試料による薬剤感受性試験を行った。試験は、癌細胞凝集塊をコラーゲンゲル(CellMatrix typeIA(Nitta Gelatin):5x DMEM (Gibco;12100-038):ゲル再構成用緩衝液(50mM NaOH, 260mM NaHCO3, 200mM HEPES)=7:2:1)に×10個ずつ包埋し、温度37℃、5%CO
2インキュベーターの培養条件下で、STEMPROヒトES細胞用無血清培地(Gibco)1ccで培養を行った。さらにドキソルビシンを0.1μM、1μM、10μMの濃度で適用し、それぞれ培養0日目と 日目の状態を比較評価した。その結果を、
図14に示す。癌細胞凝集塊の面積に関する増大率について、薬剤非適用培養での面積に関する増大率を1として相対的に表記した。
図14において、ドキソルビシンの濃度依存的に、培養8日目における癌細胞増殖が抑制されており、本発明の癌細胞凝集塊が、薬剤感受性試験で有用であることが実際に証明された。
【0182】
<遺伝子変異の検出>
実施例1および実施例2と同様に調製した培養2日目の癌組織由来細胞塊(それぞれサンプル1およびサンプル2)を、約100個、DNeasy Blood and Tissue (Quagen)を用いてDNA抽出し、1/100量をPCR法にて増幅した。これを鋳型として、直接シークエンス法で常法に従い、配列決定した。その結果、
図15に示すように、サンプル1において、KRASの12位のグリシンがバリンに置換されていること、サンプル2において、BRRAFの593位のアスパラギン酸がグリシンに置換されていることがわかった。これらのサンプルの患者においては、セツキシマブが効かないことが予想される。
【0183】
癌組織由来細胞塊は純粋な癌細胞で構成されているため、癌細胞の遺伝子変異の検出に適している。正常細胞の混入が多い通常の試料の場合、変異を持った癌細胞の相対的な割合が低下するため、変異の検出感度が著しく低下する。そのために、これまで適用できた従来の方法では、Laser capture microdissectionなどの方法で、癌部のみを組織切片から切り出して行わなければならなかった。一方癌組織由来細胞塊は正常細胞の混入がないことから飛躍的に検出感度が高くなる。癌組織由来細胞塊を用いれば、短期間に簡便に直接シークエンスで遺伝子変異を検出できることが実際に検証された。
【0184】
<血管新生阻害薬の感受性試験>
実施例2および実施例4と同様に調製した癌組織由来細胞塊を24時間、StemProを用いて浮遊状態で、37℃5%CO
2、通常酸素濃度下で培養した場合と、マルチガスインキュベーション(ASTEC)で37℃5%CO
2、1%の低酸素下で培養した場合を比較した。全mRNA抽出後、RT−PCR法にて、VEGF遺伝子の発現を検出した。この結果、
図16に示すように、本発明の癌組織由来細胞塊では、低酸素条件下で、VEGF遺伝子の発現が認められ、生体内の状態をより正確に反映し、それによって、ベバシズマブの適用可能性が確認できた。