特許第5774503号(P5774503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5774503
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】PC鋼材の遅れ破壊特性評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20150820BHJP
   G01N 3/32 20060101ALI20150820BHJP
   G01N 33/20 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   G01N17/00
   G01N3/32 Z
   G01N33/20 N
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-4588(P2012-4588)
(22)【出願日】2012年1月13日
(65)【公開番号】特開2013-142684(P2013-142684A)
(43)【公開日】2013年7月22日
【審査請求日】2014年9月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】岡村 司
(72)【発明者】
【氏名】名越 光秀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇久
(72)【発明者】
【氏名】市場 幹之
【審査官】 萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−302810(JP,A)
【文献】 特開平06−306543(JP,A)
【文献】 特開2006−045670(JP,A)
【文献】 特開2007−199024(JP,A)
【文献】 特開2009−069008(JP,A)
【文献】 特開2006−029977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00 − 17/04
G01N 3/00 − 3/62
G01N 33/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PC鋼材の遅れ破壊特性を評価するPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法であって、
所定の繰返し荷重を所定の繰返し数負荷した後に、その表面にノッチを形成した試験片を用い、
当該試験片をチオシアン酸アンモニウム水溶液に浸漬した状態で、所定の荷重を所定の時間負荷しても、当該試験片が破断に到らなかったときのチオシアン酸アンモニウム水溶液の限界濃度を、試験片として用いるPC鋼材の鋼種毎に求め、
ノッチが形成されていない平滑試験片を用い、
当該平滑試験片をその鋼種に応じた限界濃度のチオシアン酸アンモニア水溶液に、当該所定の時間浸漬し、当該所定の時間内に当該平滑試験片内に侵入した水素量を耐破断限界水素量として測定し、
当該耐破断限界水素量に基づいて、PC鋼材の遅れ破壊特性を評価することを特徴とするPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法。
【請求項2】
前記試験片として用いたPC鋼材の引張強さをσとし、前記試験片に前記所定の繰返し荷重を負荷したときの試験片に作用する平均応力をσとし、応力振幅をσとしたときに、下記式(1)の関係を満たす請求項1に記載のPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法。
【数1】
【請求項3】
前記試験片に、1回〜100万回の範囲内で前記所定の繰返し荷重を負荷する請求項1又は請求項2に記載のPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法。
【請求項4】
前記試験片として用いたPC鋼材の引張強さをσとしたときに、前記試験片に作用する負荷応力σが下記式(2)で示す範囲内の値となるように、前記試験片に対して前記所定の荷重を負荷する請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法。
【数2】
【請求項5】
前記ノッチの最大深さは、0.2mm〜0.5mmである請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法。
【請求項6】
前記チオシアン酸アンモニウム水溶液に前記試験片又は前記平滑試験片を浸漬する際に、当該チオシアン酸アンモニウム水溶液の温度を45℃〜55℃とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法。
【請求項7】
前記チオシアン酸アンモニウム水溶液に前記試験片又は前記平滑試験片を浸漬する際に、当該チオシアン酸アンモニウム水溶液と大気との接触を遮断する請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載のPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、各種コンクリート構造物の補強材として使用されるPC鋼材の遅れ破壊特性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートポールやコンクリート杭に代表されるプレストレスト・コンクリート製品には、PC(プレストレスト・コンクリート)鋼材が補強材(緊張材)として用いられる。PC鋼材には、熱処理によって製造されるJIS G 3137の「細径異形PC鋼棒」や冷間加工によって製造されるJIS G 3538の「PC硬鋼線」等がある。細径異形PC鋼棒は、引張り強さが1420MPa以上のものが規格化されている。また、PC硬鋼線では、引張り強さが最大1740MPaまでの高強度材が規格化されている。なお、本件発明では、PC鋼棒及びPC硬鋼線を総称してPC鋼材と称する。
