(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5774507
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】C−11標識ヨウ化メチルの合成装置
(51)【国際特許分類】
C07C 17/16 20060101AFI20150820BHJP
C07C 19/07 20060101ALI20150820BHJP
C07B 59/00 20060101ALI20150820BHJP
C07B 61/00 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
C07C17/16
C07C19/07
C07B59/00
C07B61/00 C
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-7997(P2012-7997)
(22)【出願日】2012年1月18日
(65)【公開番号】特開2013-147446(P2013-147446A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2014年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 利光
(72)【発明者】
【氏名】加藤 潤
【審査官】
水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−053803(JP,A)
【文献】
特開2007−022995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07B 59/00
C07C 19/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に設けられた1つのみの開口を有し、水素化リチウムアルミニウム溶液を収納する有底筒状の反応容器と、
前記反応容器の底部を加熱する加熱手段と、
前記開口を通じて前記反応容器内の前記水素化リチウムアルミニウム溶液にC-11標識二酸化炭素を吹き込む原料ガス導入手段と、
前記反応容器内で生成したC-11標識ヨウ化メチルを、気体の状態で前記開口を通じて前記反応容器から取り出す生成物取得手段と、
前記反応容器の外壁面に取り付けられる鍔状部材と、
前記反応容器の前記底部側が上方から挿入される挿入口を有し、当該挿入口に前記底部側が挿入された状態の前記反応容器に取り付けられた前記鍔状部材を下方から支持する支持体と、を備え、
前記加熱手段は、前記挿入口から下方に突出する前記反応容器の底部に熱風を送出し、
前記鍔状部材は、前記挿入口の上方と下方とを仕切り、前記挿入口よりも上方への前記熱風の流動を遮ることを特徴とするC-11標識ヨウ化メチルの合成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C-11標識ヨウ化メチルの合成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の液相法によるC-11標識ヨウ化メチルの合成においては、THF溶媒中でC-11標識二酸化炭素と、水素化リチウムアルミニウムとを反応させ、THFを除去した後に更にヨウ化水素酸水溶液と反応させC-11標識ヨウ化メチルを得ている。反応容器を100〜200℃程度に加熱することで、得られたC-11標識ヨウ化メチルは気体として次工程に移送される。次工程のC-11標識ヨウ化メチルを用いた標識反応は水分を嫌うものが多いので、移送ライン上には、水分除去用として五酸化二リン等を詰めたカラムが設置される。このようなカラムに水分が大量に送り込まれると、C-11標識ヨウ化メチルも一緒にカラムに捕捉されてしまうので、C-11標識ヨウ化メチルの収率低下を招く。
【0003】
この対策として、上記合成法では、例えば、
図3に示すように冷却管を備えた反応器が用いられる。
図3の反応器100は、水素化リチウムアルミニウム溶液102を導入する原料導入口103と、水素化リチウムアルミニウムに吹き込むためのC-11標識二酸化炭素を導入するガス導入口105と、C-11標識ヨウ化メチルを取り出すための生成物排出口107と、を備えている。反応器100に収納される水素化リチウムアルミニウム溶液102の液面上方には、冷却水を流動させるための螺旋状の冷却管109が設置されている。C-11標識ヨウ化メチルに含まれる水分が、冷却管109に冷却され水滴となるので、生成物排出口107からは、水分が少ないC-11標識ヨウ化メチルが送出される。なお、反応器100として例示されるようなこの種の反応器は特注で製作されることが通常であるので、先行技術文献情報はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような特殊な形状の反応器は高価であるので、例えば、使い捨て等には向いていない。この種の反応装置にあっては、容器の使い捨ても可能にすべく、単純な構造の汎用的な反応容器を使用可能とすることが好ましい。