【0003】
PC鋼材には、コンクリート製品にプレストレスト力を与えるために常に引張応力が作用している。長期の使用に伴い、コンクリートの亀裂部分等から、コンクリート内に雨水が浸入すると、PC鋼材の表面が局所的に腐食する。引張応力が作用している状態で、この腐食部分からPC鋼材の内部に水素が侵入すると、いわゆる遅れ破壊が発生する場合がある。すなわち、腐食環境下におかれたPC鋼材に長期間引張応力が作用した場合、当該PC鋼材に遅れ破壊が発生し、数年〜数十年経過後に当該PC鋼材は突然破断する。
【0004】
一般に、PC鋼材の腐食現象は環境によって大きく変化する。従って、遅れ破壊特性を正確に評価するためには、使用状態と同等の応力を作用させたサンプルを実際に使用される環境下に暴露して評価することが望ましい。しかしながら、このような暴露試験では、遅れ破壊が発生するまでに数十年を要する場合があり、評価結果を得るには時間が掛かりすぎる。
【0005】
そこで、遅れ破壊特性を評価する際には、一般に、促進試験が行われている。例えば、促進試験による遅れ破壊特性の評価方法として、FIP(国際プレストレストコンクリート協会)の基準による評価方法(以下、「FIP試験」と称する。)が知られている。FIP試験では、50℃±1℃に加熱した20質量%のNHSCN水溶液にサンプルを浸漬すると共に、サンプルに破断荷重の0.7倍〜0.8倍の荷重を負荷し、サンプルが破断に到るまでに要した時間を測定する。そして、この破断に到るまでに要した時間に基づいて、サンプルの遅れ破壊特性を評価する。
【0006】
しかし、FIP試験では、鋼材中に短時間で数ppmの水素量が侵入するような極めて厳しい腐食環境を採用しているため、サンプルは200時間程度で破断に到る。一方、現実の使用環境下では鋼材が破断に到るまでに数十年を要する場合がある。従って、FIP試験で採用される厳しい腐食環境下での促進試験による評価は、実際の鋼材の遅れ破壊特性と乖離している恐れがある。
【0007】
そこで、実環境に近い条件でボルトの遅れ破壊試験を行うために、実際の使用環境と同一の条件で遅れ破壊試験を行うための治具が提案されている(例えば、「特許文献1」参照。)。しかしながら、当該治具を用いて、実環境と同一の条件で遅れ破壊試験を行う場合、試験片が破断に到るまでには4,000時間〜7,000時間を要し、評価結果を迅速に得ることができないという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−199024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上述べたように、従来の遅れ破壊評価方法は、FIP試験のように促進試験により評価する場合には、迅速に評価結果を得ることができるものの遅れ破壊の実体と評価結果とが乖離している恐れがあるなど、評価の信頼性が低いという問題があった。一方、実環境に近い条件で遅れ破壊特性を評価する場合には、より実環境で使用した場合と近い評価結果を得ることができるものの、評価結果が得られるまでには時間が掛かり過ぎるという問題があった。
【0010】
そこで、本件発明は、評価結果と鋼材の遅れ破壊の実態とが一致し、促進試験により迅速に評価結果を得ることのできるPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、以下のPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法を採用することで上記課題を達成するに到った。
【0012】
本件発明に係るPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法は、所定の繰返し荷重を所定の繰返し数負荷した後に、その表面にノッチを形成した試験片を用い、当該試験片をチオシアン酸アンモニウム水溶液に浸漬した状態で、所定の荷重を所定の時間負荷しても、当該試験片が破断に到らなかったときのチオシアン酸アンモニウム水溶液の限界濃度を、試験片として用いるPC鋼材の鋼種毎に求め、ノッチが形成されていない平滑試験片を用い、当該平滑試験片をその鋼種に応じた限界濃度のチオシアン酸アンモニア水溶液に、当該所定の時間浸漬し、当該所定の時間内に当該平滑試験片内に侵入した水素量を耐破断限界水素量として測定し、当該耐破断限界水素量に基づいて、PC鋼材の遅れ破壊特性を評価することを特徴とする。
【0013】
本件発明に係るPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法において、前記試験片として用いたPC鋼材の引張強さを「σ」とし、前記試験片に前記所定の繰返し荷重を負荷したときの試験片に作用する平均応力を「σ」とし、応力振幅を「σ」としたときに、下記式(1)の関係を満たすことが好ましい。
【0014】
【数1】
【0015】
本件発明に係るPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法において、前記試験片に、1回〜100万回の範囲内で前記所定の繰返し荷重を負荷することが好ましい。
【0016】
本件発明に係るPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法において、前記試験片として用いたPC鋼材の引張強さを「σ」としたときに、前記試験片に作用する負荷応力「σ」が下記式(2)で示す範囲内の値となるように、前記試験片に対して前記所定の荷重を負荷することが好ましい。
【0017】
【数2】
【0018】
本件発明に係るPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法において、前記ノッチの最大深さは、0.2mm〜0.5mmであることが好ましい。
【0019】
本件発明に係るPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法において、前記チオシアン酸アンモニウム水溶液に前記試験片又は前記平滑試験片を浸漬する際に、当該チオシアン酸アンモニウム水溶液の温度を45℃〜55℃とすることが好ましい。
【0020】
本件発明に係るPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法において、前記チオシアン酸アンモニウム水溶液に前記試験片又は前記平滑試験片を浸漬する際に、当該チオシアン酸アンモニウム水溶液と大気との接触を遮断することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本件発明によれば、試験片に予め繰返し荷重を負荷することにより、試験片を疲労させて試験片の引張特性を長期間使用されたPC鋼材の引張特性と同等にすることができる。これにより、使用に伴うPC鋼材の疲労の影響を反映した評価結果を得ることができる。すなわち、評価結果と遅れ破壊の実態とを一致させることができる。
【0022】
また、本件発明では、所定の繰返し荷重を所定の繰返し数負荷した後に、その表面にノッチを形成した試験片を用い、チオシアン酸アンモニウム水溶液中で一定荷重を負荷する方法を採用している。従って、ノッチ部分に応力を集中させることができ、ノッチを形成しない場合に比して、破断に到るまでの時間を短縮することができる。
【0023】
さらに、本件発明では、試験片として用いるPC鋼材の鋼種毎に、所定の荷重を、所定の時間負荷しても、試験片が破断に到らなかったときのチオシアン酸アンモニウム水溶液の限界濃度を求めている。そして、平滑試験片を用いて、当該平滑試験片の鋼種に応じた限界濃度のチオシアン酸アンモニウム水溶液に所定の時間浸漬したときに平滑試験片内に侵入した水素量を耐破断限界水素量として測定している。ここで、一般に、PC鋼材の水素拡散特性は、その鋼種によって異なる。このため、鋼種によらず平滑試験片を同じ濃度のチオシアン酸アンモニウム水溶液に浸漬した場合、ある鋼種によっては必要以上に厳しい腐食環境条件で遅れ破壊特性を評価することになる場合がある。一方、別の鋼種については、極めて緩やかな腐食環境条件で遅れ破壊特性を評価することになる場合もある。このように、同じ濃度のチオシアン酸アンモニウム水溶液を試験溶液として用いた場合には、遅れ破壊の実態と評価結果とが一致しない恐れがある。また、採用した濃度によって、鋼種間の遅れ破壊特性の優劣が逆転する場合もある。これに対して、本件発明では、各鋼種毎に予め求めた限界濃度のチオシアン酸アンモニウム水溶液を用いて、耐破断限界水素量を測定しているため、鋼種間の水素拡散特性の差に起因する評価結果のズレを防止することができる。
【0024】
以上の様に、本件発明に係るPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法によれば、評価結果と鋼材の遅れ破壊の実態とが一致し、促進試験により迅速に評価結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本件発明に係る耐遅れ破壊特性評価方法において用いる試験片の形状を示した図である。
図2】実環境で使用されたPC鋼材から成る試験片(a)、繰返し荷重を負荷した試験片(b)繰返し荷重を負荷していない試験片(c)の各荷重−伸び曲線を示した荷重−伸び線図である。
図3】PC鋼材の水素拡散特性を示す図である。
図4】限界濃度検出工程において使用することのできる試験容器の構成を示す概略図である。
図5】実施例で測定した各サンプル(N.1〜N.13)の耐破断限界水素量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本件発明に係るPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法の実施の形態を説明する。本件発明に係るPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法は、(1)所定の繰返し荷重を所定の繰返し数負荷した後に、その表面にノッチを形成した試験片を用い、当該試験片をチオシアン酸アンモニウム水溶液に浸漬した状態で、所定の荷重を所定の時間負荷しても、当該試験片が破断に到らなかったときのチオシアン酸アンモニウム水溶液の限界濃度を、試験片として用いるPC鋼材の鋼種毎に求める第一のステップと、(2)ノッチが形成されていない平滑試験片を用い、当該平滑試験片をその鋼種に応じた限界濃度のチオシアン酸アンモニア水溶液に、当該所定の時間浸漬し、当該所定の時間内に当該平滑試験片内に侵入した水素量を耐破断限界水素量として測定する第二のステップとを有し、第二のステップにおいて測定された当該耐破断限界水素量に基づいて、PC鋼材の遅れ破壊特性を評価することを特徴としている。以下、各ステップ毎に説明する。
【0027】
1.第一のステップ
ここでは、第一のステップを以下の三つの工程(1)〜(3)に分けて説明する。