【0005】
そこで、本発明は、汎用的な反応容器を使用可能とするC-11標識ヨウ化メチルの合成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るC-11標識ヨウ化メチルの合成装置は、 一端に設けられた1つのみの開口を有し、水素化リチウムアルミニウム溶液を収納する有底筒状の反応容器と、反応容器の底部を加熱する加熱手段と、開口を通じて反応容器内の水素化リチウムアルミニウム溶液にC-11標識二酸化炭素を吹き込む原料ガス導入手段と、反応容器内で生成したC-11標識ヨウ化メチルを、気体の状態で開口を通じて反応容器から取り出す生成物取得手段と、
反応容器の外壁面に取り付けられる鍔状部材と、
反応容器の底部側が上方から挿入される挿入口を有し、当該挿入口に底部側が挿入された状態の反応容器に取り付けられた鍔状部材を下方から支持する支持体と、を備え、加熱手段は、挿入口から下方に突出する反応容器の底部に熱風を送出し、鍔状部材は、挿入口の上方と下方とを仕切り、挿入口よりも上方への熱風の流動を遮ることを特徴とする。
【0007】
この合成装置の反応容器には、鍔状部材が取り付けられ、反応容器の外壁面において開口側と底部側とが仕切られている。この構成によれば、加熱手段から供給される反応容器の底部側への熱は、鍔状部材により遮られ反応容器の開口側には伝わりにくい。よって、反応容器の開口側は比較的低温に維持され、その結果、C-11標識ヨウ化メチルに含まれる水分は、反応容器の開口側の壁面等で冷却され水滴化し易い。このように、鍔状部材で仕切られた反応容器の開口側は、C-11標識ヨウ化メチルに含まれる水分を液化させるための冷却手段として機能する。従って、反応容器内部に設置する冷却管等を省略することができ、一端のみが開口する汎用的な反応容器を使用することができる。
【0008】
また、本発明の合成装置は、反応容器の底部側が上方から挿入される挿入口を有し鍔状部材を下方から支持する支持体を備え
ている。この構成によれば、挿入口よりも小さい径であれば種々の径の反応容器に対応可能となり、反応容器の選択の幅が広がる。
【0009】
また、加熱手段は、挿入口から下方に延びる反応容器の底部に熱風を送出
する。この構成によれば、熱風が反応容器の開口側にも流動し開口側の温度が上がってしまうことが懸念されるところ、鍔状部材が熱風の流動を遮るので、上述した鍔状部材の機能がより好適に発揮される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、汎用的な反応容器を使用可能とするC-11標識ヨウ化メチルの合成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の合成装置の一実施形態を示す断面図である。
【
図2】
図1の合成装置のバイアル瓶を示す断面図である。
【
図3】従来の合成装置の反応容器を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る合成装置の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
図1に示すように、C-11標識ヨウ化メチルの合成装置1は、ガラス製のバイアル瓶(反応容器)3の底部側を加熱するための加熱装置5を備えている。加熱装置5は、上面に円形の挿入口7が設けられた筺部(支持体)9と、筺部9の側面側から筺部9内部に向けて熱風を送出する送風部(加熱手段)11と、を備えている。上記挿入口7には、バイアル瓶3の底部側3aが上方から挿入される。バイアル瓶3の底部側3aは、挿入口7から筺部9の内部に向けて下方に突出する。この状態で、バイアル瓶3の底部側3aに向けて送風部11からの熱風が送られることで、バイアル瓶3の底部側3aを加熱することができる。
【0014】