(1)試験片に所定の繰返し荷重を所定の繰返し数負荷する繰返し荷重負荷工程
(2)繰返し荷重が負荷された試験片にノッチを形成するノッチ形成工程
(3)ノッチが形成された試験片をチオシアン酸アンモニウム水溶液に浸漬した状態で所定の荷重を所定の時間負荷し、当該試験片が破断に到らないチオシアン酸アンモニウム水溶液の限界濃度を、試験片として用いるPC鋼材の鋼種毎に求める限界濃度検出工程
以下、各工程毎に説明する。
【0028】
(1)繰返し荷重負荷工程
繰返し荷重負荷工程は、試験片に所定の繰返し荷重を所定の繰返し数負荷する工程である。ポールや、杭などのプレストレスト・コンクリート製品中のPC鋼材は、実際の環境下で台風や地震等に伴い繰返し負荷を受ける。PC鋼材が繰返し負荷を受けると、PC鋼材は金属疲労を起こし、その引張特性も経時的に変化する。これと同時に、遅れ破壊に対する感受性も変化する。そこで、本件発明では、試験片に対して所定の繰返し荷重を所定の繰返し数負荷することにより、試験片の引張特性を実環境で使用されたPC鋼材の引張特性と同等なものとし、長期間の使用に伴う金属疲労の影響を反映したより正確な評価結果を得ることを可能とした。
【0029】
試験片形状: ここで、試験片の形状は、例えば、図1に示すように、断面が円形で長尺な丸棒形状(図1(a)参照)、若しくは断面が方形で長尺な角棒形状(図1(b)参照)とする。
【0030】
繰返し荷重負荷方法: また、この試験片に繰返し荷重を負荷する際には、試験片の軸方向に繰返し荷重を負荷することが好ましい。このとき、PC鋼材が実環境下で、地震や台風等に伴い受ける繰返し負荷を模擬すべく、部分片振り繰返し荷重を負荷することがより好ましい。繰返し荷重を負荷する際には、例えば、既存の引張疲労試験機を好適に用いることができる。繰返し荷重を負荷する際の荷重負荷モードは、特に、限定されるものではない。例えば、単波形モードで繰返し荷重を試験片に負荷してもよいし、複合波形モードで繰返し荷重を試験片に負荷してもよい。
【0031】
繰返し荷重: 試験片に負荷する繰返し荷重の大きさは、試験片として用いたPC鋼材の引張強さを「σ」とし、試験片に作用する平均応力を「σ」とし、応力振幅を「σ」としたときに、下記式(1)の関係を満たすことが好ましい。すなわち、下記式(1)で示す範囲内で振幅する部分片振り応力が試験片に加わるように繰返し荷重を負荷することが好ましい。
【0032】
【数3】
【0033】
上記式(1)の関係を満たすように繰返し荷重を負荷するときの最小応力(σmin)、最大応力(σmax)、応力振幅(σ)を設定することにより、例えば、地震や台風などにより実環境でプレストレスト・コンクリート製品内のPC鋼材が受ける繰返し負荷と同等の繰返し負荷を試験片に与えることができる。この点について、図2を参照して更に説明する。
【0034】
図2は、実環境で10〜30年間を経て廃棄処分となったポール(以下、「廃棄ポール」と称する。)の中から取りだしたPC鋼材から成る試験片(a)、当該試験片(a)と同じ鋼種のPC鋼材から成ると共に、上記範囲内の繰返し荷重を負荷した試験片(b)、及び、上記試験片(a)と同じ鋼種のPC鋼材から成ると共に、繰返し荷重を負荷していない試験片(c)の各荷重−伸び曲線を示したものである。図2に示すように、試験片(a)の荷重−伸び曲線と、試験片(b)の荷重−伸び曲線とは一致し、両者の引張特性が同等であることが分かる。これに対して、試験片(c)の荷重−伸び曲線は、試験片(a)及び試験片(b)の荷重−伸び曲線と、一部一致しない範囲があり、試験片(c)の引張特性は、試験片(a)(b)の引張特性とは異なっている。このように、試験片に予め繰返し荷重を負荷することにより、試験片を疲労させて試験片の引張特性を長期間使用されたPC鋼材の引張特性と同等にすることができる。
【0035】
なお、より実環境で使用されたPC鋼材が受ける繰返し負荷と同等の繰返し負荷を試験片に与えるという観点から、試験片に負荷する繰返し荷重の大きさは、下記式(1−1)の関係を満たすことが好ましい。
【0036】
【数4】
【0037】
応力振幅(σ): 上記式(1)若しくは式(1−1)の範囲で繰返し荷重を負荷する際に、応力振幅(σα)は、下記式(a)の関係を満たすことが好ましい。
【0038】
【数5】
【0039】
応力振幅(σ)が「σ×0.05」未満である場合、応力振幅が小さすぎて試験片に実環境で使用されたPC鋼材と同等の十分な疲労を与えることができない。これに対して、応力振幅(σ)が「α×0.20」を超える場合、疲労限度を超える場合があり、試験片が破断に到る恐れがあるため好ましくない。当該観点から、応力振幅(σ)は、下記式(b)を満たすことがより好ましい。
【0040】
【数6】
【0041】
応力振幅(σα)を上記式(b)の範囲内とし、平均応力(σ)と応力振幅(σα)との関係を上記式(1)を満たす範囲内とすることにより、試験片の引張特性を長期間実環境で使用されたPC鋼材の引張特性とより近いものとすることができる。
【0042】
繰返し数(N): 上記繰返し荷重を試験片に負荷する回数は、1回〜100万回の範囲内であることが好ましい。試験片を疲労させるためには、少なくとも1回は荷重を負荷する必要がある。また、100万回を超えて繰返し荷重を負荷した場合、試験片が破断に到る場合があり、好ましくない。特に、試験片の引張特性を、実環境で一定期間使用されたPC鋼材の引張特性と同等なものとするという観点から、当該繰返し数は、1万回〜15万回の範囲内であることがより好ましい。
【0043】
繰返し速度: 上記繰返し荷重を試験片に負荷する際の繰返し速度は、100回/分〜1000回/分の範囲内とすることが好ましく、300回/分〜700回/分の範囲内とすることがより好ましい。繰返し速度が100回/分未満の場合、上記繰返し数によっては、繰返し荷重負荷工程に要する時間が掛かり過ぎ、評価結果を迅速に得ることができず好ましくない。一方、繰返し速度が1000回/分を超える場合、試験片が発熱する場合があり、熱の影響が評価結果に表れ、遅れ破壊特性を正しく評価することができない恐れがあるため好ましくない。迅速に評価結果を得ると共に、試験片の発熱を抑えるという観点から、上述の300回/分〜700回/分とすることがより好ましく、400回/分〜600回/分の範囲内とすることが更に好ましい。
【0044】
但し、以上説明した繰返し荷重負荷工程において、試験片に繰返し荷重を負荷する際には、試験片として用いるPC鋼材の実際の使用環境において受けると想定される繰返し応力の大きさ等に応じて、上記平均応力(σ)、応力振幅(σα)、繰返し数(N)及び繰返し速度を適宜調整することが好ましい。
【0045】
(2)ノッチ形成工程
ノッチ形成工程は、上述した通り、繰返し荷重が負荷された試験片にノッチを形成する工程である。試験片の表面にノッチを形成することにより、ノッチ部分に応力が集中し、ノッチを形成していない試験片に比して、破断に到るまでの時間を短縮することができる。ここで、破断を促進するためには、ノッチを形成する等の表面に何らかの欠陥を形成する方法以外にも負荷荷重を増加させる方法も考えられる。しかしながら、本件発明者等は、PC鋼材の遅れ破壊が、比較的、マイルドな腐食環境でも発生することから、PC鋼材の表面に何らかの欠陥が発生しており、少量の水素の侵入によってPC鋼材が破断すると考えた。そこで、本件発明者等は、上記廃棄ポールの中から取り出したPC鋼材の表面を詳細に観察したところ、このPC鋼材の表面には孔食状の欠陥が複数形成されており、当該欠陥部分に応力が集中し、破断に到ることが分かった。以上より、本件発明では、繰返し荷重を負荷した試験片にノッチを形成することにより、当該試験片が破断に到るまでの時間を短縮すると共に、実環境の腐食に近い状態を再現することにした。
【0046】
ノッチ形状: 試験片の表面に形成するノッチは、Vノッチ又はUノッチを採用することができる。応力集中により破断を促進するという観点から、ノッチの形状はVノッチであることがより好ましい。また、当該Vノッチは、応力集中により、引張荷重に対して直角方向に形成することが好ましい。Vノッチを引張荷重に対して直角方向に形成することにより応力集中係数が高くなり、破断が促進されるためである。
【0047】
ここで、ノッチの最大深さは、0.2mm〜0.5mmであることが好ましい。上記廃棄ポールから取り出したPC鋼材の表面に形成されていた孔食の最大深さは、0.35mm程度であり、0.1mm〜0.2mmの深さの孔食が最も多く形成されていた。本件発明では、試験片の破断を促進するという観点からノッチの最大深さを0.2mm以上とした。ノッチの最大深さが0.2mm未満の場合、破断時間が長くなり、評価結果を得るまでに時間を要すると共に、試験片が破断に到らない場合があるため好ましくない。一方、試験片に形成するノッチの最大深さを0.5mmよりも深くすると、破断時間をより短縮することができ、効率的である。しかしながら、試験条件によらず、破断時間が短縮されてしまい、試験条件の差が評価結果に表れない恐れがあるため、遅れ破壊の評価を行う上で好ましくない。
【0048】
また、ノッチ角度は60°±5°の範囲内であることが好ましく、60°±2°の範囲内であることがより好ましい。上記廃棄ポールから取り出したPC鋼材の表面に形成されていた孔食の壁面は、より緩やかな傾斜を有するものであったが、ノッチ角度を当該範囲内にすることにより、ノッチ部分に応力を集中させて、試験片の破断を促進することができる。
【0049】
また、ノッチ底半径は、0.1mm±0.02mmの範囲内とすることが好ましい。当該範囲外である場合、上述した範囲内のノッチ深さ及びノッチ角度を満たすVノッチを試験片の表面に加工形成することが困難になる。なお、以上のような形状を有するノッチは、機械加工により形成することができる。
【0050】
(3)限界濃度検出工程
次に、限界濃度検出工程について説明する。限界濃度検出工程は、上述した通り、上記ノッチが形成された試験片をチオシアン酸アンモニウム水溶液に浸漬した状態で所定の荷重を所定の時間負荷し、当該試験片が破断に到らないチオシアン酸アンモニウム水溶液の限界濃度を、試験片として用いるPC鋼材の鋼種毎に求める工程である。まず、試験片に負荷する荷重と、試験片に荷重を負荷する時間とについて説明する。
【0051】
所定の荷重: 当該限界濃度検出工程において、試験片に負荷する荷重は、予め定めた一定の値を有する一定荷重とする。ここで、試験片に負荷する荷重は、当該試験片として用いたPC鋼材の引張強さを「σ」としたときに、当該試験片に作用する負荷応力「σ」が下記式(2)で示す範囲内の値となるようにすることが好ましい。このとき、式(2−1)で示す範囲内の値となるように、試験片に荷重を負荷することがより好ましい。
【0052】
【数7】
【0053】
【数8】
【0054】