図2に示すように、バイアル瓶3は市販の汎用品であり、上端に1つのみの開口13が設けられた有底円筒状をなしている。バイアル瓶3のキャップ15は、ゴム栓部15aを有している。注射針31,33は、ゴム栓部15aを貫通し開口13を通じてバイアル瓶3内部に挿入されている。注射針(原料ガス導入手段)31の下端はバイアル瓶3の底部近傍に位置する。注射針(生成物取得手段)33の下端はバイアル瓶3の開口13近傍に位置する。バイアル瓶3の中央部の胴部外壁面17には、鍔状部材21が取り付けられている。鍔状部材21は、例えば樹脂(PEEK等)からなる円形の部材であり、バイアル瓶3の底部側3aと開口側3bとを仕切っている。バイアル瓶3の中央部の胴部外壁面17と、鍔状部材21とは、Oリング23が介在することにより隙間無く密着する。
【0015】
図1に示すように、挿入口7の径は、鍔状部材21の外径よりも小さくバイアル瓶3の径よりも大きい。鍔状部材21が取り付けられた状態でバイアル瓶3の底部側3aが挿入口7に挿入されると、筺部9の上面に鍔状部材21が下方から支持され、バイアル瓶3及び鍔状部材21の位置が固定される。
【0016】
以上のような合成装置1を用いたC-11標識ヨウ化メチルの合成方法は次の通りである。
図1に示すように、合成装置1のバイアル瓶3の底部に、シリンジに分注したLiAlH
4(水素化リチウムアルミニウム)のTHF(テトラヒドロフラン)溶液を、外部より上部ゴム栓部15aを介して導入する。所定の冷却手段によりバイアル瓶3の底部側3aを冷却しながら、注射針31を通して、
11CO
2(C-11標識二酸化炭素)ガスを上記溶液中に吹き込み、捕集、反応させる。その後、THF溶媒を除去した後、注射針31を通してヨウ化水素酸水溶液をバイアル瓶3内に導入し反応させることで、C-11標識ヨウ化メチルが生成する。送風部11の加熱(100〜200℃)によりC-11標識ヨウ化メチルは気化する。C-11標識ヨウ化メチルは、気体として注射針33から排出され、次工程に移送される。注射針33の下流側の移送ライン上には、水分除去用として五酸化二リン等を詰めたカラム(図示せず)が設置される。
【0017】
続いて、合成装置1による作用効果について説明する。
【0018】
上記の移送ライン上のカラムに水分が大量に送り込まれると、C-11標識ヨウ化メチルも一緒にカラムに捕捉されてしまうので、C-11標識ヨウ化メチルの収率低下を招く。よって、バイアル瓶3から排出されるC-11標識ヨウ化メチルは、可能な限り水分を含まないことが好ましい。このため、従来であれば、反応容器内(ここではバイアル瓶3内)の液面上方に冷却管を設け、冷却水によってC-11標識ヨウ化メチル中の水分を水滴化する方法が考えられる。
【0019】
これに対し、合成装置1においては、バイアル瓶3に、鍔状部材21が取り付けられ、バイアル瓶3の胴部外壁面17において開口側3bと底部側3aとが仕切られている。これにより、送風部11から底部側3aへの熱風は、鍔状部材21により遮られ開口側3bにはほとんど流動しない。よって、バイアル瓶3の開口側3bは比較的低温に維持され、その結果、C-11標識ヨウ化メチルに含まれる水分は、開口側3bの壁面等で冷却され水滴化し易い。このように、鍔状部材21で仕切られたバイアル瓶3の開口側3bは、C-11標識ヨウ化メチルに含まれる水分を液化させるための冷却手段として機能する。なお、この作用効果を効果的に奏するためには、細長い形状のバイアル瓶3を採用することが好ましいので、例えば、バイアル瓶3の長さは径の6倍以上であることが好ましい。前述のとおり、開口側3bが冷却手段として機能するので、上記したような冷却管等を省略することができ、一端のみが開口する汎用的なバイアル瓶3を使用することができる。汎用のバイアル瓶は比較的安価であるので、バイアル瓶3を使い捨てにする運用も可能である。
【0020】
また、合成装置1では、筺部9の挿入口7からバイアル瓶3の底部側3aを挿入し、バイアル瓶3に取り付けられた鍔状部材21を筺部9で支持する構造としている。この構造により、挿入口7よりも小さい径であれば種々の径のバイアル瓶が使用可能であり、バイアル瓶の選択の幅が広がる。
【0021】
加熱装置5は、送風部11によりバイアル瓶3の底部側3aに熱風を送出するものであるので、熱風がバイアル瓶3の開口側3bにも流動し易い。このため、開口側3bの温度が上がってしまうことが懸念されるところ、鍔状部材21が熱風の流動を遮るので、開口側3bの加熱を回避するといった鍔状部材21の機能がより好適に発揮される。
【0022】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形したものであってもよい。
【符号の説明】
【0023】
1…合成装置、3…バイアル瓶(反応容器)、3a…底部側、3b…開口側、9…筺部(支持体)、11…送風部(加熱手段)、13…開口、21…鍔状部材、31…注射針(原料ガス導入手段)、33…注射針(生成物取得手段)。