試験片に作用する負荷応力が「σ×0.55」未満である場合、試験片が破断に到るまでに要する時間が長くなり、迅速に評価結果を得ることが出来ず好ましくない。従って、試験片に作用する負荷応力が「σ×0.55」以上、好ましくは、「σ×0.6」以上とすることにより、評価結果をより迅速に得ることが出来て好ましい。一方、試験片に作用する負荷応力が「σ×0.85」を超える場合、試験片を浸漬するチオシアン酸アンモニウム水溶液の濃度によらず、破断時間が短縮されてしまう。従って、いずれの鋼種についても限界濃度が低くなり、緩やかな腐食環境条件で遅れ破壊特性を評価することになる。その結果、次の第二のステップで測定する耐破断限界水素量が低くなり、遅れ破壊特性を正しく評価することができなくなる場合があり、好ましくない。当該観点から、試験片に作用する負荷応力を「σ×0.85」以下とすることが好ましく、「σ×0.80」以下とすることがより好ましい。
【0055】
所定の時間: 当該限界濃度検出工程において、試験片に所定の荷重を負荷する時間は予め定めた一定の時間とし、試験片の鋼種によらず同じ時間とする。当該所定の時間は、200時間〜50時間の範囲内で定めた一定の時間とすることが好ましい。当該所定の時間を長くすれば、限界濃度がより低くなる場合があることからより緩やかな腐食環境条件下で遅れ破壊特性を評価することができる。しかしながら、所定の時間が長くなると、評価結果を得るまでに時間を要する。これらの観点から、所定の時間は200時間以下であることが好ましい。一方、当該所定の時間が短くなれば、評価結果をより早く得ることができるため好ましい。しかしながら、当該所定の時間が短くなると、それに応じて限界濃度もより高くなる。その結果、当該所定の時間が50時間未満になると、限界濃度が高くなり、厳しい腐食環境条件で遅れ破壊特性を評価することになる恐れがあるため、好ましくない。
【0056】
限界濃度: 次に、チオシアン酸アンモニウム水溶液の限界濃度について説明する。PC鋼材をチオシアン酸アンモニウム水溶液に浸漬すると、PC鋼材内には水素が侵入する。このとき、PC鋼材内に侵入する水素の量や、侵入速度等の水素拡散特性は、鋼種によって異なる。図3は、種々の濃度のチオシアン酸アンモニウム水溶液(50℃)にPC鋼材を100時間浸漬したときの鋼種の異なる各サンプル(サンプルA〜サンプルD)に侵入した水素量(拡散性水素量)を表したものである。図3を参照すると、同じ濃度のチオシアン酸アンモニウム水溶液に同じ時間浸漬した場合であっても、鋼種によって各サンプルに侵入する水素量は大きく異なることが分かる。また、同じ量の水素がPC鋼材内に侵入した場合であっても、鋼種によって水素による脆化の程度は異なる。このため、鋼種によらず同じ濃度のチオシアン酸アンモニウム水溶液に試験片を浸漬して遅れ破壊特性について評価した場合、ある試験片については厳しい腐食環境条件で遅れ破壊特性を評価することになる場合がある。その一方、他の試験片については、緩やかな腐食環境条件で遅れ破壊特性を評価することになる場合もある。このように、鋼種によらず同じ濃度のチオシアン酸アンモニウム水溶液に試験片を浸漬して、各鋼種の遅れ破壊特性を評価した場合、鋼種によって腐食環境の程度が異なることが想定される。このため、評価結果をそのまま対比して、各鋼種についての遅れ破壊特性の優劣を判断したのでは、各鋼種の遅れ破壊の実態と評価結果とが乖離してしまう恐れがある。そこで、本件発明では、当該限界濃度検出工程において、各鋼種毎に、試験片をチオシアン酸アンモニウム水溶液に浸漬し、上記所定の荷重を負荷して、記所定時間経過後の破断の有無を見極めることを、チオシアン酸アンモニウム水溶液の濃度を変化させながら繰返し行い、試験片が破断に到らなかったときの限界濃度(最大濃度)を求め、第二のステップにおいて、耐破断限界水素量を測定するために、平滑試験片を浸漬するチオシアン酸アンモニウム水溶液の濃度をその鋼種に応じた限界濃度にすることにした。これにより、各鋼種について得られた評価結果を対比して、遅れ破壊特性の優劣を評価することを可能にした。
【0057】
チオシアン酸アンモニウム水溶液の温度: 試験片を浸漬するチオシアン酸アンモニウム水溶液の温度は、45℃〜55℃であることが好ましい。これは次の理由による。当該チオシアン酸アンモニウム水溶液の温度が低い場合には、試験片に侵入する水素量が少なくなる。一方、当該チオシアン酸アンモニウム水溶液の温度が高い場合には、試験片に侵入する水素量が多くなる。これと同時に、水分が蒸発し、上記所定の時間が経過するまでの間に、チオシアン酸アンモニウム水溶液の濃度が変化するため、一定の試験条件で評価することができなくなる。また、チオシアン酸アンモニウム水溶液の温度が50℃であるとき、PC鋼材に侵入する水素量は、実環境から侵入する水素量に近くなる。従って、試験片を浸漬する際のチオシアン酸アンモニウム水溶液の温度は50℃前後であることが好ましい。さらに、チオシアン酸アンモニウム水溶液の温度は、試験片の表面での腐食状況にも影響を及ぼすため、温度変動は一定の範囲内に制御することが必要である。また、試験片を浸漬している間に、チオシアン酸アンモニウム水溶液の温度が10℃を超えて変動すると、評価結果のバラツキが大きくなる。従って、安定した腐食環境で、一定の速度で試験片に水素を侵入させるという観点から、試験片を浸漬するチオシアン酸アンモニウム水溶液の温度は、上述した通り、45℃〜55℃であることが好ましく、上記所定の時間の間のチオシアン酸アンモニウム水溶液の温度変動を当該温度範囲内に制御することが好ましい。
【0058】
大気との遮断: 当該限界濃度検出工程では、チオシアン酸アンモニウム水溶液に試験片を浸漬する際に、当該チオシアン酸アンモニウム水溶液と大気との接触を遮断することが好ましい。チオシアン酸アンモニウム水溶液が大気と接触すると、空気中の二酸化炭素を吸収し、当該チオシアン酸アンモニウム水溶液のpHが低下する。チオシアン酸アンモニウム水溶液のpHは、試験片(PC鋼材)に侵入する水素量及び試験片の腐食状況に大きく影響する重要な要因である。従って、チオシアン酸アンモニウム水溶液と大気との接触を遮断し、上記所定の時間の間、チオシアン酸アンモニウム水溶液のpHが変動しないようにすることが好ましい。
【0059】
チオシアン酸アンモニウム水溶液と大気とを遮断する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、試験容器内にアルゴンガスなどの不活性ガスを充満させる方法、試験溶液の表面をシール材で覆う方法などが挙げられる。また、試験溶液を密閉容器内に充填し、大気との接触を遮断する方法もある。試験溶液を密閉容器内に充填する方法として、例えば、図4に示す試験容器を採用することができる。図4に示す試験容器1は、二重箱状に形成されており、その内側は試験溶液収容部2、その外側は温水が循環する温水循環部3になっている。試験溶液収容部2には、チオシアン酸アンモニウム水溶液が収容されており、上面と下面とにはそれぞれ試験片が貫通する貫通孔21、22が形成されている。試験片Tは、この試験溶液収容部2の上面と下面とにそれぞれ形成された貫通孔21、22に貫通する。各貫通孔21、22と試験片Tとの間は水密部材(図示略)により水密状態に密閉されている。このような試験容器1を採用することによりチオシアン酸アンモニウム水溶液と大気とを遮断することができる。なお、図4に示す試験容器1の場合は、試験溶液収容部2の外側に温水循環部3が設けられているため、温水循環部3に温水を循環させることにより、チオシアン酸アンモニウム水溶液の温度を上述した温度範囲内とすることができる。
【0060】
以上の工程を、試験片として用いる鋼種毎に、チオシアン酸アンモニウム水溶液の濃度を変化させる度に新しい試験片を用いて繰返し行う。例えば、チオシアン酸アンモニウム水溶液の濃度を低濃度から高濃度に変化させていき、試験片が上記所定の時間経過しても破断に到らなかった場合の最大濃度を求め、これを限界濃度とする。
【0061】
2.第二のステップ
次に、第二のステップについて説明する。第二のステップは、上述した通り、ノッチが形成されていない平滑試験片を用い、当該平滑試験片をその鋼種に応じた上記限界濃度のチオシアン酸アンモニア水溶液に上記所定の時間浸漬し、その間に当該平滑試験片内に侵入した水素量を耐破断限界水素量として測定するステップである。
【0062】
平滑試験片: 平滑試験片は、上記試験片とはノッチが形成されていないことを除いて同じ形状とすることができる。平滑試験片には、上述した繰返し荷重負荷工程と同様の工程により繰返し荷重を負荷してもよいが、当該繰返し荷重を負荷しなかった場合でも、平滑試験片内に侵入する水素量に大きな差は見られない。従って、評価結果を簡易に、且つ、迅速に得るという観点からは、繰返し荷重を負荷していない平滑試験片を用いることが好ましい。
【0063】
浸漬時間: 平滑試験片をチオシアン酸アンモニウム水溶液に浸漬する時間は、上記第一のステップの限界濃度検出工程において説明した「所定の時間」と同じ時間とする。
【0064】
浸漬方法: 平滑試験片をチオシアン酸アンモニウム水溶液に浸漬する際の浸漬方法は、上記第一のステップの限界濃度検出工程において、所定の荷重を負荷しない点を除いては、同じ方法を採用することができる。すなわち、平滑試験片を浸漬する際のチオシアン酸アンモニウム水溶液の温度は、45℃〜55℃の範囲内が好ましく、上記所定の時間内の温度変動が当該温度範囲内に制御されることが好ましい。また、平滑試験片を浸漬している間、チオシアン酸アンモニウム水溶液と大気との接触が遮断されることが好ましい。
【0065】
水素量測定方法: 平滑試験片に侵入した水素量は、例えば、ガスクロマトグラフによる昇温離脱法により測定することができる。水素量を測定するサンプルをアセトン洗浄した後、例えば、100℃/hの昇温速度で室温から600℃まで昇温させる。キャリアガスとして、例えば、純度99.9999%のアルゴンガスを用い、アルゴンガスと共にサンプルから離脱した水素を吸着分離管を通して、熱伝導度セルに導き、水素による熱伝導度の変化を測定することにより、平滑試験片に侵入した水素量を算出することができる。この水素量を耐破断限界水素量とし、試験片(平滑試験片)として用いたPC鋼材の遅れ破壊特性を評価することができる。
【0066】
3.評価
以上のようにして求めた耐破断限界水素量に基づいて、以下のようにPC鋼材の遅れ破壊特性を評価することができる。実環境において使用したときに自然界から侵入するとされる水素量は、質量濃度で0.20(ppm)程度であるとされている。当該水素量を基準値とし、各鋼種毎に得られた耐破断限界水素量をこの基準値と比較し、耐破断限界水素量が当該基準値よりも高い値を示す場合、遅れ破壊が起きないと評価することができる。また、当該耐破断限界水素量が高い鋼種の方が、遅れ破壊が起きにくいと評価することができる。
【0067】
以上説明した本件発明に係るPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法によれば、評価結果と鋼材の遅れ破壊の実態とが一致し、促進試験により迅速に評価結果を得ることができる。
【0068】
但し、上記実施の形態は本件発明に係るPC鋼材の遅れ破壊特性の評価方法の一態様であり、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能であるのは勿論である。例えば、上記実施の形態では、第一のステップにおいて各鋼種についてのチオシアン酸アンモニウム水溶液の限界濃度を求めた後、第二のステップにおいて耐破断限界水素量を測定するものとして説明したが、この限りではない。例えば、平滑試験片を用いて、種々の濃度のチオシアン酸アンモニウム水溶液に浸漬したときの侵入水素量を予め測定しておき、その後、第一のステップを行い、各鋼種毎の限界濃度を求めてもよい。この限界濃度のときの侵入水素量を予め得た測定結果の中から取得して、耐破断限界水素量を得てもよい。要は、第一のステップにより各鋼種についてのチオシアン酸アンモニウム水溶液の限界濃度を求め、当該限界濃度のチオシアン酸アンモニウム水溶液に平滑試験片を浸漬したときの侵入水素量が得られればよい。
【0069】
以下、本件発明に係るPC鋼材の遅れ破壊特性の評価方法を実施例を挙げて更に具体的に説明するが、本件発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0070】
本実施例では、試験片及び平滑試験片として、表1に示す化学成分比及び焼戻し処理方法等の異なる13種類のPC鋼材をサンプルを用いた。
【0071】
【表1】
【0072】
(1)第一のステップ
表1に示すサンプルN.1〜サンプルN.13から成る長尺な丸棒形状の試験片をそれぞれ用いて、上記実施の形態で説明した第一のステップを行った。
【0073】
繰返し荷重負荷工程: 繰返し荷重負荷工程において、各試験片に負荷した繰返し荷重と、繰返し数は、以下の通りである。
【0074】
平均応力:σ=σ×0.70(但し、σ=規格値)
振幅 :σ=σ×0.15
繰返し数:10万回
【0075】
ノッチ形成工程: 繰返し荷重が負荷された各試験片の表面に、ノッチ深さ0.3mm、ノッチ角度60°±2°の環状のVノッチを機械加工により形成した。ノッチの形成位置は、次工程の限界濃度検出工程において試験片がチオシアン酸アンモニウム水溶液に浸漬される部分の軸方向の中心位置とした。
【0076】
限界濃度検出工程: そして、Vノッチが形成された各試験片をチオシアン酸アンモニウム水溶液に浸漬した状態で、下記に示す荷重を100時間負荷し、100時間経過後に試験片が破断に到るか否かを観察した。これをチオシアン酸アンモニウム水溶液の濃度を変化させて繰返し行い、100時間経過後に試験片が破断しなかったときの最大の濃度を限界濃度とした。なお、具体的な試験条件は以下の通りである。なお、各試験片の直径は7.1mm〜7.2mmであり、図4に示す試験容器を用いて、試験片をチオシアン酸アンモニウム水溶液に浸漬した上で、荷重を負荷した。
【0077】
荷重(N/mm) : 1420×0.7
荷重負荷時間 : 100時間(max)
チオシアン酸水溶液の濃度: 0.1vol%〜15vol%
チオシアン酸水溶液の温度: 50℃
溶液量 : 500ml
試験片の浸漬長 : 50mm
引張試験機 : 定荷重式
【0078】
(2)第二のステップ
第一のステップの限界濃度検出工程で求めた限界濃度のチオシアン酸アンモニウム水溶液に、上記サンプルN.1〜サンプルN.13から成る平滑試験片を100時間浸漬し、100時間経過後に平滑試験片をチオシアン酸アンモニウム水溶液から取り出し、内部に侵入した水素量をガスクロマトグラフィーを用いて測定した。浸漬条件は荷重を負荷しないこと、及び、各鋼種毎にそれぞれの限界濃度のチオシアン酸アンモニウム水溶液を用いることを除いては、第一のステップの限界濃度検出工程と同じ条件を採用した。また、侵入水素量を測定する際には、前処理としてアセトン洗浄を行い、キャリアガスとして純度99.9999%のアルゴンガスを用い、昇温速度を100℃/hとし、室温から400℃の範囲まで昇温した。なお、具体的な浸漬条件は、以下の通りである。
【0079】
浸漬条件;
チオシアン酸アンモニウム水溶液濃度 : 各鋼種について求めた限界濃度
チオシアン酸アンモニウム水溶液の温度: 50℃
溶液量 : 500ml
平滑試験片の浸漬長 : 50mm
浸漬時間 : 100時間
【0080】
以上の第二のステップによって得られた侵入水素量を耐破断限界水素量とした。各サンプルの耐破断限界水素量を図5に示す。鋼種によって、それぞれ耐破断限界水素量が異なり、耐破断限界水素量が高い方が遅れ破壊が発生しにくいと考えることができる。ポールや杭等のプレストレスト・コンクリート製品中のPC鋼材に対して、自然界から侵入するとされている水素量は、約0.20ppmといわれている。従って、サンプルN.1〜サンプルN.13のいずれの鋼種についても、耐破断限界水素量は0.20ppmよりも高いため、遅れ破壊は発生しにくいと評価することができるが、特にサンプルN.1、サンプルN.7、サンプルN.11、サンプルN.12の耐破断限界水素量が高く、耐遅れ破壊特性が高いと評価することができる。
【0081】
また、上記サンプルN.1〜N.13を用いて、複数回上記評価試験を行ったが、評価結果の再現性がよく、実環境で使用されたPC鋼材の遅れ破壊の実態にほぼ一致する結果が得られた。一方、繰返し荷重負荷工程を省略した場合は、評価結果とPC鋼材の遅れ破壊の実態とが一部乖離し、鋼種によって評価結果の優劣が逆転するものがあった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本件発明に係るPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法によれば、評価結果と鋼材の遅れ破壊の実態とが一致し、促進試験により迅速に評価結果を得ることができる。従って、本件発明に係るPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法により得られた評価結果に基づいて、耐遅れ破壊特性の高いPC鋼材を選択することができる。
【符号の説明】
【0083】
1・・・試験容器
2・・・試験溶液収容部
3・・・温水循環部
T・・・試験片
図1
図2
図3
図4
図5